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(祝詞奏上のりとそうじょう)
(進行役) では 皆様 ご低頭ください
(進行役)それでは 地鎮じちんの儀を行います
刈り初めは 設計 桑野信介くわの しんすけ様
(桑野信介)えい えい えい
(康夫やすおの親戚) 結婚して家もできて… 康夫もこれで安心だな
(康夫) いや〜 結婚できなかったら どうしようかと思ったよ
(一同)ハハハハッ
(康夫)これから2人で 人生設計していこうな
(康夫の母)いや〜
ホント お前が一生 独りで寂しく 生きていくんじゃないかと思って
もう 母さん 心配でたまらなかったのよ
(康夫の母)ねえ 父さん (康夫の父)ああ ハハッ…
(康夫の親戚) いいな〜 幸せいっぱいで
私も もう1回結婚しようかしら
(一同の笑い声)
(康夫の親戚)工事の方ですか?
設計士です
(康夫)桑野さんは 有名な設計士さんなんだよ
(一同)へえ〜
(康夫) 今回は ありがとうございました
(康夫の妻) ありがとうございました
(康夫の母) あの 息子のために どんな家を造ってくれるんですか?
これから結婚生活をされる お二人のことを考えて—
いろいろと 設計上の工夫を施しました
(康夫の親戚) ほお〜 ど どんな?
まず 屋根裏部屋を作りました
(男性)おっ
結婚しても男には—
自分だけの世界を確保することは 必要だと思いまして
(康夫)さすが (一同)おお〜
(信介)あと 各部屋に 鍵が かかるようにしました
これで お互い秘密が持てますし
夫婦ゲンカした際には 閉じこもることもできます
(一同)ハハハッ…
まあ ケンカするほど 仲がいいっていうから
(信介) あと 将来的に中を区切って—
2軒の住宅に 変更できる設計になってます
あっ 子供が大きくなったら 2世帯住宅に
それでもいいんですが…
離婚して1人になった場合—
片方を 賃貸に出すことも可能です
まあ 何が起きるか分からない 結婚生活の—
あらゆるニーズに対応した 親切な設計になってますから
(康夫の親戚)ん…
(村上英治)よし
ああ〜 ここ 間仕切り変更しといて
(横田詩織)分かりました (丸山裕太ゆうた)あっ
ライトコントロール 持ってきてます
(英治) ああ じゃあ PC送っといて
(裕太)はい
あっ 桑野さん 大丈夫かな…
大丈夫でしょ
地鎮祭の道具 通販で買って練習してたから
(英治)いや そういう問題じゃないんだよ
あっ それより自分たちの仕事だ
(裕太・詩織)はい (英治)うん
(“シューベルト 交響曲第5番 第3楽章”)
(携帯電話の着信音)
ミスター・スポック 照明 明るく
はい
(英治)ああ〜 すみません
チーク材のサンプル どこにあるか 分かりますか?
知らん まだ仕事してるのか?
明日までに 設計の大枠を提案する—
スケジュールで 受けちゃったもんで
アシスタントに やらせればいいだろ
(英治)ゆとり君たちは 帰しちゃったんで
1人ブラック企業だな
一本立ちって大変っすね
事務所の家賃も 桑野さんと折半だし
自己責任だ
桑野さんのアシスタント やってるより精神的に楽です
過労死に気を付けろよ じゃあな
(不通音) (英治)チッ もう
クッソ
また やっくんか…
(男性) お花 いつも きれいに 咲いてますね〜
(女性)マリーゴールドよ もうかわいくて かわいくて
名前付けちゃったの メアリーって
(女性)フフフフッ (男性)あっ そうですか…
(女性)それじゃ 失礼しま…
(信介)クソ またか
フンッ
んっ
チッ
(英治)普通だよな (裕太)これとか—
(裕太)いいと思いますけど (英治)あっ こっちね
(一同)おはようございます
(信介)おはよう
(英治)そうね…
昨日は 何とか間に合いました
そうか よかったな
(詩織) コーヒーいれましょうか?
結構だ
そうですか
(英治)まあ そうだね (信介のため息)
(英治)うん まあ でも こっちでもいいと思うよ
(裕太)う〜ん いや…
(信介)ああ〜
あの 何かあったんですか?
(信介)ハハッ 実はな… (英治)何もないならいいです
あるよ
(英治)ああ〜 いつもの匿名のブログですか
しつこくてな
“桑野くんのセールスポイントの アイランドキッチン”
“これはたまたま 世間の流行はやりを 取り入れただけで—”
“彼のオリジナルではありません”
“桑野くんは 時流に乗るのがうまいだけの—”
“三流建築家です”
“しかし 時流に乗った桑野くんも 無謀にも挑戦した—”
“新国立競技場の デザインコンペでは見事 敗退”
“センスのないカブトガニみたいな デザインが—”
“世間の失笑を買っただけに 終わりました”
(裕太)うわ〜 ひどいですね
どうせ 俺に 嫉妬してる同業者だろ
(詩織)桑野さんを ディスることばっかり…
変態ですね
まあ ストーカーっていうのは そういうもんだよ
(英治)“そんな 桑野くん—”
“今度は老人を食い物にする—”
“ビジネスに乗り出す様子です” だって…
俺のこないだのインタビュー 読んだんだろうな
(信介)ハハハハッ
まあ 私も 長年 建築家をやる中で—
ある程度の地位を 獲得しましたし
試しに 新国立競技場のコンペに 応募してみたんですよ
ハハハッ
落ちましたけどね ご存じのとおり
それで まあ ちょっと 考えに入ったというか…
う〜ん まあ 簡単に言うと—
落ち込んだわけです
そんな時に 本屋で とある本との出合いがありました
その本には—
“これからは 人生100年の時代が 来る”というような—
…ことが書いてありました
人生100年というと…
私は今年で53ですから 残り50年…
あと半世紀をどう生きるべきか
その中で どんな住宅を 造っていくべきなのか
そんなことを 考えるようになったわけです
その結果 これからは—
高齢者向けに特化した住宅を 造っていこうと—
そういう結論に達したんです
これは 今後 大きな市場になると思ってますよ
ハハッ
(英治) あれのどこをどう解釈したら—
老人を食い物にする なんてことになるんですかね
ちなみに俺の名前で検索すると—
8番目に これが出るんだ
こないだは 9番目だったのに ワンランク上げやがった
もう エゴサなんかしなきゃ 知らないでいられたのに
エゴサって何ですか?
(裕太)エゴサーチ
自分で自分の名前を検索すること
自分の名前の検索結果を 確認するのは現代人の義務だろ
(詩織)意味分かりません (信介)えっ なんで?
(沢村映子) よろしいですか 桑野先生
この「宇宙酒場 ブラックホール」って—
何しに 行かれたんですか?
ちょっと インスピレーションを 高めるために…
(映子)どなたと? (信介)1人で
では 交際費ではなく研究費ですね
ちゃんと書いといてください
はい
ハア… 何の話だっけ?
ああ… やっくんですよ
そんなに嫌なら 弁護士に 相談してみたらどうですか?
弁護士 フッ ありえない
ハア…
チッ
邪魔くせえ
弁護士…
“小さなことでも誠実対応”
フッ
(山下香織かおり)いらっしゃいませ
お約束ですか?
(信介)あっ いや あの…
ちょ ちょっと下の看板見て…
(香織)あっ 法律相談ですね
あの 吉山よしやますぐ戻りますので こちらで少しお待ちください
はい
(香織)お待ちの間に 簡単で結構ですので—
こちらに 相談内容 お書きください
はい
(香織のせきばらい)
(吉山よしやままどか)ただいま〜
香織ちゃん—
スーパーアイス 抹茶味なかった キャラメル味でいい?
(まどか) わっ あっ すいません
どうも アハッ
(まどか)すみません お待たせしました
弁護士の吉山と申します よろしくお願いいたします
ええ… 相談料は 内容にかかわらず—
5000円 頂いておりますが よろしいでしょうか?
よろしいです
(まどか)えっと 桑野信介さん…
あっ 建築設計事務所を やってらっしゃるんですね
ネットの誹謗ひぼう中傷で お困りなんですか?
フッ お困りです
♪〜
〜♪
(まどか) やっくんって 誰ですか?
(信介)さあ
(まどか)ん…
“桑野くんは—”
“時流に乗るのが うまいだけの—”
“三流建築家です”
“くん”って親しげですけど
知りません
“桑野信介くんは 新国立競技場のコンペに—”
“無謀にも挑戦して落ちると—”
“今度は 老人を食い物にする ビジネスに切り替えた”
“卑劣極まりない男です”
しつこいんですよ
新国立競技場のコンペに 挑戦されたんですか?
まあ
へえ〜
…で 落選したんですね
ええ
(まどか)そうですか…
まあ 落ちたのが 事実だとすると—
書いても 誹謗中傷には 当たらないですよね
でも この無謀ってのは
まあ 個人の感想ですから
日本は 言論の自由が 保障されてますからね
ちなみに この—
“老人を食い物にする” というのは?
僕が関東テレビのインタビューで 語ったことを—
彼が 勝手に 誹謗中傷してるんですよ
インタビュー?
関東テレビの「これからの住宅」を 検索してください
(まどか)はい
インタビュー…
ああ これですね…
“人生百年という時代—”
“それに見合った住宅の設計が 求められている”
人生100年か… 先は長いな〜
フッ そんなもの すぐですよ
あなたも もうすぐ 折り返し地点を過ぎれば—
あっという間ですよ
ちなみに 僕は もう過ぎましたけどね
(信介)フフフッ (まどか)ああ…
ああ 寿命が延びて 生涯未婚率が上がって—
単身の高齢者が増えてるんですね
私も ひと事じゃないな〜
えっ
(まどか)ん?
独身なんですか?
ええ まあ
(信介)あっ
(まどか) ああ… 30代のうちに—
結婚できたら なんて 思ってたんですけど
30代って一番忙しいし—
仕事も 充実する時期じゃないですか
(まどか) 気付いたら40になってました
(信介)ウッフフ
何か?
あっ いえ
あっ まあ 仕事を優先させてきたからこそ—
今 こうやって独立して 事務所を構えることが—
できたんじゃないかとは 思うんですけどね
自分の状況を 一般化することで—
責任を回避しようとする パターンか…
はい?
あっ いや
そういうことを つい不用意に 口に出す方なんですね
普通は思っても 言わないものですけど
いや 別に僕は 間違ったことは言ってない
あ… 桑野さん
そういうのって 敵を作りやすい スタイルかもしれません
こういうことを書かれても—
自業自得だと おっしゃりたいんですか?
ああ いえ そうは言ってません ただ—
これを書いている犯人も もしかしたら—
あなたに そういう不愉快な思いを—
させられた人という 可能性もあります
(まどか)心当たりありませんか? (信介)ありません
(まどか)多すぎて分からないとか (信介)弁護士さん…
(まどか)ごめんなさい (香織)失礼します
お菓子いかがですか?
結構です
一応 置いといて
(香織)あっ…
(信介)話を戻します (まどか)はい
高齢者住宅を考えることが—
なぜ 食い物にすることに なるんですか?
こんなの明らかに誹謗中傷でしょ
これで 誹謗中傷とは…
(信介)はあっ (まどか)いや あっ あの…
どうしてもとおっしゃるなら 手続きとしましては—
プロバイダーに 開示請求をして—
それが認められれば 相手の名前が分かります
それから その相手に対して—
損害賠償などの法的措置を取る ということになります
(信介)じゃあ それで (まどか)ああ ただ—
大抵は プロバイダーがすんなり 開示請求に応じることはなくて—
裁判になります
時間と費用も かなりかかることになりますが…
それを考えると これぐらいは 放置しておいてもいいんじゃ…
金は払いますから やってください
分かりました
確か… 表の看板に—
“小さなことでも誠実対応”って 書いてあったな
そうです
なるほど
何か?
もしかして… やっくんのこと 怖がってます?
こんなことに関わったら 自分まで やつに—
誹謗中傷されるんじゃないかって…
ハハッ そんなことでビビってたら 弁護士は務まりませんから
確かに 弁護士は 関わる人間の4分の3を—
敵に回す仕事ですからね
どういう計算ですか?
まず 相手方からは 確実に嫌われる
これで2分の1
さらに 裁判に負けたら 自分の依頼人からも恨まれる
負ける確率を2分の1とすれば 合わせて4分の3です
ああ なるほど
では 桑野さんを その4分の3に 入れないように努力します
お願いします
(まどか)はい
(インストラクター)はい じゃあ ももの裏 はい 押しま〜す
はい ひざ曲げないように あっ めちゃめちゃ柔らかいですね
すごいですね はい 足入れ替えますね
はい いきますよ
はい 押しま〜す
あっ こっちも めちゃめちゃ柔らかいですね
すごいですね〜
(女性)フフフッ
(信介の口笛)
(店員)いらっしゃいませ
(店員)スプーン いりますか? (信介)いりません
(店員) ポイントカード お持ちですか?
ありません
(作業員)お邪魔してます
(足音)
(戸波早紀となみ さき) 何ですか?
あ いや… これ
(早紀)これが何か?
(信介)何かなって…
(早紀) 流しそうめん機です
流しそうめん機?
楽しいですか?
(早紀) あの… どちら様ですか?
あ… あっ いや
隣の桑野です
(早紀)あっ… どうも
(信介)あの…
(早紀)はい?
犬 飼ってますか?
(早紀)いえ
そうですか…
(早紀のため息)
(“シューベルト 交響曲第5番 第3楽章”)
(森山桜子もりやま さくらこ) じゃあ この見積もりで お客様に出しておきますね
うん よろしくね 桜子ちゃん
(桜子)はい フフッ (英治)うん
(桜子)ところで… (英治)うん
(桜子) 新規のお客様から—
桑野さんに設計を お願いしたいって話が来てて
(英治)おお〜 いいじゃん
私 どうも桑野さんのこと苦手で…
ああ 慣れるよ
(桜子)う〜ん 慣れたくないっていうか…
ああ… じゃあ 僕が それとなく間に入ろうか?
(桜子)お願いします (英治)うん
(ドアの開く音)
(桜子)あっ
(英治)いた…
(信介)よし
頑張れよ
(信介)フウ…
あっ これだ よしよし
吉山 吉山…
吉山…
あった
(横井) 裁判の傍聴 初めてですか?
はい
それは あんまりよくないっすよ
(前川) 今日のオススメは 第4法廷っすかね〜
痴漢で逮捕 被告は えん罪を主張
今日が被告人質問
痴漢裁判は 当たり外れがあるけど—
これは期待できますよ〜 ねえ ねえ フフッ
どうも ありがとう
えっ…
(廷吏)起立
礼
ご着席ください
(篠田しのだ)奥さんの お知り合いじゃないんですか?
(岡野洋介)知らない顔です
傍聴マニアでしょう
暇な野郎だ
(岡野有希江ゆきえ)お知り合いですか?
ただの傍聴人です
(裁判官)ええ〜 今日は—
被告 原告 それぞれに対する質問ですね
既に お分かりのとおり—
原告 つまり旦那さんが 離婚を請求し—
被告 つまり奥さんが—
離婚に同意しない ということで争っています
今日は 双方の意見を聞きます
被告から 原告に対する 質問を行ってください
はい
(裁判官)原告は前へ
(まどか) あなたは自分が浮気したことを 認めないんですか?
(岡野)はい
彼女の妄想です
そんな…
(まどか) あなたが女性とメールで—
密会する約束をするのを 奥さんは見たんです
どこに証拠があるんですか?
消したくせに
(裁判官)被告は 不規則発言を慎んでください
すいません
(まどか) では なぜ 自分から離婚したいと 言いだしたんでしょうか?
別の女性と新しい生活を したかったからじゃないんですか
これ以上 破綻はたんした結婚生活を続けても—
お互いに 不幸になるだけですから
彼女だって 本音じゃ—
離婚は 仕方がないと 思ってるんじゃないですか
ごねて 金を 少しでも多く取りたいんでしょ
(まどか)その言い方は ひどくないですか
有希江さんは あなたが反省さえしてくれたら—
やり直したいと思ってるんですよ
(篠田)被告代理人は 自分の感情をぶつけています
(裁判官)被告代理人
すいません
フッ
質問を変えます
あなたは 奥さんが大事にしていた—
家庭菜園を 勝手に 処分してしまいましたね
はい
どうして そんなことしたんですか?
虫がいるんですよ…
私は 虫が苦手なもので…
それを 彼女が無視して 虫が湧いたんですよ
無視して虫…
(岡野) うまくいったみたいですね
これで奥さんを 和解に引っ張りだせます
金額交渉は こっちのペースですよ
何しろ ない袖は 振れませんからね
(岡野) 和解が成立したら—
婚姻費用の払いも しなくていんですよね?
(篠田)そうですよ
(岡野)助かった〜 ハア…
(まどか)やっぱり 裁判官の提案どおり—
このへんで和解案を 受け入れる方がよさそうですね
(有希江)はい
桑野さん 何しにいらしたんですか?
フンッ 傍聴は国民の権利ですよ
そうですねっ
じゃあ 和解の方向で進めますね
(有希江)お願いします
(信介)和解? どうかな…
はあっ
いや 別に…
何か ご意見でも?
あなたは別居してからも—
旦那さんから婚姻費用を 月々受け取ってますね
はい…
ああ 急に何ですか?
別居してても 月々のお金を これまでどおり受け取るのは—
(まどか)配偶者の権利ですよ (信介)そうです
(信介)その支払いは 裁判が終わるまで続く
だから 裁判を引き延ばして—
婚姻費用をできるだけ 搾り取るのが—
この際 得策ですよ
(まどか)妙に詳しいですね (信介)ええ
ああ 確かに旦那さんは 資産が意外に少ないので—
お金のことだけ言うと—
財産分与よりは 裁判を長引かせて—
婚姻費用を受け取る方が 有利かもしれません
私 お金よりも平穏な暮らしを 取り戻したいんです
じゃあ やっぱり和解ですね
平穏な暮らしにも お金が必要ですよ
あの…
私は どうしたらいんですか?
(まどか)ああ…
(女性)みんな じゃあ 気を付けて渡りますよ
は〜い 大丈夫かな
(有希江ゆきえのすすり泣き)
ありがとうございます
いえ 同じ方向だし
フッ 恥ずかしいとこ お見せしちゃって
いえ
下手に 結婚なんかするから 裁判でもめることになるんですよ
そうですね
でも 結婚する前は あんな人だと思わなくて…
結婚しようと思ったこと ないんですか?
フッ 余計なリスクは 抱えない主義なんで
余計なリスク…
あっ ところで—
あの吉山まどかって弁護士 どうですか?
あ… あの人は ちゃんとやってくれてます
私が 彼の浮気の証拠を 残しておかなかったせいで—
苦労をおかけして…
吉山先生は ホントに 私のことに 親身になってくださったんです
私が結婚生活で つらかった時のこと話したら—
一緒に泣いてくれて
ハハッ 弁護士が泣いてどうする
必死にやってくれて…
だから 私は この結果で満足です
(信介)ん…
(有希江) ここで 止めてください
(運転手)はい
私 ここのカフェの 雇われ店長してるんです
そのうち来てください
あ はい…
ああ…
(有希江) 早速 来ていただいて ありがとうございます
いや 近所なんで
(太田留美)店長 これ どこにしまうんですか?
(有希江)これ あそこ
あと ちゃんとハンドピックしてね
(留美)分かりました
(信介)ああ〜
フウ〜
(留美)失礼します
このコーヒーは ブルボンですか?
それとも ブルボンサントスですか?
(においを嗅ぐ音)
ブルボンにしては ちょっと薄めだな
ちょっと確認します
やっぱりサントスかな…
(においを嗅ぐ音)
(英治)いや〜 やっぱり みんなで鍋を囲むっていいよ
(一同)うん
(詩織)そういえば 教えてくださいよ
桑野さんが つきあってた女性のこと
(裕太)ああ あ… (英治)いや 桑野さんが—
(英治)言うなって言うんだもん (裕太・詩織)ええ
(裕太)何か 桑野さんが 女性とつきあってるところが—
(裕太)どうも想像つかなくて (英治)まあな
(詩織)もしかして ねつ造ですか (裕太)あっ
(英治) なんで 俺が桑野さんの恋バナを ねつ造しなきゃいけないんだよ
じゃあ この際 ゲロしましょうよ
(英治)ええ…
あのね ある女医さんがいてさ…
(一同)うん
すっげえいい人だったんだよ
そりゃ もう 桑野さんには もったいないぐらいの
それがさ…
(桜子) あれ? その女医さんって—
最近 すごいお金持ちと 結婚した人のこと?
(英治)えっ マジ (桜子)うん
(英治)それ どこ情報? (桜子)えっ 何か 先輩から聞いた
ええっ じゃあ そのお金持ち…
ああっ
(信介)よし
(裕太)桑野さん…
1人しゃぶしゃぶ…
(信介)フフフッ
(桜子) 今晩 夢に見そう…
いや 慣れるから
だから 慣れたくないんで
(まどか)はい
(有希江)今回は ありがとうございました
(まどか) ホントにいんですか? 和解して
(有希江)はい
先のことは 分からないけど すっきりしたいんです
そうですよね… 不安があっても—
自由になって やり直した方が いいかもしれないですね
ああ〜 これで私も晴れて バツイチか
フフッ 1度も 結婚してない身からすると—
(まどか)ちょっと憧れです (有希江)フフッ そうなんですか
まっ 今日は裁判のことは忘れて 飲みましょう
(有希江)うん ハア〜
いただきます
でも… 弁護士って大変そうですよね
人のトラブルばっかり見て
慣れましたけど…
でも 結婚不信にはなるかな〜
ああ…
時々 ふっと思うんですけど
離婚裁判があるのに なんで 結婚裁判ってないんだろうって
結婚裁判?
裁判に訴えるんです 結婚したい人を
私と結婚しなさいって
…で 法廷で なぜ結婚すべきかを弁論して—
最後に裁判官が 結婚しろって判決を下す
ハハハハッ…
(まどかの笑い声)
大丈夫ですよ 冗談で言ってるだけですから
(有希江)アハッ… (まどか)フフフフッ
分かります
不安になったりしますよね これからのこと
(まどか)うん…
以前は 母親も早く結婚しろって うるさかったんですけど—
最近は 自分の好きにしたらいいって
まあ 気は楽ですけど—
諦めさせちゃったのかなって 思うと—
ちょっと心が痛んでね
ハア… ううっ フフフッ
(まどか)お母さ〜ん
ごめんなさ〜い
親不孝な娘で
私も ごめんなさい
(まどか)ううっ
(有希江)うう〜
(まどか)ああ〜
(信介)1 2 3…
あっ 7位か
またワンランク上げやがった
(信介)クソ… 更新してやがる
フッ
(店員)いらっしゃいませ
(店員)どうですか この子 (信介)フッ
(店員) ちょっと成長しちゃったんで お安くなってます
ハッ これ 売れ残ったら どうなるんですか?
(店員)それは…
(店員)ありがとうございました
(信介)お疲れさん (大工)お疲れっす
(信介)あれ?
ここ スロープのはずだったよな なんでなってないんだよ?
(大工)あっ でも 棟梁が…
(棟梁とうりょう)あっ スロープ やめ
また お前か 仕様書どおりやれよ
ここは 完全バリアフリーが テーマなんだよ
仕様変更で 予算オーバーなんだよ しょうがねえだろ
あっ… お前 やっくんか?
あっ? 何言ってんだ
(信介)やっくんだろ (棟梁)あっ?
(信介)白状しろよ (棟梁)なっ なっ 何
(信介)おい そうなんだろ (棟梁)何すんだよ この野郎
(棟梁)やんのか この野郎 (信介)何だ この
(棟梁)うう… (信介)うう ああ〜 滑った
(女性)山芋 アハハハッ (岡野)山芋 ホホッ
(女性)分かる (岡野)あっ 俺 これ—
(岡野)デジャブ デジャブ (女性)ハハハハッ
(信介)あれ?
(棟梁)どうした?
あのマンション 賃貸か?
あれは分譲だよ それがどうした?
あっ
(中川なかがわ良雄) 分譲マンションに愛人と
でもさ 裁判では—
財産が あんまりないって話に なってたんだろ
隠し財産だな
黙っててくれって懇願されたよ
(岡野) 妻の方には内緒ないしょで…
(信介) 離婚成立まで しらばっくれといて 離婚が成立したら—
あの女と めでたくやろうって 寸法だったんだ
(中川)ハハハッ お前にチクられたら—
その夢も パアだ 必死にもなるよ
受け取ったの 金?
フッ ありえないだろ
(中川)見逃してやれば?
えっ
ああ 結婚後にさ 取得した資産は 離婚した時は折半なんだろ
一生懸命働いて得たもの 半分取るなんて—
そんな制度が間違ってるんだよ
ああ 男が 必死になって働いて手に入れた—
血と汗の結晶なんだよ
その男も 同じようなこと言ってたよ
ああ〜 離婚して—
晴れて 愛人と新しいマンションで 出直すなんていいな〜
男の夢だな〜
お前 そっち側か
女3人に いいようにされる生活の どこに夢があるんだよ
(ドアの開く音) (中川圭子けいこ)ただいま
(中川)おかえり (圭子)ああ〜 疲れた 疲れた
(圭子)あっ パパ はい ああ〜 (中川)おお おお…
(桑野育代いくよ)ああ〜 疲れた
あっ 信介 来てたの
(圭子)お芝居 観みて 帰りに新宿しんじゅくで焼き肉食べたの
(圭子)おいしかったね (育代)ねえ〜 ヘヘヘッ
ああ〜 やっぱり シェークスピアはいいわね
(中川)「マクベス」観たんだ
(育代)ゆみ
伯父さんも来てるんだから すぐ行かないで
ねっ 少し話していきなさい
(中川ゆみ) 伯父さん 何か話ある?
ああ ハハッ
(ゆみ)ほら〜 フ…
(圭子) どうして こんな愛想のない子に なっちゃったのかしら
小さい頃は ハキハキして明るい子だったのに
反動だろ
何の反動よ
まあね 大学の勉強も—
真面目にやってるらしいから いいじゃないの
私たちは おおむね いい家族よね
(圭子)そうよね
フフッ 夫婦仲もいいし
(育代)妹は ちゃんと 家庭を築いているのに
兄貴の方は まあ 50過ぎても まだ独り
どうなのかしらね〜
(中川) 「マクベス」って どんな話だっけ?
人間の業を描いた とっても悲しいお話よ
マクベスも結婚さえしなければ—
あんな悲惨なことには ならなかったんだよ
(英治)こっちだよ こっち (詩織)はい
(英治)ダメだな 寝室はどう思う? 寝室
(詩織)寝室は ウ ウッド系とかどうですか?
(英治)寝るんだよ だって
ちょっと出かけてくる
(英治) あっ 今日の2時からの シンポジウムの講演—
忘れないでください
(信介)そうだった…
その前に 弁護士のとこだ
(英治)えっ 大丈夫ですか 何 話すか決めてるんですか?
通り一辺倒のこと言やいいんだろ
そもそも シンポジウムなんか 出たくなかったのに—
お前が勝手に…
(英治)まさか ばっくれないでくださいよ
(香織)あっ いらっしゃいませ
(信介)あ… あの…
(香織)吉山ですね
ちょっと 先客 長引いてまして
あれ?
(まどか)あっ こんにちは
(信介)どうも…
あっ こないだは どうも
あっ いえ
あれ お二人 何かあったんですか?
いや まあ ちょっと…
あっ…
今日は和解の手続きで
あっ 桑野さん そちらで 少しお待ちいただけますか
ああ あの…
何か?
これは あくまで一般論ですが
(まどか)はい
こちらの旦那さんに もっと財産があったとしたら—
こちらの取り分は 増えるんですか?
そうですよ なんで そんなことを?
だから 一般的な質問ですよ
(香織)先生! (まどか)ん?
(香織)柳田やなぎだ君からメールです
(まどか)ああ…
あれ…
(香織) やっぱり あのマンション 旦那さんの隠し財産でした
しかも 愛人に住まわせてます
(まどか)やっぱり…
(有希江)そんな…
(まどか)ごめんなさい 私 やっぱり諦めきれなくて—
知り合いに 調べてもらってたんです
旦那さんに愛人がいたのは ショックでしょう…
でも これで このマンションを 差し押さえできます
(香織)ひどいですね…
女として許せない
(まどか)あれ? (香織)あれ?
桑野さん?
あれ?
(まどか)なんで?
(信介)いや これは…
(まどか)あっ!
あっ 違う… これは
(メール着信音) (信介)あれ
ああ 時間がない シンポジウムに行かないと
(まどか)あっ ちょっと ちゃんと説明してください
(信介) いや これは偶然なんですよ
(まどか)偶然? 偶然 お金を受け取ったんですか
そんなわけないでしょ
(信介)あっ もう時間が (まどか)もう何なんですか?
(信介)ちょっとシンポジウムに… (まどか)逃げるんですか
お金なんか受け取ってないし たまたま会っただけですよ
それが事実だとして どうして すぐ 連絡してくれなかったんですか
だから 今日 言いに来たでしょ
(まどか) あくまで一般論だとかって さっき言ってましたよね
それは話の導入部です
どうだか 男同士って すぐかばい合うから
フッ そういうトラウマでも あるんですか?
私の話はいいんです
(メール着信音) (信介)あっ 行かないと
シンポジウムが…
(まどか)シンポジウム シンポジウムって…
会場まで送りますから 道中 話を聞きます
有希江さん 行きますよ
(信介)大丈夫か… (有希江)ちょっ…
(まどか)はい 行きますよ (有希江)おおっ
(信介)大体 結婚後の資産が 折半だなんて制度がおかしいんだ
夫が一生懸命働いて得た 血と汗の結晶ですよ
(まどか)妻が夫を支えたから その収入が得られたんでしょ
法律だって それを保障してます
(信介)これは あの男が言ってたことなんです
(まどか)ほら 代弁してる
フッ
あなたが弁護士のくせに 隠し財産を見逃したのが—
そもそもの始まりでしょ
それは… 確かに
だからって責任転嫁ですか
自分の非を認めない性格だな
それは あなたでしょ
あの男から思いきり ふんだくってやりましょう
私 もういいです
(まどか・信介)えっ
もう いまさら…
あ… そんなことで引き下がるから ナメられるんですよ
権利は ちゃんと主張しないと
あのね…
あなたは黙っててください
よく考えて 弱気にならないで
あの人から お金もらっても…
(まどか) はい 着きましたよ グランドホテル
グランドホテル?
グランドホテルじゃない グレートホテルだよ
(まどか・有希江)えっ
だって 私はナビのとおりに…
そのナビの入力 間違ってんでしょ
あっ
(信介)ああ〜あ
地裁と最高裁 間違えるようなもんだな こりゃ
グレートホテルって こっから 結構ありますよ
(まどか)どうしよう… (信介)あと15分しかない
チッ まあ もともと 行きたくなかったんだし
あなたの タイムリーなミスのおかげで—
行かなくて済む言い訳が できましたよ
ハハッ どうも ありがとう
間に合わせますから!
(まどか)んっ (有希江)あ…
(信介)スピード違反してませんか
ご心配なく 法律には厳しいんです
(まどか)違う こっちです
(信介) また間違ってないでしょうね
(裕太)あっ 桑野さん! (詩織)はっはっ はっ
(詩織) どこ行くんですか こっち
(まどか)こっちです (信介)ほら
(詩織)もう… (裕太)ちょっと…
(係員)すいません…
(司会)あっ 来た? (係員)はい
(司会)オッケ?
ええ〜 では 次に—
桑野信介様より 基調講演を頂きます
桑野様 どうぞ お願いいたします
(拍手)
どうも 桑野です
間に合ってよかったですね
私 意外と運転うまいんです
(まどか)行きましょうか (有希江)はい
(信介のせき込み)
(信介)ああ… (まどか)大丈夫かな?
ええ…
何だっけ
未来の建築について…
未来なんて 誰にも分かりませんよね
分からないから不安なんで…
だから つい いろいろ考えたりするわけで
しかも 人生は—
ままならないことが いろいろです
結婚しても うまくいかず 離婚するとか
仕事に 必死になるうちに 結婚しないままになるとか
かといって—
仕事が絶好調かというと そうでもなさそうで…
苦労は多いし ミスはするし
さして 将来の展望が あるわけでもないとか
かく言う 私は独身ですが 仕事は絶好調ですよ
(一同の笑い声)
(信介)しかも これからは—
寿命が延びて 人生100年の時代が 来るそうですよ
人生が長くなった分—
残念ながら—
不安も増大する確率が高まります
まっ でも 逆に考えれば—
人生が長くなれば—
まあ その分 チャンスも増えるわけで…
離婚した人にも 独りのままで来た人にも—
いい出会いが訪れる可能性が ないわけでもない
ハッ まあ 私は結婚しませんがね
(一同の笑い声)
とにかく 不安はあるけど希望もある
まあ そういうことなんじゃないかと…
まあ あっ 建築の話ですよ
日本の住宅は 結婚して子供ができる前提で—
造られています
人生100年時代 住宅も—
人のニーズに合わせて 多様化する必要がある
長い老後を どう生きるか しかも1人で…
いや まあ 結婚しないことを 前提としてるんじゃなくて—
結婚しても 離婚したり死別したりして
子供がいても独立するし
人は最後には 1人になる
ようは 私は—
自分が住みたい家を 造りたいのかもしれません
1人でも… 快適に暮らせる家を
ハッ 一部に—
私が“高齢者を食い物にする気だ” などと言う者もおりますが—
自分が将来 年を取って 住みたい家を考えることの—
どこが食い物なんでしょうか
まずは バリアフリーを確立する
そして あまり広すぎず
広いと掃除も大変ですからね
(一同の笑い声)
いや しかし トイレは広い方がいい
将来 ほら 車いすが 入らないんじゃ困りますから
それより 何より—
日光が あふれんばかりに入る家がいい
人生100年… つまり人生には—
必ずセカンドステージが来る ということです
結婚しても しなくても—
セカンドステージが 幸せかどうかには関係ないんです
そこに 人生の本質はありません
人が家に合わせるなんて ナンセンスだ
ハッ だから 私は—
人間に寄り添った家を 造っていきたいと—
常々 常に 常に思ってるわけで…
以上です… どうも
(拍手)
(信介)フウ…
まだいたんですか
(まどか) ごあいさつですね 送ってあげたのに
(信介)あっ さっきの隠し財産の件ですが…
(まどか)その件は もういいです (信介)えっ
(まどか) それより “ミスはするし—”
“さして 将来の展望が あるわけでもない”って—
あれ 私のことですか?
別に… 例え話をしただけというか
ああ そんなに 展望がないんですか
とにかく ああいうしゃべり方は 敵を作るから—
やめた方がいいです
でも… いいお話だったじゃないですか
(まどか)えっ
桑野さんの話を聞いて 元気が出ました
これから 自分の足で歩いていこうって
そうですか
(まどか) “結婚しても しなくても—”
“セカンドステージが 幸せかどうかに関係ない”
その点は賛同します
(信介)そりゃ どうも
(まどか) 自分が進んでいる道は 間違ってないって思えました
そのナビが 入力 間違ってないといいですね
はい?
ハハッ
入力が正しくても それ以前に 目的地を勘違いしてたら—
目も当てられないか
私だって それくらい分かります
はい
帰りましょうか
あっ はい
帰りは送ってくれないんだな…
よ〜し いくぞ
ふっ
う〜ん
ハア〜
(まどか)ああ〜
フウ…
ハア…
あっ
6位になってる
(信介)いや ハハハハッ
ふっ
50年ぐらい1人で大丈夫だな
う〜ん
婚活アプリ?
(英治) 試しに登録したんです
(女性) ヨガのインストラクター をしています
(まどか) 会うんですか? その女性と
桑野さんに 興味あるんですか?
いい人じゃないですか
(早紀)ホントは そんなあなたが好きなの
(中川) 人生100年時代—
その可能性 試さないでどうする
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