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(桑野信介くわの しんすけ)よし
ああっ
うん
ハア
(田村たむらみちる) ああ おはようございます
ああ
休日出勤ですか? 大変ですね じゃ
土曜日か 早く言えよ
(小沢真理まり)やっぱりグアム?
(江森和美かずみ)ええっ どうせなら タヒチ辺り行こうよ
(早坂夏美はやさか なつみ)若い子は いいわね いろいろ楽しみがあって
先生は 夏休み どっか行かないんですか?
うん 今年も まとまった休みは 取れそうにないかな
土日だって まともに 休んでないじゃないですか
ダメですよ 休みは ちゃんと取らないと
はい
先生は休みの日って 何してるんですか?
そうねえ
本読んで
買い物行って その帰りに ちょこっとパチンコして
あっ あと最近 ハマってるのは岩盤浴ね
1人でできること ばっかりじゃないですか
まあね
今度の土日 誰か誘って 出かけてみたら どうですか?
(夏美)うん (電話の着信音)
(和美)はい 分かりました
302号室の前田まえださん 腹痛を訴えてます
行きましょう
(夏美)ここ 痛いですか? (永子)ええ ちょっと
大丈夫ですよ
手術のあと しばらく痛むのは 普通のことですから
外科の先生も“経過は順調だ”って 言ってましたよ
そうなの? 私ね 不安で不安で
先生 今度の土日も いてくださるんでしょ?
(夏美)いますよ (永子)よかった
(村上英治むらかみ えいじ)えっ 今度の日曜? 今んとこ空いてるけど
じゃあさ どっか遊びに行こうよ
いや そりゃマズいよ
この間のこともあるしさ 沙織さおりにバレたら どうなるか
ハハッ あのね 2人で デートしようなんて言ってないの
私 友達連れてくから
そっちも沙織ちゃんと あと誰か男の友達 連れてきてよ
フッ そういうこと それなら沙織もOKかな
(みちる)友達 2人連れてきてね (英治)なんで2人?
私と友達の分 まあ 多い分には かまわないよ
要するに お見合い仕切るだけの係かよ
ああ 悪い また あとで かけるわ はい
やっぱりさ この辺りの設計を 手直しするしかないだろ
(沢崎摩耶さわざき まや) ハア 大変だけど お願いね
えっ 何か問題発生ですか?
アライ邸の現場だけど—
最初に聞いてたのと 配管の位置が違ってたのよ
(英治)ええっ じゃ 設計やり直しですか?
もうすぐ搬入だし 時間ないですよ
今度の土日にやれば なんとかなるだろ
えっ?
ハア
何? 休み 予定入れてたの?
ええ まあ ちょっと “日曜日どっか行かないか”って
休みの日なんか出かけたってさ 人混み 見に行くようなもんだろ
人の密度で暑いのが ますます暑くなるし
クーラーの効いた事務所で 仕事してるほうがよっぽどマシだぞ
仕事なら しょうがないっすよ 出勤します
(信介)いいよ (英治)えっ?
いや 1人のほうが 足手まといがいなくていいしな
のんびり1人で仕事するかな 好きなCD 持ってきちゃって—
大音響で かけながらやろう
ビッ ビルは むっ 無人だし 文句 言うやつ いないしな
あの 今のを翻訳すると—
休みを取らせてあげようという この人なりの思いやりよ
だったら普通に言ってくださいよ
あれ? これじゃアイランド型じゃ なくなっちゃうんだよな
(英治)ちょっと 私用電話1本 (摩耶)うん
(摩耶)ハア ねえ これ 何? (信介)えっ
ほら 27日の日 何かあんの?
秘密だ
(吉川沙織さおり) ダメだよ 日曜日は2人で どっか行くって話 してたじゃん
ああ 分かったよ じゃ 日曜日どこ行く?
えっとね 多摩たまテックがいいな
あそこのフリーフォール すごいんだって
分かった 多摩テックね うん
あっ すいません すぐ仕事します
(信介)今度の土日は快晴らしいぞ 気温は うなぎ登りだ
しかも 夏休み最初の土日だから—
遊園地は 家族連れで大混雑だな
フフフフッ
♪〜
〜♪
(中川なかがわゆみ)ゆみ バナナボート乗る
(中川良雄) バナナボートって何?
(中川圭子けいこ) お兄ちゃんも 一緒にどう?
山中湖やまなかこ
フフッ 家族旅行か 荷物持ったり 行列したり
子供は あれ買え これ買えってうるさいし
帰りは お土産いっぱい持たされて 何かいいことあんのか
いい 悪いの問題じゃ ないっていうか…
そうよ お休みの日に—
夫が妻や子供を どっかに連れていくのは義務よ
結婚する時 いくら仕事が忙しくても—
月に1度は 家族で お出かけするって条件つけたのね
(中川)うん (信介)日米和親条約並みの—
不平等条約だな フフッ 独身でよかった
お兄ちゃん 1人がいいっていうわりには—
呼べば 家うち来て食事してるじゃない
(桑野育代いくよ)フフフッ まあ 家族旅行に行けば—
面倒は多いし 疲れるかもしれないけど—
家族の笑顔が見られるってことは
もう何ものにも 変えがたい幸せなのよ
(中川)お義母かあさん いいこと言いますねえ
(育代)ごちそうになってる分 ぐらいは言いますよ
(圭子) あっ そうそう お隣からね
多摩テックのチケット 2枚いただいたの
お兄ちゃん これで誰か誘えば?
(信介)俺 土日 仕事なんだよ (育代)ああ かわいそうに
うーん それじゃ 誰か友達にでもあげて
ムダにするのも なんだし
この人 友達なんか いないんじゃないの?
(圭子)ねえ フフッ
(店員)38円のお返しになります
キャンペーン中ですので クジ どうぞ
(信介)2等だな
(店員) おめでとうございます 4等です
お好きな物 どうぞ
(信介の口笛)
ええっ? 楽しみにしてたのに
ああ ごめん
沙織が どうしても日曜は 2人だけでいたいって言うから
その分じゃ—
沙織ちゃんと結婚したら お尻に敷かれるの見えてるね
フッ 別に結婚なんて
“休みの日を どう使おうと 俺の自由だ”くらい言ってみたら?
あっ 怖くて言えないか それじゃあね
クソ 言いたい放題 言いやがって チッ
結局 女2人か どこ行こう
(みちる)あっ こんばんは (信介)ご苦労だな 毎晩 毎晩
楽しいですよ たまには やってみます?
結構だ
(信介)あっ (みちる)えっ?
(信介)遊園地 行くか? (みちる)えっ?
チケットあるから
いえ いえ いえ 結構です
遊園地 嫌いなの?
いえ でも突然 誘われても
(信介)誘ってないけど (みちる)えっ?
(信介)やるよ (みちる)ああ そういうこと
友達か彼氏と行けよ あっ 彼氏いないか ハハッ
(みちる)余計なお世話です (信介)要るの? 要らないの?
あっ じゃあ もらいます ありがとうございました
あの すいません
(信介)すいませーん (夏美)はいはい
(夏美)こんにちは (信介)どうも
日曜まで病院にいたんじゃ 気が晴れる時がないですね
しょうがないです
あなたみたいに 休日なのに—
診察しろって 電話してくる人いますから どうぞ
なんか この辺が またモヤモヤと
モヤモヤですか? 何でしょうね
仕事しなきゃいけないんで もう すぐ治してください
仕事できないほど ひどいんですか?
いや これ 無理ですね これは
あれ?
(信介)行くんですか? (夏美)まあ
仕事が早く終わればと 思ってますけど
知ってますか? 花火の赤い色はストロンチウム
黄色はナトリウムの 炎色反応なんですよ そしてね…
おなかがモヤモヤして 仕事できないのに—
花火の話は できるんですか?
まあ 普通の胃もたれでしょ
お薬 出しておきますから
重病だったら どうしますか?
じゃあ 採血して 検査してみましょうか
♪(“魔王”)
そうか
(摩耶)こんにちは
(摩耶)どう? 調子は (信介)えっ ああ どうした?
差し入れ ほら ねっ
キッチンの脇に収納スペースを 置けば これ なんとかなりそうだ
(摩耶)ああ なるほどね (信介)うん
フフッ
(信介)よし できた (摩耶)ご苦労さま
なんとか うまくいきそうね
よかった これで私も芝居に行ける フフッ
何 別に俺に 義理立てすること なかったのに
だって あなたに仕事させといて 私だけ遊ぶの気が引けるでしょう
まだ こんな時間なんだから あなたも どっか行ってきなさいよ
ヤダよ 面倒くさい
いい仕事をするためには 外に出ていくことも必要よ
ロクに休みも取らないで もう ずっと仕事ばっかりして—
たまの休みに 家でゴロゴロしてるだけじゃダメ
普段しないことをやってみて 潜在意識を活性化させないと
あっ そろそろ行かないと あっ ねえねえ ねえねえ
(摩耶)これ 教えて (信介)えっ?
秘密だ
(永子の息子)先生に 休日出勤していただいてるのに—
急に家に帰りたいなんて
(夏美)明日には お戻りください (永子)はい
先生も せっかくの日曜だし デートでも してらっしゃいな
(息子) ほら おふくろ 失礼だろう
フフッ 気をつけてお帰りください
(ため息)
痛い
(西村千鶴ちづる)ああ カップルばっかり いいなあ
でもさ 女を1時間も 並ばせる男ってどうかと思わない?
(千鶴)ええっ 彼氏と一緒なら 何時間待ったっていいじゃん
私はイヤ 並ばなくていいように ちゃんと段取りしてくれるとかさ
冷たい飲み物 サッと出してくれるとかさ
それぐらい当然でしょう
休みの日を どう楽しませてくれるかが—
彼氏の大事なポイントよね
あのね 理想を言うのは自由だけどさ
(みちる)もう 水飲みたい (千鶴)ハア
(みちる)あっ (英治)あっ
あっ
(みちる)来てたんだ (英治)ああ
暑いですね フフッ
あっ そこから ここまで30分
(英治)えっ? (沙織)えっ
(コバヤシ マサコ) おはようございます
おはようございます おはようございます
潜在意識の活性化か
(係員)いらっしゃいませ
あの—
“今昔こんじゃくツアー”1枚
はい 少々お待ちくださいませ
ああ 申し訳ありません
それですと 出発まで3時間ございますが…
ああ じゃ どのコースだったら 早く行けるんですか?
(マサコ)おはようございます ありがとうございます
3のB 3のB
(信介)あっ (夏美)あっ
(信介)ここだ (夏美)えっ
(信介)いいですか? (夏美)どうぞ
(夏美)あっ おなかの具合 (信介)ああ おかげさまで
フフッ でも意外 桑野さんが はとバス乗るなんて
(信介)初体験です (夏美)私 結構 乗るんです
ちょっと半日時間が空いた時とか 便利なんですよね わりと安いし
でも 偶然ですよね 隣同士なんて
分かった 1人で乗ってんのが 俺たち2人だけなんだ
あなたが1枚買うと 隣が 半端に1つ 席空くでしょ
だから 僕が1枚買うと うん 必然的に この席になるわけですよ
別に解説しなくても
“寅さん” お好きなんですか?
結構 好きです
一致しましたね 僕も48本 全部見てますよ
(夏美)えっ? (信介)あなたは何本ですか?
(夏美)5本ぐらい (信介)ああ ふーん
(ドアの閉まる音)
(マサコ)皆さん こんにちは (観光客たち)こんにちは
本日は“寅さんの故郷 柴又しばまたと下町の旅”ツアーに—
ご乗車いただき 誠に ありがとうございます
私 皆様のお相手を 務めさせていただきます
コバヤシ マサコと申します よろしくお願いします
このバスは 帝釈天たいしゃくてんに着くまでの間…
(千鶴)ああっ ランドマークタワーが見える ほら
(みちる)えっ どこ?
(千鶴)あの鉄塔の右 右のほうに
(みちる)えっ ああ
(千鶴)ねえ 大丈夫? なんか気持ち悪そうだよ
(みちる)うん お昼に ビールなんか飲まなきゃよかった
(英治)帰りに何か食べて帰ろうか (沙織)あっ そうだね
えーっと さっぱりした物がいいな
(英治)さっぱり じゃ そばとか? (千鶴)あっ 富士山ふじさんが見える
(沙織)いいね (英治)うん
ええっ どこが?
(千鶴)あれあれ (英治)あのさ
なんか 別々に会話するのって 変じゃない?
ううん そっちのデートの ジャマしたくないし
つきあって1年だって いいよね 長続きして
1年って長続き?
(みちる) 私って理想が高すぎるのかなあ
適当な相手で 妥協したほうがいいのかな
(沙織)それって 私が 妥協してるって言いたいんですか?
(みちる)えっ? 全然
ていうか こっちの話だし
(千鶴)うん
あっ おそば どこに食べに行こうか?
(英治)うーん ねっ (みちる)うっ
やっぱ気持ち悪いかも
(千鶴)ほら (英治)大丈夫かよ
大丈夫 大丈夫 気にしないで
(みちる)うっ (英治)おいおい 大丈夫かよ
(みちる)うっ ヤバい (英治)ヤッ ヤバい?
(みちる)うっ (英治)ああっ
(マサコ)あの雷門かみなりもん 正しくは風雷神門ふうらいじんもんと申しまして—
左にいるのが雷神様 右にいるのが風神様です
また 中央の提灯ちょうちんの底には 龍りゅうの彫刻が施されております
龍といえば 雷や風とともに 現れるといった連想でしょうか
(信介)ちょっと違うな
昔の日本は木造建築しかなくて 火事が 一番 怖かったんです
だから雨を降らす龍神を あがめたんです
(夏美)そうなんですか? (辰夫)よく ご存じですねえ
ええ まあ
不勉強で申し訳ありません
ああ いえいえ まあ 一応ね どうぞ
えー この門の奥に続く仲見世なかみせは 日本で最も古い商店街の1つです
長さ約260メートル その両側には 89軒もの店が立ち並んでおります
では浅草あさくさの風景をお楽しみください
(ため息)
(静江) いいお天気で よかったですねえ
ああ
ご主人 どちらから?
僕らは とっ 都内です
(辰夫)ああ わしらは山梨です (信介)ああ そうですか
(信介)ハハハッ (笑い声)
あなた 誰のご主人ですか?
さあ
(静江)奥さん フフッ よかったらどうぞ
ありがとうございます
(店員)はい
(あめを切る音)
プロだな
(信介)着物なんか着るんですか? (夏美)いえ これください
(店員) はい ありがとうございます
いいんですか? こういうとこ来ると—
気まぐれで 余計な物 買っちゃうタイプですか?
(夏美)放っといてください (店員)6000円です
えー はい
(店員) はい ありがとうございます
観光地だと気が大きくなるんですね
どうなんですか そういうのは
(店員)はい お待たせしました (夏美)ありがとうございます
(店員)ありがとうございました
ああっ “とらや”だ へえ ホントにあるんだ
ここでロケしたのは 4作目までなんですよ
そのあとは大船おおふな撮影所のセットです
詳しくなくて すみません 5本しか見てないんで
歴代の“おいちゃん”の俳優の名前 言えないでしょ?
僕は言えますが
(マサコ) こちらが帝釈天でございます
寛永かんえい6年 日忠上人にっちゅうしょうにんによって 創建されたと伝わっています
ご本尊は 日蓮上人にちれんしょうにんが自ら 刻んだといわれる帝釈天の板仏いたぼとけです
この本尊 長年 行方不明とされていましたが—
(マサコ)安永あんえい8年… (信介)帝釈天というのは—
(信介)古代インドの神話では 最強の神なんですね
(マサコ)安永8年 本堂が再建される際に
(マサコ)安永8年 本堂が再建される際に (信介)2頭立ての馬車とか
(信介)象に乗って戦う 戦争好きな神だったんですね 実は
(信介)象に乗って戦う 戦争好きな神だったんですね 実は 発見され…
(信介)象に乗って戦う 戦争好きな神だったんですね 実は
その日が庚申こうしんだったため…
(信介) 特に阿修羅あしゅらとの戦いは有名で
負け続けた阿修羅は ついに 天上界から追放されてしまうんです
そして あちらに見えます 鐘楼しょうろうは…
(信介)その一方で雨を降らせ 大地を潤している—
豊穣の神としての顔も 持っていたんですが…
(夏美)ああ あの鐘楼? (信介)のちに 他の神様に—
その最高神の地位を 譲ってしまったんです
(観光客たち)へえ
(信介)まあ酒と戦いが好きな 人間味のある神様だったんですね
(観光客たち)はあ (夏美)あっ
(マサコの泣き声) (信介)あれ?
ちょっと 泣かせて どうすんですか?
いや 俺?
あの人を無視して ペラペラ ペラペラ
勝手にしゃべるからでしょ?
新人みたいだし 少しは気を遣いなさいよ
また説教かよ
説教させてるのは あなたでしょ?
(マサコ) いいんです 私が未熟なんです
ほら
ほらって 何にも分かってないんだから
アハハッ まあまあ あの 夫婦ゲンカなんかしないで
(夏美)夫婦じゃありません (静江・辰夫)えっ?
この人ね 1人でバスに乗ってたんですよ
楽しそうに 食べ物とか飲み物とか ガッサリ買って
自分だって1人だったでしょ?
(信介)1人の意味が違う (夏美)どう違うんですか?
僕はね 自己啓発の一環で乗ったんですよ
あなたは単に ひとり寂しく乗ったんでしょ
えっ?
(マサコ)大丈夫ですか? (泣き声)
もう あなたといると ロクなことないんだから
最低の休日 仕事してりゃよかった
あっ ちょ ちょっと ちょちょ ちょっと
何ですか? 来ないでください
(鐘の音)
(英治)あの 昨日 遊園地 行ったんで これ お土産です
楽しかったか?
いやこの顔 見りゃ 分かるでしょ
もう さんざんでしたよ
向こうで みちるさんと会っちゃって
えっ? 行ったんだ あの子
えっ どういうことですか?
いや 要らないチケットが あったから やったんだけどね
ええっ?
あっ 俺が日曜日 多摩テック行くって—
沙織と電話してたの 聞いてたでしょ
なんか この辺で言ってたな
いや なんで知ってて渡すかなあ
沙織 帰る時から 口利いてくれないんすよ
フフッ 変な物でも 食ったんじゃねえのか
もう いいですよ
(英治)ハア (信介)おっ
金田かねだ 更新してやがる
“この土日はラーメンを食べに ちょっと札幌まで行ってました”
“ちょっと行く”のが 好きなやつだね
(金田)ハア (バーテンダー)どうぞ
(バーテンダー) いつものになさいますか?
(信介)えっ? いや 変える (バーテンダー)はい
違うのにする じゃあ これ
(バーテンダー) はい かしこまりました
(金田)どうも フフッ 今日も お1人ですか?
はあ? フフッ 今日はそちらも 1人じゃないですか…
(女性)お待たせ (金田)遅いよ もう
(金田)先 やっちゃってるよ (女性)もうやってんの?
(金田)うん あっ そうだ
今度の木曜日さ 神宮じんぐうの花火大会 一緒に見ない?
ミッドセンチュリーホテルを 予約してあるんだ
(女性)ホント?
(金田)ああ 花火が いちばんきれいに見える部屋
フフッ でもそんな部屋—
ずっと前からじゃないと 予約できないんじゃないの?
バカだなあ 去年から お前のために取ってあるんだよ
(女性) 私と知り合ったの先週じゃない
ぶーっ 俺は お前と知り合うのが もう分かってた
(金田)ヘヘッ (女性)うれしい
(金田)やっぱりさ
花火は愛する女と 見るにかぎるんだよ イエイ
(笑い声)
(バーテンダー)お待たせしました
嫌みか
(夏美)ああ 花火行くの? (みちる)はい
神宮か 一番 近場だもんね 毎年 行ってんの?
ええ まあ でも去年は最悪だったんです
最悪って?
ちょうど そのころ—
この人なら つきあっても いいかなって思ってた人がいて
その人が“自分のマンションから 神宮の花火が よく見えるから”
“2人で見よう”って 誘ってくれたんです
やったじゃない
お泊まりセットとか持って いそいそと行きましたよ
そしたら—
これで よく見えるって言うか? みたいな
急に なんか熱が冷めちゃって
花火が終わったら さっさと帰ってきましたよ
ふーん
今年は ちゃんと見たいんですよね
友達と行くんですけど よかったら夏美さんも行きません?
そうね 仕事が早く終わればね
あっ ハア
こういう中途半端なのが—
(夏美)よくないのかな (みちる)えっ?
“時間があれば”なんて言ってると 当日 いざ時間があっても—
結局 一緒に行く相手が いないのよね
1人で花火は行けないですよね
うん
よし 今から決めとこ
えっと
その日は ちゃんと仕事を終わらせて
“みちるちゃんと花火に行く”と
(携帯電話の着信音)
はい
何?
(信介)えっ? (育代)早坂さんよ
(育代)あの人 いい人ね (信介)何が?
今日ね 帯留めを送ってくれたのよ 柴又行った お土産だって
えっ?
私が診察に行くたびに お土産 持ってくもんだから—
気遣ってくださってんのね
あの人 とっても ちゃんとした人よ
どうして今まで 結婚してないのかしら
私の趣味だって ちゃんと分かってくれてるし
うれしいわ
ホントに余計なことを…
何が余計なことよ
でね 今度 早坂さんに会ったら よろしく言ってくださいよ
それじゃ
(不通音)
(ため息)
まいったな
(みちる) ええっ それじゃ ずっと桑野さんと 隣同士でバスに乗ってたんだ
(夏美)だって指定席なんだもん (みちる)それはヘビーでしたね
でもね 私 思ったのよ
そもそも休みの日に ああいうバスに—
1人で乗ってる自分にも 問題があるんじゃないかって
ああ
だからね 少し生活パターンを 変えてみようと思うの
できるだけ人に会うようにするとか
いいんじゃないですか 私なら いつでも呼んでください
ありがと とりあえずは 花火大会で盛り上がりますか
(みちる)はい (夏美)フフッ
(舌打ち)
あっ
(ノック) (夏美)はーい
どうぞ
どうされました?
何か ゆうべから 気分が すぐれなくて
また胃ですか?
いや なんか この辺がムカムカと
その辺が? 何でしょうね
おう吐は ありましたか?
あの—
この間は どうもすいませんでした
あっ いえ
あと 母に贈り物まで
ああ 診察のたびに いろいろ 持ってきてくださるんで心苦しくて
時に 今度の木曜日 神宮の花火大会でしてね
はい
実はね 見えるんです
うちの事務所のビルの屋上から
(夏美)何が? (信介)花火です
ハア
距離は そこそこあるんですけどね 間に遮る物ないんで
ちょうどいい具合に スカーッと見えるんですよ
(夏美)へえ いいですね (信介)でしょ?
このことはね 誰も知らないんです
管理人に話をつけて毎年1人で ビルの屋上を独占しているんですが
フフッ その日だけは キッチリと仕事を終わらせてね
(夏美)そうですか (信介)ええ
このことは誰にも秘密ですよ
英治にも教えてないんで
あの どうして そんなこと 私に?
えっ いや それはまあ だから
もしかして誘ってくれてます?
えっ まあ いやあ
あなたが どうしてもと おっしゃるなら
すみません 私 みちるちゃんたちと 行く約束してるんです
えっ?
フフッ それって 場所 確保してるんですか?
さあ みちるちゃんが 何とか するんじゃないですか?
かーっ あの子に任せて 大丈夫とは思えないな
どうして 人のこと 悪くばっかり言うんですか
客観的事実を言ってるんですよ 地上じゃ どうせ人混みでしょ
ビルとかあって ロクに見えもしないし
結局 真夏のおしくらまんじゅうを しに行くようなもんですよ
それでもいいんです みんなと一緒だったら楽しいんです
あなたには 分からないかもしれないけど
ああ そうですか フッ まあ いいですよ
僕も1人のほうが楽しいし どっちかというと
(夏美)あれ ムカムカは? (信介)治りました
(ドアの開閉音)
この間の設計の手直し お客さんも喜んでくれた
(信介)当然だな (摩耶)フフッ
あっ そうそう シティーワークス社の社長さんが
神宮の花火大会の時 私と桑野さんで—
家に来ないかって誘ってくれたの
えっ?
自宅のマンションが花火の特等席で
毎年 知り合い呼んで パーティーやるんだって
(沙織)へえ いいなあ
仕事してると こういう役得もあるのよ
ねっ 行くでしょ?
(信介)いや あいにく (摩耶)えっ どうして?
まあ 下から普通に見ればいっか
あっ そうだ そういえば あの みちるさんからメール入ってたんだ
“みんなで行かないか”って
えっ みんなって誰?
えっと 早坂先生と あと中川病院の ナースの人たちと
(沙織)ふーん
(英治)じゃあ 先に失礼します (信介)ああ
(英治)あれ? まだ仕事ですか? (信介)うん まあな
(英治)じゃあ お疲れさまです (信介)あっ ああ
フフッ
(夏美)ええっ すごい人
(みちる) ちゃんとネットで調べたのに
(みちる)なんか去年の写真と違う (真理)座るどころじゃないですね
(英治)まあ 俺的には 女性に 囲まれてうれしいですけどね
イテテテッ 痛いてえよ
もうなんで こんな人がいるの?
あっ
もう 全然 穴場じゃないんだ
でも 花火見えるから いいんじゃない
そうそう いいよ 立ったままで
(信介)よし
(ハミング)
(信介)冷えてる
1 2 3 4 5 よし
よし さあ
うん うん
よーっ よっ
(花火の音)
(信介)ハア
(みちる)えっ? 何? 始まった (夏美)どこ? ねえ どこ?
ああ あっちじゃないですか あれ
(みちるたち)えっ?
(みちる)あーあ (千鶴)あのビル 新築っぽい
(みちる)やっぱり今年もダメか
おおっ
おっ おっ
あれ?
(シャッター音) (信介)よしよし よしよしよし
ちょっと待って ええ…
(沙織)音は すれども 花火は見えず ハア
向こうもダメみたいです
もう ホントごめんなさい
(夏美)ううん しょうがないよ
(英治)どうしよう 解散する?
おおっ ハッハッ ハハハ たまや
(夏美)ごめんなさい (信介)えっ
この間 誘ってもらったのに
ああ いっ いや
あの—
ご一緒しても いいですか?
ええ まあ
そうおっしゃるなら 僕は別に
(夏美)ありがとうございます (信介)ええ あっ うん
(信介)あの… (夏美)みんな いいって
(みちる)ありがとうございます (千鶴たち)こんばんは
えっ ちょ 何だ? これ
(千鶴たち)わあ すごーい すごーい
(信介)ちょっと (英治)ああ もう—
(英治)こっから見えるなら なんで教えてくんないんすか?
あーあ まったく
(みちる)ハア よかった 今年もダメかと思った
ちょっと 他の人間には 教えるなって言ったでしょ
あっ ごめんなさい でも みんなで見たほうが楽しいですよ
でも ここは俺だけの
ハア 誰が管理人に 話つけたと思ってんだよ
イテッ まあ とりあえず やりますか
はい ビール ほら 持ってって 持ってって 持ってって
はい どうぞ どうぞどうぞ どうぞ はい どうぞ
(夏美)はい (英治)はい
(英治) じゃ オープンしてください
(みちるたち)はーい
おおっ
(英治)それじゃあ (みちるたち)乾杯
(みちるたち) あー おいしい おいしい
うわあ すごい
(沙織)あれって 錦冠にしきかむろっていうんですよね
(真理)へえ 花火 詳しいんだ (沙織)フフッ ちょっとね
違うな あれは 色が違うから銀冠ぎんかむろだ
銀色のほうが温度が高いから その分 作るのが難しいんだよ
へえ 詳しいんですね すごいなあ
(信介)まあね (沙織)フフッ
今日は ありがとうございます
桑野さんのおかげで 花火が見れました
フフッ ああ そう
(笑い声)
(英治)大丈夫ですか? おかわりありますよ
こっち来ます? わいわいして ほら わっさーしてますから
(英治)ねえ わっさーしてるな (みちる)へえ すごい
(英治)うわあ すげえな (みちるたち)すごい ハハハッ
(英治)はい じゃ 2回目 (みちるたち)はい 乾杯 乾杯
(真理)桑野さん 桑野さん 今のあれ 何ていう花火ですか?
えっ ああ あれは紅点滅べにてんめつだよ
(みちる)花火オタクかもね (千鶴)うん
(和美)すごい なんで そんなに知ってるんですか?
40になったら 誰だって知ってるよ そんなこと
(和美)フフッ そうなんですか (信介)フフフッ
(信介)日本の花火ってのはね
割物とポカ物の 2つに分類されるんだよ
ボール状の球体の真ん中から パカッと割れて
その中身の彩光を飛び散らすんだよ
運動会の…
(拍手と歓声)
(夏美)あれ? 桑野さんは? (みちる)えっ?
あっ
おおっ
(沙織) あれ どうやって登ったの?
(信介)ああ おお (英治)1人花火か
毎年あんなことやってんのかな?
ねえ あの人と結婚する女の人って いるのかな?
いやあ 私に聞かれても
いやあ 今年もレベル高いな これ
なんで もう1つあるの?
芯入り牡丹ぼたんだ
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