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♪〜
(バーテンダー) ありがとうございました
〔椅子に座る音〕 (バーテンダー)いらっしゃいませ
〔土砂降りの雨音〕
〔自動ドアが開く音〕
(里枝りえ)いらっしゃいませ
〔自動ドアが閉まる音〕
〔里枝が はなをすする音〕
ありがとうございます
2,030円です
〔お金を置く音〕
(里枝)ちょうど頂きます
〔雷鳴〕
(男)ブレーカーは どこですか?
(里枝)えっ?
(男)周りは ついてるから
(里枝)ああ
(里枝)あっ おっと…
あっ すいません
(男)えっと…
(里枝)あっ その…
(里枝)すいません それです (男)あっ はい
〔ブレーカーを上げる音〕
〔電気がつく音〕
ありがとうございます
(男)いえ
(里枝)ありがとうございました
〔自動ドアが開く音〕
〔鳥のさえずり〕
(悠人ゆうと)おはよう (里枝)おはよう
〔冷蔵庫の開閉音〕
(里枝)悠人さぁ
レンコンさん 入ってるやつ 向こう 持ってってくれる
OK
〔鈴りんの音〕
母さん ご飯
先 食べるよ
(里枝)レンコン うまかったよ お漬物 要る?
(悠人)待って!
(友達A)遅いよ 悠人!
(友達A)悠人! (友達B)早はよ来いよ!
(悠人)うん!
〔悠人たちの遊ぶ声〕
〔遠雷〕
〔土砂降りの雨音〕
(初江はつえの声)最近 思うっちゃわ
お父さん 先に天国に 行ってくれたんだって
遼りょうちゃんが 向こうで さみしくならんよう
(奥村おくむら)自分のことは 全部 後回しにして
孫のことを 考えるような人じゃったもんねぇ
正広まさひろさん
〔初江のむせび泣き〕
〔自動ドアが開く音〕
ただいま!
(里枝)おかえり 悠人
(奥村)悠人 おかえり
(里枝)奥村のおばちゃん 大成堂たいせいどうのケーキ 買ってきてくれたよ
(奥村)イチゴんやつと モンブラン
(悠人)ウソー!
(里枝)あっ 冷蔵庫に入ってるよ
〔すすり泣き〕
(里枝)お母さん…
(奥村)悠人も おるっちゃし 初江さんがしっかりせんと
一番つらいとは 里枝ちゃんやっちゃし
横浜よこはまから戻ってきて 独りぼっちよ
(里枝)ありがとうございます
1,785円と1,800…
(奥村)お兄さん 絵 描くの趣味?
(男)あ…
(奥村)お兄さんが 絵 描いちょるとこ見たって
うちのお客さんが 言ゆうちょったかい
清瀬川きよせがわんとこの芝生で
今度 見せてよ〜
(男)いや… 見せるほどのものじゃないです
(奥村)里枝ちゃんも 見たいじゃろ?
おばちゃん 困っちょうよ
(奥村)初江さん こないだね… (里枝)3,675円です
(黒木くろき)大祐だいすけ
木の重心を見て 切り倒す方向を決めっとよ
こん木やと… 向こうに倒しやすい
分かる?
(黒木)重心があるやろ? (大祐)はい ああ…
(黒木)そう 偏かたよっとっとさ
そしたら 倒す方向に受け口を切る
(作業員)黒木! うんちく 長なげえが!
〔作業員たちの笑い声〕 (黒木)うるせえが!
(伊東いとう)ダメなんだよ 言葉で言ったってな
〔作業員たちの笑い声〕 (黒木)見とけ
〔チェーンソーの音〕
〔木を切る音〕
〔くさびを打つ音〕
〔くさびを打つ音〕
(黒木)大祐 やってみな
(田島たじまの声)その谷口たにぐち大祐って人 どこの人っすか?
(伊東)群馬ぐんまの伊香保いかほ温泉って あるやろ?
そこの旅館の次男坊だって
(田島)へえー
(伊東)結構 老舗しにせの
(田島)そんなとこの人が
なんで こんなとこで 林業やるとですかねぇ?
なんか気持ち悪い感じせんですか?
(伊東)確かに 普通じゃないけどよ
まあ 人間 ある程度 生きると—
すねに傷 持っちょらんヤツなんて おらんやろ
前科持ちとか?
問題 起こされたら たまらんでしょ
なんか暗い感じやし
暗いんじゃないの おとなしいの
仕事 覚えるんも早いし
お前んとこの弟より よっぽど使えるわ
(田島)タケシの話は いいじゃないすか
(伊東)とにかくよ いいヤツよ
俺は好きよ 大祐
〔雨の音〕
〔自動ドアが開く音〕
こんにちは
〔ペンを選ぶ音〕
(里枝)ありがとうございます
えっと… 200円です
袋 要りますか?
(大祐)大丈夫です
(里枝)はい 千円 お預かりします
レシートは?
(大祐)あっ 要らないです (里枝)はい
はい 800円のお返しです
(大祐)あの… (里枝)はい?
これ… 絵
持ってきてくれたんですか?
(大祐)恥ずかしいんですけど…
(里枝)い… いいですか?
ふーん
(里枝)絵 好きなんですね
いいなぁ
〔ページをめくる音〕
(里枝)あっ
なんか 悠人みたい
うちの子 よく ここで遊んでるんで
うん…
(大祐)この店で見た 男の子だったかな?
た… 多分 もしかしたら そうかもしれないです
えー そうなんだ?
じゃあ やっぱりそっかな フフッ
えー うれしいな なんか
いいですねぇ
あの… もし よかったら 友達になってくれませんか?
え?
(大祐)いや…
ご迷惑ですよね 家庭あるし すいません
家庭は ないですよ
あの… 子どもはいますけど 離婚したんで
(大祐)あ… そうなんですね
すいません 何も知らなくて
知ってたら怖いですよ
ああ そう… そうですよね
(里枝)ありがとうございます
えっと… お名前は?
谷口です
あっ…
〔息を吹きかける音〕
(大祐)汚いですけど すいません 谷口大祐たにぐちだいすけっていいます
(里枝)谷口大祐さん
(里枝)すいません 名刺がないんで…
(大祐)いえいえ
武本たけもと里枝りえです
里枝さん
(里枝)いつでも あの… 絵 見せに来てください
はい
〔テープを貼る音〕
何も買わなくていいんで
(大祐)はい
〔鳥のさえずり〕
(店員)よっしゃー
分かる? やり方
(里枝)悠人にも弟がいたの
でも 2歳の時に亡くなったの
いい? こんな話
(大祐)ええ
(里枝)脳の病気でね
治るって思ってたんだけど…
やっぱり悪性だってことが分かって
(大祐)それが…
原因ですか?
(里枝)ん?
(大祐)前の人と 別れたの
治療のやり方で もめて
それからは もう 全部のことが 食い違うようになっちゃって
治らないって分かってたらね
おいしいもの いっぱい食べさせてあげて
大好きだった動物園も いっぱい連れてってあげて
少しでも…
少しでも
“生きててよかった”って 思わせてあげたかったなって
あんな つらい放射線治療してさ
あんな苦しい思いさせたのに…
それが…
全部 無意味だって分かった時の…
もうね…
その子… 名前は?
〔はなをすする音〕
(里枝)遼
(大祐)リョウ…
リョウ君
(大祐)リョウ君
〔里枝のすすり泣き〕
(里枝)どうしたの?
(悠人)えい! (大祐)上手だね あっ!
(大祐)こっちだ! はい!
(大祐)お母さんにパス (悠人)パス!
(里枝)お母さん?
よっ!
〔ガツンと当たる音〕
(悠人)あっ! (大祐)えっ…
(里枝)逃げろ! 逃げろ 逃げろ 逃げろ!
〔3人の笑い声〕
〔荒い息〕
(里枝)大丈夫 大丈夫
大丈夫 大丈夫 大丈夫 大丈夫…
大丈夫 大丈夫 大丈夫 大丈夫
〔鳥のさえずり〕
(里枝)できた?
かわいいじゃん
何か忘れてないかな? 大丈夫?
できる?
ぎゅっ ぎゅっ ぎゅっ!
ぎゅ ぎゅ ぎゅ ぎゅ ぎゅっ!
(大祐)あれ 何か… 何か付いてる あれ ほら 見て
(悠人)うわっ
〔大祐と悠人の笑い声〕
(初江)ケンカせんと!
(大祐)つん つん!
(里枝)何やってんの?
こら 食べ物で遊ばない! ほら
(悠人・大祐)あ〜あ…
(里枝)“あ〜あ”じゃないよ
(悠人)えっ!
〔里枝の笑い声〕
(里枝)あっ! 悠人 学校 遅れてる
(初江)あっ ほんとだ
(大祐)あっ ほんとだ ほら 行ってこい
(花はな)面白かった (大祐)面白かった?
(大祐)入らなかったの これ? いいの?
もうちょっと食べるか? うん?
(悠人)父さん (大祐)ん?
(悠人:小声で) 山 行ったら ダメ?
〔大祐の笑い声〕 (里枝)ん? 何?
何 何? もう一回 言って もう一回 言って
ダメ?
(里枝)えっ? (大祐)えっ? 何?
山 行っていい?
ダメに決まってんじゃん
体育祭の予行演習
(里枝)うん だから?
意味ないって マジで
(大祐)花 お兄ちゃんに“ダメ”って
(花)ダメ
(大祐)あっ 花が何か言ってる ほら
花 もう一回 言って もう一回 言って
(悠人)ねえ 花 お願い お願い お願い
(大祐)“ダメ ダメ”
(花)ダーメ
(里枝)はい もう全然 遅刻
(悠人)はーい
(里枝)縦にしないでよ! (大祐)ほーら ほら! 行ってこい
(里枝)汁 漏れても知らないよ
(初江)いってらっしゃい 気をつけないね
(里枝)大祐!
(大祐)あ… ごめん ごめん
〔2人の笑い声〕
(大祐)ありがとう (里枝)うん
〔エンジン音〕 (大祐)ありがとう
うん じゃあね
(大祐)いってきます (里枝)いってらっしゃい
〔遠ざかる車の走行音〕
〔クラクション〕
(大祐)乗れよ
(悠人)学校は?
(大祐)ほら! 〔車をたたく音〕
〔作業員たちの話し声〕
(作業員A)仕事は多いよ 今日は 頑張ろうよ
(作業員たち)はーい
(作業員B)今日は早く帰って 焼酎でも飲まんや
(悠人)父さん 父さん 父さん (大祐)ん?
(悠人)これ OK?
(大祐)あ〜 こっちかな (黒木)大祐!
(黒木)俺ら 奥のほう やるけぇ
大祐 ここ終わらせといてくれんね
(大祐)はい
よいしょ
頑張れよ
〔2人の笑い声〕
(伊東)悠人 今日は何して遊ぼうか
(悠人)パチンコ 作りたい
(伊東)またパチンコか
〔くさびを打つ音〕
〔くさびを打つ音〕
〔足が滑る音〕
〔強打する音〕
(大祐)うっ… 痛いった
うっ…
〔木がきしむ音〕
あ… ああっ…
〔衝撃音〕
(黒木)大祐 どうした?
大祐?
おい おい… 大祐?
おい 大祐!
おい! 誰か 事務所 電話して!
おい 大祐! 大祐 おい!
(作業員A)救急車 呼んでこい!
(黒木)救急車 救急車! 早く!
おい 大祐!
〔悠人の荒い息〕
〔自転車が倒れる音〕
〔読経〕
〔鈴りんの音〕
〔読経が続く〕
〔木魚の音〕
〔僧侶の読経〕
それでは どうも失礼いたします
(参列者A)もう 一周忌だよ
(参列者B)ねえ ほんと 時間 経たつの早いね
(里枝)どうも ありがとうございました (初江)ありがとうございました
(恭一きょういち)あっ… (里枝)はい
(恭一)谷口ですけど
(恭一)谷口恭一と申します
(里枝)遠いところ ありがとうございます
この度は 弟が ご迷惑をおかけしました
(里枝)いえ
お葬式にお呼びもせずに すみませんでした
(恭一)いやいや
あいつが“言うな”って 言ったんでしょ
分かりますよ
でも あの… お墓のこととか やっぱり ねえ?
ご相談しないわけにも いかないだろうってことで
あの それで…
大祐 私のことも 悪く言ってたでしょう?
昔のことは あんまり話しませんでした
ただ ご家族とは…
(恭一)いいんです いいんです
分かってますから
ハァ…
ほんと 最後まで いろんな人に迷惑かけて…
なんで もっと まともな生き方が できなかったんでしょうねぇ
こんなとこで 木の下敷きになって死ぬなんて
最後まで親不孝ですよ
(伊東)やめろ
(恭一)あっ お線香 いいですか?
(里枝)あ… はい もちろん
(恭一)あー 葬式代とか墓代 必要な分 請求してください
(里枝)あっ いや それはもう ほんとに大丈夫なので…
(恭一)ちゃんと お支払いしますんで
(里枝)いや…
〔鈴りんの音〕
(恭一)写真… 置いてやらないんですね
(里枝)え?
(恭一)いや 写真 (里枝)はい?
遺影
はい?
はい 置いてますけど
(恭一)どこっすか?
(里枝)そこです
(恭一)どれ?
(恭一)違いますけど
えっ?
(恭一)これ 大祐じゃないですけど
いや 大祐さんですけど
(恭一)いやいや 大祐じゃないです
いや 大祐さんです
(恭一)いや 大祐じゃないです
(恭一)ええっ? (里枝)え?
(恭一)いや 大祐じゃないですね
(里枝)そんなに変わってますか? 昔と
(恭一)いや 変わってるとか…
全然 違う
(里枝)ああ そうですか
(恭一)全然 違う人 (里枝)はい?
(里枝)え? 大祐さんですけど
(恭一)大祐じゃないです
(里枝)いや だから伊香保温泉の… (恭一)はい
(里枝)はい 旅館の (恭一)ええ
(里枝)はい “玉樹たまき”の (恭一)はい
大祐じゃないです
(里枝)じゃあ この人…
(里枝・恭一) 誰なんですか?
(アナウンス)おくつろぎのところ 失礼いたします
目的地の宮崎みやざき空港へは あと35分ほどで到着いたします
先ほど 機長からも ご案内があったとおり
あと15分ほど いたしましたら…
(城戸きどの声) 7年ぶり… ですかね?
あー そうですね
離婚調停の時からだから…
あの時は 本当に お世話になりました
いえ
お子さん だいぶ 大きくなられたでしょう?
上のが中学生になりました
上?
あっ はい あの… 再婚して 下に娘が生まれて
あー そうだったんですか
おいくつ?
4歳
うちのと同じだ
え? あー 城戸さんも?
そうです あの後 結婚して
あー そうですか
えっ 女の子?
男です
そうですかぁ
(里枝の声) 生命保険なんですけど…
(城戸)それは 返還しなくて大丈夫です
谷口大祐の名前で 書類を書いてますけど
契約主体は あくまで—
“Xエックスさん”で
Xさんが保険料を 払い続けていたわけですから
それは もらったままでいいです
ありがとうございます
いえ これは当然の権利です
それよりも まずは
谷口さんの戸籍上の死亡を 取り消すことですよね
死亡したのは Xさんで 谷口大祐ではないですから
じゃあ 本物の谷口大祐さんは どうなるんですか?
うーん…
まあ 戸籍上は 生きてることになりますね
実際にどうかは 調べてみないと分かりませんが…
(店員)お待ちどおさまでした
うな重 並 2つです
〔シャッター音〕
〔自動ドアが開く音〕
悠人君?
(里枝)電気シェーバーのヒゲとか どうでしょう?
(城戸)あっ いいと思います
(里枝)おかえり
横浜でお世話になった城戸さん 覚えてる?
大きくなりましたね
(里枝)すいません
あと えっと… 服に髪の毛 付いてました
(城戸)ああ
(里枝)あの人が使ってた 歯ブラシと…
えっと えっと… 爪切りの中 爪が…
(城戸)うん
もう十分だと思います
(里枝)どのくらい かかりますか?
(城戸)お金は経費として
まとめて こちらが 立て替えておきますから
(里枝)えっと… 時間です
(城戸)ああ… 時間
そうですね… 1か月 見といていただければ
(里枝)1か月 (城戸)はい
その絵 何かの手掛かりになりますかね?
(城戸)うーん… どうでしょうかね
でも いい絵ですね
少年が そのまま 大人になったみたいな
ほんとに この絵のとおりの人だったんです
夫は
犯罪に関わってるんでしょうか?
(城戸の声)坂崎さかざきさんは 翌14年3月31日から
失踪前日の5月1日まで
30日間の時間外労働は 190時間18分
過労死ラインとされる月80時間の 2倍以上も超え
5月2日朝“今日は欠勤する”と 連絡を入れた後から
連絡が取れなくなり
翌3日の朝 栃木県とちぎけん高根沢町たかねざわまちの山の中で 自殺したとみられます
(中北なかきた)“突然 このような決断をしてしまい—”
“申し訳ありません”
“身も心も限界な私には—”
“このような結果しか 思い浮かびませんでした”
“母さん 苦しい思いばかりさせ”
“今日 最大の苦しみを 味わわせてしまうことを—”
“お許しください”
“でも…”
(坂崎の父)あっ 先生
ほんと ありがとうございました
勝まさるも これで 浮かばれると思います
城戸先生のような 人権派の弁護士に受けていただいて
ほんとに よかったです
いや 僕はただ 自分の仕事をしただけで…
(坂崎の父)これ つまんないものなんですけど…
(中北)いや もう そんな すいません 遠慮なく頂きます
(坂崎の母)先生には 何てお礼を言っていいか もう…
いや もう そんな…
お母さん 顔を上げてください お願いですから
(中北)ほれ 素直に喜んどき
(中北)ねえ ほんと… (坂崎の父)ありがとうございます
(中北)あの… じゃあ 失礼します
(坂崎の母) ありがとうございました
(坂崎の父)ありがとうございました ありがとうございました
〔建築工事の騒音〕
(城戸の義父) 香織かおり おいしかった
パエリア 母さんより上手じゃないか
(城戸の義母) ごめんなさいね フフフフッ
(香織)颯太そうた ご飯 もう要らないの?
(颯太)うん
(義母)あげ過ぎちゃダメよ (颯太)はい
うん 食べてるねぇ
(義父)分かんないんだけど その過労死ってのは自殺なんだよね?
(城戸)ええ
自殺でも慰謝料 出るんだ?
(城戸)ええ
そんなに仕事がキツいなら 逃げりゃいいだけの話じゃない
そういった正常な判断が できなくなるほど
追い詰められていたんだと思います
(義父)金の使い方が なんかおかしいんだよな この国
生活保護なんかもさ
まだまだ働ける人間が 税金で養ってもらって
何やってるかっていうと パチンコだろ
そもそも矛盾してるんだよ 制度が
大体 ああいったものに すがるのは “日本人じゃない”っていうじゃない
在日とか そういう連中の 面倒 見る余裕なんか
今の日本には ないんだよ
あっ もちろん 章良あきら君は 全然 別だよ
はい
(義母)章良さんは三世じゃない
もう三代 経ったら 日本人よ
私なんてね 韓流はんりゅうドラマばっかりなのよ
(香織)まだ見てんの? お母さん
(義母)あっ お父さん 私に下さい (義父)まだ飲むの?
〔ドアの開閉音〕
(香織)これ お父さんのツテで かなり優遇してくれるんだって
頭金も手伝ってもらえるかも
え… 今で十分じゃない?
私はもう1人 欲しいもん
(城戸)ここ どうするの?
(香織)賃貸に出せばいいじゃん
資産には変わりないんだし
ねえ この前の宮崎って ほんとに出張?
(城戸)うん なんで?
バカ 見せようか? チケット
いい
じゃあ 先 寝るね おやすみ
おやすみ
〔ドアの開閉音〕
(恭一の声) あっ お待ちしてました
大祐の件ですよね
(恭一)やっぱり 温泉旅館の顔って言ったら
城戸さん 何だと思います?
温泉?
ですよね
顔だけはね 絶対変えちゃダメ
めちゃくちゃいい泉質なのは 間違いないから
変に いじくり回しちゃ ダメなんです
親父おやじから私に代わって 予約が 一気に増えたんです
弟じゃ 絶対無理ですね
(城戸)恭一さんとは
この旅館を継ぐ 継がないで もめたって
里枝さんに お聞きしたんですけど…
いや もめてないですよ
弟が勝手に そう思ってるだけで
(城戸)これが本物の 谷口大祐さんですか
(恭一)ええ
宮崎で木こりになる前は 大阪おおさかにいたみたいですね
そうですか
(城戸)早速 行ってみます (恭一)ああ もう行ってきました
これ うちの名物料理
食べて
ああ… じゃあ
(恭一)住んでたっていう 北区きたくのアパートの大家にね
その写真 見せたんですよ
そしたら まあ “そうだ”ってことでね
(城戸)本物の大祐さんだったと
(恭一)一応 偽者の写真も 見せたんですけど
見覚えがないって
つまり 大阪時代は
二人は まだ入れ替わる前だった ということですね
(恭一)どうですか?
いやー まだ何とも…
(恭一)うまいっしょ?
えっ?
ああ… はい
(恭一)ハハハッ
(恭一)しかし 大祐 生きてるんですかね?
いや その…
入れ替わった男に 殺されてるんじゃないですか?
まあ あの奥さんも 話してるとおりなら 被害者なんでしょうけど
ねえ? 生命保険も もらってるし
私は調べるべきだと 思いますけどね
(恭一)ハハッ
じゃ よろしくお願いします
(美涼みすず)あっ… こんばんは!
(住民)こんばんは
(美涼)キュウちゃん こんばんは
あれ? 怒ってる 全然 懐かないなぁ
(住民)ごめんなさい
(美涼)またね キュウちゃん
〔ドアを開ける音〕
(美涼)お疲れさまでーす
(高木たかぎ)おっ 美涼ちゃん
この人が 大祐に なりすましてたんですか?
(城戸)そうです
呼びようがないから ひとまずは “Xエックスさん”と呼んでますけど
“さん”付け…
顔もですけど 身長も 多分 全然違うと思う
見覚えもないですか?
はい
大祐さんとは いつから?
私が高校の時から
付き合ったり別れたり ズルズルと…
最後に会ったのは いつなんですか?
あー いつだっけ?
大祐のお父さんが亡くなって お葬式に出て その頃…
あっ これが大祐
もう結構 前ですけどね
(城戸)この時は その…
付き合ってました
でも そのあたりかな
最後は だから 別れ話もなくて…
急に いなくなったんです
電話とかメールとかは?
(美涼)全然
つながらなくて…
でも なんで その人 大祐の過去を欲しがったんですかね?
大祐の経歴なんて 別に そんな感じだし
遺産とか?
分かりません
(高木)もしかして 北朝鮮に 拉致らちされたんじゃないですか?
俺 聞いたことありますよ
拉致した男の戸籍 盗んで そいつに なりすますって
(城戸)フッ…
Xさんは 宮崎の小さな町で 林業をやってたんですよ
(高木)いや…
今も けど 北朝鮮の工作員とか その辺にいっぱい いるんでしょ?
また陰謀論 始まったぁ
あの人 3.11も “人工地震”とか言っちゃう人だから
(高木)いや いや いや… あれは だけどさ
こっちは真面目に人捜ししてるの
(城戸)ハァ…
今日は突然 すみませんでした
また 何かありましたら ご連絡させて…
〔はなをすする音〕
あー あー
すいません
大祐…
バカだなぁ
ほんっと バカ
やっと消息が分かったと思ったら これですもん
あっ なんか すいません 急に…
(城戸)いや
(美涼)では
〔遠ざかる足音〕
フゥ…
(電話:城戸) DNA鑑定の結果
Xさんは谷口大祐ではないことが 確定しました
(里枝)そうですか…
(城戸)これで 事実上の婚姻関係は なくなり
里枝さんは もう未亡人でもなくなります
里枝さん?
(里枝)はい
(城戸)大丈夫ですか?
(里枝)私は一体 誰の人生と一緒に 生きてたんでしょうね
“私は誰の人生と一緒に 生きてきたのか”
何て答えたらいいのか 分からなかったよ
(中北)そのXってヤツ
やっぱり 何か犯罪歴を 隠したかったんちゃう?
それも かなり重い罪の
うまいな このまんじゅう
(城戸)でしょ?
ハァ…
(中北)セキュリティー上の リスクとして
国から にらまれるっちゅうんが 一番いっちゃん困るやん?
(城戸)うーん…
まあ 普通に考えたら そうなるけどね
(中北)うん
(城戸)それ 何?
(中北)銘柄詐欺
コンビニで売ってるような やっすいワインに
ビンテージもんのラベル貼って 売ってるヤツがおんのよ
へえー
(中北)だまされても 味の分からん人間って思われたないから
ほとんどが泣き寝入りや
考えたね
(中北)なるほどな
銘柄詐欺で思い出したんやけど
俺が前に担当した事件で なりすましが あったんよ
なりすまし?
55歳やった男が 67歳の別の男に なりすまして
年金もらってたってやつ
もう有罪は確定して 民事に移ってんのやけど
その戸籍交換な 仲介人がおってん
え… それ いつの事件?
2000…
あれ?
あった 2013年や
(城戸)Xが 宮崎にやって来た頃と同じだ
このブローカー 当時 他にも ようさん仲介して
手数料 取ってたみたいやで
(城戸)“小見浦おみうら 憲男のりお”
今は大阪刑務所に入ってんのか
本物の谷口大祐が 大阪にいた頃とも重なる
〔廊下に鳴り響く足音〕
いやー
こんなイケメンの弁護士先生が 会いに来てくれるなんて
私 ブサイクやろ?
こんなんやから 性格も ゆがんでますねん
(城戸)フッ…
あの… 今日はありがとうございます
改めまして 弁護士の城戸と申し…
先生 在日でしょ?
(小見浦)ねっ?
答えるべきことですか?
(小見浦)顔見たら 一発ですよ
もう帰化して 日本国籍です
あの… 今日はですね
お手紙にも書いたように 5年前の…
(小見浦)先生
世の中には 300歳まで生きる人間って
ほんまに いてるんですねぇ
(城戸)え?
(小見浦)よく言うやないですか
“300歳の人間がおった”って
(城戸)いや… よく言いませんけど
先生のような人の住む世界には いないんですかねぇ
ここだけの話 この大刑だいけいにも おったんですよ
もう出所しましたけど
すごく面白いお話なんですけど
今日は5年前の事件について 伺いたいんです
谷口大祐さんという方 ご存じないですか?
彼の名を名乗っていた男が 亡くなっているんです
でも 彼は 本物の谷口大祐ではなかった
小見浦さん
戸籍交換の仲介を やってたそうですね?
この方についても 何かご存じないですか?
伊香保温泉の… 次男坊でしょ?
はい そうです! ご存じですか?
(小見浦)もう今日は いいでしょ
彼が誰と戸籍を交換したのか 知りたいんです
交換やなくて 身元のロンダリングですよ
汚い金と同じで
過去を洗い流したい人は いっぱい いるんです
先生かて
在日が嫌で 交換したいと思ったことあるでしょ?
先生は 在日っぽくない在日ですねぇ
それは つまり 在日っぽいってことなんですよ
私ら詐欺師と 一緒で
ハハハハハッ
〔遠ざかる足音〕
(中北の声) “イケメン弁護士先生の目は—”
“節穴ですか?”
“マヌケ”
フッ…
“イケメン”言われてるだけ ええがな
(城戸)胸のとこ
胸のとこ
ほんまや 何か書いてるわ
“谷口”“曾根崎そねざき”
ん?
この“曾根崎 義彦よしひこ”いうんが
“X”やって 言いたいんかな?
やっぱりチルドでも うまいな
知らんかったなぁ
〔走る足音 と 荒い息〕
(里枝の声)悠人!
どうしたの?
何?
(悠人)父さんの木 覚えてる?
(里枝)うん あれでしょう?
ここから… 3番目の 枝がこうなってる
で… これ お母さんの木
(里枝)分かる? (悠人)うん
(里枝)で… 花ちゃんの木が あれで
で… 悠人は ほら
あっちの あの木がいいって 選んだでしょう?
今年の命日も 父さんのお墓 作ってあげなかったね
僕 また苗字みょうじ 変わるの?
生まれた時は“米田よねだ”で
母さん 離婚して“武本”になって
そして 父さんの“谷口”
僕 次 誰になればいいの?
(里枝)悠人…
母さんね 悠人にずっと 黙ってたことがあるんだけど…
父さんね
ほんとは 谷口大祐っていう 名前じゃなかったの
(悠人)えっ?
母さんも知らなかったんだけど
父さんが死んじゃった後で
本当の名前じゃないっていうことが 分かったの
え… じゃあ 誰だったの?
(里枝)うーん…
それを今 調べてもらってるの
他の人の名前を使ってたから
それを 弁護士の人に 相談したりしながら
いろんなことを 今 調べてもらってるの
で… で 誰だったの?
まだ分からない
まだ分からないから お墓も作れないの
だって“谷口大祐”って 書くわけにも いかないでしょ
(悠人)じゃあ…
僕の 谷口悠人って名前は
何なの?
その… 谷口っていうのは
私たちが知らない人の名前
(花)ママ!
はいー!
(花)パパの木!
写真 撮って!
写真? いいよ
(初江)私 いいかい
(里枝)いいの? 分かる?
(初江)あっ これね
(里枝)これね 丸いとこね
悠人!
(里枝)あっ いいよ お母さん
そっと しといて
(初江)はい いくよ! チーズ!
〔シャッター音〕
(スタッフ) ありがとうございました
大丈夫ですか?
すごいですね
言葉が出ない
城戸さんのフェイスブックで 告知 見るまで
死刑囚が どんな絵を描くか 想像もしてなかったので
犯罪者が描く絵って 何ていうか…
言い訳みたいな感じかなって 漠然と思ってたんですけど
全然 違いました
“自分は無実だ”って 言いたいんじゃなくて
“そんな人間じゃないんだ”って 叫んでる感じ
(美涼)そういえば 城戸さん
ちょっと見てほしいものが あるんですけど
はい
これって…
(美涼)私が作ってみたんです
大祐に なりすまして 時々 投稿してるんです
大祐の趣味とか
どんなこと言いそうかとかは 分かってるから
それらしく書いて
本人が見たら 絶対 連絡してくるはずだから
おびき出そうってことですか?
(美涼)はい
バカみたいだって 私も思ってるんですけどね
何か役に立ちたくて
(中北)間もなく トークイベント 始まりますので
ご観覧の方 お座りくださーい
(城戸)始まるみたいです (美涼)はい
(スタッフ)空いてる席 どうぞ
(中北)べっぴんさんやなぁ
でも デートが死刑囚の絵画展て どうなん?
(城戸)向こうが 見たいって連絡してきたんだよ
…だし デートじゃないし
何だよ
(中北)心配すな 俺は“口 堅い”で有名や
試しに触ってみる?
(城戸)バカ
決して 人間は
あの…“変わり得ない” というふうな考え方に立てば
死刑を認める
しかし私たちは そうではなくて
“人間は変わり得る” という立場に立っているので
このような形で 「死刑囚の表現展」というのも
何年も積み重ねてきているわけです
犯罪を犯した者が 人間として変わることが
あり得ない できない ということを強調して
国家は死刑を 執行してしまうわけです
しかし 人間の捉え方として
人間が仮に どんな罪を犯したとしても
その人間も また変わり得るんだと
そのことを…
(中北)“小林謙吉こばやしけんきち”?
こいつ 何 やらかしたん?
(城戸)ギャンブル依存症で 借金 作って
仕事先の工務店の社長の家に 強盗に入った
で… 社長夫婦と小6の息子を 刺殺しさつして 放火
一審で死刑が確定
(中北)まあ 誰が どう弁護しても そうなるわな
(城戸)2003年に死刑執行されてる
(中北)ん?
でも Xは宮崎で 木の下敷きになって死んだんやろ?
そもそも こいつ Xと年齢が親と子くらい合えへんし
そう 親と子ぐらい合わない
(中北)まさか…
いるんだよ 息子が
(中北)マジか…
名前は原はら 誠まこと
事件の後から 離婚した母親の姓を名乗ってる
前橋市まえばししの児童養護施設に いたっていうのと
あと プロボクサーとして 名前が残ってる
(中北)はあ
ほな こいつは誰やねん?
この“曾根崎”いうんは
まあ しかし もしXが その死刑囚の息子やったとしたら
やっぱり 何か犯罪 犯して 逃げてたんかもしれんな
どうして?
“犯罪は遺伝する”とかっていうのは ちゃうんやろうけど
“家庭環境が その人の将来に 影響しやすい”いうんは
お前も 長年 弁護士やってんねんから
こう… 言わんでも分かるやろ
〔廊下に鳴り響く足音〕
〔近づく足音〕
(小見浦)ああー イケメンの先生 お久しぶりです
(城戸)元気そうですね
冗談 言いなや
かろうじて生きてるだけですわ
これ ありがとうございました
(小見浦)気に入りました?
私らぐらいの年になるとね
若い子のヌードは もう ダメなんですよ
先生 まだ若いから 分からんかなぁ
今日は原 誠さんという方について お聞きしたいんです
ご存じですよね?
さあ… どやろか
(城戸)彼も 小見浦おみうらさんが 仲介したんですか?
何をです?
(城戸)伊香保温泉の家族から逃げて 大阪にいた谷口大祐と
死刑囚の息子としての人生を歩んでいた 原 誠の戸籍交換です
まあ 何 言ゆうてたか知りませんけど 私は関係ないですよ
彼はプロボクサーだったそうですね
(小見浦)誰がですか?
〔ため息〕
分からないのは この 曾根崎 義彦という男なんです
ヘヘッ…
先生は何も分かってないんじゃ ないんですか? 結局
そうですか?
(小見浦)ヘヘッ アホ丸出しですねぇ
生きてて恥ずかしくないんですか?
(城戸)フッ…
先生は朝鮮人のくせに 私を見下してるでしょ?
私のこと ただの詐欺師や思うて 何を言ゆうても信じないんですよ
私を差別主義者や思いながら 自分のほうが差別してるんです
差別も何も
実際にあんたは 詐欺罪で服役してるじゃないか!
ハハハハハッ!
先生の 一番アホなとこ 教えてあげましょか?
私が“小見浦 憲男”っちゅう男やて どうして分かるんです?
私 そんなに “小見浦 憲男”っぽい顔してますか?
入れ墨の彫師かて 人に彫る前に まず自分に彫るでしょ?
私だけ どうして 戸籍 変えてないと思うんですか?
アホやなぁ
アホな先生に 最後に1つだけ 教えてあげますわ
〔雨の音〕
(小見浦の声)先生が熱心に 正体 知りたがってる男はな
つまらんヤツですよ
変な期待してるかしらんけど
人殺しの子なんて 所詮 そんなもんですよ
(誠)やっちゃーん! 野球 行こう!
〔戸が開く音〕
(誠)お父さん?
(謙吉)おう 誠
ほら
これで何でも 好きなもん買え
ん? ほら
〔謙吉のせき込み〕
(小菅こすげ)下がんな 下がんな ヤマ 下がんなって!
(柳沢やなぎさわ)おー いいね いいね
いいよ ゲンちゃん いいよ
いいよ いいよ 手 出して 手 出して
おー そうだ いいじゃん ナイス ナイス
ゲンちゃん いいよ それそれ それそれ
いいパンチ いいパンチ
そうそう そうそう 足 使って 足 使って
あー いいね 柔らかく 柔らかく
会長!
会長!
あ?
(小菅)誠が来たのは 2001年の春ですよ
(柳沢)初めの印象は なんか気味悪かったですよ
暗いっていうか 怖いっていうか
正直 苦手でしたね
(城戸)彼は どうして ボクシングを始めたんですかね?
(小菅)最初は なんとなくだったみたいですよ
よーく 入り口のガラス越しに見てて
そのうち ふらーっと入ってきて…
で… 芽が出たと
ボクシングのことは 何にも知らなかったんですけど
運動神経も良くて 覚えは早かったですよ
〔パンチが当たる音〕
(対戦相手)うっ…
〔対戦相手の荒い息〕
(審判)ダウン!
(柳沢)おっし!
(小菅)強いな
(審判)はい リング 大きく使って シャドーしろ シャドー
(柳沢)誠! 誠!
おい 誠! シャドー シャドー!
シャドー シャドー!
〔電車の通過音〕
〔鍵を開ける音〕
(柳沢の声)リングネーム?
(誠)偉そうですかね?
(柳沢)まあ いいんじゃねえの?
おお プロデビュー戦も 決まったんだしさ
なんかド派手なの 付けようよ
いや あんまり目立たないやつ…
なんで?
(誠)“オガタ”とか どうすか?
俺 緒形おがた 拳けん 好きなんですけど
“オガタ”
ああ… “オガタ”ねぇ
ああ そっか…
あっ 茜あかねちゃん オガタって どう思う?
こいつのリングネーム
(茜)オガタ… (柳沢)おお
じゃ “カツトシ”は?
“勝利しょうり”って書いて“カツトシ”
(柳沢)それは ちょっと どうだろうな
(茜)なんで? (柳沢)いまいちじゃね?
いや いいじゃん かっこよくない?
(柳沢)今の いまいちだね (茜)いや かっこいいって
(柳沢)なあ?
いや… いいっすね
(柳沢)いいのかよ!
ほら
“緒方おがた勝利かつとし”
(柳沢)いや お前 それ… それ リングネームにする意味あるか?
(茜)だって 縁起もいいし
いや 縁起って 茜ちゃんさぁ いや…
これ でも もし勝ったらさ “緒方勝利しょうり 勝利しょうり”になっちゃわない?
(茜)うん 確かに フフッ…
(茜)いや かっこいいって (柳沢)考え直せ 考え直せ
(茜)いや 逆にかっこいいって
(柳沢)かっこ悪い かっこ悪い
〔声援〕
〔ゴング〕
〔拍手と声援〕
(小菅)効いてる 効いてる!
(柳沢)いいよ いいよ マウスピース マウスピース よし
OK OK いいぞ いいぞ
全然 大丈夫 全然 大丈夫だよ お前
バッティングだけ気をつけろよ なっ?
ほらほら マウスピース はい
決めてこいよ
(柳沢)決めてこいよ (小菅)決めてこい!
〔ゴング〕
〔声援〕
(誠)うっ! ああっ!
〔ゴング〕
(小菅)よし! よーし よしよし!
(柳沢)よーし! よくやった やった やったな!
緒方勝利しょうり 勝利しょうり!
(小菅)よし! よし! よし!
よし やった!
〔拍手と歓声〕
(小菅)そりゃ 楽しみだよ
でもね 拳こぶしのほうが心配なんだよ
(記者A)えっ 拳? (小菅)だって パンチが強いからさ
〔記者Aの笑い声〕
(記者B)最後 カウンターは 狙ったんですか?
(誠)フックに ストレート 合わせるのは
会長の作戦どおりだったんで
(記者B)ナイスフックでしたもん (記者C)いや すごかったっすね
次は新人王決定戦ですけど どんな心境ですか?
会長とかジムのみんなが 喜んでくれたら
それが 一番うれしいです
(記者B)あっ あと1つ…
すいません もう ぼちぼち いいっすか?
(記者B)ああ…
(記者C)ありがとうございました (柳沢)お疲れした
(記者B)次も期待してますから
(記者C)また
(小菅)終わったの? (記者C)はい
(小菅)ちょっと行こう
(男性) やっぱ親父の血 継いでんだな
〔ドアが開く音〕
(城戸の声)ご存じでしたか? 原 誠さんのお父さんのこと
まあ びっくりはしましたけど
親は親 子は子だし ねっ?
(柳沢)分かったのは 誠が新人王決定戦 出る前で
あいつ“辞退したい”って 言ったんですね
うん 俺も相談されて
それで“なんでだ?”って 会長が聞いたんです
そしたら 親父さんのこと 話し始めて
(柳沢)めちゃめちゃ うまい (茜)柳沢さん 早く!
そんな明るい場所に 俺 立ってもいいのかなって
(小菅)それは お前
お前の純粋な実力で 勝ち取ったんだろ
正直 勝ち負けとかは どうでもいいんです
俺がボクシング始めたの 自分を殴るためだから
朝 起きて 鏡 見るじゃないですか
したらね
そこに親父いるんですよ
俺 そっくりなんです
自分の体に 親父いるって思うと…
体 かきむしって はぎ取りたくなる
だから—
俺 ボクシングで この体 いじめてるんです
この体…
もう… それだけなんです
じゃあ お前 あれか?
自分が苦しんだら 殺された人が生き返るのか?
生き返るのかって 聞いてんだよ!
じゃあ 俺が殴ってやるよ
ほら! ほら! ほら!
(柳沢)会長! (小菅)ほれ!
(柳沢)会長! どうしたんですか? 会長!
(小菅)お前な!
新人王になりたくて なりたくて たまらないヤツのこと
考えたこと あんのか?
会長さぁ お前の強さ 買ってんだよ
すいません
(柳沢)今のお前の家族はさ 俺たちだろ?
〔誠の荒い息〕
ハァ ハァ ハァ…
フッ! ハァ ハァ…
(電話の声)本日8時15分
小林謙吉さんの死刑が 執行されました
ご遺体をお引き取りになりたいか 唯一の親族である ご子息の…
(誠の声)結構です
父の物は何一つ 引き取るつもりは ありません
今後 このことで 連絡してほしくもありません
〔誠の荒い息〕
〔誠の荒い息〕
(柳沢)おい どうした?
〔誠の荒い息〕
〔むせび泣き〕
(柳沢)その後 すぐに あいつ 事故 起こしたんです
事故?
(柳沢の声)ビルから落ちたんです 駅前のモールの
まあ 本人は“うっかりしてて”とか 言ってましたけど
うっかり落ちないでしょ
会長さんは?
(柳沢)会長もショックでね
今はもう すっかり元気ですけど
ずいぶん長いこと 鬱うつだったんですよ
さっき 席 外したでしょ?
しんどいんですよ 思い出すと 多分
(柳沢)あの…
一つ いいですか?
(城戸)はい
自殺ですか? 誠の最期
僕が把握してる限りでは 違うはずです
よかった
ボクシングは やってなかったんですかね? あいつ
(城戸)やってなかったみたいですね
(柳沢)あいつと 今 話したいこと いっぱいありますよ
(テレビ:ナレーション) 特定の人種 民族に対する偏見や差別
今 激しい憎悪が 社会に拡散し続けています
(デモ隊)ドブねずみ! ゴキブリ! 蛆虫うじむし!
不正受給を許すな!
(颯太)バキュン バキュン バキュン バキュン バババーン!
颯太 ちょっとうるさいよ
(香織)ただいま
(颯太)バッキューン!
〔テレビの音声〕
(颯太)バッキューン!
〔ドアが閉まる音〕
バッキューン!
ドッカーン!
ドッカーン!
ドッカーン!
(城戸)あっ!
ああ もう…
何やってるんだ!
〔ドアが開く音〕
(香織)何? どうしたの?
〔泣き声〕
(香織)どうしたの?
行こう
〔ため息〕
〔ドアが閉まる音〕
(城戸)ごめん
(香織)最近 なんか別の人みたい
囚とらわれ過ぎじゃない? 人捜し
そういうの あんまり 家庭に持ち込まないでほしいな
その人の人生が あなたの何だっていうの?
(城戸)分からない
ただ なんか気が紛れるんだよ なぜか
他人の人生を追いかけてると
死刑囚の 一人息子よ
私には理解ができない
(城戸)自分でも分からない
ハァ… 現実逃避かな?
(香織)悪趣味ね (城戸)そう?
私のせい?
私から逃げたいの?
(城戸)フッ… まさか
とにかく早く終わらせて いつもの あなたに戻って
〔ドアの開閉音〕
(城戸の声)すいません お忙しいところ (恭一の声)いいえ
(城戸)じゃあ どうぞ
(恭一)お久しぶりです
(里枝)“はら まこと”
結論から言うと あなたの夫だった方は
何の罪も犯していない 善良な人間です
(恭一)人の戸籍 無理矢理 奪っといて 何の罪もない?
どうせ うちの遺産 目当てだろ?
大体 なんで よりによって 死刑囚の息子なんかと…
〔恭一の舌打ち〕
弟さんも 同じだったんじゃないですか?
せっかく この世界に生まれてきたのに
“こんな人生は嫌だ”
“どんな境遇でもいいから—”
“今の自分を捨てて 新しい自分になりたい”
谷口さんも そう思ってたんじゃないですか?
(恭一)フッ…
“新しい自分”って…
名前 変えようが何しようが
死刑囚の息子は 死刑囚の息子でしょ
〔たたきつける音〕
2度目の人生を
原さんは 精一杯 生きようとしたはずです
こうまでしないと 生き直せない人がいるんです
(恭一)大祐も もう生きてないかもな
おかえり
〔電気をつける音〕
(悠人)ただいま
何?
悠人も だんだん
お母さんにも分からないようなこと 考えるようになるんだね
苗字ね…
苗字 やっぱり “武本”に戻さなきゃいけないみたい
ごめんね
本物の谷口さんに ご迷惑かけるわけにもいかないし
(悠人)僕さぁ
(里枝)ん?
父さんが死んで 悲しいっていうのはさ
もう ないんだよね
(里枝)うん
(悠人)けど なんか…
寂しいね
父さんに聞いてもらいたいこと 毎日いっぱい あるのは…
そうだね
悠人 お父さんのこと 好きだったもんね
〔すすり泣き〕
(里枝)好きだったもんね
(里枝)ごめんね
〔悠人のすすり泣き〕
〔テレビの音声〕
フッ…
〔ため息〕
(美涼)“あなたに警告します”
“ただちに このなりすましの 偽アカウントを削除して下さい”
“Sonezakiソネザキ”?
ずんだもち 食べる?
仙台せんだい 出張やってん
あっ お茶…
本物の谷口大祐が見つかったよ
で… メッセンジャー経由で
なりすましアカウントに 曾根崎から連絡が入ったと
小見浦は本当のことを 教えてくれてたんだ
(中北)ほんまのこと?
原 誠は2回 名前を変えてた
原 誠は まず 曾根崎 義彦の戸籍を手に入れて
その後に谷口大祐と また 名前を交換した
(中北)ふんふん ふんふん
で… こいつが 谷口大祐として宮崎に現れた
過去が消せないなら 分からなくなるまで 上から書くんだ
で? こいつは今 どこにおんねん?
〔自動ドアの開閉音〕
大祐…
〔たたく音〕 バカだなぁ
ううっ…
〔車の走行音〕
〔鳥のさえずり〕
(里枝の声)本当に ありがとうございました
原 誠さんにとって 里枝さんと過ごした3年9か月は
人生のすべてだったような気がします
短い時間かもしれませんが 彼は本当に幸せだったと思います
そうですね
こうやって 分かってみるとですけど
本当のことを知る必要は なかったのかもしれないって
思えてきました
だって この町で彼と出会って 好きになって
一緒になって
花が生まれて…
〔絵を描く音〕
それは はっきりとした事実ですから
〔戸の開閉音〕
読んだ?
うん
大丈夫?
(悠人)父さんが どうして あんなに優しかったのか分かった
どうして?
自分が父親にしてほしかったことを 僕にしてたんだと思う
そうだね
でも それだけじゃなくて
やっぱり 悠人のこと 好きだったからだよ
花ちゃんには言うの?
どう思う?
僕が話すよ
いつか 僕が 花ちゃんに教えてあげる
どんなお父さんだったか
(城戸)レイ 全然 エサ 食べないねぇ
パパ 違うよ
その子はロア レイは こっち
えっ!
あれがレイじゃなかったっけ?
(颯太)本物のレイは これです
え〜? そうだったっけ?
ねえ 忘れん坊すぎて 忘れちゃってんじゃん
そうか
〔ドアが開く音〕 (香織)ただいま
(颯太)ママ おかえりー! (城戸)おかえり
(香織)ただいま
飲み会 長引いちゃった
(城戸)お風呂 まだあったかいよ
(香織)ありがと
颯太 今日 何やってたの?
(颯太)あれ ぜーんぶ パパが倒しちゃったの
(香織)パパ 壊したの? 大変だぁ
(颯太)ほんとは あの車で 倒しちゃったんだよ
それで “あんなに弱いんだ”と思って
それで バラバラバラって…
(香織)フフフッ じゃ あとで二人で片付けようか
うん じゃあ 寝る準備しよ
はい いってらっしゃい
どしたの?
いや…
え?
人捜しの件ね 終わったよ
そう
よかったわね
(城戸)うん
あっ そうだ 戸建ての件 お父さんに断っといた
“手狭になったら その時に考える”って
〔ドアが閉まる音〕
(颯太)わあ やめてよ 冷たいよ
(香織)こっちも飲む? おいしいよ (城戸)いい?
(香織)おいしい! (城戸)おいしいよね これも
(颯太)ママ ゲームやる
ゲーム? 何だっけ?
(颯太)レーサー! (香織)レーサー?
(香織)じゃあ やってもいいけど ご飯 来たら 絶対にやめてね
(颯太)負けたよ…
(香織)お手洗い 行ってくるね (城戸)うん
(颯太)よし よし よし…
ハァ…
(颯太)しまった! 車! やったー!
あっ…
パパ 変な画面になっちゃった
えっ?
あー どっか触っちゃったんだな これ
えーっと…
〔スマホの通知音〕
(颯太)ママ 来ない
〔スマホを置く音〕
(店員)お待たせいたしました お子様ランチになりまーす
(香織)あっ 料理 来たね (城戸)うん
(城戸)はい (香織)ありがとう
(香織)わあ すごい! お子様ランチ 豪華だね
(颯太)豪華ではないよ (香織)豪華だよ
(香織)いいよ 食べて
(バーテンダー)どうぞ
(客)樹齢は どのくらいなんですか?
(男)大体 50年くらいで 切ってしまうみたいですね
(客)へえ〜
(男)で… 家とかの材料になってから また50年 持つんだそうです
山で50年 人間と一緒に あと50年
(客)なるほどねぇ
…っていうことは
自分で植えたものは 切れないんですね
(男)なんか “いい話だなぁ”と思って
(客)受け継がれていく感じが?
(男)そうそう “親が植えて 息子が切る”みたいな
(客)ああ お子さん?
(男)はい
(客)もう大きいんですか?
(男)4歳
…と 13歳です
(客)2人
“県外から”って言ってましたけど
はい
もともとは群馬なんですよ
あの… 伊香保温泉って
(客)ああ はい あの… 有名なとこ
実家が旅館やってて
(客)へえ〜
でも 実家は兄が継いだんで 僕は出たんですけど
僕だったら 離れないなぁ
だって毎日 温泉に入れるでしょ? ハハハハッ
まあ もともと家族とも 仲が悪かったしね
それで 今の奥さんとも出会えたし
好きに生きるのが 一番ですよね
自分の人生は 自分だけのものですから
そうですねぇ
この人生は もう手放したくないですね
あっ 僕 そろそろ…
マスター お会計 お願いします
(バーテンダー)はい
(客)なんか 初対面なのに こんな長々と…
いや ほんと楽しかったです
あっ 名刺だけでも…
(客)鈴木すずきといいます
あ… すいません 僕 名刺 切らしてて
(客)いや 全然
僕は…
〔くさびを打つ音〕
♪〜
〜♪
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