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♪~
(マスター)1日が終わり 人々が家路へと急ぐころ―
俺の1日は始まる
営業時間は 夜12時から 朝7時ごろまで
人は“深夜食堂”って言ってるよ
客が来るかって?
それが 結構 来るんだよ
(マスター) 煮物を多めに作った日は―
時々 火にかけて においを店に漂わせる
(においを嗅ぐ音)
(けい)里芋とイカの煮物?
(マスター)当たり さすが里見(さとみ)さん 鼻が利くね
それ ください (忠(ちゅう)さん)あっ… 俺も
(マスター)あいよ
(マスター)これも商売さ
(けい)うーん…
マスター おいしい!
(マスター) フフッ そりゃ よかった
(忠さん)なんつうか この組み合わせがいいんだよな
遠慮しなくていいのよ
(佐々木(ささき))いや どうも食べる気 起きなくて…
あんた やっぱり向いてないのよ
(マスター)新人さんかい?
研修中なの 佐々木君
正直 僕…
こんなに浮気や不倫が多いなんて 思いませんでした
本能でしょ 人間の
それを結婚なんていうきれい事で 縛りつけようとするから―
面倒なことになんのよ
(忠さん) あんたら 何の商売やってんの?
興信所です 浮気調査とかそういう
(忠さん)あっ 探偵さんかい どうりで鼻が利くわけだな
(佐々木)だけど―
里見さんは どうして この仕事しようと思ったんですか?
そんなの ちょうし1本ぐらいじゃ 話せないわよ
マスター お酒どんどん
(マスター) うちは3本までだよ
お酒強くないって言ってたけど ここまでとはね
(忠さん)情けねぇなあ
(けい)彼 一流大学 出て―
ちゃんとしたとこ 勤めてたらしいんだけど―
何か急に 会社行くの 怖くなったんだって
どうして?
人間関係で うまくいかなかった とかって言ってたけど―
よりによって―
人の裏側見るような仕事に 転職しようなんてねぇ…
佐々木君 起きな 帰るよ
(けい)大丈夫?
(佐々木)大丈夫 大丈夫っす
(けい)乗ります
(忠さん) 男前の女ってのは ああいう女だね
けど あんちゃんのほうは…
あれじゃあ 相手にならねぇな ハハハッ…
(マスター) それでも分からないのが 男と女さ
(忠さん) 宝くじなんて俺 買ったことねぇな
(金本)夢を買うんですよ ねぇ?
あんなもん タヌキだろ
(小道(こみち))タヌキ?
空くじばっかだってんだ
ほら タカラクジからタを抜いて
ああ それでカラクジね
もう 忠さんのギャグ ややこしくて笑えないよ
お前の教養が足りないんだよ ヘヘヘッ
こんばんは (マスター)いらっしゃい
あっ… どうも (忠さん)おう
マスター ビールお願いします
この前 話した“男前の女”
(マスター)あいよ
この前の彼 大丈夫? 随分 酔ってたけど
びっくりした 佐々木君 童貞だったわ
(忠さん)えっ?
ねえさん やっちゃったの?
(けい)まあ ちょっとね
だけど 初めてとはねぇ…
仕事にも来なくなっちゃったし メールの返信もないし―
悪いことしちゃったかな
いいのか悪いのか…
(けい)ここにも来てません?
いや…
(けい)一応 メールで 待ち合わせたんだけど
佐々木君…
メール見てくれた?
(佐々木)里見さん
あの…
僕と…
結婚前提に つきあってくれませんか?
(忠さん)えっ?
(けい) えっ… なんで 私が―
佐々木君と 結婚しなくちゃなんないの?
だって あの晩…
あんた バカじゃないの 1回寝たぐらいで
里見さん 俺のこと好きじゃないんですか?
好きじゃないのに あんなことできるんですか?
何 女みたいなこと言ってんのよ
そもそも 私 結婚する気ないから
気持ちってね そんな簡単なもんじゃないのよ
(忠さん)なっ 男前だろ?
(小道)男前過ぎますよ!
(金本)ああいう女はね―
体はすぐに開いても 心は なかなか開かないんすよ
(忠さん)ふーん
昔 ある所に―
人を疑ったことのない 純粋な娘がいました
娘には すてきな婚約者がいました
ある日 娘は街で偶然―
婚約者が タクシーに乗り込むのを見て―
つい いたずら心から―
そのタクシーを 尾行してみようと思いました
娘は 刑事ドラマが大好きだったから
それで…
どうなったんですか?
娘は―
婚約者の浮気現場を見てしまうの
それから娘は―
毎日のように 婚約者を尾行するようになって―
そのうち 尾行そのものにハマっちゃって―
興信所に勤めることになったとさ
その―
婚約者とは?
(けい)浮気の証拠 ファイルにまとめて―
慰謝料請求して 婚約解消したわ
佐々木君
はい
(けい)人間はね 強くなんないと生きてけないの
(社員)離婚専門の弁護士などの ご紹介もできますので―
今後のこと よく お考えになってください
(女性)ありがとうございます
(ドアの閉まる音)
(島田)はい 次の浮気調査―
人はなぜ 間違いを犯すのか
間違いも 突き通せば 正解になるって思いたいのよ
(島田)言うねえ
ねえ これ 佐々木君にやらせてみたら?
(島田)あいつに?
そっ 社員になるための卒業試験
あっ… カレイの煮つけ
残念 はい
(佐々木)惜しい カレー違いか
全然 違うだろ!
仕事のほうは どうだい
ええ しんどいけど なんとか
だけど里見さん あの日以来 なんだか冷たくて…
そうかい? こないだ 一人で来た時は―
なかなか頑張ってるって 佐々木君のこと褒めてたけどな
ホントですか?
俺 次の調査がうまくいけば―
正式に 調査員として 認められるんです
そしたら俺 もう1回―
里見さんに 告白しようと思ってるんです
ハァ… そうか 褒めてくれたかあ
マスター 熱かんください
大丈夫かい?
飲みたいんです
(吉野(よしの))じゃあ お疲れ (男性)お疲れっす
(足音)
(吉野)吉野です
(マスター)いらっしゃい (けい)こんばんは
待った?
いえ
ありがと
(けい)うん よく調べたわね
私の元婚約者なの この人
おととし偶然 10年ぶりに会って…
人生 分かんないわよね
浮気されて別れたのに 今度は私のほうが…
ねっ…
悪いと思わないんですか 奥さんや子供に
全然
じゃあ 何のためにあるんですか?
僕らの仕事って
本当のことを知りたいっていうのも 人間の本能なんじゃない?
俺 里見さんが…
分かりません
裏切られるより 裏切るほうのが 楽だってことに気づいたのよ―
この10年で
このこと 報告したら―
里見さん どうなるか分かってるんですか?
もちろん
いいんですか? (けい)いいわ
最後にひとつだけ―
聞かせてください
どうして 僕はだめで―
この男ならいいんですか?
里芋とイカみたいなもんかな
相性がいいのよ なんだかね
失礼します
いいわよ
いいのかい?
(けい)軽蔑した?
強くならなきゃ 生きてこれなかったんだろう?
(佐々木)これが写真です
(マスター)佐々木君 約束どおり 報告書を提出したらしい
(吉野の妻の泣き声)
(マスター)里見さん やっぱり 興信所をクビになったそうだ
それから しばらくたって…
(吉野)フッ…
(佐々木)データを整理してた時 気づいたんです
あいつ 尾行されてること 気づいてましたよ
妻に知られるのは 時間の問題だったんです
興信所に頼らなくても
相当 疑ってたし―
俺もどっかで バレてもいいやって ハハッ
離婚して―
けいと一緒になれたらって 本気で思ったこともあったけど
里見さん どうして尾行されてるの分かってて
あの晩 ホテルで―
あいつ 初めて泣いて… こう言ったんです
“昔の自分を 裏切ってしまった”って
あいつなりに けじめをつけたんだと思います
俺とのことも あなたとのことも…
自分が悪者になって
僕に わざと見せたんだ
いい女でした
俺より よっぽど男らしい
おごるよ 就職祝い
女って―
よく分からないです
まあな
でも―
男にしてもらったなって思います
そうか
俺―
里見さん 必ず見つけ出しますから
何か食べるかい?
(においを嗅ぐ音)
里芋と…
イカの煮物?
鼻 少しは利くようになってきたな
(男の子1)ほら ダイゴ 行くぞ!
(男の子2)あっ… 分かったよ
(男の子たち)うわっ すっげー
ハァ ハァ ハァ…
(男の子たち)うわっ!
(男の子たち)すっげー
(男の子2)最高!
(けい)ハァ ハァ ハァ…
(けい) イカは最初 軽く煮て取り出し―
仕上がる前に もう一度 入れて煮ると―
固くならず 柔らかくなります
ちなみに里芋は お湯ではなく―
調味料の入った汁で煮ると ぬめりが気にならなくなります
(マスター)おまちどお
(においを嗅ぐ音)
どこかで女の匂いがする (物の落ちる音)
♪~
~♪
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