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(カイ)ショパンは―
広い… 果てしなく広い 平地で育った
ゆうべから ずっと頭の中でこだましている
もっと大きく―
もっと ずっと果てしなく 大きな森に…
(カイ)あ…
(カイ)もっと ずっと遠くまで…
(レフ)今日は1人なんだね
あ…
レフ
♪~
~♪
(レフ)昨日は 雨宮(あまみや)と一緒だったから
声をかけなかったけど―
2人は仲直りできたんだ
(カイ)見てたの? はあ…
ホントにレフは 森の主みたいだな
どこにでも出没する
(レフ)へへ…
(カイ)それより リハーサル行かなくていいの?
俺の前だから10時だよね?
朝 具合が悪いって 連絡したら
もうパン・ウェイが 来てるからって
リハの時間が交代になったんだ
(カイ)そうか パン もう来てるんだ
で? 具合はよくなったの?
治るも何もウソだからね フッ
ん…
レフのウソの意味が分からないよ 何の得もないだろ?
得はあるよ 僕が平和でいられる
そこでエミリアは死んだんだ
えっ… そこって?
今 カイが足をかけている所
えっ? あ…
(レフ)僕が殺したんだ
(カイ)はっ
う… ウソだな それも 何ていうウソをつくんだ
ははは ビビッた?
そうさ ウソに決まってる エミリアは生きているし
カイはバカなの? いちいち驚くなよ
俺 レフとは ケンカをする気はないし
もう行かないと
今日はお互い 気持ちよくピアノを弾こう
カイが棄権してくれたら 僕は気持ちよく弾けるよ
カイが出なければ 僕は優勝だからね
パンなんて問題じゃない
あの記事 読んだ? “パン・ウェイの真実”
しょせんは下品な男に拾われた 汚い貧乏孤児だろ?
しかも よりによって―
聞いたこともないピアノ不能者の マネが基本になってるなんて―
手がつけられないよ
(カイ)よくも阿字野(あじの)のことを…
はっ…
あっ 雨宮…
(修平(しゅうへい))カイ君 行こう (カイ)お… おう…
(修平)ったく 何をやってるのかと思えば…
ありがとう 助かったよ
(修平)そうだ 驚くなよ カイ君
何?
パンが選曲を 2番から1番に変えた
えっ ホントに?
ああ 優勝をモノにするためだよ
本気で取りに来てるということだ
(オレーシャ)あら アレグラ!
(アレグラ)ハーイ
(オレーシャ)わあ~ かわいい!
(オーブリー)あなたの子供なの?
(アレグラ)そうよ
ん…
これは今 捨てるところなのよ
(ハント)えっ
なあ~! あ… え…
す… すごいよ アレグラ
あのピアノのたくましさは 母なるものだったんだね
ふふ… もう1人いるのよ
えっ お?
(一同)ええ~!
(チャンス) パンのヤツ ふざけやがって
(チャンウ) ちゃっかり間に合ったぜ
しかし 悲惨な生まれを よくも こんなにさらしたもんだよな
(チャンス)まさかヤツが―
これほど悲劇のヒーローに なりたいキャラだったとはな
ってか 危篤のおやじが こんなに長くしゃべれるのかよ
ウソくせえ (アレグラ)そうね
その記事は ホントうさんくさいわ (2人)おおっ
大体 子供を嫌いだからって 死ぬ母親がいると思う?
逆よ
愛する我が子を守るためには
共に死ぬしかないって考えたのよ パンの母親は
で… でも グラナドス姉さん
あのね 母親は本能だけでも 我が子を守ろうとするものなのよ
たとえ神に逆らってもね
(2人)あ…
お子ちゃまには まだ分からないか
まあ どっちにしても よかったじゃない
パン・ウェイが生きてて
おかげでパンのピアノが 聴けるんだから
さっ 急ぎましょ
(チャンス・チャンウ)ああ…
あああ…
(パン)くだらん
(パン) 今となっては どうでもいい
誰にどう思われようと
いや… ただ1人 阿字野壮介(そうすけ)…
阿字野先生のことだけが…
あの記事は 先生を傷つけてはいないか
俺の存在を いまいましく思ってないか
あんな記事が出てしまっては もう先生の前には出られない
それとも まだ読んでいない?
いや きっと先生も…
だったら俺は 一ノ瀬(いちのせ)を 徹底的に倒すしかない
あなたのピアノは優れているのだと 俺が この手で証明しよう
そうすれば俺は 先生の前に立てるのではないか
俺の唯一の先生である あなたに…
はっ
あっ…
(パン)俺はまだ… 一ノ瀬を倒すピアノを弾いていない
先生
俺はあなたのピアノに 出会うまで―
“バクダン”と呼ばれ ゴミのように生きてきました
先生の音だけを必死に追い求め つかもうとした
それは地獄に下りてきた 一筋のクモの糸…
先生! 先生!
その糸が… その糸が… 切れてしまう!
(パン)先生!
(阿字野)ん…
阿字野… 先生
(阿字野)パン・ウェイ君と 呼んでもいいのかな
私に何か?
ぼ… 僕のピアノは 先生を 不愉快にはしませんでしたか?
え? まさか どうして そんなことを?
あの見事なピアノを聴いて 不愉快になる人間がいるとでも?
僕のピアノは 先生のピアノを元にしています
先生のピアノに出会わなければ 僕は生きてはいなかった
それが本当なら 光栄に思います
(パン)やはり先生は あの記事を読んでいる
では この先も
このまま僕がピアノを弾くことを 許可してくれますか?
(阿字野)許可?
先生のピアノを 継承していくことです
(阿字野)もしかしたら―
君が私のピアノに引かれたのは―
もともと生まれながらにして 君の求める音と―
私の求める音が 共通していたのかもしれない
あ…
だから君の魂が
私のピアノに強く反応した… とは考えられないか?
(パン)はっ
私は残念ながら それを追求する道を
途中で挫折してしまったが 君は その先に行けるんだよ
それでも私の許可が必要かい?
で… でも僕は 世界で ただ1人の
あなたのピアノを継承する者だと ずっと信じて ここまで―
誇りを持ってやってきたのです
(パン)どうか 突き放さないで 命綱を切らないで
俺は確かにあなたを追って ここまで来たのだから…
だからこそ認めてもらいたいのだ
だからこそ あなたに 褒めてもらいたいのだ
俺はガキか!
(阿字野)では 君の最高の1番を 聴かせてくれないか?
はっ…
気負うことなく
ピアニスト パン・ウェイの ベストなピアノを弾いてほしい
(パン)でも それが一ノ瀬を たたきのめすことになっても
それでも先生はかまわないと?
ははは… かまわないよ 徹底的にやってくれ
(パン)はっ
(阿字野)パン・ウェイ君 私は君の この先が見たい
私が求めていた音は
この先 どう成長するのか 見てみたい
だから もう何も恐れないで 思うがままに 存分に
(パン) 差し出された その手は―
大きく 温かく 俺を丸ごと包み込む
先生
(パン)俺はもう何も恐れない
俺の唯一の先生が そう言ったから
足が軽い! 体じゅうに力があふれてくる
同じ風景なのに―
目に入るもの全てが 輝いて見える!
(拍手と歓声)
(コン) 結局 パンは2番手で登場か
ラストを飾らせたかったが…
(部下)でも このムード…
会場中がパン・ウェイの出番を 待ちかねています
ハオの策は なかなかうまく はまってくれたのでは?
はっ 危篤だって筋書きなら 本当に死んでくれんかな
(司会者)〈ファイナル最終日〉
〈2人目の演奏者は ナンバー48 ウェイ・パン 中国!〉
〈ピアノはスタインウェイ〉
〈曲目は ピアノ協奏曲第1番 ホ短調 作品11〉
〈第1楽章 アレグロ・マエストーソ〉
〈第2楽章 “ロマンス”ラルゲット〉
〈第3楽章 “ロンド”ヴィヴァーチェ〉
〈ウェイ・パン 中国!〉
(パン)こんな感じは初めてだ
俺は今 全てに感謝している
(歓声)
(歓声)
この空気… この場に立てること…
あのゴシップ記事にも感謝する
ハオ あのゴミのような俺を 見つけてくれてありがとう
ピアノを与えてくれて 阿字野先生に会わせてくれて―
ありがとう
愛情は持てないが 心から感謝する
(オーケストラの演奏)
(パン・ハオ) そろそろウェイの演奏が 始まる頃じゃないか?
あははは… 何も心配いらんよ
ウェイは優勝する 絶対にな
(パン)何度も聴いているのに 初めて気がついた
何て美しい曲なんだ
♪~
♪~
ハオ! ハオ!
♪~
♪~
このピアノが聞こえるか ハオ!
このピアノが聞こえるか ハオ!
心から… 感謝する
(修平)えっ 変化した
(佐賀(さが))あれ… この優しい歌い回しは…
(パン)どうしたんだろう 何かが違う
自分がうまくコントロール できていないのか?
でも… 不快じゃない これは何だろう
(洋一郎(よういちろう))パンが温かいピアノまで 手に入れたとしたら―
これほど怖いピアニストは いないだろう
彼の弱点は そこだけだったと 言えるのだから
(修平)パン・ウェイは さらに進化し続ける
カイ君 もうパンのピアノには 誰も太刀打ちできないよ
(パン)ああ… 歌が… 歌が…
次から次へと 湧き出てくる!
作品に宿る魂と 一体化したように…
こんなことがあるなんて
ずっとピアノは支配するものだと 思っていたのに
支配から解き放てば ピアノは勝手に歌ってくれるのか
それとも自分が歌っているのか? 先生!
俺は第2楽章をクールに響かせ―
愛の不毛を 連想させようとしていたのに
なのに出てくる音は 愛に… 愛にあふれているのは なぜだ!
これでは ショパンの 望んだとおりではないか
先生! 俺の中には これほどの 愛があったというのか!
先生… 俺は魔法をかけられたのか?
この音は俺が出すには 温かすぎる
(修平) 聴いてる? カイ君
きっとパン・ウェイは 優勝する
この1番を 世界中の誰も―
超えることは できないと思うから
でもきっと この場に立ち会えたことは―
生涯の宝になると思うんだ
僕にも カイ君にも…
(パン)ん… 今のパッセージ ちょっとカスッたかな?
まあいい 音は生きているのだから
そうだ 俺も生きている
生きて ピアノを弾いている
ピアノを弾くことが こんなにも楽しく―
幸せなことだったなんて
(佐賀)パンが笑顔で弾いてる…
(パン)今日から俺は ピアノを弾くために生きられる
俺を生んだ女… いや 母親にも感謝したい
あなたの生涯は とても不幸だったのかもしれない
でも俺は あなたが生きた証しに きっとなるよ
俺を この世に残したことを いつかきっと誇れるような―
そんなピアニストになることを―
あなたに誓う!
~♪
(大歓声)
(パン)母さん 俺に生を授けてくれて―
ありがとう
(医師)ハオさん この歓声が聞こえますか ハオさん
(向井(むかい))混雑する前に 控え室に戻ったほうがいいよ
誰かに捕まったら面倒だし
(コン)それで死んだのか?
バカ! 死ぬまで見届けろ!
と… とにかく息の根が止まるまで 見届けてから連絡してこい
相手は並の人間じゃないんだぞ
(アルベルト) もうこれは決まりでしょうね
(クリスティナ)分からないですよ まだ2人残ってますからね
(アルベルト)そうでした ラストにポーランドの新星
レフ・シマノフスキが 控えてましたね
(クリスティナ)今の演奏で ウェベルは審査に悩みそうね
(向井)気をつけてよ 一ノ瀬君 ここを抜ければ平気だから
(カイ)大丈夫ですよ 向井さん
(あおい)向井君! (向井)あっ 土井(どい)さん!
(あおい) はじめまして 土井あおいです
向井さんの… 彼女?
ええと… 土井さんは 親の仕事の関係で
中学の頃から ポーランド在住なんだよ
はい
今回のコンクール関係者にも 何かと知り合いがいて
そうなの! 特にエミリアとは…
ああ… レフ君のお姉さんとは ずっと仲がよくて
え… エミリアって レフのお姉さんなの?
えっ エミリアを知っているの?
かわいそうですよね
事故に遭って もう5年も 意識が戻らないなんて
はっ…
本当なら このコンクールだって エミリアが出ているはずなのに
あっ (あおい)ん?
あっ レフ君
(レフ)こいつら 今 エミリアの話を…
(カイ)俺だけじゃないんだ
みんな 大なり小なり 何かを抱えているんだ
(ドアの開閉音) (カイ)あっ
レフ…
♪~
~♪
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