All language subtitles for Hakkenden.2024.1080p.AMZN.WEB-DL.DDP5.1.H.264-MagicStar
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1
00:00:32,783 --> 00:00:35,202
(拍子木の音)
2
00:00:36,120 --> 00:00:38,748
(ハエが飛ぶ音)
3
00:00:39,457 --> 00:00:41,625
(近づく足音)
4
00:00:43,711 --> 00:00:46,589
(里見義実さとみよしざね)
籠城ろうじょうして ひと月となるか
5
00:00:46,714 --> 00:00:50,384
(金碗八郎かなまりはちろう) 皆 丸七日
何も食べておりませぬ
6
00:00:51,552 --> 00:00:54,597
(義実) これでは
討って出ることも叶かなわぬ
7
00:00:54,722 --> 00:00:57,016
もはや これまでか…
8
00:00:57,141 --> 00:01:00,478
(八郎) ええい
憎きは安西景連あんざいかげつら!
9
00:01:00,603 --> 00:01:06,108
三年前の大飢饉ききんの折には
五千俵もの支援をしたというに!
10
00:01:06,317 --> 00:01:08,235
(金碗大輔だいすけ)
こちらが飢饉に見舞われると
11
00:01:08,360 --> 00:01:09,653
大軍で攻め入るとは…
12
00:01:09,779 --> 00:01:13,199
(八郎) 殿の恩を 仇あだで返すとは!
13
00:01:13,324 --> 00:01:16,327
♪~
14
00:01:17,787 --> 00:01:20,790
~♪
15
00:01:20,915 --> 00:01:21,916
(犬の鳴き声)
16
00:01:24,001 --> 00:01:26,128
(義実) おお 八房やつふさ
17
00:01:26,253 --> 00:01:26,545
♪~
18
00:01:26,545 --> 00:01:29,089
♪~
お前も食べておらぬだろうに
19
00:01:29,507 --> 00:01:31,467
変わらず元気だのう
20
00:01:32,384 --> 00:01:34,553
ああ そうだ
21
00:01:36,305 --> 00:01:37,306
お前
22
00:01:38,265 --> 00:01:40,893
景連を
噛かみ殺してくれぬか?
23
00:01:42,228 --> 00:01:47,024
もし お前が見事
景連の首を取ってまいったら
24
00:01:47,358 --> 00:01:50,945
魚肉など いくらでも褒美は
くれてやるぞ
25
00:01:51,070 --> 00:01:53,739
(鳴き声)
26
00:01:53,864 --> 00:01:55,533
それでは足りぬか…
27
00:01:57,368 --> 00:01:58,577
ならば
28
00:02:00,704 --> 00:02:03,749
伏姫ふせひめを お前の花嫁にしてやろう
29
00:02:07,336 --> 00:02:09,088
(伏姫) およしなされませ
30
00:02:09,964 --> 00:02:12,383
八房は ただの犬ではありませぬ
31
00:02:12,842 --> 00:02:14,885
人の言葉を解しまする
32
00:02:15,719 --> 00:02:17,680
(義実) ハハハハハッ
33
00:02:18,639 --> 00:02:21,725
わしとしたことが とんだ戯ざれ言ごとを
34
00:02:23,102 --> 00:02:26,230
最後まで姫に叱られるとは
35
00:02:27,982 --> 00:02:31,652
不肖な父を許してくれ 伏姫
36
00:02:33,362 --> 00:02:36,782
(うなり声)
37
00:02:36,907 --> 00:02:37,908
(吠ほえ声)
38
00:02:39,201 --> 00:02:40,536
(伏姫) 八房!
39
00:02:41,120 --> 00:02:43,831
~♪
40
00:02:44,456 --> 00:02:47,334
♪~
41
00:02:47,543 --> 00:02:48,711
(義実) 何の騒ぎだ
42
00:02:48,836 --> 00:02:50,504
(八郎) 殿 ご覧ください
43
00:02:50,921 --> 00:02:54,008
安西軍が
四散しておりまするぞ!
44
00:02:54,341 --> 00:02:57,136
(家来たち) 止めろ
そっちだ そっちへ行った
45
00:02:58,095 --> 00:02:59,096
(大輔) 何事じゃ!
46
00:03:05,811 --> 00:03:07,563
景連…
47
00:03:11,150 --> 00:03:13,736
討て! 今こそ討って出よ!
48
00:03:13,861 --> 00:03:15,487
(八郎・大輔) おう!
49
00:03:15,613 --> 00:03:17,781
~♪
50
00:03:17,907 --> 00:03:21,660
(家来たち) えいえい おー!
51
00:03:21,785 --> 00:03:25,623
えいえい おー!
52
00:03:34,673 --> 00:03:37,343
(八郎) 色をもって 安西景連を操り
53
00:03:37,676 --> 00:03:42,306
己の快楽のために
民を虐しいたげたばかりか
54
00:03:42,431 --> 00:03:46,352
周辺諸国まで害を及ぼした
大妖婦だいようふめ
55
00:03:46,769 --> 00:03:48,646
ここで成敗してくれる!
56
00:03:49,730 --> 00:03:51,148
(玉梓たまずさ) 恐れながら
57
00:03:52,483 --> 00:03:55,486
♪~
楽しみを欲しいままにしたのは
私わたくしではありません
58
00:03:55,486 --> 00:03:56,737
楽しみを欲しいままにしたのは
私わたくしではありません
59
00:03:56,862 --> 00:03:58,948
景連殿でございます
60
00:04:00,616 --> 00:04:03,577
“女の苦楽は他人に因よる”
と申します
61
00:04:08,290 --> 00:04:11,669
景連殿に寵愛ちょうあいされたのが悪いと
おっしゃられても
62
00:04:12,336 --> 00:04:16,131
弱い女に
他に どんな道があるのでしょう
63
00:04:17,424 --> 00:04:18,467
ましてや
64
00:04:18,801 --> 00:04:21,971
私が お仕えした
先代の殿様を滅ぼしたのは
65
00:04:23,055 --> 00:04:27,059
金碗八郎様
あなた様の お弟子たちです
66
00:04:28,936 --> 00:04:30,145
それゆえ
67
00:04:30,521 --> 00:04:34,400
私は景連殿に
拾われたのでございます
68
00:04:36,360 --> 00:04:39,571
この女の言うことには
一理ある
69
00:04:41,115 --> 00:04:42,324
縄を解いてやれ
70
00:04:42,533 --> 00:04:43,534
(家来) はっ
71
00:04:44,076 --> 00:04:47,246
お慈悲をいただき
ありがとうございまする
72
00:04:47,913 --> 00:04:48,914
(八郎) いや 待て!
73
00:04:50,165 --> 00:04:54,712
うぬが そんな
哀れな女でないことは
74
00:04:55,004 --> 00:04:58,882
わしが この目で見て
よう知っておる
75
00:04:59,758 --> 00:05:01,677
(大輔) 父上の言うとおりじゃ
76
00:05:01,927 --> 00:05:05,389
うぬが 景連と並ぶ
大悪党であることは
77
00:05:05,514 --> 00:05:09,101
安西の領民ならば
皆が知っておること
78
00:05:09,226 --> 00:05:11,770
殿 やはり なりませぬ
79
00:05:12,396 --> 00:05:14,857
この女を成敗せねば
80
00:05:14,982 --> 00:05:18,027
領民に対して
物の筋が立ちませぬ
81
00:05:19,695 --> 00:05:21,447
領民とな…
82
00:05:25,367 --> 00:05:27,870
ならば その首 はねよ
83
00:05:28,495 --> 00:05:30,414
里見義実!
84
00:05:30,831 --> 00:05:33,167
いったんは許すと言いながら
85
00:05:33,292 --> 00:05:35,836
人の命を もてあそぶとは…
86
00:05:36,962 --> 00:05:38,756
殺さば殺せ!
87
00:05:38,922 --> 00:05:43,052
この玉梓の怨念で
里見家を呪い尽くしてくれるわ!
88
00:05:43,385 --> 00:05:44,636
ええい!
89
00:05:44,762 --> 00:05:45,596
(玉梓) 義実!
90
00:05:45,721 --> 00:05:49,016
一度 口にしたことの重みを
思い知らせてくれる!
91
00:05:49,391 --> 00:05:50,350
孫子まごこの代まで
92
00:05:50,476 --> 00:05:53,020
ことごとく
畜生道に落としめ
93
00:05:53,145 --> 00:05:55,022
煩悩の犬と変えてやる!
94
00:05:55,397 --> 00:05:56,982
うりゃあ!
95
00:06:04,656 --> 00:06:07,951
(玉梓の声) アハハハハハ…
96
00:06:08,786 --> 00:06:14,958
アハハハハハ…
97
00:06:14,958 --> 00:06:15,793
アハハハハハ…
~♪
98
00:06:15,793 --> 00:06:17,961
~♪
99
00:06:18,087 --> 00:06:19,963
(鳥のさえずり)
100
00:06:20,089 --> 00:06:23,092
♪~
101
00:06:26,386 --> 00:06:27,471
(世四郎よしろう) 姫 姫…
102
00:06:30,265 --> 00:06:31,266
(家臣たち) 殿
103
00:06:33,602 --> 00:06:36,105
(うなり声)
104
00:06:36,230 --> 00:06:38,357
何をいたす 八房
105
00:06:42,027 --> 00:06:43,487
姫を放せ!
106
00:06:43,779 --> 00:06:46,323
放さぬなら
畜生ながら成敗いたす
107
00:06:46,448 --> 00:06:48,033
お待ちくださいませ
108
00:06:49,618 --> 00:06:52,079
お待ちください 父上様
109
00:06:52,996 --> 00:06:54,331
私わたくしには
110
00:06:55,290 --> 00:06:56,917
八房の心が分かります
111
00:06:57,626 --> 00:06:58,502
何?
112
00:06:58,669 --> 00:07:00,003
八房は
113
00:07:01,255 --> 00:07:04,633
父上との約束が果たされないので
怒っているのです
114
00:07:05,384 --> 00:07:06,677
馬鹿ばかなことを申すな!
115
00:07:06,802 --> 00:07:09,096
馬鹿なことでは ございませぬ
116
00:07:09,763 --> 00:07:12,766
里見家の当主であられます
父上様が
117
00:07:13,183 --> 00:07:15,394
いったん口に なされた
お言葉は
118
00:07:16,854 --> 00:07:18,814
あとで取り消すわけには
まいりません
119
00:07:19,314 --> 00:07:20,315
姫…
120
00:07:20,899 --> 00:07:23,068
お前は何を考えておるのじゃ
121
00:07:24,403 --> 00:07:25,737
私は
122
00:07:27,489 --> 00:07:30,659
八房の花嫁に
ならなければならないと
123
00:07:32,786 --> 00:07:34,872
考えているのでございます
124
00:07:37,916 --> 00:07:39,251
(玉梓) 義実!
125
00:07:39,793 --> 00:07:42,796
一度 口にしたことの重みを
思い知らせてくれる!
126
00:07:43,297 --> 00:07:46,633
孫子の代まで
ことごとく畜生道に落としめ
127
00:07:46,758 --> 00:07:48,552
煩悩の犬と変えてやる!
128
00:07:49,344 --> 00:07:52,639
この犬は魔性のものに
取とり憑つかれておるぞ
129
00:07:53,390 --> 00:07:56,059
もし魔性のものに
取り憑かれているなら
130
00:07:56,268 --> 00:07:58,812
私が救ってやりましょう
131
00:07:58,937 --> 00:08:00,814
(うなり声)
132
00:08:05,194 --> 00:08:06,278
父上
133
00:08:06,695 --> 00:08:10,657
私が 里見家から
魔性のものを遠ざけまする
134
00:08:10,782 --> 00:08:11,909
(吠え声)
135
00:08:13,660 --> 00:08:15,078
伏姫 伏姫!
136
00:08:15,913 --> 00:08:18,916
~♪
137
00:08:28,175 --> 00:08:29,176
(八郎) どうじゃ?
138
00:08:29,301 --> 00:08:30,969
(家来) 二ツ山の探索を
終えましたが
139
00:08:31,094 --> 00:08:33,805
伏姫様らしき お姿は
いずこにもあらず
140
00:08:34,389 --> 00:08:37,309
ええい!
その言葉 聞き飽きたわ!
141
00:08:37,684 --> 00:08:40,395
(伏姫) 以方便力故いほうべんりきこ
142
00:08:40,520 --> 00:08:43,440
現有滅不滅げんうめつふめつ
♪~
143
00:08:43,565 --> 00:08:46,860
余国有衆生よこくうしゅうじょう
144
00:08:55,619 --> 00:08:58,622
~♪
145
00:09:02,334 --> 00:09:04,169
間違いないのじゃな?
146
00:09:04,711 --> 00:09:08,048
大輔が しかと
見届けてまいりました
147
00:09:08,590 --> 00:09:10,634
大輔 お手柄じゃ
148
00:09:10,759 --> 00:09:12,386
さすが八郎の子じゃ
149
00:09:12,511 --> 00:09:14,972
はっ もったいなき お言葉
150
00:09:18,767 --> 00:09:21,770
(うなり声)
151
00:09:22,980 --> 00:09:23,897
撃て!
152
00:09:32,739 --> 00:09:33,782
(義実) 伏姫!
153
00:09:33,782 --> 00:09:34,116
(義実) 伏姫!
♪~
154
00:09:34,116 --> 00:09:36,702
♪~
155
00:09:39,997 --> 00:09:41,123
姫!
156
00:09:43,292 --> 00:09:44,418
姫…
157
00:09:50,882 --> 00:09:52,467
最期に
158
00:09:53,844 --> 00:09:56,221
お伝えしたいことが
ございます
159
00:09:56,722 --> 00:09:58,223
口を開くでない
160
00:09:58,348 --> 00:10:00,434
誰か 布を持てぃ!
161
00:10:00,559 --> 00:10:01,560
(家臣) はっ!
162
00:10:02,352 --> 00:10:03,895
伏姫様…
163
00:10:04,813 --> 00:10:06,315
お許しください
164
00:10:09,901 --> 00:10:12,904
八房に取り憑いた怨霊は
165
00:10:14,239 --> 00:10:17,451
私の祈りで
浄化いたしました
166
00:10:18,577 --> 00:10:19,911
しかし
167
00:10:21,079 --> 00:10:24,666
怨霊の力 強く…
168
00:10:26,543 --> 00:10:27,753
いまだ
169
00:10:29,129 --> 00:10:31,256
里見家への怨念は
170
00:10:32,341 --> 00:10:35,719
すべて… 消し去ること…
171
00:10:36,720 --> 00:10:38,055
叶いませず
172
00:10:38,513 --> 00:10:41,850
(義実) おのれ 玉梓が怨霊め…
173
00:10:43,393 --> 00:10:45,687
(伏姫) 父上様
(義実) うん
174
00:10:46,313 --> 00:10:47,564
(伏姫) これを…
175
00:10:48,273 --> 00:10:53,570
今 この珠たまに祈りを込めました
176
00:10:55,864 --> 00:10:59,576
この八つの珠を持つ者たちを
177
00:11:01,328 --> 00:11:02,954
お探しください
178
00:11:04,122 --> 00:11:05,832
私の代わりに
179
00:11:08,418 --> 00:11:09,961
必ずや…
180
00:11:13,632 --> 00:11:18,011
里見家の…
お力になりましょう
181
00:11:23,475 --> 00:11:24,476
(義実) 姫…
182
00:11:25,143 --> 00:11:26,520
姫!
183
00:11:50,752 --> 00:11:53,755
~♪
184
00:11:58,135 --> 00:11:59,553
(滝沢馬琴たきざわばきん) これが
185
00:12:00,846 --> 00:12:02,973
「八犬伝」の始まりだ
186
00:12:07,227 --> 00:12:08,353
どうかね?
187
00:12:15,569 --> 00:12:17,404
まだ発端だけだが…
188
00:12:18,738 --> 00:12:20,240
絵になるかね?
189
00:12:33,837 --> 00:12:36,173
(葛飾北斎かつしかほくさい) いや~
190
00:12:36,298 --> 00:12:37,674
何をしてる?
191
00:12:38,592 --> 00:12:42,637
(北斎) こんな
コッチンコッチンの
192
00:12:43,138 --> 00:12:45,474
石灰で固めたような頭から
193
00:12:45,724 --> 00:12:49,144
よく そんな途方もない物語が
生み出されるもんだ
194
00:12:49,269 --> 00:12:52,564
…で 面白いのか?
面白くないのか?
195
00:13:02,741 --> 00:13:03,950
(北斎) 面白い
196
00:13:04,576 --> 00:13:09,664
この前 おいらが挿絵さしえを描いた
この「弓張月ゆみはりづき」も
197
00:13:09,789 --> 00:13:11,917
相当 面白かったが
198
00:13:13,335 --> 00:13:14,252
それ以上だ
199
00:13:15,921 --> 00:13:19,007
では 「八犬伝」の挿絵
描いてくれるか?
200
00:13:19,591 --> 00:13:20,800
ああ…
201
00:13:21,676 --> 00:13:22,677
描かん
202
00:13:23,637 --> 00:13:24,930
“描かん”?
203
00:13:25,555 --> 00:13:29,601
あんたに文句を言われ言われ
挿絵を描くのは
204
00:13:29,976 --> 00:13:31,895
もう懲こり懲ごりだ
205
00:13:32,896 --> 00:13:35,524
描いてくれるなら
もう文句は つけん
206
00:13:35,649 --> 00:13:36,608
(北斎) つける
207
00:13:37,609 --> 00:13:39,027
あんたが
208
00:13:39,528 --> 00:13:41,404
文句をつけんことは…
209
00:13:41,947 --> 00:13:43,698
金輪際ない
210
00:13:43,823 --> 00:13:46,826
(階段を上がる音)
211
00:13:49,579 --> 00:13:50,580
(鎮五郎しずごろう) お父様
212
00:13:51,289 --> 00:13:53,625
堀内様の奥女中おくじょちゅうの方が
213
00:13:53,750 --> 00:13:57,170
愛読者ゆえ 一度お目にかかりたいと
お見えになりました
214
00:13:57,295 --> 00:13:59,756
紹介状がなければ会わんと
215
00:14:00,048 --> 00:14:03,176
いつも申しつけて
おるではないか 鎮五郎
216
00:14:03,593 --> 00:14:06,555
既に そのように お伝えし
お引き取りいただきました
217
00:14:06,972 --> 00:14:08,974
よろしい 下がってよい
218
00:14:15,981 --> 00:14:20,151
(北斎) 今どき…
ああ 珍しい
219
00:14:20,860 --> 00:14:21,778
(馬琴) 何が?
220
00:14:21,903 --> 00:14:24,823
(北斎) あ? あんたの息子
221
00:14:25,865 --> 00:14:29,077
当世 親を馬鹿にする子が
多いってのに
222
00:14:29,536 --> 00:14:32,330
あの歳としで 親にあれほど
シャチホコばってるのは
223
00:14:32,455 --> 00:14:34,124
お武家ですら珍しいよ
224
00:14:34,249 --> 00:14:38,378
(馬琴) それが当たり前で
世間が間違っておるのだ
225
00:14:40,964 --> 00:14:42,048
(北斎) そういや
226
00:14:42,173 --> 00:14:45,885
鎮五郎を お武家にするとか
言ってなかったかい?
227
00:14:46,011 --> 00:14:48,972
滝沢家を
また武家に戻すのが
228
00:14:49,598 --> 00:14:51,182
私の悲願だ
229
00:14:52,767 --> 00:14:56,146
だから 鎮五郎を
医者の見習いに出している
230
00:14:56,521 --> 00:14:59,149
医者と お武家は
関係ねえだろうが
231
00:14:59,274 --> 00:15:03,320
(馬琴) どこかのお大名に
医者として お抱えいただき
232
00:15:03,528 --> 00:15:05,238
扶持ふちをもらえば
233
00:15:05,822 --> 00:15:09,242
それはもう 立派な武家だ
234
00:15:09,576 --> 00:15:11,661
(北斎) ハハッ ふーん…
235
00:15:12,287 --> 00:15:17,250
それにしても
大した人気じゃねえか ええ?
236
00:15:17,375 --> 00:15:20,670
奥女中が わざわざ
訪ねてくるなんてよ
237
00:15:23,173 --> 00:15:25,508
(馬琴)
人気があると言っても 私は
238
00:15:25,634 --> 00:15:27,802
一介の戯作者げさくしゃにすぎん
239
00:15:29,220 --> 00:15:31,473
大衆の娯楽のために
240
00:15:32,140 --> 00:15:34,392
作り話を書いているだけだ
241
00:15:37,020 --> 00:15:38,688
(北斎) そうかねぇ
242
00:15:39,856 --> 00:15:42,942
おいらは 戯作者“曲亭きょくてい馬琴”を
243
00:15:43,151 --> 00:15:45,570
大したもんだと思うがねぇ
244
00:15:47,614 --> 00:15:50,992
葛飾北斎に褒められて
悪い気は せんが
245
00:15:51,826 --> 00:15:54,621
書きたいものは
もっと他に たくさんある
246
00:15:54,746 --> 00:15:57,499
じゃあ 「八犬伝」は よすかね?
247
00:16:00,335 --> 00:16:03,505
お前さんが挿絵を
描いてくれないのであれば
248
00:16:05,173 --> 00:16:07,008
それも考えねばなるまい
249
00:16:11,513 --> 00:16:14,349
(北斎) ああ… ちょいと そこの…
250
00:16:14,474 --> 00:16:17,060
紙と すずりを貸してくんな
251
00:16:23,191 --> 00:16:27,195
(太鼓の音)
252
00:16:27,320 --> 00:16:30,323
♪~
253
00:16:45,046 --> 00:16:46,840
(北斎) ああ ほら…
254
00:16:47,507 --> 00:16:48,633
出来た
255
00:16:49,342 --> 00:16:51,177
見てくんな ほれ
256
00:17:01,521 --> 00:17:04,691
人様の筆で 走り描がきだが…
257
00:17:05,692 --> 00:17:07,026
これだ
258
00:17:08,862 --> 00:17:10,238
これが欲しかったのだ
259
00:17:12,157 --> 00:17:13,158
やる!
260
00:17:14,492 --> 00:17:15,910
「八犬伝」は やる!
261
00:17:16,161 --> 00:17:19,080
おうよ そのほうがいい
262
00:17:19,205 --> 00:17:19,873
~♪
263
00:17:19,873 --> 00:17:21,875
~♪
(階段を駆け上がる音)
264
00:17:22,000 --> 00:17:23,293
何だ! 騒々しい
265
00:17:26,004 --> 00:17:27,756
お客様でございます
266
00:17:28,631 --> 00:17:29,841
(馬琴) 誰だ?
267
00:17:29,966 --> 00:17:32,969
毛利様の御老女と
奥家老おくがろう様でございます
268
00:17:34,012 --> 00:17:35,305
毛利様とは…
269
00:17:36,264 --> 00:17:38,475
あの お大名の毛利様か?
270
00:17:38,600 --> 00:17:39,642
(鎮五郎) さようです
271
00:17:39,768 --> 00:17:42,812
なんでも 今年 七十になられる
御後室ごこうしつ様が
272
00:17:42,937 --> 00:17:45,106
以前から「弓張月」を
ご愛読あそばされ
273
00:17:45,899 --> 00:17:48,485
ぜひ一度 馬琴の話を
聞きたいとのことで…
274
00:17:51,738 --> 00:17:52,739
お断りしてくれ
275
00:17:53,698 --> 00:17:54,616
(鎮五郎) え?
276
00:17:55,784 --> 00:17:59,287
(馬琴) 初めての客は
紹介状がなければ 会わん
277
00:18:00,914 --> 00:18:02,916
それは分かっておりますが
278
00:18:03,583 --> 00:18:05,877
馬琴の都合のよい日で よいが
279
00:18:06,002 --> 00:18:07,712
もし今日 来てくれるならと
280
00:18:07,837 --> 00:18:09,964
ご用意のお駕籠かごまで
お連れで
281
00:18:10,298 --> 00:18:14,052
家の前には お供のお中間衆ちゅうげんしゅうも
大勢 控えられておられます
282
00:18:14,177 --> 00:18:15,345
(北斎) ええ?
283
00:18:18,389 --> 00:18:20,225
あら~
284
00:18:20,475 --> 00:18:24,312
(馬琴) 今日は折悪あしく
気分が優れず
285
00:18:24,604 --> 00:18:26,815
引きこもっておりますと
お伝えしてくれ
286
00:18:27,482 --> 00:18:30,443
お父様が お会いになって
そう申し上げてください
287
00:18:30,860 --> 00:18:33,613
会えば 私が病気でないことが
分かるではないか
288
00:18:33,988 --> 00:18:35,281
(北斎) 声 声!
289
00:18:35,782 --> 00:18:36,991
(馬琴) 鎮五郎!
290
00:18:37,575 --> 00:18:40,453
親の難儀が助けられぬと
言うのか!
291
00:18:47,043 --> 00:18:47,877
(舌打ち)
292
00:18:48,002 --> 00:18:48,962
はあっ…
293
00:18:49,170 --> 00:18:50,421
(北斎) へへへへ…
294
00:18:50,547 --> 00:18:52,757
偉えれえもんだなぁ
295
00:18:52,882 --> 00:18:56,845
お大名からのお呼びに
肘鉄を食らわせるとは…
296
00:18:56,970 --> 00:19:00,348
この面白くも
おかしくもない偏屈に
297
00:19:01,933 --> 00:19:05,687
御後室のお話し相手など
務まるわけがない!
298
00:19:08,314 --> 00:19:11,401
“偏屈だ”って自覚あったんだ
299
00:19:12,193 --> 00:19:14,070
(毛利家の家来) 出立しゅったつ!
300
00:19:15,238 --> 00:19:19,325
(太鼓の音)
301
00:19:23,580 --> 00:19:24,789
♪~
302
00:19:24,789 --> 00:19:26,583
♪~
(北斎) とんだ長居をした
おいらもそろそろ お暇いとましよっと
303
00:19:26,583 --> 00:19:28,334
(北斎) とんだ長居をした
おいらもそろそろ お暇いとましよっと
304
00:19:28,459 --> 00:19:29,460
(馬琴) おい!
305
00:19:30,545 --> 00:19:33,339
なんとしても 描いては
くれんのか?
306
00:19:33,464 --> 00:19:36,134
(北斎) ああ そうだ…
そのことだがね
307
00:19:36,968 --> 00:19:39,679
できたら その挿絵を
308
00:19:39,804 --> 00:19:43,308
婿の重信しげのぶって絵師に
描かせちゃもらえねえだろうか
309
00:19:44,142 --> 00:19:47,729
お前さんが 家族のために
頼み事をするとは
310
00:19:48,187 --> 00:19:49,314
珍しいな
311
00:19:49,439 --> 00:19:50,607
なあに
312
00:19:51,733 --> 00:19:55,737
婿というより 孫かわいさでね
313
00:19:55,862 --> 00:19:57,238
(馬琴) これは驚いた
314
00:19:58,448 --> 00:20:01,534
子供など関心がないと
思っておったが
315
00:20:01,659 --> 00:20:04,454
孫は おいらが
育てるわけじゃないからね
316
00:20:04,579 --> 00:20:06,789
おいらが育てなきゃ
ならねえんだったら やっぱり
317
00:20:06,915 --> 00:20:08,499
放り出しだけどな
318
00:20:08,625 --> 00:20:10,460
その点においては
319
00:20:10,585 --> 00:20:13,046
お前さんと私は
天と地ほど違うな
320
00:20:13,338 --> 00:20:15,006
あんた 構い過ぎ
321
00:20:15,757 --> 00:20:17,175
おいらは放り出し
322
00:20:17,300 --> 00:20:20,053
しかし 子供にとっちゃあ
どっちがいいかってぇと
323
00:20:20,303 --> 00:20:23,473
まだ放り出しのほうが
幸せなんじゃないかね
324
00:20:24,849 --> 00:20:28,770
(お百) えっ 何だって?
なんてことするのさぁ
325
00:20:28,895 --> 00:20:31,898
(北斎) おや
お百さんたち お帰りだね
326
00:20:33,399 --> 00:20:36,402
(階段を駆け上がる音)
~♪
327
00:20:36,527 --> 00:20:37,570
(お百) あんた!
328
00:20:37,695 --> 00:20:40,323
今 毛利様のお使いが
おいでになったんだって?
329
00:20:40,448 --> 00:20:41,366
(馬琴) ああ うん
330
00:20:41,699 --> 00:20:44,953
せっかくの
御後室様からのお召しを
331
00:20:45,078 --> 00:20:47,246
けんもほろろに断るなんて
332
00:20:47,372 --> 00:20:49,374
あんた 何 考えてんだい!
333
00:20:49,499 --> 00:20:51,751
お前たちの
知ったことではない!
334
00:20:52,085 --> 00:20:54,003
(お百) 鎮五郎に
関係あるじゃありませんか
335
00:20:54,128 --> 00:20:55,380
何が?
336
00:20:57,840 --> 00:20:59,801
鎮五郎が お医者になったら
337
00:20:59,926 --> 00:21:03,721
どこか お大名のお抱え医者に
するつもりなんでしょ?
338
00:21:04,430 --> 00:21:06,849
毛利様は何よりも その手づる!
339
00:21:06,975 --> 00:21:07,976
(馬琴) あっ!
340
00:21:08,601 --> 00:21:09,686
気づかなかった
341
00:21:09,811 --> 00:21:11,396
それ ご覧
342
00:21:11,771 --> 00:21:14,732
何かにつけちゃ
人を無学だの 無思慮だの
343
00:21:14,899 --> 00:21:17,235
いっつも馬鹿扱いするくせに
344
00:21:17,360 --> 00:21:20,363
肝心な時は
自分が大まぬけだ!
345
00:21:22,448 --> 00:21:24,617
(お百) 冗談じゃないよ!
(北斎) ひぃー
346
00:21:25,034 --> 00:21:27,620
相変わらず おっかねえ
347
00:21:27,745 --> 00:21:29,122
ああ それじゃあ
348
00:21:29,247 --> 00:21:32,959
婿の重信の件
よろしく頼みますよ
349
00:21:34,460 --> 00:21:36,087
(北斎) ん…
(馬琴) おっ あの 待っ…
350
00:21:36,212 --> 00:21:37,088
(北斎) ん?
351
00:21:38,006 --> 00:21:40,133
誰が描くにしろ
352
00:21:40,258 --> 00:21:41,843
その絵を参考にしたい
353
00:21:41,968 --> 00:21:43,594
(馬琴) なっ 置いてってくれ
(北斎) いや
354
00:21:44,804 --> 00:21:47,265
これは あくまで
おいらが描いた絵だ
355
00:21:48,599 --> 00:21:52,270
重信が これに縛られたら
かえって変なものになる
356
00:21:52,687 --> 00:21:54,522
これは ないものとしよう
357
00:21:55,982 --> 00:21:57,066
はい
358
00:22:01,404 --> 00:22:02,238
(ブフー)
359
00:22:04,157 --> 00:22:05,241
はい
360
00:22:06,075 --> 00:22:07,493
ああ それじゃあな
361
00:22:08,411 --> 00:22:09,996
あらよっと
362
00:22:26,596 --> 00:22:29,891
(北斎) 知人にゃ 偏屈だと嫌われ
363
00:22:30,892 --> 00:22:33,311
女房にゃ 侮あなどられ
364
00:22:33,936 --> 00:22:36,314
子供にゃ 怖がられ
365
00:22:37,190 --> 00:22:41,069
ご贔屓ひいきにゃ
剣突けんつく 食わせて怒らせる
366
00:22:41,444 --> 00:22:44,113
その馬琴を面白がってんのは
367
00:22:44,405 --> 00:22:46,240
まあ この北斎ぐらいなもん
だろうぜ
368
00:22:55,625 --> 00:22:56,793
でも
369
00:22:57,877 --> 00:23:00,129
絵には ならんなぁ
370
00:23:01,339 --> 00:23:04,342
フッ ハハッ ハハハッ…
371
00:23:06,385 --> 00:23:08,805
(拍子木の音)
372
00:23:10,389 --> 00:23:13,392
♪~
373
00:23:18,606 --> 00:23:19,816
(水しぶきが飛ぶ音)
374
00:23:29,075 --> 00:23:30,493
(犬塚いぬづか信乃しの) 父上
375
00:23:32,328 --> 00:23:34,831
ようやく 父上のお言葉に従い
376
00:23:35,456 --> 00:23:40,545
この名刀“村雨むらさめ”を 関東公方くぼう様に
お返しする日が参りました
377
00:23:44,382 --> 00:23:45,675
(浜路はまじ) 信乃様!
378
00:23:50,555 --> 00:23:51,722
(信乃) 浜路…
379
00:23:55,518 --> 00:23:56,519
(浜路) 明日
380
00:23:57,186 --> 00:23:59,522
古河こがへ発たたれると
お聞きしました
381
00:24:01,149 --> 00:24:04,318
(信乃) 犬塚家の再興を
公方様に願い出る
382
00:24:05,778 --> 00:24:06,863
(浜路) どうか…
383
00:24:07,446 --> 00:24:10,199
浜路も一緒に
古河へ お連れください
384
00:24:10,700 --> 00:24:12,743
どうしたのだ いきなり
385
00:24:15,371 --> 00:24:16,497
(浜路) 何か…
386
00:24:18,040 --> 00:24:20,501
悪い虫の知らせがございます
387
00:24:23,296 --> 00:24:26,048
大丈夫 すぐに帰ってまいる
388
00:24:26,215 --> 00:24:29,760
留守中 伯父上と伯母上のことを
よろしく頼む
389
00:24:30,636 --> 00:24:32,013
お父様は
390
00:24:32,930 --> 00:24:35,266
新しいお母様が いらしてから
391
00:24:35,474 --> 00:24:37,894
随分と お変わりになられました
392
00:24:38,936 --> 00:24:40,563
(ひき六) 信乃!
393
00:24:48,821 --> 00:24:50,323
伯父上 どうなされた?
394
00:24:50,948 --> 00:24:53,784
明日は 信乃の大事な門出じゃ
395
00:24:53,910 --> 00:24:58,664
わしが この手で大きな魚を釣って
今夜 ふるまってやろうと思ってな!
396
00:24:58,789 --> 00:25:00,917
それは ありがたき幸せ!
397
00:25:03,127 --> 00:25:05,421
本当に お優しいな
浜路のお父上は
398
00:25:07,882 --> 00:25:09,508
~♪
399
00:25:09,508 --> 00:25:10,885
~♪
(水しぶきが飛ぶ音)
400
00:25:12,011 --> 00:25:13,137
(ひき六) ああっ…
401
00:25:13,471 --> 00:25:14,055
伯父上!
402
00:25:14,055 --> 00:25:14,805
伯父上!
♪~
403
00:25:14,805 --> 00:25:16,307
♪~
404
00:25:17,558 --> 00:25:18,601
(ひき六) ああっ
405
00:25:21,812 --> 00:25:22,897
あっ…
406
00:25:32,490 --> 00:25:33,699
(ひき六) ああっ あっ…
407
00:25:35,660 --> 00:25:36,577
(信乃) うっ…
408
00:25:38,454 --> 00:25:39,455
信乃様!
409
00:25:44,919 --> 00:25:46,629
(水に飛び込む音)
410
00:25:54,804 --> 00:25:55,846
(ひき六) おお
411
00:25:55,972 --> 00:25:57,598
船虫ふなむし!
412
00:25:57,932 --> 00:25:58,516
~♪
413
00:25:58,516 --> 00:26:00,935
~♪
(船虫) ご無事で何よりです
414
00:26:01,060 --> 00:26:03,562
子細は この者から聞きました
415
00:26:03,688 --> 00:26:06,399
(ひき六) 信乃が
わしを助けてくれた
416
00:26:06,524 --> 00:26:09,277
信乃は わしの命の恩人じゃ
417
00:26:10,027 --> 00:26:12,863
信乃 本当にありがとう
418
00:26:13,155 --> 00:26:17,660
いえ 私より その新しい奉公人に
礼を言ってください
419
00:26:18,035 --> 00:26:21,664
荘助そうすけが いなかったら
私こそ命を落としておりました
420
00:26:22,498 --> 00:26:24,709
(船虫) そうかえ そうかえ
421
00:26:28,754 --> 00:26:31,799
(信乃) ああ…
ここに居たか 捜したぞ
422
00:26:34,844 --> 00:26:35,761
ああ…
423
00:26:35,886 --> 00:26:38,389
そのような大げさなことは
やめてくれ
424
00:26:38,514 --> 00:26:40,975
荘助は 私の命の恩人だ
425
00:26:41,392 --> 00:26:44,270
♪~
426
00:26:44,395 --> 00:26:47,440
(犬川いぬかわ荘助) 信乃様
お願いがございます
427
00:26:47,648 --> 00:26:49,775
(信乃) 何だ?
何でも言ってくれ
428
00:26:50,568 --> 00:26:53,362
(荘助) その首にかかる
袋の中のものを
429
00:26:53,487 --> 00:26:55,364
見せては
いただけませんか?
430
00:26:59,035 --> 00:27:00,328
(信乃) この袋か?
431
00:27:01,620 --> 00:27:03,205
お安いご用だ
432
00:27:03,956 --> 00:27:07,626
これは 私が生まれた時に
手の中に握っていたそうだ
433
00:27:07,752 --> 00:27:11,172
それから 私のお守りとして
こうして大事に持っている
434
00:27:11,297 --> 00:27:12,298
ほら
435
00:27:12,923 --> 00:27:14,967
中に“孝”の字が
浮かび上がるだろ?
436
00:27:28,564 --> 00:27:29,565
(信乃) これは…
437
00:27:30,399 --> 00:27:32,985
(荘助) 信乃様 これを
438
00:27:42,536 --> 00:27:44,830
先ほど 川で
お見受けしました
439
00:27:46,540 --> 00:27:50,294
(信乃) 何かで 繋がっている…
440
00:27:55,424 --> 00:27:59,387
(船虫の荒い息)
441
00:27:59,512 --> 00:28:02,014
まったく!
大失敗じゃないか!
442
00:28:04,558 --> 00:28:06,227
(ひき六) あいつが来なければ
443
00:28:06,477 --> 00:28:08,312
間違いなく
信乃は沈んでいたんだ!
444
00:28:08,646 --> 00:28:12,066
あの忌々いまいましい奉公人め!
445
00:28:20,574 --> 00:28:24,870
網乾あぼし先生は
しくじっては いないだろうねぇ
446
00:28:24,995 --> 00:28:26,414
(網乾左母二郎さもじろう) フッ…
447
00:28:30,918 --> 00:28:32,628
(水しぶきが飛ぶ音)
448
00:28:36,132 --> 00:28:37,842
おおっ…
449
00:28:38,134 --> 00:28:39,635
ほとばしる水しぶき
450
00:28:40,428 --> 00:28:42,555
まさしく 名刀“村雨”
451
00:28:47,226 --> 00:28:48,769
(網乾) 刀身だけ入れ替えて
452
00:28:49,979 --> 00:28:51,814
元に戻しておいた
453
00:28:51,939 --> 00:28:54,108
(船虫) フフフ…
454
00:28:54,483 --> 00:28:57,236
フフフフフッ…
~♪
455
00:28:58,487 --> 00:29:01,574
(ひき六) 公方様に
堂々と 村雨を献上し
456
00:29:01,699 --> 00:29:04,326
父上の遺言を成就するんじゃぞ
457
00:29:04,952 --> 00:29:06,036
はい!
458
00:29:06,412 --> 00:29:09,081
(船虫) 道中 お気をつけて
459
00:29:10,249 --> 00:29:11,417
信乃様…
460
00:29:12,918 --> 00:29:15,087
心配するな 浜路
461
00:29:22,803 --> 00:29:24,722
それでは いってまいります
462
00:29:31,353 --> 00:29:34,356
(奉公人たちの話し声)
463
00:29:35,274 --> 00:29:36,650
ありがとうございます
464
00:29:36,775 --> 00:29:37,860
あっ 危ないよ そこ
465
00:29:43,032 --> 00:29:44,366
母上様
466
00:29:45,576 --> 00:29:48,037
これは 一体
何の騒ぎですか?
467
00:29:48,787 --> 00:29:51,707
これは…
今夜の祝言しゅうげんの準備だよ
468
00:29:52,208 --> 00:29:53,792
しゅ… 祝言?
469
00:29:54,251 --> 00:29:55,794
どなたの祝言ですか?
470
00:29:56,295 --> 00:29:58,797
何を言ってるの
471
00:29:59,256 --> 00:30:02,009
あなたの祝言に
決まってるじゃないか
472
00:30:02,134 --> 00:30:02,551
♪~
473
00:30:02,551 --> 00:30:05,137
♪~
新しい陣代じんだいの皮上宮六ひがみきゅうろく様が
お前を見初みそめられてね
474
00:30:05,137 --> 00:30:07,431
新しい陣代じんだいの皮上宮六ひがみきゅうろく様が
お前を見初みそめられてね
475
00:30:07,723 --> 00:30:10,267
“ぜひとも妻に”との
お申し出があった
476
00:30:10,392 --> 00:30:14,146
そんな お話
私わたくしは聞いておりません
477
00:30:14,480 --> 00:30:17,816
話したところで
お前が お受けするわけもない
478
00:30:17,942 --> 00:30:19,610
だからと言って
479
00:30:19,860 --> 00:30:21,487
こんな騙だまし討ちのような…
480
00:30:21,612 --> 00:30:25,616
捨て子のお前を
ここまで育ててくれた お父様に
481
00:30:25,991 --> 00:30:28,702
ご恩返しをする時が
来たのですよ
482
00:30:29,286 --> 00:30:30,287
嫌です
483
00:30:31,288 --> 00:30:34,041
お父様が お手討ちになっても
いいのかい?
484
00:30:41,173 --> 00:30:44,176
~♪
485
00:30:45,261 --> 00:30:46,595
どうだね?
486
00:30:49,515 --> 00:30:50,599
うん
487
00:30:53,936 --> 00:30:57,022
ますます 面白おもしれえ
488
00:31:00,150 --> 00:31:02,319
皮肉なものだな
489
00:31:03,571 --> 00:31:07,324
へそ曲がりで
口の悪い絵師の言葉は
490
00:31:07,950 --> 00:31:10,035
かえって信頼できる
491
00:31:10,286 --> 00:31:14,331
(北斎) 漬物石の上に こう
文鎮ぶんちん いっぱい載っけて
492
00:31:14,456 --> 00:31:17,376
押しつぶしたみてえな
あんたの脳みそから
493
00:31:17,710 --> 00:31:22,172
なんで そんな とびっきり上等な
筋書きが出てくるのか
494
00:31:22,756 --> 00:31:25,009
どうにも納得がいかねえ
495
00:31:25,217 --> 00:31:27,094
(馬琴) まあ
気に入ってくれたのであれば
496
00:31:27,219 --> 00:31:30,639
約束どおり また二、三枚
下絵を描いてくれ
497
00:31:32,266 --> 00:31:33,392
(北斎) まあ
498
00:31:34,560 --> 00:31:36,812
婿の重信の絵を
499
00:31:37,396 --> 00:31:39,356
使ってもらってるしな
500
00:31:43,819 --> 00:31:47,698
前に聞いた発端のくだりは
501
00:31:48,449 --> 00:31:50,576
二年くらい前だったかな
502
00:31:50,701 --> 00:31:51,785
(馬琴) うん
503
00:31:53,412 --> 00:31:56,665
(北斎) 去年 やっと
本になったんだよな
504
00:31:57,541 --> 00:31:59,460
(馬琴) かなり売れておる
505
00:32:01,170 --> 00:32:04,048
まあ そうだろうね
506
00:32:05,257 --> 00:32:08,636
で… どうかね? 重信の絵は
507
00:32:09,720 --> 00:32:10,929
(馬琴) ん?
508
00:32:11,930 --> 00:32:15,476
よいのではないか
売れておるのだから
509
00:32:23,233 --> 00:32:26,236
♪~
510
00:32:26,362 --> 00:32:30,324
(馬琴) お前さんが孫のために
頼み事をするとは驚いた
511
00:32:31,075 --> 00:32:35,245
それほど かわいいなら
一緒に住めばよいではないか
512
00:32:35,454 --> 00:32:36,580
(北斎) ハハッ
513
00:32:37,331 --> 00:32:41,168
孫なんぞが そばにいたら
絵なんか描けたもんじゃねえや
514
00:32:41,293 --> 00:32:43,462
すぐに追い出しちまうさ
515
00:32:43,796 --> 00:32:46,507
(馬琴) しかし今は
娘さんと暮らしてるんだろ?
516
00:32:46,632 --> 00:32:49,009
(北斎) ああ? あっ 応為おういか
517
00:32:49,510 --> 00:32:54,723
あれは お前 絵描きだから
娘というよりは 弟子みてえなもんだ
518
00:32:55,808 --> 00:32:57,351
ヘヘッ
519
00:32:57,726 --> 00:33:00,896
家うちでは おいらが
“おーい”としか呼ばねえもんだから
520
00:33:01,021 --> 00:33:03,899
自分で“葛飾応為おうい”って
名乗ってらぁ
521
00:33:04,525 --> 00:33:06,193
ヘヘヘヘッ
522
00:33:07,152 --> 00:33:08,362
ところで
523
00:33:09,905 --> 00:33:12,491
「八犬伝」の舞台は安房あわだが
524
00:33:13,117 --> 00:33:15,202
あんた いつ安房へ行ったのかね
525
00:33:15,411 --> 00:33:17,705
(馬琴) いや 行ったことはない
526
00:33:19,164 --> 00:33:22,209
安房へ行かねえで
「八犬伝」 書いてるのか
527
00:33:22,501 --> 00:33:25,421
三百年も昔の安房の話だ
528
00:33:25,546 --> 00:33:29,383
今の安房を見ると
かえって害になる
529
00:33:30,092 --> 00:33:31,635
(北斎) はあ~
530
00:33:31,760 --> 00:33:36,056
おいらなんて 描きたくなったら
この目で見なきゃ始まんねえよ
531
00:33:36,348 --> 00:33:38,809
年がら年じゅう 旅だらけ
532
00:33:39,601 --> 00:33:41,145
でも あんたは
533
00:33:41,520 --> 00:33:45,441
この 本の山の中だけで
あの物語を紡いでる
534
00:33:46,608 --> 00:33:50,279
まったく どうにも
不思議で仕方がないな
535
00:33:51,447 --> 00:33:54,450
(階段を上がる足音)
~♪
536
00:33:59,204 --> 00:34:00,456
(宗伯そうはく) お父様
(馬琴) うん
537
00:34:00,581 --> 00:34:04,835
誾花堂ぎんかどうさんが「朝夷巡島記あさひなしまめぐりのき」の
校正原稿を受け取りに お見えです
538
00:34:04,960 --> 00:34:06,462
(馬琴) おう 出来ておる
539
00:34:06,587 --> 00:34:08,130
(馬琴) 動くぞ
(北斎) おお
540
00:34:15,596 --> 00:34:17,556
(馬琴) これを渡してくれ
(宗伯) はい
541
00:34:23,812 --> 00:34:25,522
(北斎) おいおいおい…
542
00:34:27,316 --> 00:34:30,569
鎮五郎は お医者になったのかね?
543
00:34:32,237 --> 00:34:33,822
もうすぐだ
544
00:34:34,323 --> 00:34:35,365
フフッ
545
00:34:35,741 --> 00:34:39,703
その筋は いいらしい
ハハハッ…
546
00:34:40,871 --> 00:34:44,124
今は医者らしく
宗伯そうはくと名乗っておる
547
00:34:44,249 --> 00:34:45,584
(お百) あんた
548
00:34:45,709 --> 00:34:47,294
あんた!
549
00:34:47,878 --> 00:34:50,714
あんた また修正を出したのかい?
550
00:34:50,881 --> 00:34:52,216
(馬琴) ああ そうだ
551
00:34:52,341 --> 00:34:56,720
(お百) ったく…
何度も しつこい男だね
552
00:34:57,054 --> 00:35:00,891
京伝きょうでんや三馬さんばなんて せいぜい
直しは一回くらいというじゃないか
553
00:35:01,016 --> 00:35:03,310
それを何だい! 三回も四回も…
554
00:35:03,435 --> 00:35:06,897
(馬琴) 間違いを正さないまま
世に出すわけには いかんだろう
555
00:35:07,189 --> 00:35:09,233
もう それじゃあ
いつまでたっても
556
00:35:09,358 --> 00:35:11,026
稿料が
いただけないんだよ!
557
00:35:11,151 --> 00:35:12,861
分かっておる
558
00:35:13,529 --> 00:35:14,780
ったく…
559
00:35:15,781 --> 00:35:18,700
じじい二人が朝っぱらから
560
00:35:18,826 --> 00:35:21,870
狭い部屋に こもって
何やってんだか
561
00:35:22,412 --> 00:35:24,414
怪しいもんだ!
562
00:35:25,249 --> 00:35:29,419
ったく… 冗談じゃないよ
(北斎の笑い声)
563
00:35:30,212 --> 00:35:31,296
(北斎) ヘヘッ
564
00:35:32,673 --> 00:35:36,134
(馬琴) まあ
お百の言うとおりでもある
565
00:35:36,260 --> 00:35:37,261
(北斎) ええ?
566
00:35:37,386 --> 00:35:41,473
(馬琴) 世の中の 何の役にも立たない
私の戯作など
567
00:35:41,682 --> 00:35:44,685
♪~
少々 間違っていても
誰も困りは しないのだから
568
00:35:44,685 --> 00:35:46,186
少々 間違っていても
誰も困りは しないのだから
569
00:35:47,312 --> 00:35:50,899
(北斎) 「八犬伝」が
何の役にも立たねえって
570
00:35:51,024 --> 00:35:52,609
本気で
そんなこと思ってんのか?
571
00:35:52,860 --> 00:35:55,070
戯作など そんなもんだろう
572
00:35:58,949 --> 00:36:01,702
(北斎) うーん… あんた
573
00:36:02,327 --> 00:36:04,538
なんで戯作 書いてんだい?
574
00:36:05,914 --> 00:36:07,416
それは…
575
00:36:08,041 --> 00:36:09,877
生計のためだな
576
00:36:10,586 --> 00:36:14,172
お前さんは?
何のために絵を描いている?
577
00:36:14,423 --> 00:36:18,010
おいらは絵が好きだからさ
578
00:36:19,011 --> 00:36:23,807
子供の頃から ただ もう
絵を描くのが好きだった
579
00:36:25,225 --> 00:36:27,686
私は商売としてやってきて
580
00:36:27,811 --> 00:36:30,564
世間に認められるようになっても
581
00:36:31,315 --> 00:36:34,943
どこか これは
本来の自分ではないと思っている
582
00:36:35,861 --> 00:36:37,988
物語ばかりではなく
583
00:36:39,948 --> 00:36:41,825
自分自身も…
584
00:36:43,744 --> 00:36:45,495
虚きょの世界に居る
585
00:36:47,289 --> 00:36:48,916
(北斎) するってぇと
586
00:36:49,499 --> 00:36:52,502
家族も 虚の世界の人間かい?
587
00:36:52,628 --> 00:36:54,046
(馬琴) いやいや
588
00:36:55,213 --> 00:36:56,882
家族こそ
589
00:36:57,758 --> 00:36:59,468
今の私の
590
00:37:00,010 --> 00:37:01,595
実じつだな
591
00:37:03,305 --> 00:37:05,015
おいらの場合
592
00:37:05,641 --> 00:37:07,726
まさに家族は
593
00:37:07,976 --> 00:37:09,394
虚だがね
594
00:37:11,188 --> 00:37:12,439
ほら
~♪
595
00:37:12,439 --> 00:37:14,191
~♪
596
00:37:15,609 --> 00:37:17,277
はい 出来たよ
597
00:37:25,619 --> 00:37:28,580
(馬琴) さすが葛飾北斎だ
598
00:37:32,292 --> 00:37:35,170
これを 私にくれ
599
00:37:35,295 --> 00:37:36,755
(北斎) いや 駄目だ
600
00:37:37,130 --> 00:37:39,091
そんな約束じゃねえ
601
00:37:39,508 --> 00:37:41,843
ああっ… ほら ほれ
602
00:37:42,636 --> 00:37:45,138
そこを曲げて 頼む!
603
00:37:45,263 --> 00:37:47,307
駄目だ ほら
604
00:38:03,365 --> 00:38:06,576
さてと 今日は
ここらで退散するか
605
00:38:06,952 --> 00:38:08,620
また来るよ ハッ…
606
00:38:09,246 --> 00:38:12,165
(北斎の鼻歌)
607
00:38:16,503 --> 00:38:17,921
(ひぐらしの鳴き声)
608
00:38:18,046 --> 00:38:19,339
(馬琴) 迎え火か
609
00:38:23,260 --> 00:38:25,387
盆は あさってだったな
610
00:38:30,392 --> 00:38:32,936
どれ 貸してみなさい
611
00:39:02,257 --> 00:39:03,633
父上
612
00:39:05,260 --> 00:39:06,595
母上
613
00:39:08,847 --> 00:39:10,390
宗伯が
614
00:39:11,308 --> 00:39:13,393
お抱え医師となり
615
00:39:16,229 --> 00:39:18,732
武士の世界へ戻してくれます
616
00:39:22,986 --> 00:39:24,821
もうすぐでござる
617
00:39:30,577 --> 00:39:32,579
(拍子木の音)
618
00:39:32,788 --> 00:39:36,124
(奉公人たち) 浜路様? 浜路様?
619
00:39:37,626 --> 00:39:39,669
(皮上宮六) 花嫁が逃げた だと?
620
00:39:39,961 --> 00:39:42,422
(ひき六) はっ
誠に面目次第もなき始末ながら…
621
00:39:42,547 --> 00:39:45,926
(軍木五倍二ぬるでごばいじ) 貴様
陣代様を嘲弄ちょうろうするつもりか!
622
00:39:46,051 --> 00:39:49,554
嘲弄など とんでもございません
その証拠に…
623
00:39:52,891 --> 00:39:57,145
大塚家秘蔵の
名刀“村雨”にございます
624
00:39:57,646 --> 00:39:59,231
村雨…
625
00:40:00,190 --> 00:40:02,442
噂うわさには聞いたことがあるぞ
626
00:40:02,734 --> 00:40:05,862
さすがは陣代様
この村雨を引き出物として
627
00:40:05,987 --> 00:40:08,782
陣代様に献上さしあげるつもりで
ご用意しておりました
628
00:40:09,157 --> 00:40:12,035
ほう… 見せてみい
629
00:40:12,327 --> 00:40:13,495
(ひき六) はっ…
630
00:40:20,252 --> 00:40:22,295
これが村雨…
631
00:40:22,879 --> 00:40:25,048
振れば 水を発するのだな
632
00:40:25,674 --> 00:40:27,050
さようでございます
633
00:40:31,596 --> 00:40:32,681
(皮上) ん?
634
00:40:37,394 --> 00:40:38,520
(皮上) ふん!
635
00:40:39,646 --> 00:40:43,817
そんなはずは ござりませぬ
もっと強く!
636
00:40:46,194 --> 00:40:47,988
ええい!
637
00:40:48,905 --> 00:40:51,867
水どころか この刀
錆さびておるではないか!
638
00:40:52,200 --> 00:40:54,744
うぬは わしをからかっておるのか!
639
00:40:54,870 --> 00:40:55,078
♪~
640
00:40:55,078 --> 00:40:57,581
♪~
めっ 滅相めっそうもない!
これは何かの手違いで…
641
00:40:57,581 --> 00:40:58,790
めっ 滅相めっそうもない!
これは何かの手違いで…
642
00:40:58,915 --> 00:40:59,833
ああっ…
643
00:40:59,958 --> 00:41:01,585
(皮上) ええい!
(ひき六) ああ…
644
00:41:01,918 --> 00:41:03,211
(女中たちの悲鳴)
645
00:41:12,387 --> 00:41:13,847
網乾め
646
00:41:16,141 --> 00:41:17,559
まあ いい
647
00:41:18,351 --> 00:41:20,770
天罰を下してやるさ
648
00:41:20,937 --> 00:41:23,940
~♪
649
00:41:27,277 --> 00:41:30,780
(浜路) この道が 本当に
古河へ通じているのですか?
650
00:41:31,781 --> 00:41:33,033
(網乾) いいや
651
00:41:34,284 --> 00:41:35,285
浜路
652
00:41:37,329 --> 00:41:39,706
俺と一緒に逃げて
楽しく暮らそう
653
00:41:40,540 --> 00:41:42,918
(浜路) 信乃様のところへ
連れていくと
654
00:41:43,418 --> 00:41:45,170
約束したではないですか
655
00:41:48,423 --> 00:41:49,674
(水しぶきが飛ぶ音)
656
00:41:50,008 --> 00:41:51,426
その刀は…
♪~
657
00:41:51,426 --> 00:41:52,802
♪~
658
00:41:52,928 --> 00:41:54,179
村雨よ
659
00:41:54,638 --> 00:41:55,680
なんで…
660
00:41:56,264 --> 00:41:57,682
あの馬鹿め
661
00:41:57,974 --> 00:42:01,061
偽の刀を
公方様に献上するつもりだ
662
00:42:01,186 --> 00:42:03,605
フッハハハハ
663
00:42:03,897 --> 00:42:05,106
それを…
664
00:42:05,649 --> 00:42:08,526
本当に村雨か よく見せてください
665
00:42:27,254 --> 00:42:28,797
(網乾) 馬鹿な奴だ
666
00:42:28,964 --> 00:42:31,549
さあ おとなしく村雨を返せ
667
00:42:32,217 --> 00:42:36,137
(浜路) これは
信乃様の刀でございます
668
00:42:37,264 --> 00:42:39,599
(網乾) うっ… ああ…
669
00:42:39,724 --> 00:42:41,893
この女アマ!
670
00:42:42,727 --> 00:42:45,438
(もみ合う声)
671
00:42:46,273 --> 00:42:49,567
(浜路の悲鳴)
672
00:42:50,318 --> 00:42:51,569
(舌打ち)
673
00:42:56,157 --> 00:42:57,951
(網乾) 何だ お前は…
674
00:42:58,076 --> 00:43:00,370
(犬山道節いぬやまどうせつ) その刀を置いて去れ
675
00:43:00,870 --> 00:43:02,872
命だけは助けてやろう
676
00:43:03,790 --> 00:43:05,542
(網乾) 片腹 痛いわ
677
00:43:07,002 --> 00:43:08,461
(斬る音)
(網乾) うっ…
678
00:43:10,505 --> 00:43:11,965
(倒れる音)
679
00:43:21,266 --> 00:43:22,600
(荘助) 待て!
680
00:43:27,230 --> 00:43:28,690
網乾…
681
00:43:30,317 --> 00:43:31,693
浜路様は どこだ?
682
00:43:32,444 --> 00:43:33,820
“はまじ”…
683
00:43:34,738 --> 00:43:35,280
~♪
684
00:43:35,280 --> 00:43:37,741
~♪
ああ その男に斬られて
崖下に落ちた女人にょにんか
685
00:43:37,741 --> 00:43:39,868
ああ その男に斬られて
崖下に落ちた女人にょにんか
686
00:43:40,410 --> 00:43:43,538
嘘だ! 怪しき奴…
687
00:43:43,663 --> 00:43:45,582
本当のことを話せ!
688
00:43:45,707 --> 00:43:47,042
(水しぶきが飛ぶ音)
689
00:43:47,167 --> 00:43:48,335
(荘助) ああっ…
690
00:43:50,295 --> 00:43:52,005
その刀は…
691
00:43:52,130 --> 00:43:56,134
悪いが これで定正さだまさが討てるのでな
692
00:43:56,343 --> 00:43:58,219
その刀は信乃様のもの
693
00:43:58,595 --> 00:43:59,512
返せ!
694
00:44:13,526 --> 00:44:14,944
これは…
695
00:44:15,904 --> 00:44:18,448
(道節) お前に構ってる暇はない
696
00:44:19,657 --> 00:44:20,492
ふんっ!
697
00:44:22,035 --> 00:44:24,120
♪~
698
00:44:28,416 --> 00:44:31,419
~♪
699
00:44:33,338 --> 00:44:38,134
(横堀在村よこぼりありむら) この者
故 足利持氏あしかがもちうじ公の遺臣の子で
700
00:44:38,259 --> 00:44:40,887
犬塚信乃という者です
701
00:44:41,429 --> 00:44:45,308
亡き父が 御主君から
お預かりした名刀“村雨”を
702
00:44:45,433 --> 00:44:49,312
公方様に献上いたしたく
罷まかり出ました
703
00:44:49,771 --> 00:44:54,734
(足利成氏なりうじ)
その志 誠に神妙である
704
00:44:55,402 --> 00:44:58,571
いざ 御見ぎょけんに入れよ
705
00:45:03,284 --> 00:45:06,287
♪~
706
00:45:15,588 --> 00:45:17,298
~♪
707
00:45:17,298 --> 00:45:18,591
~♪
あいや
708
00:45:18,967 --> 00:45:20,093
しばらく お待ちを…
709
00:45:22,387 --> 00:45:25,056
誠に恐れ入った儀で
ござりまするが
710
00:45:25,306 --> 00:45:28,601
その刀 村雨ではござりませぬ
711
00:45:29,769 --> 00:45:30,937
何と申す?
712
00:45:31,980 --> 00:45:34,357
私わたくしの持参いたしました刀
713
00:45:34,524 --> 00:45:37,360
事前に 何者かに
すり替えられておりました
714
00:45:38,528 --> 00:45:41,990
願わくば
数日のお許しをいただき
715
00:45:42,240 --> 00:45:44,451
本物の村雨を取り返し
716
00:45:45,076 --> 00:45:47,036
改めて献上いたしとうござる
717
00:45:47,912 --> 00:45:51,040
なにとぞ
今しばらくの ご猶予を…
718
00:45:51,166 --> 00:45:53,126
(在村) うぬは間者かんじゃだな?
719
00:45:53,251 --> 00:45:55,628
これに託して この城を
探りに来たに違いない
720
00:45:55,920 --> 00:45:58,798
途方もない
私 天地天命に誓って…
721
00:45:58,923 --> 00:46:01,050
それ ひっ捕らえて糾明きゅうめいせい!
722
00:46:01,176 --> 00:46:01,634
(侍たち) はっ!
723
00:46:01,634 --> 00:46:02,385
(侍たち) はっ!
♪~
724
00:46:02,385 --> 00:46:04,637
♪~
725
00:46:05,889 --> 00:46:07,474
(在村) 出合え 出合え!
726
00:46:09,601 --> 00:46:10,518
(侍) ぐあっ…
727
00:46:21,488 --> 00:46:23,072
(侍たち) 出合え 出合え!
728
00:46:32,165 --> 00:46:33,124
(侍) ああっ…
729
00:46:33,917 --> 00:46:36,419
何をしておる あれを討ち取れ!
730
00:46:44,219 --> 00:46:48,431
誰か おらぬのか
成氏の家来に人は居ないのか!
731
00:46:49,807 --> 00:46:51,976
犬飼現八いぬかいげんぱちを連れてこい
732
00:46:52,101 --> 00:46:54,103
(重い扉が開く音)
733
00:47:00,235 --> 00:47:01,319
(信乃) ううっ…
734
00:47:16,292 --> 00:47:19,295
~♪
735
00:47:19,712 --> 00:47:21,381
もはや これまでか
736
00:47:26,010 --> 00:47:30,765
これは 足利家に仕える
犬飼現八と申す者
737
00:47:32,225 --> 00:47:34,644
訳あって牢獄より罷まかり出た
738
00:47:35,186 --> 00:47:38,565
おぬしを捕らえれば
無罪放免となるゆえ
739
00:47:39,816 --> 00:47:43,403
神妙に お縄にかかれ
740
00:47:46,155 --> 00:47:50,618
ここに一人で上のぼってくるとは
あっぱれな覚悟だ
741
00:47:51,661 --> 00:47:53,496
選ばれし強者つわものと見た
742
00:47:54,163 --> 00:47:58,209
冥途の土産に
よい腕試しとなろう
743
00:47:59,794 --> 00:48:00,878
さあ
744
00:48:03,089 --> 00:48:03,923
参れ!
745
00:48:05,925 --> 00:48:08,928
♪~
746
00:48:09,721 --> 00:48:11,014
やあっ!
747
00:48:17,812 --> 00:48:18,813
(現八) うあっ!
748
00:48:38,333 --> 00:48:39,250
うわっ…
749
00:48:47,467 --> 00:48:48,551
おぬしは…
750
00:49:02,231 --> 00:49:04,233
(2人) うわあああ!
751
00:49:08,071 --> 00:49:11,074
~♪
752
00:49:15,495 --> 00:49:19,666
ああ… これじゃあ お前
続きが気になって仕方がねえや
753
00:49:19,791 --> 00:49:21,459
(馬琴) フフフフッ…
754
00:49:22,794 --> 00:49:25,004
(北斎) しかし
あの浜路はひどい
755
00:49:25,672 --> 00:49:27,882
あれは お前
かわいそうすぎる!
756
00:49:28,466 --> 00:49:31,386
(馬琴) その意味も
あとで分かる仕掛けになっておる
757
00:49:31,552 --> 00:49:33,012
とにかく 私は
758
00:49:33,137 --> 00:49:37,558
正しき男たち 清き女たちの死を
無駄には せん
759
00:49:37,684 --> 00:49:40,395
(北斎) そもそも 伏姫様からして
760
00:49:40,520 --> 00:49:42,939
罪もねえのに
非業ひごうの死を遂げてんじゃねえか
761
00:49:43,064 --> 00:49:46,359
まあ まあ まあ
心配は無用だ
762
00:49:46,859 --> 00:49:50,822
私は 正義は必ず報われる
という物語を
763
00:49:50,947 --> 00:49:53,032
書こうとしているのだから
764
00:49:54,325 --> 00:49:57,537
(北斎) 今んところ お前
人の運命さだめを もてあそぶ―
765
00:49:57,662 --> 00:50:00,289
卑劣なじじいにしか
見えねえぜ
766
00:50:01,332 --> 00:50:03,960
(馬琴) まあ
続きを楽しみにしていてくれ
767
00:50:04,502 --> 00:50:06,295
(北斎のため息)
768
00:50:06,421 --> 00:50:07,630
(北斎) ほれ
769
00:50:08,423 --> 00:50:11,843
とにかく よろしく頼みますよ
770
00:50:13,094 --> 00:50:15,138
みんな 待ってんだからよ
771
00:50:16,723 --> 00:50:19,767
ところで
鉄砲が よく出てくるが
772
00:50:19,892 --> 00:50:23,479
「八犬伝」の時代に
鉄砲なんてものが あったのかね?
773
00:50:24,021 --> 00:50:28,484
(馬琴) いや 鉄砲が伝来したのは
天文てんぶん十二年のことだから
774
00:50:28,735 --> 00:50:30,903
この物語より だいたい
775
00:50:31,320 --> 00:50:33,656
六、七十年 後あとのことになる
776
00:50:33,781 --> 00:50:35,199
やっぱり そうかい
777
00:50:35,324 --> 00:50:37,869
(馬琴) 私は
読者に許されるであろう嘘は
778
00:50:37,994 --> 00:50:39,871
どんどん取り入れる
779
00:50:41,873 --> 00:50:43,374
そうよ
780
00:50:43,791 --> 00:50:48,129
大戯作者 曲亭馬琴は
そうこなくちゃな
781
00:50:55,052 --> 00:50:58,848
以前 お前さんに
“なんで戯作を書くのか?”と言われて
782
00:50:59,390 --> 00:51:01,768
“生計のためだ”と答えた
783
00:51:01,934 --> 00:51:02,769
(北斎) うん
784
00:51:02,894 --> 00:51:03,978
しかし
785
00:51:05,229 --> 00:51:08,441
本当は そうではないことに
気づいた
786
00:51:09,567 --> 00:51:11,235
私は 結局
787
00:51:12,528 --> 00:51:16,991
正しい者が勝ち 悪は罰せられる
788
00:51:17,116 --> 00:51:18,659
♪~
789
00:51:18,659 --> 00:51:20,119
♪~
そういう世界を 描えがく目的で
790
00:51:20,119 --> 00:51:22,830
そういう世界を 描えがく目的で
791
00:51:22,955 --> 00:51:24,749
戯作を書いているんだ
792
00:51:26,292 --> 00:51:27,710
(北斎) この世は
793
00:51:28,085 --> 00:51:30,171
そう うまくゆくかね?
794
00:51:32,423 --> 00:51:34,091
(馬琴) ゆかんから
795
00:51:35,343 --> 00:51:37,470
物語として書くんだ
796
00:51:40,681 --> 00:51:44,268
悪が勝つこともある
この世の中だからこそ
797
00:51:45,603 --> 00:51:47,313
別の世界を
798
00:51:48,731 --> 00:51:50,858
読者には味わってもらいたい
799
00:51:54,195 --> 00:51:55,696
つまり
800
00:51:56,531 --> 00:51:58,658
虚の世界だね
801
00:52:00,576 --> 00:52:01,953
そうだな
802
00:52:03,830 --> 00:52:05,706
悲しいかな それは
803
00:52:05,873 --> 00:52:07,291
~♪
804
00:52:07,291 --> 00:52:08,876
~♪
虚の世界だ
805
00:52:09,794 --> 00:52:12,922
(お百) ちょっと あんた
まただよ~
806
00:52:13,256 --> 00:52:17,510
隣の家の犬が
庭の畑 踏み荒らしてさ…
807
00:52:17,718 --> 00:52:18,803
あっ
808
00:52:19,095 --> 00:52:21,389
あんた 来てたのかい
809
00:52:21,514 --> 00:52:23,975
いい家じゃないか お百さん
810
00:52:24,642 --> 00:52:28,729
(お百) 前の家は
下駄屋だった私の実家だよ
811
00:52:28,980 --> 00:52:32,316
婿に来た この人が
下駄屋ほったらかして
812
00:52:32,441 --> 00:52:35,528
勝手に 物書きなんかに
なっちまってさ
813
00:52:36,529 --> 00:52:38,197
(お百) あんた!
(馬琴) ん?
814
00:52:38,322 --> 00:52:42,201
お高くとまった お武家の犬
どうにかするよう言っとくれ!
815
00:52:42,326 --> 00:52:45,121
そんな大声で…
隣に聞こえるではないか
816
00:52:45,997 --> 00:52:47,874
聞こえるように言ってんだ!
817
00:52:50,418 --> 00:52:51,544
…ったく
818
00:52:51,878 --> 00:52:55,882
「八犬伝」とやらを ずっと書いてるから
犬が寄ってくんだよ!
819
00:52:56,090 --> 00:52:57,884
ハハハハッ…
820
00:52:58,009 --> 00:52:59,802
あたしゃ 猫好きなんだ
821
00:53:00,136 --> 00:53:03,055
猫の話にすりゃ よかったんだよ
822
00:53:03,431 --> 00:53:07,184
(宗伯) 駄目ですよ
お父様のお仕事の邪魔をしては
823
00:53:07,310 --> 00:53:08,269
(お百) ふん!
824
00:53:08,394 --> 00:53:12,732
こんな くたばりかけ同士の
与太話よたばなしが仕事だって?
825
00:53:12,899 --> 00:53:14,567
笑わせんじゃないよ!
826
00:53:14,692 --> 00:53:16,736
さあさあ あちらへ
827
00:53:20,531 --> 00:53:23,534
♪~
828
00:53:26,329 --> 00:53:28,122
(馬琴) ようやく宗伯も
829
00:53:28,831 --> 00:53:32,043
松前家の扶持ふちをいただく
身分になったのだが…
830
00:53:33,920 --> 00:53:35,212
(馬琴のため息)
831
00:53:35,463 --> 00:53:39,884
(馬琴) どうにも 病が抜けん
832
00:53:42,345 --> 00:53:45,514
(北斎) 医者の不養生ふようじょうかぁ
833
00:53:46,766 --> 00:53:48,184
(馬琴) この家も
834
00:53:48,309 --> 00:53:51,312
医者を開業するために
用意したのだが
835
00:53:52,897 --> 00:53:55,566
開店休業が続いておる
836
00:53:56,859 --> 00:54:00,696
八犬士のようには ゆかんなぁ
837
00:54:02,073 --> 00:54:03,866
ほーら ハハッ
~♪
838
00:54:03,866 --> 00:54:04,367
~♪
839
00:54:04,492 --> 00:54:05,534
出来たよ
840
00:54:05,785 --> 00:54:06,786
(馬琴) おっ…
841
00:54:08,996 --> 00:54:10,414
おおっ
842
00:54:13,793 --> 00:54:16,212
お前さんは ひと筆で
843
00:54:16,379 --> 00:54:19,173
これほどの絵を描き上げるのに
844
00:54:20,549 --> 00:54:24,720
最近 重信の絵が
845
00:54:25,554 --> 00:54:26,722
遅れがちなんだ
846
00:54:27,932 --> 00:54:31,811
(北斎) そういや
病気を患ってるとか言ってたな
847
00:54:32,228 --> 00:54:35,648
ならば お前さん
代わりに描いてくれんか?
848
00:54:36,857 --> 00:54:38,067
(北斎) 駄目!
849
00:54:40,486 --> 00:54:41,404
それどころか…
850
00:54:42,071 --> 00:54:44,448
当分 ここには
来れないかもしれねえ
851
00:54:45,741 --> 00:54:46,909
なんで?
852
00:54:47,076 --> 00:54:50,913
(北斎) 富士を とことんまで
描いてやろうと思い立ってね
853
00:54:54,125 --> 00:54:56,002
そのためには
854
00:54:56,502 --> 00:55:01,132
富士山の見える国を
全部 巡って歩かにゃならねえ
855
00:55:02,091 --> 00:55:05,011
海の上からだって こう
見えるしね
856
00:55:05,720 --> 00:55:07,221
海の上からか…
857
00:55:09,181 --> 00:55:10,683
(北斎) なんか…
858
00:55:11,642 --> 00:55:13,644
急に そわそわしてきた
859
00:55:14,603 --> 00:55:17,606
日も暮れたんで
今日は これで
860
00:55:28,868 --> 00:55:31,245
(北斎) ああ 日が暮れちゃう
861
00:55:31,954 --> 00:55:33,956
(拍子木の音)
862
00:55:34,081 --> 00:55:36,876
(若い衆の声援)
863
00:55:41,589 --> 00:55:43,132
(若い衆) 投げろ! 投げろ!
864
00:55:47,344 --> 00:55:50,389
(犬田小文吾いぬたこぶんご)
房六ふさろく まだまだ脇が甘いな
865
00:55:50,848 --> 00:55:52,266
(山林房六) クソッ!
866
00:55:53,267 --> 00:55:54,977
(小文吾) 今年の秋祭りも
867
00:55:55,102 --> 00:55:58,814
犬田屋の船が
奉納旗ばたを掲げるぞ!
868
00:55:58,939 --> 00:56:00,399
(犬田屋一同) おおー!
869
00:56:06,155 --> 00:56:07,573
(使いの者) 若旦那!
870
00:56:08,157 --> 00:56:11,452
か… 川で大将が お呼びです
871
00:56:12,578 --> 00:56:15,456
♪~
872
00:56:20,711 --> 00:56:23,714
~♪
873
00:56:26,842 --> 00:56:28,636
大丈夫 敵ではござらん
874
00:56:29,970 --> 00:56:33,599
(現八) ここは どこだ?
875
00:56:34,308 --> 00:56:38,771
(犬田文五兵衛ぶんごべえ) 利根川沿いの網元
犬田屋の営む旅籠はたごでございます
876
00:56:39,313 --> 00:56:40,231
現八殿
877
00:56:43,442 --> 00:56:44,693
文五兵衛殿!
878
00:56:45,861 --> 00:56:47,696
(信乃) お二人が
ここへ運んでくださり
879
00:56:48,322 --> 00:56:50,157
命拾いいたしました
880
00:56:50,407 --> 00:56:53,494
本当に ありがとうございました
881
00:56:53,619 --> 00:56:57,998
いえいえ 運んだのは
この小文吾でして
882
00:56:58,749 --> 00:57:03,796
私は 小舟で漂ってるお二人を
見つけただけです
883
00:57:03,921 --> 00:57:06,549
私からも礼を申す
884
00:57:07,883 --> 00:57:11,137
昔 侍だった頃
885
00:57:11,554 --> 00:57:14,473
お父上には
散々 お世話になりました
886
00:57:14,932 --> 00:57:16,225
それゆえ
887
00:57:16,809 --> 00:57:19,812
ここで こうして
現八殿のお役に立てて
888
00:57:19,937 --> 00:57:21,939
何よりでございます
889
00:57:27,903 --> 00:57:29,613
(現八) それにしても
890
00:57:30,072 --> 00:57:33,826
おぬしが私を
小舟へと引き上げたのは
891
00:57:34,118 --> 00:57:35,536
何ゆえ?
892
00:57:36,579 --> 00:57:39,456
私は おぬしを
捕まえようとしたのだぞ
893
00:57:40,749 --> 00:57:42,084
(信乃) おぬし
894
00:57:45,588 --> 00:57:47,173
このような珠を持っておらぬか
895
00:57:47,840 --> 00:57:50,843
♪~
896
00:57:54,096 --> 00:57:55,181
(信乃) やはりな
897
00:57:55,764 --> 00:57:58,392
戦っている時に
その頬のあざが見えた
898
00:57:59,894 --> 00:58:01,395
これは…
899
00:58:01,729 --> 00:58:02,938
どういうことだ
900
00:58:03,063 --> 00:58:03,939
(小文吾) 俺も
901
00:58:06,567 --> 00:58:09,987
俺の尻にも
牡丹ぼたんの形のあざがある
902
00:58:15,743 --> 00:58:16,952
(近づく足音)
903
00:58:17,077 --> 00:58:18,495
(障子が開く音)
~♪
904
00:58:19,246 --> 00:58:20,956
(男) 公方の追っ手が迫っている!
905
00:58:27,588 --> 00:58:29,590
(信乃たちの荒い息)
906
00:58:29,924 --> 00:58:31,759
(信乃)
さすがに もう大丈夫だろう
907
00:58:38,349 --> 00:58:39,975
(現八) ふう…
908
00:58:41,894 --> 00:58:42,895
(現八のため息)
909
00:58:43,145 --> 00:58:44,271
(現八) で…
910
00:58:45,856 --> 00:58:48,192
おぬしは一体 何者だ?
911
00:58:49,026 --> 00:58:50,945
なぜ我われらを助ける?
912
00:58:56,951 --> 00:58:58,244
(ゝ大ちゅだい法師) 拙者せっしゃ
♪~
913
00:58:58,244 --> 00:58:58,619
♪~
914
00:58:58,744 --> 00:59:03,332
南総里見家に仕える
金碗大輔と申す者
915
00:59:03,582 --> 00:59:07,544
二十年前に出家して
今はゝ大ちゅだい法師と名乗っております
916
00:59:09,088 --> 00:59:10,506
訳あって
917
00:59:10,923 --> 00:59:13,050
皆様がお持ちの その珠を
918
00:59:13,676 --> 00:59:17,304
二十年間 捜し求めてまいりました
919
00:59:18,264 --> 00:59:20,057
二十年間…
920
00:59:20,266 --> 00:59:21,392
(法師) これも
921
00:59:23,143 --> 00:59:25,396
伏姫様のお導き
922
00:59:26,939 --> 00:59:29,566
珠は全部で八つ ございます
923
00:59:30,401 --> 00:59:31,819
(小文吾) 八つ…
924
00:59:33,279 --> 00:59:34,571
珠は今
925
00:59:36,282 --> 00:59:39,326
強く 引き合っております
926
00:59:39,493 --> 00:59:41,996
そして 時を同じくして
927
00:59:42,663 --> 00:59:46,125
とてつもなく巨大で 凶悪な邪気が
928
00:59:46,625 --> 00:59:49,378
再び 動き始めました
929
00:59:52,923 --> 00:59:54,425
(扇谷おうぎがやつ定正) 何だと!
~♪
930
00:59:54,425 --> 00:59:55,467
~♪
931
00:59:55,592 --> 00:59:58,429
芳流閣ほうりゅうかくに間者だと!
932
00:59:58,887 --> 01:00:00,014
(在村) はっ
933
01:00:01,307 --> 01:00:03,183
公方様は ご無事です
934
01:00:03,309 --> 01:00:05,769
…が 間者は
935
01:00:06,061 --> 01:00:07,438
取り逃がしました
936
01:00:08,397 --> 01:00:11,400
♪~
937
01:00:13,360 --> 01:00:15,612
おお 玉梓
938
01:00:15,904 --> 01:00:18,157
(玉梓) 間者を取り逃がすとは
939
01:00:18,574 --> 01:00:23,537
そなたを芳流閣に潜ませている意味が
ないではないか 在村
940
01:00:24,079 --> 01:00:25,039
ははっ…
941
01:00:26,582 --> 01:00:28,000
定正様
942
01:00:28,792 --> 01:00:32,713
これは かねてより
ご建言けんげん 申し上げております―
943
01:00:33,088 --> 01:00:36,467
里見家の手の者の
仕業ではござりませぬか?
944
01:00:36,967 --> 01:00:41,013
(在村) 恐れながら
我が配下にあります里見義実は
945
01:00:41,138 --> 01:00:44,683
名君として 名を馳せております
好人物ゆえに まさか
946
01:00:44,808 --> 01:00:47,436
間者を送り込むような
そのような大たいそれたことを…
947
01:00:47,561 --> 01:00:49,563
ええい 黙れ!
948
01:00:51,065 --> 01:00:55,736
どいつも こいつも
里見 里見と こざかしい
949
01:00:58,238 --> 01:00:59,990
さては 在村
950
01:01:00,783 --> 01:01:04,328
そのように里見義実を持ち上げ
951
01:01:04,453 --> 01:01:07,289
この わしを愚弄ぐろうしておるのだな
952
01:01:08,540 --> 01:01:09,708
(在村) 滅相もござ…
953
01:01:10,501 --> 01:01:11,335
ああっ!
954
01:01:12,419 --> 01:01:14,004
(侍たち) うわっ うわあ…
955
01:01:14,129 --> 01:01:17,299
(河鯉権之佐かわごいごんのすけ)
騒ぐでない! 無礼討ちじゃ!
956
01:01:18,550 --> 01:01:21,387
早はよう 里見を取り除かねば
957
01:01:22,471 --> 01:01:24,848
災いになりましょうぞ
958
01:01:26,892 --> 01:01:29,895
~♪
959
01:01:30,938 --> 01:01:33,023
(義実) あれから二十年
960
01:01:33,357 --> 01:01:37,986
伏姫のおかげで
この里見家は安泰であった
961
01:01:38,278 --> 01:01:39,488
ただ
962
01:01:40,489 --> 01:01:44,660
あのあと 五ごの君きみが
大鷲に さらわれたことは
963
01:01:45,619 --> 01:01:47,329
いまだに悔やまれてならない
964
01:01:47,454 --> 01:01:49,248
(家臣たち) 姫! 姫!
(遠ざかる赤子の泣き声)
965
01:01:50,124 --> 01:01:54,378
(義実) 五の君を捜しに出た
世話役の世四郎と おとねも
966
01:01:54,670 --> 01:01:57,089
いまだに戻らぬままじゃ
967
01:02:00,384 --> 01:02:03,345
(信乃) やはり我らには
前世からの繋がりが あったようだな
968
01:02:03,470 --> 01:02:05,139
(現八) ゝ大ちゅだい法師は別れ際に
969
01:02:05,264 --> 01:02:08,892
“新たなる珠の力が導く方へ
向かう”と言われていた
970
01:02:09,017 --> 01:02:12,229
(小文吾) 我らも手分けして
珠を持つ残りの犬士を探そう
971
01:02:12,354 --> 01:02:13,188
(現八) おう
972
01:02:13,313 --> 01:02:16,692
とにかく 私の知る もう一人の犬士に
早く引き合わせたい
973
01:02:16,817 --> 01:02:18,110
先を急ごう
974
01:02:24,950 --> 01:02:25,868
(信乃) 荘助…
975
01:02:26,910 --> 01:02:28,078
荘助ではないか
976
01:02:28,454 --> 01:02:30,289
はあっ ああっ…
♪~
977
01:02:30,414 --> 01:02:31,665
(信乃) 荘助!
978
01:02:33,167 --> 01:02:34,376
荘助
979
01:02:37,212 --> 01:02:38,547
(信乃) 何があった?
980
01:02:39,131 --> 01:02:40,507
浜路様…
981
01:02:41,091 --> 01:02:42,634
浜路様が…
982
01:02:42,843 --> 01:02:44,887
浜路が どうしたというのだ?
983
01:02:45,012 --> 01:02:47,848
~♪
984
01:02:48,640 --> 01:02:50,225
(宗伯) こちらでございます
985
01:02:53,353 --> 01:02:55,355
(宗伯) ここへ お願いします
(北斎) よう
986
01:02:55,481 --> 01:02:58,150
あっ おはようございます
北斎先生
987
01:02:58,525 --> 01:03:02,571
今日は 父を中村座に
ご招待いただき ありがとうございます
988
01:03:02,696 --> 01:03:07,367
なあに 尾上菊五郎おのえきくごろうの野郎に
女の幽霊の絵を描いてやったんだが
989
01:03:07,493 --> 01:03:10,287
そのお礼に とかで
呼ばれちまったんだよ
990
01:03:10,829 --> 01:03:15,792
鶴屋南北つるやなんぼく先生の新作で
今 大評判の「東海道四谷怪談」ですよね
991
01:03:16,627 --> 01:03:19,296
なんでも 二日にわたる大芝居だとか
992
01:03:22,257 --> 01:03:27,221
曲亭先生は きっと
南北のことが気になってるぜ
993
01:03:27,346 --> 01:03:29,848
(馬琴) おい 待たせたな
(北斎) ああ いやいや
994
01:03:30,474 --> 01:03:32,351
(宗伯) さあ 北斎先生
お乗りくださりませ
995
01:03:32,476 --> 01:03:35,020
(北斎) おいらは 要らねえよ
駕籠は嫌いなんだ
996
01:03:35,145 --> 01:03:35,979
(宗伯) でも…
997
01:03:36,104 --> 01:03:38,774
(北斎) 今まで どこ行くにも
駕籠なんか乗ったことはねえ
998
01:03:38,899 --> 01:03:40,442
曲亭さんだけで いいよ
999
01:03:41,026 --> 01:03:41,944
おい 行こう
1000
01:03:42,069 --> 01:03:43,946
(街のざわめき)
1001
01:03:53,163 --> 01:03:56,041
(中村座の呼び込みの声)
1002
01:03:59,127 --> 01:04:00,379
(呼び込み) 四谷怪談ですよ
1003
01:04:00,504 --> 01:04:04,383
(幕開きの音楽)
1004
01:04:08,470 --> 01:04:10,055
(木戸番) こちらでございやす
1005
01:04:11,640 --> 01:04:14,643
しまった! もう始まってらぁ
1006
01:04:17,646 --> 01:04:20,232
(馬琴)
今 幕が開いたばかりのようだな
1007
01:04:20,857 --> 01:04:25,737
(義太夫ぎたゆう) 顔に似合わぬ 様さま 参る
1008
01:04:26,905 --> 01:04:30,284
あれ?
こりゃ 「忠臣蔵」じゃねえか
1009
01:04:30,534 --> 01:04:35,247
(木戸番) いえ これも
「四谷怪談」のお芝居なんでございやす
1010
01:04:41,503 --> 01:04:43,505
(判官はんがん) 師直もろなお 待て
1011
01:04:43,630 --> 01:04:47,342
(師直) ああ どけ どかぬか
1012
01:04:47,467 --> 01:04:50,429
袴はかまが破れる
1013
01:04:52,055 --> 01:04:55,058
やっぱり「忠臣蔵」じゃねえか
1014
01:04:56,101 --> 01:04:58,854
おいら この芝居
好きじゃねえんだよ
1015
01:05:00,397 --> 01:05:02,065
(馬琴) 私は好きだ
1016
01:05:03,233 --> 01:05:05,527
「忠臣蔵」は何度 見てもいい
1017
01:05:06,069 --> 01:05:09,740
へえー こんな誰でも知ってる芝居が
好きかい
1018
01:05:10,198 --> 01:05:14,202
百年前の 実際にあった事件を
題材にして
1019
01:05:14,536 --> 01:05:17,581
巧妙に絵空事えそらごとを織り込んで
1020
01:05:19,207 --> 01:05:22,127
何とも言えんほど うまく出来ている
1021
01:05:22,919 --> 01:05:25,172
神のごとき出し物だ
1022
01:05:32,763 --> 01:05:34,181
(三味線の音色)
1023
01:05:34,306 --> 01:05:35,807
(北斎) ああっ…
1024
01:05:37,517 --> 01:05:40,771
やっと「忠臣蔵」じゃねえ芝居に
なったじゃねえか
1025
01:05:41,480 --> 01:05:43,899
半日も待たせやがって
1026
01:05:44,941 --> 01:05:46,943
(お岩) この蚊帳かやがないとな
1027
01:05:47,069 --> 01:05:50,989
あの子が夜
ひどい蚊に せめられて
1028
01:05:51,114 --> 01:05:54,534
(伊右衛門いえもん) 蚊が食くはば 親の役だ
1029
01:05:54,660 --> 01:05:56,495
追ってやれ
1030
01:05:57,079 --> 01:05:58,997
(伊右衛門) 離せ
(お岩) 離しゃせず
1031
01:05:59,122 --> 01:06:00,582
(伊右衛門) 離せ
(お岩) 離しゃせず
1032
01:06:00,707 --> 01:06:02,167
(伊右衛門) 離せ
(お岩) 離しゃせず
1033
01:06:03,001 --> 01:06:04,878
(北斎) 何だ こりゃ
1034
01:06:05,754 --> 01:06:07,798
支離滅裂だな
1035
01:06:17,474 --> 01:06:21,853
(お岩) 今をも知れぬ この岩が
1036
01:06:21,978 --> 01:06:26,274
死なば正まさしく その娘
1037
01:06:26,400 --> 01:06:29,695
祝言さするは
1038
01:06:29,820 --> 01:06:33,281
これ眼前がんぜん
1039
01:06:37,035 --> 01:06:38,453
(伊右衛門) 岩
1040
01:06:38,995 --> 01:06:41,081
許してくれろ
1041
01:06:41,206 --> 01:06:44,710
あやまった
1042
01:06:45,460 --> 01:06:51,174
民谷たみやの血筋 伊藤喜兵衛きへえが
1043
01:06:51,299 --> 01:06:58,306
根葉ねはを枯らして この恨み
1044
01:07:00,517 --> 01:07:01,810
(北斎) ああ…
1045
01:07:03,395 --> 01:07:05,147
怖いね
1046
01:07:05,731 --> 01:07:07,149
(馬琴) 怖い
1047
01:07:12,821 --> 01:07:15,907
(北斎) 菊五郎の奴も 人が悪いや
1048
01:07:16,408 --> 01:07:19,161
あれじゃあ おいらの描いた
幽霊の絵なんて目じゃねえや
1049
01:07:19,286 --> 01:07:20,370
あっ…
1050
01:07:23,707 --> 01:07:25,876
菊五郎に祝儀やるの 忘れたわ
1051
01:07:26,001 --> 01:07:28,170
明日 渡せばよいではないか
1052
01:07:29,796 --> 01:07:33,008
おや 明日も来るつもりかい?
1053
01:07:34,217 --> 01:07:37,679
本当のところは見たくない
気色が悪い
1054
01:07:38,305 --> 01:07:40,974
しかし 二日がかりの
芝居なんだから
1055
01:07:41,099 --> 01:07:43,351
見なきゃ 義理が悪かろう
1056
01:07:49,441 --> 01:07:54,404
(三味線と太鼓の音色)
1057
01:08:04,998 --> 01:08:07,209
ああっ… 岩!
1058
01:08:16,593 --> 01:08:20,722
(重太郎じゅうたろう) 天あまと かけなば
(喜多八きたはち) 河と答へん
1059
01:08:20,931 --> 01:08:24,100
(由良之助ゆらのすけ) 然しからば いづれも
1060
01:08:24,518 --> 01:08:25,811
(皆々) はぁ
1061
01:08:25,936 --> 01:08:29,397
何だよ また「忠臣蔵」かよ
1062
01:08:34,069 --> 01:08:39,407
えいえい おー
1063
01:08:40,992 --> 01:08:47,833
(幕切れの音楽)
1064
01:08:52,295 --> 01:08:54,047
(馬琴) 実に どうも
1065
01:08:54,631 --> 01:08:57,926
とんでもない芝居を考える者が
あったものだ
1066
01:08:59,386 --> 01:09:02,055
まるっきり つじつまが合わん
1067
01:09:02,722 --> 01:09:04,349
まったくだ
1068
01:09:05,475 --> 01:09:09,646
桜の絵の真ん中に
墨汁を落としたような芝居だな
1069
01:09:11,439 --> 01:09:14,234
(木戸番) 菊五郎さんのところへ
ご案内いたしやす
1070
01:09:14,359 --> 01:09:17,153
ああ そうだった
また忘れるとこだった
1071
01:09:17,279 --> 01:09:18,113
行こう
1072
01:09:26,621 --> 01:09:27,747
(木戸番) あっ…
1073
01:09:27,873 --> 01:09:30,792
ここから奈落に下りることに
なっておりやす
1074
01:09:31,293 --> 01:09:35,630
ついでだから 奈落ってぇやつを
ご覧になりやすか?
1075
01:09:35,755 --> 01:09:37,883
(馬琴) それはぜひ 見せてもらおう
1076
01:09:55,191 --> 01:09:58,945
(木戸番) この“ぶん回し”の柱に
柱だけの人数が取りついて
1077
01:09:59,070 --> 01:10:02,365
それを回すと 上の舞台が回る
仕掛けになっておりやすんで
1078
01:10:02,490 --> 01:10:04,159
(馬琴) ほお…
1079
01:10:04,993 --> 01:10:06,077
(木戸番) あれ?
1080
01:10:08,038 --> 01:10:10,248
誰か おるようでござんすね
1081
01:10:13,627 --> 01:10:14,628
(馬琴) おおっ!
1082
01:10:15,795 --> 01:10:16,838
(鶴屋南北) お前さんか
1083
01:10:17,047 --> 01:10:18,673
(木戸番) 南北先生でござんしたか
1084
01:10:18,798 --> 01:10:20,091
(南北) ああ
1085
01:10:20,342 --> 01:10:23,887
せりの具合に
気になるところがあってね
1086
01:10:24,763 --> 01:10:25,889
お前さん どうした?
1087
01:10:26,556 --> 01:10:29,309
あっ 今日 滝沢馬琴先生と
1088
01:10:29,434 --> 01:10:32,729
葛飾北斎先生が
芝居を見に来てくださったんで
1089
01:10:32,854 --> 01:10:35,148
ちょいと 奈落をお見せしようと
1090
01:10:35,273 --> 01:10:39,653
ああっ 曲亭先生と北斎先生が…
1091
01:10:39,778 --> 01:10:41,363
それは それは
1092
01:10:41,529 --> 01:10:45,408
嬉しくもあり 恥ずかしくもある
1093
01:10:45,825 --> 01:10:50,789
作者の鶴屋南北にござります
よう おいでくだされました
1094
01:10:50,914 --> 01:10:54,125
ええ… 今 ちょっと
1095
01:10:54,250 --> 01:10:58,254
下りられない形になっておりまして
失礼ではございますが…
1096
01:10:58,380 --> 01:11:01,508
ああ いやいやいや
おいらたちゃ もう すぐ行くから
1097
01:11:01,633 --> 01:11:03,301
申し訳ございません
1098
01:11:04,302 --> 01:11:06,888
しかし とにかく…
1099
01:11:07,347 --> 01:11:09,933
あんたの芝居には驚いた
1100
01:11:11,434 --> 01:11:15,522
曲亭さんの怪談は面白いが
あんたの怪談は怖い
1101
01:11:17,190 --> 01:11:22,404
でも 「忠臣蔵」に
怪談を挟み込むたぁ
1102
01:11:22,529 --> 01:11:25,240
曲亭さんは怒ってるぜ
1103
01:11:25,740 --> 01:11:26,908
恐れ入ります
1104
01:11:27,200 --> 01:11:28,284
(馬琴) いや
1105
01:11:29,077 --> 01:11:31,579
よく考えて お書きになっている
1106
01:11:31,746 --> 01:11:34,916
私は大変 感服いたした
1107
01:11:35,333 --> 01:11:37,544
(北斎) いやいや でも あんた…
1108
01:11:39,045 --> 01:11:41,423
“とんでもない芝居を書く奴が
あったものだ”
1109
01:11:41,548 --> 01:11:43,508
“まったく つじつまが合わん”
って さっき…
1110
01:11:43,633 --> 01:11:44,759
言った
1111
01:11:46,803 --> 01:11:50,515
よく考えているのに
つじつまが合わんのか?
1112
01:11:50,640 --> 01:11:52,058
そのとおりだ
1113
01:11:52,183 --> 01:11:54,019
(南北) ハッハッハッハッ…
1114
01:11:54,144 --> 01:11:55,311
おおっ おお…
1115
01:11:55,311 --> 01:11:57,647
おおっ おお…
♪~
1116
01:11:58,857 --> 01:12:00,900
(南北) ああ… あっ!
1117
01:12:02,068 --> 01:12:03,486
私わたくしこそ
1118
01:12:03,611 --> 01:12:08,533
曲亭先生のお書きのものは
いつも拝見して 感服しております
1119
01:12:09,409 --> 01:12:11,911
よく まあ 水も漏らさず
1120
01:12:12,037 --> 01:12:15,415
善因善果 悪因悪果
1121
01:12:15,540 --> 01:12:18,251
勧善懲悪かんぜんちょうあくを貫いていらっしゃる
1122
01:12:18,376 --> 01:12:21,004
まあ 世辞はいいです
1123
01:12:21,296 --> 01:12:22,464
それより
1124
01:12:23,548 --> 01:12:28,928
「忠臣蔵」という実の芝居に
なぜ虚の怪談話を はめ込まれた?
1125
01:12:29,345 --> 01:12:31,681
(南北) ハハッ… あの…
1126
01:12:32,849 --> 01:12:35,560
嘘話の怪談だけだと
1127
01:12:35,685 --> 01:12:38,271
お上かみから きっと
お叱りを受けそうで
1128
01:12:38,396 --> 01:12:42,901
それで 「忠臣蔵」の皮でくるむ…
1129
01:12:43,526 --> 01:12:47,238
ただの“逃げ手”とでも
申しましょうか
1130
01:12:47,572 --> 01:12:51,326
それにしては
手が込んでおりますな
1131
01:12:52,285 --> 01:12:55,371
巧みな工夫で「忠臣蔵」の中に
1132
01:12:55,497 --> 01:12:59,417
怪談仕立ての「義士外伝」を
はめ込み しかも…
1133
01:12:59,834 --> 01:13:04,756
怪談そのものが
「忠臣蔵」の裏返しになっておる
1134
01:13:05,507 --> 01:13:08,134
さすがは曲亭先生ですな
1135
01:13:08,510 --> 01:13:10,929
裏返しに お気づきでしたか
1136
01:13:12,097 --> 01:13:17,685
そうやって 実の世界に
虚の世界を加えることで
1137
01:13:17,811 --> 01:13:20,563
ただの加くわえ算ではなく
掛け算のような
1138
01:13:20,688 --> 01:13:22,857
妙な味が出てきやせんかと
思いやしてね
1139
01:13:23,608 --> 01:13:27,821
あれは 加え算でも掛け算でもなく
引き算でしょ!
1140
01:13:27,946 --> 01:13:30,907
おいおい 曲亭さん
1141
01:13:32,826 --> 01:13:34,119
南北さん
1142
01:13:34,869 --> 01:13:37,372
あんたの本当の狙いは
1143
01:13:38,164 --> 01:13:41,251
「忠臣蔵」を愚弄ぐろうすることでは
なかったのかね
1144
01:13:41,960 --> 01:13:44,504
へへへヘヘッ
1145
01:13:45,130 --> 01:13:48,258
あるいは そうかもしれませんなぁ
1146
01:13:50,385 --> 01:13:52,679
なぜ そのようなことをされる?
1147
01:13:53,596 --> 01:13:57,767
さっき あたしが
「四谷怪談」を嘘話と申したのは
1148
01:13:57,892 --> 01:13:59,811
あれは遠慮したからで
1149
01:13:59,936 --> 01:14:03,690
本当は 「四谷怪談」のほうが実で
1150
01:14:03,815 --> 01:14:07,735
「忠臣蔵」が嘘話 つまり虚だと
1151
01:14:07,861 --> 01:14:09,988
あたしは考えているので
ございます
1152
01:14:10,822 --> 01:14:12,365
何じゃと!
1153
01:14:13,616 --> 01:14:16,995
(北斎) ハッ ハハハッ…
1154
01:14:17,120 --> 01:14:20,832
なるほど 言われてみりゃ
そうかもしれねえなぁ
1155
01:14:20,957 --> 01:14:23,376
「忠臣蔵」なんて
でたらめもいいとこだ
1156
01:14:23,501 --> 01:14:25,587
(馬琴) いい加減にせんか!
(北斎) え?
1157
01:14:27,672 --> 01:14:29,257
(南北) 曲亭先生
1158
01:14:29,799 --> 01:14:33,720
もし あたしの怪談が
本当に怖いなら
1159
01:14:34,429 --> 01:14:39,267
そりゃ あれが実の世界を
描えがいたものだから でございましょう
1160
01:14:39,809 --> 01:14:41,603
あたしは この浮世は
1161
01:14:41,811 --> 01:14:45,732
善因悪果 悪因善果
1162
01:14:46,816 --> 01:14:50,570
良き者が憂うき目に遭い
悪あしき者が栄える
1163
01:14:50,695 --> 01:14:54,532
まるで つじつまの合わない
怪談だらけの世の中だと
1164
01:14:54,657 --> 01:14:56,159
思っておりますんで
1165
01:14:57,660 --> 01:15:00,455
つじつまの合わん浮世だからこそ
1166
01:15:00,580 --> 01:15:04,375
つじつまの合う世界が
必要とされておるのだ!
1167
01:15:04,500 --> 01:15:06,920
(南北) しかし それは無意味な
1168
01:15:07,212 --> 01:15:10,840
ただの つじつま合わせでは
ございますまいか
1169
01:15:16,054 --> 01:15:17,972
お前さんの世界は
1170
01:15:19,557 --> 01:15:20,892
有害だ!
1171
01:15:21,434 --> 01:15:26,814
有害のほうが 無意味よりは
まだ意味があると
1172
01:15:26,940 --> 01:15:29,567
あたくしは考えているんで
ございます
1173
01:15:36,032 --> 01:15:37,367
(木戸番) あっ いけねえ
1174
01:15:37,784 --> 01:15:40,912
ろうそくが 燃え尽きやす
1175
01:15:41,496 --> 01:15:43,706
うん うん
1176
01:15:43,831 --> 01:15:47,835
こりゃ 回り舞台のように
果てしがないわい
1177
01:15:47,961 --> 01:15:49,712
つじつま論は
もう おやめ おやめ!
1178
01:15:49,837 --> 01:15:51,005
おう 曲亭さん
1179
01:15:51,256 --> 01:15:53,383
もうそろそろ 帰ろう
1180
01:15:53,758 --> 01:15:55,677
お岩さんが出てくるぞ
1181
01:16:02,100 --> 01:16:05,061
妙な長問答ながもんどうして
1182
01:16:06,271 --> 01:16:07,397
失礼した
1183
01:16:09,565 --> 01:16:10,942
(南北) いえいえ
1184
01:16:11,818 --> 01:16:14,737
私のほうこそ
とんだ ご無礼を
1185
01:16:15,029 --> 01:16:16,948
平ひらにお許しを…
1186
01:16:18,074 --> 01:16:20,451
お気を悪くされず
1187
01:16:20,576 --> 01:16:27,542
これからもどうぞ
南北めの芝居を ご贔屓ひいきに
1188
01:16:27,667 --> 01:16:30,670
~♪
1189
01:16:30,795 --> 01:16:33,840
(拍子木の音)
1190
01:16:33,965 --> 01:16:35,216
浜路が死んだ?
1191
01:16:35,341 --> 01:16:38,886
(荘助) 申し訳ありません
私がついていながら…
1192
01:16:39,304 --> 01:16:41,556
崖下を隈くまなく捜しましたが
1193
01:16:41,764 --> 01:16:44,350
浜路様のお姿は 既になく…
1194
01:16:45,310 --> 01:16:47,103
川に流されたか
1195
01:16:47,687 --> 01:16:48,604
(現八) いや
1196
01:16:49,230 --> 01:16:51,441
まだ亡くなったとは
1197
01:16:52,358 --> 01:16:53,234
限らんぞ
1198
01:16:53,359 --> 01:16:57,447
そうだ まだ諦めてはいかんぞ
信乃殿
1199
01:16:59,407 --> 01:17:01,326
(現八) それにしても
1200
01:17:01,868 --> 01:17:05,330
村雨を奪った その修験者しゅげんじゃとは
1201
01:17:06,247 --> 01:17:08,333
一体 何者だ?
1202
01:17:08,583 --> 01:17:10,501
(荘助) 村雨を奪い
1203
01:17:12,587 --> 01:17:15,340
“これで定正を討てる”と
申しておりました
1204
01:17:17,133 --> 01:17:18,176
そして
1205
01:17:19,385 --> 01:17:21,095
この珠を持っておりました
1206
01:17:25,308 --> 01:17:28,269
(水しぶきが飛ぶ音)
1207
01:17:29,395 --> 01:17:31,481
(定正) おおっ
1208
01:17:32,148 --> 01:17:34,734
これは見事じゃ
1209
01:17:36,069 --> 01:17:39,864
紛まごうことなき 名刀“村雨”
1210
01:17:41,699 --> 01:17:46,746
これを わしに献上とは
殊勝しゅしょうな心がけじゃ
1211
01:17:47,121 --> 01:17:48,790
(定正) 褒美を遣わす
1212
01:17:49,665 --> 01:17:52,668
ははっ ありがたき幸せ
1213
01:18:01,677 --> 01:18:04,680
♪~
1214
01:18:05,014 --> 01:18:06,849
今夜 中の院で宴うたげを開く
1215
01:18:07,308 --> 01:18:09,018
その席に参れ
1216
01:18:11,270 --> 01:18:12,271
ははっ
1217
01:18:12,397 --> 01:18:13,523
~♪
1218
01:18:13,523 --> 01:18:14,690
~♪
くっ…
1219
01:18:15,316 --> 01:18:18,319
♪~
1220
01:18:26,661 --> 01:18:27,995
(神楽鈴の音)
1221
01:19:26,762 --> 01:19:31,642
(定正) あの踊り子は
“あさけの”と申したのう
1222
01:19:31,767 --> 01:19:33,686
さようでございます
1223
01:19:34,687 --> 01:19:38,858
わしは大いに気に入ったぞ
1224
01:19:42,695 --> 01:19:45,239
(定正) ああ よい よい
1225
01:20:04,884 --> 01:20:06,886
(襖ふすまが開く音)
1226
01:20:20,525 --> 01:20:20,942
~♪
1227
01:20:20,942 --> 01:20:23,528
~♪
(玉梓) 定正様 いけませぬ!
1228
01:20:24,195 --> 01:20:26,572
♪~
1229
01:20:27,615 --> 01:20:31,869
(犬坂いぬさか毛野けの) 我こそは
扇谷定正の罠にかかり 殺された―
1230
01:20:31,994 --> 01:20:35,831
相原胤度あいはらたねのりが一子いっし
犬坂毛野
1231
01:20:35,957 --> 01:20:40,419
父の敵かたき 定正の首
頂戴いたす
1232
01:20:40,545 --> 01:20:41,629
おのれ!
1233
01:20:42,129 --> 01:20:43,172
(毛野) うっ…
1234
01:20:48,511 --> 01:20:50,054
(息切れ)
1235
01:20:50,179 --> 01:20:52,181
伏姫め…
1236
01:20:52,306 --> 01:20:54,600
~♪
1237
01:20:55,810 --> 01:20:58,354
(道節) あっ これは…
1238
01:20:59,063 --> 01:20:59,855
♪~
1239
01:20:59,855 --> 01:21:01,065
♪~
(侍) おい!
1240
01:21:05,987 --> 01:21:07,113
(足音)
1241
01:21:07,238 --> 01:21:09,532
はあっ!
1242
01:21:17,373 --> 01:21:20,543
里見の手の者だ 捕らえよ
1243
01:21:20,668 --> 01:21:21,502
捕らえよ!
1244
01:21:23,588 --> 01:21:24,630
(道節) おぬしは?
1245
01:21:25,298 --> 01:21:27,216
話はあとだ 逃げるぞ!
1246
01:21:27,341 --> 01:21:28,175
(侍) はあっ!
1247
01:21:31,929 --> 01:21:33,264
おぬしも来い!
1248
01:21:34,515 --> 01:21:36,142
たぶん俺たちは
1249
01:21:37,059 --> 01:21:38,311
仲間だ
1250
01:21:49,030 --> 01:21:49,947
ふん!
1251
01:21:52,742 --> 01:21:54,785
(侍たち) 退ひけ! 退け!
1252
01:21:57,580 --> 01:21:58,664
信乃!
1253
01:22:04,920 --> 01:22:06,005
行くぞ
1254
01:22:11,469 --> 01:22:14,472
~♪
1255
01:22:16,057 --> 01:22:18,434
(鳴き声)
1256
01:22:22,730 --> 01:22:23,731
(北斎) 参った
1257
01:22:26,192 --> 01:22:27,485
ヘヘッ
1258
01:22:28,110 --> 01:22:32,406
おいらも
ちったぁ 気にはしてたんだ
1259
01:22:33,199 --> 01:22:37,078
しばらく「八犬伝」が出てねえって
聞いててよ
1260
01:22:38,454 --> 01:22:39,664
でも
1261
01:22:40,206 --> 01:22:43,042
今の筋立てを聞くにつけ
1262
01:22:44,168 --> 01:22:47,088
心配ご無用って感じだな
1263
01:22:47,880 --> 01:22:48,881
(北斎の笑い声)
1264
01:22:49,006 --> 01:22:51,175
(馬琴) お前さんが
人のことを心配するとは
1265
01:22:51,300 --> 01:22:53,219
天変地異の前触れだな
1266
01:22:53,344 --> 01:22:55,221
(北斎) なあに ハハッ
1267
01:22:55,388 --> 01:22:59,183
「八犬伝」が中途半端なまま
筆折れってのも お前
1268
01:22:59,308 --> 01:23:01,143
夢見が悪いだけよ
1269
01:23:02,311 --> 01:23:04,230
(馬琴) 本が遅れているのは
1270
01:23:05,106 --> 01:23:07,775
版元が いろいろと
問題を起こしたので
1271
01:23:07,900 --> 01:23:10,152
出したくても
出せなかったのだ
1272
01:23:11,362 --> 01:23:13,781
(北斎) それなら いいがね
1273
01:23:15,491 --> 01:23:16,659
ほら
1274
01:23:17,201 --> 01:23:19,954
南北の一件があってからさ
1275
01:23:20,204 --> 01:23:24,375
あんた えらく おくたびれのように
見えたからさ
1276
01:23:26,585 --> 01:23:29,213
あの奈落での問答のあと
1277
01:23:30,256 --> 01:23:34,593
正直なところ
かなり 筆に迷いが出た
1278
01:23:34,844 --> 01:23:37,722
南北の野郎に
いいように言われたんだ
1279
01:23:38,597 --> 01:23:40,391
あんたのことだから
1280
01:23:40,516 --> 01:23:43,811
あれこれと気が落ち着かねえだろう
とは思ったがね
1281
01:23:44,353 --> 01:23:45,396
ヘヘッ
1282
01:23:45,563 --> 01:23:49,650
でも こうして
また書く気になったんだ
1283
01:23:49,775 --> 01:23:51,193
それで いいじゃねえか
1284
01:23:51,318 --> 01:23:53,320
ほれ… おいらの やるよ
1285
01:23:53,696 --> 01:23:54,780
(馬琴) おお…
1286
01:24:01,746 --> 01:24:03,748
♪~
1287
01:24:08,753 --> 01:24:10,671
んんっ…
1288
01:24:13,883 --> 01:24:15,301
うーん…
1289
01:24:15,885 --> 01:24:17,595
(北斎) 何でえ お前
1290
01:24:18,846 --> 01:24:22,016
腹痛はらいたなら さっさと厠かわやへ行け
1291
01:24:24,351 --> 01:24:27,646
(馬琴)
こんな しょぼくれた爺じいさんから
1292
01:24:28,731 --> 01:24:31,525
どうやって これほどの躍動が
1293
01:24:32,443 --> 01:24:34,445
ひねり出せるのか
1294
01:24:35,446 --> 01:24:38,032
ハハッ…
1295
01:24:38,949 --> 01:24:41,410
もはや お前さんそのものが
1296
01:24:41,744 --> 01:24:43,204
怪談だ
1297
01:24:43,996 --> 01:24:45,831
(北斎) ふん
(馬琴) ハハッ…
1298
01:24:45,956 --> 01:24:50,586
(北斎) その言葉 そっくりそのまんま
あんたに お返しだぜ
1299
01:24:50,836 --> 01:24:52,880
曲亭さんよ
1300
01:24:53,756 --> 01:24:55,549
(馬琴) そうだな
1301
01:24:57,343 --> 01:24:58,928
まだまだ…
1302
01:24:59,136 --> 01:25:00,054
~♪
1303
01:25:00,054 --> 01:25:02,139
~♪
くたびれては おれんなぁ
1304
01:25:02,556 --> 01:25:03,557
(北斎) で…
1305
01:25:03,933 --> 01:25:06,227
どうなんだい? 宗伯のほうは
1306
01:25:06,769 --> 01:25:08,312
ちっとは よくなったのかね
1307
01:25:08,771 --> 01:25:10,189
(馬琴) いやぁ
1308
01:25:10,689 --> 01:25:15,444
最近は 家を出ることもなく
ほとんど横になっている
1309
01:25:16,904 --> 01:25:22,535
それでも 「八犬伝」の校正などを
きちんと やってくれてるから
1310
01:25:23,244 --> 01:25:24,495
助かっては いる
1311
01:25:24,620 --> 01:25:25,871
(障子が開く音)
1312
01:25:26,872 --> 01:25:28,666
(太郎) カナリア カナリア
1313
01:25:28,791 --> 01:25:31,794
(お路みち) これ! 太郎 おつぎ
1314
01:25:34,046 --> 01:25:37,132
(太郎) だって おばあちゃんが
カナリア見ておいでって
1315
01:25:37,758 --> 01:25:41,095
(お百) こっちは炭団たどん作りで
忙しいんだよ!
1316
01:25:41,762 --> 01:25:45,307
じじい二人で
半日も おしゃべりしてちゃ
1317
01:25:45,432 --> 01:25:47,142
罰が当たるってんだよ!
1318
01:25:47,518 --> 01:25:49,854
(太郎) あっ フンした
(北斎) ああ フンしたか
1319
01:25:50,938 --> 01:25:53,023
(お路) では お願いします
1320
01:25:59,572 --> 01:26:01,949
なかなか お前
器量よしじゃねえか
1321
01:26:03,742 --> 01:26:06,078
まあ 器量はともかく
1322
01:26:06,537 --> 01:26:07,830
どうにも…
1323
01:26:10,499 --> 01:26:11,959
愛想が悪い
1324
01:26:12,418 --> 01:26:14,587
しかし まあ
1325
01:26:14,795 --> 01:26:18,048
よく こんな家うちに嫁に来たもんだ
1326
01:26:18,424 --> 01:26:20,676
(北斎) ヘヘッ
(馬琴) 何だと?
1327
01:26:21,802 --> 01:26:22,928
ほれ
1328
01:26:23,721 --> 01:26:25,014
ほれ ほれ
1329
01:26:25,139 --> 01:26:26,515
(おつぎ) 行くよ
1330
01:26:29,310 --> 01:26:31,604
(お百) なんで
また戻ってきたんだい!
1331
01:26:31,729 --> 01:26:34,273
(お百) ああ 触るんじゃないよ!
(北斎) ハハハッ…
1332
01:26:34,648 --> 01:26:37,985
あの婆ばあさんに
炭団ぶっつけられねえうちに
1333
01:26:38,402 --> 01:26:40,029
おいらも退散するかな
1334
01:26:40,154 --> 01:26:41,614
(馬琴) おい!
(北斎) ん?
1335
01:26:42,281 --> 01:26:44,033
今日は一枚だけか
1336
01:26:44,658 --> 01:26:47,661
こう見えて
おいらも忙しいんでね ヘヘッ
1337
01:26:48,370 --> 01:26:51,624
「冨嶽ふがく三十六景」も
まとまったことだし
1338
01:26:51,916 --> 01:26:55,127
今度は「冨嶽百景」ってのを
出すつもりだ
1339
01:26:55,377 --> 01:26:57,171
“百景”か
1340
01:26:57,838 --> 01:27:02,509
(北斎) まだまだ 若造の広重ひろしげなんぞに
負けちゃいられねえや
1341
01:27:07,556 --> 01:27:08,641
はい
1342
01:27:11,226 --> 01:27:12,353
おっ?
1343
01:27:15,064 --> 01:27:16,148
ヘヘッ
1344
01:27:18,275 --> 01:27:21,278
あんたも せいぜい長生きして
1345
01:27:21,862 --> 01:27:23,906
“百犬伝”でも書きな
1346
01:27:25,532 --> 01:27:29,453
ハハッ ハハハハハッ…
1347
01:27:33,958 --> 01:27:35,167
(玄関の戸を閉める音)
1348
01:27:37,962 --> 01:27:40,297
お百さん 精が出るね
1349
01:27:40,422 --> 01:27:41,548
(舌打ち)
1350
01:27:41,757 --> 01:27:46,428
あたしだって 好きで
炭団 丸めてんじゃないんだよ
1351
01:27:46,553 --> 01:27:47,721
(北斎) ええ?
1352
01:27:48,180 --> 01:27:50,599
あんたからも言っとくれよ
1353
01:27:51,141 --> 01:27:54,144
草双紙くさぞうしやら人情本にんじょうぼんやら
1354
01:27:54,269 --> 01:27:56,855
もっと世間様に合わせりゃ
1355
01:27:57,398 --> 01:27:59,650
楽に お金が入んのに
1356
01:28:00,067 --> 01:28:02,277
一人で いばりくさって
1357
01:28:02,736 --> 01:28:05,531
じゃあな また来るよ
ヘヘッ
1358
01:28:05,990 --> 01:28:07,324
何でえ!
1359
01:28:08,325 --> 01:28:09,994
みんなして
1360
01:28:10,703 --> 01:28:13,414
あたしを 除のけ者にしやがって
1361
01:28:13,872 --> 01:28:17,126
どうせ あたしゃ無学ですよ!
1362
01:28:18,252 --> 01:28:23,841
何かと言や 人に知られた
滝沢馬琴の妻らしく しろって
1363
01:28:24,091 --> 01:28:26,468
説教ばっかり しやがって
1364
01:28:26,760 --> 01:28:28,804
あたしゃ
下駄屋の女房やってたほうが
1365
01:28:28,929 --> 01:28:31,515
よっぽど楽に暮らせたんだよ!
1366
01:28:35,185 --> 01:28:37,021
(宗伯) いい加減にしてください!
1367
01:28:39,148 --> 01:28:40,733
父上は立派な方です
1368
01:28:41,483 --> 01:28:44,737
正直言って あなたには
もったいないお方だ
1369
01:28:44,862 --> 01:28:45,946
それなのに
1370
01:28:46,071 --> 01:28:48,657
その不足がましい悪口は
何事ですか!
1371
01:28:49,408 --> 01:28:51,160
お前まで…
1372
01:28:53,996 --> 01:28:56,915
お前まで
母親に説教するのかい!
1373
01:28:58,208 --> 01:29:02,004
四十しじゅう前にもなって 何もしねえで
1374
01:29:02,337 --> 01:29:04,048
うじ虫みたいに ただ
1375
01:29:04,173 --> 01:29:07,926
うじゃうじゃ うじゃうじゃ
寝てばっかりいる役立たずが!
1376
01:29:08,218 --> 01:29:11,138
そうだ 私は うじ虫だ
1377
01:29:11,388 --> 01:29:14,683
しかし うじ虫のような息子を
産んだのは誰だ
1378
01:29:15,100 --> 01:29:20,230
あの優れた頭と丈夫な体を
持っておられる父上では 断じてない!
1379
01:29:20,481 --> 01:29:22,733
よさないか! 宗伯!
1380
01:29:22,858 --> 01:29:23,901
(宗伯) 申し訳ご…
1381
01:29:24,026 --> 01:29:26,028
(せき込み)
♪~
1382
01:29:26,028 --> 01:29:27,029
♪~
1383
01:29:27,863 --> 01:29:29,281
(せき込み)
1384
01:29:32,159 --> 01:29:33,660
お前…
1385
01:29:34,453 --> 01:29:36,872
子供の頃は まあ
1386
01:29:38,040 --> 01:29:41,376
普通の子供だったじゃないか
1387
01:29:44,254 --> 01:29:48,634
それを この父親が
いじり倒して
1388
01:29:49,218 --> 01:29:51,887
そんで
変なんなっちゃったんだよ!
1389
01:29:53,680 --> 01:29:57,559
お前を廃人同様にしたのも
この父親
1390
01:29:58,519 --> 01:30:02,356
お前を しつけ殺すのも
この父親だ!
1391
01:30:18,580 --> 01:30:20,582
なんと恐ろしいことを…
1392
01:30:22,793 --> 01:30:24,128
私が
1393
01:30:26,547 --> 01:30:30,634
宗伯を しつけ殺す…
1394
01:30:36,557 --> 01:30:38,475
なんと恐ろしいことを…
1395
01:30:39,726 --> 01:30:42,729
~♪
1396
01:30:42,855 --> 01:30:45,566
(拍子木の音)
1397
01:30:48,235 --> 01:30:49,653
(猫の鳴き声)
1398
01:30:49,778 --> 01:30:52,114
(女将おかみ) ここは道場なんですが
1399
01:30:52,406 --> 01:30:56,785
暮らし向きも よくないので
宿も始めたんですよ
1400
01:31:00,539 --> 01:31:02,082
(法師) ああ…
1401
01:31:05,210 --> 01:31:06,420
(ため息)
1402
01:31:07,838 --> 01:31:09,047
この雨の中
1403
01:31:09,173 --> 01:31:12,843
途方に暮れていたところ
助かりました
1404
01:31:13,177 --> 01:31:15,929
(女将) お役に立てて何よりです
1405
01:31:17,431 --> 01:31:19,349
ごゆっくり
1406
01:31:37,492 --> 01:31:39,661
(風が吹き込む音)
1407
01:31:40,120 --> 01:31:43,123
♪~
1408
01:31:48,962 --> 01:31:50,547
(赤岩一角いっかく) ほう
1409
01:31:50,964 --> 01:31:53,759
なかなかのものだな
1410
01:31:55,093 --> 01:31:57,095
(雷鳴)
1411
01:31:57,512 --> 01:31:59,139
お前さん
1412
01:31:59,431 --> 01:32:02,309
遊んでないで
さっさと殺やっちまいな
1413
01:32:02,809 --> 01:32:05,062
まあ そう焦るな
1414
01:32:05,812 --> 01:32:08,774
(赤岩) こいつは楽しめそうだ
1415
01:32:09,233 --> 01:32:12,444
さあ いくぞ!
1416
01:32:21,745 --> 01:32:23,872
(猫の鳴き声)
1417
01:32:24,706 --> 01:32:25,707
うおおっ!
1418
01:32:29,836 --> 01:32:33,048
(犬村大角いぬむらだいかく) 父上 おやめくだされ!
1419
01:32:33,257 --> 01:32:34,633
(赤岩) 大角
1420
01:32:34,758 --> 01:32:36,969
父の邪魔をするか!
1421
01:32:37,219 --> 01:32:38,220
うっ…
1422
01:32:43,725 --> 01:32:46,436
(大角) 旅人を襲い
金品を奪うなど
1423
01:32:46,937 --> 01:32:49,940
なぜ そのような愚かなことを
繰り返すのですか
1424
01:32:50,065 --> 01:32:51,275
(船虫) 大角
1425
01:32:51,733 --> 01:32:53,986
恩義ある父上に逆らうのかえ?
1426
01:32:54,111 --> 01:32:56,154
(大角) うるさい
お前は黙ってろ!
1427
01:32:56,280 --> 01:32:58,699
お前が来てから
父は おかしくなってしまった
1428
01:32:58,824 --> 01:33:01,493
(赤岩) 母上に
なんという口を利くのだ
1429
01:33:01,743 --> 01:33:04,371
息子だとて容赦は せぬぞ!
1430
01:33:12,337 --> 01:33:14,381
くっ… 父上!
1431
01:33:17,676 --> 01:33:19,011
ええい
1432
01:33:21,596 --> 01:33:22,764
ううっ…
1433
01:33:24,391 --> 01:33:26,518
ううっ… あっ
1434
01:33:27,811 --> 01:33:28,895
ううっ…
1435
01:33:29,104 --> 01:33:32,357
父上 お目覚めくだされ!
1436
01:33:32,649 --> 01:33:33,859
ううっ…
1437
01:33:34,526 --> 01:33:35,360
くっ…
1438
01:33:37,612 --> 01:33:39,323
ううっ うっ
1439
01:33:39,614 --> 01:33:42,617
大角 それをしまえ!
1440
01:33:42,743 --> 01:33:43,994
うああっ
1441
01:33:44,119 --> 01:33:46,705
しまえと言っておるのだ!
1442
01:33:46,830 --> 01:33:48,165
(法師) 御免!
1443
01:33:54,713 --> 01:33:56,840
(法師) ふんっ! 怨霊よ
1444
01:33:57,007 --> 01:33:58,258
立ち去れ!
1445
01:33:58,383 --> 01:34:04,806
(うめき声)
1446
01:34:05,682 --> 01:34:06,975
(大角) 父上!
1447
01:34:12,105 --> 01:34:13,523
(赤岩) 大角…
1448
01:34:15,609 --> 01:34:17,694
愚かな父を
1449
01:34:18,278 --> 01:34:19,571
許せ
1450
01:34:26,870 --> 01:34:28,288
(大角の泣き声)
1451
01:34:33,460 --> 01:34:35,212
おのれ
1452
01:34:36,421 --> 01:34:38,006
すべて お前のせいだ!
1453
01:34:40,300 --> 01:34:43,387
(悲鳴)
1454
01:34:43,387 --> 01:34:46,390
(悲鳴)
~♪
1455
01:34:47,557 --> 01:34:48,392
はあっ…
1456
01:34:58,068 --> 01:35:01,279
(荒い息)
1457
01:35:08,787 --> 01:35:09,538
♪~
1458
01:35:09,538 --> 01:35:11,790
♪~
(義実) おお 大輔 よう戻った
1459
01:35:11,790 --> 01:35:12,958
(義実) おお 大輔 よう戻った
1460
01:35:14,126 --> 01:35:15,335
(法師) 殿
1461
01:35:16,461 --> 01:35:17,754
お久しゅうございます
1462
01:35:21,091 --> 01:35:23,260
この者たちが…
1463
01:35:23,885 --> 01:35:27,180
伏姫様ゆかりの
犬士たちにございます
1464
01:35:27,848 --> 01:35:29,933
犬塚信乃にございます
1465
01:35:31,935 --> 01:35:34,104
“孝”の珠を持っております
1466
01:35:34,521 --> 01:35:36,773
犬川荘助にございます
1467
01:35:38,650 --> 01:35:40,819
“義”の珠を持っております
1468
01:35:41,528 --> 01:35:44,281
犬飼現八にございます
1469
01:35:44,489 --> 01:35:47,284
“信”の珠を持っております
1470
01:35:48,535 --> 01:35:50,954
犬田小文吾にございます
1471
01:35:51,830 --> 01:35:54,207
“悌てい”の珠を持っております
1472
01:35:55,542 --> 01:35:57,794
犬村大角にございます
1473
01:35:58,503 --> 01:36:00,630
“礼”の珠を持っております
1474
01:36:02,215 --> 01:36:04,342
犬坂毛野にございます
1475
01:36:05,343 --> 01:36:07,387
“智”の珠を持っております
1476
01:36:08,847 --> 01:36:11,475
犬山道節にございます
1477
01:36:13,101 --> 01:36:15,687
“忠”の珠を持っております
1478
01:36:16,980 --> 01:36:18,148
皆…
1479
01:36:19,816 --> 01:36:24,488
よくぞ 滝田の城に参ってくれた
1480
01:36:25,864 --> 01:36:27,699
まさに あの時
1481
01:36:29,075 --> 01:36:32,204
天に飛び去った伏姫の珠が
1482
01:36:33,705 --> 01:36:37,042
また ここに集まった
1483
01:36:40,253 --> 01:36:41,421
殿…
1484
01:36:41,922 --> 01:36:46,092
玉梓に操られし定正は
今まさに里見を滅ぼさんと
1485
01:36:46,218 --> 01:36:48,595
各地の諸大名に下知げじを下し
1486
01:36:48,720 --> 01:36:52,140
伊皿子いさらご城に
大軍を集結させております
1487
01:36:52,933 --> 01:36:54,935
おのれ 玉梓め
1488
01:36:55,560 --> 01:36:59,105
いつまで里見を
苦しめ続けるつもりだ
1489
01:36:59,314 --> 01:37:04,110
殿 かくなる上は
この七人の犬士たちを中心に
1490
01:37:04,236 --> 01:37:06,696
戦いくさの準備を
急がねばなりませぬ
1491
01:37:06,821 --> 01:37:07,405
~♪
1492
01:37:07,405 --> 01:37:08,406
~♪
うむ
1493
01:37:08,532 --> 01:37:11,618
(男) あいや~ しばらく!
1494
01:37:12,577 --> 01:37:13,870
やあっ!
1495
01:37:17,707 --> 01:37:18,708
ふんっ!
1496
01:37:24,881 --> 01:37:28,009
突然のご無礼 お許し願いまする
1497
01:37:28,301 --> 01:37:31,638
拙者 犬江親兵衛いぬえしんべえと申します
1498
01:37:36,935 --> 01:37:38,979
♪~
1499
01:37:39,104 --> 01:37:40,397
これは…
1500
01:37:46,570 --> 01:37:49,739
仁じん・義ぎ・礼れい・智ち・忠ちゅう・信しん・孝こう・悌てい
1501
01:37:50,073 --> 01:37:51,366
ついに
1502
01:37:52,117 --> 01:37:56,496
八つの珠が揃そろいましたぞ 伏姫様
1503
01:37:58,915 --> 01:38:02,627
捨て子だった拙者を
お育てくださったのは
1504
01:38:02,794 --> 01:38:05,213
かつて里見家に仕えし
1505
01:38:05,964 --> 01:38:09,426
この世四郎 おとねにございます
1506
01:38:13,346 --> 01:38:17,267
おおっ… 世四郎 おとね!
1507
01:38:18,602 --> 01:38:19,686
殿…
1508
01:38:21,396 --> 01:38:24,316
お久しゅうございます
1509
01:38:24,524 --> 01:38:26,651
お久しゅうございます
1510
01:38:28,236 --> 01:38:31,531
不思議な縁えにしでございます
1511
01:38:32,574 --> 01:38:36,244
大鷲に さらわれた五の君を捜し
1512
01:38:36,369 --> 01:38:39,080
彷徨さまよう道すがら
1513
01:38:39,414 --> 01:38:40,999
森の中に
1514
01:38:41,207 --> 01:38:45,128
置き去りにされていた親兵衛を
1515
01:38:45,253 --> 01:38:48,298
見つけた次第にございます
1516
01:38:50,008 --> 01:38:52,927
親兵衛が持っていた珠の中には
1517
01:38:53,470 --> 01:38:57,807
“仁”という文字が
浮かび上がっていました
1518
01:38:58,099 --> 01:39:03,355
これは間違いなく
伏姫様ゆかりの珠に相違ないと
1519
01:39:03,938 --> 01:39:07,859
今日こんにちまで大切に
お育て申し上げました
1520
01:39:08,568 --> 01:39:09,444
うむ
1521
01:39:09,569 --> 01:39:12,280
世四郎 おとね でかしたぞ!
1522
01:39:15,158 --> 01:39:16,660
(世四郎) 恐れながら
1523
01:39:16,951 --> 01:39:20,914
もう お一方
お連れいたしております
1524
01:39:27,962 --> 01:39:29,964
(信乃) 浜路
(荘助) 浜路様!
1525
01:39:30,090 --> 01:39:31,633
信乃様!
1526
01:39:32,384 --> 01:39:33,385
浜路!
1527
01:39:33,510 --> 01:39:35,095
無事だったのか?
1528
01:39:35,261 --> 01:39:38,932
はい 親兵衛殿に
助けていただきました
1529
01:39:39,349 --> 01:39:40,642
そうか
1530
01:39:41,059 --> 01:39:42,644
親兵衛殿に
1531
01:39:45,647 --> 01:39:47,023
(義実) “浜路”?
1532
01:39:47,482 --> 01:39:48,566
(世四郎) 殿!
1533
01:39:54,531 --> 01:39:56,032
(義実) 笹ささりんどう
1534
01:39:56,491 --> 01:39:58,785
これは里見家の紋ではないか
1535
01:39:58,910 --> 01:40:00,495
(おとね) この守り袋は
1536
01:40:00,829 --> 01:40:04,999
浜路様が捨て子として
拾われた時に くるまれていた―
1537
01:40:05,500 --> 01:40:07,711
おくるみで作ったものだそうです
1538
01:40:09,379 --> 01:40:10,380
(世四郎) おとねが
1539
01:40:10,505 --> 01:40:13,341
背中のあざも見定めました
1540
01:40:14,843 --> 01:40:17,137
ここに おわす浜路様は
1541
01:40:17,470 --> 01:40:20,598
大鷲に さらわれた五の君
1542
01:40:21,015 --> 01:40:23,643
浜路姫様でございます
1543
01:40:28,314 --> 01:40:29,858
浜路にございます
1544
01:40:36,448 --> 01:40:38,408
浜路姫…
1545
01:40:39,534 --> 01:40:43,037
本当に 浜路姫なのじゃな
1546
01:40:43,788 --> 01:40:45,290
お父上
1547
01:40:53,381 --> 01:40:56,176
~♪
1548
01:40:57,177 --> 01:40:58,845
(渡辺崋山わたなべかざん) ついに
1549
01:40:59,888 --> 01:41:02,223
八犬士が揃いましたな
1550
01:41:06,311 --> 01:41:08,521
どれだけの読者が
1551
01:41:08,980 --> 01:41:11,399
その日を待ち望んでいることか
1552
01:41:13,026 --> 01:41:17,739
どうも 埒らちもない嘘話を
長々と聞いていただき
1553
01:41:17,906 --> 01:41:19,365
かたじけない
1554
01:41:22,577 --> 01:41:26,790
宗伯を見舞っていただいたうえに
思いがけず
1555
01:41:27,373 --> 01:41:29,542
お引き止めしてしまいました
1556
01:41:30,001 --> 01:41:31,419
(崋山) いやいや
1557
01:41:32,086 --> 01:41:35,507
「八犬伝」を愛読させて
いただいている身としては
1558
01:41:35,965 --> 01:41:37,884
この上ない幸せ
1559
01:41:38,092 --> 01:41:39,636
ありがたく存じております
1560
01:41:41,346 --> 01:41:43,515
ところで 渡辺殿
1561
01:41:44,390 --> 01:41:45,683
その…
1562
01:41:46,476 --> 01:41:50,480
八犬士 揃い踏みの場面を ひとつ
1563
01:41:50,980 --> 01:41:54,943
今 ここで
絵にしてくださらんだろうか
1564
01:41:55,443 --> 01:41:57,153
えっ 今 ここで… ですか
1565
01:41:57,153 --> 01:41:58,655
えっ 今 ここで… ですか
♪~
1566
01:41:58,655 --> 01:41:59,614
♪~
1567
01:41:59,739 --> 01:42:00,698
ああ…
1568
01:42:00,949 --> 01:42:02,033
いや
1569
01:42:02,951 --> 01:42:04,619
いや これは大変
1570
01:42:04,953 --> 01:42:06,871
失礼いたしました
1571
01:42:07,831 --> 01:42:10,875
今や 田原藩若家老わかがろう かつ
1572
01:42:11,251 --> 01:42:15,004
画家でもいらっしゃる
渡辺崋山先生に
1573
01:42:15,129 --> 01:42:17,549
即興で絵を描いてくれ など
1574
01:42:17,674 --> 01:42:19,676
いやいや
私が どうかしておりました
1575
01:42:19,801 --> 01:42:22,262
(崋山) ああ…
滅相もございません
1576
01:42:23,179 --> 01:42:26,558
大変 光栄に存じますが 何分なにぶん
1577
01:42:26,933 --> 01:42:28,935
私は それほど器用ではなく…
1578
01:42:29,060 --> 01:42:31,396
(馬琴) いやいや 本当に
1579
01:42:31,688 --> 01:42:34,899
年寄りの戯ざれ言ごとと
お忘れくだされ
1580
01:42:35,567 --> 01:42:36,818
(崋山) 申し訳ございません
1581
01:42:36,943 --> 01:42:38,278
(馬琴) いや いや いや
1582
01:42:41,489 --> 01:42:45,660
実は いつもは北斎老ろうに
1583
01:42:46,411 --> 01:42:48,413
腹案ふくあんを聞いてもらって
1584
01:42:48,538 --> 01:42:51,624
その場で二、三枚
絵にしてもらっていたんです
1585
01:42:54,168 --> 01:42:59,007
それが どれだけ
私の創作の励みになっていたことか
1586
01:43:02,051 --> 01:43:04,137
ところが ここのところ
1587
01:43:04,470 --> 01:43:06,431
とんと やって来ない
1588
01:43:07,307 --> 01:43:10,059
そうでしたか 北斎先生が
1589
01:43:10,351 --> 01:43:11,936
渡辺殿
1590
01:43:15,481 --> 01:43:16,691
私は
1591
01:43:21,154 --> 01:43:23,364
宗伯のことを思うと
1592
01:43:25,408 --> 01:43:28,578
ああ… 恐ろしゅうてな
1593
01:43:32,707 --> 01:43:36,836
じっと ここに座って
1594
01:43:40,340 --> 01:43:42,842
考えておるに耐えられん
1595
01:43:47,138 --> 01:43:48,389
(馬琴のため息)
1596
01:43:48,848 --> 01:43:51,309
(馬琴)
口幅くちはばったいことではありますが
1597
01:43:52,852 --> 01:43:56,522
私と宗伯は まず
1598
01:43:57,899 --> 01:44:00,068
悪を成したことがない
1599
01:44:03,404 --> 01:44:04,989
それなのに…
1600
01:44:06,115 --> 01:44:08,117
こういう運命を見る
1601
01:44:13,957 --> 01:44:16,417
そう考えるにつけ
1602
01:44:18,044 --> 01:44:21,631
“正しき者が勝つ”という主題で
書いている―
1603
01:44:23,091 --> 01:44:24,884
「八犬伝」など
1604
01:44:29,305 --> 01:44:32,642
いよいよもって
虚だと思えるのです
1605
01:44:36,646 --> 01:44:38,022
(崋山) 先生
1606
01:44:40,066 --> 01:44:41,359
私は
1607
01:44:41,901 --> 01:44:45,238
若かりし頃から
「八犬伝」を愛読しております
1608
01:44:47,281 --> 01:44:49,617
侍として 辛つらい日々があっても
1609
01:44:50,451 --> 01:44:56,374
どれほど 「八犬伝」の正義に
勇気づけられたことか
1610
01:45:00,420 --> 01:45:02,505
曲亭先生に対して
1611
01:45:02,755 --> 01:45:05,466
おこがましい言葉で
恐れ入りますが
1612
01:45:08,177 --> 01:45:09,387
私は
1613
01:45:11,305 --> 01:45:13,433
正義は虚であっても
1614
01:45:14,517 --> 01:45:17,145
それを貫いて 一生を終えれば
1615
01:45:18,271 --> 01:45:21,024
その人の人生は実となる
1616
01:45:22,817 --> 01:45:27,030
決して 虚とはならんと
信じております
1617
01:45:32,076 --> 01:45:35,079
~♪
1618
01:45:42,128 --> 01:45:43,588
(お路) 渡辺様
1619
01:45:44,505 --> 01:45:45,757
お駕籠を お呼びします
1620
01:45:46,007 --> 01:45:50,219
ああ いや 駕籠は無用
二本の足がござれば
1621
01:45:50,344 --> 01:45:51,554
(お路) でも…
1622
01:45:53,097 --> 01:45:54,307
お路さん
1623
01:45:55,099 --> 01:45:59,145
宗伯殿は 私にとって
かけがえのない友人
1624
01:45:59,604 --> 01:46:02,523
どうか よろしくお願いいたします
1625
01:46:11,199 --> 01:46:13,284
お路さんは お気づきか?
1626
01:46:13,618 --> 01:46:15,912
曲亭先生の右の目ですが…
1627
01:46:18,623 --> 01:46:21,751
時々 右目が霞かすむと…
1628
01:46:23,920 --> 01:46:25,671
やはり そうでしたか
1629
01:46:28,132 --> 01:46:29,717
先生のことも
1630
01:46:31,094 --> 01:46:32,970
よろしくお願いいたします
1631
01:47:02,750 --> 01:47:03,751
(お路) 失礼します
1632
01:47:16,973 --> 01:47:19,058
もう お休みになってください
1633
01:47:19,600 --> 01:47:20,893
(宗伯) いや
1634
01:47:21,561 --> 01:47:23,521
明日の朝までに
1635
01:47:24,021 --> 01:47:26,190
これだけは なんとしても
1636
01:47:26,941 --> 01:47:28,151
でも…
1637
01:47:37,326 --> 01:47:40,454
父上の この「八犬伝」は
1638
01:47:41,455 --> 01:47:44,792
なんとしても
完結させねばならないのだ
1639
01:47:50,715 --> 01:47:55,428
(苦しそうな呼吸)
1640
01:47:55,553 --> 01:47:58,556
♪~
1641
01:48:00,850 --> 01:48:03,519
(近づく足音)
1642
01:48:04,729 --> 01:48:06,272
お父様を呼んでいます
1643
01:48:09,817 --> 01:48:12,153
(せき込み)
1644
01:48:12,778 --> 01:48:13,863
(宗伯) ああ…
1645
01:48:14,197 --> 01:48:15,781
お母さん
1646
01:48:19,952 --> 01:48:21,913
癇癪かんしゃくを起こして
1647
01:48:23,289 --> 01:48:27,627
随分と ひどいことを
言ってきました
1648
01:48:30,838 --> 01:48:33,966
どうか お許しください
1649
01:48:35,051 --> 01:48:37,053
(すすり泣き)
1650
01:48:37,345 --> 01:48:40,514
何だね 鎮五郎
1651
01:48:42,183 --> 01:48:43,851
そんなの
1652
01:48:45,186 --> 01:48:48,689
病気が言わせる駄々だだじゃないか
1653
01:48:53,819 --> 01:48:56,447
謝らなくちゃ
いけないのは
1654
01:48:58,407 --> 01:49:00,660
母さんのほうだよ
1655
01:49:00,785 --> 01:49:02,119
(足音)
1656
01:49:04,997 --> 01:49:06,457
(馬琴) 鎮五郎
1657
01:49:08,501 --> 01:49:10,544
(宗伯) お預かりした校正を
1658
01:49:11,587 --> 01:49:13,589
先ほど終えました
1659
01:49:16,550 --> 01:49:18,177
そんなものは
1660
01:49:18,761 --> 01:49:21,639
体が楽になってからで よいのだ
1661
01:49:30,064 --> 01:49:31,565
(宗伯) 父上…
1662
01:49:34,068 --> 01:49:36,445
これまでの ご恩に
1663
01:49:38,406 --> 01:49:39,740
子として
1664
01:49:41,575 --> 01:49:45,454
何のお報いもせず
死んでゆきますが
1665
01:49:47,790 --> 01:49:50,209
どうぞ お許しを…
1666
01:49:52,253 --> 01:49:53,921
(馬琴) 何を言うか
1667
01:49:55,506 --> 01:49:57,967
要らざることを口にするな
1668
01:49:58,551 --> 01:50:01,178
(苦しそうな呼吸)
1669
01:50:04,390 --> 01:50:07,018
み… みず 水を…
1670
01:50:07,184 --> 01:50:08,394
(馬琴) おお…
1671
01:50:15,568 --> 01:50:16,569
おう
1672
01:50:18,446 --> 01:50:19,780
宗伯
1673
01:50:28,331 --> 01:50:29,707
(宗伯) ああ…
1674
01:50:30,207 --> 01:50:31,542
ああ…
1675
01:50:42,470 --> 01:50:44,180
(馬琴) 宗伯…
1676
01:50:45,556 --> 01:50:47,058
宗伯…
1677
01:50:48,934 --> 01:50:51,354
(お百) 鎮五郎
(馬琴) 宗伯
1678
01:50:53,230 --> 01:50:56,734
鎮五郎!
1679
01:50:58,611 --> 01:51:04,450
鎮五郎!
(お百の号泣)
1680
01:51:06,786 --> 01:51:07,578
(3人の泣き声)
1681
01:51:07,578 --> 01:51:09,288
(3人の泣き声)
~♪
1682
01:51:09,288 --> 01:51:10,581
~♪
1683
01:51:17,922 --> 01:51:20,925
(近づく足音)
1684
01:51:21,634 --> 01:51:22,760
(馬琴) ああ…
1685
01:51:26,222 --> 01:51:27,807
(崋山) 宗伯殿は?
1686
01:51:29,350 --> 01:51:32,603
(馬琴) 昨日の朝 亡くなりました
1687
01:51:34,855 --> 01:51:38,150
骸むくろは棺桶に入れて
1688
01:51:38,734 --> 01:51:40,820
まだ納戸なんどに置いてござる
1689
01:51:44,949 --> 01:51:47,952
(雨の音)
1690
01:51:56,544 --> 01:51:58,963
(崋山) いずれ 色を差し
1691
01:51:59,213 --> 01:52:01,173
絵にして お持ちいたします
1692
01:52:03,259 --> 01:52:05,678
今日は急ぎますので
1693
01:52:06,220 --> 01:52:09,014
これにて 御免
1694
01:52:33,998 --> 01:52:37,001
♪~
1695
01:52:41,630 --> 01:52:43,090
なぜだ
1696
01:52:46,218 --> 01:52:47,887
なぜなんだ
1697
01:52:56,187 --> 01:53:00,232
なんで 宗伯が…
1698
01:53:03,736 --> 01:53:06,071
私でよいではないか
1699
01:53:11,911 --> 01:53:14,788
私が長生きしている罰なのか
1700
01:53:20,669 --> 01:53:23,589
なんで代わってやれないんだ
1701
01:53:28,052 --> 01:53:31,472
(泣き声)
1702
01:53:36,602 --> 01:53:38,062
(泣き声)
1703
01:53:44,360 --> 01:53:47,363
~♪
1704
01:53:48,906 --> 01:53:53,118
(太鼓の音)
1705
01:53:54,745 --> 01:53:59,124
(定正) 平賀隊は白峰しらみね街道
1706
01:53:59,250 --> 01:54:02,127
熊代くましろ隊は大兼おおがね街道
1707
01:54:02,378 --> 01:54:05,881
塚原隊は後方 三馬山さんばやまを下れ
1708
01:54:06,006 --> 01:54:07,258
そして
1709
01:54:08,425 --> 01:54:10,469
浅沼隊は
1710
01:54:11,720 --> 01:54:13,222
海からじゃ
1711
01:54:13,347 --> 01:54:16,350
♪~
海から先駆け 一気に叩たたけ
1712
01:54:16,350 --> 01:54:16,934
海から先駆け 一気に叩たたけ
1713
01:54:17,977 --> 01:54:20,813
里見の勢力を分散させれば
1714
01:54:21,355 --> 01:54:24,400
八犬士も自おのずと 散ちり散ぢりとなる
1715
01:54:24,817 --> 01:54:30,573
八つ 揃わなければ
伏姫の珠など 恐れるに足りぬ
1716
01:54:34,994 --> 01:54:35,911
~♪
1717
01:54:35,911 --> 01:54:37,997
~♪
いよいよ 開戦じゃ
1718
01:54:38,831 --> 01:54:40,749
頼んだぞ 八犬士
1719
01:54:40,874 --> 01:54:43,877
♪~
1720
01:54:50,134 --> 01:54:53,470
(文五兵衛)
水の上なら 誰にも負けねえ
1721
01:54:53,846 --> 01:54:55,389
今こそ
1722
01:54:56,056 --> 01:54:59,143
犬田屋の底力を
見せてやるんじゃ!
1723
01:54:59,268 --> 01:55:01,103
(若い衆) おー!
1724
01:55:11,822 --> 01:55:12,656
んっ!
1725
01:55:28,922 --> 01:55:31,342
(衝突音)
1726
01:55:34,595 --> 01:55:37,014
しばらく 他の船は近づけない
1727
01:55:37,139 --> 01:55:39,433
目指すは水軍大将の首ひとつ!
1728
01:55:39,558 --> 01:55:41,060
(里見軍の兵士たち) おー!
1729
01:55:46,565 --> 01:55:47,775
(信乃) んっ…
1730
01:55:48,609 --> 01:55:49,943
んんっ…
1731
01:55:50,110 --> 01:55:54,073
本当に この穴で間違いないのか
1732
01:55:54,573 --> 01:55:58,577
この城のことは隅々まで調べた
あと少しだ
1733
01:55:59,787 --> 01:56:02,748
毛野は するする進むが
1734
01:56:02,873 --> 01:56:06,168
わしの体では これは地獄だ
1735
01:56:07,086 --> 01:56:08,962
それを言うなら
1736
01:56:10,381 --> 01:56:12,716
俺が 一番きつい
1737
01:56:14,093 --> 01:56:16,387
犬士とは呼ばれているが…
1738
01:56:16,512 --> 01:56:17,805
あつ… 熱あつっ!
1739
01:56:18,180 --> 01:56:21,517
俺たちは人だぞ
これは狸たぬきの穴だ!
1740
01:56:22,810 --> 01:56:24,728
さあ さあ 皆さん
1741
01:56:24,853 --> 01:56:27,564
もう少しで城内ですよ
1742
01:56:27,690 --> 01:56:30,484
法師様たちの時間稼ぎにも
限界があります
1743
01:56:30,609 --> 01:56:31,819
ああ
1744
01:56:32,528 --> 01:56:33,904
とにかく急ごう
1745
01:56:39,410 --> 01:56:41,662
(門番たち) うっ… ぐわっ…
1746
01:56:51,422 --> 01:56:52,423
(信乃) よし
1747
01:56:52,840 --> 01:56:56,552
四つの門が開かなければ
城内の敵の数は わずか
1748
01:57:02,808 --> 01:57:04,309
(管領かんれい軍の侍) 敵だ!
1749
01:57:22,703 --> 01:57:26,498
(信乃) 目指すは
関東管領かんれい 扇谷定正の首
1750
01:57:26,623 --> 01:57:29,418
そして怨霊 玉梓
1751
01:57:29,543 --> 01:57:32,588
(侍たち) やああー!
1752
01:57:32,963 --> 01:57:35,299
(信乃) いざ参らん!
1753
01:57:35,841 --> 01:57:37,259
(一同) おう!
1754
01:57:40,971 --> 01:57:43,390
(一同) やああー!
1755
01:57:53,609 --> 01:57:55,611
何だと! 八犬士だと?
1756
01:57:55,736 --> 01:57:57,070
(権之佐) どうやって城内に
1757
01:57:57,196 --> 01:57:58,989
(玉梓) ええい 謀りおったな!
1758
01:57:59,114 --> 01:58:02,785
(定正) たかだか 八人ではないか
ここへ寄せつけるでないぞ
1759
01:58:02,910 --> 01:58:05,454
殿 万が一に備えて最上階へ
1760
01:58:06,205 --> 01:58:08,040
珠を八つ
1761
01:58:08,499 --> 01:58:10,876
揃わせてはならない
1762
01:58:23,305 --> 01:58:25,224
(毛野) 定正は さっきまで
ここに居たぞ!
1763
01:58:25,349 --> 01:58:28,143
(道節) 上だ! 上に逃げたぞ
1764
01:58:37,236 --> 01:58:38,987
(定正)
ええい 戦況はどうなっている!
1765
01:58:39,112 --> 01:58:40,197
(権之佐) はっ!
1766
01:58:42,282 --> 01:58:45,369
(伝令) 敵方 三階を突破して
四階に上がってきております
1767
01:58:45,494 --> 01:58:48,664
八人ごときに
何をやっておるのじゃ!
1768
01:58:49,122 --> 01:58:51,625
毛野と道節の狙いは
1769
01:58:52,084 --> 01:58:53,961
定正殿でしたね?
1770
01:59:01,260 --> 01:59:02,636
(侍) はあっ!
1771
01:59:15,023 --> 01:59:15,983
うおおっ!
1772
01:59:37,045 --> 01:59:38,213
(毛野) はああっ!
1773
01:59:45,554 --> 01:59:46,972
(斬られる音)
1774
01:59:47,097 --> 01:59:49,224
んんっ… だあっ!
1775
01:59:50,851 --> 01:59:51,727
(現八) うわっ…
1776
01:59:53,061 --> 01:59:53,937
うおっ!
1777
01:59:55,063 --> 01:59:55,981
(斬られる音)
1778
01:59:57,900 --> 02:00:00,736
(荒い息)
1779
02:00:02,779 --> 02:00:03,739
ふんっ!
1780
02:00:09,077 --> 02:00:10,078
(殴る音)
1781
02:00:11,038 --> 02:00:12,581
(荒い息)
1782
02:00:19,755 --> 02:00:21,048
(信乃) んんんっ…
1783
02:00:24,509 --> 02:00:26,845
(侍たち) うおおー!
1784
02:00:35,437 --> 02:00:37,272
(大角) ここは俺たちに任せて
1785
02:00:37,856 --> 02:00:39,441
定正を討て!
1786
02:00:39,691 --> 02:00:41,985
うおおー!
1787
02:00:42,277 --> 02:00:43,153
小文吾!
1788
02:00:43,278 --> 02:00:44,905
(斬られる音)
1789
02:00:47,908 --> 02:00:49,409
早く行け! 信乃!
1790
02:00:52,412 --> 02:00:53,956
(信乃) んっ! んんっ!
1791
02:01:03,882 --> 02:01:06,802
(玉梓の笑い声)
1792
02:01:07,135 --> 02:01:10,430
(定正) あっ… ああっ…
1793
02:01:10,889 --> 02:01:14,726
何をする… 玉梓…
1794
02:01:16,311 --> 02:01:18,814
(床が抜ける音)
1795
02:01:23,777 --> 02:01:25,612
(定正) あああーっ!
(落下音)
1796
02:01:27,781 --> 02:01:29,282
(せき込み)
1797
02:01:29,408 --> 02:01:32,786
さあ さあ 定正が逃げるぞえ
1798
02:01:33,870 --> 02:01:35,956
二人は定正を討て!
1799
02:01:36,999 --> 02:01:39,209
玉梓は俺たちに任せろ
1800
02:01:40,711 --> 02:01:42,045
かたじけない!
1801
02:01:42,254 --> 02:01:43,380
御免!
1802
02:01:48,468 --> 02:01:50,887
(玉梓) 残りは たった三人かえ
1803
02:01:51,638 --> 02:01:54,182
ハッ ハハハハッ…
1804
02:01:54,516 --> 02:01:56,268
怨霊 玉梓!
1805
02:01:56,893 --> 02:01:58,770
伏姫様に成り代わり
1806
02:01:59,229 --> 02:02:01,982
我ら犬士が 成敗してくれる!
1807
02:02:03,775 --> 02:02:06,528
我が怨念の深淵しんえんを
1808
02:02:06,695 --> 02:02:08,530
とくと覗のぞくがよい!
1809
02:02:15,662 --> 02:02:18,665
(玉梓の咆哮ほうこう)
1810
02:02:20,208 --> 02:02:23,211
~♪
1811
02:02:26,757 --> 02:02:28,800
やっとだね
1812
02:02:29,885 --> 02:02:31,178
(馬琴) うん
1813
02:02:32,095 --> 02:02:33,638
やっとだ
1814
02:02:36,183 --> 02:02:39,102
(北斎) あんた いくつになった?
1815
02:02:41,313 --> 02:02:44,483
私は今年 七十三しちじゅうさんだ
1816
02:02:45,692 --> 02:02:47,778
してみると お前さんは
1817
02:02:48,195 --> 02:02:50,280
八十になるはず
1818
02:02:50,739 --> 02:02:51,907
(北斎) フフッ
1819
02:02:52,699 --> 02:02:56,286
いやはや 化け物だな
1820
02:02:57,245 --> 02:03:00,624
老いて なお 頂いただきを求めるのは
1821
02:03:01,124 --> 02:03:03,668
おいらと あんたくらいなもんだ
1822
02:03:04,961 --> 02:03:08,673
まあ かき続けるより他に
1823
02:03:08,799 --> 02:03:11,593
これといって 能もないがね
1824
02:03:12,719 --> 02:03:14,596
あらよっと
1825
02:03:24,314 --> 02:03:26,149
(風の音)
1826
02:03:26,608 --> 02:03:30,904
(北斎) しかし また 辺ぴな所へ
越してきたもんだな
1827
02:03:32,030 --> 02:03:34,074
さっき お百さんを見舞ったら
1828
02:03:34,199 --> 02:03:37,160
散々 愚痴を聞かされたよ
1829
02:03:37,619 --> 02:03:40,789
(近づく足音)
1830
02:03:40,914 --> 02:03:42,749
(障子を開ける音)
1831
02:03:44,751 --> 02:03:47,838
あら 北斎さん
1832
02:03:49,339 --> 02:03:51,424
生きてたのかい
1833
02:03:54,010 --> 02:03:55,470
なんだ
1834
02:03:56,930 --> 02:03:58,849
元気そうじゃねえか
1835
02:04:00,016 --> 02:04:02,894
あたしゃ ご覧のとおり
1836
02:04:03,603 --> 02:04:05,564
もう駄目だよ
1837
02:04:05,689 --> 02:04:07,107
なあに
1838
02:04:08,275 --> 02:04:10,402
(お百) 何の因果で
1839
02:04:12,112 --> 02:04:16,575
こんな江戸の外はずれで
死ななきゃなんないのさ
1840
02:04:20,120 --> 02:04:23,665
何のための一生だったか
1841
02:04:25,750 --> 02:04:27,711
分かりゃしないよ
1842
02:04:27,711 --> 02:04:28,253
分かりゃしないよ
♪~
1843
02:04:28,253 --> 02:04:30,714
♪~
1844
02:04:31,298 --> 02:04:33,216
こんな あばら家やだが
1845
02:04:33,341 --> 02:04:37,179
ここは鉄砲同心株の付いている
お屋敷でね
1846
02:04:37,762 --> 02:04:41,016
買うだけで
お召し抱えいただける
1847
02:04:43,268 --> 02:04:44,436
ただ…
1848
02:04:45,604 --> 02:04:49,941
大事にしていた本も
ほとんど売ってしまったがね
1849
02:04:52,736 --> 02:04:55,989
(北斎) まあ 広くていいやね
1850
02:04:56,114 --> 02:04:57,240
(馬琴) うん
1851
02:04:57,449 --> 02:05:03,079
(北斎) これで太郎も 立派な
お武家の鉄砲同心様か
1852
02:05:04,122 --> 02:05:08,043
孫には 何か残してやりたくてね
1853
02:05:09,711 --> 02:05:12,547
(北斎) ああ… 出来た
1854
02:05:14,799 --> 02:05:16,176
ほらよ
1855
02:05:20,305 --> 02:05:21,765
ほら
1856
02:05:22,515 --> 02:05:26,269
八犬士が
揃って出陣するところだ
1857
02:05:28,647 --> 02:05:30,232
おお…
1858
02:05:32,817 --> 02:05:34,903
八犬士が…
1859
02:05:35,278 --> 02:05:38,281
~♪
1860
02:05:43,453 --> 02:05:46,414
ここには
八犬士は描いては おらん
1861
02:05:49,251 --> 02:05:52,712
右目が見えてねえってことは
聞いてたがね
1862
02:05:54,172 --> 02:05:55,298
あんた
1863
02:05:56,591 --> 02:05:59,052
もう片方も見えてないね?
1864
02:06:05,558 --> 02:06:06,601
フッ…
1865
02:06:08,728 --> 02:06:11,731
(鍬くわを振るう音)
♪~
1866
02:06:46,349 --> 02:06:49,352
~♪
1867
02:06:54,733 --> 02:06:56,359
はあ…
1868
02:06:59,154 --> 02:07:00,572
(ため息)
1869
02:07:16,963 --> 02:07:18,423
(丁子屋平兵衛ちょうじやへいべえ) 先生
1870
02:07:20,300 --> 02:07:23,887
もう一度 お考え直し
くださいませんか
1871
02:07:26,097 --> 02:07:27,474
文渓堂ぶんけいどう
1872
02:07:28,516 --> 02:07:29,934
悪いが
1873
02:07:30,477 --> 02:07:34,147
何人 試みても
結果は同じだ
1874
02:07:34,272 --> 02:07:38,026
何とか 先生のおっしゃるとおり
書ける者を探してまいりますので
1875
02:07:38,818 --> 02:07:40,153
いや
1876
02:07:41,488 --> 02:07:44,574
私の この気性を心得て
1877
02:07:45,658 --> 02:07:47,535
共に過ごすのは
1878
02:07:49,621 --> 02:07:53,291
そもそも 他人では無理だ
1879
02:07:53,541 --> 02:07:55,293
(平兵衛) うーん…
1880
02:07:59,172 --> 02:08:02,175
こんな時 宗伯さんが
居てくださいましたら
1881
02:08:05,845 --> 02:08:08,014
それを言うてくれるな
1882
02:08:08,681 --> 02:08:12,268
これは失礼いたしました
ついつい…
1883
02:08:16,147 --> 02:08:17,482
(ため息)
1884
02:08:17,899 --> 02:08:19,317
まあ とにかく 先生
1885
02:08:19,442 --> 02:08:22,487
今日のところは お暇いとまいたしますが
くれぐれも
1886
02:08:23,738 --> 02:08:26,866
お諦めなきよう お願いいたします
1887
02:08:33,873 --> 02:08:35,250
それでは…
1888
02:09:00,233 --> 02:09:01,943
やはり
1889
02:09:04,154 --> 02:09:05,947
これまでか…
1890
02:09:06,698 --> 02:09:08,032
(崋山) 私は
1891
02:09:08,533 --> 02:09:10,577
正義は虚であっても
1892
02:09:10,785 --> 02:09:13,413
それを貫いて 一生を終えれば
1893
02:09:13,705 --> 02:09:16,249
その人の人生は実となる
1894
02:09:16,708 --> 02:09:20,670
決して 虚とはならんと
信じております
1895
02:09:20,795 --> 02:09:24,382
所詮しょせん 無意味な つじつま合わせ
1896
02:09:24,632 --> 02:09:28,219
どこまで行っても
虚は実に飲み込まれ
1897
02:09:28,344 --> 02:09:32,682
つじつまは合わないので
ございますよ
1898
02:09:38,188 --> 02:09:41,107
(荒い息)
1899
02:09:42,525 --> 02:09:44,027
ああっ!
1900
02:09:45,820 --> 02:09:47,071
はあっ…
1901
02:09:48,490 --> 02:09:49,699
ああっ
1902
02:09:51,993 --> 02:09:53,328
ああ…
1903
02:09:53,453 --> 02:09:56,789
(お路) お父様
少し よろしいでしょうか
1904
02:09:59,042 --> 02:10:01,836
ああ… よい
1905
02:10:10,845 --> 02:10:12,055
どうした?
1906
02:10:14,349 --> 02:10:16,726
お父様に お願いがございます
1907
02:10:17,977 --> 02:10:21,022
何だ? 改まって
1908
02:10:23,149 --> 02:10:24,651
(お路) 「八犬伝」を
1909
02:10:24,984 --> 02:10:27,362
私に書かせて
いただけないでしょうか
1910
02:10:31,199 --> 02:10:33,952
お前が「八犬伝」を…
1911
02:10:34,786 --> 02:10:35,870
書く?
1912
02:10:36,120 --> 02:10:40,083
お父様が語ったことを
私が文字にいたします
1913
02:10:43,044 --> 02:10:47,340
(馬琴) しかし お前は
「八犬伝」を読んでは おるまい
1914
02:10:47,674 --> 02:10:49,592
いえ 読みました
1915
02:10:52,011 --> 02:10:53,179
読んだ?
1916
02:10:54,264 --> 02:10:55,098
いつ?
1917
02:10:56,641 --> 02:10:58,393
去年の秋からです
1918
02:11:00,019 --> 02:11:02,730
お父様の両の目が
お悪くなってから
1919
02:11:03,314 --> 02:11:06,651
いつか お役に立てる時が
来るのではないかと思いまして
1920
02:11:10,822 --> 02:11:11,906
それで
1921
02:11:12,907 --> 02:11:14,075
読めたか?
1922
02:11:14,742 --> 02:11:16,911
(お路) 漢字や言葉が難しく…
1923
02:11:17,829 --> 02:11:20,915
それでも皆
振り仮名が付いていたので
1924
02:11:21,040 --> 02:11:22,625
何とか読みました
1925
02:11:23,835 --> 02:11:25,086
お前は
1926
02:11:26,170 --> 02:11:28,172
漢字が書けるのか?
1927
02:11:29,549 --> 02:11:30,758
いいえ
1928
02:11:32,552 --> 02:11:35,513
存じているのは
“いろは”ばかりです
1929
02:11:37,015 --> 02:11:38,099
ああ…
1930
02:11:41,644 --> 02:11:43,354
“いろは”では
1931
02:11:43,980 --> 02:11:45,940
「八犬伝」は書けん
1932
02:11:46,065 --> 02:11:47,859
一字一字 お教えくだされば
1933
02:11:47,984 --> 02:11:50,278
お路にも 何とか
できるのではないかと
1934
02:11:50,987 --> 02:11:53,573
お路の気持ちは嬉しいが
1935
02:11:54,741 --> 02:11:56,075
これは
1936
02:11:56,826 --> 02:11:58,870
言うほど たやすくない
1937
02:12:03,875 --> 02:12:06,878
♪~
1938
02:12:08,254 --> 02:12:09,797
(お路) お父様が
1939
02:12:10,715 --> 02:12:12,884
「八犬伝」を書けないのに
1940
02:12:13,259 --> 02:12:16,220
毎日そうして 机の前に
座ってらっしゃるのを見ると
1941
02:12:16,346 --> 02:12:17,889
辛つろうございます
1942
02:12:19,641 --> 02:12:20,767
それに
1943
02:12:21,893 --> 02:12:26,105
“「八犬伝」を頼む”と
お路は しかと申しつかっております
1944
02:12:28,441 --> 02:12:29,859
誰にだ?
1945
02:12:31,402 --> 02:12:33,237
宗伯さんにです
1946
02:12:40,328 --> 02:12:43,331
~♪
1947
02:12:44,290 --> 02:12:47,085
“邪大茂林かのおおもりの澳邊おきべにて”
1948
02:12:47,960 --> 02:12:49,087
おおもり?
1949
02:12:49,671 --> 02:12:51,089
“大茂林”が分からんか
1950
02:12:51,214 --> 02:12:51,673
♪~
1951
02:12:51,673 --> 02:12:53,049
♪~
申し訳ございません
1952
02:12:54,050 --> 02:12:56,135
大小の“大”と
1953
02:12:56,260 --> 02:13:00,056
くさかんむりに“戊つちのえ”と
1954
02:13:00,181 --> 02:13:02,350
“林”の三文字から成る
1955
02:13:04,394 --> 02:13:06,479
私の指先を見よ
1956
02:13:06,604 --> 02:13:07,438
はい
1957
02:13:10,983 --> 02:13:14,362
“身は冷え。”
1958
02:13:15,947 --> 02:13:18,241
“手脚てあし 疲労果つかれはてて”
1959
02:13:19,492 --> 02:13:20,993
(お路) 手脚…
1960
02:13:24,622 --> 02:13:25,456
書いたか?
1961
02:13:25,957 --> 02:13:26,958
はい
1962
02:13:27,667 --> 02:13:29,335
“冷ひえ”は どう書いた?
1963
02:13:30,002 --> 02:13:33,089
(お路) にんべんに…
(馬琴) にんべんではない!
1964
02:13:37,385 --> 02:13:38,761
にすいだ
1965
02:13:40,388 --> 02:13:42,348
(馬琴) 指先を見よ
(お路) はい
1966
02:13:43,099 --> 02:13:44,267
(馬琴) これで…
1967
02:13:44,767 --> 02:13:46,644
(馬琴) 分かるな?
(お路) はい
1968
02:13:46,894 --> 02:13:49,147
“皆みな 立たちよりて”
1969
02:13:49,439 --> 02:13:51,607
“又またよく見るに”
1970
02:13:51,733 --> 02:13:54,610
(お路) 申し訳ございません
もう一度 お願いします
1971
02:13:55,611 --> 02:13:59,532
“皆 立ちよりて 又よく見るに”
1972
02:14:00,533 --> 02:14:02,827
“みな”とは
どう書くのでしょうか?
1973
02:14:02,952 --> 02:14:04,370
(馬琴) “皆”とは
1974
02:14:05,747 --> 02:14:07,290
“皆”とは こうだ
1975
02:14:13,588 --> 02:14:14,422
見えたか?
1976
02:14:14,547 --> 02:14:16,799
はい ありがとうございます
1977
02:14:18,134 --> 02:14:22,305
“喚よばはりつ 胸を拊なでて”
1978
02:14:25,516 --> 02:14:28,269
“胸”と“拊なでて”は教えたな?
1979
02:14:28,394 --> 02:14:29,437
はい
1980
02:14:30,062 --> 02:14:32,398
“喚よび”という漢字は こうだ
1981
02:14:36,486 --> 02:14:37,612
(物音)
~♪
1982
02:14:37,612 --> 02:14:38,488
~♪
1983
02:14:44,786 --> 02:14:45,787
(お路) お母様!
1984
02:14:46,329 --> 02:14:48,498
お母様 どうなさいました?
1985
02:14:53,419 --> 02:14:54,587
(馬琴) お百
1986
02:14:56,005 --> 02:14:57,256
お百
1987
02:14:59,550 --> 02:15:02,136
ここまで這はってきたのか
1988
02:15:04,472 --> 02:15:07,058
なんで そんなことを!
1989
02:15:10,186 --> 02:15:13,147
畜生ちきしょう…
1990
02:15:29,497 --> 02:15:31,749
(馬琴) お百!
(お路) お母様!
1991
02:15:31,916 --> 02:15:32,959
おい お百!
1992
02:15:33,084 --> 02:15:33,417
♪~
1993
02:15:33,417 --> 02:15:34,794
♪~
(お路) お母様
1994
02:15:35,086 --> 02:15:36,420
(馬琴) お百
1995
02:15:43,177 --> 02:15:44,470
お百…
1996
02:15:47,139 --> 02:15:48,516
お前は
1997
02:15:49,517 --> 02:15:51,811
私の女房になって
1998
02:15:53,145 --> 02:15:55,898
幸せでは
なかったかもしれんな
1999
02:15:59,610 --> 02:16:00,903
(馬琴のため息)
2000
02:16:02,446 --> 02:16:05,324
(馬琴) 許せ お百
2001
02:16:06,868 --> 02:16:08,703
私には まだ
2002
02:16:10,496 --> 02:16:12,081
どうしても
2003
02:16:13,958 --> 02:16:16,836
やり切らねばならぬことが
あるのだ
2004
02:16:26,345 --> 02:16:30,516
“安房の里見を攻伐給せめうちたもふ”
2005
02:16:31,309 --> 02:16:32,393
申し訳ございません
もう一度 お願いします
2006
02:16:32,393 --> 02:16:34,395
申し訳ございません
もう一度 お願いします
~♪
2007
02:16:37,940 --> 02:16:42,194
(馬琴) “安房の里見を攻伐せめうち”…
2008
02:16:42,320 --> 02:16:43,779
(お路) 申し訳ございません
2009
02:16:43,905 --> 02:16:46,449
“せめうち”とは
どう書くのでしょうか?
2010
02:16:47,783 --> 02:16:49,327
(馬琴のため息)
2011
02:16:50,494 --> 02:16:51,913
お路
2012
02:16:53,247 --> 02:16:54,415
もう いい
2013
02:16:55,791 --> 02:16:57,543
もう やめだ
2014
02:16:58,628 --> 02:17:00,129
これも天命だ
2015
02:17:00,546 --> 02:17:05,051
いいえ いいえ!
お父様 申し訳ございません!
2016
02:17:05,760 --> 02:17:07,678
お路の無学を叱ってください
2017
02:17:08,179 --> 02:17:10,556
お路の馬鹿を嘆いてください
2018
02:17:11,474 --> 02:17:13,434
でも 諦めないでください
2019
02:17:13,935 --> 02:17:16,270
もう少し 辛抱してください
2020
02:17:19,440 --> 02:17:20,942
(ため息)
2021
02:17:24,779 --> 02:17:29,784
(玉梓の咆哮)
2022
02:17:42,380 --> 02:17:44,674
♪~
2023
02:17:44,799 --> 02:17:45,758
(信乃) ふんっ!
2024
02:17:46,050 --> 02:17:50,304
(玉梓の苦しむ声)
2025
02:17:51,389 --> 02:17:55,476
名刀“村雨”の 一撃を食らえ!
2026
02:18:13,035 --> 02:18:15,079
~♪
2027
02:18:15,079 --> 02:18:16,038
~♪
うっ うう…
2028
02:18:16,038 --> 02:18:17,081
うっ うう…
2029
02:18:17,206 --> 02:18:18,624
うう…
2030
02:18:18,749 --> 02:18:19,959
ううっ…
2031
02:18:21,544 --> 02:18:22,461
(信乃) 荘助! 親兵衛!
2032
02:18:22,461 --> 02:18:23,921
(信乃) 荘助! 親兵衛!
♪~
2033
02:18:23,921 --> 02:18:25,172
♪~
2034
02:18:25,297 --> 02:18:26,549
(荘助) 信乃様
2035
02:18:27,842 --> 02:18:29,552
玉梓を
2036
02:18:30,386 --> 02:18:32,805
逃がしてはなりませぬ
2037
02:18:34,765 --> 02:18:36,267
早く!
2038
02:18:42,398 --> 02:18:45,401
(信乃の荒い息)
2039
02:18:52,658 --> 02:18:57,872
お前一人の力では
この玉梓は倒せぬわ!
2040
02:19:00,499 --> 02:19:02,543
私は一人には あらず!
2041
02:19:10,009 --> 02:19:12,094
あああっ…
2042
02:19:12,970 --> 02:19:14,430
玉梓!
2043
02:19:15,598 --> 02:19:18,017
我ら八犬士の絆きずなを
2044
02:19:18,601 --> 02:19:19,977
受け止めるがいい!
2045
02:19:24,398 --> 02:19:25,232
んっ!
2046
02:19:26,484 --> 02:19:30,488
(苦しむ声)
2047
02:19:34,450 --> 02:19:36,077
怨霊退散!
2048
02:19:36,202 --> 02:19:43,209
(うめき声)
2049
02:19:50,091 --> 02:19:53,094
~♪
2050
02:19:54,887 --> 02:19:57,807
(伝令) 八犬士たち
見事 定正を討ち取り
2051
02:19:57,932 --> 02:20:00,935
怨霊 玉梓を退けました!
2052
02:20:01,227 --> 02:20:01,977
うむ!
2053
02:20:01,977 --> 02:20:02,353
うむ!
♪~
2054
02:20:02,353 --> 02:20:04,188
♪~
2055
02:20:07,274 --> 02:20:11,070
よくやった! 八犬士!
2056
02:20:14,406 --> 02:20:17,409
~♪
2057
02:20:21,205 --> 02:20:23,374
(すすり泣き)
2058
02:20:24,500 --> 02:20:27,503
♪~
2059
02:21:00,452 --> 02:21:01,662
(信乃) 伏姫様
2060
02:21:08,002 --> 02:21:09,295
信乃
2061
02:21:10,254 --> 02:21:11,755
荘助
2062
02:21:12,464 --> 02:21:13,924
親兵衛
2063
02:21:15,509 --> 02:21:16,635
毛野
2064
02:21:17,511 --> 02:21:18,888
道節
2065
02:21:20,556 --> 02:21:21,891
よくぞ
2066
02:21:22,892 --> 02:21:25,436
玉梓の怨霊を退けました
2067
02:21:26,896 --> 02:21:29,190
心から感謝いたします
2068
02:21:32,151 --> 02:21:33,611
これからも
2069
02:21:34,278 --> 02:21:36,697
八人で力を合わせて
2070
02:21:37,823 --> 02:21:42,036
すばらしき世を
築いてゆくのですよ
2071
02:22:59,154 --> 02:23:02,157
~♪
2072
02:23:15,629 --> 02:23:21,635
(馬琴) “伊皿子いさらご近き這浦このうらに。”
2073
02:23:27,516 --> 02:23:32,604
“艦ふねの寄りしを 歓よろこべども”
2074
02:23:32,730 --> 02:23:34,398
(お路) 寄りしを…
2075
02:23:35,983 --> 02:23:42,614
(馬琴) “身は 背手うしろでに結紐しばられて”
2076
02:24:02,509 --> 02:24:03,969
あれは
2077
02:24:04,803 --> 02:24:06,347
絵になる
2078
02:24:07,848 --> 02:24:08,932
フッ…
2079
02:24:16,482 --> 02:24:19,485
♪~
2080
02:24:41,882 --> 02:24:44,885
~♪
2081
02:24:57,272 --> 02:25:03,278
(神々しい穏やかな音楽)
♪~
2082
02:25:58,250 --> 02:26:01,253
~♪
2083
02:26:06,216 --> 02:26:09,219
♪~
2084
02:29:47,521 --> 02:29:50,524
~♪
154746