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(ボイスチェンジャーの声) 計画は すでに出来上がっている
あとは ただ… 彼らが罠にかかるのを待つだけだ
1人ずつ ゆっくりと――
思い知らせてやる
死の苦しみ
悲しみ
痛み
恐怖
これは裁きだ
復讐という名の…
だが 分かっている
人は 神にはなれない
だからこそ 最後の審判は 人ならぬものに託そう
この海に…
これから始まる計画のすべてを…
もうすぐ 彼らはやってくる
何の疑いも――
恐れも抱かずに…
自分たちを捕らえ――
裁く――
十角形の罠の中へ…
(エラリイ) 推理小説とは あくまでも知的な遊びの1つなんだ
小説という形式を使った 読者 対 名探偵
あるいは 読者 対 作者の 刺激的な論理のゲーム
それ以上でも以下でもない
マンションでOLが殺されて――
靴底をすり減らした刑事が 苦心の末に愛人だった上司を捕まえる
やめてほしいね
汚職だの政界の内幕だの――
現代社会のひずみが生んだ悲劇なんてのも 願い下げだ
ミステリにふさわしいのは やっぱり“名探偵”“大邸宅”
“怪しげな住人たち” “血みどろの惨劇”“不可能犯罪”
“破天荒な大トリック”…
絵空事で大いに結構
(エラリイ) 要は その世界の中で楽しめればいいのさ
ただし知的にね
(カー) 鼻につくな
(カー) エラリイさんよ
読者全員が お前のように――
知的に できて いらっしゃる――
わけじゃない
僕は利口とかバカの話を しているんじゃないよ カー
ミステリという遊びを いかに知的に楽しむか
その余裕が持てるかどうかが 重要ってことさ
そんなことも分からないヤツが この研究会にいるとは 実に嘆かわしいね
(カー) お前のような登場人物は――
物語の最初で殺されるパターンだってのは よく分かってるさ
(ポウ) その辺にしておけ
この先1週間は 嫌でも顔をつき合わせるんだ
どうせなら楽しくやろうや
(ルルウ) エラリイさんの言うことには 無理がありますね
(ポウ) おい ルルウ
(エラリイ) と言うと?
(ルルウ) 科学捜査技術が進歩した現代において――
警察が ただの まぬけな引き立て役になることは もはや あり得ません
これからの推理小説には――
エラリイさんの望むような 名探偵の活躍する余地は――
どんどん失われていきますよ
そのとおり
だから そのジレンマを解消する 最も手っ取り早い方法――
それが“嵐の山荘”だ
まさに 僕らが向かうあの島が そのものじゃないか
(アガサ) あれが角島?
ふ~ん 雰囲気出てるじゃない ねえ オルツィ
(漁師) あんたたち さっきから変な名前ばかりだね~
(ポウ) ああ これはあだ名でして――
全員 有名な推理小説家の名前で 呼び合ってるんです
はあ? よう分からんけど
せいぜい気ぃつけなよ
あの島にゃあ 出るけんね
何がです?
幽霊たい
ほれ あの島の青屋敷で殺された 中村 何たらっちゅう男の…
ダメだよ 親父さん そんなことして脅かそうとしても
みんな 喜ぶだけだからね~
(指笛)
(エラリイたちの笑い声)
そりゃあ幽霊ぐらいいても おかしくないわよね
あんな事件があった場所ですからね
“角島 青屋敷 謎の四重殺人事件”か
(松本邦子) バイトの夜勤明けかい 大変だねえ
(江南孝明) いや~ これでも苦学生なんで
ウソつけ! どうせ麻雀だろ
負けて親の仕送り使い込んできたんだろ このドラ息子
何で分かるんですか
タバコ臭い 酒臭い しけた顔…
あんたみたいな落ちこぼれ 何百人と見てきたからね
大家さん辞めて 探偵になったらどうです?
探偵? あんなもん堅気のやるもんじゃない
ハハハ そうですよね
麻雀 負けたからって お家賃は待たないよ
(江南) 参ったな~
ああ~ よいしょ
(江南)
逆恨みなら勘弁してくれ
ああ~…
中村青司…?
あった
(江南) S半島J崎沖>
中村青司邸が全焼した>
遺体で発見される>
それぞれの死因が違っていたこと>
斧で頭をたたき割られての撲殺>
全身に灯油をかけられて焼死>
ひもで首を絞められての窒息死>
左手首から先が切り取られていた>
庭師の吉川誠一が行方不明になっており――>
謎のままだ>
死者からの告発…
(江南)
(江南) 東さんのお宅でしょうか
あっ 俺 K大の江南と申しますが――
一くん いらっしゃいますでしょうか
(ルルウの母親) 一は外出しております
そうですか…
あっ あの… ちょっと急ぎの要件で――
一くん宛てに手紙が届いたかどうかを 教えていただけないでしょうか
はい 中村青司という方から
(ルルウの母親) ああ それなら確かに届いておりますよ
そうですか
一くん 何時くらいに戻られますか
(ルルウの母親) それが 大学のクラブの合宿で 1週間くらい戻らないと申しておりました
(江南)
(漁師) 本当に一度も 来なくていいんか?
電話も切れとるだろうが
ご心配なく 僕たち こういうのには慣れてますんで
せっかくの無人島生活なのに ちょくちょく来られたらムードが台無しだもんね
フフッ ねっ
(オルツィ) ああ… うん そうだね
(カー) おい 早く行こうぜ!
(漁師) それじゃあ1週間後
来週の火曜日 朝10時に迎えに来るけん
(カー) おい 本当にこっちで 合ってんのか?
(ルルウ) そのはずですけど…
(アガサ) もうちょっと マシな道ないわけ?
(ルルウ) ありませんよ 無人島なんだから
(アガサ) けど 半年前まで いたんでしょ 青屋敷の住人が
殺された中村青司は 天才建築家と呼ばれていたそうだよ
その彼が自ら設計して住んでいた屋敷
それが青屋敷とは離れの…
(エラリイ) この十角館だ
(ポウ) オホホホ…
話には聞いていたが 本当に こんな形してるんだな
(足音)
ヴァン先輩?
(ヴァン) ごめん 出迎えられなくて
(ポウ) どうした? 顔色良くないな
(ヴァン) 風邪をひいたみたいだ
こんな時に申し訳ない
(エラリイ) それはこっちのセリフだ
そんな状態なのに 準備を任せてしまって悪かった
(ヴァン) 運び込みは ほとんど業者に頼んだし――
大したことないから すぐに良くなると思う
無理するなよ 1週間は島から出られないんだからな
(ヴァン) 医者の卵がいてくれて安心だ
本当に… 本当に大丈夫なんですか
(ヴァン) ああ ありがとう オルツィ 心配してくれて
(ドアの開く音)
(エラリイ) 靴は そのままでいいのかい?
(ヴァン) うん
(ポウ) 荷物は ここでいいのかい?
(ヴァン) 各自好きに部屋を選んでくれ
まあ どの部屋を選んでも同じだけどな
十角形の建物に 十角形のホール
テーブルまで十角形だ
あなたのおじさんも よっぽどの物好きね こんな家を買っちゃうなんて
(ヴァン) かなり格安で 半ば無理やり売りつけられたらしい
だろうね でなきゃこんなとこ 誰も欲しがらないよ
(ポウ) でも そのおかげで こうして合宿に来られたわけだ
ちゃんと おじさんに お礼を言っといてくれよ
(ヴァン) ああ そうするよ
(カー) ヴァン 酒はないのか
(エラリイ) この合宿では 酒は飲まない決まりだろ
(アガサ) ルルウ 部屋を間違えないように 名前を書いた紙を貼っておいて
(ルルウ) えっ 自分でやってくださいよ~
(アガサ) 紙とペン いっぱい持ってきてるんでしょ?
(ルルウ) あっ あれは原稿を書くためにですね~
よろしくね~
(ドアの閉まる音)
(鍵のかかる音)
女王様には逆らえないな
(ポウ) 少し休んだら島を探検しよう
中村青司って人は 何でこんな館を作ったんだろ
(ルルウ) 焼けた青屋敷のほうは――
天井から家具から 何から何まで 青く塗られてたそうですよ
(ヴァン) 青屋敷か…
(ルルウ) 異常に こだわりが強い 芸術家気質の人だったんでしょうね
中村青司は
(ヴァン) 考えてみれば あの犯人は まだ捕まってないんだよな
まだ この島のどこかに隠れていたりして ハハッ…
冗談はやめて!
(ヴァン) あっ…
(鍵のかかる音)
(ヴァン) すまない そんなに脅かすつもりじゃなかったんだけど…
(ルルウ) なんか… ずっとあんな感じなんです
(エラリイ) 気にするな ああやって楽しんでるのさ
絶海の孤島で 何か起こるかもしれないという 空気を体感して――
自分の作品に生かす
それこそが この合宿の目的だからね~
(ヴァン) ならいいけど
でも 仮に… 仮にだよ
青屋敷事件の犯人が まだこの島の どこかにいるなんてことがあったら…
最高じゃないか
(ルルウ) ハア… 言うと思いました
ヴァンのおじさんが ここを買ったって 聞いた時は運命を感じたよ
神様が僕たちに言っているのさ
青屋敷の四重殺人の謎を 解き明かせって
(オルツィ)
(玄関のチャイム)
(鍵の開く音)
中村紅次郎さんでいらっしゃいますか
(中村紅次郎) ええ
(江南) 先ほどは――
突然のお電話で 失礼いたしました
江南といいます
千織のお友達だそうで
(江南) はい 大学で同じ ミステリ研究会に入っていました
今は もう辞めてしまって いるんですが…
(ドアの閉まる音)
(江南) 千織さんが下宿していた先に 問い合わせたら――
もう血縁のある方は 紅次郎さん以外 いらっしゃらないと伺ったもので…
聞きたいことというのは?
千織さんのお父さん
つまり あなたのお兄さんの 中村青司さんについてです
(紅次郎) ちょうど 今 来客中でね
大学時代の後輩なんだが 彼も同席していいかな?
俺は構いませんが…
(島田 潔) 島田です
あっ 僕のことは気にしなくていいよ
暇を持て余して たまたま遊びに来ただけだから
お邪魔します
それで 兄の何が知りたいと?
確認したいのですが 中村青司さんというのは――
あの角島で亡くなった中村青司さんで 間違いないんでしょうか
そうです
(江南) 今日まで気づきませんでした
まさか あの事件の被害者が 千織さんのご両親だったなんて…
(紅次郎) この1年は最悪だった
姪っ子を失って その半年後に 今度は兄夫婦まで…
いまだに現実とは思えない
(島田) なぜ 今日なんだい? (江南) えっ?
(島田) “今日まで気づきませんでした”って ことは――
今日 気づいた理由があるんだろ?
(江南) この手紙 どう思われますか?
実は私のところにも 同じような手紙が届いてんだよ
(江南) 中を見てもいいですか
(紅次郎) ああ
(紅次郎) 私も この手紙について――
意見が聞きたくて 島田に来てもらったんだ
しかし まあ たちの悪いイタズラだよ これは
イタズラ?
それ以外に何がある? 兄は死んでんだよ
ご遺体は かなり損傷が激しかったらしいですね
もしかして 生きてらっしゃるというようなことは?
(紅次郎) あり得ない
遺体の確認は私がしたんだ
兄弟なら 兄かどうかぐらい分かる
では 手紙の内容については どう思われますか?
千織のことは本当に残念だが 不幸な事故だったと思ってるよ
それは兄も同じだったはずだ
そうですか…
ちなみに――
うちの研究会のメンバーが今 角島に行っていることはご存じですか?
(紅次郎) いや… なぜ あんなところに…
合宿だそうです
あそこの土地と屋敷は 確かに私が相続したが すぐに手放した
事件のことは もう思い出したくもないんでね
おお…
ここで 4人が殺された
殺されたのは――
主の中村青司と その妻の和枝
それに 住み込みの 使用人夫婦の計4人
それぞれ絞殺 撲殺 焼死と 死因が違っていました
しかも 和枝夫人は左の手首が切断されていて 焼け跡のどこからも見つかっていません
あと もう1人 庭師が行方不明になっていたな
はい それについては 2つの見解があります
1つは その庭師が犯人で それゆえに姿をくらましたという仮説
もう1つは 犯人は別にいて――
例えば 庭師は 逃げる中で誤って崖から落ちて――
そのまま潮に流されてしまった… という仮説
警察的には 庭師イコール犯人ってことに したかったようだが――
結局その行方は 分からないままってわけだ
(ヴァン) エラリイ どう思う?
(エラリイ) さあね
さっきは あんなに意気込んでたくせに もう諦めたんですか?
(エラリイ) それらしい推理を でっち上げるのは簡単さ
でも 本当のQEDにたどり着くには データが少なすぎる
(エラリイ) せめて 夫人の手首でも出てきたら面白いんだけどね
(ポウ) …ったく いい趣味してるよ
(ヴァン) フフッ…あわよくば 犯人が――
僕らに牙をむいてくるのを 願っているんじゃないのかい
(ルルウ) そうなったら まさに“嵐の山荘”状態ですね
(エラリイ) 望むところさ 探偵役は引き受ける
誰か この私 エラリイ・クイーンに 挑戦するものはいないかな
お得意の知的ゲームってやつか
(ヴァン) 気をつけろ
そういうヤツが 案外 一番初めに殺されるんだ
…って カーが聞いたら言うだろうね~
(ルルウ) アハハ… 確かに 今朝そう言ってました!
(ポウ) あいつ 今日は特にイラついてたな
(エラリイ) 訳ありだからね~
んっ?
最近 アガサに告白して フラれたらしい
アガサ先輩に!?
勇気あるな~
(エラリイ) その腹いせか知らないけど――
今度はオルツィにも言い寄って そっちも全く相手にされなかったそうだ
オルツィにまで? あの野郎
えっ? ポウ先輩は オルツィが好きなんですか
違うって 幼なじみだからな あいつとは
さっきも孤高を気取って 1人で出て行ったけど――
要は居心地が悪いってだけさ
(ルルウ) そういうの困るんですよね こっちまで気ぃ遣うじゃないですか
(エラリイ) 何なら 次は僕が アガサを口説いてみるかな
(ルルウ) やめてくださいよ 1週間は同じ屋根の下なんですから
(アガサ) ハア… 結局こういう時 女は便利に使われちゃうのよね
片づけは全部 男どもにやらせましょ
ねっ オルツィ
うん
(アガサ) それ きれいな指輪ね (オルツィ) えっ…
ああ… いや これは別に…
いい人が できたの?
そんなんじゃない 私なんて そんな…
出会ってから2年近くたつのに 私 あなたのこと何も知らないのよね
(オルツィ) あっ… ごめんなさい
別に悪いって言ってるんじゃない ただ 不思議なだけ
不思議?
あなたって自分の書く小説の中じゃ あんなに明るくて生き生きしてるのに
夢の中だから
私 現実は苦手なの
現実の自分が 好きじゃないから…
(アガサ) ハア… もったいないな~
あなたって かわいいのよ 自分で分かってないだけ
もっと自信持ちなさいよ
でも…
この私が言うんだから間違いない
(笑い声)
それそれ さっ 早いとこ終わらせましょ
ありがと
(ポウ) うまかったよ ごちそうさま
(エラリイ) 驚いたよ
正直 食事には 期待していなかったからね
私を何だと思ってるわけ?
これくらい普通よ 普通 むしろ手抜きね
ああ 失礼しました
じゃあ 女王の命令よ
片づけは あなたたちがやりなさい
(エラリイ) ああ… かしこまりました
(笑い声)
(エラリイ) あっ 分かりました
風呂掃除も させていただきます
(テーブルをたたく音) (カー) 何だよ
すいません
カー 今日は何してたんだ?
(カー) 何かしたくても 何もすることなんかないぜ こんな島じゃ
(エラリイ) そうやって たそがれてたわけか 酒を飲みながら
(カー) あっ… おい 返せ!
(エラリイ) どうせ まだ持ってるんだろ
何なら分けてやろうか
(オルツィ) ふざけないでください!
この島でお酒を飲むなんて 死者への冒涜です!
(カー) 何言ってんだ お前
(オルツィ) すみません
(せきばらい)
カー先輩 さっきの発言は 聞き捨てなりません
(カー) 何だよ
こんな島じゃやることないって…
(テーブルをたたく音) (ルルウ) あるでしょやること!
ここにいる間に 1人1作 お願いしましたよね
(ポウ) そのことかよ
次の会誌は 10周年記念の特大号にしたいんです
編集長としては ペラペラなものにはできません
本気で言ってるの?
もちろんです
そもそも この合宿は 推理小説を書くヒントを得るために…
どうした? ヴァン
(ヴァン) あっ… すまない
どうも調子が悪いみたいだ
(ポウ) 少し熱があるな 今日はもう休め
未来のドクターの言うことは 聞いておいたほうがいい
(ヴァン) ありがとう
悪いけど 今夜は先に寝させてもらうよ
(カー) 大げさなんだよ
(鍵のかかる音)
(ルルウ) あの時も そう言ってましたよね
(ポウ) あんなことは もう二度とごめんだ
(島田) 江南くんって どういう字 書くの?
(江南) 揚子江の江に 東西南北の南です
(島田) 江に南…
ほう コナンくんか
(笑い声)
あ… ミス研ではそう呼ばれてました
あっ メンバーには それぞれ――
ミステリ作家の名前をつけて 呼び合う伝統があって
ハハ… それで 君はコナン・ドイルか
ハハ… ええ まあ…
えっ?
ああ そういう空気が合わなくて やめたんだね
あっ… ただの自己陶酔というか ウソくさい気がして
ああ…
で 君はなぜ あの手紙が ただのイタズラじゃないと思うんだい?
う~ん 何と言うか… そっけない
そっけない?
はい
相手を驚かして喜びたいなら
もっと それっぽい書き方が あると思うんです
(島田) うん
(江南) 恐ろしげな文句を いっぱい並べるとか…
でも あの手紙には全く それがない
ああ~…
だから かえって 妙な生々しさを感じるんだな
島田さんも そう思いますか
ああ だがイタズラじゃないとして――
誰が何の目的で あんな手紙を送りつけてきたのかな
ああ…
少なくとも あの手紙からは――
差出人の3つの意図を 想像することができます
ほう… ほうほう…
んっ?
まず第1に――
千織は殺されたんだという“告発”
そして第2に――
だから お前らを許さないという“脅迫”
そして 3つ目は… あ~ 少し見方が違いますが――
“もう一度 あの角島の青屋敷の事件に 注目しろ”というメッセージ
(店員) お待たせしました
(江南) どうも
だから 殺された中村青司の名前を 使ったというわけか
あくまで想像ですけど…
中村千織さんは?
君たちと同じ ミステリ研究会だったんだろ?
どんな子だったんだ?
学年は俺より1つ下で とても おとなしい…
いや おとなしいというよりか――
いつも どこか寂し気でした
ミス研の飲み会があって――
三次会 学校の部室で 飲んでいた時に――
彼女は突然体調を崩して 助からなかったって聞いています
ん? 聞いてる?
あっ… 俺は三次会 すぐに 抜けちゃったので詳しくは…
ああ…
中村青司を名乗る差出人は――
その場にいなかった君にも 手紙を送りつけてきたわけか
はい
実は もう1人 二次会で帰ったメンバーがいるんです
うん
そいつのところにも 手紙が 来ているかどうか確かめたいんですが…
まだ連絡が取れなくて
角島に行ったんじゃないのかい?
いえ そいつは遠出をする時は――
必ず帰る日時を 伝えてくれるようなヤツですから
アハハッ… 几帳面なんだね
ハハ… 少し冷めてますけど――
頭のキレる すごく頼りになるヤツなんで――
今回のことも 一緒に考えてもらおうかと思って
いいね よし さっそく行ってみよう
(江南) えっ…? (島田) えっ?
えっ いや… 一緒に来てもらえるんですか?
あっ… 申し訳ない つい楽しくて
いや まあ もちろん 迷惑じゃなければってことなんだけどな
(江南) あ… 俺は構いませんけど (島田) おっ
(江南) そいつの家まで 車を使っても 1時間はかかりますよ
1時間か…
はい なので…
仮説を整理するには 短すぎるね
(島田) よし (江南) えっ ちょっと 島田さん? え…
(島田) ほら 早く
(江南) ちょっと待ってください!
(ラジオの声)
(江南) 島田さんは 普段は何を?
死人を扱っている
えっ?
フッ… 家が寺でね 僕は そこの三男坊さ
ああ…
一応 出家もしてるけどね
親父は まだまだ元気だし いずれ後を継ぐのは 兄だし
僕は ミステリを読んで――
中に死人が出てくるたびに お経をあげるくらいしかすることがない
フッ…
(笑い声)
(ラジオの声) まだまだ寒いですね
皆さんは温かく 過ごされていますか?
私は昨日…
(島田) あっ ありがとう
おっ 悪いな 遅くに
(守須恭一) いや 僕も さっき帰って シャワーを浴びたところさ
来ると思ってたよ ドイル
その呼び方はやめろって
(守須) 全く同じか
(江南) ああ
(守須) しかし 相変わらずだな
中村千織の叔父さんを訪ねて 別府まで行っていたなんて
(江南) 他に行く当てがなくてさ
(守須) すみません 江南が振り回してしまって
こいつ 一度スイッチが入ると 止まらなくなるんで
おい待てよ それは根拠のない言いがかりだぞ
経験から来る推察だよ
(島田) 守須君 そういう君は頭がキレて かなり頼りになる男だそうじゃないか
(守須) えっ… (島田) そして…
(島田) ちょっと冷めてて 几帳面でもある
知らない 言ってないよ そんなこと…
ん? まずかったか
(江南) もう~ 島田さん!
(守須) 頼りになるかは 分かりませんが――
ミステリ研究会では江南と組んで よく2人で謎解きに挑んだりしてました
ほう ほう…
まさに ホームズとワトスンといったところか
(江南) そんな大したものじゃないですよ ただの遊びです
守須君 ぜひ 君の意見も 聞かせてほしいね
その前に まずは ここまでの 2人の考えを伺ってもいいですか?
紅次郎さんとのことも 聞かせてもらいたいですし
(島田) うん
(強風の音)
告発 脅迫…
そして 角島 青屋敷事件への 注意の喚起か…
うん なかなかいい線だね
特に角島の事件を もう一度調べろっていうメッセージは――
多少強引だけど面白い
中村千織の死と あの四重殺人が 何か関係してると思うかい
少なくとも あの事件で 中村千織の両親が殺されたのは間違いない
しかも母親である和枝夫人の左手は 切り落とされて――
どこからも出てきていない
それが何を意味しているかは 謎のままだ
(江南) この差出人は その謎を解けと言っているのか
(守須) 島田さん 去年 角島事件が起きた時 紅次郎氏が どうしていたかご存じですか?
(島田) それは アリバイという意味でかい?
ご友人に失礼かもしれませんが――
中村青司さんと和枝夫人が死んで 一番利益を得るのは紅次郎さんです
(島田) フッ… いいね~
だが 残念ながら あの人には完璧なアリバイがあるんだ
どんなアリバイですか
んっ?
事件当夜から翌朝にかけて 紅さんはずっと この僕と一緒にいた
別府で飲んで――
そのまま 紅さんの家に泊めてもらったんだ
翌朝 事件のことをニュースで知った時も 僕は横にいた
あの紅さんが 声を上げて 泣き崩れるのを見たのは――
後にも先にも あれきりだ
もちろん僕がウソをついている 可能性もあるが――
他にも目撃者は たくさんいるからね
すみません 安易な思いつきを…
いやいやいや… 当然の考えだろう
そうなると やっぱり 行方不明の庭師犯人説が濃厚か
それを確かめるためにも 会う必要があるね
誰に?
庭師だった吉川さんには 奥さんがいたはずだ
ああ 確か自宅は安心院町だったかな
安心院 また遠いですね
彼女から話を聞くのは なかなか胆力がいると思うけどね
どういうことですか?
(島田) んっ?
行方不明というだけで 確証もないまま 夫が犯人扱いされたんだ
事件直後は マスコミからも かなり たたかれてたからな
行っても 門前払いかもしれないし 彼女を傷つけてしまうかもしれない
どうする?
行こう
真実が分かれば 吉川さんが救われる可能性だってある
そうだな じゃあ いい報告を待ってる
はっ!? お前は行かないのかよ
国東半島の磨崖仏か
コンクール まだ先じゃなかったのか?
花が咲く前の風景を描きたくてね
このところ毎日通い詰めなんだ
それで角島の合宿も断った
だから 悪いけど今回は 安楽椅子探偵を気取らせてもらうよ
また そうやって 自分だけ楽しようとして
(島田) まあまあまあ… いいじゃないか コナンくん
じゃあ 明日は 僕と君とで 安心院まで行くとしよう
えっ 行ってもらえるんですか
うん もちろん あっ その代わり――
今晩は君のところに 泊めてもらえるかい?
うちにですか
まあ それは構いませんが
よし! 決まった
島田さん…
本当に暇なんですね
んっ? だから そう言ったじゃないか
楽しいな
ハア… ハア…
(オルツィ) ハア… ハア…
ごめんね…
(アガサ) キャー! (オルツィ) ハッ
(ドアの開く音)
(エラリイ) どうした?
(ポウ) 大丈夫か?
(カー) …ったく うるせえぞ
(ルルウ) 何ですか これ…
(邦子) 何かあったの?
おはようございます
何かあったの?
あなたが 午前中に起きるなんて…
どなた?
父です
息子がいつも お世話になっております
こちらこそ
(江南) あ あの… じゃあ いってきま~す
(江南) 行きましょう (島田) うん
(江南) すみません
(島田) かなり疑いの目だよ あれ (江南) ハハハ…
(エラリイ) よくできてるよ このレタリングも手が込んでる
つまり これは前もって用意された 計画的なイタズラだ
誰の仕業?
(ルルウ) エラリイさんじゃないんですか? こんなことして楽しむのは
(エラリイ) 悔しい限りだが 僕じゃない
(ルルウ) じゃあ カー先輩ですか
(カー) こんな子供だまし 誰がするかよ
案外 お前が第一発見者のフリして 置いたんじゃないのか?
(アガサ) そんなわけないでしょ 私じゃない
(ヴァン) 僕もとてもじゃないけど そんな余裕なかった
(ポウ) もちろん 俺も違うぞ
(オルツィ) 誰も名乗り出ないのは この中に犯人がいないからじゃ…
(ヴァン) まさか 例の中村青司の幽霊の仕業とでも?
えっ 本気?
(カー) フッ… くだらねえ 俺は もう一眠りさせてもらう
(オルツィ) みんなだって――
本当は もしかしたらって 思ってるんじゃないですか
(江南) う~ん 留守ですかね
うん このチャイム壊れてるな
コナンくん ちょっと聞こえるように 呼んでみてくれよ
あ… はい
吉川さ~ん こんにちは~
若いんだから もっと大きな声で
誠一さんのことで お話を伺いに来ました!
(島田) もっと腹から!
俺たちは中村紅次郎さんの知り合いです! どうか話を聞かせてください!
(島田) いいね もう一声!
(江南) 吉川さ~ん! (戸の開く音)
(吉川政子) 大きな声 出さないで
(政子) 1回チャイム鳴らせば 分かるわよ (江南) えっ?
早く入って
(島田) 失礼します
(江南) ええ~?
(政子) 紅次郎様のお知り合いというのは本当?
(島田) ええ 大学の後輩です
実は あの事件のことを もう一度 調べるように頼まれましてね
そうですか
(江南) あの… まだご主人は生きている可能性も…
(政子) ありません
生きていたら 私に連絡があるはずです
どんな事情があろうと… 私にだけは…
この際なので 失礼を承知で伺います
ご主人が――
中村青司さんを 恨んでいた
あるいは 和枝夫人に好意を抱いていた ということは?
バカげています
私たちは あのご夫婦に ご贔屓にしていただいて――
本当に感謝していたんです
マスコミにも警察にも そう話したのに――
都合がいいように切り取られて…
ご主人が青司さんの財産を奪ったという 記事もありましたね
(政子) 根も葉もない作り話です
財産を奪おうにも あそこにはもう…
もう?
(島田) もう?
中村青司には もう そんな財産は なかったと?
千織さんについては 何か覚えていませんか
千織?
あっ 娘さんね
(島田) うん (江南) はい
(政子) 正直 何も…
彼女は 早いうちから 祖父母に預けられてましたから
お目にかかるのも ほんの数回程度でした
そうですか…
(アガサ) ねえ
本気で 中村青司の幽霊が いるなんて――
思ってないわよね
(オルツィ) オカルトは好きじゃない
(アガサ) なら いいけど
(オルツィ) でも…
私たちが この島に来たことには 意味がある
どういうこと?
私たちは 償わなきゃならないのかも
償うって 何を?
(物音)
(ルルウ) ヴァン!? 大丈夫ですか?
(ポウ) 大丈夫か?
(ルルウ・ポウ)せーの!
(ヴァン) うう… ハア… ちょっと… めまいが…
(ポウ) 昨日より熱あるじゃないか
(ヴァン) ハア… ハア… ごめん アガサ…
せっかくの夕食… 食べられそうに ない…
(アガサ) あ… そんなの 気にしないで
(ヴァン) 少し横になるよ…
(カー) 昨日から早々に部屋に引き上げて 中で1人 何をしてることやら
(ヴァン) 何が言いたい?
(ポウ) 相手にするな
あの殺人予告のプレートは お前の仕業じゃないのか
(ヴァン) 何で 僕が?
(カー) こういう時は決まって 招待者が事件を起こすもんだろ
浅はかだな
ああ?
確かにヴァンは――
おじさんが十角館を手に入れたことを 教えてくれたが――
ここに来るかどうかは みんなの総意で決めたんだ
その時点で ヴァンが招待者とは 言えないだろ
それに 目的は何だ?
動機に納得できないミステリほど 興ざめするものはない
お前の書く作品みたいにね
俺は人が殺されてから あたふたと 論理を組み立てるような――
まぬけな名探偵どもは嫌いなんだ
あんた このプレートに書かれたことが 本当に起こると思ってんの?
(カー) チッ
(ポウ) 行こう
大丈夫か?
(ルルウ) 無理しないでください
(ポウ) 今日は もう休め
(トイレの水洗音)
(江南) 悪いな
今日も途中 別府にも立ち寄ったから こんな時間になっちゃって
(守須) 別府に?
(江南) うん 紅次郎さんに 確認したいことがあって
でも 会えなかった
(守須) そりゃ 疲れて当然だ
無理に来てくれなくても 良かったのに
(島田) そうはいかないよ
安楽椅子探偵の意見も ちゃ~んと聞かせてもらわないと フッ
政子さんの話が本当なら――
庭師の吉川誠一犯人説は 間違っていたことになる
じゃあ いったい 誰が中村青司たちを殺したのか
お前も もう考えてるんだろ ある仮説を
ああ
ネヴィンズ・ジュニアが言うところの…
(守須・江南) バールストンギャンビット
フッ…
あの手紙の差出人は 中村青司の名をかたったものではなく――
中村青司本人からのものだった
もちろん幽霊なんかじゃない つまり…
中村青司は 生きている
青司の遺体は 灯油をかけられて焼かれていた
他人と入れ替わっている可能性も 十分に考えられる
例えば庭師の吉川さんとか…
そうか
それで紅次郎さんのところへ 行ったわけか
ああ あの人は言った
遺体の確認は私がしたんだ
兄弟なら 兄かどうかぐらい分かる
あの確信を持った言い方は かえって 何か意図があるようにも思える
2人は 最初から 結託していたのかもしれない
だとすると 青司は紅次郎さんが かくまってる可能性もあるね
君たちの仮説は非常に面白い
…が まだ大きな穴がある
動機… ですよね
うん
和枝夫人を殺し その手首を切断し――
使用人夫婦と 庭師まで殺して 屋敷に火をつけた
すべて青司がやったことなら なぜ そんなことをしたのか
なあ 守須
もし本当に中村青司が生きていて――
あの脅迫の手紙を 送りつけてきたのだとしたら――
島のみんなは大丈夫かな
(アガサ) ごめん 寝過ごした~
オルツィ ランチ作るから手伝っ…
誰か! 早く来て!
(カー) “殺人犯人”と“探偵”以外 みんな殺されるんだぞ
(エラリイ) 容疑者は この6人とは限らない
(島田) 中村青司は あの島で生き続けることも可能だな
(アガサ) ウソでしょ
(江南) かくまう理由がある?
(紅次郎) 江南くん
(エラリイ) これはまだ 始まりに過ぎない
(ルルウ) しっかりしてください!
(アガサ) このままじゃ また死ぬ!
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