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♪〔静かなピアノの音色〕
♪
♪ 〔かすかな物音〕
♪
〔ドアが開く音〕
(文則ふみのり) ん… んん…
(綿わた子こ) おはよ
(文則) そろそろ 布団 分厚いのに替えてもいいかな
(綿子) そうだよね こっち持ってきとく
(文則) ありがと
♪〔穏やかなピアノの音色〕
♪
♪ (車内アナウンス)
♪
(木き村むら) ごめんね ありがとう (綿子) ううん
(木村) 山 見ながら挽ひこうよ
(綿子) うん いい感じに挽けそう
(綿子) 右?
(木村) 右
(綿子) ふふっ なんか シェフがバーベキュー焼いてくれたの
キャンプしてるっていうか ホテルみたいだった
(木村) ははっ べつに それぐらいしてほしいでしょ
(綿子) エアコン付いてるの すごくない?
何? テントっていうか部屋 ふふっ
初めてなんだけど こういうとこ
(木村) 1か月ぶりかなぁ 俺は旅行
(木村) ハマりそうだわ キャンプ
(綿子) グランピングだからでしょ 全部やってもらえるから
(木村) ははっ
(聞こえてくる 楽しげな家族たちの声)
〔虫の鳴き声〕
(木村) はい
(綿子) 何これ
(木村) 指輪をしてないほうの手に お互いね
(木村) サイズ 大丈夫? 大丈夫そうだよね
(綿子) 大丈夫だと思うけど 全然
(木村) 買ってから知ったんだよね
左右で指のサイズ 違うって
(綿子) 大丈夫 ピッタリ
(綿子) 手 出して
(木村) ん?
(綿子) あ… これ 左手で撮るの難しい すごい震える なんか
押して
〔シャッター音〕
(綿子) ブレてる
(木村) いいじゃん このままアップしちゃえば?
(綿子) ヤダ ちゃんと撮るよ
はい
揺らさないように押して
〔シャッター音〕
(綿子) まぁ これだったらいいかな
(綿子) 誕生日のお返し ハードル上がった
(木村) 渡さないほうがよかった?
(綿子) お返しは 期待しないでほしいかもしれない
(木村) 全然 物ものじゃなくていいけど
文則さんに渡したことのある プレゼントのネタ 使い回しでいいよ
(綿子) ははっ
昔 文則が 前のパートナーにあげてた プレゼントとおんなじのを
私に使い回してたの思い出した 今
(木村) うわっ 信じらんない
(綿子) ねっ でも それでいいって言ったんだよ 今
(2人) ふふっ
(木村) 出よっか (綿子) うん
(木村) 大丈夫?
(綿子) はい 大丈夫
(車内アナウンス)
〔スマホのバイブ音〕
(綿子) 鳴ってるよ (木村) うん
〔鳴り続けるバイブ音〕
(綿子) 出ないの? 依より子こさん?
(木村) 作家だ 大丈夫
たぶん原稿の赤字 まだ戻してないからだと思う
(綿子) 出たほうが いいんじゃないの? それは
(木村) それは働きすぎ 日本人すぎる
まだ旅行中だから これ
(綿子) ここ まだ旅行中なんだ 粘ねばるね
〔バイブ音が止まる〕
(木村) おなか減ったなぁ
(綿子) もう? 早くない?
(木村) 何時着だっけ
着いたら どっかで お昼 食べてく?
(綿子) 誰にも会わないかな
(木村) 大丈夫でしょ
(綿子) じゃあ どっか寄ってく?
(車内アナウンス)
〔減速していく音〕
〔小銭入れに指輪をしまう音〕
なんも連絡ないの?
(綿子) うん
昨日は 一緒にごはん食べた後に ヒロムくん 預かるって言ってたし
そっちで忙しいんじゃないかな
(木村) 全然あれだね
前妻ぜんさいの人 全然 落ち着かないね 仕事
もし綿子が預かるのヤダって タイプだったら どうしたんだろうね
(綿子) んー
(綿子) でもシングルだし しょうがないよね
“ほっとけば”とか言えないでしょ 思わないけど
もし私が
もしだけど シングルだったら
やっぱり 前のパートナーとか その親とか頼るよなぁとか思うし
文則のお母さんは 文則が見れない時に 全然 協力してくれるし
それでも言いたくなるもんだと思うけど その回数は
俺だとね
(綿子) まぁ 考えたら そうなる
てか 仕事 来週から 木曜日になるらしいんだけど
今度から木曜日にしない?
(木村) 子ども預かるのが? (綿子) そう
(木村) 木曜日か
いいよ 俺は 全部 取材ってなるから どこでも
依より子こも仕事してるし
〔スマホのバイブ音〕
〔スマホのバイブ音〕 (綿子) ちょうど (木村) おぉ そっか
(木村) じゃ 俺 タクシー あっちで拾ってくから
(綿子) うん じゃあ木曜日ね
(木村) 来週 木曜ね 予約しとく いつもの所
(綿子) うん じゃあ
〔鳴り続けるバイブ音〕
もしもし
(文則) もしもし
ごめん 面倒 見るのに 家にヒロム来ちゃうんだけど
(綿子) あ そうなんだ 分かった
うん 分かった
(文則) ごめんね
(綿子) 大丈夫だよ べつに気にしてない
それは しょうがないことだし
(綿子) あ そう お義母かあさんもいるんだ
うん まぁ だいたい そのくらいには着くと思う
話? 話…
あぁ
〔衝突音と車の急ブレーキの音〕
(ざわつく人々の声)
ちょっと待ってね
♪
♪ うん ちょっとごめん ごめん ちょっと折り返す
♪
♪ うん 話ね 分かった
♪
♪ うん 分かった はーい
♪
♪ 〔タップする音〕
♪
♪ 〔呼び出し音〕
♪
♪ (女性) はい 119番 消防です
♪
♪ (綿子) もしもし 救急車 お願いします
♪
♪ (女性) 救急ですね どうされましたか?
♪
♪ (綿子) 車と人です
♪
♪ (女性) はい
♪
♪ (綿子) 車と…
♪
♪ (女性) 場所は どちらですか?
♪
♪ (綿子) あー… 場所は…
♪
♪ (女性) 大丈夫ですか?
♪
♪ (綿子) あ いや 私は あの あれなんですけど
♪
♪ (女性) もしもし
♪
♪ (綿子) あ ほかに 通報ってありますか? 今
♪
♪ (女性) はい?
♪
♪ (綿子) ほかに通報ってありますか? 事故の 今
♪
♪ (女性) はい?
♪
♪ (女性) もしもーし…
♪
(震える息づかい)
(文則) ごはんは 食べずに帰ったんだよね?
(綿子) あ そうそう ごめん
(文則) いや 大丈夫
食べてないんでしょ 夜 作っといたけど いる?
(綿子) ううん 大丈夫 ありがとう
食べてないけど
ボーッとしてた カフェ行って
(文則) 英梨えりちゃんと一緒に?
(綿子) 英梨は 先 一人で帰った
これ 中 まだ入ってるけど 捨てていいのかな
(文則) あぁ ごめん 大丈夫 ヒロムのだ
(綿子) まだある? 買い足ししとく?
(文則) 少ないかも
(綿子) うん… ちょっと買い足しとこうかな
(文則) 話したいことあるって 言ったでしょ 電話で
メシ 食い終わったら どう?
あ ワインとかも 買ってきてるんだけど
(綿子) あぁ… ちょっと 後で でいい? ごめん
(文則) うん
〔電話の呼び出し音〕
(女性) もしもし
(女性) もしもーし
〔スマホのバイブ音〕
もしもし
(英梨) 連絡 見た?
(綿子) 見てないよ
(英梨) 木村くんのことなんだけどね
(綿子) うん
(英梨) 亡くなって 葬儀のね 連絡なんだけど…
(綿子) あ…
あぁ… あ そうなんだ
(英梨) そう
一人のキャンプの 帰りらしいんだけど
(綿子) うん そっか
一人でキャンプ行ってたんだ
そうなんだ
(英梨) 大丈夫?
(綿子) え あぁ 大丈夫 ありがとう
大丈夫だよ 私は
(英梨) 最近は?
(綿子) うん 最近は そんなに会ってなかったかな
(英梨) どうしよっか モール
(綿子) あ じゃ どうする? それは英梨に任せる
葬儀 終わってから行くでも
(英梨) じゃあ 当日 考えよっか
(綿子) あぁ じゃ そうしよう
(英梨) そうしよっか 連絡も見といて
(綿子) はーい
(英梨) はーい
〔はなをすする音〕
〔はなをすする音〕
はぁ…
〔パチパチと薪まきがはぜる音〕
〔ノック〕
〔ドアが開く音〕
(文則) 今日は話せるかな
(綿子) あぁ… そっかそっか 大丈夫
(文則) 家 買おうと 思ってんだよねって話
ここ 賃貸に回しちゃって
(綿子) あ そうなんだ
最近 考えたの?
(文則) いや 結構 考えてたんだけど
会社のブランドが リニューアルするんだけど 今度ね
社割も利きくし ないしょだけど
(綿子) 詳しい人に任せるよ
(文則) でも見に行かないとじゃんか
(綿子) 分かった じゃあ 見に行く日 決まったら教えて
(文則) どっか 泊まりで 行きたいとこない?
(綿子) え 何?
(文則) ん? 泊まりでどっか 行きたいとこ ないかなぁと思って
(綿子) えぇ…
〔ドアを閉める音〕
(綿子) どういうこと?
(文則) まぁ べつに 泊まりじゃなくてもいいんだけど
昔 行った所とかでもいいし ない?
(綿子) 私 どこか 行きたいアピールしてた? ごめん
(文則) いや そうじゃなくて… えー
そうじゃなくて 俺がアピールしてる
こういう空気のまま あと もう何十年も 一緒に生活してくのキツくない?
…て 俺は思うんだけど
(綿子) んー…
ふふふ…
(文則) いや 分かってるでしょ
この空気 お互い続けてきたわけなんだから
このまんまだと 子どもだって難しいよね
難しいっていうか無理だよね
(綿子) うん
(文則) それは どう思うの?
(綿子) それって?
(文則) ん? 空気とか子どもとか “うん”だけじゃなくて
(綿子) べつに私も いいとは思ってないよ
(文則) 今のタイミングしかないと 思ってるのね やり直していく
まぁ そもそもの原因があるのは 俺側なんだけど
それは分かってるつもりだけど
でも母さんも 子どもができたら 俺らの見え方 変わると思うんだよね
引っ越したら 鍵も渡さないつもりだし
(綿子) そしたら お義母さん ヒロムの面倒 どこで見るの?
(文則) それは だから いろいろ考えてる
(綿子) いろいろって?
(文則) 俺も向こうも 面倒 見れない時に
うちの母さんだけに頼むんじゃなくて 向こうの両親は どうなのかとか
(綿子) 分かった (文則) うん
(綿子) どこ行くつもりなの?
(文則) 行きたいとこないんだったら 俺 考えるよ
いきなり聞いた俺も悪いし
〔はなをすする音〕
〔車のドアが開く音〕
(英梨) あ 後ろ 適当に置いといて
〔ドアを閉める音〕
(綿子) どうだった?
(英梨) えぇ? ご覧のとおり
〔はなをすする音〕
(英梨) 結局 なんで来なかったの?
(綿子) なんでって難しいな
(英梨) 家族と会いたくなかったの?
(綿子) そうじゃないよ 全然そうじゃない
はぁ… なんだろ
(綿子) 実感 わかなかったから かもしれない
だから失礼かなって
(英梨) それは
でも見てないからでしょ それは
実感…
私も 棺ひつぎの中 見て
あぁ やっぱ そうだよなぁって なったよ
(綿子) そうなのかなぁ
(英梨) そうだよ
(英梨) なんか
一人でキャンプするイメージ なかったから
キャンプとか嫌いそうだし 意外だったな
(綿子) 私も そう思う
(英梨) 最近 ハマってるって 言ってたらしいけど
(綿子) 知らない
(文則) もう 昔 工事してた所とか 完成してんのかな
(綿子) したんじゃない? なんか ニュースで読んだ気がする
(文則) あれ 何になったの?
(綿子) 普通に買い物とか できる場所じゃない? たぶん
(文則) そこも寄れたら 寄ってみようよ
(綿子) うん (文則) うん
♪
♪ 〔遠くから聞こえる 航空機のエンジン音〕
♪
♪ (木村) 2人で 子ども つくろうって話には なんなかったの?
♪
♪ (綿子) んー お義母さんは そうしてほしそうだけど
♪
♪ 文則も 2人 面倒 見るのは 難しいんじゃないかな
♪
♪ それに 向こうの子どもが 中学生とかになった時に
♪
♪ どう思うんだろう… とか
♪
♪ そういうのも気にしてるかな 私
♪
♪ だから ペットでも飼おうかな 犬とか
♪
♪ (木村) 犬? (綿子) うん
♪
♪ (木村) 犬かぁ… 俺 犬 嫌いなんだよなぁ
♪
♪ (綿子) はははっ 犬じゃなくてもいいんだけどさ
♪
♪ (木村) ふふっ
♪
♪ (木村) どこだったら 持っていいの?
♪
♪ (綿子) 私 持てる所ないし
♪
♪ (木村) おなか?
♪
♪ (綿子) はははっ それは持てるかもしれない
♪
♪ ねぇ! ほんとに持とうとしたら ダメじゃん 持つよ
♪
♪ (木村) どうぞ いいよ
♪
♪ (木村) 持てそう?
♪
♪ (綿子) うーん 皮しかない
♪
♪ (2人) ふふふっ
♪
♪ (木村) んー (綿子) あははっ
♪
♪ (木村) ちょ! んっ! (綿子) ねぇ ちょっと
♪
〔航空機のエンジン音〕
(文則) 内見ないけんの地図と住所 送っといたけど
駅まで迎えに行こうと思ったら 行けるけど
(綿子) ん? (文則) いや 内見
(綿子) うん ありがとう 大丈夫
(文則) こうやって 昔 行った所 回ってくのいいかもね
(綿子) 不思議な気分
飛行機 ずっと立って見てたから ふくらはぎが…
(文則) 疲れるよね (綿子) ふふっ
(文則) じゃ どうする? この後 ごはん ここら辺で食べる?
(綿子) どうする?
まだ そんな 時間 遅くないし 家で作れる時間だけど
(文則) ほんとは あんまり来たくなかったんでしょ
(綿子) なんでよ
行きたくなかったら 行きたくないって言ってるよ 私
(文則) いや 早く帰りたいのかなぁと思って
(綿子) そんなことは言ってないよ
文則だって 疲れたって言ってたじゃん
(文則) とりあえず お会計してくる
(フロント係) こんにちは いらっしゃいませ
(綿子) 予約してる木村です
(フロント係) 木村様でございますね ただ今 確認いたします
〔走行音〕
(綿子) ごめん ありがとう
(英梨) どこ行きたいとか 決めてんの?
(綿子) ん? んー 山梨とか
(英梨) え 山梨?
山梨 行くの? 今から? ちょっと待ってよ
(綿子) ごめん ごめん
(英梨) え 急に 山梨 旅したくなったの?
(綿子) うん
(綿子) 息子 大丈夫だった?
(英梨) うん 日帰りするから べつに
(綿子) 途中で お墓 寄ってもいい?
(英梨) 誰の? (綿子) 木村くんの
(英梨) あぁ そっか
でも まだ 四十九日 経たってないけど
(綿子) それでも 一応 私ほら 告別式も参加しなかったから
行くべきかなぁって
(綿子) なんか食べる? おなか すいた?
(英梨) んー いいや 今 おなか すいてるんだけど
向こう着いてから いい感じのもの食べる
(綿子) あ じゃあ 飲み物は? (英梨) とりあえず見よっかな
(綿子) ホットください (英梨) 2つで
(店員) 660円です
(綿子) まとめて払います (英梨) 私 払うよ
(綿子) ううん いい 旦那のお金ですから
〔電子決済の音〕
(店員) お待たせしました (綿子) ありがとうございまーす
(店員) ありがとうございます
(英梨) ありがとう
(綿子) なんかねぇ お花とかなんか 持ってくればよかった
(哲てつ也や) こんにちは (綿子たち) こんにちは
(哲也) ここ まだ妻しか入ってないよ
(綿子) あ…
(綿子) 知ってます
私が お葬式とか出れてなくて
ちょっと来ないとなぁと思ってて 先に ちょっと…
(哲也) 直なお樹きの知り合い?
(綿子) はい まぁ そうですね
(英梨) 私は もともと同僚だったんですけど
(哲也) そっかそっか うん
昨日 依より子こさんが 骨をうちまで届けに来てたけど
(綿子) あ そうなんですね
僕も もっと話しとけば よかったんだろうけど
いやね もう ずーっと
中学生くらいかなぁ
僕は もう しゃべってないんだけど 彼と
(英梨) あ でも正直 そこまで私も木村さんのこと
よく知っているわけではないんです
…というのが正直あります そうですね
(綿子) なんで 話さなくなっちゃったんですか?
(哲也) 小学生かなぁ あいつが
もう 結構 前なんだけど
うちで犬を飼っててね
時々 散歩 一緒にしてたんだけど
時々 つっても あいつが散歩しないから
無理やり俺が 一緒に来いって 連れてってたんだけど
俺と一緒に散歩してる時に
俺がリード持ってて
まぁ…
犬が 道の角から 飛び出しちゃったんだな
そしたら車が出てきて ボーンて
そのまま 車は どっか走っていっちゃったんだけど
まぁ それで あいつは ずーっと
“救急車 呼んで!”って 俺に言ってたんだけど
犬で 救急車はね
呼べないじゃない
すごい血が出てたんだけど
犬は もう助からない状態だったし
骨も飛び出ちゃってるしさ
だから 一応 抱っこして
うちに連れて帰って
家族で 逝いくのを待つことに したんだけど
犬が すごい苦しそうに してたんだよね
もう 息も 途切れ 途切れなんだけど
痛かったと思うんだよ うん 車に引きずられて
いちばん楽に逝かせてあげるっても 殴ったりするのは かわいそうだろ
だから
首を絞めたんだけど
(綿子) あぁ…
(哲也) それから だんだんかな
口くち きかなくなって
ほとんど
中学生の時には もう ほとんど話さなくなって
そうだなぁ 高校生の時は もう
まったく もう
どっかで仲直りできたらいいけどって 思ってたんだけどねぇ
結婚式も 行かなかったんだよなぁ 俺が
うちの場合は 俺のほうが 避さけちゃってたんだよな
〔スマホのバイブ音〕
〔スマホのバイブ音〕 (哲也) 歳とし 取って 何 話したらいいか
分からなく なっちゃったんだよな はは…
(綿子) あ… ちょっと すいません
〔鳴り続けるバイブ音〕
もしもし
(文則) え どこにいんの?
(綿子) え?
(文則) 何してんの? 今
(綿子) あー
今 英梨と一緒にいて ちょっと出かけてるんだけど
まぁ 遊びっていうか 半分 お墓参りみたいなことなんだけど
(文則) え あぁ なんで?
(綿子) なんでって?
(文則) お墓ってのは その…
今日なの? 今日 行くって言ってた?
内見は? 今日 見に行くって 言ってたじゃんか
(綿子) あ…
(文則) えぇ?
忘れてた?
(綿子) ごめん ちょっと完全に
(文則) ん…
どこ いんの?
(綿子) あー えっと 山梨
(文則) え 山梨? 山梨なの?
(綿子) そう あの 車 出してもらってて
(文則) それ 今日 帰ってくる?
(綿子) もちろん帰るよ
(文則) ちょっと 一旦 英梨ちゃんと代わってくれない?
(綿子) なんで?
(文則) いや えっと… 代わってくれたら べつに それでいいから
〔早足で近づく足音〕
(英梨) なんだった?
(綿子) 英梨 ごめん ちょっと代わってって
(英梨) え? 何が?
(綿子) 文ふみが代わってほしいって
(英梨) 私? 今? (綿子) うん
なんで?
(綿子) いや…
(英梨) もしもし
あっ 英梨です お久しぶりです
〔遠ざかる足音〕
小学生の時とかって どんな感じだったんですか?
(哲也) あぁ… んー
ちょっと内うち気きだったかな
友達と遊んでも 後ろにいるようなタイプだったね
(綿子) 逆なんだ 社交的なイメージありました
(哲也) あぁ
うん… 何があったか 知らないんだけど
母親が 金きんと黒の2個 半分ずつの色に 髪を染めたことがあって
それから学校でも 前のほうに ちょっと出てったみたいだけど
(綿子) ツートーンだったんですか 見てみたい
(哲也) 卒業アルバムにはあるのかな
(綿子) それで撮るの許してもらえたんだ (哲也) うん 確か
(英梨) すいません
すいません あの…
電話 代わってほしいって
僕?
(英梨) あ そうですね 代わってほしいって
今 この人の パートナーなんですけど
僕に?
(英梨) あの… そうですね
状況を… 説明したら 一応ちょっと 代わってほしいって
あ あの…“それは さすがに”って 一回 断ったは断ったんですけど
結構…
はい… 押しが強くて
(哲也) ふっ…
(哲也) これだな ははっ
(綿子) はははっ 短い
(英梨) 若い時って なんで変な髪形なんだろうね
(哲也) 流行はやってたんだろうね (英梨) 流行りですか?
(哲也) うん
これは誰かの写真を見せて 切ってもらったんじゃなかったかな
(英梨) えぇー? 誰だろう 私たち だいたい世代一緒だから
(綿子) うん
(哲也) 妻に写真を頼んでた気がする
(英梨) お皿 取ってくる (綿子) ありがとう
(綿子) 行ったことない でも行ってみたいと思ってるよ
(英梨) どうしよっかなぁ
(綿子) 連れてってあげれば いいじゃん
(英梨) もっと不便なキャンプから 始めたほうがよくない?
グランピングとか楽な形から入ると
後々のちのち めんどくさいこと できなくならない?
(綿子) 頑張ったほうがいいことも あるんだけど
キャンプくらい いいんじゃない?
(英梨) てか 頑張ったほうが いいことってさぁ
難しくない? 伝えるの
(英梨) なんか うちはさぁ
何個かね 運動の習い事やってたんだけど
なんか どこまで“頑張れ”って 言っていいのか分かんなくて
結局 全部やめちゃったんだよね
続けさせたほうがよかったんだと 思うんだけど
でも そういう 練習つらいって
どれくらい しんどいのかも 分かんないじゃん こっちは
コーチにも言えないじゃん 恥ずかしくて
“うちの子は プロになりたいわけじゃないから”
“練習の量って 減らせますか?”とか
(綿子) それは言えないねぇ
私も子どもが“やめたい”って 言ってきたら どうすんだろ
(文則) じゃあ 今日は命日とかじゃないのね
(綿子) 違うね
(文則) だったら 今日じゃなくてもよかったんだよね
(綿子) そうだね
(文則) いやぁ 忘れるかなぁ はは…
(綿子) ごめん
(文則) 誰の墓参りなの?
(綿子) 友達の
(文則) まぁ でも しょうがないか
しょうがないね
そういうことも あるある
そういう用事だったら それは もう しょうがない
忘れることもある
疲れた? 墓参り 山梨だもんね
(綿子) あ うん 疲れたかな
(文則) 座って
〔冷蔵庫の扉の開閉音〕
(文則) これは お互いだと思うけど
正直 離婚を考えたことはあるよ
でも 今 一緒にいるのって やっぱり その都度さ
離婚以外のことを思い浮かべてきた ってことなんだと思うんだよね
そういう時に
別の選択肢をどれぐらい 思い浮かべられるんだってことっていうか
離婚 考えたことあるでしょ
そういうもんだと思ってるから 全然 言っていいよ 俺あるんだから
(綿子) なくはないと思う
(文則) どの夫婦も そうだと思うんだけど
みんな 一回は 考えるは考えるんだと思う
離婚したら どうなるんだろうとか うち 子どもいないしね
ただ そういうことが よぎった時
考えちゃった時に どうするかってことだから
一応
今のところ お互い そうじゃない選択をしてきたわけじゃんか
べつに何が言いたいとかでも ないんだけど
電話でイヤな感じ出してごめんね
〔冷蔵庫の扉の開閉音〕
(文則) 俺 業務 戻るから 10分ぐらいしか見れないんだけど
(綿子) うん 大丈夫
(文則) 今日 ちょっと
急きょ 子どもの面倒 見なきゃいけなくなって
遅くなるかもしれないんだけど
(綿子) 分かった
(文則) どうした?
(綿子) あ いや なんか熱っぽいんだよね 昨日から
(文則) 大丈夫? (綿子) うん
(文則) じゃ 俺 あれだな ヒロムの面倒 断っちゃうわ
(綿子) いや ダメでしょ それは 誰が面倒 見るの? そしたら
(文則) いや いいよ うちのお母さんに頼むから
(綿子) それはそれで 申し訳ないんだけど
(文則) いや 理由は言わないようにしとくし
仕事も早く帰るようにするよ
(店員) いらっしゃいませ
〔玄関のドアが開く音〕
(もれ聞こえる 子どもと女性の話し声)
(文則) いや うん 詳しい時期はまだ決めてなくて
でも とりあえず引っ越すのね
(文則) いや 新しい所の鍵は 渡さないつもりなのね
うん 今日のこともだけど
やっぱり 勝手にうちに入られたりすると ちょっと気を遣うから
いや そういうことじゃない 綿子が言ってるとかじゃない
いや ヒロムを見てくれたりするのは すごく助かってるけど
それとは別の話
面倒 見るのは うちじゃなくてもできるじゃない
分かった それは また話そう
でも うん 今日のことが きっかけじゃなくて
本当に前から 言おうと思ってたことだから
だから うん
そこは俺も悪いから
分かった 分かった そこは ちゃんと話そう
体調が悪いのは 俺も気を遣ってるじゃんか
ちゃんと そっち 顔 出してるじゃん
だから病院も 一緒に行ってるでしょ
うん
そうね はい 会って話そう
うん
はい 分かった
気をつけてね はーい
(文則) ごめん 起こしたね (綿子) ううん
(文則) 鍵 すぐに回収できたら いいんだけど
(綿子) まぁ でも ヒロムくんのことも 見てもらってるから しょうがないよね
(文則) それと これとは別だし
まぁ こんだけ言ったら さすがに 入ってこないと思うんだけど
もっと早く言えたら よかったんだけど 俺が
(綿子) 変な感じになるよね ごめんね
(文則) ううん もう全然 気にしなくていいよ
記念日と同じ年生まれのワイン 買ってきてるんだけど
やっぱ やめといたほうがいいか
(綿子) あ 全然 寝たら体調 大丈夫になったから大丈夫
(文則) じゃ 開けよっか (綿子) よく見つけたね
(文則) あの年代のなら わりとあるんだよね
あっ
それで
(文則) どうぞ
ありがとう
私も
(文則) えぇ なんだろう
(文則) 開けていい? (綿子) うん
(綿子) 私も開けるね
〔革靴かわぐつで歩く音〕
床 傷ついちゃうよ 靴 脱ぎなよぉ
(文則) 大丈夫 これ大丈夫にできてるやつだから
(綿子) この部屋 賃貸に出すんでしょ
(文則) じゃあ 手で履いちゃお
(綿子) あ 似合う はははっ (文則) ほんと?
(文則) ハンドムーンウォーク (綿子) あははっ うまい
(文則) うまい? ふふふっ
(文則) ちょっと 手に汗かいてきた
(綿子) ちょっと 手 匂わせて
(綿子) あ くさっ! くさいよ これ (文則) ウソでしょ
(文則) まだ買ったばっかりの 靴の匂いでしょ これ
(綿子) 手 靴下はいて
(文則) 余計 汗かいて くさくなっちゃうでしょ
(綿子) 私 歩いたけど くさくなってなーい
(文則) ほんとに?
(文則) くさ! ははっ
(綿子) ちょっと こぼれる…
(文則) どう?
(綿子) サイアク
ねぇ ちょっと 手ぇくさいから 靴 脱がないで
(文則) 待って 回ってきた
(綿子) 白にすればよかったのに
(文則) これしかなかったんだ (綿子) 水 飲む?
OK 大丈夫 ちょっと待って
服も靴に合わせてショーするね
(綿子) はははっ
〔歩いていく足音〕
〔ドアの開閉音〕
〔小銭が落ちた音〕
(綿子) あっ
〔歩いてくる足音〕
(文則) どう?
(文則) へへっ
(綿子) いいと思う (文則) はははっ
(綿子) どうしたの?
(文則) 目 つぶって
(綿子) なんで? (文則) いいから
(綿子) 何よ (文則) いいから 早く つむって
(綿子) トイレ行きたい
(文則) 口くちは ゆすいでるから
(綿子) もれちゃうから
〔ドアの開閉音〕
〔解錠音〕
(綿子) すいません
(店員) はい
(綿子) 最近 こういう落とし物って 届いてたりしてませんか?
(店員) 少々 お待ちください
〔歩いていく足音〕
〔引き戸を開ける音〕
〔引き戸を閉める音〕
(哲也) これかな
(綿子) あぁ ありがとうございます
どこで落としたんだろう
(哲也) 事故の時に 知らない指輪を持ってたって
骨と一緒に届けてくれてたんだ 依より子こさんがね
(綿子) あぁ…
(哲也) やっぱり これは
同じ物を探してるのかな 今
(哲也) ふっ… いや 特に僕は
だから どうしたいということも 思ってないんだけれどね
(綿子) すいません
(哲也) ふふふ 君が謝る話じゃないよ
2人のことだし
だから このことは
どうしたいとも 思ってないんだけれど
どう… その…
どう… すればいいんだろうか ははっ
(綿子) どう… そうですね
どう というのは
(哲也) 探すのに ここまで来るくらい 大切なものなんでしょ?
つまり僕は
ん… だから
それが どういう指輪か知ってるのに 知らないふりをしておくのが
気持ち悪いというのかな 依子さんに対して
んー だから
黙っておくというのも
うん 変な話なのかなと 思っていて ははっ
勘違いしないでほしいのは 君を…
罰ばっしたいとかではないんだけれど
んー でも
僕だけがね
このことを 抱かかえていたくはないというのかなぁ
(哲也) うん
〔雨音〕
〔自動ドアの開閉音〕
(スタッフ) ご予約されてますか?
(綿子) あ いや 今日って空あいてますか?
(スタッフ) 確認いたしますので 少々 お待ちください
1名様で よろしかったでしょうか
(綿子) はい
(スタッフ) 何泊のご予定ですか? (綿子) 1泊で
(スタッフ) では あちらで 少々 お待ちください
(スタッフ) お待たせいたしました
2つ 空きがございましたので あちらへ
♪〔重々しく不穏な音楽〕
♪
♪ (大きく息を吸う音)
♪
♪ はぁっ はぁ はぁ…
♪
♪〔重々しく 不穏な音楽が続く〕
〔足音〕 ♪
♪
♪ (文則) あれ?とは思うよね
♪
♪ (綿子) だよね ごめんね びっくりしたよね
♪
♪ 言おうと思ってたんだけど
♪
♪ (文則) どこ?
♪
♪ (綿子) 今… 今は 山梨
♪
♪ (文則) 山梨
♪
♪ (綿子) そう
♪
♪ (文則) 英梨ちゃんと?
♪
♪ (綿子) 英梨は いないよ
♪
♪ (文則) じゃ 誰と?
♪
♪ (綿子) え? いや べつに 誰も一緒じゃないけど
♪
♪ (文則) 何 一人ってこと?
♪
♪ (綿子) ほんとに一人だよ うん ほんとだって
♪
♪ (文則) え 帰ってくるよね
♪
♪ (綿子) 帰るから大丈夫 はい
♪
♪ (文則) 分かった
♪
♪ (綿子) ごめん はい
♪
♪〔重々しく 不穏な音楽が続く〕
♪
♪ 〔車のドアが開く音〕
♪
♪ 〔ドアを閉める音〕
♪
〔自動ドアが開く音〕
〔自動ドアが閉まる音〕
(依子) お呼びたてして すいません すぐに ここ分かりました?
(綿子) はい
(依子) 結婚してること 知ってましたか?
(綿子) はい
(依子) あぁ…
ご結婚はされてますか?
(綿子) はい
(依子) 仕事は?
(綿子) いえ
(依子) 何が最初だったんですか?
(綿子) 初めは友達に誘われた 集まりで会いました
(依子) それから?
(綿子) それから
それからは…
そうですね
悩んでいたことがあって 私
初めて会った時に 長く付き合って結婚したことを聞いて
それで でも途中で別れたり 戻ったりしたことも聞いていて
なんで よりを戻したんですかって 聞いたら
楽しかった時を思い出すからって 言っていて
それが 私の悩んでいたことと 同じ状況で
それから話すようになりました
(依子) いつですか? それは
(綿子) 1年前ぐらいです
(依子) そっか
じゃ 1年前から出かけてたどれかは 会いに行ってたんだ
(依子) 逆に何か 聞きたいことはないですか?
(綿子) ないです
(依子) そうですか
(依子) 大学生から 私は付き合ってたんですけど
彼が2つ下で
彼から声をかけてきたのが 最初だったんですよ
同じ学年だと 思ってたらしいんですけど
途中 ちょっと 別れたりもしたけど でも
だから もう… 15年かな
一緒にいたんですね
だから 長い時間 一緒にいて
一いち途ずで理想的だ とかって言うんですけど みんな
でも実際 それって
理想的なのかなって思いますよね
それは理想的っていうか いいことって思いますか?
(綿子) いいこと…
いいこと…
(依子) あんまり たくさんは ほかの人を知らないまま
私たち 歳を取ったと 思ってたんですけどね
結婚すると お互い 一人としか セックスしちゃダメじゃないですか
(綿子) そうですね
(依子) どうして そんなことしたの?って
あの人に聞けたら よかったんですけど
(文則) とりあえず謝ろうか
(綿子) ごめんなさい
(文則) うん 何が? 何について?
(綿子) 何がっていうのは だから
私が黙って どっか行ったこと
(文則) なんで また山梨なの?
(文則) 黙るんだったら 話し合いにならないんだけど
納得いくまで話そうよって まずね 思うんだけど
山梨に なんかあんの?
この…
あなたの取った行動は 俺に何か問題はある?
こんなことで やり直せると思う?
黙ってるっていうのは 一つの返事になっちゃうんですけど
(綿子) そういうつもりじゃなくて 考えてるだけ
黙ってるって べつに返事じゃない
(文則) あ そう 待てってことね 分かった
(綿子) 私は
(文則) 待ってるよ 今
待ってる
(文則) こんなの持ってたっけ
(綿子) どこにあった? (文則) 山梨に関係あるんだ
(綿子) どこにあった?
(文則) どこにあったかは 俺が聞きたいことと関係あんの?
(文則) これさ
イヤだけど 不倫 疑われてもしかたないよ 正直
いや 疑うのイヤだけどね
(綿子) あなたが それを言う?
(文則) してたんだ? (綿子) してない
(文則) じゃ 山梨に何しに行ってたか ちゃんと答えれるよね
(綿子) 不倫はしてないよ
(文則) 俺は 何をしてたか聞いてるんだけど
(綿子) いや…
(文則) そこを答えないで してないって 言われても信じられないでしょ
黙ってるなら もうアウトってことだからね
(綿子) 私が じゃあ例えば 何 不倫してたら どうするの?
(文則) え? え ごめん 何が言いたいんだろ
(綿子) 先にしたのは文則でしょ
(文則) その話はしてないだろ 今
(綿子) 子どもに会うって 言いながらしてたのは何?
もう許されたと思ってんの?
(文則) いや とりあえず 不倫は認めるよね?
(綿子) 山梨で なんもしてないよ (文則) 無理があるだろ
(綿子) してないから してないって 言ってるんだけど!
(文則) 無理があるって それは!
(綿子) じゃあ 子ども面倒 見るって言いながら あなたは どこ行ってた?
バレた後も何回も預かって
(文則) それは子どもなんだから しょうがないでしょって
じゃ 何 ほっとくの?
(綿子) 違う違う!
面倒 見るのは しょうがないかなって思ってたから
だって子どもなんだから
父親に会えたほうが いいだろうなって思ってたし
だから ずっと我慢してきたけど いろいろ
あなたが 子どもに会うって言って
それで やってきたことと 言ってきたことと同じじゃない?
違う?
(文則) その話はしてないって 言ってんじゃん 今
そんなに言うのは だから 認めるってことでしょ 不倫を
(綿子) ううん してない
(文則) じゃ これはなんなの?って 答えようよ
(綿子) 好きな人からもらった
(文則) え 何?
(綿子) 最近 死んだけど
(文則) は? 死んだ?
(綿子) だから墓参りって言ってたとおり 墓が山梨にあるんだってこと
(文則) 死んでんの? (綿子) 死んだ
(文則) 誰が信じるのよ そんな話
(綿子) 信じるとか信じないとかじゃなくて
死んじゃったから!
あの人
死んじゃったから!
(文則) 本気で言ってんの?
(綿子) 死んじゃったんだって…
(文則) 泣くなよ
不倫相手に そんな気持ちになられてもね
(綿子) ちょっと休憩する
(文則) どこ行くの (綿子) 休憩
〔ドアが開く音〕
どこ行ってたの?
(綿子) 別れたい
(文則) 分かった
(綿子) うん
(文則) 好きな人と どこで会ってたの?
(綿子) いろいろかな
(文則) どこ?
(綿子) 普通にごはん食べ行ったり
2人きりになれる場所 探して行ったり
神社とか行ったりしたよ
遠くにも出かけたりしたし
レンタカーだけど
(文則) だから例えば どこ?
(綿子) 足湯 入りに行ったり
空港とか
(文則) 空港で何したの?
(綿子) 私らと同じだよ 昔の
(文則) 何?
(綿子) 飛行機 見たり お茶したり
(文則) そう 楽しかった?
(綿子) 私らも 結局 不倫から始まってるでしょ
不倫関係だった時のほうが いい人でいられるし
前の人とも不倫関係だから うまく やれてるんじゃないの? 今
(文則) ほんとに死んでんの?
(綿子) うん
私は遠慮して お葬式とかは 参加しなかったんだけど
私の見える所で事故があって そう
(涙声) 大変だってことは分かる事故で…
近くにいた私 救急車 呼べばよかったんだけど
誰か ほかに呼ぶって思って それで…
それで電話はかけたんだけど 途中で切った
その時に どうなってたか あんまり覚えてないんだけど
でも知らんふりした…
(文則) それが原因ってこと?
(綿子) 分かんない…
でも私が そもそも そういう関係になってなかったら
事故はなかったのかなぁとか
(文則) そう
(綿子) 何
離して
離してって
(文則) 本当は別れたくないよ 俺は
(綿子) 離してって
(文則) 別れたくない
(綿子) 離してって
(綿子) 向き合えないっていうのは 怖いでしょ
これは私も同じだから
ずっと本当の問題を 無視してきた私も悪い
(文則) 母さんと話 つけたよ
(綿子) うん
(文則) 子どものことも
(綿子) 文則は 元の家族に戻れるでしょ
(文則) 別れたいの?
(綿子) べつに別れたくないよ
でも
木村くんに会いたい
〔足音〕
〔ドアが開く音〕
♪〔透明感のある ピアノの音色〕
♪
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