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《美世:きれいな人》
(清霞)お前が新しい婚約者か。
はい。
いいか ここでは 私の言うことには絶対に従え。
私が出て行けと言ったら出て行け。
死ねと言ったら死ね。
文句や反論は聞かん。
かしこまりました。
はっ? 他には何かございますでしょうか。
よろしくお願いいたします。
<久堂清霞様との新たな生活は
こうして 静かに幕を開けたのでした>
(ゆり江)美世様は こちらのお部屋を
お使いくださいませ。
お気遣い ありがとうございます。
美世様。 はい。
坊ちゃんは いろいろと
よくないウワサが あるようですけれど
本当は お優しい方なのですよ。
んっ? それでは ゆり江は これにて失礼いたします。
はい ありがとうございます。
《上等なお布団。
もっと ののしられたり さげすまれるかと思った。
いきなり追い出されることも 覚悟していたのに》
《きっと 旦那様は 私が斎森家の娘だから
異能を持っていると 思っているはず》
《だとしたら…》
真一:これより 2人に見鬼の才が
あるか否かを確かめる。
美世 香耶 感覚を研ぎ澄ませなさい。
(2人)はい。
では 開けるぞ。
(2人)んっ。
(足音)
(香耶)はっ!
うっ 来ないで。 えっ?
きゃ~! (真一)香耶!
いや! こっちに来ないで!
異形が見えたということは 見鬼の才があるということ!
お前はいずれ 異能にも目覚めるはずだ。
よくやった 香耶!
いのう?
キャハハッ! (香乃子)まあ ウフフッ。
あれから 更に見えるようになったのか。
(香耶)昨日 ちょっとだけ 式も動かせたんだよ。
香耶えらいでしょ! (香乃子)さすが
真一さんとわたくしの娘だわ。
いつまでたっても 見鬼のけの字も現れない
ごくつぶしとは大違いね。
はっ。
(花)美世様 きっと大丈夫ですよ。
私ね 知ってるの。
みんながひどいウワサしてるの。
アハハハッ!
異能がない私は 役立たず。
(花)美世様…。
きっと私 あのお母様の桜の木のように
いらない子 なのよね
はっ。
夢…。
《ああ もうあの家ではないのだった。
この家では ちゃんと役に立たないと》
あっ。 (おなかの音)
あら? いい匂い。
いい感じ。 美世様?
あっ ゆり江さん お おはようございます。
おはようございます 美世様。
お越しになられて早々
こんな朝早くから 食事の準備だなんて。
あの 勝手をして申し訳ありません。
勝手だなんて めっそうもありませんよ。
美世様は 坊ちゃんの婚約者ですもの。
(ゆり江)あら おいしそう!
これは きっと坊ちゃんも喜びますわ。
お食事の支度は このゆり江の仕事なのですが
見てのとおり もうこんな しわくちゃの婆ですから。
お手伝いをしていただけて 本当に助かりましたよ。
い いえ。
さぁさ 坊ちゃんが起きるまでは まだ時間がありますからね。
ほかのこともやっておきましょう。
(ゆり江)美世様 ここは お任せしてよろしいですか?
はい 私でよろしければ。
(ゆり江)おはようございます 坊ちゃん。
おはよう。
ゆり江 人前で 坊ちゃんと呼ぶのはやめろ。
おはようございます 旦那様。
坊ちゃん 今朝は美世様が
お料理をしてくださったんですよ。
そうか。 (ゆり江)ええ!
それはもう手際もよくて とても助かりました。
ここに座れ。 は はい。
お前 先に食べてみろ。
えっ。 食べられないのか?
あ あの…。 毒でも盛ったか。
わかりやすいことだ。
え…。 毒!?
こんな 何が入っているかも わからないものは食えん。
片づけておけ。
次はもっとうまくやることだ。
(ゆり江)ちょっと 坊ちゃん! 坊ちゃん!
< よかれと思って取った行動は
予期せず大きな失敗を 招いてしまったのでした>
諸君を 対異特殊部隊に歓迎する。
厳しい鍛錬によって 異能の力を磨き
その技を高めていってほしい。
(五道)異能とは 魂に宿りし潜在的な力である。
念動力 発火能力 透視能力。
いかなる異能も 決してこの世のことわりから
外れたものではない。
魂の力が具現化するのだ。
そしてこの国には 古来より異形が住みついている。
鬼や妖とも呼ばれ 人に害をなしてきた存在だ。
もし異形が出現したとき
その脅威に対抗できる 唯一無二の力こそ
異能なのである!
肝心の異形はどこにいるんだ。
どれだけ備えたところで
出動がないんじゃな。
(五道)ゆえに 我々はいついかなる時も
異形の出現に備えて…。
(隊員たち)うおっ!
(隊員たち)あ…。
(隊員たち)んっ! 時代の流れとともに
異形は数を減らし
今や異形討伐の出動もわずかだ。
だからこそ いざ事案が発生したときには
大きな被害と混乱が予想される。
諸君には 先陣を切って異形と戦う
強い覚悟を期待する。
(隊員たち)はっ!
入れ。 (ノック)
隊長 頼まれた書類 持ってきましたよ~。
先ほどの新人訓練 やけに気合いが入ってましたねぇ。
あら? 今日は機嫌が悪いのかな。
聞こえます? お~い 久堂隊長。
おやおや? もしかして
また婚約者に 逃げられでもしましたか?
くだらんことを言ってないで さっさと出ていけ。
あれ 図星ですか?
焼かれたいのか? おっと。
今日は特段 虫の居所がお悪いようで。
それでは自分はこれにて。
(ドアの開閉音)
はぁ。
ゆり江:坊ちゃん 聞いてらっしゃいますか?
ああ 聞いている。
何もあんな言い方することは ないでしょうに。
美世様は 一生懸命お食事の用意を なさっておいででした。
毒など入れるような方には 思えません
《ゆり江が あそこまで言うのは珍しい》
まったく ほかのことを考えるなど。
我ながら たるんでいるな。
《ここに来て早々に 失敗してしまうだなんて。
旦那様がウワサどおりの人ならば
もう この家には いられないかもしれない》
(真一)幸次くんの部屋を 用意しておいた。
今日から自由に使いなさい。
(幸次)ありがとうございます。
婿入りの準備も 始めなければいけないだろう?
これから忙しくなると思うが
よろしく頼んだぞ。
はい。
こちらのお荷物 どちらに持っていきましょう?
(香耶)お姉様の部屋に 持って行ってちょうだい。
こんばんは 香耶。
あら 幸次さんじゃない。
その荷物 よければ僕が持っていきますよ。
重いでしょうし。 お姉様以外の使用人にも
優しいだなんて さすが幸次さんね。
フッ…。
こんなところで 美世は。
《もし久堂家に追い出され
美世が路頭に 迷うようなことがあれば
その時は僕が 美世の居場所にならなければ》
(香耶)ちょっと幸次さん。 んっ。
(香耶)これも お願いしていいかしら?
はぁ… ああ すぐに行くよ。
《僕にしか できないこともあるはずだ》
おかえりなさいませ 旦那様。
あの…。 なんだ?
今朝は申し訳ありませんでした。
出過ぎたまねをしてしまい…。
旦那様のお立場であれば
信用できない者の料理など 口にできるはずもないと
少し考えれば わかることでした。
夕食はすべて ゆり江さんが 作っていかれたものを
そのままご用意しています。
誓って毒など入れておりません。 どうか…。
別にお前を 本気で疑ったわけではない。
見知らぬ者の飯を 食う気にはならなかっただけだ。
本当に申し訳ありませんでした。
冷えているな。
申し訳ありません。
今のは謝るところではない。
お前は息をするように謝るのだな。
なぜだ?
言わないか。 申し訳…。
謝るな。 はっ。
謝罪はしすぎると軽くなる。
食事は お前はもうとったのか?
え えっと 私は…。
なぜ自分の分を用意しない?
ゆり江はもう帰ったのだろう?
はい。 ゆり江はお前の食事を 用意しなかったのか?
ち 違うんです!
あの 食欲がなくて。
私がゆり江さんに いらないと言ったのです。
具合でも悪いのか?
いえ 大したことでは…。
まあ いいだろう。
ごちそうさま。
あ あの お風呂をすぐに沸かして…。
自分でやる。 ですが…。
今までも自分でやっていた。
わざわざ火をおこして 湯を沸かすよりも
私が異能を使って 沸かしたほうが
手っとり早いからな。
あまり余計なことはしなくていい。
《異能がない私は
この家では お風呂すら沸かせないのね。
私は なんの役にも 立てない》
少しいいか。
は はい!
今朝は 食べずに残して悪かった。
えっ。 明朝
ゆり江は少しばかり遅れるらしい。
明日の朝食は頼む。
はっ わ 私なんかが…。
無論 本当に毒を入れるならば 容赦しないが。
め めっそうもございません!
ならば 問題ないな?
は はい! 風呂はまだ熱い。
冷める前にさっさと入ってしまえ。
あ あの…。
ありがとう ございます…。
《お礼 ちゃんと言えなかった》
坊ちゃんは いろいろと
よくないウワサが あるようですけれど
本当はお優しい方なのですよ
《旦那様から せっかくいただけた機会》
《明日は絶対に失敗できない》
花!
花!
美世お嬢様 どうなさいました?
ないの! お母様の形見も
お母様の桜色の着物も全部!
そんな いったいどうして?
きっと香乃子さんよ! 私 お母様の形見
返してもらいに行ってくるわ!
そんな! お嬢様が お一人で行ったら何をされるか!
大丈夫! いざとなったら お父様に言うから。
きゃ!
ほんと あの泥棒猫の娘なだけあるわね。
人を盗人呼ばわりだなんて
性根が腐っているにも ほどがあるわ。
こんなもの まだ持っていたのね。
やめて! それはお母様の…。
ふんっ!
はっ。 反省するまで
わたくしの前に 姿を見せないでもらえるかしら。
(香乃子)閉めてちょうだい。
い いやっ 出して! 誰か!
お父様! お父様!
(花)奥様 ご主人様! おやめくださいませ!
お黙り! 使用人の分際で何様のつもり!?
(花)これではあまりに美世様が! 花…。
(香乃子)あなた わたくしに盾ついて
どうなるか わかっているんでしょうね!?
出して 誰か 助けて
はっ。
また 嫌な夢。
《花は今 どうしているんだろう。
あの日をきっかけに 花が解雇されてしまってからは
一度も会えていない》
《どうか 幸せになっていてほしい》
あ… これも寿命ね。
(米をとぐ音)
はっ。 あら 美世様。
おはようございます。 ゆり江さん?
(ゆり江)本日も ずいぶん早起きですのね。
はい あの 今日は遅れるんじゃ…。
ゆり江は 昨日の朝のことが ありましたから
気になって 早く来てしまったのですよ。
食事の用意は ゆり江がいたしますから
美世様は居間で おくつろぎになってくださいな。
あの それが…。
(ゆり江)まあまあ 坊ちゃんったら。
美世様の手料理を 食べたいのなら
そうおっしゃればいいのに。
いえ そういうわけでは ないと思いますが
ただ ちょっと自信がなくて。
ウフフッ では美世様。
このゆり江にも 手伝わせてくださいな。
は はい。
《この味で いいのかな》
は… きれい。
(ゆり江)いつも作っていますから。
ゆり江は早いだけで 味のほうは保証できませんよ。
とってもおいしそうです。
料理がお上手な美世様に そう言っていただけるなんて
使用人冥利に尽きますわ。
《私なんかが作った料理を
本当に食べてもらえるのかしら。
もう私には後がない》
ささ 坊ちゃんが そろそろお目覚めですから
あちらに朝食をお運びくださいな。
はい。
おはよう。 おはようございます 旦那様。
んっ。 はっ。
では いただこう。
お前も食べるんだぞ。
も 申し訳… いえ。
いただきます。
はっ。
うまい。
ゆり江とは少し味付けが 違うようだが 悪くない。
あ ありがとうございます。
なぜここで泣くんだ?
えっ。
も 申し訳 ありませ…。
だから 謝るな。
はい…。
《いつぶりだろう 誰かに褒められたのなんて。
誰かに認められたのなんて》
《育ってきた背景が見えない。
古着とも呼べないような 粗末な着物。
日々の生活に問題があったとしか 思えないほど
やせ細った体。
水仕事をしている者の手。
とても名家の令嬢とは思えない》
ゆり江。
もしや 彼女は普通の名家の娘として
育ってはいないのだろうか。
そうですわね ええ。
事情を尋ねたら話すと思うか?
(ゆり江)難しいでしょうね。
それとなく注意して見ておけ。
私は外から少し 斎森家を調べてみる。
かしこまりました。 それにしても坊ちゃん
いつになく 婚約者様に興味津々ですこと。
興味? まあまあ。
感情を素直に 表現できないようじゃ
美世様に嫌われてしまいますよ?
嫌うなら勝手に嫌えばいい。
今までの婚約者も ほとんどが最初から
金や権力目当ての女ばかりだった。
ゆり江は 美世様はよいと思いますよ。
坊ちゃんの奥様に。 やけに きっぱり言い切るな。
とにかく 頼んだぞ。 お任せくださいな。
《斎森家か。
異能持ちの家は決して多くない。
厄介な事実が 出てこなければいいが》
(実)おい! 約束を反故にする とはどういうことだ!
お前には あの娘の価値がわからぬのか!?
何が約束だ。
美世のことで とやかく言われる筋合いなどない。
(実)ふざけるな! しかと約束したはずだ!
美世は あの薄刃の血を引く娘は
辰石家がもらうと!
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