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(永原)検査の結果
すい臓に がんが見つかりました｡

このままですと １年…｡

(和美)私 まだ諦めてないから｡

まだ やりたい事たくさんあるし➡

あの子たちが 将来
どんな大人になるか 見たいもん｡

(大輔)かわいい！
ﾗﾝﾄﾞｾﾙにつけて いい？

いいよ｡

ケンには
ちょっと子どもっぽかったかな？

(健哉)ううん 大丈夫｡

(健輔)明日
ケンとダイも 連れてくるから｡

お前も 本当は 会いたいんだろ？

病院に行って ママに会おう｡
ママな ﾎﾝﾄによく頑張ったんだ｡

でも もう治らないんだって｡

[無線](ﾊﾟｯﾍﾙﾍﾞﾙ ｢ｶﾉﾝ｣)

♬～

ただいま｡
あれ？ どうしたの？

大友さん 亡くなったんだ｡
大友さんって➡

印刷会社の社長さんだった？
うん｡

うわっ 懐かしいの 見てるな～｡

見始めたら
止まらなくなっちゃって｡

喪服 ｸﾛｰｾﾞｯﾄだっけ？
うん｡

はっ！

ちょっと待って！

何？

何だ？

遺書…｡
え？

読みたい？

いや…｡

でも もうバレちゃったし 読むね｡

｢とうとう この日が来ましたね｡➡

今まで お世話になりました｡➡

本当に感謝してるし
私は 幸せでした｡➡

お葬式では
面倒をおかけしますが➡

堂々と 泣いたりせずに
喪主をやり遂げて下さい｡➡

今まで 本当に
ありがとうございました｣｡

♬～

生きてるうちに読んじゃったから
もう遺書とは呼べないけど➡

感想は？

ふざけるなよ｡

何のつもりだ？

お前が死んだ日
俺が これを見つけて➡

泣いてるとこ 想像しながら
書いたのか？

お前 まだ生きてんだよ｡
生きてんのに…｡

こんなの 悪趣味だよ！

じゃあ… いつ 言えばいいの？

最後に ありがとうぐらい
言いたいじゃない｡

けど いつが 最後になるか
分かんないんだもん｡

死んじゃったら もう➡

あれが最後だったって
振り返れないんだから！

生きてるあなたは 振り返れても
私は 振り返れないんだから！

だから 書いたのよ！

それが そんなにいけない事なの!?

♬～

信じてるよ… 奇跡が起きて
治るかもしれないって｡

あと５年とか 10年とか
生きられるかもしれないって｡

けど… それを信じてるって事を
思い出すと きついんだよね｡

忘れたふりして その日を
ちゃんと迎えなきゃって考えて➡

いろんな事 準備して
覚悟を決めたりしてる方が➡

ずっと楽なの！ 精神的に
ず～っと ず～っと楽なのよ！

♬～

何で お前なんだ…？ 何で…？

♬～

神様は 残酷すぎるよ｡

♬～

神様にも できる事とできない事が
あるんじゃないかな｡

きっと 人の生死だけは 神様でも
どうにもならないんだよ｡

そんな神様 いる意味あるのか？

私ね…｡

一つ お願いしてる事があるの｡

その日は 暑くも寒くもない
秋晴れの日の朝にして下さいって｡

すっごい気持ちのいい朝だったら
意外と にっこり笑って➡

死んじゃえるかもしれないって
そんな気がするの｡

じゃあ…➡

もし その日が
秋晴れの朝だったら…➡

秋晴れの朝だったら…➡

俺も 神様 信じるよ｡

そうして｡

♬～

何すんだよ！
やめろ｡
何でだよ！

おい どうした？
こんな時 けんかすんな！

お兄ちゃんが
いきなり たたいたんだよ｡

僕 何もしてないのに｡

ケン 謝れ｡
違うって｡

何が違うんだ？
何で けんかになったんだ？

もういいよ｡ ごめんなさい｡
すいませんでした｡ もうしません｡

おい ケン！

ダイ…｡ ﾎﾝﾄに何もしてないのか？

してないよ｡ ﾀﾝﾎﾟﾎﾟの綿毛
飛ばそうとしただけだよ｡
綿毛？

こうやって やろうとしたら
急に お兄ちゃんが たたいたんだ｡

そうか｡
だって 綿毛って➡

遠くに飛ばしてあげた方が
いいんでしょ？

う～ん… どうかな｡

綿毛の中には➡

まだ飛びたくないって思ってる
綿毛も いるかもしれないぞ｡

でも どうせ 風が吹いたら
すぐ飛んじゃうよ｡

すぐ飛んじゃうんだから
ダイが飛ばさなくて いいんだ｡

ケンも 多分➡

｢自然に飛ぶまで ほっとけ｣って
言いたかったんじゃないかな…｡

さあ もう行こう｡

パパ｡ ママに
お花 持ってってあげてもいい？

ちゃんと ごめんねって謝ってから
摘むから｡
え？

ママ いつも言ってたよ｡
ちゃんと ごめんねって謝れば➡

一本だけなら
摘んでもいいよって｡

そっか…｡ じゃあ ママに
一本だけ摘んでいくか｡
うん！

ごめんね｡ 一本だけだからね｡

(大輔)行こう｡
うん｡

ケン…｡

さっきは パパの誤解だった｡

お前だけ責めて 悪かった｡

さあ 行こう｡

♬～

ママ… ﾀﾝﾎﾟﾎﾟだよ…｡

ママ 起きて｡ ママ！

♬～

ママ…｡

♬～

(雨の音)

(山本)失礼します｡
ご両親が お見えになりました｡

(栄子)和美…｡

和美…｡

お父さん どうぞ
そばまで 行ってやって下さい｡

(治夫)雨になったのう…｡
…ですね｡

丈夫な子に産んでやれねえで
すまなかった｡

うっ… うう… 和美…｡
ママ！

(栄子)和美…｡

(ﾅｰｽｺｰﾙの呼び出し音)

残念ですが…｡

ママ！

和美！
ママ！
和美！

ママ～！

(大輔)ママ～！

♬～

ママ！

♬～

しまったな～｡
昨日 回しときゃ よかったよ～｡

買えばいいのに
乾燥機付きの洗濯機｡

そしたら 洗濯物 放り込んで
仕事 行けるのに｡

そうだよな｡ 買うなら 今だな～｡

ごちそうさま｡
お 全部 食べたか？
うん｡

よし はい 終わった｡

ごちそうさま｡
はい｡ 給食費 かばん 入れた？

入れた｡
はい｡

こら！ 野菜 全然食べてない…｡
ダイだろ ﾄﾏﾄも こんな残して｡

まただ｡
これ捨てたの お兄ちゃんでしょ！

何で いつも捨てるんだよ
ママへの手紙！
手紙じゃないし｡

手紙だよ！
手紙じゃない｡
手紙だよ！

こら 朝から けんかするな｡
ダイも 学校 遅刻するぞ｡

パパ これ 捨てないで
取っといてよね｡

分かった 分かった｡

行ってきま～す｡
はい 行ってらっしゃい｡

ママ宛てに何か届くの 嫌か？
別に｡ 要らないから 捨てただけ｡

ちゃんと電話して
止めてもらうから｡
うん｡

あ～ パン代は？
まだ あるから｡

弁当 作ってやろうか？
えっ いいよ｡

いい加減 パンも飽きたろ？
マジで いいって｡

パン 好きだし 全然飽きないから｡
行ってきます｡

おう 行ってらっしゃい｡

(雨の音)

≪すいません お忙しいところ｡

ﾀﾞｲﾚｸﾄﾒｰﾙの発送
止めて頂きたいんですが｡

はい｡ あ～ いえ あの…
妻宛てのものです｡

ええ 実は…
少し前に 亡くなりまして…｡

いえいえ…｡
はい じゃあ 申し上げます｡

(安藤)ああいうの 全部➡

ﾈｯﾄで処理できるようにすれば
いいのにね｡
(村山)だな～｡

電話する方も 受ける方も
気まずいもんな｡

じゃあ よろしくお願いします｡
失礼します｡

(工藤)社長｡
ああ｡

実は 先日
例の花火大会のﾎﾟｽﾀｰの件で➡

また電話がありまして｡
花火大会？

春先に来た お盆の花火大会の
ﾎﾟｽﾀｰの依頼です｡

あ～ お盆の｡

あの時 はっきり
お断りしたんですけどね｡

先日も 今は 新規の仕事は 受けて
ないんですって言ったんですが➡

それでも 諦めきれないみたいで
FAXで 企画書を送ってきたんです｡

どっかの自治体か 何か？
それが
小さな町の商店街なんですよね｡

商店街？

｢お盆の花火｡
それは 大きな迎え火です｡➡

ふるさとを
出て行ってしまったひと｡➡

会いたくても
なかなか 会えないひと｡➡

もっと遠くの世界に
旅立ってしまって➡

もう二度と会えないひと｡➡

そんなひとたちを偲んで➡

夜空に 大きな迎え火を
焚きたいと思っています｣｡

僕の方で 断っときましょうか｡
いや｡

いい｡ 俺が電話しとく｡

(遥香)ごめん 遅くなっちゃった｡

あ～ 腹減って
死にそうなんですけど｡

だから ごめんって｡

はい｡
ｻﾝｷｭｰ｡

今日はね 新ﾒﾆｭｰに挑戦したんだ｡

ちょっと 何作ったか
見てないでしょ｡

食べれば 分かる｡
あのね お弁当っていうのは➡

味だけじゃなくて 見た目にも
こだわって 作ってるもんなの｡

少しは 作ってる人の気持ち
考えたら？

すいません｡

ﾌﾌｯ｡
何だよ？

ううん｡ 頂きます｡

これ マジ うまいよ｡
でしょ？

あの…
部活終わるの 待ってていい？

遅いぞ？
いいの｡

(石川)いや～ まさか➡

先生から 直接 連絡もらえるとは
思ってなかったな｡

事務所の 工藤さんだっけ？
彼に さんざん断られてたんでね｡

それに
今朝送ったFAXだって もう➡

半分
嫌がらせみたいなもんだからね｡

いや 実は このFAXに書かれてる
ｺﾋﾟｰが 印象に残りまして｡

えっ ﾎﾝﾄに？

花火を お盆の迎え火にする
というのは とても新鮮でした｡

そちらの地元では
そういう風習があるんですか？

いや～
それはもう 単なる思いつきだよ｡

そうなんですか｡
ええ｡ 何て言うか➡

これは ちょっと
個人的な事情なんだけど➡

幼なじみが
去年 がんで亡くなってね…｡

幼なじみっつっても 小学校の時に
同級生だっただけなんだけどね｡

それで そいつが…
佐藤俊治っていうんだけど➡

そのｼｭﾝがね
会いに来たんだよね ひょっこり｡

[ 回想 ]
≪(石川)ありがとうございました｡

あ いらっしゃいませ｡

(石川)40年ぶりにだよ？
がんの告知を受けた日にね｡

えっ？

(石川)…で それから
２人で 海に行ってさ｡➡

昔 よく遊んだんだよ その海で｡➡

だから 自分が
もう助からないって分かった時➡

楽しかった場所に 急に 帰りたく
なったのかなって 思ってね｡➡

いや もう その時は
まだ元気だったんだよ｡➡

｢ﾎﾝﾄに 末期がんなのかよ｣って
言いたくなるぐらい｡

それで ｢毎年 ｸﾘｽﾏｽに
浜辺に 大きなﾂﾘｰを立てて➡

ｲﾙﾐﾈｰｼｮﾝをともすｲﾍﾞﾝﾄ
やってるんだ｣って言ったら➡

｢絶対 見に行くから｣って…｡

｢それまでは 絶対生きて
絶対行くから｣って…｡

でも 駄目だったんだよね｡

間に合わなかった…｡

いや 俺がバカでさ➡

せっかく 会いに来てくれたのに
連絡先 聞き忘れちゃって…｡

葬式どころか
見舞いにも行けなかったんだよ｡

だけど あいつ
そのｸﾘｽﾏｽのｲﾍﾞﾝﾄの事➡

奥さんに 話してくれててさ➡

それで 奥さんが
連れてきてくれたんだよね｡

まだ 四十九日の前だったから➡

その…
ﾄｰﾄﾊﾞｯｸﾞに 骨つぼ 入れて…｡

入っちゃうんだね 骨つぼ｡

あんなﾊﾞｯｸﾞなんかに入っちゃって➡

あいつ…｡

(はなをかむ音)

ｱﾊｯ あ～｡

この夏が 初盆なんだよ ｼｭﾝの｡

あの～ 初盆って事は
初心者って事でしょ？

だから よっぽど大きな迎え火
焚いてやんないと➡

迷っちゃうんじゃないかって
思って｡

それで 花火 打ち上げようって
思いついた訳｡

そうですか｡
よく分かりました｡

あの どうして 私のところに
ご依頼下さったんですか？

ああ ﾄｰﾄﾊﾞｯｸﾞですよ｡
ﾄｰﾄﾊﾞｯｸﾞ？

ｼｭﾝの奥さんが
遺骨を入れてきたﾄｰﾄﾊﾞｯｸﾞ｡

家族のｲﾗｽﾄが ﾌﾟﾘﾝﾄされてる｡
ああ ああ…｡

あの絵が
どうにも忘れられなくて｡

それで あちこち問い合わせて
ようやく➡

先生の絵だって事が分かって｡

ああいうの ド～ンと
描いてほしいんだな 景気よく｡

先生 忙しいのは
重々 承知してるんですが➡

なんとか
お願いできませんでしょうか｡

いや あの…
忙しい訳じゃないんです｡

ただ
今 ちょっと事情がありまして➡

新規の仕事
全て お断りしてるんです｡

そうなんですか…｡

ですから 少し 考えさせて
もらえませんでしょうか？

[ 回想 ]
何の絵？
ん？

ﾄｰﾄﾊﾞｯｸﾞの｡ ｶﾞｿﾘﾝｽﾀﾝﾄﾞのね
ﾉﾍﾞﾙﾃｨｰｸﾞｯｽﾞ｡
へえ～｡

いや～ ﾎﾝﾄは お前が
病気かもしれないって時に➡

仕事なんかしたくないんだけどね｡
何言ってるの？

ﾃﾞｻﾞｲﾅｰなんて
依頼があるうちが 花でしょう？

妻が入院したぐらいで
ｵﾀｵﾀして どうすんの？

私なら 大丈夫｡
きっと 神経痛か何かだよ｡

大体 検査のための入院なんて
大げさなのよ｡

♬～

[ 回想 ]
一緒に夢が見れるって思ったの｡

そして 見せてもらった｡

あなたのｲﾗｽﾄが
初めて雑誌に載ったのを見た時➡

叫んだんだから｡
私 一人で あの部屋で｡

自分の夢が かなったみたいに
うれしかった｡

♬～

☎

(工藤)はい 原田ﾃﾞｻﾞｲﾝ事務所です｡
お待ち下さい｡➡

社長 城南大学附属病院の
山本さんって方から お電話です｡

え？

あ～ どうも
ご無沙汰しております 原田です｡

(山本)その後 どうですか？

お子さんたち
ケン君とダイ君でしたよね｡

お元気ですか？
ええ なんとか やってます｡

上は もう中２なので
しっかりして➡

結構 家の事も頑張ってくれて
もう助かってます｡

ただ 下が まだ小学生なんで➡

ふだんは
何でもない顔してるんですけど➡

時々 夜中に
泣いて起きてきたりして｡

そうですよね｡ ﾎﾝﾄだったら まだ
お母さんに甘えてる年ですもんね｡

…ですね｡
ご主人は いかがですか？

私は…｡

私が 一番駄目です｡
え？

子どもたちが 気丈に
頑張ってるのに 情けない話です｡

妻宛てに来たﾀﾞｲﾚｸﾄﾒｰﾙが
捨てられなかったり➡

新規の仕事が
受けられなかったりして…｡

そうですか…｡

脱サラして 昔から夢だった
絵の世界に飛び込んで➡

がむしゃらに やってきて➡

これまで ﾓﾁﾍﾞｰｼｮﾝなんて
意識した事なかったのに➡

あいつが いなくなって 初めて➡

あいつが喜ぶから やってた
みたいなとこ あるんだなって➡

ふとした瞬間に
襲ってくるんです｡

今まで味わった事ないような
むなしさとか 寂しさとか…｡

♬～

本当に
これで よかったんでしょうか？

和美のその日は 本当に
これで よかったのかなって…｡

奥様が
亡くなられた日の事ですか？

ええ｡ 亡くなる前から
その日って呼んでて➡

いろいろ準備してたんです｡

気持ちの整理をつけて
別れを言いたい人には 言って➡

家の片づけして➡

自分がいなくなったあとの事まで
こまごまと準備して➡

人生最後の日を
迎えようとしてたんです｡

そうでしたか｡

そうやって 残された時間を➡

あいつなりに
精いっぱい生きたと思うし➡

私も できるだけ後悔しないように
大切に過ごしたつもりです｡

でも… いざ
その日を迎えてしまったら➡

思ってたよりも ずっと あっさり
通り過ぎてしまった気がして➡

これで よかったのかなって…｡

忘れるって事はないけど 少しずつ
思い出になっていく気はしてて➡

このまま あいつの存在を➡

薄れさせていってしまって
いいのかなって…｡

実は 和美さんから
手紙を預かってるんです｡

え？
(山本)遺書って訳じゃないんです｡

｢もし ご家族に
お手紙で伝えたい事があれば➡

お渡ししますよ｣って 私の方から
声をかけさせて頂いて｡

和美さん 何度も
書き直してらっしゃいました｡

書いては捨て 書いては捨てして➡

最後に決めたのが
このお手紙です｡

意識がなくなる２～３日前に
お書きになりました｡

隠していて すみません｡

｢亡くなって３か月たったら
渡してほしい｡➡

それまでは 黙っていてほしい｣
って 言われていたもので｡

どうして ３か月？

｢ちょっとだけ忘れかけたかな
って頃が いいんだ｣って➡

和美さんは おっしゃってました｡

それじゃ 私は これで｡
あ でも まだ…｡

私は ただ
お届けしただけですから｡

ああ…｡
あ… すいません｡
じゃあ ごちそうになります｡

こちらこそ｡ わざわざ
ありがとうございました｡

じゃあ 失礼します｡

♬～

(昌也)明る！ こんな明るい時間に
帰れんの いつぶりだよ？

なあ 今日 どこ行く？
お前 一人で行けよ｡

俺たちは 自主練するから なっ｡
(真一郎)なっ｡
え？

ｹﾞｰｾﾝで｡
もう 何だよ～ もう！

自主練なんか する訳ねえじゃん｡
だよな おかしいと思ったんだよ｡

(遥香)健哉君！

この この！
ﾗﾌﾞﾗﾌﾞなんだから もう～｡

じゃあ 後でな｡
うい｡
ういっす｡

おい 何か落ちたぞ｡

何これ？ かわいい！
ｲﾙｶって かわいいな｡

はい｡ 行こう｡
うん｡

あのｽﾄﾗｯﾌﾟ
ずっと ﾎﾟｹｯﾄに入れてるね｡

どうして どこかに つけないの？

見ると 思い出すから？

健哉君のママは➡

思い出してくれたら
うれしいんじゃないかな｡

うちのママは 自分の意志で
出てったから 知らないけど｡

私が 健哉君なら
毎日 思い出すと思う｡

毎日泣いても
毎日思い出すと思う｡

それって
全然恥ずかしい事じゃないし➡

恥ずかしいって
思う事でもないと思うよ｡

あ～ 分かんな～い｡
≪(玄関のドアが開く音)

石井さん
これ 分かんないんだけど～｡

あれ パパ!?
おう ただいま｡

パパ どうしたの？
会社 クビになったの？

何言ってんだよ｡
仕事 早く終わったから➡

久しぶりに 外で ごはんでも
食べようかなと思って｡

えっ 外食？
ああ｡
やった～！ 何食べに行くの？

ダイが好きなやつでいいよ｡
やった～！ 肉！ 肉 肉 肉！

何年も 肉食わせてないみたいに
言うな｡
食わせてないじゃん｡

焼き肉！ 焼き肉 食べたい！
分かった｡ 分かったから➡

跳ぶな 跳ぶな お前｡
宿題 終わったのかよ？

あ～ まだだった｡

あ でも 石井さんは？

ああ ｢夕食 今日要らない｣って
電話しておいた｡

なら 平気だね｡
おう｡

≪(玄関のドアが開く音)
あ お兄ちゃん！

今日は 外食だって｡
焼き肉だよ 焼き肉！

(鈴の音)

あれ どうしたの？
会社 クビになったの？

何だよ お前ら 兄弟そろって｡

帰ってきたら
まず｢ただいま｣だろ｡

ただいま｡
はい お帰り｡
また来てた｡

(大輔)あ ママへの手紙だ｡
手紙じゃないって｡

パパ 開けて｡ ママへの手紙…｡
手紙じゃないって 言ってるだろ！

これはな
ただのﾀﾞｲﾚｸﾄﾒｰﾙなんだよ｡

ママが死んだ事も知らないで➡

自動的に
送ってきてるだけなんだよ｡

ママは もういないんだよ｡

もう二度と
うちには戻ってこないし➡

もう二度と会えないんだよ｡

分かってるよ｡

それでも 嫌なんだよ！

ママの名前が書いてある物
捨てるの 嫌なんだよ！

嫌なんだよ…｡

ダイ…｡

ケンも 聞いてくれ｡

パパな このﾀﾞｲﾚｸﾄﾒｰﾙ➡

ママからの手紙だって
思う事にしたんだ｡

え？
ママからの手紙？

そう｡ こうやって➡

ママ宛てに 何か届く度に
ママの事 思い出すだろ？

だから これは
｢ママの事 忘れないで｣っていう➡

天国のママからのﾒｯｾｰｼﾞだって
思う事にしたんだ｡

そんなの 忘れる訳ないじゃん｡
もちろん 忘れる訳ない｡

でも 毎日 ママがいなくなった事
ばっかり考えてたら➡

パパ 悲しくて
ごはん 食べれない｡

仕事もできないし
楽しい事だって できない｡

いや それじゃ 逆に ママ
悲しむんじゃないかと思ってね｡

だから ママの事思って
悲しむんじゃなくて➡

ママ 見ててくれって気持ちで➡

今まで以上に しっかり生活しよう
って決めたんだ｡

それで こうやって
時々 ママからの手紙が来たら➡

ママの事を
ゆっくり思い出す時間にする｡

ママ お帰りって｡

お帰り？
うん｡

パパや ダイやケンの ここに
お帰りって｡

ママ お帰り｡

お帰り｡
そう｡

♬～

[無線]

あ 悪い｡
今日 ちょっと行けなくなった｡

おやじが帰っててさ 何か
飯食いに行くとか言ってるから➡

つきあうわ｡ うん｡

今 パパの事 おやじって呼んだ｡
言ったな｡

変なの｡
いっつも パパって言ってるのに｡

いや まあ
格好つけたい年頃なんだろ｡

ダイ それより 宿題終わらせろ｡
え～？
｢え～？｣って…｡

あ 焼き肉中止にしていいのか？
駄目！ 駄目 駄目 駄目！

じゃあ 部屋に戻って
集中して やりなさい｡

６時に出発するから
明日の時間割りも➡

ちゃんと準備しとけよ｡
は～い！
よし｡

♬～

格好つけちゃって｡
は？

別に｡

あ～ もう 何これ？
全然分かんない お兄ちゃん｡

何が分かんないんだよ？
どうやんの？

まず 問題読んでみろ 声に出して｡
｢赤いﾘﾝｺﾞが 18個あります｣｡

♬～

ありがとう｡

♬～

ご連絡が遅くなって
申し訳ありません｡

花火大会のﾎﾟｽﾀｰの件なんですが
正式に お受けしたいと思います｡

本当ですか？ 先生｡

ありがとうございます｡
ありがとうございます！

あの ｽｹｼﾞｭｰﾙの方は また改めて
工藤の方から連絡させます｡

ﾃﾞｻﾞｲﾝの方は
すぐに 取りかかります｡

ｲﾒｰｼﾞが固まりましたら
また ご相談させて下さい｡

はい それじゃ 失礼します｡

(セミの声)

花火 花火！
おい ２人とも 準備終わった？

できた！
忘れもん ないな？
ないよ｡

あ 虫よけは？ ママだったら
絶対してけって言うよ｡

絶対言うな｡ ﾊﾊﾊﾊ…｡
(ﾁｬｲﾑ)

はい｡ あ はい｡
誰？
宅配便｡

うわ～ 臭い 臭い 臭い｡
はい 首も｡

はい はい はい｡ よし よし｡

どっから？
ん？ おっ 季節の野菜か｡

え～ 野菜？
開けてみ｡

お～ うまそう～！

ゲッ！ ﾄﾏﾄばっか｡
そう言うな ママの大好物だぞ｡

ダイは 食わず嫌いなんだよ｡

食わず嫌いじゃないよ｡
食って嫌いだよ｡

ケン｡ これ １つ洗って
ママにあげて｡
うん｡

それからさ 保冷剤と
それ入れる袋も｡
うん｡

向こうで食べよう｡ 着いた頃には
冷えてて うまいぞ｡

ﾄﾏﾄなんか 要らないよ｡
出店とか あるんでしょ？

ダイ｡
はい｡
これ ママから届いたんだぞ｡

ママから？➡

ﾎﾝﾄだ｡ ママの名前だ｡

ママが お前たちに食べさせたくて
頼んだ野菜だから➡

これからも 続けようと思って｡
ママから届いたと思ったら➡

苦手なﾄﾏﾄも 少しは
おいしく感じるかもしれないぞ｡

ﾎﾝﾄ？
うん｡
うえ～っ｡

(大輔)わあ～ 屋台だ！➡

パパ 後で たこ焼き買っていい？
ああ いいよ｡

やった～！ たこ焼き たこ焼き！

参ったな…｡

これ パパが作ったﾎﾟｽﾀｰ？
そうだよ｡

(健哉)ちょっと 貼り過ぎじゃね？
だな｡ ﾊﾊﾊ…｡

(大輔)この人 ママに似てるね｡
そうか？

そっくりだよ｡ ねえ お兄ちゃん｡
まあね｡

ねえ パパ｡
ん？

ママって 若い頃
すごい美人だったんでしょ？

え？
ママ 言ってたよ｡ ｢昔は
モテてモテて 大変だったけど➡

パパが 結婚して下さいって
泣いて頼むから➡

かわいそうになって
結婚してあげた｣って｡

それ ママが言ったのか？
うん｡
ﾊﾊﾊﾊﾊﾊ…｡

何が おかしいの？
いや 別に｡

(花火の音)
うわ～ すげえ｡

すっげえ｡
すごい きれい｡

すげえ｡
行こう｡
うん｡

おい 気を付けろよ｡

(石川)先生！
あ～ どうも｡

どうも どうも どうも どうも｡

よく来て下さいました
こんなとこまで｡
いえいえ｡

あ～ どうぞ｡
頂きます｡
乾杯｡
はい｡

いや～ 先生のおかげで
いい迎え火を焚く事ができました｡

これで
ｼｭﾝも 迷わずに帰ってこれる｡

何しろ 初盆だからね｡

奥さんも
喜んでくれてるんじゃないかな｡

きれいね｡
おとうさん 花火 きれいね｡

それと… 先生｡
先生の方も 何て言うか その…｡

ええ 初盆です｡ 僕の方も｡

そうだったんですね｡

そんな大変な時に
引き受けて下さって➡

本当に ありがとうございました｡
もう やめて下さい｡

石川さんのおかげで うちのも➡

迷わず 帰ってくる事ができると
思います｡

そうだよね｡

そうだよ｡
はい｡

(花火の音)

(拍手と歓声)

あれ？ 止まっちゃったよ｡ 何で？

次の花火の準備してんだろ｡
そっか｡

花火 きれいだったな｡
(２人)うん｡

ママも 見てるかな？
絶対見てるな｡

ねえ パパ｡
ん？
ママって ﾎﾝﾄに美人だったの？

ああ｡

確かに ママは 美人だった｡

結婚してからも
ずっと美人だったし➡

死ぬ時も
本当にきれいなままだったな｡

お前たちは ママの子だ｡

いろんなところが ママに似てる｡

ママには もう会えないけど➡

お前たちといたら
パパ いつだって➡

ママが すぐそばに いるように
思えるんだ｡

ケン ありがとう｡
ダイも ありがとう｡

パパとママのところに来てくれて
ありがとう｡

パパって 涙もろいね｡
ﾌﾌﾌ…｡
ﾊﾊﾊ…｡

そうだな｡

うわ～｡
ﾃﾞｶｲ｡

すごい｡ きれい｡

うわ～ ﾃﾞｶｲね｡

た～まや～！
(花火の音)

すご～い｡
おお そうだ｡

お いい感じに冷えてるぞ｡ はい｡
はい｡

どうだ うまいか？
うますぎ｡

よし｡ じゃあ ダイも いこう｡

うん 甘い！ ﾄﾏﾄじゃないみたい｡

だから 言ったじゃん｡
食わず嫌いだって｡

ママにも
食べさせてあげたかったな｡

いいんだよ｡ ケンとダイに
食べさせたかったんだ ママは｡

そっか｡
ああ｡

でもさ 仏壇に置いたの
一番赤くなってたから➡

匂いは 嗅いでると思うよ｡

喜んでんじゃない？ おふくろも｡
おふくろ？

お兄ちゃん また格好つけてる｡
うっせえ バ～カ｡

いつも ママって呼んでんのに
急に呼び方変えるなんて 変だよ｡

呼んでねえよ｡
入院してからは 一回も｡

うそばっか｡ 絶対呼んでました｡
絶対呼んでない｡

絶対 呼んでました！
(健哉)絶対 呼んでません！

[ 回想 ]
お盆も家族と一緒に
過ごせないなんて➡

おかしいよ 絶対｡
｢絶対｣ 出た～｡

何？
お前さ むきになると
すぐ言うだろ ｢絶対 絶対｣って｡

そういうとこ ﾎﾝﾄ 小学生だな
絶対｡

もう～ 人の事 バカにして！

(健哉)絶対 呼んでません｡
(大輔)絶対 呼んでました｡

(健哉)絶対 呼んでませ～ん｡
(大輔)絶対 呼んでました～｡

もう分かったから けんかすんな｡
じゃあ パパも頂こう｡

う～ん うまい！
う～ん おいしい！

♬～