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（町子(まちこ)）用意 スタート！

（田辺(たなべ)）
これは 私が見たかった映像

とある映画に存在していたはずの
私が見たかった映像だ

誰も見ることはないけど
確かに ここに存在してる

（女性）
それ 行けばいいのに ２人で

（青(あお)）えっ 誰？
俺の知ってる人？

マジ誰？
いや ホントにホントに

（雪(ゆき)）それは言えない
（青）なんで？

（雪）
だって 相手に迷惑がかかるから

（青）いや なんなの？
なんで そっちの味方なの？

（青）マジ誰？

（雪）しつこい

いや お前が悪いんだからね？

このままじゃ 許すに許せないよ？

（雪）うん

えっ いいの？

（雪）うん

えっ いいの？

許せなかったら
別れるしかないんだよ？

（雪）うん 別れたい

別れたいの？

（雪）うん 別れてほしい

いや あのさ
自分が言ってること分かってる？

分かってるよ
私が浮気して 全部して

で 許してもらえないし 別れたい

俺は別れたくないよ

私は別れたい

いやいや 今 あなたの気持ちは
聞いてないです

絶対 別れないから

なんで？　許せないんでしょ？

いや なんなの？
自分が浮気しといて別れたいって

絶対 別れない

じゃ それでいいよ

え？

私は 別れたと思って
明日から過ごす

その人と ちゃんとつきあう

あなたは別れてないと思って
彼女がいるって言い続けたら？

私が彼女だって言い続けていいよ
明日からも

斬新すぎるわ

フッ…

何？

そういう目で
その男のことも見つめてるわけだ

嫉妬するわ…

何それ

ちょ… 帰ってよ

帰って

（朝子(あさこ)）ねえ
（茂(しげる)）ん？

（朝子）これ
（茂）おう

（茂）ふーん

あの 試着してもいいですか？

（青）どうぞ

（茂）ちょっと待ってて

あ… それ 使ってもらっても
かまわないので

（朝子）あ… どうも

大丈夫ですか？

（茂）どうかなあ
（朝子）似合ってる

（茂）ホントに？
（朝子）うん

（茂）色は すごくいいよね
（朝子）うん

（茂）これ いいっすよね
（青）あっ はい

もう片方も着てみるわ

（カーテンを閉める音）

（青）大丈夫ですか？

なんか やっぱ
さっきのやつな気がする どう？

（朝子）うん うーん…
こっちもいいけどね

（茂）ホントに？
（朝子）うん

（茂）どうっすかね？

あっ いや 僕は
断然さっきの方ですね

（茂）ですよね
（青）はい

これは ちょっと
サイズも合ってないし

長いっすよね

（茂）長いっすよね

（朝子）
私は こっちの方がいいと思う

（茂）え？

いや でも店員さんも さっきの方が
いいって言ってるじゃんか

あっ いや 僕は全然どちらでも…

（茂）いや ちょっと
ちゃんと選んでよ ねえ

（朝子）は？　なんで？

（茂）ん？

なんで私が
茂の服 選ばなきゃなんないの？

えっ だって自分が言ったんじゃん
よかったら 服 一緒に選ぶよって

私さ

まだ茂のこと好きなんだよ

うん 知ってるよ

じゃあ こんなの
おかしいって分かるじゃん

いや おかしいの
そっちでしょうよ

えっ 自分が言ったんじゃん
よかったら 服 選ぶよって

俺のこと好きだけど
服のセンスは いまひとつだから

好きな人ができて
告白しに行くときは

私が 服 選んであげるよって

言ったよ 言ったけどさ…

やっぱり
うまくいってほしくないもん

何…

何よ それは 今になって

あっ すいません なんか…

（青）ああ いえ…

あっ 告白用ですか？

あっ そうなんすよ はい

（朝子）この人…
（青）え？

この人 告白して うまくいったら
あんたのせいだから

おい やめろって
店員さんは関係ねえだろって

あるよ だって
今 アドバイスしたじゃん

いや 接客 接客
普通に接客

アドバイスじゃねえから

（朝子）やだ
（茂）え？

やだ

じゃ こうしよう

俺が寺田(てらだ)さんに告白して

で それで うまくいかなかったら
つきあおうよ

いや 俺ん中でさ
朝子は 明確に２位なの

寺田さんが１位で 朝子は２位なの
２番目に好きなの

だからさ １回 ダメもとで
寺田さんに告白さしてよ

どうせフラれるから

だって寺田さん 彼氏いるし ね？

分かった

それでいい？

（朝子）うん

（茂）うん
じゃあ さっきの服ください

はい

（茂）お願いします

（青）3000円です
（茂）3000円 はい

（青）ありがとうございます

何？

うまくいくといいね

うん

ちょうどですよね

はい ありがとうございます

（茂）あっ これ
あれ 着っぱなしですね

（青）あっ そうですね
（茂）店の

（青）はい
（茂）ちょっと 着替えてきます

（青）あっ ありがとうございます
（茂）すいません

（ギターの演奏）

（歌声）

（女性）あの
タバコ １本 もらえませんか？

あっ なくて…

え？

あっ ごめんなさい
僕もなくて…

ああ…

すいません
タバコ ２本 もらえませんか？

（女性）すいません
（男性）メンソールですけど

ああ 大丈夫です 大丈夫です…

（男性）どうぞ
（女性）すいません

ありがとうございます

（女性）どうぞ
（青）ああ…

（女性）メンソールですけど
（青）ありがとうございます

（女性）あっ…

（警察官）ちょっと
（青）はい

（警察官）ダメだよ タバコ

（青）あっ すいません

（警察官）
何？　あんた 芝居やってんの？

いや 全然

見る専門？

いや 見ることも
あんましないっすね

じゃあ なんで これ見てたの？

えっ？

あっ いえ なんとなく…

貼ってあったから

そう

うちの姪(めい)っ子が
こういうのやってんだよ

舞台女優っつうの？

あっ そうなんですか

（警察官）どう思う？
（青）えっ？

あっ いや
全然いいんじゃないですか

興味ないか

あっ いや 全然 あの…

あー いいよ いいよ
実際 関係ないもんな

姪っ子がね

俺と あんまり
年 変わんないのよ

（青）え？

んー まあ いろいろあって
連れ子なの

ほら 俺の姉ちゃんが
まあまあ年上の人と結婚して

で 相手が再婚だったから

なんか 大変っすね

好きなんだよね

え？

その姪っ子のこと 俺 好きなの

えっ 姪っ子さんのこと
好きなんですか？

うん 好き

でも まあ
結ばれることはないじゃんか

（青）まあ そうですね
結婚とかもね できないですし

まあ ３親等だからね

３親等？

３親等

４親等からは結婚できるけどね
いとことか

あっ そうなんですか

いとこは結婚できるの
日本の法律では

あんたは？

（青）え？
（警察官）結婚してる？

あっ いや してないですけど

彼女は？

いないですね
いなーいですね はい

なんだ 複雑だな おい

いや 複雑とかじゃないですけど

あの…

ん？

帰ってもいいですか？

ああ…

ダメだからね 路上喫煙

はい

（警察官）あっ
（青）はい

ナイショだからね

誰にも言っちゃダメだよ
俺の好きな人のこと

いや 言わないですよ
誰に どう話すんですか

複雑すぎて
うまく話す自信ないですよ

そっか それはよかった
君が利口じゃなくて

じゃ

（青）どうも

（マスター）いらっしゃい
（五叉路(ごさろ)）おー 久しぶり

久しぶりです

（青）あっ レモンサワー
（マスター）はいよ

（五叉路）何してたの？　今日は
仕事？

いや 仕事終わって
THREEでライブ見てました

（五叉路）あー 本当
えー 誰？　誰のライブ？

いや フラっと行ったんで

（五叉路）あー あれだ
一番オシャレなやつだ

誰それだから行くじゃなくて
フラっと行っちゃうやつだ

はあ… そうっすね

（マスター）はい レモンサワー

（青）あっ あと灰皿ください
（マスター）はい

ああ ありがとうございます

あれ？
やっぱ おっきくなりました？

（五叉路）ん？　何？

大きくなりましたよね 五叉路さん
太りました？

（五叉路）ああ… 役作り

（青）役作り？
（五叉路）うん

あれ？　あっ 知らなかったっけ？

俺 役者やってんのよ 今

え そうなんですか？

えっ この前 会ったときは

小説 書いてるって
言ってませんでした？

ハハハッ それ いつの話よ

いや でも先月とか
それぐらいっすよ

んー 書けたから あれは

（青）書けた？
（五叉路）うん 書き終わったから

書き終わった…

そんな いつまでも書いてないよ

あっ いや 僕 てっきり五叉路さん
小説家だと思ってたから

ってか 書き終わるもんなんですね
そういうのって

なんか ずっと書いてるもんだと
思ってたから なんか…

それは なんか あれだよ

（青）え？

買いかぶりすぎ？

（青）買いかぶりすぎ？

うん あれだろ？

なんか こう 物書きには

ずっと苦悩しててほしい
みたいなやつだろ？

書けない 書けない…

書けない
原稿丸めてポイみたいな

いや そういうんじゃないけど
普通に小説家だと思ってたから

あっ

ってか 五叉路さん
メンソールでしたよね？　タバコ

ああ… やめたのよ タバコ

（青）えっ なんでですか？
どっか悪くしたんですか？

いや 役作り 役作り

やめると太れるから

（青）ああ… ごはんが
おいしい的なやつですよね？

うーん ごはんは
ずっとおいしいけどね

ああ…

ん？

（マスター）そういえば 青さ
雪ちゃんとは？

え？

（マスター）連絡 取ってんの？

いや 取ってないですよ

えっ ホントに？

はい

そうなの？

いや 取ってないですって

えっ なんでですか？

いや なんか この前
雪ちゃんから連絡来たから

マスターに？

うん…

で なんか まだ青から連絡来て
困ってるって

えっ それ いつの話？

フッ いや
いつとかは言えないんだけど…

もう やめときなよ

もう そんな嫌われるようなこと
しない方がいいって

フッ… いや
なんでマスターに話すかなあ

そういうとこなんすよね
俺が頭くんのは

だって ２人の話じゃないすか

そう思いません？

いや でも青 ヨリ戻したいしか
言わないんでしょ？

（青）はい

いや “はい”じゃなくてさ…

（青）いや だって

なんで浮気されて さらに
フラれなきゃいけないんすか？

おかしくないっすか？

（マスター）まあね

ってか 誰っすか？　相手

マスター 聞いてるでしょ？

え？

えっ 知ってんの？

いやいや 知らない 知らない

（青）うわ 100知ってんじゃんか
（マスター）いや 知らないよ

ってか マスター
どっちの味方なんすか？

（マスター）いやいや
俺はあれだから 博愛主義

出た 博愛という名の
責任取らない主義

マスター キムチチャーハン

（マスター）はいよ

まだ食べんの？

いや “まだ”って
まだ俺 何も食べてないじゃん

そうなの？

（電気をつける音）

（青）雪…

（田辺）荒川(あらかわ)さん

荒川さんって もともと
音楽やってたってホントですか？

（青）えっ なんで？
誰から聞いたの？

ん… 店長から

（青）かわなべさん？

えっ いつ？

（田辺）んー 亡くなる前に

（青）そりゃそうだよね
亡くなったら聞けないから

そんな話 したことあったかな
かわなべさんに

（田辺）えっ どうなんですか？
やってたんですか？

（青）え？
（田辺）音楽

（青）いや まあ…
やってたって言っても遊びでね

大学んときに なんか…

いや みんな やるでしょ
そういうの

（田辺）
バンドですか？　１人ですか？

（青）１人です
（田辺）えっ

（青）友達いなかったから
（田辺）へえ

あっ じゃあ
曲とかも作ってたんですか？

それともカバー？

（青）まあ カバーもしてたし
何曲かは作ってましたね

（田辺）えっ 音源とか
残ってないんですか？

（青）どうかな…

（田辺）えっ じゃあ
覚えてる曲名とかあります？

（青）ん…
いや いいでしょ べつに

（田辺）
いや 教えてくださいよ タイトル

（青）え？

チーズケーキっていう…

（田辺）え？

（青）えっ だから

（ドアの開閉音）

（ドアの開閉音）

（ドアの開閉音）

チーズケーキの歌をね その…

に… 苦さがどうこうみたいな…

（田辺）いらっしゃいませ

あっ なんですか？

あっ なんですか？

（ドアの開閉音）

（ドアの開閉音）

（ドアの開閉音）

（青）いや だから

（ドアの開閉音）

（ドアの開閉音）

チーズケーキの味とね

その うまくいかない恋愛
っていうか…

（田辺）いらっしゃいませ

（田辺）ごめんなさい なんか…
（青）いや 全然

（田辺）あっ…

（青）あっ すいません

（田辺）はい 500円になります
（青）はい

はい

（お釣りとレシートを取る音）

ありがとうございます

（青）あのさ…
（田辺）はい

田辺さんって
かわなべさんとデキてたの？

あ… いや ごめんごめん
あの 違う違う…

ごめんなさい

（携帯電話の呼び出し音）

（留守電：かわなべ）もしもし
こちら 古書ビビビ かわなべです

ただいま留守にしております
ご用の方は

ピーッという発信音のあとに
５分以内でお話しください

それでは どうぞ

（発信音）

もしもし 荒川です

田辺さん
先ほどは 本当に失礼しました

たぶん 昔
音楽をやっていたこととか

そういうことを聞かれて
気が緩んだというか

僕にとっての それは

不倫とか そういうことの秘密と
同じぐらい あれっていうか

センシティブな？

（店内のＢＧＭ）

（若者）この店 来日時には

必ずヴィム･ヴェンダースが
来るらしいよ

（若者）マジで？
（若者）マジ ヤバいっしょ？

（若者）すご…
（若者）うん フフフ…

（若者）ヴェンダースって
最近 何撮ったっけ？

（若者）あー 分かんない

（若者）分からんねや
（若者）うん フフフ…

えっ じゃ 何が一番好き？
ヴェンダース

（若者）え～ ベルリン

ああ なるほどね

（若者）リマスターやってるよな
（若者）ああ やる

でも なんか 俺 ちょっと
よく分からんやったな あれ

（若者）あっ マジで？
（若者）うん

えっ じゃあ 何が好きなん？

（若者）
俺は 「アメリカの友達」かな

（若者）「アメリカの友達」？
（若者）あっ…

うん 「アメリカの友達」

（若者）知らんわ
（若者）えっ マジで？

（若者）うん
（若者）いや 絶対 見た方がいいよ

（若者）えっ マジで？
（若者）いや オススメやわ

（若者）えー 知らんわ
（若者）たぶん好きやと思うし

（若者）うんうん…
（若者）サスペンス

（若者）サスペンスやの？
（若者）うん

（若者）じゃ 見てみるわ
（若者）いや 見て見て

（若者）へえ～
（若者）オススメ

（若者）マジで…

（美穂）すいません
（麻里）はい

あの この辺りで

この漫画に出てくる所って
どこかありますかね？

（麻里）なんの漫画ですか？
（美穂）これ

ああ～ 魚喃(なななん)キリコか

結構 ほぼほぼ下北沢(しもきたざわ)ですよ

（美穂）あっ ホントですか？
（麻里）はい

あの…

これ 駅前
変わっちゃったんですよね？　階段

昔は 南口に
階段があったって聞いて

あー これはね
下北じゃないんですよ

（美穂）え？
（麻里）新宿(しんじゅく)

（美穂）新宿？
（麻里）はい

（美穂）
下北じゃないんですか？　これ

（麻里）これは
ガッツリＪＲの新宿駅ですね

恥ず…

あっ そうなんですね

あっ… あっ ちょっと
見せてもらえます？

（美穂）はい
（麻里）ありがとうございます

あっ この白鳥座

これ ちょっと
裏のとこ行けばありますよ

（美穂）あっ ホントですか？
（麻里）はい

私 もうじきバイトあがりなんで
よかったら案内しますよ

え… いいんですか？

はい 全然大丈夫です

（美穂）ホントに？
（麻里）はい

（美穂）そんな バイト終わりに？
（麻里）あっ 家近いんで

ああ… 下北沢に
住んでるんですか？

いや 下北沢じゃないんですけど

（美穂）あっ ではない…
（麻里）そうなんですよ はい

あの でも近いんで

（美穂）ごちそうさまでした

お疲れさまでした
お先に失礼します

（竹原）お疲れさま

（竹原）文化って すごいよね

（青）文化？

（竹原）あっ いや
あの 文化っていうの？

えっ 何？　創作物？

ほら 漫画とか映画とか

あと… 小説とか音楽とか
写真とか？

あっ いや 写真は違うか

ちょっと直接的すぎるか

（青）えっ 何がすごいんですか？

（竹原）んー…

あ… やっぱ残るから

街とかよりも
すごいなって思うときあるよ

街は ほら どんどん変わるから
店も 景色も

（青）でも 街も
すごくないですか？

（竹原）ん？

（青）
いや よく分かんないっすけど

変わっても なくなっても
あったってことは事実だから

（竹原）うん… まあね

（竹原）死んだでしょ
かわなべさん 古本屋の

（青）ああ はい

（竹原）かわなべさん
死んだ前の日にね ここ来たのよ

（青）え？

（竹原）お昼過ぎぐらいに

（青）はい

（竹原）で そんとき満席でさ

（青）はい

（竹原）いや あの
“ごめんなさいね また”って

俺が言ったら

かわなべさんが

“はーい また”って
入り口んとこで手 振ってさ

ああ 全然関係ないよ もちろん

あの 全然 関係ないんだけどさ

あんとき うちで ごはん食べてたら
まだ生きてるのかもなとか

考えちゃうんだよね

（青）何 食べたんですかね？

（竹原）ん？

（青）いや 満席じゃなかったら
何食べたんですかね かわなべさん

（竹原）あー なんだろね えー…

ハハッ… でも

俺 かわなべさんじゃないから
分かんないや

（笑い声）

（青）あの人
いっつも昼から飲んでましたもんね

（竹原）うん

“あー お金ねえ”とか
言いながらね

（青）“寝てて お金もらえるなら
ずっと寝てんのに”っつって

（竹原）死んでやんの

（青）ずっと寝てる

（竹原）お金もらえないけどね
ずっと寝てる

（竹原）友人
（青）え？

（竹原）あっ いや
さっき ほら 若い子たち

ヴェンダースの話 してたでしょ？

（青）ああ 映画の話？
（竹原）うん

「アメリカの友達」って
言ってたけど

「アメリカの友人」
映画のタイトル

“友達”じゃなくて
正しくは“友人”

（青）何が違うんですかね

（竹原）ん？

（青）いや “友達”と“友人”

（竹原）ああ…

いや 一緒じゃない？

（青）そっか
（竹原）うん

（美穂）あっ すごい ホントだ

（美穂）あー すごい そのまんま
（麻里）これ ほら あるよね

（美穂）へえ すごい…

（麻里）ちょっと この辺とか
もうないよね

（美穂）ホントだ 変わってる
（麻里）うん

（美穂）へえ すご…

写真 撮る？

あっ じゃあ お願いします
すいません なんか 急に

じゃ お願いします

（麻里）撮りまーす
（美穂）はい

はい チーズ

（シャッター音）

もうちょっと…

あっ はい

（麻里）はい チーズ

（シャッター音）

（美穂）あと こ… このぐらい

（茂）すいません… すいません

（麻里）じゃあ もう一回
（美穂）もう一回

（茂）うっし…

（麻里）はい チーズ

（シャッター音）

（麻里）うん
（美穂）と…

（町子）あの…

（青）はい

（町子）あの 私
高橋(たかはし)町子という者なんですが

（青）はい

今 美大に通ってまして
そこで映画を作ってまして

で 今 ４年で

この夏に 映画を撮ろうと思って
準備をしてまして

（青）
あっ 衣装のレンタルとかですか？

あっ そうじゃなくて

（青）違うんですか？
（町子）はい あ… えっと あの…

もし よかったら 私の映画に
出演してもらえませんか？

え… 出演？

（町子）はい

えっ 僕？

はい

あの 私 ちょくちょく
このお店 来てるんですけど

いつも ここで
本を読んでる姿を見てて

で どうしてもお願いしたくて

あ… いや でも…

そういうの
めちゃくちゃ緊張しちゃうし

セリフとかも バカだから
たぶん覚えられないと思うし

あっ でもセリフとか特になくて

あの 喫茶店で いつものように
ただ本を読んでてもらえれば

もうそれだけでいいんです

いや どうすかね…

あの これ 脚本です

よかったら
一度 読んでみてください

はい…

私の連絡先も中に入ってますので

じゃあ いいお返事 待ってます

お仕事 お忙しい中 失礼しました

ああ…

あっ

あ… あの “忙しい”っていうのは
嫌みじゃなくて

“読書で忙しい中”
っていう意味です

えっ で どうすんの？

いや どうしようかなあと思って

えっ 手伝ってあげたら？

（青）んー でも
いざ出ることにしてですよ

（マスター）うん

出ることで この作品

ぶち壊しちゃう可能性
ありますからね

（マスター）フフッ…

たぶんガチガチっすよ 俺

（五叉路）あのさ

荒川さん それはね

もう 出る出ないじゃないのよ

（青）え？

荒川さん それはもう告白だから

（青）告白？

だってねえ

女性の監督さんがだよ

もう よく
お店に通ってくれててだよ

それで自分の映画に出てください
って言ってきてるんでしょう？

（青）はい

もう これは告白

じゃあ ますます断らなきゃだ

バッカだねえ お前は

ホント バカ…

（マスター）
ちょ… 飲みすぎだって

（五叉路）おい 荒川
（青）はい

お前 それ断るってのが
どういうことか分かってんのか？

（青）あっ いや…

それは

女性を泣かすってことだからな

いい？　お前 よく考えな

（青）はい

（五叉路）うう…

ああ… 気持ち悪い

（マスター）フッ… ごめんね

ああ いや…

なんかあったんすか？

あー… こないだ
話してた話 あったじゃん

なんか… 役のために太ってるって

ああ 役作りで太ってる
って言ってたやつ

そうそう… それ

なんか あれ 流れちゃったんだって

（青）えー
（マスター）うん

なんか 今日の昼にね
プロデューサーから連絡来て

で 今回は申し訳ないけど
別の人になったって

（青）えー なんで？

（マスター）うーん
詳しくは分かんないんだけどね

なんだっけ 元関取？　相撲取りに
役 取られたって言ってた

えー 何それ…

なんか
お相撲さんの役だったらしいよ

（青）そうだったんすねえ

でも なんか ひどいっすね

そのために わざわざ
太ってたわけでしょ？

うーん… まあ
でも五叉路君のことだからね

なんか勘違いしたのかもよ

なんか 候補の段階で
決まったと思い込んでたとかさ

だとしてもさ
現に太ってるわけだし

フッ… まあね

やっぱ あんま素人が
やることじゃないんすかね？

え？

いや 役者

ああ～

まあ でも卒業制作なんでしょ？

（青）うん

手伝ってあげたら？

（青）うーん…

ねえ？　それに
告白かもしれないしさ

（青）ちょっと
（マスター）ハハハ…

（青）え？
ちょっと… 大丈夫っすか？

（五叉路）…にたい

（青）え？

死にたい…

（携帯電話の操作音）

どうも

なんですか？

あっ いや
留守電 聞いた？　お店の

聞いてないですけど

聞いてない…

なんですか？

いや…

昨日は 変なこと聞いて
申し訳ありませんでした

（電話機の操作音）

（留守電：青）
あっ もしもし 荒川です

田辺さん
先ほどは 本当に失礼しました

たぶん 昔
音楽をやっていたこととか

そういうことを聞かれて
気が緩んだというか

僕にとっての それは

不倫とか そういうことの秘密と
同じぐらい あれっていうか

センシティブな？

そう それで
そのお返しじゃないけど

ふんわりと軽い気持ちで

かわなべさんのこと
聞いてしまいました

反省してます

では 失礼します

もういいです

こちらもすみませんでした

あっ いやいや…

あの…

ちょっと お願いがあるんですけど

あ… なんですか？

夜とかって暇あります？
お店 終わってからでいいので

（田辺）え…？

（田辺）
もっと近くからも撮りますか？

え？　ああ…

うん

いや… なんか あれですね

（田辺）なんですか？

（青）いや なんか…
（田辺）フフフッ

内容が
全然 頭に入ってこないです

（田辺）フッ なんでですか

いや なんか緊張しちゃって

（田辺）なんで 今日
ジャケット着てきたんですか

え？

（田辺）だって“いつもの感じで”
って言われたんですよね？

うん まあ 言われた…

（田辺）フフフ…

やっぱ変かな？

（田辺）うーん…

変？

（田辺）ちょっと １回交代

（青）え？

どう？

（青）ああ…

本を読んでるね

フッ 何それ そのまんま

アッハ…

あれ？　これ
もう全部 読んだんですか？

これ 昨日 買った本ですよね？

（青）いや まだです 全然まだ

（田辺）ふーん

（青）えっ それ読みました？

いや 読みたかったけど
読んでないです

（青）ふーん

（青）ん？

どういうこと？

（田辺）
“もし 僕が結婚してなくても”

“つきあってくれた？”って
言われたことがあるんです

“僕が結婚してなくても
僕に惹(ひ)かれた？”って

生きてるときに 店長に

（青）え？

（田辺）私 そういう人とばっかり
つきあってきたから

結婚してる人にしか惹かれなくて

（青）そうだったんだ

あいつ バッカみたい

つらかったろうな…

（はなをすする音）

（呼び出し音）

（留守電：かわなべ）もしもし
こちら 古書ビビビ かわなべです

ただいま留守にしております

ご用の方は

ピーッという発信音のあとに
５分以内でお話しください

それでは どうぞ

（発信音）

（酒井）なんだろ
いつも思うんだけどさ

どんな撮影よりも この
移動する集団が映画っぽいんだよね

これよりいい画(え)
撮れたことないかも

（スタッフたち）
おはようございます

（町子）あっ おはようございます
（青）おはようございます

（町子）あっ イハに伝えて
荒川さん来たって

（根岸(ねぎし)）ああ 分かった
じゃあ ちょっと これ お願い

じゃあ あの 控え室は
もう少し歩いたとこにあるので

（青）はい

（根岸）あっ どうぞ

（根岸）一番奥の部屋にどうぞ
（青）はい

（根岸）こちらで
ちょっとお待ちください

はい

あっ…

（鷲田(わしだ)）あっ どうも
（青）あっ…

鷲田権三(ごんぞう)です

（青）あっ…

（鷲田）鷲に 田んぼ
（青）ああ…

あっ 荒川 青です

あの ブルーの

（鷲田）あっ よろしく

（青）よろしくお願いします

（青）あの すいません

よく映画に
出たりされてるんですか？

え？

（青）あっ いや なんでもないです

まあ そうだなあ…

年に10本ぐらいは出てるかな

（青）へえ
結構 ご活躍されてるんですね

え？

（青）あっ
結構 ご活躍されてるんですね

飲み物 欲しいって？

（青）いや 言ってないです
言ってないです

でも 偉いねえ 若いのに

（青）え？

だって 朝ドラ出てるんでしょ？

そんな方とご一緒できるなんて
ヘヘヘ…

（青）えっ 僕ですか？

んだ

朝ドラ出てる人と一緒に
お芝居できるからって聞いて

喜んで来たんだもの フッフ…

（ノック）

（イハ）失礼しまーす

すいません お待たせしちゃって

（青）いえ…
（鷲田）あー あの

（イハ）はい

（鷲田）この青年
飲み物 欲しいって 何かないかい？

（青）あー 言ってないです
言ってないです 大丈夫です

あー すいません 気づかなくて
お茶かコーヒー…

（青）あっ いや 全然
あの お構いなく

（イハ）大丈夫ですか？
（青）はい

じゃあ 荒川さん
これ たぶんサイズ大丈夫なんで

あちらで着替えちゃってください

（青）はい

（イハ）靴下もあるので
（青）はい 分かりました

（イハ）靴だけ ご自前の
お借りできるって聞いたんですけど

（青）あっ 全然
監督さんから聞いてます

普通に
いつものスニーカーでいい…

（イハ）はい 大丈夫です
（青）はい

（イハ）
じゃあ よろしくお願いします

（青）はい

失礼します

（青）え？

（ノック）

（中川(なかがわ)）失礼しまーす

あっ おはようございます

おはようございます

中川優美(ゆうみ)と申します
よろしくお願いします

荒川 青です
よろしくお願いします

（中川）お願いします

（青）あの すいません
（中川）はい

あの 着替えても…

あっ あの
いや 着替えるように言われてて

（中川）あっ どうぞ
（青）すいません

（間宮(まみや)）あっ おはようございます

間宮 武(たけし)です お願いします

中川優美と申します
よろしくお願いいたします

おはようございます
荒川 青です

あっ 間宮です

（間宮）お願いします
（青）お願いします

（青）すいません…
（間宮）ああ ごめんなさい

あの すいません

間宮さんって
朝ドラ出てましたよね？

（間宮）え？

あ… はい 出てます

ああ やっぱり

いや 出られるんですね こういうの

（間宮）こういうの？
（青）いや 学生映画とか

まあ スケジュール空いてて
本が面白ければ

映画に大きいも小さいも
ないと思うから

かっこいいっすねえ

（青）前…
（間宮）ん？

い… いや 前つきあってた彼女が
間宮さんのファンでした

あっ ホントですか うれしいです
よろしく伝えといてください

（青）はい

あっ でも
伝えられない… のかな？

あの… 元カノ

いや 伝えることはできます
返事は来ないけど ハハ…

じゃあ 伝えない方が…

ですね

まだ好きなんですか？

まあ そうっすね

（イハ）失礼します
（間宮）はい

（イハ）ありがとうございます

（メイク）すいません
メイクも直し入ります

（間宮）はい
（メイク）はい

大丈夫です

（根岸）
じゃ よろしければ本番いきます

（スタッフたち）はい

（根岸）本番！
（スタッフたち）本番！

（根岸）13の１の１

（町子）用意 スタート！

（町子）カット
（スタッフたち）カット！

（町子）オッケーです
（根岸）オッケーです！

それでは間宮さん
本日の撮影 以上になります

お疲れさまでした

（スタッフたち）
ありがとうございました

（拍手）

（スタッフたち）
ありがとうございました

（根岸）えー それでは
次 荒川さんの撮影に入ります

（スタッフたち）はい

（根岸）じゃあ 荒川さん
よろしくお願いします

（スタッフたち）
よろしくお願いします

（町子）ちょっと準備するんで
少々お待ちください

すごいっすね

（町子）はい

（根岸）じゃ 本番いきます
（スタッフたち）はい

（根岸）本番！
（スタッフたち）本番！

（根岸）18の１の１

（町子）用意 スタート！

（町子）カット
（スタッフたち）カット

（町子）もう一回いきます
（スタッフたち）もう一回 はい

（町子）力 抜いてもらって
（青）はい

もう ここ 古着屋だと
思ってもらって大丈夫なんで

（青）はい
（町子）はい

（町子）じゃあ…

あー じゃあ 確認できたら
もう一回 本番いきます

（スタッフたち）はい

（根岸）
じゃあ よければ本番いきます

（スタッフたち）
はい お願いします

（根岸）本番！
（スタッフたち）本番！

（根岸）18の１の８

（町子）用意 スタート！

（根岸）18の１の13

（町子）用意 スタート！

（町子）カット
（スタッフたち）カット

オッケーです

（スタッフたち）
え… オ… オッケー！

オッケーでーす

はい えっと…
ちょっと ごめん

あっ 以上です

（スタッフたち）お疲れさまでした
ありがとうございました

ありがとうございます
お疲れさまでした

一応 根岸のバージョンでも
撮ります

（スタッフたち）はい！

（スタッフ）根岸バージョンで
（町子）はい

あっ チャック閉め…
チャックだけ閉めて

（スタッフたち）あっ 本 本…

（町子）あっ ごめんなさい
お借りします

（演出部）
すいません お借りします

（演出部）そのまま本番で…
（町子）はい

（演出部）じゃ 本番いきます
（スタッフたち）はい

（演出部）18の１の１

（スタッフ）本番！

（町子）用意 スタート！

（青）あっ…
（町子）ありがとうございました

（青）ありがとうございました

大丈夫でしたかね？
なんか 緊張しちゃって

ああ まあ…

（青）あっ ホント あれだったら
全然 使わなくても大丈夫ですんで

あっ ホントですか？

よかった…
たぶん使わないことになりそうで

今 それを伝えに来たんです

え？

せっかく出てもらったのに
すいません

あっ そうですか…

あっ でも もし あれだったら

映像 見てから
判断してもらってもいいですよ

あの… 今 決めなくても

え？

いや あの… どっちでも
全然あれなんですけど

撮った映像をチェックしてからでも
あの…

しました

えっ？

しました チェック

あっ 済み？

（町子）え？

いや もうチェック済みで
使わない…

はい 済みです 済みです

済み…

あっ まあ でも
ちゃんと つないで

また考えてみますね

（青）ありがとうございます
（町子）はい

あっ…

（町子）え…
（青）ん？

あ？　あっ いや 衣装…

（青）あっ すいません
（町子）はい

（町子）はい
（青）すいません

はい

（青）あっ すいません…

（町子）ありがとうございました
（青）ありがとうございます

（青）すいません…

（町子）じゃあ
（青）はい

（町子）あの…

明日 撮休なので…

撮影が休みなので

今から行ける人で
飲み行くんですけど 行きます？

はい

（スタッフ）合宿…
でも２週間ぐらいでさ

まあ 取れちゃうから
それ 結構 便利かなと思う…

（根岸）
俺 高橋のそういうところが

監督としてダメだと思う

そういうとこって どこ？
具体的に言ってよ

ほら そういうとこ
すぐムキになる

そりゃなるでしょ

自分が できないって
思ってるとこなら分かるけど

自分が納得してるとこ否定されたら
頭にくるの当たり前じゃない？

だからレベルが低いっつってんの

だから何がだよ
具体で言えっつってんの

（酒井）やめろって

自主映画とか学生映画って
思って撮ってるからだよ

前に言わなかったっけ？

熊切(くまきり)和嘉(かずよし)が
男２人女１人の映画 撮るなら

トリュフォーより面白いもの
撮る気でやってんのかって

映画学校で
自分の教え子にしたって話

前にしたよね？

それが？

べつに私 自分の映画

今ある たくさんの映画より
面白くないって思ってないよ

えっ じゃあ なんで
圭太(けいた)に依頼しなかったの？

はあ？

（根岸）最初から あの役
圭太に頼めばよかったじゃんか

なんで よく分かんない
古着屋なんかに頼んだの？

ちょっと 聞こえるって

（町子）だって すごくハマると
思ったんだもん

（根岸）なんでよ
芝居したこともない人でしょ？

（町子）そうだね

（根岸）
“そうだね”じゃねえだろ マジで

ってか 圭太のこと どう思ってんの

は？　それ 今 関係なくない？

いや 関係あるでしょ

圭太に なんとなく似た
おっさん連れてきてさ

で 最終的に俺にやらせてさ

俺 高橋のこと まだ好きなんだよ

知ってるよね？

それは どう思ってるわけ？

その一点に関しては
悪かったと思ってる

謝んなよ…

ねっ 飲もう

ねっ 飲みましょう
ねっ 飲みましょう 飲みましょう

（根岸）ションベン

（ドアの開閉音）

（イハ）あの２人

つきあったり別れたり
めっちゃ繰り返してるんですよ

（青）え？　ああ… そうなの

（イハ）はい

（青）へえ

（イハ）あっ お疲れさまでした

ああ お疲れさまでした

（イハ）すいません
（店員）はい！

何 飲みます？

あっ じゃあ おんなじのを…

（イハ）じゃあ 日本酒 冷やで２本
（店員）あいよ！

あっ いや おんなじのって
これとおんなじのを…

あっ すいません
私とおんなじのじゃなくて？

あっ いや 大丈夫です

日本酒 飲める人ですか？

はい まあ なんでも

（イハ）
タイプですか？　ああいうの

えっ 監督さん？

んー どうかな…

あっ でも モテそうだよね

モテそうか？

イハです

え？

城定(じょうじょう)イハ 名前

（青）じょうじょうイハ？
（イハ）はい

城定秀夫(ひでお)監督とおんなじ 城定

お城に とんかつ定食の定で
城定です

へえー

あっ 荒川 青です

知ってます

（店員）はい
日本酒２合 お待たせしました

（イハ）ありがとうございます
（青）すいません

あっ…

荒川さんって こういうの
結構 出たりしてるんですか？

いや 全然

最初は断ろうとしたんですよ
絶対できないからって

フッ 確かに
全然できてませんでしたね

ガッチガチで

（酒井）じゃあ
２軒目 行く人 行きましょう

（スタッフたち）
はーい！　行く行く…

（青）じゃあ 僕 帰ります

（イハ）ああいう場 苦手ですか？

（青）え？
まあ 完全にアウェーなんで

（イハ）アウェーか

（青）えっ え…
行かなくていいんですか？

（イハ）ん？
（青）いや ２軒目

（イハ）
ああ… 私もアウェーなんで

そうなんすか？

まだ時間あります？
明日 早いですか？

いや べつに早くないけど

じゃあ ちょっと
つきあってもらえません？

（青）え？
（イハ）ホームに

（青）あれ？　ここって控え室…

（イハ）私の家なんですよ

（青）広くないっすか？

（イハ）まあ いろいろあって

（青）ふーん

（イハ）どうぞ

（施錠音）

（青）お邪魔しまーす

（イハ）どうぞ

（青）すいません

適当に座ってください

（青）あっ ありがとうございます

（イハ）
まだお酒の方がいいですか？

（青）あっ まあ どっちでも

（イハ）じゃあ お茶で
（青）はい

（青）すいません

いただきます

（イハ）あっ あの 荒川さんに

ちょっと手伝ってもらいたいことが
あるんですけど

なんでしょう？

（イハ）あの布 ちょっと
一緒に持ってもらえません？

（青）はい

（イハ）
広げたときの大きさ 見たくて

（青）はい

（青）あっ これ もしかしたら
お茶 危ないかもしんないっす

（イハ）あっ 大丈夫です
実際も お茶の上なんで

（青）実際もお茶の上？

これ なんの布なんですか？

あさって 撮影で使うんですよ

（青）へえ

大丈夫そうですね

ありがとうございます

ありがとうございます

間宮さん かっこよかったですね

（イハ）ん？

いや 間宮さん
朝ドラ出てる俳優さん

（イハ）ああ…

でも なんか 彼女と
うまくいってないらしいですよ

（青）え？

ヘアメイクの子が
いろいろ聞いたって

（青）そうなんすね
（イハ）うん

（青）えー なんか意外
（イハ）うーん

でも まあ
どんだけファンがおる人でも

たった１人の恋人と
うまくいくいかんは

また別問題やろな

そういうもんなんですかねえ

何？

（青）え？

聞きますよ 恋バナ

いや いいですよ いいですよ

その元カノ 雪っていうんだけどね

（イハ）ゆき？
（青）うん

かわいい

ありがとう

そう 俺 実は いい年して
雪が初めての彼女でね

フフフ… それまで
そういう経験もなくて

で 初めて
そういうことになったときに

全然うまくいかなくて

そしたら“もっとＡＶとか見て
勉強してください”って言われて

何それ… なんで上からなん？

（青）上から？
（イハ）うん

ああ そっか 上からか…

いや よう分からんけど

勉強したん？

（青）そうねえ…
（イハ）フッ…

勉強したね フハハハ…

（青）その日が 自分の
27歳の誕生日だったこと

翌日 ＡＶを借りて見たけど

そこに映る女性たちが
魅力的に思えなかったこと

なんなら ビデオ屋のカウンターに
立っていた店員が女性で⸺

レンタルする瞬間が
一番 興奮したこと

このままではダメだと思い
初めて風俗に行ったこと

でも 雪への罪悪感から

童貞であることを
風俗嬢に正直に話したら

“やめといた方が
いいんじゃない？”と言われて

何もせずに帰ったこと

その女性に

“あなたみたいな人もいるんだね”
と言われたこと

その女性の髪が
スプレーでガッチガチだったこと

その女性が
一緒にシャワーを浴びたときに

髪を絶対ぬらさなかったこと

それは きっと

すぐ次の男性の相手をすることを
想像させたこと

それから しばらく経ったある夜

たまたま下北沢のラーメン屋で
その女性に出くわして

とても気まずかったこと

でも 目が合ったときに
ほほ笑まれて

少しうれしかったこと

僕は 雪とのなれ初めから⸺

彼女が どんな人だったか

そして 浮気されたのに
フラれたことについてなど

全て話した

イハには なぜか
その話をしてもいいと思えたし⸺

引きずっていることも
素直に話せた

（青）でも あれかも
（イハ）ん？

（青）えっ もしかしたら…
（イハ）うん

その風俗の人にも惹かれてた自分が
いたのかもしれないって

今 話してて思った

だって今 雪の話より
その人の話 してたでしょ

確かに

えー そうなんや… 意外

（青）ん？　何が？

なんか 彼女とか

全然 何人も
おったことありそうやのに

（青）えっ そう？
（イハ）うん

いや まあ
そう言われんのは うれしいけどね

えっ そっちは？

（イハ）ん？

今は？　いないの？

（イハ）うん おらん

（青）ふーん そうなんだ
（イハ）うん

聞きますよ 恋バナ

いや 聞かんでいいし

（青）えっ なんで？
（イハ）いや…

（イハ）え？

え… じゃあ 話そか？

（青）うん

（イハ）ンンッ… アハハッ

（イハ）えっとな…
（青）うん

今まで つきあった人は
３人おるんやけど

まあ 最初の彼氏の話はいいや
特に なんか 話すことないから

（青）えっ なんでよ
（イハ）いいねん いいねん…

２人目の話 していい？

（青）うん

その人のことが
まだ好きなんやけど

えっ おかしくない？
じゃ ３人目の人は？

えっ そんな好きちゃう

えっ けど つきあったの？

（イハ）うん…

うん え？　何？

そ… そういうときもあるやん
あかんの？

いや あかんくないけど

好きじゃないなら
つきあわなきゃいいのに

い… いや えー？

そんなさ なかなか
キレイにいかんくない？

（青）え？

だって そんなうまく
寂しさ コントロールできんやん

（青）うん… まあ そっか

（イハ）うん

で その２番目の人がな

（青）うん

え… えっ 引かん？

うん 引かない 引かない
えっ あっ でも 分かんない

えっ？　引くような話なの？

（イハ）ううん ううん

（イハ）えっとな…
（青）うん

関取

（青）関取？
（イハ）うん お相撲さん

えっ 相撲 詳しい人？

いや 分かんない
えっ 有名な人？

ううん 今 十両

えっ 十両って分かる？

いや 分かんない

えっ “今”って…
今もやってる人なの？

うん もうちょっと頑張ったら幕内

幕内も分からんか

うん 全然分かんない

（イハ）ハァー

（青）えっと 横綱
（イハ）うん

（青）大関
（イハ）はい

（青）えー… 小結

（イハ）ちゃう ちゃうちゃう…
（青）え？

横綱 大関 関脇 小結 前頭までが
幕内やねんな

（青）うん

で その下に十両がおって

で 十両で優勝したり
いい成績 残すと

幕内に上がれんねん

へえ さすが詳しい

いや これ 一般常識やで

（青）えっ そうかな？
（イハ）うん

えっ どうやって知り合うの？

（イハ）え？

いや そういう人と
どこで出会うの？

いや もともと幼なじみで
幼なじみが関取になった

（青）あっ そっちね
（イハ）うん

（青）そっちのパターンね
（イハ）うん

（青）うーん

えっ やっぱり あれなの？

（イハ）ん？

（青）ううん
（イハ）えっ いや…

（青）なんでもない なんでもない
（イハ）何？　何？

いや やっぱり…

その 重いから…

女性が上なの？

（イハ）はあ？

は？　何言うてんねん ホンマ

はあ？　エロ…

いやいや…
エ… エロとかじゃなくて

いや ちょっと 知りたいじゃんか

いや エロじゃなくて知識として

要る？　その知識

要るよ

要らない知識ってないからね
この世に

いや 急にデカいわ 話が

え？　で どうなの？

いや 無理 教えん

えっ なんでよ 教えてよ

いや 自分が
つきあってみたらいいやん

えっ どうやって？

どうやって俺が
関取と つきあうのよ

いや だから 関取じゃなくても

関取ぐらいデッカい女性と
ヤってみたらいいやん

いや そんな女性
なかなかいないでしょ

いや おるから

どこに？

え？　だってさ 世の中にはさ
ダイエット特集とかさ

夏までに痩せたいとか
あちこちにあんねんやで

エステとかジムとか雑誌とか

（青）うん で？

やから おるやろ

まあ そうね…

（イハ）えー？

なんで私が しょうもない話
したみたいになってんの？

いや 実際しょうもなかったから

（イハ）ひど…
（青）フフフ…

（イハ）ひど…

えー？

してないねん…

（青）え？

だから そういうことせずに
別れてん

（青）そっか
（イハ）うん

（青）そうだったんだ
（イハ）うん

（青）短かったの？
（イハ）ん？

つきあってた期間

いや そんなことないけど
でもキスしかせんかった

（青）そっか
（イハ）うん

いや なんか ごめん

いや なんで謝るん？

いや なんか 余計なこと
聞いちゃったなあと思って

（イハ）そう？

いや この前も
ちょっと同じ失敗したなと思って

（イハ）うん

言わなくてもいいこと
言っちゃうっていうか

（イハ）ふーん そうなん

でも全然 気にしてないから
気にせんでいいんちゃう

（青）うん

でも 好きだったんだ その人のこと

（イハ）うん…

うん とにかく優しかった

（青）うん そっか

えっ 何？

（イハ）ううん いや…

ううん いや あのさ
なんでさ 男と女はさ…

いや べつに
同性でもいいんやけどさ

つきあったり
好きって思ったりせんかったらさ

こうやって
なんでもしゃべれるやん

（青）うん

けどさ いざ異性として
意識するとさ

嫉妬したりとかさ

いっつも面白(おもろ)くしゃべれてる話が
つまらんくなったりするやん

あっ 確かにね

なんか こういう距離感のまま
つきあっていくことって

できひんのかなあって
いっつも思う

（青）うん…

いや あれやで
べつに私が つきあいたいとか

そういう話じゃないで

（青）うん

ああ… でも嫉妬とか
そういう感情がなくなったら

なんか つまんない気もするけどね

（イハ）んー…

いや… ある種の証拠っていうか

（イハ）うん

自分が相手を好きだなって思う

１つの決定的な証拠じゃんか
嫉妬って

（イハ）まあな
（青）んー なんていうか…

曖昧じゃん
好きとか そういう気持ちって

（イハ）うん…
（青）うん

（イハ）フフッ なんか

私らは つきあったりせん方が
よさそうやな

（青）え？

だって こんなさ 嫉妬もなくさ

昔の彼氏とか彼女の話ができるって
変じゃない？

いや でも まだ嫉妬するほどの
関係性じゃないからね

（イハ）まあな
（青）うん

えっ こういうふうにさ
初めて会った女の人の家に

その日のうちに上がるって
よくあることなん？

いや 一切ない
ホント 初めて

えー そうなんや

だから めっちゃ怖かったもん

（イハ）えっ 怖い？
（青）うん 怖いでしょ なんか

（イハ）そうか？
（青）うん

えっ 城定さんは？

城定さんは よくあるの？
こういうの

なんで急に城定さん呼びなん？

（青）え…
（イハ）ほら

ほら そういうのやんか
そういうのがあかんねんて もう…

もう なんか壊れたわ

いや ごめんごめん

いや だって かわいいから

（イハ）は？

いや ごめん 今のはわざと

もう最悪… 壊れまくりやし

もう最悪や

お茶 要る？

いや 大丈夫

（イハ）あっそう
（青）うん

（イハ）え…

友達…

（青）ん？

友達になってほしいかも
友達おらんし 私

（青）あっ ぜひ

（イハ）お願いします
（青）はい

（青）あっ じゃあ…

（イハ）要るんかよ

やっぱり要る

ありがとう

俺 別れないかんね

そんな理由で
絶対 俺 別れないからね

（女性）でも やっぱ…

私は一般人で
あなたは芸能人だから

（間宮）いや なんだよ それ…

そんなの つきあう前から
分かってたことじゃないの？

ってか 一般人とか
芸能人とかの前に

同じ人間だからね

（雪）同じかな…
（間宮）同じでしょ

えっ じゃあ 何？
俺が俳優じゃなかったら

別れずに続けていけたってこと？

（雪）それは分かんないけど…

でも どっちにしても
無理だったかも

えっ なんで？

えっ いいよ 言って

俺は ホントの気持ちを
知りたい 雪の

じゃあ 本当のこと言うね

（間宮）うん 言って

楽しくないの

え？

一緒にいても楽しくないの

えっ なんで？

ん… 気 使うし

なんか ２人のバランスが悪くて

そんな…

そ… そんなの勝手に
そっちが そうなってるだけじゃん

べつに 普通に
リラックスしてたらいいじゃん

それができないから別れたいの

一緒にいるのがつらいの

ごめん…

え… 俺のこと 好きは好きなの？

好きだよ
好きだから つらいんじゃん

じゃあ いいじゃん 一緒にいてよ

ごめんなさい…

（青）で？　３人目の人は？

いや… いや いいよ
特に話すことないからいいや

（青）そっか
（イハ）うん

まあ やから
実質１人やんな 私も

（青）うーん

（イハ）えっ 何？

いや

つきあったけど

話したくないような相手
っていうのがいるんだとしたら

雪にとっての俺も

そういう男の１人だったのかもなあ
って ふと思っただけ

話そか？　３人目についても

いや 無理に話さなくていいけど

なんか なんていうか
ちょっと めんどくさい人やねんな

（青）めんどくさい？
（イハ）うん

なんか ちょっと
束縛する感じっていうか

（青）ああ…

（イハ）そう

で まあ 別れたいって
言うたんやけど

（青）うん

でも なんか
好きな人ができたとか

新しい彼氏ができたとかじゃないと
別れへんって

俺は認めへんって言うねん

（青）うーん

（イハ）そう

で べつに好きな人もおらんし
新しい彼氏もおらんけど

でも 彼氏ができたって言ったら
二股になるやん？

（青）うん

やから 彼氏になりそうな人がおる
って言ってん

（青）うん で？

で そしたら そいつが
会わせろって言うてきて

（青）うわあ…
（イハ）そう

いや でもさ
おらんから会わせられへんやん

（青）うん

（イハ）で…

で まあ そいつ
同棲(どうせい)まではいかんけど

ここに結構来るから
合鍵 持ってて

（青）うん

で 返してって言っても
返してくれへん

（青）えっ そうなの？
（イハ）うん

え… じゃあ 今から突然来る
みたいなこともありえるの？

まあ ありえる

えっ 俺 大丈夫？　ここにいて

フフフ… 確かに

いや “確かに”じゃないでしょ

いや でも大丈夫やろ

さすがに こんな夜中には
来(こ)うへんと思う

連絡せずに来たことないし

（青）ああ… そっか
（イハ）うん

寝る？

（青）ああ うーん…

やっぱ 俺 帰ろうかな

えっ 帰るん？

（青）うーん…

その男が来るかもしれんから？

いや それは関係ないけど

（イハ）ふーん
まあ 好きにしてください

（青）うん… じゃ 泊まる

（イハ）フフフ… 泊まるんかい

どうぞ

シャワーとか
もし あれやったら使っていいから

はい じゃあ 朝借ります

（イハ）はい

はい じゃあ 私は寝ます

（青）はい
（イハ）あっちの部屋で

おやすみなさい

（青）はい

（イハ）はい
（青）ん？

バスタオルとタオルケット
置いとくな

（青）ありがとう
（イハ）うん

（イハ）おやすみ
（青）おやすみ

（青）長いの？

（イハ）ん？

（青）あ… いや
下北沢に住んで 長い？

えー 大学入ってからやから
４年ぐらい？

（青）ふーん

えー さっきも言うてたけどさ
長い短いって なんなんやろな

（青）え？

なんか 一番どうでもいい
時間の概念

フッ 明日 死ぬかもしれんしな

（青）まあね

おやすみ

（青）おやすみ

私 間宮君とつきあって分かったの

前の彼氏が いかに
一緒にいて居心地がよかったかって

でも それって
好きじゃないってことじゃなくて？

そうかもね

それでも そっちの方が
私は楽しかったの

もう遅いけど

こっち見て

（雪）ん？

いいから こっち見てよ

そいつに会わしてよ

無理だよ そんなの

冗談だよ

（マスター）はい レモンサワー

（鳥の鳴き声）

おはよう

（青）おはよう

生きとったな

うん

（ドアチャイム）

（解錠音）

あ… どうも

（イハ）ありがとう

（青）うん

（イハ）コンビニ行くから
途中まで送るわ

ちょっと待っとって

（青）うん

（茂）うわあ…
（朝子）なんで 眠い？

（茂）いや 天気が…
天気がめっちゃいいからさ

（茂）どうするよ？
（青）あっ

（茂）この天気だから
なんかさ なんつうの…

（イハ）知り合い？

（青）うん まあ…

あっ

（雪）おはよう 久しぶり

（青）久しぶり

おはよう

（イハ）雪さん？
（青）うん

（青）えっ 言ってた浮気相手って
マスターなの？

んなわけないじゃん

今まで店で飲んでて
朝になっただけ

んなわけないじゃん
今 もう何時よ

青こそ なんだよ

あれだけヨリ戻したがってたのにさ
いるじゃん 彼女

いや 彼女じゃないから！
昨日 知り合ったばっかだし

（マスター）そうなの？

はい 昨日 知り合ったばっかです
うち泊まったけど

いや 余計なこと
言わなくていいから

でも ホンマになんもないです

そう なんもないよ

いや 聞いてないし
どっちでもいいし

ってか マスター
汚いっすよ マジで

どうなの そういうの

今まで 散々 相談
乗ってくれてた感じだったのに

ありえないよ

だから 違うって
ちょ… １回聞いて

聞きますよ
はい なんすか？

雪ちゃん ほら

いや いいです

いや 言った方がいいって
ちゃんと

まだ 好きやって

え？

昨日 ずっと雪さんの話 してました
一晩中

まだ好きや 忘れられへんって

いや あなた関係ないですよね

いや 関係ないですけど…

（マスター）ほら でもさ…
（雪）なんですか？

雪ちゃんもさ 素直に話したら？

私…

青とつきあってるときに
１回 殴られたんですよ

えっ ちょ… それ… えーっ？

（マスター）マジかよ
（雪）うん １回だけだけど

ホンマに？

いや 違う違う…
それは語弊がある

雪が先に殴ってきたんじゃん

そしたら殴り返してきたじゃん

何それ？　それで
なんで俺が悪いことになるの？

いや おかしいって

（マスター）女の人に
手 出すのは最低だよね

えっ 俺が悪いの？

（イハ）最低やな

いや おかしいって
今のは絶対おかしい

雪 それはないよ！

いいじゃん べつに

第２の被害者が出る前に
話しておかないと ね？

いや そういうんじゃないから

（国井）これ

（青）えっ？

俺は イハのこと
幸せにできなかったけど

俺の分まで イハのこと
幸せにしてあげてください

彼氏さん

じゃあ

（青）ちょ ちょ… ちょっと！

やっぱ彼氏じゃん

（青）いや 違うんだって

（イハ）いや 彼氏です

（青）ん～ そう 彼の前では そう

彼の前では？
えっ どういうこと？

いや… 実は彼氏じゃないんです

（青）彼氏です
（雪）やっぱ彼氏なんじゃん

（国井）えっ どっち？
（青）いや…

（青）ん… 彼氏です

彼氏です！

ごめん 結局どっちなの？

いや マスター １回黙れ
本気でありえないからね あんたは

いやいや 彼女さんの前で

彼氏だとか彼氏じゃないとか
言ってる方がおかしいでしょって

いや あんたよりはおかしくない

（マスター）いや…
青 全然分かってない

俺じゃないから 雪の相手は

じゃ 誰だよ！

（マスター）
だから それは言えないの

相手に迷惑かかるから

えっ なんなの？　それ
相手に迷惑って何？

えっ 彼氏じゃないの？

（青）あんたも１回黙ろっか

（国井）えっ 彼氏じゃないなら
なんでイハの家にいたの？

いや ホント黙って
彼氏だから

（マスター）雪はね
青とヨリ戻そうとしててね…

（雪）はあ？　何それ なんの話？

（青）そうなの？
（雪）んなわけないじゃん

（マスター）えっ いいの？

もう正直に話した方がいいって
さすがに

（雪）言わなくていい

（イハ）えっ 雪さんも
やり直したいんですか？

（雪）うっさい
“雪さん”とか軽々しく呼ぶなや

（国井）えっ どういうこと？

あんたは誰だよ！

ちょっと待って ちょっと待って

これだけは ちゃんと聞かして

雪も俺とやり直したいの？

（国井）え？

（警察官）はい 止まって
はい 止まってください

すみません
自転車 調べてもいいですか？

失礼します

いやあ 盗難が増えてましてね

夏でしょ？
バカが増えるんですよ 暑いから

女優さん？

え？

おキレイだから

女優さん？

いや

あのね うちの姪っ子が
女優やってんの

舞台女優っつうの？

どう思う？

フフ… さあ

あっ 興味ないか

あっ いいよいいよ
実際 関係ないもんな

姪っ子がね 俺と
あまり 年 変わんないのよ

まあ いろいろあって
連れ子なの

ほら 俺の姉ちゃんが
まあまあ年上の人と結婚して

で 相手が再婚だったからさ

でも ぶっちゃけ好きなんだよね
その姪っ子のこと

俺 姪っ子のこと好きなの

でも まあ
結ばれることはないじゃんか

結婚できないし ３親等だし

でもね 今度
告白しよっかなって思ってんだよね

どうせダメって
分かってるんだけどね

やっぱ言わないと
次 行けないっていうか

どう思う？

これ 私のじゃないです

え？

（雪）
これ 私の自転車じゃないです

お姉さんのじゃない？

はい 知り合いのです

（警察官）知り合いの？

そうなんですか

じゃあ その方のお名前
お伺いしてもいいですか？

知らないです

知らない？

（雪）はい 名前を知らない
知り合いの自転車です

知り合ったばっかりで

え？

お巡りさん ありがとう

私も自分の気持ち
ちゃんと伝えてみる！

（警察官）えっ？

もしもし 今どこにいる？

テープがあっても
デッキがねえじゃん

（ギターの音）

♪ 意味のない味のチーズケーキ

♪ 君のいない街の俺

♪ 待つつらさをこの苦さで

♪ 紛らわしている

♪ 意味のない味のチーズケーキ

♪ 君のいない街の俺

♪ 待つつらさをこの苦さで

♪ 紛らわしている

（青）え？

えっ？

（間宮）え…

えっ なんで？

なんで間宮さんが ここにいるの？

えっ 雪の元彼って この人？

うん

マスターじゃないの 間宮君なの

えっ？

相手

は…？

でも もう俺 フラれたんで

え… フラれたんですか？

雪がフッたの？

俺といると楽しくないって

会わしてくれてありがと

さよなら

（青）ちょっと…

ちょっと ちょっと…

ちょっと！

（青）えっ マジで！
（雪）ん？

い… いいの？
めっちゃファンだったじゃん！

追いかけなよ！
すごいことだよ？

間宮 武だよ！

バカ

え？

ホンットにバカだね 青は

好き

おおい…

（拍手）

ありがとうございました

映画「SLEEP IN READING」を
監督した高橋町子です

（来場者）お疲れさま
よかったあ ホント安心した

（町子）ありがとう 行く？

打ち上げ？　行く行く
またあとで

（来場者）よかったです
（町子）ありがとうございます

（町子）んー！
（来場者たち）お疲れさま～

（町子）あとで
（来場者たち）あとでね

（根岸）おっす お疲れ
（酒井）お疲れ

（町子）行く？
（根岸）行く行く もちろん

（根岸）来るでしょ？
（町子）うん

（酒井）じゃ またあとで

（来場者）
すごいよかったよ お疲れ

（町子）ありがとうございます

ありがとうございました

（来場者）お疲れさま
（町子）お疲れ

（来場者）じゃあ あとで
（町子）うん

（来場者）面白かったです
（町子）ありがとうございます

（来場者）よかったです
（町子）ありがとうございました

高橋町子監督ですか？

はい

なんで荒川さんの出演シーン
全部カットしてしまったんですか？

荒川さん？

ああ 古着屋の？

えっ 荒川さんのことも
今 忘れてました？　もしかして

いやいや 覚えてますけど

まあ カットすることは
本人にも伝えてますし

荒川さん めちゃくちゃ
一生懸命 練習してたんですよ

なんでカットしちゃったんですか？

練習？

私 荒川さんに呼ばれて

“俺が本読んでるとこ
携帯で動画で撮って”って

で それ 何回も見返したりして…

あの 失礼ですけど
どなたですか？

いや まずは
私の質問に答えてください

えっと 映画をよくするために
切りました

荒川さんのお芝居が
映画を編集していく中で

ちょっと違うかなというか
必要ないなと思ったので

じゃあ その荒川さんが
やったお芝居は

誰も見ることができない
ってことですか？

そうですね

存在の否定じゃんか

いや でも映画って
そういうもんだから

あなた 荒川さんの
なんなんですか？

ただの知り合いです

彼女？

違いますけど

えっ 好きなんですか？

は？　好きだったら
なんなんですか？

いや べつに

本人が納得してることを
関係ない人が

ああだこうだ言ってくるのが
なんだろ…

イヤだなって思っただけです

だから 好きなのかな
って思っただけで…

いや べつに 本人が
納得してるかどうかなんて

分かんないじゃないですか

（町子）いや…

ねえ ちょっと助けてよ

なんですか？

（町子）いや よく分かんない

ねえ 荒川さんって覚えてる？
あの古着屋の

はい

なんか この人が なんで
荒川さんのシーンがないんだって

（田辺）なんで荒川さんの
出演シーン 全くないんですか？

全部カットされてるんですか？

えー… 下手やったからですね

（田辺）え？

下手やったんで 監督 その場で
別の人で撮り直してました

（田辺）下手？

はい もうガッチガチで

まあ そりゃ カットですよね

あの 荒川さんって
今も雪さんと続いてるんですよね？

（田辺）え… あっ はい

えっ なんで知ってるんですか？

いや… 友達なんで

（田辺）え？

友達

いらっしゃいませ

（元関取）うっす あの…

はい？

このお店 五叉路さん？
よく来てるって聞いたんですけど

あっ そうですね

今日も来ますかね？

あー まあ 来ると思うけど…

お知り合い？

ああ まあ

なんにしましょう？

（元関取）ウーロン茶
（マスター）ウーロン茶 はい

あっ すいません ウーロン茶
ちょっと 氷抜いてください

（マスター）あっ 氷？　はい

はい ウーロン茶です

（元関取）あの…

（マスター）はい？

俺 謝んなきゃいけないなと思って

（マスター）え？

いや 俺 知らなかったから

五叉路さんとかの いろいろ

（マスター）ああ～

あの 撮影… 撮影のやつですよね？

なんか オーディションで
役 取り合いになったみたいなやつ

…ですよね？

あっ 違う… 違いますか？

いや… すいません

おう いらっしゃいませ

（イハ）来んかったんですね 今日

ああ 今日だったんですね

まあ… 行ってもねえ

（イハ）まあ… そうですよね

（青）うん

全部カットされてました？

いや 出てましたよ

（青）えっ マジで？
（イハ）はい

（青）マジか…

じゃあ 今度 上映あるとき
また教えてよ

分かりました

今 みんな
打ち上げやってるんですよ

お披露目上映会の

（青）そうなんだ

いいの？

（イハ）ん？

（青）ううん

（ドアの開閉音）

（青）おう 来てたんだ

うん おかえり

（青）ただいま

ビール買ってきたけど
よかったら飲む？

じゃあ あとでもらう

（青）はい

あ… ちょっと来て

（雪）ん？　何？

えっ なんのケーキ？

（青）いや あんときの フフフ…

（雪）えっ！

えっ なんで 取っといたの？

（青）いや なんでとかないけど

もったいないから？

ちょっと開けてみてよ

（青）
めっちゃ腐ってたらどうする？

（雪）ちょっと怖いね
（青）うん

（青）開けてみるか…
（雪）うん

（青）ん？

（雪）えっ 意外といけそう

（青）確かに

まだ食べられるかなあ

いや やめといた方がいいでしょ

マジで？

そんないくの？　マジで？

うん

え？

うん

いや “うん”じゃないでしょ

食べてみ

いや 俺はいいわ 俺はいい

おっ…

はい

いや 俺はいいわあ

チョコも腐るでしょ？

腐んないんじゃない？

いや 腐るでしょ

ケーキよりいいよ

まあ そうか ケーキよりはいいか

頑張れ

（青）マジで？
（雪）うん

（青）うん…

意外といけるね

（笑い声）

♪～

～♪