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(雨宮涼一朗・回想) ⦅はぁ はぁ はぁ はぁ…⦆
⦅ガチャ(ドアの音)⦆ ⦅はぁ はぁ はぁ⦆
⦅はぁ はぁ はぁ はぁ…⦆
(小林直樹)⦅閉店だ⦆ ⦅小林君…⦆
⦅葬式だった…⦆
⦅何やってるの?⦆
⦅弔いだよ⦆
♬~
♬~
⦅小林君 二人で この店 続けませんか?⦆
♬~
⦅僕は おじいさんの言葉に この店で救われた⦆
⦅愛された店だし きっと お客さんも…⦆
⦅断る⦆
⦅俺は これを食べきって死ぬ⦆
⦅書けない俺に 生きる価値はない⦆
♬~
⦅じゃあ こうしましょう⦆
⦅この缶詰が尽きるまで…⦆
⦅人生を ひと休みするんです⦆
⦅きっと そういう時間も 必要なんだよ⦆
♬~
(メッセージ受信・マナーモード)
(小林の声) 「しばらく書く。 店には行かない」。
♬~
(雨宮の声)「了解しました!」。
♬~
♬~
(中内智)悪い 少し出ていいか?
はい。 あっ… どうしたんですか?
新しい店 誘われて。
知り合いのシェフが 一緒にやらないかって。
だって もう終わるだろ。
頑張ってください。 うまくいくといいですね。
1~2時間で戻る。 はい。
♬~
(心の声) ≪みんな 少しずつ 前に進む≫
♬~
次が 最後のお客様…。
ガチャ
♬~
いらっしゃいませ。
(才川)マスターは?
僕です。 雇われですが…。
そう。 何か?
前のマスターに 会いに来たの。
ロンドンから はるばる。
♬~
♬~
♬~
ピンク・レディでございます。
カクテル言葉は?
「いつも美しく」。
ふ~ん…。
まあまあね。 えっ?
変わってないね ここ。
昔 よく来てたの。
あぁ~あ…。
せっかく 文句つけに来たのに➡
マスター いないなんて。 文句?
どうしてくれんのよ! えっ?
私はね マスターが 「夢を追え 追え」って言うから➡
結婚もしないで 仕事ひと筋に生きてきた。➡
デザイナーとして どんな理不尽な目に遭っても➡
とにかく 笑って耐えてきた。
おかげで 念願のロンドンへ。
すごい! 夢をかなえた…。
バン!(机を叩く音) かなえたわよ!➡
だから なんだっていうの?
すみません…。
大切な人に お別れも言えないなんて…。
先週ね 母が亡くなったの。
女手一つで育ててくれて 口癖が➡
「あなたの好きに生きなさい」。
だから 私 自由奔放に生きてこられた。
母のおかげね。
でも… 間に合わなかったの 仕事で。
最期を 看取ることができなかった。
(才川)亡くなった母を見て➡
この人は 本当に やりたいことは なんだったんだろうって。
ねえ あなたは やりたいこと やれてる?
えっ?
あなた 夢は?
僕は…。
(晴彦)⦅俺は バイアウトしてでも 手に入れるべきだと思う⦆
⦅お前は どう思う?⦆ ⦅僕は 兄さんがよければ それで⦆
⦅またか…⦆
⦅俺は お前の意見を聞いたことがない⦆
⦅すみません⦆ ⦅降りろ⦆
⦅えっ?⦆
⦅お前は なんのために生きてる?⦆
⦅今のお前は ただ 俺の夢に のっかってるだけだ⦆
⦅お前には 自分が ないのか? むなしくないのか?⦆
⦅涼一朗 お前は 本当は 何がしたいんだ?⦆
(晴彦)⦅降りろ⦆
♬~
⦅ザァー…(雨音)⦆
♬~
♬~
(賢三)⦅いらっしゃいませ⦆
(賢三)⦅だいぶ 降られましたね⦆
⦅あっ… すみません⦆
⦅何か お飲み物を お持ちしますか?➡
温かいお食事でも⦆
♬~
⦅僕は…⦆
♬~
⦅何が欲しいんでしょう…⦆
⦅ちょっと 分からなくて…⦆
♬~
夢は… まだ 探しているところです。
ふ~ん。
マイペースに 堂々といけ!
えっ? ふふっ。 って➡
マスターが さんざん言ってた。 あぁ…。
「早いうちから 夢を見つけられたら ラッキー!」って。
ガチャ サンキュー。
いらっしゃいませ。 この店のシェフです。
あっ 何か 召し上がりますか?
「as you like」。 「お気に召すまま」。
当店は 缶詰料理を お出ししています。
材料に限りはありますが できるかぎり➡
ご要望に お応えします。 って言っても…➡
残り ひと缶。 あっ…。
でも まずは お客様の ご要望を。
いかがでしょう? (才川)ねえ➡
あれって 鯖缶? はい。
(才川)そしたら それで サンドイッチ作ってくれる?➡
ソースは マヨネーズとケチャップの➡
オーロラソース。 いいですね。
父のレシピなの。 母に よく作ってたんだって。
唯一の 父の思い出。
かしこまりました。
中内君➡
よろしくお願いします。
♬~
ガチャ あれ?
小林君 執筆に専念するんじゃ…。
気分転換だ。 執筆?
彼は 小説家なんです。 と同時に 今のオーナーです。
(才川)へえ~。
小林君… ひょっとして 直樹君?
えっ? いつも ここに座って 本読んでた。
覚えてない? 昔 よく通ってたの。
ああ~! (才川)ねえ!
泣いたり怒ったり 忙しい女か。
そうそう… って こら!
覚えてる。 あんたが来ると とりわけ 騒がしかったからな。
「にぎやか」って言うの。
この辺り 芸術家の卵が多いでしょ?
マスター お人よしだから➡
「金の代わりに 何かしろ。 したら 飲ませてやる」って。➡
だから いろんな人が来てたの。
(才川) 楽しかったな~ あのころは。
芸術を愛する方でしたもんね。
だから 俺も ここにいられた。
(才川)うちの父も そうだった。
絵描きだったんだけど 全然 売れなくて。➡
いつも ここで飲んでたんだって。➡
で ここで 母と出会って…。
(才川) だから ここは 私にとって➡
父を感じられる場所でもあるの。
お父様も 絵を持って ここに通われていたんですね。
(才川)そうみたい。 父の絵 もう ないだろうな。
ある。 えっ?
昔 じいさんに聞いたことがある。
あんたが 酔い潰れたあとに。
「これは この人の父親が描いた絵だ」って。
♬~
これ。 (才川)えっ?
えっ?
近くで見てもいい? あっ はい。
ああっ ああっ あっ!
ガタン!
(才川)ちょっと 何やってんのよ! ごめんなさい!
雨宮! 申し訳ありません!
ああ~ ああ~ ああ~。 ん?
写真?
お母さん!
えっ?
あぁ…。 (才川)きれい…。
お似合いですね 黄色いワンピースも。
いい女だな。 言い方。
(才川)この日付… 私が生まれる 1か月前。
あっ じゃあ このおなかにいるのは…。
(才川)うん 私。
あっ…。
ん?
これ もしかして…➡
逆なんじゃないですか? (才川)えっ?
ちょっ… ちょっと いいですか?
ほら。 (才川)ああ…。➡
ほんとだ! 抽象画だから分からなかった。
俺ら 毎日 ここで見てたのにな。
画力が ないせいだな。 小林君。
いいのよ 顔も知らない人だもん。
♬~
(才川)これ 母ね。 ええ。
なんか書いてある。 えっ?
ほんとだ。
これは…➡
フランス語?
「Sans le remarquer, quelqu'un est un rêve pour I'autre.」。
(2人)おお~!
ふ~ん。 (才川)どういう意味?
「気付かぬうちに 誰かは 誰かの夢である」。
♬~
母の周りだけ 金色に光ってる。
お父様には そう見えていたんでしょうね。
幸せそう。
母の夢…。 「気付かぬうちに➡
誰かは 誰かの夢である」。
お母さんと お別れできなくて すごくさみしくて 後悔した。
でも…。
「あなたの好きに生きなさい」。
そうおっしゃってますね。
ほんと。 口うるさくね。 ふふっ。
お待たせしました。
♬~
んん…。 ふふっ。
おいしい。
(才川)ここ 変わらず いい店ね。➡
気取らなくていいし スタッフは すてきだし。
ふふっ… ありがとうございます。
後悔して 嫌になって➡
自分のことが 大嫌いになったとき➡
大抵 思い出すのは ここなの。➡
世界中 いろんな店に行ったけど➡
どこかで ここと比較してる。
あったかくて 不思議な場所。
♬~
♬~
シャルトリューズという リキュールをベースにした➡
オリジナルカクテルです。
鯖サンドにも よく合うと思います。
♬~
あっ おいしい。
ありがとうございます。
行きたいとこに行って 会いたい人に会って➡
やりたいこと 全部やる。
でしょ?
はい。
これ カクテル言葉は?
「今を生きる」。
合格。 ふふふっ。 ふふふっ。
ありがとうございます。
こうやって飲むのも 最後だろうな。
そうだなぁ。
缶詰って 面白いよな。
ん? 雨宮が言ってたこと➡
よく考えながら作ってた。
缶詰は 小さな鍋。
蓋を閉めて 中で煮込まれた食材は➡
開かれるまで 何年も 時を待つ。
ああ…。
自分も そうだなって。
だから できるかぎり いい味になって➡
焦らず 開くときを待とうって。
そっか…。
よかった。 ふふっ。
小林は? 小説の方は どうなの?
書きたいものが見つかった。
よかったな。
楽しみにしてるよ。 俺も。
最初に 俺らに読ませろよ。 書き上げたらな。
で… お前は?
どうするんだ? これから。
♬~
僕は まだ…。
そっか。 うん。
「傷を隠すな」。
「その傷が 今のお前をつくってる。➡
失敗しても 隠すことはなく➡
傷つくことを恐れず 堂々と進め」。
じいさんが よく言ってた。 ここで いろんな客に。
そうだね…。
よし 記念撮影しようぜ。
えっ? いいよ 写真は。
おい 恥ずかしがる年か? おい こっち向いて。
小林! こっち向けって。
はい いくよ。 はい チーズ!
カシャ!(携帯カメラのシャッター音)
♬~
じゃあ。 元気でな。
うん。
あの!
なんだよ?
この店 続けませんか?
続けたいんです。
中内君と 小林君と 一緒に。
わがままだってことは 分かってます。 でも…➡
三人で やりたいんだ。
雨宮が続けるなら 俺も続ける。
俺も この店が好きだから。
♬~
まあ 執筆の合間に 自由に飲める場所が必要だな。
おい 問題オーナーめ。 なんだよ。
もっと早く言えよ。 今は➡
お前あっての この店なんだぞ。
おお~い! あははっ!
はぁ… いい店にしていきましょう。
シェフ。 オーナー。
うん。
これからも よろしく!
あははっ! うん 分かった。
分かった 分かった。
♬~
≪この世界は 厳しくて➡
自分より不幸な人は たくさんいる≫
≪それでも 自分を➡
不幸だと思ってしまう夜はある≫
≪そんなときに 優しく温めてくれる➡
余白みたいなスペース≫
≪ここが そうあり続けられるといい≫
♬~
ガチャ
いらっしゃいませ。
お姉ちゃんには 絶対に 幸せになってほしかった。
誰が お姉ちゃんに こんなひどいことを!
あんたさえ いなければ…。
こいつらだけは 絶対に許さないよ。
お姉ちゃん。
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