Afrikaans
Akan
Albanian
Amharic
Arabic
Armenian
Azerbaijani
Basque
Belarusian
Bemba
Bengali
Bihari
Bosnian
Breton
Bulgarian
Cambodian
Catalan
Cebuano
Cherokee
Chichewa
Chinese (Simplified)
Chinese (Traditional)
Corsican
Croatian
Czech
Danish
Dutch
English
Esperanto
Estonian
Ewe
Faroese
Filipino
Finnish
French
Frisian
Ga
Galician
Georgian
German
Greek
Guarani
Gujarati
Haitian Creole
Hausa
Hawaiian
Hebrew
Hindi
Hmong
Hungarian
Icelandic
Igbo
Indonesian
Interlingua
Irish
Italian
Japanese
Javanese
Kannada
Kazakh
Kinyarwanda
Kirundi
Kongo
Krio (Sierra Leone)
Kurdish
Kurdish (Soranî)
Kyrgyz
Laothian
Latin
Latvian
Lingala
Lithuanian
Lozi
Luganda
Luo
Luxembourgish
Macedonian
Malagasy
Malay
Malayalam
Maltese
Maori
Marathi
Mauritian Creole
Moldavian
Mongolian
Myanmar (Burmese)
Montenegrin
Nepali
Nigerian Pidgin
Northern Sotho
Norwegian
Norwegian (Nynorsk)
Occitan
Oriya
Oromo
Pashto
Persian
Polish
Portuguese (Brazil)
Portuguese (Portugal)
Punjabi
Quechua
Romanian
Romansh
Runyakitara
Russian
Samoan
Scots Gaelic
Serbian
Serbo-Croatian
Sesotho
Setswana
Seychellois Creole
Shona
Sindhi
Sinhalese
Slovak
Slovenian
Somali
Spanish
Spanish (Latin American)
Sundanese
Swahili
Swedish
Tajik
Tamil
Tatar
Telugu
Thai
Tigrinya
Tonga
Tshiluba
Tumbuka
Turkish
Turkmen
Twi
Uighur
Ukrainian
Urdu
Uzbek
Vietnamese
Welsh
Wolof
Xhosa
Yiddish
Yoruba
Zulu
<世界に羽ばたけ!
頑張れ YOU!>
それでは 来週も 夜6時25分から➡
空港でお会いいたしましょう。
せ~の。 (2人)『Youは何しに日本へ?』。
☎
<私のような勤勉 実直な青年が➡
このような失態に 追い込まれるのであるから➡
この環境の劣悪さは…。
容易に想像がつくであろう>
栗原先生 10分後 また 救急車 入ります!
はい。
あの~ 先生は 内科?
もちろん 名札が変わっても 下げる私は日中と同じ➡
内科医です。 これ 骨折っすよ。
慢性的に医者不足の この町では 内科も外科も耳鼻科も➡
皮膚科も整形外科もその他諸々 夜間は すべて1人の救急医が➡
診療を行います。 はっ?
そんなのでいいわけ…。 当然 いいわけがない。
しかし これが 地方病院の現実です。
さすが 引きの栗原ね。 引き?
次 大村からの救急車。
65歳 男性 突然の激しい胸痛。 到着は 6分後。
胸痛ですか バイタルは?
(救急車のサイレン)
さすが 引きの栗原 ダブルでご到着。
あれ あれ あれ えっ? ちょい ちょい ちょい…!
あっ 先生!
<私 栗原一止は 本庄病院に勤務する➡
5年目の消化器内科医である。
本庄病院は 長野県は 松本平に位置する➡
病床数 300床の基幹病院であり➡
ここは 崩壊寸前の地域医療を 少数の医者が寸暇を奪われ➡
支え続ける 野戦病院 と言っても過言ではない>
胸の音 聞きますね。
ここ痛みますか? う~っ。
急性心筋梗塞の疑いあり 赤ベッドに。
(一同)1 2 3!
< まぁ ちなみに 私の話しぶりが➡
いささか古風であることは ご容赦願いたい。
これは 学童期から敬愛する 夏目漱石先生の影響である>
上田さん 心電図つけますね。
栗原先生 心電図データ取れました。
当たりです 急性心筋梗塞だ。
循環器ドクターに連絡して 栗原先生につないで。
軽症患者は いったん手を放して。 赤ベッド優先。
(一同)はい!
< なんたる失態だ。
今日は 私と細君の 初めての結婚記念日なのである。
しかし ICUの管理で 昨日から病棟に泊まり込み➡
今日は今日とて 入院患者の急変で帰れず➡
そのまま救急外来の当直に なだれ込み…>
☎
《せめて 細君に メールの1つも今日中に…》
栗原先生! 国道19号線で交通事故。
3台追突の4人搬送です。 栗原先生!
救急外来の再開お願いします!
待合室から患者さんが溢れてます。
《これは 環境の罪である》
(2人)栗原先生! 焦らないの。
引きの栗原が当直の夜は いつもの 1.5倍急患が来る。
救急部も覚悟の上でしょ。
外村看護師長 そのジンクスは 私の罪ではない。
しかし 敵軍の本隊が 到着する前に➡
外来で跋扈する 前衛部隊だけでも➡
撃退しておこう。
栗原先生 そういう しゃべり方するから➡
変人だって言われるの。
患者さんの前では気をつけてよね。
お言葉ですが 外村看護師長 敵弾をひたすら浴びる➡
満身創痍の内科医のうわごとに 誰が聞く耳を持ちましょうや。
骨折のヤンキー 途中じゃなかった?
あの~!
御意。
⦅イチさん イチさん…。
あっ… ハル どうして家にいる?
モンブランに行ったのでは?
今日は 私たちの初めての 結婚記念日ですよ イチさん。
ああ モンブランとは ケーキのことか。 私は てっきり山の名前だと。
イチさんは忙しすぎてお気の毒です。
はい あ~ん!
あ~ん!⦆
一止 おい 一止 聞いてんのか?
おい 一止! 聞いてんのか?
聞いてんのかって!
《愛する細君が外科の怪獣に…》
おい おい おい おい!
《無念 夢十夜》
35時間連続勤務じゃそうなるか。
よし 俺が飛びっきりの砂山ブレンドで 目覚まさせてやっから。
< こやつは 信濃大学医学部の 私の同期 砂山次郎である。
単純すぎる図太い神経は 尊敬に値する。
ゆえに 怪獣と呼んでいる>
実はな 一止…。 うん?
相談があんだ。
次郎… 怪獣の相談など 人間の手に余る。
内科病棟の 水無さんって新人ナースだ。
どうして 水無さんは ああもかわいいんだろうか。
私に聞かれても困る。 貴様 水無さんが➡
かわいくないとでも言うのか? とても かわいい。
だろ? だろ そうだろ? なっ?
ああ…。 悪いな。
水無さん 彼氏いるかな?
ううっ… あっ 次郎!
どうして いつも いつも お前のコーヒーは なぜに➡
これほどまでに まずいのだ! 見ろ 粉が飽和を上回り➡
スライムと化している 100倍薄めろ! いるよな~。
水無さん かわいいもんな~。
《外科も過酷らしい》
うんめぇ。
お大事に。
うわっ!
あっ… エッヘヘヘヘ。
栗原先生は 私に いつも驚かれますね。
先生は いつも 気配がしなさすぎます。
そりゃあ すみませんでした。
<内科副部長の内藤先生である。
地縛霊のように薄暗いオーラながら➡
内視鏡の腕は ピカイチ!
まるで 狐につままれた心持ちを 何度も味わった。
ゆえに ひそかに古狐先生と あだ名している>
栗原先生は 顔色が蒼白ですね。
働き始めて まもなく40時間です。
古狐先生こそ 顔が土気色をしていますよ。
あっ そうですか いかんな。
もう3日 いや 4日になるか。 泊まり込んで。
都会の大病院でさえ 患者のたらい回しや➡
受け入れ拒否が 頻発しているのに➡
地方の一病院で こういう理念を掲げているのは➡
もう それだけで立派ですよ。
ですが 実際は…。
やぁ もう 実際は もう 救急車が引きも切らず➡
睡眠不足と低血糖に 追いやられてます。
あれは 患者にとっては ありがたい看板ですけどね➡
もう内実は もう張り子の虎ですよ。
板垣先生が捜しておられましたよ。
ああ 部長先生が。 では 顔を出してきます。
ん~ 板垣先生はね 栗原先生の 指導員のお一人ですよ。
ご本人の前でゆめゆめ 大狸先生はいけませんよ。
はい。 うん。
えっ?
あの 私は寝不足が過ぎており 古ぎ…。
副部長先生に対して 何か 失礼なことを口走っていますか?
いえいえ ご安心を。
あぁ では。
栗原先生。 はい。
コン。
《口走っていたようだ…》
胆管炎でドレナージ留置。
患者は 82歳の高齢で すい臓は萎縮傾向にあり➡
数日間のステント留置なら リスクは低いと判断しました。
理由はそれだけか?
えぇ… 加えて 患者はDICによる…。
<本庄病院内科部長の 板垣先生である。
内視鏡の技術は神業で 信州のゴッドハンドと異名を持つ>
ゆえに 造影は最小限にとどめ➡
敗血症から立ち直った時点で 再検査としました。
合格。
大したもんだね 栗ちゃん。
いい判断といい腕だ 花丸満点。 脱帽しちゃう。
アハハ おおだぬ…。 アハハ。
部長先生は 今日はゴルフで お休みだと聞いていましたが。
ゴルフなんてのは お仕事の一形態でさ➡
経営への根回し お薬屋さんとの密談。
大学医局へ派遣のお願い。
まぁ ちょっとは楽しいけど➡
そんなもんより100倍楽しいことが 病院にはあるでしょう?
ゴルフより100倍楽しいこと?
死にかけてる人間を なんとかして助けることだ。
<万事この調子で真意が見えない。
ゆえに大狸先生と あだ名している>
フフフフフ 今いいこと言っちゃった?
気にしないで 本心だから アハハハハハ。
何 まだいたの? 仕事好き?
反論はあるが 目をつぶろう。
東西のコーヒーは 世界で2番目においしいからな。
あら じゃあ 世界でいちばんおいしいコーヒーは?
聞くまでもない 細君 ハルの入れてくれるコーヒーだ。
ふ~ん…。 あぁ ちょちょちょ…。
ちょっと待って…。 はい。
ハア…。
どうしたのだ? 東西。
あぁ 癒やしの安曇さんなんだけど➡
連絡を取れる身寄りの方 やっぱり1人もいないみたい。
<癒やしの安曇さんとは➡
胆のう癌で入院中の 72歳の女性患者➡
安曇清子さんのことである。
病院スタッフに いつも 温かな笑みをくれることから➡
癒やしの安曇さんと人気が高い>
(東西)それに 田川さんもね すごくつらそうで…。
<田川さんは 末期癌の男性患者である>
田川さんのペインコントロールは 行っている。
しかし モルヒネはすでに 結構な量を使っているのだ。
あっ うん わかってる ごめんね。
たださ できるだけ 楽に過ごさせてあげたい…。
うん…。
栗原先生。 うん なんだ?
田川さんの痛み なんとかならないんですか!?
水無さん…。 「痛い 痛い➡
もう死なせてくれ」って おっしゃるんです。
苦しい 助けてって 私に泣かれるんです。
ごめんね 先生 あの 水無さんは新人で➡
末期の患者さんを受け持つの 初めてなの。
東西主任 私もう限界です…。
でもね 看護師が 気持ちを強く持たないと➡
患者さんは どうなるの?
しっかりしろ 水無!
水無さんは 彼氏はいるのか?
(2人)はぁ? あぁ いや… 外科の怪獣が➡
水無さんは なぜにあれほどまでに かわいいのかと➡
悩んでおるがゆえ…。
《これも 劣悪なる環境の罪である》
うあぁ…。
「結婚記念日 おめでとうございます。
また一年 よろしくおねがいいたします。
栗原榛名」。
私のほうこそ よろしく頼む ハル。
≪ドクトル ドクトル。
その声は 男爵だな。
さよう。 今 学士殿と 美酒を酌み交わしておる。
野菊の間だ。
まいる。
傑作は完成したかね 男爵。
最高傑作だよ ドクトル。
まだ この中にしまってあるがな。
(笑い声)
ニーチェの研究は進んだかね 学士殿。
順調です。 春までに1つ論文を 書き上げるつもりですよ ドクトル。
学長にも ハッパをかけられました。
学士殿 学問に焦りは禁物だぞ。
芸術も またしかり。
ところでドクトル 榛名姫は このたびはいずこへ?
モンブランだ。 モンブラン!
(学士)標高4, 800m ヨーロッパアルプスの最高峰です。
<冗談ではない。
妄想では 更にない。
私の細君の栗原榛名は➡
その世界では有名な 山岳写真家である>
女性の時代です…。
いかん いかん いかん… アチチ。
そういえば ドクトル。 うん?
貴君らが引っ越しをする といううわさを耳にした。
社会の底辺たる この御嶽荘から➡
榛名姫と2人 栄光の日の下に 出て行く所存ではあるまいな。
あぁ 男爵➡
私が信濃大学医学部附属病院の 医局長じきじきから➡
誘いの電話を受けたのは 事実である。
えっ!? 大学病院からスカウトですか?
えぇ もちろん 私の功績からではない。
大学病院も 慢性的な医者不足でな。
ゆえに 臨床5年目の内科医に 目を付け勧誘するのは➡
至極当然の成り行きなのだ。
それで ドクトル どうするつもりだ?
わからん。
いや 私もいい医者にはなりたい。
しかし 何をもって いい医者とするか。
これが 我が脳中に蟠踞する。
誘いはあっても 決め手に欠けますか?
わかる! 私も 我が脳にある傑作を形にすれば➡
億万長者の道筋がある。
学士殿も ニーチェの論文を書き上げれば➡
世界に羽ばたく 哲学者の予定がある。
しかし 我々も決め手に欠けます。
さよう! 三者三様 決め手に欠ける。
我々は五里霧中だ。
堂々と宣すれば なぜか はくがつきますね。
智に働けば 角が立つ。
情に棹させば 流される。
おぉ ドクトル十八番の 『草枕』だ。
意地を通せば 窮屈だ。
とかくに 人の世は住みにくい。
漱石ならびにご一同。
この住みにくい世の中に いざ…。 (3人)乾杯。
(バイブ音)
栗原です ただ今 おかけになった電話番号は➡
現在 使われ…。
田川さんが高熱? あっ すぐに行く。
ソルラクトを時間60ミリ点滴 酸素マスク 救急カートも用意を。
はい。 あぁ…。
田川さん 田川さん大丈夫ですか?
水無さん ご家族に連絡を。 しました。
じいじは?
じいじは?
じいじは? じいじ!
大丈夫だよ ねっ? じいじは?
お願いです 田川さんの痛みを…。
栗原先生 痛みだけでも 取ってあげてください。
モルヒネをこれ以上増やせば 呼吸が止まるかもしれ…。
なんとかしてください!
私 先生みたいに患者さんが死ぬの 慣れてないんです!
いりません それより痛みを…。 田川さんのお孫さんにだ。
< たとえ医者でも➡
患者が亡くなることに 慣れることはない>
< それでも患者は亡くなる>
< それでも医者は やれることを やる>
< なぜなら…>
先生は大変だな。
こんな年寄りの みっともない姿に つきあわされてさ。
背中見ますね。
<痛みが取れた瞬間 田川さんは➡
晴れ晴れと 笑ってくれることがある>
おかげさんで 今日はいい。
< それは…。
それは堂々たる 命の形である>
今日は お熱も下がりましたね。
水無さんと 栗原先生のおかげだよ。
いいえ 田川さんが頑張って病気と 闘ってくれてるからですよ。
手 失礼しますね。
< いつも 泣くか怒るかの水無さんが➡
田川さんの前では 常に 笑顔で通していた。
私も 痛みを取る薬の調整を 試み続けたが➡
満足の行くところには到達せず>
ほ~う 気持ちいい。 アハハハ。
<1週間後>
(アラーム)
<田川さんは 最後の10時間 静かに眠り➡
呼吸を止めた>
<最後は穏やかで 安らかな死に顔であった>
午後9時13分です。
ありがとうございました。
田川さん。
痛かったね…。
ごめんね。
じいじは?
じいじは!
<孫の少年は 怒っていた>
<助けてくれるはずの医者が 助けられなかったのだから>
<偉そうに白衣を着て 病院を歩き回っているくせに➡
痛み一つ満足に 取り除けなかったのだから>
<無為 無策 無能…>
おかえりなさい! イチさん。
そして… ただいまです。
ハル…。
誰か 亡くなったのですか?
イチさん 突然ですが 深宮神社にお参りに行きます。
えっ? ただいまのご挨拶を まだしていません。
夜中ですが 一緒に来てください イチさん。
あっ ちょ…。
モンブランの山頂からは もっとすごい数の星が見えます。
吸い込まれそうな星の海です。
でも私は こうやって イチさんと見る➡
この町の優しい星が 世界で いちばん好きです。
ハル…。
イチさん。
なんたる失態だ! えっ?
欧州最高峰の山から 帰ってきたばかりの細君に➡
こちらが労われるとは。
おかえり ハル!
ただいまです 大好きなイチさん!
(犬の吠え声)
お参りに行きましょうか。 はい。
アハハ。
<病院は どこもかしこも 問答無用の医者不足である。
ゆえに 私のような勤勉 実直な内科医は➡
他の病院へ応援に行くことも 日常茶飯事となる。
このバイトは 体にきついが 家計に優しい。
木曽南病院の当直を終え 現在 朝6時。
諸君 この場合➡
まっすぐ 本庄病院に戻るのを 愚の骨頂という。
朝時雨煙る木曽の路傍にて…>
コーヒーを味わう。 フフ…。
(バイブ音)
はい 栗原です。 下血?
そう 癒やしの 安曇さんが下血したの。
血圧は 95の40。 脈拍は108。
意識レベルは落ちてない。
5分前のラウンドで 御影さんが気づいた。
シーツが汚れるほどの出血。
血算と生化学検査。 輸血の準備だ。
当直は? 外科の砂山か。
しかたない。 私が戻るまで 怪獣の指示を仰げ。
先生は慌てないで。 運転気をつけて。
優しいな。 だが私は妻のある身だぞ 東西。
<安曇さんは2か月前 村の集団検診で➡
胆のう癌が見つかり 外来に来た。
が 腫瘍は本庄病院で 手術するには難しい位置にあり➡
私は 大学病院へ紹介状を書いた。
しかし…>
⦅大学の先生でも 手術は やっぱり➡
無理だそうです。
《大学病院の返事は 事務的な一行のみであった。
すべて説明した… とは どういう意味かととまどった》
あと 半年の命ですって 言われました。
治療法はないから 残りの半年➡
好きなように 生きてください って。
すみません…。
《なぜ あなたが謝るのだ?
安曇さんは 夫を早くに亡くし➡
子どもも親戚もない 72歳の独居老人である。
その人に いきなり 余命は半年➡
好きなことをして生きろとは!》
あの 私 ここに 戻ってきたらだめでしょうか?
治らなくて 本当に申し訳ないです。
わがまま言って 本当に心苦しいです。
でも私…。
あと半年➡
死ぬまで一人でいるなんて…。
次の外来は いつにしましょうか?
希望日 おっしゃってください⦆
これが 今朝 撮ったCTだ。
胆のう癌の横行結腸浸潤。 それで 下血が起きた。
こっちが2か月前のCTか。
たった2か月で 腫瘍が こんなにでかくなるって。
レアケースだ。 思っていたより相当早い。
あと1か月 もたんな。
考える。 何を?
治療法 もうないぞ。 治療法ではない。
安曇さんに どう話すか考えるのだ。
治療だけが 医者の仕事ではない。
んなこと言ったって お前!
(ドアの閉まる音)
すみません。 ベッドを汚してしまって。
(東西)全然 大丈夫です。
病院には ベッドが 売るほどあるんですから。
うちのベッドも 病院から 安く買いましたよ 主任。
あら 何それ御影さん 職権乱用?
ううん もう そんなことないですよ。
じゃ 失礼します。 失礼します。
《怪獣には 大口をたたいたが➡
最初の言葉が出てこない》
癌は だいぶ 大きいですか? 先生。
《不意打ちである》
安曇さん…。
私は 身寄りがありませんから➡
自分の余命を 知っておかなきゃいけません。
今朝の下血の原因ですが…。
《私は 状況を詳しく説明した》
つまり 大きくなっています。
《しかし 余命が 1か月であることだけは伏せた》
出血には輸血等で 経過を見ていこうと思います。
私 死ぬまでここに 置いてもらえるんでしょうか?
はい。
あ~ よかった。
本当に ホッとしました。
《なぜ この人は きつい局面で いつも➡
笑ってくれるのであろう》
♬~
ああ 気が利くな 東西。
栗原先生 私➡
田川さんのとき 取り乱してしまって➡
本当にすみませんでした!
水無さん なんの話だ?
あとで 東西主任から聞きました。
看護師は 勤務が終わったら 家に帰って眠れるけど➡
栗原先生は 田川さんの ペインコントロールで➡
最後の3日間は 泊り込みだったのよ って。
私 栗原先生に 八つ当たりしてたんだって➡
冷静になってわかって 本当に恥ずかしいです。
すみませんでした!
謝罪は まったく必要ないし➡
長時間勤務が立派だという 誤解は更に困る。
田川さんは 君がいると➡
例え 薬が効かなくても 安心して眠っておられた。
君だけが果たせた仕事である。
要するに 君は 大したものだということだ。
感謝する。
東西主任が言ってました。 ん?
栗原先生は 口が悪くて 身だしなみも適当で➡
変なしゃべり方で 何言ってるか➡
意味不明のときがあるけど…。 ちょっと待て。
患者さんのことは 真剣に考えてるって。
水無さんは 外科の怪獣を知っておるか?
怪獣ですか? 悔やまれることに私の友だ。
名前を砂山次郎という。
あっ はい。
いい先生だと思います。
本心か?
あっ こないだ東西主任と一緒に➡
砂山先生に焼き肉を ごちそうしていただきました。
私を励ます会だって。 ずうずうしくも怪獣がか?
あっ いえ 主任が。 主任が砂山先生を誘われて。
東西が砂山まで誘ったのだな。
そして みずからも 焼き肉をごちそうに…。
はぁ~!
おそるべし 東西。
(くしゃみ)
すみません。
ん?
ビッグニュースだ ドクトル。
今朝 学士殿の野菊の間から➡
絶世の美女が忍び出るのを 目撃した。
察するに ゆうべは 2人っきりで過ごしていたのだな。
今日 学士殿は そそくさと外出。
こよいは 美女の部屋の番か。
男爵 たとえそうであっても 冷やかすのは よせ。
ドクトル 貴族たるもの そのあたりは心得ておる。
もしかしたら 学士様は ここを引き払うおつもりかも。
榛名姫 今 なんておっしゃった?
昨日 家財道具が出されていました。
ニーチェの本もあったんです イチさん。
学士殿が ニーチェを捨てたのか?
(男爵)ドクトル 大変だ! 学士殿が!
起きてくれ! ドクトル!
学士殿! 学士殿 学士殿!
ドクトル おい! 脈が弱い。 体も冷たい。
ハル 救急車を。 本庄病院へ運ぶ。 はい。
男爵 温めろ。
おい しっかりしろ!
(男爵)目を開けろよ! おい!
大丈夫か? 学士殿! お~い!
睡眠導入剤と精神安定剤 200錠は飲んだね。
200錠…。
< この日の当直は 循環器内科のベテラン医師。
泰然自若を絵に描いたような 人柄から➡
自若先生と あだ名している。
口癖は 問題ない>
バイタル 問題ない。
御仁の心臓。
問題ない。
しかし 御仁が今後も死を望むなら➡
この拍動は ただ 血液を送り出す機械運動だ。
遺書のたぐいは?
ありませんでした。
<40時間後。
学士殿の意識が回復した>
学士殿。
よかった。 気がついたか。
なんだ… 生きてましたか。
馬鹿野郎!
なんてこと言うんだよ。
なんで死のうとしたんだよ? 男爵。
それが言えたら…。
死にませんよ。
お前 ふざけんな! 男爵。
ドクトル。
かまわん。 言いたくなければ言わぬがよい。
貴君は生き返った。 そこに意義がある。
はい 脈拍も血圧も 安定してきましたよ 橘さん。
橘。
名字で呼ばれたのは8年ぶりです。
男爵は まだ怒っていますか?
男爵?
ハルの話では あれから 御嶽荘には戻っていないそうだ。
ドクトルは 本当に何も聞かないんですね。
言いたくなったら いつでも聞く。
私は いつでも病院にいるぞ。
ホントにそうなの。 栗原先生は病院が大好きだから。
東西 その文脈は若干違う。
(ノック)
どちら様ですか?
このたびは 大変ご迷惑をおかけしました。
橘仙介の姉の 楓と申します。
姉?
あっ お姉さん どうぞこちらに。
下宿に行ったら ハルさんっていう方が➡
お部屋におられたの。
あ… では ハルから おおむね事情は…。
伺いました。 栗原先生ですね?
弟を助けてくださって 本当にありがとうございました。
いえいえ 学士殿の友人として 当たり前のことをしたまでです。
学士? わかったでしょ 姉さん。
これが今の僕の名前なんです。
学士殿なんです!
《私にも事情はわからない》
肩の力抜いて 一緒に出雲に帰ろう?
ああ お二人は 島根のご出身ですか?
はい。 出雲の片田舎です。
仙介は幼い頃から➡
神童と呼ばれるほど頭がよくって。
8年前 大学受験で上京したんです。
でも…。
田舎育ちの僕に 大東京は 圧倒的に外国でしたよ ドクトル。
フッ…。
飲まれたんです。
国立も私立も全滅で➡
高額な受験費用と旅費を 出してくれた母に➡
落ちたなんて とても言えず…。
合格しましたと ウソをつき…。
仕送りをもらい 日本中を放浪したあげく➡
御嶽荘に流れ着き 気がつけば…。
8年。 長っ。
母君は そのことを…。 (楓)いえ。
母は仙介のウソを ずっと信じてました。
今は東京の大学院にいるって。
そのうえ 僕は 御嶽荘でも ウソをつきました。
最低の人間です。
どのようなウソであるか?
ニーチェですよ ドクトル。
博士課程の論文です。
信濃大学大学院 文学部 哲学科の 学士です。
学位なんか持ってません。 僕は高卒です!
大学なんて 行ったことすらないんです!
そんなことなら 最初から知っていた。
えっ?
私は 信濃大学の医学部の出身なのだ。
信濃大学に人文学部はあるが 文学部はない。
だが… それが なんだ?
貴君の探究心は本物だ。 貴君の博識は事実である。
ニーチェを語れば 貴君の弁理と博識は 他を圧して 余りある。
高卒? 大卒?
そのような肩書きどもが 反ばくできる余地すら皆無!
学問を行うのに必要なものは なんだ?
学歴ではない。 気概なのだ!
体裁ではない。 熱意なのだ!
貴君のあの野菊の間こそ➡
まぎれもない 大学探究心のたたら場だ!
私も男爵もハルも だまされてはおらんのに➡
何を恥じ入る必要がある? ない! ない! 三度 言う。 ない!
ドクトル…。
ハァ…。
経過良好につき 明日 退院でいいだろう。
8年にわたる二日酔いも これで さめた。
そうだな? 学士殿。
仙介。
はい…。
はい。
感謝します。
ならば 胸を張って 出雲の母君に会ってきたまえ。
8年の親不孝を告白し…。 あ…。
母君に許しを乞えばよい。 (楓)あの 先生…。
たとえ 許されることかなわずとも 貴君のその行動こそが➡
貴君の新たな力になると 私は信じ…。
ん?
あの… 先生 本当に ありがとうございます。
でも 母は…。 先日 亡くなったのです。
《今少し考えれば 推察は容易であった。
母君の他界で 学士殿は謝罪の機会を逸し➡
追い詰められた学士殿は 発作的に死のうとした。
それを私は…》
《一番の大阿呆は この私だ》
先生のお説教 悪くなかったわよ。 言うな。
古風な言い回しが新鮮で 私は勇気をもらったわ。
お前に与えても しかたがない。 学士さんも励まされたと思う。
まぁ ちょっと的外れだったけど 先生の熱い気持ちは伝わってた。
元気出して。
元気出してよ! 相談があるの。
断る。
癒やしの安曇さんのことなの。 聞こう。
先生は外来に入ってて 会ったことないと思うんだけど➡
ここんところ 毎週金曜日のお昼にね➡
安曇さんにお見舞い客があるの。 安曇さんに?
うん とってもいい感じの紳士。
グレーのジャケットが おしゃれで 私たち グレーの紳士って呼んでるの。
ほう…。
その紳士がね 安曇さんが輸血したって聞いて➡
主治医の先生に 状態を伺いたいって。 どうする?
ハァ… 家族でも親戚でもない人に➡
病状を伝えることはできないぞ 東西。 病院には守秘義務がある。
よね…。
信頼できそうな…。 よさげな紳士ですけど。
しかしだ。
義務を守りすぎて 患者を孤立させては意味がない。
その辺りの裁量は現場の医者に 任せられてしかるべきである。
あの… どういう意味でしょう? 先輩。
う~ん つまるところ… 主任?
だから グレーの紳士に➡
インフォームドコンセントをするってことで いい?
同じことを 二度 言わせるな。
余命1か月…。
余命以外は すべて 安曇さんにもお話ししました。
失礼ですが 安曇さんとは どういうご関係でしょうか?
あぁ…。
もう 50年前です。
安曇さんのご主人に 救われたことがあるんです。
命より大切なものを。
安曇さん そろそろ 失礼いたしますね。
あぁ…。
また ここですか。 山がお好きなんですね。
えぇ。 フフフフ…。
私は穂高の山奥の 小さな村に生まれまして➡
そこで夫と出会って 二十歳そこそこで結婚をして…。
フフフフ…。
貧しい村でした。
あるとき うちの米蔵に泥棒が入って。
(安曇)その子は同じ村の子で➡
病気で寝ついている父親と 2人の妹を抱えていたんです。
「これは わしが 勝手にやったことだ。
おわびに ここで腹を切る。
どうか 家族には ないしょに… いや!
村には ないしょにお願いします」。
そのとき 「どうした? 安曇さん どうした?」って➡
物音を聞きつけた村の若い衆が 駆けつけてきました。
「なんもねえ! なんもねえから 帰れ!」。
そして 夫は また米蔵に戻ってきて…。
「持ってけ。 1俵あれば 冬は越せる。
お前は ここで一度 死んだ。
一度 死ねば 飢えも寒さも もう怖くはないはずだ。
そういう覚悟で家族を守れ」。
(安曇)何度も何度も お礼とおわびを繰り返す➡
その子を見ているうちに➡
私 とってもかわいそうになって。
その後 その子は 一生懸命勉強して➡
東京の大学に入って 事業を起こして➡
村いちばんの出世頭になりました。
おしまい。
ありがとう 安曇さん。
えっ どうして 栗原先生が お礼を言うんですか?
言いたいから言うんです。
ありがとう。
< そのとき私は➡
大きく励まされた 心持ちがしたのである。
あのグレーの紳士と同じように>
<友との別れが迫っていた>
明朝 姉が迎えに来ます。
御嶽荘の最後の夜ですね。
男爵は やっぱり 顔を見せてくれませんね。
男爵様も寂しいんです きっと。
はい。 あっ ありがとうございます。
私のお古だ。 博識の学士殿に くれてやる本がなくてな。
島崎藤村 『夜明け前』。
木曽路はすべて山の中である。
あるところは 岨伝いに行く崖の道であり。
あるところは 数十間の深さに臨む➡
木曽川の岸であり。
明けない夜はない。 やまない雨はない。
これが今生の別れではない。
そういうことだ 学士殿。
私たち またいつでも会えます。
男爵様とも会えます。
ええ 榛名姫 夜明け前が いちばん暗いといいますから。
こよいは 大いにやりますか。
乾杯! 乾杯! 乾杯!
汝の幸福は そもいかに。 (2人)よっ!
吾輩は猫である。 名前はまだない。
なっ ハハ~!
吾輩を見て ときどき あんなになったら➡
気楽でよかろうなどと言うが➡
気楽でよければ…。
山道を登りながら こう考えた。
どう考えた。 智に働けば角が立つ。
情に棹させば 流される。
意地を通せば 窮屈だ。
とかくに人の世は住みにくい。
住みにくい世の中に… 乾杯!
木曽路はすべて山の中である。
あるところは岨伝いに行く 崖の道であり➡
あるところは…。
明けない夜はない。
やまない雨はない。
これが今生の別れではない。
乾杯。
さらばとは言わぬ。
今は…。
水… あ~。
ん?
男爵。
気楽でよければ なるがよい。
(一止/学士)そんなに こせこせしてくれと➡
誰も頼んだわけでもなかろう。
(笑い声)
さぁさぁ もう一献。
(学士)親譲りの無鉄砲で 子供の時から➡
損ばかりしている。
こうですか? 似てます?
ドクトル これは?
男爵…。
榛名姫!
ああ… おはよう。
間に合ったようですね 男爵様。
ああ これも榛名姫の 援軍の賜物ですな。
門出には 桜が似合うゆえな。
冬の桜だ 風流だ。
男爵… 病院で 私は あなたにひどいことを…。
これは敗北ではない。
門出だ 学士殿!
今朝の一歩は 前への一歩だ。
前進だ。
これは その花道だ。
絶対に忘れるな。
男爵に賛同する。
忘れるな 学士殿。
私は御嶽荘に来て 本当に…。
(車が止まる音)
姉君が迎えに来られたようだな。
私は ここ御嶽荘で 皆さんに出会えて…。
万歳をします。 えっ? あの…。
万歳 万歳…。
万歳 万歳…。 (2人)万歳 万歳…。
(3人)万歳 万歳…。
< こんな夢を見た。
運慶が 弟子と 仁王像を刻んでいる。
(足利)ありゃな 木に仁王様を 彫ってるんじゃない。
木に埋まってる仁王様を のみで掘り出しとるんだよ。
(平)土に埋まった石っころを 掘り出すみたいにかい?
そうさ 石ころを 掘り出すみたいにさ。
< これは 子どもの頃に読んだ 漱石の短編集➡
『夢十夜』の一つである。
医者の仕事も これに似ているかもしれない。
命は 人知の及ばぬところで すでに寿命が決まっている。
もし その命が 土に埋もれているならば➡
掘り出し 風を送り 光をあてて➡
よりよい最期の時をつくり出す。
医者とは そういう仕事なのでは…>
< あれは… なぜだ?
なぜ 外科の怪獣が運慶なのだ?
水無さん! いかぬ! それは運慶ではない!
怪獣だ!>
《このせいで 妙な夢を見た》
これは 部長先生の ご配慮でしょうか?
ええ? 栗ちゃん 大学病院 行っちゃうの?
《たぬき芝居も たいがいにしてほしい》
大学病院 消化器内科 見学のご案内か。
行けば?
行けと言われれば行きます。 行くなと言われれば行きません。
しかし 本人に何の了解もなく こういうことを➡
勝手にされるのは どうかと思います。
私が手配しました。 わっ!
うひょひょひょ…。
栗原先生 いっつも私に驚く。 副部長先生 いつからそこに?
最初っから。 それは ウソです。
まぁまぁまぁ。
栗原先生は 信濃大学医学部卒業後➡
大学医局には入られず 当院に就職されました。
そうだね 栗ちゃん うちの純粋培養だよね。
さぁ それが医者としてね 果たして プラスかマイナスか?
つまり 副部長先生は 私に大学病院に行けと?
まったく。 いや そういうことではありません。
医局は ひどいところですよ。
肥大化した権威主義の オバケ。
しかしだ。 医局のおかげで➡
医療は 日々進歩し へき地に医者も派遣できる。
助かる患者がいるんだよ。 栗ちゃん。
どうしろと?
なのでね 2日間 休みが取れるようにしました。
え? 栗原先生➡
大学病院 見学に行ってきなさい。
《大狸と古狐が相手では➡
しょせん人間に勝ち目はない》
検討します。
失礼します。
(ドアの開閉音)
内藤は ここで働いて30年か?
うん。 後悔してるか? まったく。
そういうことではありません。 板垣部長先生。
ハッハッハッハッ…。
お前は ホント古狐だな。
ヘヘヘ… 私が古狐なら 板垣先生は 大狸だそうですよ。
俺が? 大狸?
私の命名ではありませんが うひょひょひょ…。
おお 立派。 ハハハハ!
(ため息)
先生方は イチさんに 期待されてるんですね。
面倒な。 時にハル…。
はい イチさん。 文明堂のカステラというのは➡
聞いたことがあるか? カステラですか?
ああ 下血の続いてる 癒やしの安曇さんなのだがな➡
今は 食事を止めているのだが 下血量が減ってきたら➡
少しでも口から食べませんかと 提案したのだ。
⦅何か食べられるとしたら➡
文明堂のカステラ。
カステラですか?
フフ… 30年以上前のことです。
一度だけ 東京に 旅行したことがあったんです。
そのときの 思い出の味⦆
経口摂取が いつできるかわからんが➡
信州で 文明堂のカステラは 手に入るだろうか?
探してみます。
はい イチさん できました。
あぁ これだ。
この香りだ。
ハルのいれるコーヒーが 世界で いちばんおいしい。
お昼に また 新しい輸血しますね 安曇さん。
先生…。
もう少しだけ ベッドで安静 お願いします。
下血が止まれば 文明堂のカステラですから。
私のような者にもったいないです。
カステラは それほど 高価なものではありません。
輸血です。
他に輸血がいる人に 回してあげてください。
延命治療は もういいんですよ。
先生のお名前が珍しくて 書いてみたんです。
一止って。
そしたら 意味がわかったんです。
一に止まるで 正しいという字になるんですね。
正解です。
筋金入りの変わり者の父が➡
遊び心で付けた名前だそうです。
素直に 正でいいのに。
でも お父さんのお気持ち わかる気がします。
父の気持ちですか?
人って生きていると➡
前へ前へと 気持ちばっかりがせいて➡
大切なことを どんどん 置き去りにしてしまうでしょう?
だけど 本当に大切なもの➡
正しいことというのは➡
いちばん初めの場所にある。
だから 一に止まるで 一止。
すてきなお名前です。
ねぇ 御影さん知ってた?
明日は 癒やしの安曇さんの 73歳のお誕生日なのよ。
だからといって 状況が変わるわけではない。
はい 主任。 お誕生日に何か 願い事ありますかって聞いたら➡
もう一度 山が見たいです っておっしゃって。
御影さん 外出許可は出せん。 うかつに動かし➡
もし大量下血でもすれば 致命的だ。
いや 別に先生に 相談してるわけじゃないわ。
ああ 安曇さんの気持ち わかるわね。
もう5日も ベット上安静だもの。
あのな 東西。
そういえば 安曇さんが 今いる病室の窓からは➡
山が… 山が全然見えません!
主任! 水無さん 300号室は スタッフステーションに極めて近い。
何かあれば すぐに駆けつけられる部屋だ。
そうなのよね。 グレーの紳士も➡
できれば外に 連れて行ってあげたいって➡
おっしゃってたのよね。 私の話を聞いているのか 東西?
安曇さんは 穂高連峰に囲まれて➡
ず~っと暮らしてこられた そうですよ 主任。
グレーの紳士も 山は 安曇さんの人生そのものだって➡
言っておられました 御影先輩。 ほほほほ➡
君たちは実に周到であるな。 担当医に上申する前に➡
近親者の意向は確認済み という段取りか。
あら先生 気にしないで こっちの話。
あっ でもね 御影さん 問題なのは➡
下血のリスク管理なのよ。 はい 主任。
私たち看護師も 時間なら やりくりして➡
付き添いはできるんですが。 ねっ 水無さん。
はい 御影先輩。 でも 下血のリスク管理だけは…。
主治医の協力なしには不可能よね。
(ため息)
さてと ちょっと休憩して➡
世界で2番目においしいコーヒー いれてあげよっか 先生。
で 私は どうすればいいのだ?
ゆっくりよ。 御影さん ゆっくり ゆっくり。
はい。 お待たせしました。 御影先輩 次 私が。
じゃあ これお願い。 はい。
じゃあ足 いきますね。
安曇さん 楽しんできてくださいね。
ありがとう。 あっ お帽子。
あっ お帽子。
これですね。
ゆっくり ゆっくり。 こんにちは。
ゆっくり ゆっくり。
あっ 栗原先生。 どうやら間に合ったな。
先生 病棟を走っちゃだめ。 目をつぶれ 東西。
よかったです。 でも胃カメラは?
副部長先生が 代打を申し出てくれた。
えっ しゃべっちゃったの? いやいや。
しかし 古狐先生のことだ。 我々の人目を忍ぶ集会を➡
どこかで 見ておられたのかもしれん。
安曇さん 帽子が とてもよく似合っています。
35年前に 夫がプレゼントしてくれた帽子なの。
お墓まで持って行きますから➡
私が死んだときには➡
きっと 頭にかぶせてくださいね。
承知しました。
わぁ~。
あ~ あ~。
会えた…。
また お山に会えた。
♬~
先生 ずっと私は➡
不幸な身の上だと 思ってきました。
42歳で夫が脳溢血で亡くなって それから30年。
寂しい 寂しいと思いながら ここまで生きてきて…。
やっと 寂しさにも慣れたかしらと 思ったら➡
こんな大病をして…。
孤独で… とっても孤独で。
でも 最後の最後に➡
こんな幸せな時間が 待ってたなんて…。
あぁ… ホントに➡
人生というものは➡
わからないものですね。
そうだ 忘れるところでした。
はい 安曇さん。
文明堂の…。 カステラです。
昨日 細君が 手に入れてくれました。
こんなに…。
これが いちばん小さいサイズだそうですよ。
違うんです 先生。
生きているうちに こんなに幸せになっては➡
向こうで 夫に合わせる顔が ありません。
皆様に 何てお礼言っていいか。
お礼など。
何もおっしゃらないでください。
そして 今の時間を少しでも 楽しく 幸せに過ごしてください。
私たちのほうこそ お礼を言います。
安曇さんの笑顔で 私たち いっつも➡
元気もらってるんですから。
東西さん…。
ありがとう 安曇さん。
♬~
<2日後 安曇さんが急変した>
(アラーム音)
安曇さん 安曇さん 聞こえますか?
弱い…。
頻脈 大量下血による 出血性ショックだ。
先生…。 点滴全開 昇圧剤の準備を。
はい。
安曇さん! 先生…。
<無数の選択肢が 私の脳裏を駆け巡った。
昇圧剤を使えば 1時間くらいは 血圧が上がるだろう。
人工呼吸器で呼吸を確保し➡
大量に輸血を行えば あるいは持ち直すかも…>
《安曇:このままで…》
先生 昇圧剤 準備できました。
人工呼吸器は? 心マは?
DC準備する?
<現代の驚異的な技術を用いて すべての医療を行えば➡
止まりかけた心臓も 一時的には動くだろう。
心臓マッサージで ろっ骨を折り➡
酸素投与で呼吸を維持し➡
無数のチューブにつないで 大量の薬剤を投与する。
それらを行えば あと2日くらい➡
安曇さんの心臓は 動くかもしれない。
医者の権限のすさまじさは➡
これらの事柄が ただちに実行できることにある>
先生 指示をください! 御影さん…。
安曇さん。
< これが 安曇さんの命の形なのだ。
ただ心臓を動かすためだけに これを打ち崩す無礼が➡
医者に許されるのか>
SpO2測定不能 脈拍20台。
このままで。
やっと ご主人に会えるんだ。
御影さん グレーの紳士に連絡を。
はい。
東西 私たちで見守る。
はい。
(アラーム音)
12月15日。
午後9時15分。
はい。
安曇さん。
お疲れさまでした。
まだ 温かい。
《安曇さんは これでよかっただろうか。
もうしばらく 生きたかっただろうか》
《ベッド上安静の危険な状態で➡
屋上に連れて行くなど 愚かな選択だった。
結腸からの出血なのに カステラを買ってくるなど➡
最悪の行為だ。
病室に閉じ込め 絶対安静を守らせていたら➡
経口摂取は一切許さず 絶飲食を続けていたら➡
あと 1週間くらいは 延ばせたかもしれない》
⦅35年前に 夫が プレゼントしてくれた帽子なの。
私が死んだときには きっと 頭にかぶせてくださいね⦆
《拝啓 私の大切な…》
「栗原一止大先生様」。
「先生が この手紙を読んで いらっしゃるということは➡
私は もう夫のもとへ 旅立った後なのでしょうね。
そして そのときには 私に➡
この帽子をかぶせてくださる という約束を➡
忘れずにいてくださった ということですね。
重ね重ね 感謝に堪えません。
先生は いつも 何か➡
考え込んでいらっしゃる ご様子でしたね。
私には 相談に乗ってあげられる 器量も時間もありませんでした。
でも 1つだけ 言えることがあるとしたら➡
病むということは とても孤独なことです。
病の人にとって 最もつらいことは➡
孤独であるということです。
先生は その孤独を私から 取り除いてくださいました。
たとえ 病気が治らなくても➡
生きていることが 楽しいと思えることが➡
まだまだ たくさんあると 教えてくださいました。
先生は 私に最高の治療を してくださったのです。
もし万が一 先生がこの先➡
何かにつまずいて➡
自信をなくしてしまう ようなことが あったら➡
私はいつでも 声を大にして言います。
私は 先生のおかげで➡
こんなに楽しい時間を 過ごせましたと。
夫が亡くなってからの30年間で➡
いちばん楽しい時間でしたと。
もっともっと 感謝の気持ちを お伝えしたいのですが➡
残念 眠くなってきました。
どうか ご自愛のほどを。
天国より 目いっぱいの」…。
《目いっぱいの感謝を込めて 安曇清子》
(泣き声)
ハル 私だ。
悪いが 少し飲んでから帰る。
患者さんが亡くなったのですか?
イチさん。
今どこにいますか? もうお店ですか?
私も行きます。
待っててください 今出ます。
安曇さんが そんなお手紙を…。
本当に優しい方ですね。
治療のできない患者をみとるのは 大学病院の仕事ではない。
しかし 私は…。
そんな患者に カステラを買っていくのは➡
嫌いではない。
一に止まると書いて 正しい。
ならば先を急がず 本庄病院にいようと思う。
はい。
お前はバカだ。
部長先生と副部長先生には➡
いろいろと手配をいただいたのに すみません。
謝るには及びませんよ 私が勝手にやったことです。
けどな 大学病院だよ?
これ蹴っちゃったら あとは ひたすらお年寄りや➡
末期癌患者と過ごすんだよ。
医療は日進月歩だってのに こんな片田舎の鬼忙しい病院で。
鬼…。 立ち止まったままで➡
医者として 本当にいいの?
お言葉を返すようですが 戸惑い 苦悩したときにこそ➡
立ち止まらねばならぬ。
はい? はい?
立ち止まり 己が足の踏むその土に➡
己の土を精いっぱい打ち込め。
さすれば 大切なものどもが顔を出す。
簡単に言えば そういう心境なので 失礼します。
簡単に言って あれか?
狐につままれた気分ですか?
なんだよ内藤 うれしそうじゃねえか。
はい 私はうれしいです。
栗原くんのような 若くて優秀な医者が➡
医療の底辺のような この病院を 肯定してくれたんですから。
まあな あっ そうそう。
うちの内科医募集に ついに 1名応募が。
えっ 24時間 365日対応の 鬼忙しい病院にですか?
これ。
血液内科医師 進藤辰也。
< このあと私 栗原一止は➡
運命的な再会を果たすことになる。
それは 私たち医療に 携わる者たちのありようを➡
根底から揺さぶる事態にも 発展するのだが…>
<諸君 今はまず➡
回診である>
Can't find what you're looking for?
Get subtitles in any language from opensubtitles.com, and translate them here.