All language subtitles for (2021.03.06)_死との約束

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Original subtitles

♬~

♬~

(勝呂)あ~。

≪分からないのか?➡

こうなったら もう 殺すしかないんだ。➡

腹をくくるんだ。➡

他に手はない。 ≪本気とは思えないわ。

≪冗談で こんなことが言えるか!?➡

いいか? 俺たちがやらないと あいつは 永遠に生き続けるんだ。

≪やるしかないんだ。

♬~

♬~

(男性)すみません。

(ボーイ)はい。

≪熊野古道は いかがですか?

気に入りましたかな?

ご一緒してよいですか? (沙羅)あっ どうぞ。

不思議なところですね。

ここにいると 神様が身近に感じます。

この世に 神がいるかどうか➡

私の知るところでは ありませんが➡

少なからず 熊野古道には いるような気がします。

(指を鳴らす音)

(沙羅)勝呂 武尊さんですよね? はい。

新聞で 何度か お顔は拝見しています。

探偵さん。

名探偵です。 沙羅と申します。

ご職業は お医者さまですね? どうして お分かりに?

耳の後ろに 聴診器の痕が。 えっ?

冗談です。 表紙が目に入りました。

(沙羅)あっ。

休暇ですか? ええ。 ちょっと息抜きに。

よい考えです。

私も 1つ 難事件を解決するたびに➡

こちらで 骨を休めています。 お疲れですか?

まあ 生きていると 色々ありますから。

(指を鳴らす音)

いつものセットを。 はい。 かしこまりました。

ゆで卵は 大きさを揃えて ゆで時間は 8分きっかりで。

承知しております。

(沙羅)お伺いしてもいいですか? (ボーイ)はい。

ここは 天狗村ですよね? (ボーイ)ええ。

天狗が出るんですか? (ボーイ)天狗村の由来は➡

昔 天の宮と書いて 天宮村と 呼ばれておりましたのが➡

いつしか 天狗村に転じたと➡

いわれております。 (沙羅)そうなんですか。

(ボーイ) ただし 霊峰といわれる山には➡

必ず 天狗が出ると いわれております。➡

熊野でも 以前から 天狗の目撃談が 後を絶ちません。

「人にて 人にあらず」 「鳥にて 鳥にあらず」

「犬にて 犬にあらず」 『平家物語』でございますね。

ひょっとしたら 会えるかもしれませんよ。

(ボーイ)おはようございます。

(本堂夫人)あそこにしましょう。

(主水)誰かいるんじゃないかな? お母さん。

片付けさせなさい。 (主水)いやいや…。

片付けさせなさい!

(鏡子)すみません あそこのテーブル よろしいですか?

(ボーイ)申し訳ございません。 すぐに 片付けます。

メニューを お願いします。 (ボーイ)かしこまりました。

(鏡子)兄さん。

さてと 熊野古道と一口に…。 (本堂夫人)まだ早い。

注文が先だろ?

せっかち! せっかち! あ~! あ~ あ~!

すみません お母さん。

(ボーイ)お待たせいたしました。 メニューでございます。

コーヒーを ブラックで。 (ボーイ)かしこまりました。

この子たちには 何もいらないわ。 (ボーイ)承知いたしました。

(ボーイ)失礼いたします。

地図!

一口に 熊野古道といっても➡

かなり広い地域に お宮が分散しているみたいで➡

ここから 一番近いのは 熊野本宮大社。➡

熊野三山の 1つです。 (本堂夫人)あとの 2つは?

(主水)えっと… 熊野速玉大社が ここで➡

熊野那智大社が ここ。 (鏡子)結構 ばらばらね。

でも どうせ来たんだから 全部 回りたいですよね。

全部 回らないと 御利益はないの?

どうなの? 1つで 十分じゃないの?

1つで 十分だね? (鏡子)うん。 ええ。

(凪子)すみません 遅くなって。

何やってんのよ!? あんたらは いつだって ちんたら ちんたら。

(凪子)すみません。

(沙羅)本堂さんの ご一家です。➡

皆さんで 日本中を回ってるんですって。

お知り合いですか?

実は 下の息子さんと 昨日 偶然 お会いして。

なかなか 個性的な 母親のようですね。

まるで 独裁者だ。

私に言わせれば 子供たちにも 問題があると思うんです。

よしましょう。 私たちには 関係のないこと。

(主水)では これから 取りあえず 本宮大社に向かいましょう。

(凪子)平安時代は 歴代天皇が 必ず お参りに来ていたっていう➡

由緒正しいところらしいですよ。

(本堂夫人)フン。 本当かどうか 分かりゃしない。

楽しみね。 (本堂夫人)どこが?

何? (主水)たばこを買ってきます。

昨日は 失礼しました。 (沙羅)いえ。

今日は 皆さんで お出掛けですか?

ええ。 これから 母を連れて 本宮大社に。

実は 私も行こうと 思ってたんです。

そうなんですか? (沙羅)ええ。

あっ 勝呂さんも いかがですか?

えっ? あっ… お付き合いしましょう。

先生は いつまで いらっしゃるんですか?

≪(本堂夫人)主水? 主水?

母が呼んでいるので また ゆっくり。

何だか 情けない。

あの青年は あなたに 夢中のようですよ。

やめてください。

ゆうべは 私の方から 話し掛けたんです。

ロビーで ぽつんと 立ってらしたんで。

≪(沙羅)《こんばんは。 観光ですか?》

(主水)《えっ?》

(沙羅)そうしたら あの方 首筋まで真っ赤になってしまって。

(沙羅)《すみません》

(沙羅)誤解しないでくださいね 勝呂さん。 私 旅先では➡

なるべく 知らない人に 話し掛けるようにしているんです。

男女問わず。

それも 旅の楽しさだと思うから。 はい。

《沙羅 絹子と申します》 《本堂 主水です》

《すみません》

(沙羅)きっと 普段から ずっと おさえつけられているんです。

あの母親に。

見られていますよ。

意地悪そうな目。

母親は だいたい そういう目をするものです。

息子が 若くて 魅力的な女性に 心 引かれたときは。

(十文字)ずいぶん 捜しましたよ。 (凪子)十文字さん。

(十文字)やはり こちらに お泊まりでしたか?

この かいわいじゃ 一番ですからね。

お体の調子は いかがです?

これ以上 悪くなりようが ないです。

速玉大社には 行かれました? 再建したばかりで 実に美しい。

(鏡子)行ってみたいわ。 (十文字)そういう私も➡

まだ 見てないんですけどね➡

本宮大社から 川を 舟で下るんです。

よかったら 一緒にどうです?

舟なんて 冗談じゃありませんよ。

みんなは どうなの?

黙ってないで 答えなさい。

僕は 遠慮しておこう。 (鏡子)そうね。 舟は ちょっと…。

あんた? (凪子)主人に従います。

どうなんだい? 嫁は 行きたいらしいけど。

一言も言ってません。

(礼一郎)舟は やめておこう。 危ないし。

ということです。 (本堂夫人)聞いてましたか?

かしこまりました。 舟は なしということで。

じゃあ 出掛けましょうか。 (主水・鏡子)はい。

遅れていこう。

同じ車に乗ると 息が詰まる。

あなた 言ってきて。 (礼一郎)いや 任せる。

カフィー。

礼一郎は? (鏡子)何だか 仕事の電話を➡

しなくちゃいけないので 遅れてくるそうです。

仕事? (鏡子)ええ。

そんなもの あるわけないじゃない。

絢奈。 あなたは 疲れているから 今日は 部屋にいなさい。

(絢奈)私 疲れてなんかいません。 (本堂夫人)いいえ。

あなたは 疲れています。

(鏡子)お母さまが おっしゃってるんだから➡

そうしよう。 私が部屋まで送ってあげる。

(本堂夫人)1人で行かせなさい。

ありがとう お姉さん。

私 1人で行きます。 (本堂夫人)参りましょう。

(かじる音) あっ!

≪(本堂夫人)遅い!➡

まったく あんたたちは もう ちんたら ちんたら…。

すみません。 (十文字)はい?

(十文字)ええ。 僕は 本堂一家とは 古い付き合いでしてね➡

ご主人が まだ 生きてらっしゃったころから➡

お世話になってます。 特に 凪子さんとは➡

彼女が結婚する前から ご縁がありましてね。

変わったご家族ですね? (十文字)そうなんです。

非常に興味があります。

(十文字)本堂夫人の旦那さんは 彼女とは 二度目の結婚でした。➡

礼一郎君と 主水君と 鏡子さんは 先妻の子供。➡

夫人とは 血がつながっていない。➡

一番下の 絢奈ちゃんだけが 自分の娘。➡

亡くなった 本堂氏は 相当なお金持ちで➡

家族が 一生 遊んで暮らしていけるだけの➡

金を残した。➡

それで 彼らは ああやって 日本中を旅して歩けるんです。

お子さんたちは 働いてないんですか?

(十文字) 働く必要がありませんからね。

うらやましい話です。

凪子さんというのは? (十文字)長男の嫁です。➡

以前は 病院で働いてました。➡

もとは 看護婦として 夫人に ついていたんですが➡

気に入られて 半ば強制的に 礼一郎さんと結婚させられた。➡

彼女も また 犠牲者です。➡

あんなに魅力的な人が… もったいない話ですよ。

誰も 家からは 出ようとはしないんですか?

そんなやつらじゃないですから。

戦争の傷も癒えて サンフランシスコ条約も調印されて➡

これから この国は➡

頑張っていかなくては ならないって時期に➡

家族 揃って 熊野古道。 優雅な話ですよ。

あなた もしかして 勝呂 武尊さんじゃないですか?

日本一の名探偵の。

世界一です。

(十文字)何か事件ですか?

十文字さん 1つ質問なんですが。

何でも どうぞ。

あなたは 誰なんですか?

誰なんでしょうね。 フフフ。

(鏡子)熊野三山は 神様と仏様が 同居しているみたい。

神仏習合っていうんですって。

ちなみに この 熊野本宮大社は…。 (本堂夫人)もう 分かったよ。

休憩。

休憩しよう。

あ~ 頭が痛くなってきた。

直射日光に 当たり過ぎたかもしれないですね。

どこか 日陰はないかしら?

ぐずぐずしないで 探すんだよ。

私を殺す気か!? あ~。 (主水)取りあえず お母さんは➡

ここにいてください。 (本堂夫人)うん。

あ~。 ハァー。

私 お茶屋さんないか 探してくるね。

どうせ 仮病に決まってる。

さっきまで 元気に歩いてた。

あっ あ~。

(沙羅)見てください。 謎の男。

人の家のことについては 興味が尽きないものです。

しかしながら…。 分かってます。

≪(鏡子)あの すみません。

私? (鏡子)お話ししたいことが。

あ~ 向こうに 宝物殿があるようです。

そちらを見てきます。 すぐに 追い掛けます。

きっと 兄のことを 失礼な男だと 思ってらっしゃるんじゃないかって。

そんなことないですけど。

(鏡子)私たちの母は ちょっと変わっていて➡

私たちが 外の誰かと話すのを 喜ばないんです。➡

でも 兄は あなたと話したがっている。

あっ 駄目。 私 行かなくちゃ。 みんなが心配するから。

もう少し。 (鏡子)話したいけど 母が。

あっ 今夜 私の部屋に来て。 (鏡子)えっ?

あなたが話したいこと 全部 聞いてあげる。

205号室。

≪(穂波)勝呂さん?

(穂波)やっぱり 勝呂さんだ。 すぐに 分かりましたよ。

これは これは 佐古さんではないですか。

ご無沙汰しています。 (穂波)勝呂さん!

(穂波)その名前は 禁句です。

今は 上杉。 上杉 穂波。

ご活躍は 新聞で読んでおります。 立派になられて。

あっ こちら 名探偵の 勝呂 武尊さん。

私の古くからのお友達。 フフフ。

こちら 編集者の 飛鳥さん。 (飛鳥)お噂は 伺ってます。

ご旅行ですか? ええ。

自分を見つめ直す いい機会だと思って。

日本中を あちこち旅しながら 飛鳥さんに手伝ってもらって➡

自伝のようなものを 書いているんです。

それは ぜひ 読んでみたいです。

ごめんなさい。 ちょっと外してもらえるかしら?

勝呂さんと お話があるので。 (飛鳥)ああ。

じゃあ 宝物殿 見てきます。

後で。 (飛鳥)はい。

やはり 今を時めく 上杉議員の正体は➡

あなたでしたか。 いや 新聞の写真を見て➡

ぴんときました。 佐古さんに間違いないと。

ですから その名前は。

あ~。 私には その名前の方が しっくり くるんですね。

《犯人は あなただ!》

《バ… バカなこと言わないで》

《あなたの正体は このところ 銀座かいわいに出没する➡

宝石泥棒。 通称 猫の目》

《逮捕しろ!》 (一同)《はい》

(警察官) 《おい 下がれ 下がれ!》

(警察官)《うわっ!》 (警察官)《痛てて…》

(警察官たち)《うわ~!》

《追え!》 (警察官)《はい!》

♬~

♬~

《ハァー》

♬~

昔の あなたに 今の あなたの姿を見せたいです。

国を動かす議員さんですから。

勝呂さんのおかげです。

勝呂さんが 親身になって 支えてくれたから➡

今の私がいるんです。

あなたが努力したからです。

もちろん そうですけど。

あなたは 私の誇りです。

私が捕まえた犯人の中で 最も成功された お人だ。

聞こえの悪いこと おっしゃらないでください。

フフフ。

よかったわ ここに来て。

旅の醍醐味は 予期せぬ人に会えることです。

では…。

参りましょう。

♬~ ぜんぶがぜんぶ 全然違うから

♬~ いいところも (遥)なんで片付けないの?

♬~ 悪いところも (優人)こっちだって毎日毎日起こして…

♬~ そうだからこそ

迎えに来たよ。 ♬~ 二人で歩む

♬~ この毎日が 楽しいんだな

♬~ ゆっくり行こう <ひとのときを、想う。 JT>

素晴らしい! 助かります。 とんでもございません。

≪(本堂夫人)ハァ ハァ…。➡

冗談じゃない!

支配人を呼んでこい! (主水)今 話したのが支配人です。

こんな屈辱 生まれて初めてだわ!

二度と こんなホテル 泊まってやるもんですか!

(沙羅)異常な権力欲から発生する 一種の病気があってね➡

いわゆる 心の病。 それに取りつかれると➡

何でも 自分の言うとおりに ならないと 気が済まなくなるの。

私の母が そうだと おっしゃるんですか?

家を出ようと 思ったことはないの?

できるわけないわ。

家を出たところで どうしていいか分からないし。

自由になる お金だって 全然ないんです。

頼れる お友達は?

友達は 一人もいません。

あなたは お母さんが好き?

母のことを好きだと思ったことは 一度もない。

早く死んでくれないかって いつも思ってます。

兄さんたちも同じ。➡

妹は どうか分からないけど。

(穂波)ここからの夜景 神秘的で 素晴らしいでしょう?

確かに。

前に泊まったときも この部屋だったんです。

この景色が忘れられなくて。

本当は 別の方が 泊まってたんだけど➡

移動してもらっちゃった。

さすが 力をお持ちの方は 違いますね。

勝呂さん 昔と 全然 変わらないのね。

年齢不詳と よく言われます。

あなたの美しさも 昔のままです。

そんなことないですよ。

今の方が すてきでしょ? ハハハ。

自伝を書かれてると おっしゃってましたね?

私は しゃべるだけですけどね。

あのころの話は 出てくるんですか?

まさか。 昔の話は 封印。

政治の世界に入る前は➡

アメリカで放浪していたことに なっています。

勝呂さんも お願いしますね? もちろんです。

(沙羅)お兄さんたちのことが 知りたいわ。

(鏡子)礼一郎兄さんは 最近➡

ほとんど 家族と 口を利きません。➡

お姉さんは すごく心配してます。

2人は 結婚して長いの?

4年になるかな。

家族とは 同居を?

別居の話もあったけど 母が許さなかった。

お姉さんは どんな人?

フフッ。 大好きだし➡

私たちのことを すごく気遣ってくれます。

お母さんのことも 面倒 見てらっしゃるみたいね。

(鏡子) もともと 看護婦さんだから➡

母の体のことを 一番 分かってるのは あの人。

それから 妹のことも すごく心配してくれてます。

妹さん?

昔から 虚弱体質で すごく神経質。➡

母が あんまり がみがみ言うものだから➡

どんどん 心を閉ざしてきて。

やだ。 もう こんな時間。

あっ おかしな家族だと 思ってますよね。

私たちだって 変わりたいんです。

見捨てたりしないでくださいね。

特に 主水兄さんのこと。

あなたは 勇気を持って 今夜 ここに来た。

大丈夫よ。 きっと 変われる。

また お話ししましょう。 今度は お兄さんも ご一緒に。

お母さま。

どうも 寝つけなくてね。

ハァー。

ずいぶんと遅い お帰りだこと。➡

誰と会ってた?

お母さまの知らない人です。 (本堂夫人)察しは つきますよ。

あの女よ。 主水に話し掛けていた。

おやすみなさい。

(本堂夫人) もう 二度と会っては 駄目!

いいですね?

はい。

(つえを突く音)

繰り返して!

沙羅先生とは 二度と会いません。

(つえを突く音)

おやすみなさい。

(穂波)勝呂さん。 考えたことあります?

もし 私たちが 別の出会い方をしていたら➡

今ごろ どうなっていたかって。

考えたこともありませんでした。

私もない。

これまでにも 多くの犯罪者と 出会ってきました。

女性も多くいました。

しかし 色々な意味で 心 引かれた人物は…。

1人しか… いない。

その女性は…。

5人の夫を 次々と殺して 死刑になりました。

あ~ 痛たた…。

お出掛けですか?

(凪子)今日は ホテルの周りを 歩いてみようと思います。

日本で 一番古い温泉が あるみたいですよ。

(凪子)らしいですね。

お話ししたいことがあるんですが。

実は ゆうべ あなたの義理の妹さんと➡

お話をさせていただいたんです。 (凪子)絢奈と?

鏡子さんの方です。

どうすれば そんなことが できるんですか?

夜中に 私の部屋に来てくれて。

いいと思います。

彼女には 話し相手が必要だと 思っていましたから。

でも 今朝は 明らかに 私を避けているんです。

(凪子)それは 申し訳ありませんでした。➡

きっと 母に 叱られたんだと思います。

失礼かもしれませんが➡

皆さんは もっと 自由に生きるべきですわ。

あまり よその家庭に 口を突っ込むのは➡

どうかと思うけど。 (沙羅)見ていられないんです。

母は 病気なんです。

だとしても 皆さん もう 大人なんですから。

分かってらっしゃらないようですね。

精神的には 子供なんです。 あそこのきょうだいは みんな。

≪(絢奈)お姉さん。

お母さんが呼んでます。

これ以上 本堂家に関わるのは➡

およしになった方がいいと 思いますよ。

皆さんのためを思って…。 (凪子)あなたのためを思って➡

言ってるんです。

誰と話していた?

さあ 誰でしょう。

≪(足音)

(絢奈)あの人。

(本堂夫人)何で いちいち うちのことに 首を突っ込むかね。

主水。 (主水)はい。

あの女 お前に気があるね。

(主水)やめてください。 (本堂夫人)分かってるくせに。➡

しらじらしいんだよ。

主水ちゃん。

水を持ってきてくださる?

私が行きます。 (本堂夫人)この子に言ってるの。

お母さんは 喉が渇いたの。

早く お水を 持ってきてちょうだいな。

凪子。 (凪子)はい。 お母さま。

私はね この旅行を とっても楽しんでますよ。

フフフ。

(沙羅)おはようございます。➡

今日は どちらまで?

(本堂夫人)優男は?

十文字さん? 今日は 見掛けてないですけど。

私は あの人 嫌いじゃないね。 感じのいい人だよ。

あんたは どう思うんだい?

私も 嫌いではありませんよ。 (本堂夫人)フフフ。

あ~ ありがとう。

愛想のない子だね。

「どうぞ」ぐらい言ったら どうなんだ?

言いましたよ。 (本堂夫人)聞こえなきゃ➡

言ったことにならないんだ! (主水)どうぞ。

(本堂夫人) そこに 置いときなさい。

礼一郎は? (凪子)先に行っててくれって。

旅の疲れが 出たんじゃないですか。

近ごろ あの子は どうしたんだろうね。

まるで 覇気がないよ。

あの件が まだ 尾を引いてるみたいです。

勘繰っちゃおうかね。

ひょっとして あんたらの間で 何かあったとか?

別に 何もありません。

あんたに 別に好きな男が できたとか?➡

あ~ ここのモーニングは 何て 脂っこいんだ!➡

モーニング食べて 胃がもたれるなんて➡

聞いたことないよ! ハッ。➡

あっ 胃薬。 (凪子)渡してあるはずですけど。

これが ひっくり返したんだよ。 注意力散漫たらありゃしない。

ごめんなさい。

(本堂夫人)予備のがあったろ。 持ってきて。➡

それから 礼一郎を 呼んできなさい!

(凪子)はい。 お母さま。

お母さまの胃薬。

お母さまが お待ちよ。

ここで あの人を怒らせても 誰も得しないわ。

本当に 出ていくのか? (凪子)東京に帰ったらね。

(礼一郎)決めたことなのか?

無理なんです。 もう あの人と 一緒に暮らすのは。

俺だって あの人が憎い。

でも おふくろは 俺たちを守ってくれてる。

それは 事実だ。

このままだと あなた 絶対 駄目になる。

そして 私も。

おふくろは もう 長くない。 死ねば 父が残した金は➡

みんなで分けることになってる。

もうすぐ死ぬって言われて 何年 生きてると思うの!?

死ぬのを待っていたら 手遅れになるわ。

手遅れって?

幸せになるには 遅過ぎるということ。

分かって。 今しかないの。 そうじゃないと 私…。

あの男と出てくのか?

俺にできるのは 出発の時間に 遅れていくことくらいさ。

あなたたちは みんな あの人に支配されてるけど➡

私は 違う。

見捨てないでくれ 凪子!

私が いつ 見捨てた?➡

全ては あなたしだいって 言ってるでしょう。

(ドアの開閉音)

(穂波)見て。 あの山 本当に 神様がすんでいるみたい。

(飛鳥)本当に 神様が すんでるみたいですね。

ハハハ。 熊野古道は 死の世界へ つながっているといわれます。

人々は そこを歩き 黄泉の国へ着いて➡

また 現世へと戻る。

それは つまり 生まれ変わりを意味するのです。

生まれ変わりを意味するんですね。 フフフ。

平安時代の貴族たちは…。

うわっ! うわっ! うわっ!

うわ~!

勝呂さん ごめんなさい!

何だい? (沙羅)あなたは➡

ずいぶん ひどい お方ですね。 (本堂夫人)はあ?

あなたは あなたの家族と 私を遠ざけました。

それが とっても 子供じみたことだって➡

分かってらっしゃいますか? (本堂夫人)行きなさい。

ご自分が どれだけ 無力な存在か 理解してください。

家族の前では 偉そうに振る舞っているけど➡

一歩 外に出たら あなたは ただの哀れな おばあさん。➡

息子さんたちがいなかったら 何も できないじゃないですか。

(本堂夫人)フフフ。

私は 本気で 忠告しているんです。➡

どうして 家族を 束縛なさるんです?➡

あの人たち あなたの 所有物ではないんですよ!➡

どうぞ 何でも おっしゃってください。➡

聞きたいわ あなたの言い分。

私は 決して 忘れませんよ!

はい? (本堂夫人)よく覚えときなさい。

私は 何一つ 忘れることはないの。

何があったか 誰に会ったか➡

名前も 顔も。

私は 生涯 忘れることはないのよ!

アハハハ…。

感じ悪い。 (本堂夫人)アハハハ…。

失礼します! 最低の ばあさんだわ。

(穂波)先生! 勝呂さんが大変。

染みる 染みる…。 本当に ごめんなさい。

気にしないでください。 ちょっと押しただけなんですよ。

なのに あんなに見事に 滑り落ちていくなんて。

ご自分が思っている以上に あなたは 力持ちなんです。

砲丸投げやってたからかしら? やってたんですか!?

(沙羅)消毒しておいたから 心配ないと思います。

旅先まで 持ち歩くんですか?

何かあるといけないので。 まあ 職業病みたいなものですね。

(沙羅)失礼します。

はい。 おおっ。

捻挫もしてないようです。 (穂波)明日のツアーは➡

行けますか? (沙羅)今日 一日➡

ゆっくりしていれば 問題ないでしょう。

ツアー? 熊野古道散策。

私は ホテルで ゆっくりしています。

駄目。

本宮大社には 昨日 行きました。 (沙羅)言ったじゃないですか。

本宮大社は ゴールだって。

まず 発心門王子まで バスで行って➡

そこから 山道をたどって 本宮大社を目指す。

どうして わざわざ いったん 遠くまで行ってから➡

戻ってくるんですか? 無駄を楽しむのが➡

旅行の醍醐味でしょ。

何kmぐらいあるんですか? 7kmって書いてありました。

勝呂は ここで 本を読んでます。 本なんて どこでも読めます。

(凪子) ようやく お休みになりました。

(鏡子)いつも お母さんの世話 押し付けちゃって すみません。

(凪子)気にしないで。

続けて。 (主水)とにかく 俺たちは➡

このままじゃ 一生を 棒に振ることになるんだ。

今 何とかしないと。 ≪(足音)

(鏡子)兄さん。 ≪(足音)

(ボーイ)メニューでございます。 (凪子)ジントニック。

(ボーイ)かしこまりました。

私も 主水兄さんと 同じ意見です。

だが おふくろなしでは➡

俺たちは 生きてはいけない。 それを忘れるな。

兄さんは いつまで あのことを 引きずるつもりなんだ?

おふくろは 俺らを 社会に 適応できない人間に育て上げた。

俺らは 普通の人間じゃないんだよ。

否定しない。 でも これからも それでいいはずがない。

俺たちには 未来があるんだ。

未来なんて… フッ。 ない。

(鏡子)私は 絢ちゃんのことが 心配なの。

最近 どんどん 様子が おかしくなってる。

感情が見えなくなってきてるのは 確かね。

(主水)このままじゃ 本当に 手遅れになるんだよ。

何とかしないと。 (礼一郎)だから 何とかって➡

例えば どういうことなんだ? (主水)例えば…。

(鏡子)よしましょう。➡

姉さんの意見が聞きたいわ。

私は はっきりしている。

あの人のために 自分の人生を 犠牲にすることはできないの。

みんなには 申し訳ないけど。

(十文字)皆さん お揃いですね。

僕は 皆さんの味方です。

できることがあったら 何でも 言ってください。

(凪子)ありがとう。 十文字さん。

これ以上 話しても 無駄だ。

兄さん。

もう 行っちゃうんですか?

(つえを突く音) (本堂夫人)全員 揃ってますか?

点呼。

揃ってます。 (本堂夫人)うん。

主水 窓を開けなさい。 風を入れるんだ。

何で 全部 説明しなきゃ 分からないんだ?

礼一郎 そっちもだよ。 気を利かせろ!

あの人は 行かないのかと 思ってた。

今日は 機嫌がいいみたい。 (本堂夫人)ハァー。➡

気持ち悪い。 酔った。

まだ 走りだしても いないんですから。

この臭いよ 車の。

何? あの女。 (本堂夫人)だから➡

早く開けなさいって 言ってるでしょう!

(凪子)固いんです! (鏡子)私やります。

あんた 薬は持ってるだろうね? (凪子)何の薬ですか?

ここのに決まってるだろう。

お渡ししたので 最後ですよ。

どうするんだよ!? 心臓発作 起こしたら。

そんなに 死んでほしいのか?

あれだけあれば 大丈夫ですよ。 (本堂夫人)不安なんだよ。

予備がないと 特に 旅先は。

何という お薬ですか? (凪子)ジギトキシンです。

私 持ってますけど 取ってきましょうか?

そうしてくれるかい? (凪子)必要ありません お母さま。

ご心配なく。

いつまで 待たせるのかしら。

運転手さん いつ 出るんですか?

あと もう一人 いらっしゃることに なってるんです。

(絢奈)すみません。 勝呂さんですか? 名探偵の。

そうですが。

(絢奈)誰にも言わないで。

イザナギノミコトと イザナミノミコトっていますよね?

ええ。 私 イザナミの生まれ変わりなんです。

家族は 誰も信じてくれない。

その話をすると 母は 私を たたくんです。

でも 本当なんです。➡

勝呂さんは 信じてくれますよね?

(つえを突く音) (本堂夫人)絢奈 戻ってきなさい。

(絢奈)今度 詳しく 話を聞いて。

(本堂夫人)あっ 虫刺されの軟こう 買うの 忘れた。

誰か 持ってないかい? (凪子)早く言ってください。

私が虫に刺されやすいの 知ってるだろ。 買ってきて。

いってきます。 (主水)近くにあるかな?

急ぎなさい。 車が出る前に 早く。

私 部屋にあるので 取ってきます。

(本堂夫人)あら すみませんね。

いいんですよ。 (穂波)気にしないで。

ここにいたら どうにかなりそう。

(十文字)遅くなりました。 (穂波)失礼。

(本堂夫人) 急ぎで お願いしますよ。

いらっしゃい。

天気が悪くなりそう。

やはり 勝呂は帰ります。 (穂波)付き合いなさい。

(本堂夫人)絢奈。 あんたは 疲れてるから➡

ホテルへ戻りなさい。

待ってください。 (本堂夫人)顔色が悪いわ。

この子の顔 見てごらんなさい。

ナスビの漬物みたいな色。

車が揺れたから 少し酔ったんです。

車のせいにするんじゃない!

(十文字)あのバス ホテルに戻るらしいですよ。

いつ 戻るのかしら? (鏡子)出るのは➡

昼すぎになるって聞いたけど。 (本堂夫人)行きなさい!

絢ちゃんは 私が面倒 見ますから。

余計なことは しなくていい!

(沙羅)あっ あそこにも カラスの絵が。

(飛鳥)あそこにも カラス。

(穂波) ここは カラスが多いのかしら。

八咫烏といって この山の守り神のようなものです。

(沙羅)八咫烏? 八咫烏は 足が3本あると➡

いわれています。

ホントだわ。 3本ありますね。

へぇ~。 (穂波)飛鳥さん。

えっ? (穂波)顔色悪いけど 大丈夫?

えっ? 顔色悪いですか? 私。

バスに酔ったんじゃないですか? (穂波)大丈夫?

気持ち悪い。 バスに酔ったみたい。

少し休んだ方がいいかも。 (穂波)無理しないで。

あっ ありがとうございます。

うっ…。 (沙羅)あっ。➡

風通しのいいところで しばらく 座っていれば➡

治ると思います。 (飛鳥)よろしいですか?

ええ。 参りましょう 勝呂さん。 はい。

(飛鳥)すぐ行きますから。 (沙羅)分かりました。➡

お大事に。 (飛鳥)ありがとう。

(飛鳥)うっ…。 うっ…。

ストップ。

どうしました? お母さん。

やはり 山道は疲れます。

あそこのベンチで しばらく 休むわ。

まだ 5分しか歩いてない。

私は 年寄りなんだ! 何回 言ったら 分かるんだ!

お前たちは 先に行ってなさい。

(主水)いや… だったら 僕らもいますよ。

大きな お世話だ! 行けったら!

(主水)お母さん しかし…。

(本堂夫人) あ~ ほら 行って 行って!

また 何か騒いでる。 (穂波)放っておきましょう。

(本堂夫人) 後から ゆっくり 歩いていく。

でも…。 (本堂夫人)あ~ もう たまには➡

私を 1人にさせて!

いつも 金魚のふんみたいに 付きまとって 目障りなんだよ!

ハァー。 (鏡子)びっくり。

いいんじゃない。 そう おっしゃっているんだから。

(十文字) お言葉に甘えたら どうですか?

(礼一郎)急ごう。 あまり 天気が良くない。

じゃあ いってきます。

(穂波)勝呂さんは 相変わらず おしゃれですね。

ありがとうございます。 フフフ。

(穂波) 時計なんかも おしゃれなもの➡

いいもの お持ちなんでしょうね。 スイス製です。

(穂波)あっ。 (沙羅)あっ すごい。

≪(主水)先生。 (沙羅)主水さん。

ご一緒させていただいても よろしいでしょうか?

(沙羅)お母さまは? (主水)1人になりたいらしくて➡

追い払われました。

参りましょう。

あっ。 お… お地蔵さまが!? 勝呂さん。

僕のこと 軽蔑してませんか? (沙羅)あっ そんな…。

ずっと あなたに 失礼な態度を取ってきた。

でも あれは 本当の僕ではないんです。

分かってます。 (主水)本当は もっと➡

お話がしたい。

でも それができない自分が いるんです。➡

全ては…。 (沙羅)分かっていますから。

(主水)すみません。

自分の話をしますね。 (主水)ええ。

4カ月前に 婚約者と別れたんです。

他に付き合ってる人がいたのが 分かって➡

顔面を ぶん殴ってやりました。

それは 手厳しい。 (沙羅)フフッ。

人を好きになるのは やめようと思っていたときに➡

あなたが現れたの。➡

心が動いたのは さみしかったせいかもしれません。

私には分からない。 これから どうなるかも。

僕しだいってことですか?

あなたは 新しい一歩を 踏み出すべき。

そして あなたは それが できる人。

勇気を出して。

(飛鳥)うっ…。➡

うっ…。

あっ! 行きなさい! (飛鳥)すみません。

はい。

熊野古道は 後白河法皇も➡

藤原 定家も通ったと いわれています。

では この景色を➡

法皇も ご覧になったかも しれないんですね。

そうなりますね。

あっ 見て! あそこに天狗が! えっ?

お~ あれは 山伏です。 修行をしているのだと思いますよ。

あっ 勝呂さんは 何でも ご存じなのね。

ウフフフ。 じゃあ…。

このお花は? どれでしょう?

お~ これは そうですね ノコンギクではないでしょうか。

うわっ! あっ あっ…。

あっ あ~!

あ~! 勝呂さん!

うわ~!

あ痛たた…。

いいかげんにしてください。

ごめんなさい! 今度こそ 足を痛めました。

時計が壊れました。

勝呂の大事な時計が! あ痛たた…。

(穂波)そこにいてください。➡

あっちに行って ぐるっと回ってから➡

あっちに回って そっちに行きますから。

どっち?

(穂波)とにかく そこにいてください。 動かないで。

♬~

あ痛たた…。

勝呂さん!

遅い!

ハァ ハァ…。➡

急いできたんですよ。 今度という 今度は➡

いくら 勝呂でも怒りますよ!

私だって 勝呂さんに 言いたいわ。

どうして そう 面白いように 落ちていくんですか?

ホテルへ戻ります!

(腰骨の鳴る音) あ痛たた…。

あなた ついてるわ。

ほら そこに さっきのバスが止まっています。

そんなところまで 落ちたんですか?

行きましょう。 (腰骨の鳴る音)

あ痛たた…。 つかまって。

おっとっと…。 (穂波)あ~!

ホテルで 読書をしていれば こんなことには…。

運転手さん バスは いつ出ます? (運転手)昼まで出ないよ。

どうします? ここにいます。

せっかくなので 私は 少し歩いてきますね。

私を 置いていくんですか?

子供みたいなこと 言わないの。

飛鳥さん 体調は? (飛鳥)私は もう 大丈夫です。

じゃあ 付き合って。 (飛鳥)はい。 お付き合いします。

勝呂さん こちらで ゆっくり なさっていてくださいね。

置いてくんですね!?

♬~

♬~

(主水)一雨 降りそうですね。

(主水)あっ 何だ 兄さんたちも 戻ってたんですね。

本宮大社までは 行けそうにないから➡

早々に帰ってきた。

お母さんは?

さっきのところに 座ってた。 うたた寝してたよ。

誰か 呼びに行かなくても いいの?

放っておこう。

私も それがいいと思う。

1人になりたいと言ったのは 自分なんだから。

姉さん?

外の空気を吸ってくるの。

≪(十文字)結局 みんな 戻ってきちゃいましたね。

(凪子)ええ。

途中で 大雨になったら 事だもんな。

♬~

(沙羅)雨になりそうですよ。

あなたみたいな人でも➡

風邪をひかれると 嫌な気分になるんです。

起きてください。

誰か…。 誰か来て!

(川張)どうか お願いします! 私は 休暇を取りに来たのです。

(川張)可能なかぎり 速やかに 解決したいんです。

(川張)新聞や雑誌の記者が 押し寄せてきたら➡

もう たまったもんじゃない! あなたが必要なんです!

弱りましたな。

古い仲ではないですか。 このとおり!

事件解決に 力を貸してください!

世界一の名探偵 勝呂 武尊殿!

ハハハ…。

しかたがない。

では 勝呂に お任せあれ!

私は 専門家ではありませんが➡

すでに 死後硬直が 始まっていたので➡

亡くなって 直後ということは ないと思います。

先生が 死体を発見したのは 今朝の11時半でしたね。

状況から考えて 死亡推定時刻は➡

11時より後ということは ありません。

それ以上のことは ごめんなさい。

夫人が皆さんと別れて ほこらの脇のベンチに…。

小袖のほこらです。 地元の人間は そう呼んでます。

何時ごろだったか 覚えてらっしゃいますか?

皆で 歩きだしたのが 10時ですから➡

まあ たぶん 10時5分くらいだったと思います。

では 犯行時刻は 10時5分から 11時の間か。

犯行時刻?

先生は 夫人の死を どう思われますか?

心臓発作です。

あの方は もともと 心臓が弱く➡

普段から かなり強めの薬を 飲んでいたそうです。

殺人だと おっしゃるんですか? 先生は 検視医ではありません。

遺体の様子を見ることに 慣れておられない。

ですから 被害者の腕にあった 注射の痕を見落としたとしても➡

しかたのないことです。 注射の痕?

彼女は 心臓を患っていて➡

何とかという強い薬を 飲んでましたね。

ジギトキシン。 非常に 毒性の強いものですね。

(川張)その ジギ何とかを➡

誰かが注射器で 直接 体内に入れたと?

症状は 心臓発作で 亡くなったときと 同じです。

信じられないわ。 (川張)しかし 許せませんな。➡

この神聖なる 熊野古道を 殺人の舞台に選ぶとは。

勝呂さん 犯人は 家族の中の誰かですか?

誰か1人か 誰かと誰かか。

もしくは 全員による 共同謀議か。

先生は 本堂家とは お親しいんですか?

(沙羅)こちらに来て 初めて お会いしました。

主水さんは 感じのいい方ですし➡

私に 好意を 抱いてくださっているのは➡

確かですが それ以上では ありません。

勝呂さん。 はい。

(沙羅)あの人たちは 散々 ひどい目に遭ってきたんです。

これ以上 苦しい思いを させないであげてほしいの。

あのばあさんは ひどい独裁者で 底意地が悪くて➡

むしろ 死んでよかったと あなたは そう おっしゃる。

意地悪な言い方をするんですね。 勝呂は そうは思いません。

どんなに 極悪非道な人物であっても➡

命にかわりはないのです。

決して 人殺しを 認めるわけにはいきません。

だからって 殺人だって 決まったわけではないでしょう?

注射の痕だって 今朝ついたものかどうか➡

分からないじゃないですか。 実は ここに来た 最初の晩➡

私は ある会話を 聞いてしまったのです。

≪《分からないのか?》➡

《こうなったら もう 殺すしかないんだ》

それは 明らかに 主水さんの声でした。

2番目の息子さんです。 では あの人が?

彼が 殺人の計画を 立てていたことは 事実です。

信じたくありません。 今朝➡

あなたは 山道で 彼と 2人きりになられましたね?

待ってください。 彼に関して 何か気になることは➡

ありませんでしたか? お答えしたくありません!

失礼します。

私は 彼女に関して 1つ重要な事実を知っています。

彼女も ジギトキシンを 持っています。

(川張)えっ?

主水さんが 殺人の相談をしていた相手は➡

誰なんですか?

では 容疑者の尋問に 移りましょう。

誰から いきますか?

そうですね バスに戻ってきた順と いきたいところですが➡

まずは あの方から。

衆議院議員の 上杉 穂波先生です。 お会いできて 光栄です。

素晴らしいところですね。

熊野古道は 紛れもなく わが国の財産です。

上杉先生には ご迷惑が 掛からないようにいたしますので。

どんな捜査を? (川張)はい。

関係者の話を聞くだけです。

知りたいことは 自然と 向こうから やって来るもの。

私も協力したいですわ。 では 事件のあった➡

今日の午前の動きを 聞かせてください。

バスを降りてからは ずっと 勝呂さんと一緒でした。

はい。 《うわっ!》

(穂波)勝呂さんを 崖から 突き落として➡

バスに 勝呂さんを運んでからは 飛鳥さんと 近くを散歩して➡

土産物屋さんへ向かいました。

それからは ずっと 彼女と一緒です。

あなたは?

私は 気分が悪くなって バスに戻りまして➡

その後は ずっと 先生と一緒でした。

最後に 本堂夫人に お会いになったのは いつですか?

今 思い出しますね。

飛鳥さんにも 同じ質問を。 今 思い出しますね。

上杉先生 自由党と民主党は 本当に 一つになるんでしょうか?

ノーコメントです。 (川張)失礼いたしました!

思い出した。

土産物屋さんへ向かう途中 ベンチに座ってる夫人を見ました。

遠くからでしたけど。 ねえ? 飛鳥さん。

(飛鳥)は… はい。 私も見ました。

生きてらっしゃいましたか? もちろん。

土産物屋の辺りから 小袖のほこらまでは➡

80mは ありますよ。

そんなに離れているのに なぜ 分かるのですか?

天狗ですよ。 天狗。 (川張)天狗?

《見て!》 《うん?》

《天狗よ》 《えっ? あっ》

どういうことでしょう? (穂波)あの方➡

天狗を叱りつけてました。 (飛鳥)そうなんです。

天狗を? (穂波)つえで たたいてました。

天狗は 走って 山の方へ逃げました。

すごい速さだったわよね? (飛鳥)速かった~。➡

一瞬でしたけど あれは 間違いなく 天狗でした。

それは 山伏ということですか? (穂波)ともいう。

天狗でした。 (川張)しかし 山伏を➡

つえで たたくとは 相当な女ですな。

天狗ですけど。 そういう女性なのです。 あの方は。

装いは どんな感じでしたか? (飛鳥)装い?

山伏には 階級がございまして 梵天の色で分かるんです。

梵天? (川張)けさに ついている➡

丸いボンボンです。 赤でしたか? 紫でしたか? それとも…。

赤でした。 ねえ?

そうそう。 赤でした。 (川張)赤か…。

赤の梵天は どのような 階級なのですか?

最上級の…。 (飛鳥)天狗?

あ~ 信じられません。 それは 何時ごろでしたか?

10時半 過ぎてた?

過ぎてたと思います。

いや 過ぎてなかったんじゃ ないかな?

過ぎてなかったかな?

10時20分ということで お願いします。

ということは 10時20分の段階では➡

まだ 夫人は生きていた。

では そろそろ よろしいですか? ご協力 感謝します。

熊野古道を汚した 憎むべき犯人。

必ず 見つけ出してくださいね 勝呂さん。

必ず。

≪(ぶつかる音) (飛鳥の悲鳴)

あっ カラスです。

カラス? たまに まぬけなカラスが➡

ガラスと気付かずに ぶつかってくるんです。

あれを 見てください! (飛鳥)えっ?

飛んでいった あのカラス 足が3本あります。

嘘でしょう? ほら。

本当だ! 足が3本ある! (穂波)そんなわけないでしょう?

もう 行ってしまいました。

本当に 見たの? (飛鳥)本当に 見ました。

確かに 足が3本ありました。

八咫烏だ!

熊野の守り神ですね。 これは お告げだ。

しかし 何のお告げなのか まったく 分からない。 あ~!

このたびは 突然のことで 驚かれたことと思います。

(礼一郎)母の心臓のことは 前から 知っていたので➡

突然という感じではないな。 そんな状態で 家族旅行とは➡

いささか 問題があったのでは ないですか?

(礼一郎)母が 自分で決めたことですから。➡

あの 私が ここに呼ばれた理由を 伺いましょう。

(川張)変死事件が起きますと➡

関係者の証言が 必要になってくるのです。

心臓発作ではないと? 殺人の可能性もあります。

まさか。 (川張)バスを降りてからの➡

今朝の行動を 教えていただけますか?

家族全員で 本宮大社に向かって 歩きました。

全員というのは?

(礼一郎)私と 妻と 弟と 上の妹。➡

下の妹は バスに残り 母は あのベンチに。

それから 彼を忘れていませんか? 奥さんのお友達の。

(礼一郎)あ~ そう。 あの男も 一緒でした。

それから どうなさいました?

しばらく… そうだな 10分ほど 歩いていましたが➡

雨が降りそうになったので 私は バスに戻りました。

ベンチのお母さまに お会いになりましたか?

(礼一郎)ええ。 お元気でしたか?

元気でしたよ。 (川張)何時か 分かりますか?

10時30分。

ずいぶんと はっきり 覚えてらっしゃるんですね?

母に 時間を聞かれたんです。➡

あの人の腕時計 たまに 止まるんですよ。

その後は? バスの中にいました。

しばらくして 妻が戻ってきました。

ちょっ… ちょっと待って。

私を疑っているのかな? 疑われる理由があるのですか?

誰に聞いたか知らないが➡

確かに 去年 私は 事業を起こし➡

見事に しくじりました。 聞いています。

自信が おありでしたのに 残念な結果になりましたね。

運がなかっただけです。 (川張)ちなみに 何のお仕事を?

絵の売買を。

母は 反対していました。

まあ 結局 母が 全ての借金を 肩代わりしてくれて➡

それで ますます 逆らえなくなりました。

お母さまを 憎んでらっしゃった。 しかし 殺してはいない。

なぜなら 母なしでは 生きていけないことを➡

私は 誰よりも よく知っているから。

面白いですな~。

殺人と決まってもいないのに この人は 犯行を否認されている。

失礼。

事業のこと 誰に聞いたのですか?

誰にも。

自信があったことを ご存じのようでしたが。

だいたい どんな事業でも 始めるときは自信があるものです。

なるほど。 お分かりになったでしょう。

こちらが知りたいことは 向こうから やって来るものです。

私は 義理の母の死を まったく 悲しんでおりません。

彼女に みじんの愛情も 感じてませんでした。

正直に答えていただいて 感謝します。

ただし 後悔はしています。 後悔?

彼女を死に至らしめたのは 私ですから。

どういうことでしょう?

彼女の死の原因は 私にあると言っているんです。

お~。

私の結婚生活は はっきり 申し上げて➡

破綻しております。

全て 夫のせいだとは言いません。

でも そこに 義理の母の存在があったのは➡

間違いないこと。

ずいぶん前から 自分の今の生活に➡

見切りをつけたいと 思っていました。

私には 友人が…。

とても 信頼している友人が 1人いまして➡

その方は 私に 生涯を共にしたいと➡

何度も言ってくれました。

そして 今朝 私は 1つの決断をしたんです。

つまり ご主人の元から 離れる決意を?

いったん 気持ちが固まると➡

ぐずぐずしてはいられない 性格で➡

ツアーの途中で 私は みんなと別れて 先に戻りました。

主人と 義理の母に 打ち明けるのは➡

今しかないと思ったんです。➡

まず 夫に話しました。

《俺を見捨てないでくれ 凪子!》 《私が出ていくしかないの!》

(凪子)理解はしてくれました。➡

それから 母に打ち明けました。

夫人は 驚かれたことでしょうね。

(凪子)かんかんになって 怒りました。

時間は 分かりますか?

10時40分ごろだったと 思います。

つまり あなたは そのときのショックで➡

夫人が亡くなられたと➡

そう考えてらっしゃるんですね。 はい。

ちなみに あなたの相手の方というのは➡

十文字さんですね? ご想像に お任せします。

あなたは 注射器を お持ちですか?

持ってます。 夫人の飲んでいた心臓の薬は➡

何でしたか? ジギトキシン。

量を誤ると 命に関わるものですね?

たいていの薬は そうです。 勝呂さん よろしいですか?

どうぞ。 あなたは なぜ➡

この問題に 立ち入らなければ ならないのですか?

私が お願いしたんです。 (凪子)私たちは 長い間➡

苦しみ続けてきました。 そして 今 ようやく➡

平和と幸福の光が 差そうとしているんです。

それなのに あなたは なぜ それを 踏みにじろうとするのですか?

私に どうしろというのです?

義理の母は 心臓の病で 死んだんです。

あなたは これが 計画殺人である ということを知っていて➡

その上で 見逃してくれと 言っておられるわけですか?

どう捉えようが結構です。

あなたが殺したんですか? そんなこと言ってません。

どんなに 悪逆非道な人物でも 生きる権利はあるのです!

では 勝手にすればいいわ。

罪のない人たちを 破滅と悲惨の どん底へ突き落としなさい!

これ以上 話すことはありません。

マダム。

あなたには まだ 話すべきことがあるはずです。

いいえ ありません。

あなたは 夫人と別れた後➡

彼女の身に 何が起こったんです?

私が どうして それを知っていると?

あなたは 知っている。

そうでなければ…。

感づいている。

(鏡子)家族で 山道を歩きました。 途中までは➡

みんな一緒でしたけど 途中で ばらばらになって➡

雨になりそうだったので 私は バスに戻りました。

私よりも 少し後でしたね?

途中で お母さまに 会いましたか?

ベンチに座ってました。

そのときの お母さまの様子は?

普通でした。 お話をされた?

しました。 どんな?

(鏡子)「雨になりそうですよ」 「あ~ そうかい」とか。

(川張)様子は 普段とは 違っていませんでしたか?

別に。 (川張)時間は 分かりますか?

いいえ。

あなたが バスに戻ったのは 私より後で➡

11時より 少し前でした。

小袖のほこらから バスまでは 歩いて 5分ですから➡

だいたい 10時50分くらいでしょうか。

その段階で 夫人は 生きていた。

死亡推定時刻とも合います。

つまり 10時50分から 11時の間に殺されたんだ。

お母さまが亡くなったと聞いて どう思われましたか?

びっくりしました。

お兄さんが言葉どおり➡

本当に殺してしまったと 思ったからですか?

意味が。 3日前の夜➡

お兄さんの 主水さんと そこのテラスで➡

夜遅くまで 語り合っておられましたね。

あなた方は 殺人の計画を立てていた。

まさか。 たまたま 聞いてしまったのです。

(川張)では 主水さんの 相手というのは?

主水さんが 敬語を使わない女性は 2人しかいません。 妹たちです。

一番下の子が 相手になる可能性は まず ありません。

≪《分からないのか?》➡

《こうなったら もう 殺すしかないんだ》

≪《本気とは思えないわ》 ≪《冗談で こんなことが➡

言えるか! いいか? やるしかないんだ》

どうかしていたんです 私たち。 どうかしていましたね。

兄も 私も追い詰められていて 他のみんなも そうです。

みんな 母を憎んでいました。 あの人さえいなければ。

そして お兄さんと 殺害計画を練った。

考えただけです。

鏡子さん。

この神聖なる山々を前に➡

お母さまを殺したのは 自分たちではないと➡

誓うことができますか?

私は 決して 私は 母を殺していません!

ありがとうございます。

主水さんを 呼んできてもらえますか?

(鏡子)勝呂さん。

これだけは分かってください。

うちの家族に 悪い人なんて 誰もいないんです。

あなたが 誰よりも 家族を大事に思っていることは➡

よく分かっています。

しかし 真実を導き出すのが 私の仕事なんです。

あの会話を聞かれているとは 思いませんでした。

でも 分かってください。 本気じゃなかったんです。

ただ 頭に浮かんだというか。

まさか 本気で 母を殺そうなんて 思うはずがないじゃないですか。

この間 夜 遅く お母さまと ロビーで 何かもめていましたね?

(主水)あれも 見てたんですか。 何があったんですか?

(主水)母が泊まっていた部屋を 急に移るようにって➡

ホテルの支配人から 言われたんです。

別の客の予約が 入っていたらしくて➡

母は 散々 抗議したけど 駄目でした。

それは 気の毒でした。

(主水)それが もう一人の客っていうのが➡

有名な議員さんで さすがの母も 歯が立ちませんでした。

今朝の話を お願いします。

ええ。 皆と別れて それから 沙羅先生と 一緒に歩きました。

母に 最後に会ったのは 11時20分ごろです。➡

あのベンチに座ってました。 11時20分?

(主水)少しだけ話して 僕は バスに戻りました。

あとは ずっと バスにいました。 11時20分に➡

お母さまと話したんですね?

(主水)バスに戻ったのが 11時半だから そう…。➡

だいたい それぐらいです。 (川張)死亡推定時刻は➡

11時より前なんです。

沙羅先生が そう証言しています。 (主水)それは 彼女の間違いです。

11時20分の段階で 母は 生きていました。

(川張) どういうことなんでしょうか?

面白いですね。 ハハハ。

勝呂さん あんたは職業柄➡

人が死ぬと すぐに 犯罪のにおいを嗅ぎつける。

でも そうじゃない場合だってある。

毎日 多くの人が 心臓の病気で亡くなっている。

それを いちいち怪しんでいたら バカだと思われますよ。

あなたは 私に 生き方を説いているのですか?

先入観に とらわれ過ぎだと 言ってるんです。

お母さまの腕に 注射の痕がありましてね➡

毒物を注入された可能性が 高いんです。

ちなみに あなたの計画では➡

どうやって 殺すつもりだったんですか?

ですから 具体的なことは何も。

お引き取りください。

ハァー。

これで 家族全員の話を 聞きました。

待ってください。 まだ 末の妹がいます。

彼女は いいでしょう。

まともに 話をしてくれるとは 思えません。

これまでに分かったことを 読み上げてみましょうか?

お願いします。 はい。 「10時10分」➡

「一行は 夫人をベンチに残して ツアーへと参加する」➡

「10時20分」➡

「夫人が 天狗をつえで たたくのを 上杉先生たちが目撃」➡

「10時30分」➡

「礼一郎が戻ってきて 夫人と話す」➡

「10時40分」➡

「凪子が 夫人と話す。 夫人は 大激怒」➡

「10時50分」➡

「鏡子が 夫人と話す」➡

「11時20分」➡

「主水が 夫人と話す」 《こんなところで➡

うたた寝をしてると 風邪をひきますよ》

(川張)「11時30分」➡

「沙羅先生が 死体を発見」

素晴らしい。

問題は 沙羅先生の言葉を 信じるならば➡

死亡推定時刻は 11時より前。➡

しかし 主水は 11時20分に 生きている夫人と話をしている。

どういうことなんでしょうか? 簡単なことです。

嘘をついている人間が いるのです。

本堂夫人は なぜ 旅に出ようと思ったんでしょう。

よい質問です。 刺激が欲しかったんでしょうね。

屋敷の中だけで 君臨することに 飽きたのです。

彼女は 新しいスリルを求めた。

あえて 危険な道を選び そして 破滅した。

家族を苦しめ過ぎて➡

そして 子供たちの誰かが それに 耐えきれなくなった。

そういうことですか? 可能性はあります。

誰なんですか?

主水さんと話しましたよ。

主水さんが 11時20分に お母さまと話したと➡

言っていました。 それは あの方の勘違いです。

彼は あなたの方が 間違えていると。

あり得ないです。 では 主水さんは なぜ➡

生きていると言ったのですか?

実は 今朝 彼を たきつけてしまったんです。

もっと 勇気を持ってほしいって。

そうでしたか。

もちろん 私は お母さんから 独立してほしいと➡

そういうつもりで 言ったんですけど➡

それを 彼が取り違えていたら 私 取り返しのつかないことを。

申し上げたではないですか。

人さまの家庭に 首を突っ込んではならないと。

教えてください。

あの人が犯人なんですか?

≪(絢奈)名探偵さん。

お話ししたいことがあるんです。

私 大変なものを 見てしまったんです。

伺いましょう。

天狗です。 天狗?

バスで 1人で待ってたとき 窓の外を見てたら…。

(絢奈)あれは 間違いなく 天狗です。

山伏じゃないかしら? (絢奈)バカじゃないの?

山伏が あんなに速く走れる? (沙羅)ごめんなさい。

時間は 分かりますか? 分かりません。

まだ 誰も 戻ってなかったというなら➡

10時15分から 20分くらいですか? (絢奈)さあ。

あなた その後も バスを飛び出しましたね。

勝呂は 見ていましたよ。

うれしい。

私を気に留めてくれる方が この世にいたなんて。

そのときも 天狗を見たの?

と思ったけど あれは 山伏でした。

でも 本当に 天狗がいたんです。

きっと 私を捜してたんです。

私 言いましたよね? イザナミの生まれ変わりだって。➡

それを知って 天狗が連れ去りに来たんですよ。➡

お願い。 私を守って 名探偵さん。

大丈夫です。

勝呂が 天狗を追い払って 差し上げます。

(絢奈) あっ 追い払わなくていいの。

天狗にも 都合があるでしょうから➡

私に近寄らないように してもらえれば それで 十分。

よろしく 頼みます。

税理士さんでしたか。 (十文字)フン。➡

本堂家の財産の管理を 任されています。

夫人が 財産管理ができる人を 探していて➡

それで 凪子さんが 僕を紹介してくれたんです。

凪子さんとは どこで 知り合われたんですか?

(十文字)小学校の同級生ですよ。

彼女とは 特別なご関係と 伺いました。

(十文字)ハハッ。 凪子が言ってましたか。

たぶん 僕らは 結婚するんじゃないかな。

凪子さんには 旦那さんが いらっしゃいます。

完全に 冷え切っています。

言っておきますが 僕のせいではないですよ。

僕が 彼女と そういう関係になったのは➡

夫婦関係が 悪くなった後。 これ 大事。

私が知りたいのは 殺人事件の方です。

僕のアリバイですか? お話ししましょう。

みんなで 熊野古道に入ってから➡

僕は 凪子さんと 2人になりました。➡

彼女は 今から 僕らのことを ご主人に話すと言いました。➡

僕も ついていくと言ったんですが 彼女は 断った。➡

そして ご主人を 追い掛けていきました。➡

僕は そのまま 後戻りして➡

1人で ぶらぶらしながら バスへ戻った。➡

バスが出るまで 間があったので➡

土産物屋に入って 時間を つぶしました。➡

店の主人が 証言してくれますよ。➡

以上。 夫人を見掛けましたか?

ええ。 ベンチに座ってました。

(十文字)天狗を いじめてました。

また 天狗だ。

非常に 興味深いですね。 (川張)時間は 分かりますか?

10時20分くらいかな。 半には なってなかった。

夫人の遺産は どれくらいになるのですか?

(十文字)かなりの額とだけ 申し上げておきましょう。

夫人のご主人は 何をされていた方だったんですか?

法務省のお役人だったそうですよ。 (川張)法務省?

ええ。 刑務所長を務めたことも あったみたいですよ。➡

夫人と出会ったのも そのころだったとか。➡

どうして そんなに金持ちだったかは➡

よく知りませんが 本堂家は もともと➡

大地主だったという話は 聞いてますね。

お話が。

(凪子)状況が変わったの。

(十文字)確かに 変わった。 分かるよ。➡

つまり 今 離婚したら 遺産が入ってこない。➡

まず 旦那が金を受け取り その後で 離婚。➡

そういうことだよね? (凪子)違うわ。

(十文字) うん? どういうことかな?

今は 夫のそばに いてあげたいの。

先のことは分からない。

でも 今 私は あの人を 見捨てるわけにはいかない。

なるほど。

あなたには 申し訳ないと 思っています。

(十文字) いや 僕のことは いいんだ。➡

そもそも 僕は 君を 助けてあげたかっただけなんだ。

君は 自分の思うとおりに 生きるべきだよ。

十文字さん いい人ね。

今朝 君は 旦那と別れると言った。

僕は よく決意したねと 褒めてあげたよね。

でも 今 分かった。

君は 僕と 一緒に なりたかったんじゃなくて➡

彼と別れたかっただけなんだ。 いや それで いいんだ。

僕が 勝手に 思い込んでいただけなんだから。

でも それで いい。

だって 僕が求めていたのは 君の幸せなんだ。

あのときの 君は 本当に 美しかった。

あれは 僕の人生の中で 最も幸福な瞬間だった。

僕は…。

残念でしたね。

(十文字の泣き声)

♬~

(川張)本堂 鏡子さん。➡

今 そこに埋めたものは➡

何ですかな?

おい。 (警察官)はい。

どうして 分かったんですか?

勝呂さんに言われて 関係者全員を マークしていたんだ。

間もなく 皆さん おみえになります。

(穂波) 犯人が分かったんですって?

早かったじゃないですか。

勝呂には 簡単な事件でした。

これから お得意の謎解き? それが 勝呂の流儀ですので。

拝見したいわ。

残念ながら 事件の関係者しか お呼びしてないのです。

で 私は どうして 呼ばれたの?

実を申しますと ぜひ あなたにも 聞いてほしくて。

この上が あなたの部屋に なっております。

窓を開けっ放しにしていると 色々な声が聞こえてきます。

いいんですか?

あなたが 聞いていてくれると思うと➡

私の推理も さえ渡ります。

楽しみだわ。 ≪(飛鳥)あ~ いた いた。➡

先生 お願いしますよ。 仕事しましょう。

今日は 別の用事が入ったの。 ごめんなさいね。

こっちに来てから 全然 進んでないじゃないですか。

あした 頑張るから。

行きなさい。 (飛鳥)もう!

そろそろ 皆さんが来ます。

(穂波)勝呂さん 私ね…。

あしたの朝 東京に帰るんです。

それは さみしいですね。

また お会いできるといいですね。 ぜひ。

佐古さん。

お会いできて うれしかったです。

私もです。

この再会を 心の糧にしたいのです。

何か 記念に残るものを 頂けませんか?

頑張ってね 名探偵さん。

こういうことではなく?

これは これで 結構ですが➡

何か 形に残るものを。

宝物にします。

さっき そこの売店で くすねてきたの。

冗談よ。 フフフ。 フフフ。

今日の昼前 本堂夫人が➡

ジギトキシンを 注射器で 体内に注入され 殺されました。

この事件には 証拠らしいものが 何一つありません。

しかし ご安心を。

勝呂は 真相に たどりつきました。

ここにおられる 皆さん全員に 動機があります。

誰もが 本堂夫人の死によって➡

利益を得る立場にありました。

では 全員が犯人なのか。

しかし 共同謀議の線は 早々に捨てました。

皆さんの証言が あまりに ばらばらだったからです。

となると 犯行は 家族の1人。

ないしは 2人の共謀によって なされたものか。

その1人とは 誰か。

複数なら それは 誰と誰なのか。

さて 私の頭をよぎったのは➡

私だけが知っている事実でした。

実は 殺人計画を練る➡

主水さんと 鏡子さんの会話を 聞いてしまったのです。

これによって 本堂 主水さんが➡

この事件の第一容疑者として 浮かび上がりました。

では 彼は 本当に 計画を実行したのでしょうか。

主水さんは 生きている夫人に 最後に会った人物とされています。

時間は 11時20分。

ところが 沙羅先生の お見立てでは➡

11時には 夫人は 亡くなっていたはず。

これは どういうことか。

どちらが 嘘をついているのでしょう?

まず 主水さんが 嘘をついたと 仮定して 話を進めます。

時間は 11時20分。

彼が お母さまに会ったとき➡

彼女が すでに 亡くなっていたとしたら…。

しかし 疑問は湧きます。

そうなると 主水さんは バスに戻ったとき➡

なぜ そのことを 皆に伝えなかったのか。

答えは 1つしかありません。

あなたは 死体を見た瞬間 こう 考えた。

自分の立てた殺人計画が➡

共謀者によって 実行されたのだと。

妹の 鏡子さんの手によって。

(本堂夫人)《な… 何するんだ!? やめろ! やめるんだよ!》➡

《やめろ!》 (注射器を刺す音)

彼女は 注射器を捨てたところを 見つかっています。

では 夫人と会ったとされる 10時50分。

彼女は 夫人を殺したのでしょうか。

いかがですか?

はい。 殺したのは 私です。 (主水)それ以上 しゃべるな。

(鏡子)もう いいの 兄さん。 (主水)弁護士を呼んでください。

私は あなたが 犯人だとは 思っていません。

お座りください。

正直に お答えください。

お母さまに会ったとき 彼女は すでに➡

亡くなっていたのでは ないですか?

《お母さま?》

《お母さま? おか…》➡

《キャー!》

そして あなたは 死体を見た瞬間 こう 考えた。

お兄さんが ついに 殺人計画を実行したのだと。

だから あなたは バスに戻っても➡

一切 そのことを 口にしなかった。

やがて その疑念は 確信に変わります。

おそらく バスの中で 鏡子さんは➡

主水さんの私物の中から 注射器を見つけたのでしょう。

そして あなたは 兄を守るため 注射器を捨てた。

違いますか?

私が質問したときのことを 覚えていますか?

《この神聖なる山々を前に➡

お母さまを殺したのは 自分たちではないと➡

誓うことができますか?》

《私は 決して 私は 母を殺していません!》

「私は 決して 母を殺してはいない」

あなたは 「私は」と言った。 「私たち」ではなく。

お兄さんの犯行だと 思い込んだから➡

無意識に 「私は」と言ったのです。

勝呂は 言葉の端々まで 聞き逃しませんよ。

それでは もう一つの可能性を 検討しておきましょう。

今までのは 主水さんが 嘘をついた場合です。

では もし 沙羅先生が➡

偽証していたとしたら どうなるのか。

死亡推定時刻は 11時より後 ということになります。

その場合 11時以降 死体発見まで 夫人に会っていたのは➡

主水さんだけ。 殺したのは 主水さんということになります。

これで 沙羅先生が➡

死亡推定時刻を ごまかした理由が分かります。

彼女は 主水さんが 夫人に近づく姿を見た。

そして その直後に 死体を発見。

当然 犯人は 主水さんだと確信する。

そして 彼をかばうために➡

死亡推定時刻を ごまかしたんです。

そんなの でたらめです。 私は 嘘は言っていません。

ならば 答えは 1つです。

夫人を殺したのは 先生ご自身です。

(注射器を刺す音) (本堂夫人)《あ~!》

《誰か…。 誰か!》

分かりました 勝呂さん。 あなたの勝ちですよ。

嘘をついていたのは 僕です。 ありがとうございます。

勝呂さんの言うとおりです。

僕が行ったとき 母は もう 死んでいた。

そして 僕は やったのは 鏡子だと思い込んだ。

(指を鳴らす音)

あなたの計画では➡

最初から 注射器を 使う予定だったのですか?

(主水)何かの本で 読んだんです。 空っぽの注射器を刺すと➡

体内に空気が入って 死んでしまうって。

それで 注射器を 購入したんですね?

違います。

あれは 姉の持っていた 注射器です。➡

かばんの中にあったのを 1本 拝借しました。

そう おっしゃっていますが。

私のものに似ています。

どうして 黙っていたんですか?

そもそも 注射器なんて どれも 似たり寄ったりですから。

この注射器は 凪子さんのかばんから➡

主水さんが盗み それを 鏡子さんが盗んで➡

埋めようとした注射器です。

しかし 犯罪に使われることは なかった。

そう 注射器は もう一本 あるのです。

実際に 凶器に使われた注射器が。

本当のことを 言っていただけますか?

私の部屋に忍び込み 注射器を盗んだ人間がいます。

盗まれたのは それだけですか?

ジギトキシンの瓶も なくなっていました。

すみません。 私は 主水さんが盗んだものと➡

勝手に思い込んでしまい…。

それで 黙っていたんですね?

はい。

さて 主水さんも 鏡子さんも 犯人でないとすると➡

いったい 夫人を殺したのは 誰なんでしょうか?

それを知るには➡

いつ 夫人が殺されたのかを 知る必要があります。

鏡子さんが 夫人を見掛けた 10時50分の段階で➡

夫人は 亡くなっていました。

凪子さんが 10時40分に 夫人と話をしています。

凪子さんが 嘘をついているのでなければ➡

夫人が殺されたのは 40分から 50分の間になります。

このとき 礼一郎さんと 凪子さんは バスの中。

沙羅先生は 主水さんと 山道を歩いていました。

となると 残った容疑者は 1人。

あり得ません! 私は 覚えています。

あなた ちょうど その時刻に➡

バスから降りて しばらく 帰ってきませんでしたね。

(注射器を刺す音) (本堂夫人)《あっ!》

不可能です! (主水)妹に 母は殺せない!

言っていいことと 悪いことがあるぞ 探偵!

まあまあ。 本人に聞いてみましょう。

あのとき どちらへ 行ってたんですか?

だから…。

天狗を追い掛けてたんです。

あのときは 山伏だったけど 私 見たんです。

本当に 林の中を 天狗が走ってたんです。

(凪子)もう よしましょう。 絢奈に 人が殺せるはずがないの。

そんなこと 不可能です。 あなたも 分かっているはずです。

ならば 必然的に あなたが 10時40分に➡

夫人と話したという証言は 嘘だったことになります。

よろしいのですか?

ええ。 (川張)何だって!?

その段階で 夫人は死んでいました。

そうですね? はい。

《お母さま?》

(川張)信じられん。 あっ。

その場合 怪しいのは ご主人か?

もしくは あなた自身か?

あなたは 夫を愛していた。

夫を 母親の呪縛から 救い出すためには➡

夫人を殺すしかなかった。

義理の母の死に 責任がないとは言いません。

でも…。 あなたは バスに戻ってから➡

沙羅先生が 死体を発見するまで バスから離れなかった。

なぜです?

「なぜ」とは?

これは 他の皆さんにも 言えることです。

どの方も バスに戻ってから➡

誰一人 彼女の様子を 見に行っていない。

なぜです? 何を言ってるんです?

意味が分からないわ。 実は ここが この事件の➡

最も奇っ怪なところなんです。

あれほど 夫人を 恐れていた人々が➡

なぜ 今日に限って 誰も 彼女を呼びに行かなかったのか。

バスの出発時間は 迫っているというのに➡

誰も 席を立たなかった。

なぜです?

みんな 疲れていたんです。 それだけのことです。

特に あなたです。 あなたは ずっと 夫人に付き添っていた。

彼女の面倒を 誰よりも見ていた。

もし 夫人の帰りが遅ければ➡

まず あなたが 様子を見に行くべきだった。

なぜ そうしなかったのか?

答えは 1つ。

すでに 死んでいるのを 知っていたからです。

あなたが殺したからだ。

(本堂夫人)《や… やめなさい!》 (注射器を刺す音)

私では ありません!

母を殺したのは 彼女ではない。

なぜ 断言できるのです? なぜなら…。

とっくに 母は➡

死んでいた。 (川張)えっ!?

つまり あなたが 戻ってきた段階で➡

すでに 夫人は 亡くなっていたというんですか?

そうです。 彼女を殺したのは あなたですか?

(本堂夫人)《やめろ! やめろ!》 (注射器を刺す音)

私は殺してない。

信じてもらえないかもしれないが。 いいえ。

信じますよ。

犯人は 沙羅先生のかばんから 注射器と薬品を盗んでいます。

あなたが 危険を冒してまで そんなことするでしょうか?

奥さんのかばんが 目の前にあるというのに。

私は 妻から 離婚を切り出され 目の前が 真っ暗になっていた。➡

妻を取り戻すには 母との関係を断ち切るしかない。

だから 母に会いに行ったんだ。

《母さん?》

《母さん?》

(礼一郎)どうしていいか 分からなかった。

取りあえず バスに戻って 何も見なかったことにした。

なぜ みんなに言わなかったのか➡

それは 自分でも分からない。

衝撃的なことが 連続して起こると➡

人は 思考を停止してしまうことが あります。

心理学的にも よくあることです。

しかし そのせいで 奥さんは➡

夫人を殺したのは あなただと思い込んだ。

だから だんまりを決め込んだ。

本当に 私を疑ってたんですか?

ご主人に 本当のことを 言ってもらうには➡

ああするのが 一番だと思いました。

よくない性格ですよ 勝呂さん。 オホホホ。

(十文字)しかし 驚いたな。 どういう家族だ?➡

みんなで かばい合って➡

涙なしには 聞いてられないじゃないか。

ちょっと待ってください。 ということはですよ➡

礼一郎さんが 夫人と話したと証言した➡

10時30分の段階で 被害者は もう 死んでいたと?

そうなります。

参った!

あっ。 バツ… バツ バツ バツ。

勝呂さん 教えてください。

本当は いったい 何が起きたんですか?

いいでしょう。

それでは 本当にあったことを➡

これより お話しいたしましょう。

(相葉) 柔軟剤を お使いのみなさん!

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実際は 何が起こったのでしょうか。

引っ掛かるのは なぜ 沙羅先生のかばんが➡

荒らされていたのか。

なぜ 犯人は 身内である➡

凪子さんのかばんから 盗まなかったのか。

元看護婦である 凪子さんが 注射器を持っていることを➡

家族なら 当然 知っていたはずです。

では 犯人が そうしなかった理由は?

犯人は 家族以外の人間か。 そもそも 家族なら➡

普段から 夫人を殺すチャンスは いくらでも あったはずです。

何も 危険を冒して 旅行中に殺す必要はありません。

外部の犯行だと おっしゃるのですか?

ここにきて 外部の犯行だと?

ここには 家族以外の人間が 2人います。

沙羅先生と 十文字さんです。

十文字さん お待たせしました。

しかし 十文字さんは 夫人の財産管理人として➡

普段から 彼女と接する機会が 多かった。

やはり 旅先で殺害する理由が ありません。

彼は 犯人ではありません。

(十文字)おしまいですか?

おしまいです。 えっ?

しかし もう一人の場合は 違います。

沙羅先生 あなたは ここ 熊野古道に来て➡

本堂家の人々と出会った。 そして 主水さんを救うには➡

夫人を殺すしかないと 思ったとしたら➡

手元には 注射器も 毒薬もある。

本気で おっしゃってるんですか? しかし 10時に バスが到着して➡

あなたは 最初は➡

本堂家の皆さんや 私と山道を歩き➡

その後は 主水さんと 一緒でした。

10時30分までに 夫人を殺すことは 不可能です。

(礼一郎)では 誰がやったんです? (十文字)そうか 天狗だ!

僕は 夫人が 天狗を いじめてるのを見てるんですよ。

何時でしたっけ? (川張)10時20分。

時間も ぴったり合う。 (川張)上杉先生も➡

同じ時刻に見てる。

そうか! 犯人は 天狗だったのか!➡

って バカな…。

天狗は 取りあえず 置いておきましょう。

ここに 1つ 奇妙な事実があります。

普段 夫人は 家族が他人と交際するのを➡

常に 邪魔していました。

にもかかわらず 今日だけは なぜ 皆さんに自由を与えたのか。

彼女は 1人になりたがった。

今日に限って なぜ? 私も それは 気になってました。

理由は 何だと思いますか? 誰かと会うつもりだったんじゃ。

誰と約束したのでしょうか? 天狗?

ここで 彼女の性格について 考えてみてください。

彼女は 人を支配することに 喜びを感じる人間です。

子供たちを振り回すことに 飽き足らなくなり➡

さらなる刺激を求めて 旅に出た。

しかし 外の世界に触れることで➡

自分の小ささを 知ることになります。

彼女は ホテル側の要請で➡

衆議院議員の 上杉先生に 部屋を明け渡しています。

屈辱だったでしょうね。

家族の中では 支配者でも➡

世間から見れば 何の影響力もない 1人の無力な老人。

彼女は それに気付いたのです。

その事実について 沙羅先生は 直接 彼女に突き付けました。

彼女の虚栄心が➡

まったく 意味のない 哀れむべきものであることを➡

本人に ぶつけたのです。

《ご自分が どれだけ 無力な存在か 理解してください》

《家族の前では 偉そうに振る舞ってるけど➡

一歩 外に出たら あなたは ただの哀れな おばあさん》➡

《息子さんたちがいなかったら 何も できないじゃないですか》

これに対して 夫人は 何と言ったか。

沙羅先生は 覚えてらっしゃいますか?

私は はっきりと覚えていますよ。

彼女は こう言ったのです。

《私は 決して 忘れませんよ!》

(沙羅)《はい?》 《よく覚えておきなさい》

《私は 何一つ 忘れることはないの》

《何があったか 誰と会ったか➡

名前も 顔も》

《私は 生涯 忘れることはないのよ!》➡

《アハハハ…》 このときの夫人の 激しい口調に➡

沙羅先生は 大変 びっくりされていました。

それ故に この言葉の 本当の意味を➡

先生は 理解できなかった。

どういうことですか?

よく考えてみてください。

夫人の言葉は ちょっと おかしくありませんか?

「あなたの無礼を 私は 決して 忘れない」

こう言うなら分かりますが しかし 彼女は こう言った。

「名前も 顔も 生涯 忘れることはない」

なぜ 「顔」と言ったのか。

この言葉は 沙羅先生に向かって 言われたように見えましたが➡

実は そうではなかった。

沙羅先生の後ろに立っていた➡

誰か 別の人物に対して 言ったのです。

誰?

夫人は 沙羅先生によって➡

自分の本来の姿を さらされてしまった。

困惑し 怒りに震えた。

そのとき ある人物の姿を見つけ➡

それが 誰であるか 思い出したのです。

彼女が新たな獲物を 見つけた瞬間でした。

家族を束縛することに飽きた 夫人は➡

さらなる 犠牲者を 手に入れたのです。

(沙羅)待ってください。 あのとき あの場にいたのは➡

勝呂さんと…。

あの人だわ。 上杉 穂波 衆議院議員です。

(有村)雨ニモマケズ 風ニモマケズ

雪ニモ 夏ノ暑サニモマケヌ

丈夫ナカラダヲモチ

慾ハナク 決シテ瞋ラズ

イツモシヅカニ ワラッテヰル

<東芝は 世界に立ちはだかる➡

さまざまな課題の解決のために➡

技術の力で 立ち向かっていきます>

世界を、止めるな。 <東芝>

(川張)ちょっと待ってください! (礼一郎)よく分からないな。➡

誰だ? それは。 (凪子)ほら。 あの立派な➡

身なりの 背の高い女性。 (主水)あの人と 母と➡

どういう つながりがあるんです?

十文字さん 亡くなった夫人の ご主人は➡

法務省に勤務していたと おっしゃっていましたね?

そうです。 刑務所長を➡

務めていたこともあった。 そして 夫人と知り合ったのは➡

そのころだと。 合ってますよね?

私も そう聞いています。

夫人は 刑務所で 働いていたのではないでしょうか。

例えば 女性受刑者を監督する 女看守。

(礼一郎)おっしゃるとおりです。 母は看守をしてました。

勝呂の勘は さえ渡っています。

さて ここからは 全て 勝呂のおとぎ話です。

実を言いますと 上杉先生は 若いころ➡

ある罪を犯して 刑に服していました。

そこで 看守である 本堂夫人と知り合った。

刑を終えた後 上杉先生は 過去を封印し➡

戦後の どさくさに紛れて 名前を変え➡

経歴を詐称し 新しい人生を歩み始めます。

どれほど 苦労されたことでしょう。

政治家と結婚し 夫の死後は 自らも 政治の世界に入り➡

今や 将来を期待される 女性議員として➡

世間から 注目されています。

それなのに…。

彼女の過去を知る人物に 会ってしまった。

《私は 決して 忘れませんよ!》

(沙羅)《はい?》

(本堂夫人) 《よく覚えておきなさい》➡

《私は 何一つ 忘れることはないの》

家族を引き連れて 全国を旅している夫人。

自伝を口述しながら やはり 各地を回っていた 上杉先生が➡

この熊野古道で ばったり 再会したのです。

上杉先生は 窮地に陥りました。

輝かしい 社会的地位も キャリアも 野心も➡

全て 台無しになってしまう。

おそらく 2人は その夜➡

ホテルのどこかで ひそかに会って 話し合ったのでしょう。

上杉先生は 夫人に金を渡し 口を ふさごうとした。

しかし 夫人は断った。

《ずいぶん 偉くなられたもんだね》

金が目当てだったわけでは ないからです。

《私に 部屋を かえさせるとはね》

彼女は 上杉先生を なぶりものにしたかった。

家族たちに そうしてきたように。

《佐古》

《お前は 一生 私の囚人なんだよ》➡

《あした また ゆっくり話しましょう。 フフフ》

上杉先生としては 夫人に 死んでもらうしかなかった。

翌日 もう一度 会うことを約束して➡

2人は 別れました。

し… しかし おかしいです。

その人が 母の持病のこととか➡

薬のこととか 知ってるはずがない。

今朝の バスの中の光景を 思い出してください。

《どうするんだよ!? 心臓発作 起こしたら》

《そんなに 私に 死んでほしいのか?》

(凪子) 《あれだけあれば 大丈夫です》

(本堂夫人)《予備がないと 不安なんだよ。 特に 旅先は》

(沙羅)《何という お薬ですか?》 (凪子)《ジギトキシンです》

(沙羅)《私 持ってますけど 取ってきましょうか?》

(本堂夫人) 《そうしてくれるかい?》

(凪子)《必要ありません》

おそらく そのとき 彼女の 殺人計画は始まったのでしょう。

《私が虫に刺されやすいの 知ってるだろ。 買ってきて》

《いってきます》 (主水)《近くにあるかな?》

(本堂夫人)《急ぎなさい。 車が出る前に 早く》

《私 部屋にあるから 取ってきます》

かつて 彼女は 銀座の宝石店を専門に狙う➡

窃盗犯でした。

♬~

♬~

(穂波)《どうぞ》 (本堂夫人)《悪いわね》

上杉先生は 夫人に➡

ほこらの脇のベンチで 待つように伝えました。

そして あろうことか➡

この 勝呂 武尊を アリバイに利用したのです。

《はい》

《うわっ!》 《あっ あっ…》

《あ~!》 《勝呂さん!》

《あ痛たた…》

《いいかげんにしてください》

《ごめんなさい!》 《今度こそ 足を痛めました》

《時計が壊れました》

《勝呂の大事な時計が!》 《そこにいてください》

《あっちに行って ぐるっと回ってから➡

あっちに回って そっちに行きますから》

《どっち?》

《とにかく そこにいてください。 動かないで》

♬~

♬~

♬~

《はっ? 何て格好してんの?》➡

《な… 何するんだよ!?》

(本堂夫人)《あ~!》

(注射器を刺す音) (本堂夫人)《あっ!》

時刻は 10時20分。

その姿を 十文字さんが 遠くから 目撃しました。

さらに バスの中にいた 絢奈さんにも見られています。

♬~

《痛たた…》

《勝呂さん!》

《遅い!》

《こちらで ゆっくり なさっていてくださいね》

《置いていくんですね!?》

そして 彼女は いずれ 十文字さんが➡

警察に 天狗の話をすると踏んで➡

それをも アリバイに 取り込もうと思い付きました。

自分も そのとき 天狗を見たことにしたのです。

《あっ 見て! 天狗よ》

彼女は いもしない 天狗が➡

夫人と口論しているのを見た という嘘をつきました。

時間は 10時20分より もっと後。

実際は そのとき もう 夫人は死んでいました。

(川張)しかし おかしいですよ。➡

編集者の 彼女の証言は どうなるんですか?

あの人も グルということですか?

飛鳥さんは 非常に 人の意見に 左右される性格なのです。

それに関しては 私は ちょっとした実験をしてみました。

《飛んでいった あのカラス 足が3本あります》

《嘘でしょう?》 《ほら》

《本当だ! 足が3本ある!》

あの人は 必ず 人の意見に 同調します。

そういう性格なのです。

《ベンチに座ってる夫人を 見ました》

《ねえ? 飛鳥さん》 《は… はい。 私も見ました》

上杉先生は 自分が見たと言えば➡

必ず 彼女も乗ると踏んだのです。

《速かった~》

(川張)驚いたな。

しかし 上杉先生は 1つミスを犯しました。

彼女は 自分が見た 梵天の色について➡

こう 答えました。

(川張)《赤でしたか? 紫でしたか? それとも…》

《赤でした。 ねえ?》

《そうそう。 赤でした》 (川張)《赤か…》

しかし 実際には あの距離ですよ。

梵天の色など はっきりと 分かるはずがありません。

彼女は 言い過ぎました。

♬~

これに 上杉 穂波の 指紋が付いています。

本堂夫人が 看守をしていた 刑務所には➡

囚人たちの登録された指紋が 残っているはずです。

何かの役に立つかもしれません。

ありがとうございます。

♬~

♬~

(主水)結局 僕らは➡

見ず知らずの女性に 人生を切り開いてもらったのか。

(凪子)誰の手も汚さずに。

上杉先生に感謝だな。

よかったんじゃない?

何よ。

(絢奈)何よ。➡

何で みんな そんな ほっとしてるの?

お母さんが かわいそう。

悲しんであげる人が 誰もいない。

こんなの ひど過ぎる! あんまりだわ!

(鏡子)絢ちゃん!

(凪子)あの子は もう 大丈夫。

(鏡子)でも。 あのお嬢さんが感情を出すのを➡

私は 初めて見ました。

本宮大社には 阿弥陀如来が 祭られております。

それが 意味するものは 未来です。

忌まわしい過去とは 決別して➡

先へ進むのです。

♬~

♬~

(凪子)ありがとうございました。 勝呂さん。

♬~

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事故の線で 捜査は 進んでいます。

私の申し出を 受け入れてくださって➡

ありがとうございます。

この神聖なる場所には➡

殺人も 自殺も 似つかわしくない。

感謝します。

ハァー。

勝呂さん 1つ聞いても よろしいですか?

何でしょう?

上杉先生とは どういった ご関係だったんでしょうか?➡

ひょっとして…。

古い… 知り合いです。

♬~

♬~

♬~

♬~

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