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おしんには 竜三の気持ちが
分からないではなかった｡

…が 居候の身分では このほかに
何ができるというのだろうと➡

夫の疲れ果てた顔を
見つめながら➡

帰ったら また 一悶着あるのかと
暗い気持ちになっていた｡

(なつ)赤ちゃんが… できてた｡

(坂場)よかったじゃないか｡

やっぱり… 仕事より大事ってことよね｡

そうじゃない…｡

一緒に頑張ろう｡ な｡

ありがとう｡

イッキュウさんや
アニメーター仲間の後押しもあって➡

なつは 産休明けも
これまでどおり 働けるようになりました｡

母さん 頑張るぞ！

♬～

♬｢重い扉を押し開けたら
暗い道が続いてて｣

♬｢めげずに歩いたその先に
知らなかった世界｣

♬｢氷を散らす風すら
味方にもできるんだなあ｣

♬｢切り取られることのない
丸い大空の色を｣

♬｢優しいあの子にも教えたい｣

♬｢ルルル…｣

♬｢口にする度に泣けるほど
憧れて砕かれて｣

♬｢消えかけた火を胸に抱き
たどり着いたコタン｣

(ﾉｯｸ)
(光子)はい｡

失礼します｡
あら なっちゃん いらっしゃい｡

光子さん 今 一人ですか？

ええ みんな出払っちゃってて｡
咲ちゃんに用事？

はい｡ もちろん 光子お義姉さんにも｡

お義姉さんにも？ あら 何かしら？

まあ 座ってちょうだい｡

私 赤ちゃんができたんです｡

あら そう… そうなの!?

そうなんです｡
今 妊娠３か月なので➡

来年の５月か６月には
生まれてくるんです｡

そう！ おめでとう なっちゃん！
よかったわね！

産んだら大変そうですけど｡

まあ とにかく体を休めて… ね｡

こういう時は
何を出したらいいのかしらね？

コーヒーは飲んでもいいの？
さあ… まあ でも 何も要りませんから｡

ジュースなら大丈夫でしょ｡ ね｡

咲ちゃん喜ぶわよ｡ 驚くわよ｡

北海道には知らせたの？

いえ まだ… これからです｡

あら すぐに知らせてあげなさい｡

はい｡
けど いろいろ心配かけると思ったんで➡

まずは会社に話して これからのことを
決めてから話そうと思ったんです｡

仕事 続けるかどうかってこと？

はい｡ でも それが➡

続けられることになったんですよ
今までどおり｡

イッキュウさんも
協力してくれるって言ってくれてますし｡

きっと喜ぶわよ 皆さん｡
はい｡

なっちゃんは
どんなお母さんになるのかしらね｡

(ドアが開く音)
(咲太郎)ただいま｡

あっ お帰りなさい｡
お兄ちゃん… あっ 蘭子さんも！

(蘭子)なっちゃん お久しぶりね｡
来てたのか？

うん｡
(松井)ちょうどいい｡
なっちゃんも これから飲もう｡

ダメ｡
旦那なんか ほっとけって！

(島貫)家で プラプラしてるだけなんだろ｡
してませんよ｡ ちゃんと働いてます｡

旦那は関係なく お酒はダメなんです｡

また帰っても仕事かよ｡

おい なつ
関東プロダクションって知ってるか？

ああ 名前だけは｡

関東テレビの傘下に新しく出来た
テレビ漫画の製作会社だけどな｡

今日は そこで新しく作るテレビ漫画に➡

この４人の声の出演が決まったんだ｡

えっ 蘭子さんも テレビ漫画に？

そう｡ なかなか面白そうな作品だったわ｡

そうか… 製作会社が増えて➡

どんどん新しいテレビ漫画が
作られていくからね｡

そうだ｡
なつんとこも頑張らないと負けちまうぞ｡

頑張って うちの声優を使ってくれ｡

お兄ちゃん｡
うん？

私ね 子どもができたの｡

えっ 子ども？
うん｡

それが言いたくて
なっちゃんは待ってたのよ｡

えっ 子どもって… 本当か？
本当に生まれてくるのか？

うん｡

そうか！ できたか！

やった… やったな なつ！

なっちゃん おめでとう！
(レミ子 島貫 松井)おめでとう！

ありがとうございます｡

☎

(砂良)はい もしもし 柴田です｡

☎なつです｡
ああ なっちゃん｡

砂良さん 母さんは？

☎(砂良)あっ 今 牛舎の方に行ってるけど
呼んでくるかい？

あっ ううん いいの 急がないから…｡

あのね 砂良さん｡
うん｡

私に 赤ちゃんが生まれるの｡

えっ？ 本当にかい？

うん｡
ああ… おめでとう！

それなら すぐ みんなに知らせるわ｡
あっ ちょうど来た！

お義母さん！
(富士子)えっ？

なっちゃんから｡
なつ？

自分で聞いて下さい！
は？ 何を？ もしもし｡

母さん？
☎(富士子)どうしたの？ なつ｡

どうしよう…｡

☎母さん…｡

今 すごく母さんに会いたい｡

何があったのさ？

本当は 少し怖いんだけど…➡

私も… 母さんになるの｡

えっ？ なつ…！

♬～

じいちゃん！
(泰樹)なした？

なつ… なつに子どもが生まれるって！

(照男)えっ｡

(悠吉)本当にかい！
本当…｡

(菊介)なっちゃんにかい！
そりゃ おめでとうございます！

おやっさん いかったね
おやっさんのひ孫が増えるべさ！

♬～

もし お義母さんのそばにいられたら
安心だろうな 君も｡

でも しかたないよ｡

北海道は遠いし
仕事は 産むギリギリまで休めないし｡

うん…｡
ここで頑張るしか…｡

うん｡

実は… 作監を頼まれたの｡

えっ 作画監督？
そう｡

子どもを育てながら
作画監督ができるの？

やらなくちゃいけなくなったの…｡

仕事で
もっともっと成長していきたいんです｡

いい作品を作りたいんです！

どうして それが 子どもができると
できないんでしょうか？

ううん… やりたいの｡

♬～

うん… なら しかたないじゃないか｡

やるしかないだろ｡
いいの？

いいよ｡
僕が 好きに働けと言ったんだ｡

家で子育てをするのは なにも
女だけと決まってるわけじゃないんだ｡

２人で なんとか乗り切ろう｡ な｡

♬～

そして 数か月がたちました｡

♬～

荒井さん これ
演出に見てもらって下さい｡

(荒井)動かんでええがな
こっちから行くし｡ 声かけてえや｡

じ～っと座ってるのも つらいの｡

ハッ… おなか もう破裂しそうやな｡

もう中から どんどん蹴って➡

何か 早く描け 早く描けって
言われてるみたい｡

ハハ ええ子やな！ ハハ…｡

これ 見てもらっていいですか？
うん｡

♬～

はあ… 一緒に深呼吸…｡

フ～｡

(下山)なっちゃん｡
あ… 下山さん｡ 仕事終わったんですか？

うん｡ 長編映画は 今
休みに入ったばかりだから｡

あ… 映画はいいですね｡
終わりが見えてて｡

いや なっちゃんも
終わりが見えてきたって感じかな｡

終わりじゃなくて 始まりです｡

茜さんと明ちゃん 元気ですか？
うん｡

あっ なっちゃん… 実は 今
考えてることがあってね｡

考えてること？
うん…｡

あっ… なっちゃんは知ってる？
何をですか？

あの人が戻ってきてるの｡
あの人？

えっ マコさんが？

そうなんだって！ マコさんが
戻ってきてるんだって こっちに｡

イタリアから？
それが 日本にってことだけじゃなくて➡

アニメーションに！
えっ？

こっちの世界に戻ってきたんだって！
ああ…｡

(ﾌﾞｻﾞｰ)
あっ 誰か来た｡

もしかして マコさんだったりして｡
えっ？

冗談よ｡ お兄ちゃんかな｡

は～い｡

(麻子)お久しぶり｡

えっ！ 本物？
本物よ｡

うそ…
ちょうど 今 話してたところなんです｡

ねえ 本当にマコさんだ！
お久しぶりです｡

マコさん！ 戻ってきてるなら
すぐに知らせて下さいよ！

本当に… 変わってないとは言えないけど
変わらないわね あなたは｡

マコさんだって 昔とそっくりですよ｡

そっくりって何よ！ 本物だってば｡

すいません｡ どうぞ 入って下さい｡

あっ どうぞ｡
じゃ お邪魔します｡

イッキュウさんと なっちゃん
いつか こうなると思ってた｡

日本に戻られたんですね｡
お帰りなさい｡

あっ これ つまらないものだけど｡

え～ イタリアのお土産ですか！

吉祥寺で買ったの｡
吉祥寺に住んでるから｡

おいしい！

これ イッキュウさんが作ったの？
はい｡

あの不器用なイッキュウさんが？
時間と手間をかければ作れるんです｡

それじゃ 漫画映画と一緒じゃないの｡
そうなんですよ！

自分の指は よく切るんですけどね｡
あっ…｡

それも同じじゃない！
(２人)ん？

あっ 漫画映画で切ったのは 自分の首か｡

ハハハ ハ…｡

ごめん｡ ちょっと きつい冗談だった？

いいえ やっぱり マコさんですね！
懐かしい｡

そんなとこ 懐かしがらないでよ｡

私はね あの映画 とても感動したの｡

えっ？

本当ですか？

本当に｡ だから また
自分もやりたいと思うようになったの｡

えっ… うれしい！

ね｡
うん｡

それで 今日は
イッキュウさんを誘いに来たの｡

えっ？
誘いに？

そう｡

イッキュウさん
また アニメーションを作る気はない？

なつよ この再会が➡

また波乱を呼ぶことになりそうだ｡

｢グレートトラバース３｣！

日本を代表する三百の頂｡

その全てを自らの足だけで踏破する➡

前代未聞の挑戦だ｡

挑むのは…

(田中)フォ～！