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有頂天になっている竜三が おしんには 不安でならなかった。
世の中 そう思いどおりにいかない事を➡
嫌というほど味わってきた おしんの不安だったのである。
(なつ)亜矢美さんが結婚しないのは➡
その思い出があるからなんですか?
もし よかったら教えて下さい。
(亜矢美)よくある つまんない話だって。
(カスミ)ないわよ あんなこと。 めったにある話じゃない。➡
岸川亜矢美を スターにしたのは➡
岸川亜矢美に恋をした 一人のお客だったのよ。
♬~
♬~
♬「重い扉を押し開けたら 暗い道が続いてて」
♬「めげずに歩いたその先に 知らなかった世界」
♬「氷を散らす風すら 味方にもできるんだなあ」
♬「切り取られることのない 丸い大空の色を」
♬「優しいあの子にも教えたい」
♬「ルルル…」
そのお客は 早稲田の学生さんでね➡
毎日のように ムーランに通い詰めてた。
(松井)インテリの学生に 人気があったからな ムーランは。
亜矢美さんのファンだったんですか?
ファンっていったって➡
そのころの私は 集団で踊ってる中の 一人にすぎなかったからね。
年も 25だったし。
地味で目立たない踊り子だったの。
何か その方が想像つきません。
その学生は 想像したのよ。 えっ?
地味で目立たない➡
自分より年上の踊り子に 恋をしただけでなく➡
亜矢美ちゃんの才能を信じたのね。
才能を…? うん。
(茂木)伊崎っていったかな その学生。 (カスミ)そう。➡
伊崎君 自分で レビューの台本書いて ムーランに持ち込んだのよ。
台本を? そう!
それが採用されて おまけに当たってね。
それから 何本も何本も書いてきちゃ 亜矢美ちゃんを ソロで踊らせて…。
(カスミ)それで 徐々に 人気が出始めたのよ。
まるで おとぎ話みたい…。
シンデレラみたい! すごい。
(カスミ)亜矢美ちゃんだって➡
あれじゃ 恋に落ちるしかないわよね。
(咲太郎)母ちゃんは 結婚の約束までしたんですよね その人と。
(カスミ)うん…。➡
だけど 伊崎君 大学を出る前に 学徒出陣でね…➡
そのまま 帰らぬ人となってしまったわ。
えっ…。
出征する直前 彼は 客席で立ち上がって叫んだ。
「岸川亜矢美 万歳!」って。➡
そして それっきり…。
(松井)あれだけの才能をな…。
(島貫)どんな天才でも 戦争に もってかれるしかなかったんだ。
鉄で出来た俺たちの風車と おんなじように。
私は あの人の才能に ほれたってわけじゃないからね。
才能ばっかり惜しまないでよ。
(茂木)でも まあ もう一度 見たかったな。➡
伊崎君の作品で踊る岸川亜矢美を 角筈屋ホールで! ハハハハ…。
ほら だから言ったでしょ。 最後は よ~くある話だって。
亜矢美さん… 悲しいけど すてきな話です。
(嗚咽)
(藤田)戦後の亜矢美は 見てられなかった… 痛々しくて…。➡
あのスターだった亜矢美が 生きる気力もなくして…。
親分 話を しめらせないで下さいよ。
(藤田)それを救ったのが咲太郎だ!➡
闇市で きったねえ 野良犬みてえな咲太郎を拾ってきて…。
ひでえな 親分。 (藤田)ハハハ…。
(藤田)それが 亜矢美の生きる力になったんだよ。➡
また 踊れるようになったんだよ。
(亜矢美)はい おしまい!
この話は おしまい。
ほら こうやって しんみりしちゃうから だから 話したくなかったの。
ごめんなさい。 そんな しめっぽく謝んないの。
よし 歌おう!
いいね カスミねえさん! よっ!
♬~
♬「紅いルージュにひかされて」
♬「今日もくるくる風車」
くる… くるくる回って…。 何言ってんだよ…。
亜矢美さんは? 眠ったよ。
酔い潰れるなんて珍しいね 亜矢美さんが。 そうだな。
あっ なつ 俺 今から事務所に戻るから 母ちゃんのこと よろしくな。
今から? うん。 やることがあるんだよ。
もう ほとんど そっちで暮らしてるみたいだね。
忙しいからな。 ふ~ん。
ねえ お兄ちゃん…。 うん?
亜矢美さんが 今まで結婚しなかったのは 伊崎さんって人がいたからなんだね。
俺も その話を聞いてからは 何も言えなくなった。
母ちゃんには また幸せになってほしかったけどな。
お兄ちゃんといることが 理由じゃなかったんだね。
バカ… そこまで 俺の面倒を見る義理はねえだろ。
うん… まあ そうだよね。
じゃ 母ちゃんのこと頼むな。
うん。
♬~
咲太郎…。
♬~
新しい年も 相変わらず なつは 仕事に追われる日々でした。
「百獣の王子サム」は 大人気となって➡
アニメーターや演出家も 次々と新しい人間が投入され➡
放送期間は 1年半にもなってゆきました。
(荒井)よっしゃ 今日も いったってや~! どんな感じ?
その間に なんと茜ちゃんが あの人と 電撃結婚をしました。
(一同)ええ~っ!
(下山)いや~ 一か八かで告白をしたら オーケーをもらいました。
(拍手)
皆さんの前で 僕は 永遠の愛を誓います!
(茜)いやいや… ここで誓わなくてもいいから!
(拍手)
(神地)ちょっと待った! 神っち…。
いや それはないよ 茜ちゃん!
(堀内)往生際が悪い。
自分でも驚いてるのよ。
でも… 前から好きだったって気付いたの。
(下山)僕も驚いています。
♬~(スピーカー「東洋行進曲」)
茜ちゃん 最後に俺と踊って下さい!
えっ? 君との別れのダンスを 体が覚えていれば➡
いつか 仕事の役に立つ時が 来ると思うんだ!
う… うん いいわよ。
あっ 手… はい。
あっ ちょっと あっち行って。 うわっ ちょっと おい…!
ステップ。 ステップ? ステップ。
何? これは…。 (坂場)さすが神っち…。
どんな時も前向きだわ。
♬~(スピーカー「東洋行進曲」)
ああ…。
♬~
(神地)ああ かわいい!➡
回って 回ろう 回ろう 回ろう… 回って 回って…➡
回ろう 回ろう…。
なつには 全く そんなこともなく テレビに追われる日々が続きました。
そして 翌年の春。
(井戸原)下山君。 君には 今度 長編映画の作画監督になってもらいたい。
作画監督?
(仲)原画や動画 全てを監修して 1本の作品に仕上げる➡
そういう責任がある者を 置こうと思ってるんだ。
つまり アニメーターの仕事を 全て指揮する監督だ。
いいね。 茜ちゃんを物にした 君のしたたかさに➡
我々は かけてるんだ。 それ 関係ないでしょう。
(井戸原)うん まあ 冗談なんだけどね。 は?
(井戸原)我々としては 君しかいないと思ってるんだよ。
分かりました。
そこで どんな企画をやりたいのか 演出家は 誰がいいか➡
それを考えて 我々に提案してくれないか。
はあ…。
あっ… だったら 演出は➡
イッキュウさん… 坂場一久君でお願いします。
いや 彼はダメだよ。 彼には テレビを 続けてもらうことになってるんだ。
なんとか 彼に チャンスを 与えてやってくれませんでしょうか?
仲さん お願いします。
長編漫画映画は 今 お客の数が減ってきてる。
失敗したら 後がないかもしれないよ。
だったら なおさら 僕と一緒にやるのは 坂場イッキュウしか考えられません!
♬~
どうしたんですか? ちょっと…。
えっ?
長編映画を? うん。
下山さんが 仲さんたちを 説き伏せてくれたんです。
あ そう… それは よかったですね。
もちろん 君にも テレビを抜けて➡
こっちの原画に 参加してもらいたいと思ってる。
うん… もし 会社が そうしろと言うなら 喜んで。
そ… そして もし…➡
もし この長編映画を成功させたら…➡
成功したら…➡
僕の人生には… 君が必要だということになります。
は?
僕と…。
えっ…。
ぼ… 僕と… 僕と…➡
僕と!
結婚して下さい。
結婚… してくれませんか?
なつよ… 出た。
「グレートトラバース3」。
日本を代表する三百の頂。
その全てを自らの足だけで踏破する➡
前代未聞の挑戦だ。
挑むのは…
(田中)フォ~!
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