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(夏目(なつめ))いらっしゃいませ
(夏目)プレゼントですか?
(陽子(ようこ))はい (夏目)そう
あの… 小さめの花束を 作ってほしいんですけど
ご家族にですか? どなたかのお誕生日とか?
あ… 全然 言いたくなければ大丈夫ですよ
あの 友達っていうか…
あ… 特に誕生日とかじゃ ないんですけど
学校の子?
そっか じゃあ その人のこと 少しだけ聞いてもいいですか?
いい花束 作るために 話せる範囲でいいんで
じゃあ その人は
活発な方ですか? おとなしい方ですか?
活発です
(夏目)部活とかもしてるのかな? (陽子)はい
(夏目)何部?
それはちょっと…
あっ 何部かで花も変わりますか?
アハッ ううん
言いたくないことは 言わなくても大丈夫です
よし…
あっ その人の好きな色とかって 分かりますか?
えー 色じゃなくっても好みとか
(陽子)んー…
あっ 意外と かわいい感じのものも好きかも
そうなんだ
じゃあ この中で その人に 合いそうな花ってあります?
あっ 黄色いお花がいいです
(夏目)これ? (陽子)はい
じゃあ これ入れよう
じゃあ… こんな感じで
はい
足りますかね?
ハッ… 全然
じゃあ… これだけ頂いても いいですか?
(陽子)え… いいんですか?
(夏目)うん
(陽子)ウソ ちゃんと取ってください 払うんで
ううん これで大丈夫です
残りのお金は 他のプレゼントとか デートに使ってください
(陽子)え?
映画見たりとか ね?
じゃあ… はい
うまくいきますように
(陽子)え?
いや そういうんじゃないですから
そっかそっか 失礼しました
(陽子)ありがとうございます
ありがとうございました
フフッ…
(木帆(きほ))いらっしゃいませ
(夏目)どうも (木帆)どうも
これ 取り替えちゃいますね
(木帆)お願いします (夏目)はい
(武田(たけだ))それは 私のことが 嫌いになったってこと?
(川上(かわかみ))そうじゃないよ
(武田)え… 私は 川上さんのこと好きなんだよ
(川上)いや 俺だってそうだよ
(武田)じゃあ なんで 別れようって話になるわけ?
(川上)それはさ… (武田)えっ なんで?
お互い好きなのに 別れなきゃいけないの?
だから 俺 無職だし 借金もあるし
けど まだ働くつもりもないし
知ってるよ
えっ そんなの知ってるって 言ってんじゃん
なんで今更 そういうこと言うの?
まだ奥さんのこと思ってるんだ
(川上)それはないよ (武田)じゃあ 何?
もう分かんないよ
正直ね…
うん
正直 俺も武田さんと 一緒になりたいと思ってた
それで 奥さんに きちんと話して別れたよ
(武田)うん
(川上)でも いざこうして―
武田さんと一緒になれるっていう 状況が整ってみると―
やっぱり 俺は あいつと一緒にいたときの方が…
いたときの方がって言うと あれだけど
バランスが 居心地がよかったんだよ
うん だから それは奥さんのことが まだ好きってことですよね?
違うって分かってよ
っていうか 分かってるよね? 武田さんと俺が釣り合わないって
釣り合わないって何?
私がもっと不細工で 年取ってて スタイルが悪かったらよかったの?
英語が話せることも マイナスってこと?
違うって
じゃあ 何?
武田さんといても苦しいんだよ
武田さんの人生 ダメにしてしまってる気がして
じゃあ どうするの?
奥さんの元に戻るの?
フッ そんな気はないよ
じゃあ 私でいいじゃん
今は 1人になりたい
1人になって自分の人生について きちんと考えたい
ダメかな?
別れてください お願いします
分かった
でも…
川上さんには 私より好きな人 一生できないと思います
(ドアが開く音)
(ドアが閉まる音)
ハァー
(川上)すいません なんか
(川上)こんなラーメン屋で (木帆)いえ
(はなをすする音)
え? なんで?
追いかけなくていいんですか? お互い好きなのに
あ… そんな好きでもなかったら あれなんですけど
なんかすいません…
違うんすよ
彼女のためっていうより 自分のためなんです
(お札を渡す音)
(木帆)ありがとうございました
(はなをすする音)
ハァー
はい
(夏目)あ… すいません すいません…
(はなをかむ音)
(都)おはよう (夏目)おー おはよう
今日もお願いしていい?
玄関は出れたんだけど 行く途中で ごねちゃって
いいよ
その代わり 今日も いろいろお手伝いしてもらうからな
(さほ)うん
じゃあ 18時に迎えに来るから
はーい
(都)じゃあね (さほ)じゃあね
いってらっしゃい
さほ 早速お手伝い
看板 外 出してきてもらえる?
うん
(足音)
(夏目)ありがとうございました (客)ありがとうございました
またお待ちしてます
フッ ん? どうした?
誠一(せいいち)叔父さん 男なのに なんで花屋さんになったの?
(夏目)えー? なんでだと思う?
分かんない
さほは? 花 好き?
好き
でもママは あんまり好きじゃないって
(夏目)そうなの?
うん だってね なんかね
お祝いかなんかで もらってきたときにね
“どうせすぐダメに なっちゃうのに”って言ってた
フッ…
(さほ)だから あげるのも もらうのも―
あんまり好きじゃないんだって
そっか
で?
ん?
(さほ)だから
男なのに なんで 花屋さんになったのって
聞いてるんだけど
んー…
それは… いらっしゃいませ (ドアが開く音)
(夏目)あれ? 宏美(ひろみ)ちゃん 学校は?
(宏美)3限から テスト明けで
それは 全員? 宏美ちゃんだけ?
うるさいな 宏美だけなわけないじゃんか
アハッ そっか ならいいんだけど
いつもの感じでいいんだよね? 色みはあった方がいいでしょ?
あっ 少し クリスマスっぽい感じにする?
(夏目)赤とか緑の (宏美)うん
オッケー
あれ? さほちゃん 今日も学校サボり?
やるじゃん
どれどれ お勉強 見てあげよっか
いい
いいよ いいよ 遠慮しないで
こないだ見てもらった算数のやつ 間違ってたし!
ウソだあ さすがに そこまでバカじゃないよ 私
小3の問題でしょ?
だって七の段 言えないでしょ?
言えるって いくよ?
7×1(しちいち)が7 7×2(しちに) 14 7×3(しちさん) 21…
(さほ)7×7(しちしち)? (宏美)42
ほら
あ… 49か
えっ でも ちょっと待って ちょっと待って
だって そんなのズルじゃん 順番にいかないと
7×1が7 7×2 14 7×3 21…
(夏目)7×7? (宏美)42
あっ 49! あーもうー
7×7 49! よし もうオッケー
7×1が7 7×2 14 7×3 21…
7×1が7 7×2 14 7×3 21…
(夏目の笑い声)
ねえ 笑わないでよ
7×7?
49!
(さほ)正解 (宏美)よし
(宏美)ただいま (由美子)おかえり
(宏美)花 取り替えとくね (由美子)うん
(ドアが閉まる音)
(由美子)私 やっぱり よく分かんないんだけどなあ
もう無理なの?
(麻里子(まりこ))うん
うん 自分の気持ちに これ以上ウソつけないから
(由美子)うん…
その相手に あなたの思いは伝えたの?
ううん
んー でも ほら それは順番が違うっていうか
修二(しゅうじ)さんに きちんと 話してからじゃないと それは
ん… その人は あなたのこと好きなわけでしょ?
んー 分かんない
(由美子)え? そうなの? (麻里子)うん
お互いに好きなわけじゃないの?
うん
あっ まあ 確認はしてないけど
でも それは関係ないの
私の気持ちが 彼に 向いてしまってるってことだから
でも それじゃあ 修二さんに ちょっとあんまりじゃない?
えっ でも 一緒にいるのに
私の気持ちが他に向いてる方が いけないことな気がするから
そんなこと 修二さんは 知らないわけでしょ?
えっ 知らないと その罪はないことになるわけ?
罪… だとは思ってるわけだ
はい これ よかったらどうぞ
えー すいません ありがとうは?
(さほ)ありがとう (木帆)いいえ
何ちゃん?
あっ さほです
最近 姉の仕事の都合で 近く引っ越してきて
で たまにな? 学校行けない日もあるみたいで
そう
フッ… さほちゃん
お姉ちゃんね 見て
“きほ” フフフッ…
お姉ちゃんもね 小学校 行ってないときあったんだよ
お姉ちゃん 小っちゃいとき
お母さん死んじゃったから お父さんしかいなかったんだけどね
お父さんラーメン屋でバカにされて で 学校行ったら
“ラーメンウーマン”とか “ラーメン娘”って言われて
あと“ラーメン臭(くせ)え”とか ひどくない?
(夏目)それで どうやって 行けるようになったんですか?
えー あんま覚えてないですねえ
なんとなくかな うん
好きな子とかいた?
好きな子? えー いたかなあ
えー なんでなんで?
(さほ)別に (木帆)えー?
さほちゃん いたの? 前の学校に好きな人
そっかあ なんて名前?
(さほ)はるみ (木帆)はるみ君?
そっかあ なんかいいなあ フフッ
ねえ ラーメン 好き?
うん 牛肉の次に好き
(夏目のせき) (木帆)ヘヘッ 牛肉の次に好きか
牛肉には勝てないか
牛肉は お母さんに お願いしてください
アッハハ…
じゃあ ギョーザは好き?
うん そっか えっ 牛肉よりは?
アハッ じゃあ 牛肉と はるみ君 どっちが好き?
(さほ)牛肉 (木帆)アッハハ
じゃあ 牛肉が一番だ フフッ
ギョーザ食べれば?
(木帆)うん (さほ)食べないよ
なんで もらったんだから食べなよ
なんで もらったんだから食べなよ
(木帆とさほの笑い声)
(木帆とさほの笑い声)
(さほ)じゃあ もらう (木帆)うん 食べて食べて
(さほ)おいしい (木帆)おいしい?
(木帆)よかったあ (さほ)おいしい
(さほ)好きなの? (夏目)え?
(さほ)誠一叔父さんは 木帆さんのことが好きなの?
え? 別に好きじゃないよ
(さほ)そうなの? (夏目)うん えっ なんで?
好きそうに見えた?
そっか… じゃあ 片思いか
片思い?
だって あの人 誠一叔父さんのこと好きでしょ?
好きじゃないでしょ
えっ なんで? な… なんで そう思ったの?
なんとなく
(夏目)なんとなく? (さほ)うん
(夏目)何? (さほ)フッ… うれしそう
えっ そう?
だって笑ってるじゃん
笑ってないよ
(さほ)恥ずかしいくせに (夏目)違うよ 何?
よっ
(陽子)どうも
(宏美)何?
えっ 何?
(陽子)あの…
ずっと前から 宏美先輩のことが好きでした
つきあってください
え?
あ… あの つきあうとかは 別にいいです
その… これからも 仲良くしてください
だって もうすぐ 先輩 卒業しちゃうから
スポーツ推薦で 多田(ただ)高 行くんですよね?
そうだね…
お弁当 食べた?
食べてないです
一緒に食べる?
えっ いいんですか?
(宏美)うん
じゃあ 取ってきてもいいですか?
(宏美)ダッシュね
はい フフッ
(修二)そのことは 夏目さんも もちろん知ってるんだよね?
(麻里子)ううん まだ伝えてない
(修二)えっ そうなの?
うん
でも 夏目さんも 麻里子のこと好きなんだよね?
それも分かんない
えっ… ちょっと待って
え? 2人きりでよく会ったり してたわけじゃないの?
うん 花を飾りに 来てもらったときに
お茶を出して 話したりするぐらい
それだけ?
うん
それだけなのに俺と別れたいの?
え…
それは信じていいの?
うん
なんで俺に そんなこと話したの?
ん? な… なんで?
(修二)だって 話さない方法も あったでしょ?
もっとうまくやるっていうか
夏目さんと もうちょっとうまくいってから―
俺に言うことだってできただろうし
ずっと言わないことだって できただろうし
なんでだろ…
分かんない
あっ でも まず最初に 修二さんに話すべきことだと思って
最低だよね
ごめんね
(麻里子)え?
ごめん その悩みに 気づいてあげられなくて
俺は 麻里子がしたいように したらいいと思う
もし 夏目さんとうまくいくなら それでもいいし
うまくいかなくて 戻ってきたいと思えば
いつでも戻ってきていいし
だから どうかな?
俺と別れる前に 夏目さんに 思いを伝えてみたら?
もしダメだったら またそんとき考えればいいし
それじゃダメかな?
もう遅い?
なんで?
(修二)ん?
なんで そんなに優しくするの?
私がしてることは
殴られても どなられても おかしくないことなんだよ
そういうの よく分かんないや
俺 麻里子のこと好きだから フッ…
ありがとね 話してくれて
いつから?
(陽子)ん?
いつから私のこと好きだったの?
えっ いつからだろう
気づいてました?
いや 全然
でも なんで今?
3月とかさ 卒業式とかだったら まだ分かるけど
気まずくない? まだ12月だよ
それに せめて放課後じゃない? これ
あっ そうですよね ごめんなさい…
あー いや 別にいいんだけど
だって ライバルが多いから
え?
宏美先輩のこと好きな子 2年にいっぱいいるんです
えっ そうなの?
えっ まだ誰からも 告られてないですか?
まだ12月だからね
アハッ… そっか
えっ ちなみに 誰が私のこと好きなの?
えっ なんでですか?
いや 単なる興味
気になる子 いるんですか?
いや そういうんじゃないから 単なる興味だって言ってんじゃん
マジでやめてくださいね 私以外の2年とつきあうの
いや ないから
で 誰?
佐藤(さとう)でしょ
あー 佐藤ね
んと… 鈴本(すずもと)でしょ
なるほど 鈴本
あとは栗田(くりた)でしょ
えっ 栗田も?
ほらー 絶対そう言うと思った
いや ごめんごめん
栗田は だって ちょっと美少女だから
(宏美)もう ごめんて (陽子)フッ…
ありがとう
でも ごめんね
ううん 全然
こっちこそ ごめんなさい
(宏美)ねえ (陽子)ん?
この花って どこで買った?
え?
これ どこで買った?
あっ あの “MELLOW(メロウ)”って知ってます?
知ってる
フフッ… やっぱ宏美先輩って すごいですね
だって私 わざわざ 調べて行ったんですよ
この辺で一番オシャレな花屋
あっ ほら うち美容室だから 店に飾る花を そこで買ってて
あー そうなんですね
(ニオイを嗅ぐ音)
(宏美)ウフッ… (陽子)ちょっと
(陽子と宏美の笑い声)
(陽子)宏美先輩って 今 好きな人いるんですか?
いるよ
(陽子)あっ いるんだ
うん いる
(陽子)伝えないんですか?
伝えない
(陽子)なんで? かなわないから?
そうねえ
(陽子)私の知ってる人ですか?
そうね
(陽子)えっ 誰ですか?
絶対 言わない
(陽子)絶対 言わないです
いや 違う違う 絶対教えないってこと
(陽子)えー 教えてくださいよ
カッコいい?
うん カッコいいし かわいい
(陽子)かわいい? えっ 誰?
今日の放課後 顔 出していい?
(陽子)もちろん
これは?
いいよ さほ 置いてみ
フッ…
かわいいじゃん
でも なんか虫さんみたいだからさ
こうやって置かない?
(さほ)キレイ (夏目)ねっ
これ かわいいじゃん じゃ これも入れよっか
うん
どうでしょう
フッ… すごくステキだと思います
ありがとうございます
あ… どうも お邪魔してます
キレイですね
(夏目) あ… ありがとうございます
(ニオイを嗅ぐ音)
え… で お話というのは?
俺から話していい?
うん
あ… 実は 私たち 別れることになりまして
えっ?
お恥ずかしいかぎりですが
そうだったんですか…
あっ いや 全然…
そうですか…
それで… そう
麻里子から夏目さんに
どうしても伝えたいことが あるみたいで
なんでしょうか?
お花の契約なら お気になさらずに
あの 私 夏目さんのことが 好きなんです
えっ?
2週間に一度
夏目さんが うちの玄関の花を 届けに来てくださる
それをとても楽しみにしてる自分に 気づいてしまいまして
でも それは花を楽しんで いただいてたわけではなく?
あっ もちろん花も楽しんでます
花も夏目さんの一部ですから
まあ でも正直 花よりも夏目さんに惹(ひ)かれていて
そういう意味では もう本当 花は どうでもよくなってきていて
おい それは彼に失礼だろ
いえ もうそれはどちらでも
(麻里子)アハッ… 日々 玄関の花を見るたびに
夏目さんのことを考えてしまって
修二さんよりも 夏目さんに惹かれているのに―
修二さんと このまま一緒にいるのは―
修二さんにも 失礼なんじゃないかなあと―
そう思うようになってきていて
好きです
いやいや ちょっと…
好きです
そのことを…
えっ? そのことは 旦那さん的にどう… あ…
え? 旦那さんは それでいいんですか?
はい?
いや… 青木(あおき)さんが
僕を好いていて
それで別れるみたいな話に なっているのは
全然いいんですか?
いいわけないじゃないですか
そうですよね?
えっ じゃあ なんで 旦那さんの目の前で こんな話…
え… だってイヤですよね?
でも 麻里子のことが好きだから
好きな人が困っていたら 助けてあげたいっていうのは
普通の気持ちじゃないですか?
いや そうですけど…
好きです
(修二)麻里子は 夏目さんのことが好きで
でも言えずにいて ツラそうにしていたんです
夏目さんの気持ちも分からないし
私に対しても罪悪感を抱えていて
でも きっとできることなら 私と別れて―
夏目さんと つきあいたいと 思っている
それが本当の気持ちなんだけど
それがよくないことだと分かってて
そんな麻里子に 私がしてやれることって
夏目さんと きちんと話す場を 作ることなんじゃないかなと思って
ありがとう
いや “ありがとう”じゃ ないですって
青木さん おかしいですって
旦那さんの気持ちは どうでもいいんですか?
夏目さんは 正直 麻里子のこと どう思いますか?
女性として
いや… そりゃ 魅力的だなとは思ってますよ
あ… 思ってましたよ
花のことも知りたがってくださるし
いつも お茶まで ごちそうしていただいて
おキレイですし
まあ…
(夏目)だから “まあ”じゃないんですよ
やっぱおかしいですって
せめて旦那さんが… いないときにする話ですよね
1対1のときとかに する話ですよね?
そしたら僕も
“ごめんなさい その気持ちはありません”
“これからも どうぞ旦那さんと 幸せに暮らしてください”って
言えましたよ
あの し… 失礼すぎるでしょ…
どっちが失礼ですかね?
え?
私の知らないところで
そうやって お互いの気持ちを 確認し合って
私の知らないところで―
確実にあった あなたへの愛情を なかったことにして
で 私と暮らしていく
その方が…
その方が よっぽど 失礼じゃないですか?
あなたに妻を責める権利が ありますか?
こんなに正直な妻を
どうして あなたが 責められるんですか?
いやいや ちょ… ちょっと待ってくださいよ
僕 旦那さんのために話してるのに
なんで逆に僕が責められなきゃ いけないんですか?
隠せばいいみたいな 間違ったこと言ってるからですよ
最低だな あんた
いや あの おかしいのは あなたたちの方ですから
もうやめましょ
“もうやめましょ”って
あなたのために 今 話してるんですよ
そうだよ いいのか? この人と一緒になれなくても
なんで一緒になれると 思ってるんですか この流れで
おかしいでしょ
ごめんなさい 私が間違ってました
もう あの 今日のことは 忘れてください
あの 夏目さんは もう何事もなかったように
これからも あの 玄関の花を 届けてくださればいいですから
そんなことできるわけないでしょ
えー でも だって さっきご自分で おっしゃったじゃないですか
こんなこと 3人で話すことじゃないって
せめて1対1で話していたら―
何もなかったようなフリして これからも暮らしていけたのにって
だから 私はもう あの
何事もなかったように 暮らしていきますので
もう あの 全部 忘れてください
それは 2人で話した場合の話で…
もう あの 全部 私が悪いんです もう それでいいですから
“それでいいですから”って…
いや そうですからね 実際
ちょっと もうこれ以上
麻里子のこと 傷つけないでもらえますか?
あなたには 人の心がないのか?
はあ?
帰ってください
え?
帰れよ もう
(麻里子)ケンカはやめて (夏目)あっ いや 帰りますけど
あの 話があるって言ったの そちらですから
そうだよ だからなんだよ
(夏目)“だからなんだよ”?
(修二)帰るのか (麻里子)ちょっと
(修二)帰るのか (麻里子)ちょっと やだ やだやだ
おい
大丈夫?
(夏目)大丈夫
ハァー
(ダッシュボードの開閉音)
(さほ)タバコ吸うんだ
たまーに
なんで? イヤ?
ううん でも毒だよ
毒だけどね たまーに
さほはさ はるみ君に会いたい?
そっか
大人って やだな
自分たちの都合でな
でも しょうがないことも あるんじゃない?
よし… 行こっか
(部員たちの練習する声)
(ナツキ)陽子 (陽子)宏美先輩
(宏美)ナナエ (ナナエ)佐藤
(佐藤)イイノ
(イイノ)栗田 (栗田)ナツキ
(ナツキ)陽子 (陽子)宏美先輩
(部員たち)おお
(戸が開く音)
ママ
お疲れさま
お疲れ
さほ 今日はいろいろとごめんね
はい
お母さんは 要らないって言うかもだけど
ありがとう
じゃあ もしかしたら また明日?
(さほ)また明日… (都)やめてよ
明日は 学校 行きなさいよ
(さほ)はい… (夏目)アッハハ…
(都)じゃあね (夏目)うん
(さほ)バイバイ (夏目)バイバイ
また今度ねー
(夏目)うん いつでもおいで
日曜日にね
(さほ)また日曜日にねー
はいはい じゃあね
ハァー
大丈夫ですか?
あ… ちょっといろいろあって…
(木帆)お仕事ですか?
そう…
そうですか
あ… 青木さん いるじゃないですか
結婚式で 僕が 花を担当していたご夫婦
ああー あの あれですよね 玄関の花を飾りに行ってる
(夏目)そうです (木帆)ああ
青木さんが どうかしたんですか?
あっ いや…
やっぱいいです
えー なんですか 聞きますよ 私でよければ
あ… あの この前 飾りに行ったら
はい
私たち 別れることになったんです って言われて…
えー どうして?
その… 奥さんが僕のことを 好きになったと言われて
えっ 夏目さんを?
そんなことあります? しかも それを
ご夫婦そろってる場で 言われたんですよ
え? えっ 旦那さんもいる前で?
そう
(木帆)えっ ありえない (夏目)でしょ?
え? で どうしたんですか?
いろいろあって
旦那さんに ブチギレられました
えー なんで?
ん… いろいろあって
(木帆)ふーん
旦那さんに失礼ですよとか いろいろ話してたら
逆に失礼だとか
これ以上 妻を傷つけないで もらえますかとか言われて
はあ?
最終的には
あなたには 人の心がないのか とまで言われました
えー 何それ めっちゃ面白いですね
いやいや ひと事すぎるから
(木帆の笑い声)
ふーん
えっ 夏目さんってモテるんですね
えっ?
(木帆)よく告白とか されたりするんですか?
いや 全然
モテないですよ
ふーん
えっ どうなんですか? その 彼女とかそういうのは
(夏目)いないですねえ…
花が恋人ですよ
花が? アッハハ…
えっ 欲しい人なんですか? 要らない人? そういうの
普通に欲しいですけど
うん… そうなんですね
(夏目)はい
えっ どうなんですか?
ラーメンウーマンは モテないですか?
ちょっと…
そういうとこじゃないですか? 夏目さん モテないの
(木帆と夏目の笑い声)
(夏目)そっか (木帆)そうですよ
(夏目)すいません (木帆)フフッ…
うん… 僕はいいんですけどね
花が かわいそうだなあと思って
(夏目)ごちそうさまでした
ありがとうございます
うちのラーメン おいしいですか?
え? まあ おいしいですよ
ホントは? お父さんのときとは やっぱ違う?
まあ それは違うかな…
そうですよね うん
実は…
この店 畳もうと思ってるんです
え?
(木帆)今月の23日で
そっか…
はい
えっ お店 閉めること 掲示したりしないんですか?
貼り出したり
あー そういうの した方がいいですかねえ
そりゃそうですよ
なんか そういうの イヤなんですよねえ
どうして?
んー なんか 終わるのが 分かってるから来る人の気持ちって
所詮 その程度っていうか
ほら もうすぐ死ぬ人の お見舞いとか
んー なくなっちゃう映画館に 通うとか
なんか そういうのは
んー なんか あれなんですよね 埋め合わせって感じがして
そうかな?
みんな 忙しいから 大切だけど忘れちゃってるだけで
そこに ちゃんと 愛情はあると思うけど
んー でも それって 相手のためっていうより
自分のためですよね?
え?
“最後に 自分が そこに行った”とか
“最後に その人に会えた” っていうのが大事なだけでしょ?
それって 愛情じゃなくて 情じゃないですか?
ヘタしたら同情でしょ?
情じゃダメかな?
(木帆)え?
どんな形であれ
ちゃんとそこに気持ちがあること 僕だったら うれしいけど
あ… よく分かんないけど ただ…
ふっとなくなったら悲しむ人 絶対いると思う
(左近(さこん))まあ これしか できなくなっちまったからなあ
(夏目)やっぱり 悔しかったですか?
ん?
そんなバリバリ働いてたのに 左手ダメになって
んー…
まあ でも自業自得だからな
当時は いい時代だったから
左手がダメになったとき
オーナーにならないかって話も あったんだけど
ほら 人間関係とか めんどくさいのなあ?
そういうの 苦手そうですもんね
いや 金 数えるより 料理 作ってる方が楽しいしな
ちょっと 腕まくってみ
はい
ハァー
(夏目)ホントだ 全然違う (左近)うん
これ
なんですか?
これ あいつが ラーメン屋を辞めるときに
渡してやってくれないかな
こんなこと頼めるの 夏目君ぐらいしかいないから
な?
(弘子(ひろこ))海外に行くつもり っていう話はしたの?
ううん
(弘子)それも言わないの?
うん
いや 言う必要がないっていうか
(弘子)まあ そうだけどさあ…
うん
(弘子)じゃあ 聞くけどさ (木帆)ん?
もし もしね 木帆が告白して オッケーだったらどうすんの?
行くのやめる?
フッ… やめないよ
(弘子)そうなの? (木帆)うん
いや それとこれとは別っていうか
まあ そうだけど…
うん
いや まず告白しないから フッ…
えー だって…
どう? 弘子だったら伝える?
伝える
だって もう会えなくなるんだよ
なんか悔しいじゃん いない間に しれっと彼女とかできてたら
だから 自己満でも ダメもとでもいいから伝えると思う
えっ すぐ海外 旅立つとしても?
うん なかったことに したくないっていうか
その気持ちを
ふーん…
いや でも離れるから伝えるって 相当なエゴだよね
離れるなら伝えなくてもいいって 思っちゃうけど
じゃ その気持ちは誰が知るの?
えー? 誰も知らないままだよ
ってか ほとんどの 好きって気持ちって
表立って やりとりされないもんでしょ
そうかなあ…
(木帆)うん
そうかも
まあ 好きってことは 言わなくてもいいけど
海外に行くってことは言ったら?
よく分かんないけど
ふっといなくなったら 悲しむ人いると思うけどね
夏目さんに限らず
フフッ
何?
え? ううん
(由美子)いらっしゃいませ
ご無沙汰してます
(由美子)え… え? あ…
(由美子)あらー 木帆ちゃん? (木帆)はい
(由美子)久しぶり いやー べっぴんさんになったねえ
いやいや… そんなことないです
(由美子)でもどうして?
(木帆)なんか なんとなく 懐かしくなって
(由美子)ふーん そう
えっ このお店って どのくらい続けてるんですか?
うーんと ちょうど今年で24年かな
え? 24年って 全然ちょうどじゃないですけど
アッハハ ホントだね
同い年だ…
(由美子)ん?
このお店と私 同い年
ああ そう
そりゃ おばちゃんも 年取るわけだねえ
でも すごいですねえ 24年も続けてるって
んー なんにも すごいことなんかないよ
ただ続けてるだけで
まあ これしかできないからね フフッ…
(さほ)えー すごい
やってみ
(さほ)この辺 持って (夏目)いいよ
(さほ)これでいい? (夏目)うん
(さほ)下の方を切る (夏目)おっ 上手
キレイ
(夏目)はい じゃあ 次こっち (さほ)はい
もうちょっと上かな
(さほ)これぐらい? (夏目)いいよ
よっ
(陽子)どうも
なんですか?
やっぱ…
私も言おうかなと思って
(陽子)え?
好きって
つきあってくれる?
お願い どうせフラれるから ね?
(由美子)どうかな?
フッ… うん
(木帆)おばちゃん
(由美子)ん?
私 お店 畳むことにした
ああ そう
(木帆)うん
お店 畳むっていうの 知らせるチラシとか作ったら
持ってきてもいい?
うんうん もちろん
じゃ おばちゃん 食べに行かなきゃね
うん
(戸が開く音) いらっしゃいませ
(夏目)あれ? (陽子)どうも
部活の後輩
へえー
(夏目)はい どうぞ
(陽子)ありがとうございます (宏美)どうも
陽子ちゃん どうだった?
え?
ああ… ううん
そっか
うん
“ありがとう でも ごめんね”って
ごめんね 力になれなくって
ううん 全然
ちゃんと伝えられてよかったです
そっか…
えっ 陽子ちゃんの好きな人はさ 宏美ちゃんも知ってる人なの?
(宏美)うん (夏目)へえ
どうなの? やっぱカッコいい?
どうだろう
カッコいいです
そうなんだ
(夏目)花は? (陽子)ん?
花は受け取ってくれた?
はい
よかったあ
花が好きな人に 悪い人いないから
それ 自分で言う?
だな
(3人の笑い声)
好きな人がいるって
(夏目)ん?
好きな人がいるって 言われちゃいました
そっか
ん?
(陽子)あの… (夏目)うん
お茶 お代わりしてもいいですか?
いいよ あっ いいよいいよ 俺 持ってくるから うん
(宏美のため息)
大丈夫ですか?
うん 大丈夫
私 いたら言いにくいですよね?
えっ?
私 先帰りましょうか?
いや いて
ってか やっぱいいや 今日 言わなくて
え?
言えない 言えないよ 恥ずかしすぎて
ホントに言わないんですか?
うん
今日はやめとく
またいつかの機会でいいや
(陽子)私から言いましょうか?
(宏美)いや なんでよ 絶対やめて
また改めてにする
私は3月でいいや やっぱ
でも好きなんですよね?
そうだけど…
(足音)
(夏目)はい (陽子)ありがとうございます
宏美ちゃんは?
え?
宏美ちゃん ないの? そういう話
(せき込み)
(夏目)大丈夫? (陽子)大丈夫です
(宏美)あっ 夏目さ (夏目)うん
前に 男子って ある時期
みんな 花を嫌いになる って話 してたじゃん
んー まあ 嫌いとは ちょっと違うけど
なんか 恥ずかしいとか カッコ悪いとか思うんじゃないかな
小学校の高学年くらいになると
それこそ 誰かを 好きになったりとか
異性を意識し始めたときとか なんか あるじゃん そういうの
夏目は?
夏目は そういう時期なかったの? 小学生のときとか 中学生のとき
どうだろな…
でも 花はずっと好きだったよ
好きな人 できたりしなかったの?
いや いたよ 好きな人
えー でもカッコ悪いとか 思わなかったの?
自分が花を好きなこと
思わなかった
なんで?
俺が好きになった女の子の家がさ 花屋だったんだよね
えっ まさか それで花屋になったの?
まあ それもあるかなあ
えー ステキ
えー なんか気持ち悪いよ
なんでだよ いいだろ 別に
でも それとは関係なくても ずーっと花は好きだったよ
(宏美)そっか (夏目)うん
(陽子)伝えたんですか? (夏目)ん?
その好きだった子に 好きって伝えたんですか?
伝えた
そしたら?
“ありがとう でも ごめんなさい”って
私と一緒
そうだね
でも なんでダメだったんですか?
(夏目)ん? (陽子)他に好きな子がいたとか?
あっ うーん…
俺もね 陽子ちゃんみたいに 花を用意してね
好きですって言ったの
うん
で その花を 他の店で買ったんだよね
だって恥ずかしいでしょ その子の店で花買うの
その子のお父さんとか お母さんの前で 花買ってさ
それを娘に渡すっていうのが どうしてもできなくって
だから 近所の別の花屋で 花買って
その子にプレゼントしたんだよね
うん
それがイヤだったみたい
えっ それでフラれたの?
うん この花 どこで買ったの? って聞かれた
(宏美)フフッ マジで? (夏目)マジ
(宏美)そんなことで? (夏目)うん
えっ それで納得したの?
んー 納得はしてないけど
でも そんなイヤだったのかあ って思った
(宏美)ふーん
(夏目)うん
(宏美)えっ でも それってさ (夏目)うん
その子 ホントは 他に好きな子がいたけど
そう言ったら傷つくと思って
他の店で花を買ったから ってことにしたんじゃない?
なんでよ なんで そんなこと言うの?
えっ だってありえないでしょ そんな理由
夏目のこと好きだったら
他の店で買っても 絶対オッケーするっしょ
そうなの?
そうだよ
いや 違うね
あれは 他の店で買ったから ダメだったんだよ
あの子の店で買ってたら うん きっとうまくいってたんだよ
じゃあ そうだね それでいいよ
え?
そう思ってた方が幸せだもんねえ
(夏目)なんか ひどくない? (陽子)フッ…
でも 夏目さんは
ちゃんと告白しただけ 偉いと思います
伝えたからこそ 今 こうやって笑えてるわけだし
いや 笑える話をしたつもりは なかったんだけどね
あっ すいません そういう意味じゃなくて…
いやいや いいよ 全然
そうだね
んー 伝えたことを 後悔はしてないかな
じゃあ 私 そろそろ帰りますね
あっ 私も
(陽子)えっ いいんですか? (宏美)いいよ
何 宏美ちゃんも一緒に帰る?
うん 一緒に帰る
じゃ 気をつけてね
(宏美)はーい
(夏目)宏美ちゃん またね (宏美)うん
(夏目)バイバーイ 気をつけてよ (宏美)はーい
ごめんな さほ うるさかった?
ううん なんか面白かった
あっそう
え? これ俺?
(さほ)うん (夏目)かわいい
(さほ)え? (夏目)ほっぺ赤いじゃん
(さほ)えっ かわいいの好きなの?
(夏目)うん 好きよ これ えっ これ 宏美ちゃん?
(さほ)そう (夏目)似てる
(さほ)でしょ? (夏目)うん かわいい
(夏目)ただ毛量 多くない?
(さほ)別にいいじゃん
(夏目)いや うん い… いいけど
(さほ)かわいく描けたのには こういうふうにしたの
(夏目)毛量 大事だよね
よかったんですか? 言わなくて
うん
今日じゃなかったと思う なんか
なんか ごめんね つきあわせちゃって
(陽子)ううん また誘ってください
うん ありがとう
(陽子)フフッ…
佐藤 どうしたの?
あの…
私も宏美先輩のことが好きです つきあってください
佐藤 あのね…
(佐藤)あっ この前 陽子が 屋上で告白したとき
私 たまたま屋上にいて 陽子がフラれたの陰から見てて
それ見るまでは 正直
告白してフラれて 気まずくなるのがイヤで
それで伝えなくてもいいかなって 思ってたんですけど
でも告白したあと―
陽子と宏美先輩 なんか 仲いいの見てて
なんかツラくて 羨ましくて
だから私も ちゃんと伝えようと思って
それで…
ありがとう
でも ごめんね
いや 全然
ただ伝えたかっただけだから
今度 休みのとき どっか ごはん食べ行こう
3人で
(佐藤)えっ いいんですか? (宏美)うん
もちろん
なんで あんたが偉そうなのよ
(陽子)だって先輩ですから 告白した順番的には
(陽子と宏美の笑い声)
(木帆)いらっしゃいませ
掲示したんですね 貼り紙
はい
あれ? 髪形…
あっ… はい
ウフッ…
はい フフッ…
(客)はい (木帆)ありがとうございます
(木帆)あの 夏目さん (夏目)はい
あの ちょっと お願いがあるんですけど
なんでしょう?
あの お店を閉める 最後の日なんですけど
はい
(鳥の鳴き声)
えっ どうしたの? こんな朝早く
ちょっと…
(宏美)あのね (夏目)うん
私…
夏目のことが好きなんだよね
え?
(宏美)昨日 伝えようと思ったんだけど
なんか 恥ずかしくて言えなくて
(夏目)そっか
うん
あー あのさ…
あっ 返事はいいの
私 中学生だし 夏目が私のこと
そんなふうに見てないのは 分かってるっていうか
逆に見てたら怖いし
好きになってないっていうか…
う… うん うん
(宏美)でも なんか
昨日 言おうと思って 言えずにいてね
そしたら 昨日の夜から朝まで 全然 眠れなくて
気持ち悪くなっちゃって
そっか
ありがとう
でも ごめんなさい
一緒だ
うん
お代わり飲む? 時間 大丈夫?
うん 大丈夫
(メールの受信音)
(足音)
(夏目)はい
アッハ…
ああ さほのお母さん
今日は ちゃんと学校行けたって
フッ…
(夏目)宏美ちゃんは?
ん?
(夏目)んー…
宏美さんは ちゃんと 学校行けますか?
(宏美)フフッ (夏目)フフフ…
(部員たち) ファイト! ファイト!
ファイトー!
ファイト ファイト!
ファイトー!
(夏目)おはようございます (木帆)おはようございます
(夏目)これ
ありがとうございます すごーい
100本あります
ありがとうございます
キレイですねえ
よかった
フフフッ
(宏美)んー
(3人の笑い声)
(木帆)どうぞ (宏美)ありがとうございます
(木帆)はい どうぞ (陽子)ごちそうさまでした
(木帆)はい どうぞ (佐藤)ありがとうございます
はい ありがとうございました
(宏美たち)ごちそうさまでした
(木帆)ありがとうございました
最後のお客さん
あっ はい…
(木帆)あっ アッハハ… さっきの方たちです
(夏目)あっ ああ… すいません
(木帆)あの 夏目さんの分ありますから
あっ 頂きます
(木帆)はい (夏目)はい
(木帆)あっ (夏目)はい
(木帆)ありがとうございます (夏目)いいえ
(湯切りする音)
はい どうぞ
(ドアが開く音)
(おじいさん)まだ間に合うかい? ラーメンちょうだい
アーッ
んー!
アーッ
アーッ
おごっつぉーさん
いくら?
(木帆)500円になります
あーら 昔と変わってねんだなあ
そうなんです ずーっと500円
んー それじゃ大変だっぺよ
もっとうまくやんねえと いけねえんだわ
商売なんだからさあ
そうなんですよねえ うまくなくて 商売
だから今日で閉店なんです
(おじいさん)そうかい (木帆)はい
(おじいさん)ふーん
親父(おやじ)さんに似たんだな その辺りも
え?
(おじいさん)はい よいしょ…
はい
頂きます
あっ あの もしよかったらどうぞ
(おじいさん) あら もらえんのかい?
(木帆)はい お邪魔でなければ
(おじいさん)じゃあ 帰ったら すぐ仏壇に上げっぺ
うちの母ちゃん 花 大好きだったから
ありがとね
ありがとうございました
(おじいさん)はい ごちそうさん (ドアが開く音)
(ドアが閉まる音)
(鈴(りん)の音)
下 片づけちゃいます
はい
フゥー
ねえ お父さんがさ
ラーメン屋やる前に 何してたか聞いたことある?
えー 聞いたことないです なんですか?
(夏目)イタリアンのシェフ
(木帆)えー ウソだあ (夏目)ホント
えー いつですか? 私が生まれる前?
(夏目)うん
前に お見舞い行ったとき 聞いたんだけどね
それはそれは ものすごい数の料理を
同時に作ってたんだって
大きいフライパン 左手で ずーっと振り続けてたら
ひどい けんしょう炎に なっちゃったんだって
それで もう料理人は無理かな って思って―
結構 落ち込んでたときに―
屋台でラーメン食べたんだって
その屋台のオヤジさんが
左腕が なかったんだって
右手1本でラーメン作ってるの見て
“あっ ラーメン屋だったら 左手に力が入らなくてもできる”
って思ったんだって
そうだったんですね
(夏目)うん それで この店 始めたって言ってた
そうだったんだ
(夏目)うん
んー…
道理で かなわないわけだ
(夏目)ん?
ん? 味
私 留学しようかなって 思ってるんです
えっ?
建築の勉強がしたくて
建築?
そう
もともと大学行ってるときに そういう勉強したいって思ってて
で 建築を学ぶからには 留学したいって思ってるやさきに
お父さんが倒れたんです
うん だから まあ そこからやり直したいっていうか
そっか
どこ行くんですか? ヨーロッパ?
そうですね イタリアに
イタリア?
そう アッハ… たまたま
(2人の笑い声)
へえ 全然知らなかった
アハッ だって大学のときの 友達しか言ってないですもん
誰にも言ってない
お父さんは知ってたの?
ううん
そっか…
うん
自分のやりたいことあったのに
ずーっと ラーメン屋 続けてたって…
偉いね
んー いや まさかこんな長くやると 思ってなかったから
いや すぐ退院すると思ってたし
そうだよね
お父さんが倒れたとき
正直 ちょっと助かったって 思ったんです
助かった?
(木帆)そう
海外 行くこと迷ってたから
なんか 自分の意志じゃなく 行けなくなって助かったっていうか
“ああ 今じゃなかったんだ”って なんか安心したんです
なんか自信もなかったし
でも 今は明確に行きたいって 思えるんです
きっかけは なんだったの?
ん?
そこまで心を決めた何かって 何?
うん 憧れかな
憧れ?
うん
あの…
これ
(夏目)ん?
帰ったら読んでください
うん
ホントに いろいろ ありがとうございました
こちらこそ ありがとうございました
(左近)木帆へ
お父さんの代わりに 今までお店をありがとう
今 木帆は何歳になっているのかな
30代? 40代?
逆に すぐ畳んでしまって まだ20代ってこともあるのかな
なんとなく そんな気もしています
小学校の時にラーメン屋のせいで 学校で少しいじめられたこと
そして 学校に行けなくなって しまったこともあった木帆が―
ラーメン屋を継いでくれたこと
すごく嬉(うれ)しかったです
今はラーメンが好きかな?
でも お父さんのことは嫌いかな?
お父さんは ひとつ大きな間違いを 犯してしまいました
実は 木帆が 海外に行こうとしていたこと―
お父さんは知っていました
お見舞いに来てくれた 木帆の友達から聞いていたんです
今思えば その時に―
お父さんは言わなければ いけなかったんだと思う
お店はいいから 好きなことをしろって
でも 心の中では不安もあった
ひとり娘を海外に行かせること
日本ですら 一人暮らしを していなかった娘が―
ひとりでやっていけるのかどうか
だから お見舞いに来た木帆に―
店のことはいいとは言えなかった
ごめんな
あとひとつ 夏目君のことも頭にあった
俺の勘違いかもしれないが―
あいつは 木帆に惚(ほ)れてる
だから 木帆には ここにいてほしかったんだ
“今更こんなことを言うのは―”
“都合が良すぎるかも しれないけど―”
“木帆には 好きなように 生きてほしいし―”
“木帆の幸せを願っています”
“それでは あっちでお母さんと 幸せに過ごしています”
“夏目さんへ”
(木帆)私は 夏目さんのことが好きです
いつから好きになったのかは とても曖昧ですが―
好きだなと実感する瞬間は 何度もありました
別れ話をしているカップルの 話を聞いて 泣いてしまったとき
不登校の姪(めい)っ子に対する距離感
私は正直 父のラーメンに対して―
何か思い入れがあるわけでは ありませんでした
でも このお店が好きで―
この場所がなくなってしまうことが とても嫌でした
あと 私は夏目さんに 甘えすぎている
実は それも―
このお店を畳もうと思った 1つの理由でもあります
たまに苦しくなるんです 甘えていることに
でも その意志も弱くて 父が倒れたことを言い訳に―
そういう 人の集う“場”を 作れる人になりたい
留学する前に告白するなんて―
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