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それでは
「icy tail」初ワンマンライブの大成功を祝って
かんぱーい
よっしゃー ここはトモのおごりだから 遠慮なくいくぞ
店員さん
まずは 上タン 上カルビ 上ロース 上ミノ
全部10人前ずつと…
上禁止!
いやー それにしてもやっぱワンマンって最高だね トモ
そうそう
みんな わたしたちのためだけに集まってたんだもんね
それもあんなに たくさん
楽屋広かったよね
いつもは押し合いへし合いなのにさー
よかったとこ そこなの?
いやー でも…
やりましたね 倫也先輩
わたしたちの新作プロモーションも大成功ですよ
ああ
それもこれも 出海ちゃんが頑張ってくれたおかげだよ
でも キービジュアル描き上がったの今朝の10時でしたけどね
おかげで物販の設営もギリギリになっちゃって…
そんなの謝る必要なんてない
出海ちゃんはサークルのために死に物狂いで頑張った
なら わたしたちがカバーするのは
サークルメンバーとして当然のことだよ
恵さん…
それより問題なのは
そうやってサークルのみんなが忙しく働いているのに
なんにも手伝わずに一人のんびりしてたメンバーがいたことなんじゃないかな
加藤…
それはひょっとして 僕のことを言っているのかな?
ひょっとしなくても ぼかしたつもりは全然ないんだけどなぁ
め 恵さん…
いやあ 僕は誰にでもできることはやらない主義なんだよね
サークルっていうくらいなんだから
助け合うのが筋だと思うけど
それを言うなら 僕がこの日のためにどれだけ念入りに準備を重ねたかも
ちゃんと理解してから言ってほしいんだけどなぁ
ちょっ ちょっと美智留
あの二人なんでこんなに仲悪いの?
そんなのあたしにわかるわけないじゃん
ここでミッチーに聞いちゃうあたりが詰んでるよね
一番わかってない相手にね
だからミッチーは正妻戦争に参加できない
ごめん その初めて聞く名前の戦争について詳しく教えてくれない?
いいかい 加藤さん
あの時の僕のプロモーションで
もう公式ツイッターのリツイートは5000を超えている
つまり僕は あのライブ会場にいた客の10倍以上に
僕たちの新作情報を拡散させたということになる
それって宣伝ばかりで
実際のゲーム制作にちっとも役に立ってないように見えるんだけど
ライブの物販だって 実際のゲーム制作とは関係ないと思うんだけど
どうかな
ああ 焦げる焦げる
だからホルモン乗せすぎちゃダメでしょ
加藤さん 変わったわね
え?なんか言った?
私たちTV版ではいつも一番目立っていたから
劇場版のこのモブ的扱いにまだ慣れないわねって言ったのよ
仕方ないわよ
だってもうサークル関係者じゃないし
多分キャストの順番もずっと下の方に落ちてるに違いないし
今日は来てくれてありがとうね 英梨々も霞ヶ丘先輩も
ううん あたしこそ
招待券ありがとう 恵
元気にしてる?
うん まあ仕事のほうは地獄だけどね
「フィールズクロニクル」ってすごいビッグタイトルなんだよね
シナリオが霞ヶ丘詩羽って時点で
とてもそうとは思えないけどね
まっ こんなふうに仲よくやってるわ
本当に仲いいね 相変わらず
どこがよ 喧嘩ばっかりよ 相変わらず
そういうあなたたちも 随分と仲よくなったものね
ホント
あんたいつの間にあの波島とあんなにやり合うようになったのよ
あ ああ それはほら
いつの間にか勝手にサークルに混入していた異物は消毒すべきというか
よかったわね 加藤さん
肝心の澤村さんがこんな楽天家のお人よしで
はあ?どういう意味よ!
倫理君 ちょっとこちらにいらっしゃい
う 詩羽先輩…
久しぶりに会えたのだし 二人きりでゆっくり話しましょう
いや でも…
あの時のことなら気にしなくてもいいのよ
あれは確かに私の初めてだったけれど
でも全く後悔していないし
それ以上は…!
あーっ 思い出したー!
何があったの 英梨々?
聞いてよ 恵
この女 この女ったらね
い いや 加藤
あのね それはね…
あんまり英梨々をからかうのはやめてあげたらどうですか
今でも一緒に頑張ってる仲間じゃないですか
そう
あくまで私と澤村さんの問題と言い張るのね 加藤さん
それでもまあ そういうことであれば
確かに積もる話もあるでしょうから
向こう行ってきたら?安芸くん
元気にしてたかしら 倫理君
たった今元気じゃなくなりました
いまさら何 どれだけ後悔しても
あなたが私の奥に深い傷痕を刻み込んだ初めての男だ
という事実は変わらないのよ
いや今バラされるまでは後悔してなかったんですけどね
いちいちしつこいのよ
大学生にもなって
まだ高校生の男子に未練たらたらとか
みっともない
あなただって
二度も裏切った幼なじみの男の子に執着するとか
みっともなさではいい勝負じゃないかしら
あたしはいいんだもん
だって二度とも許してもらったし
それって関係値がやっとゼロに戻っただけとも言うわよね
成長しないな あんたたち
そ…それでどうなのよ
ブレッシング・ソフトウェアの新作のほうは
おう 任せとけ
見ててよ 二人とも
今度こそ俺自身の手で作り上げるからね
誰もが心の底からキュンキュンするギャルゲーを
にしてもまだ2作目なのに
ヒロイン5人のシナリオをひとりで全部書くなんて
随分と思い切ったことしたわね
一年くらい前までただの萌え豚だったくせに
まっ 今でも萌え豚なのは変わってないけどねー
あのあのあの
倫也先輩は確かに萌え豚のままですけど
でも本当にいいシナリオを書いてますよ
わたし シナリオが上がってくるたびに
ワクワクしてるんです
このイベントの構図どうしようとか
このシーンの表情どう見せようとか
そりゃ確かに少しは引っかかるところもあります
たとえば金髪ツインテールヒロインや
黒髪ロングヒロインなんてありきたりなキャラ
実際いらなかったんじゃないかなーとか
でも
それを補って余りある後輩ヒロインのけなげさとかわいらしさのおかげで
トータルで見れば神シナリオです
それ本当に俺のシナリオ評価してる?
それに シナリオが多少アレだって
美智留先輩のBGMと 恵さんの演出と
それにわたしの絵で 完璧にカバーしてみせます
だからそちらも
超大作とか言ってお金たくさんかけておきながら
延期に延期を重ね 結局クソゲーで
ワゴン行きになっちゃって
泣いたりしないでくださいね
それむしろ俺が泣くわ
言いたいこと言ってくれるじゃない 波島出海
この私たちに堂々とかみついてくるその無謀さは嫌いじゃないわね
なら誓えますか
二人の作品も わたしたちの作品に負けないくらいの神ゲーになるって
そんなの言われなくても
私たちのいざという時のチームワーク なめないでもらいたいわね
始めるぞ
一体どういうことかしら 紅坂さん
こんな場所まで乗り込んでくるなんて 非常識にもほどがあるでしょ
んなこと言ったって こっちはすぐにフィードバックしてんだ
夜まででいいって言ったのに
わざわざ昼に出してくるからこういうことになる
どうしても外せない用事があったから一生懸命間に合わせたのよ
そうか そりゃついてなかったな
機密だよ 倫也くん
わかってるよ
違う ここはこうだ
なに言ってるのよ こんなの画面映えしないわよ
お前バカじゃないのか
この鎧 機能的に成り立ってねえじゃねえか
あんたの判断を尊重するとデザイン的に地味すぎんのよ
トータルバランスを考えろ トータルバランスを
こいつだけ浮いてるだろ
デザインはあたしに一任したんでしょ
だったら黙って任せなさいよ
そのレベルに達してねえんだよ てめえは
もう一回考え直せ
わかったわよ
なあ伊織 あれ…
いやあ 何しろここ 秋葉原だからね
こういう場所で仕事の話はするなって
朱音さんには何度も言ってたんだけど
完全に機密漏洩してんじゃねえか
あ あの 撮影とか 拡散とか ちょっと…
インパクト弱ぇー なーんだ このイベントはよ
弱いのはあなたの感性のほうよ
だからしゃべってないで早く食べてくださいよ
お前わかってんのか
このフィレーヌが死ぬイベントはだな 前半の一番のクライマックスなんだよ
クライマックス以前にネタバレだろ
わかってないのはあなたのほうよ
そのシーンをわざと淡々と静かに描くことで
かえって強い衝撃を与えることになるのよ
毎度ワンパターンな泣かせシーンで盛り上げても
プレイヤーは飽きるだけよ
ならもっと研ぎ澄ませろよ
カミソリみたいにスパッとプライヤーの心を切り裂け
それができなきゃそんなのただの奇をてらったすべり芸にすぎねえんだよ
あ あの すいません
あー?
他のお客様のご迷惑になりますので…
ああ悪かった 迷惑かけた
他のテーブルの支払いも全部こっちで持つ
だからわかってるよなお前ら
腹いっぱ食って
ここで見たことは何もかも忘れな
上タン上カルビ上ロース上ミノ あるだけ持ってきて!
悪い ちょっと食欲ない
何時に寝たの?
ていうか みんなが来るまで起きてる予定だったんだよな
それで進捗は?
残すはメインヒロインシナリオだけだから
夏休み中には余裕で終わるって宣言してたの
7月のいつ頃だっけ
まあ ほんのちょーっと前だな
夏休み いつ終わるんだっけ
まあ ほんのちょーっとあとだな
そろそろ出海ちゃんの作業 シナリオ待ちで止まっちゃわないかなぁ
あー 悪かったな けどスランプなんだから仕方ないだろ
今どのあたり書いてるの
巡璃15
あ~ これは素人のわたしから見ても大事なやつだね
そう メインヒロイン巡璃の個別ルート突入イベントだ
つまり作品最大の分岐点にして最高の見せ場
だから絶対に失敗するわけにはいかない
そう 俺史上最強の物語を紡がなくてはならないんだよ
で どうするの?
なあ加藤 どうしたら書けるようになると思う?
それをわたしに聞くかな
しょうがないだろ 溺れてんだから 頼むよ 藁
なんかちっとも頼られてるように聞こえないのは気のせいってことでいいんだよね
まあ そうだな
例えば 他のいろんな作品を見て勉強するとか
なるほど 先人の知恵にも五分の魂と言うしな
とにかく次から次へと 書いて書いて書きまくるとか
そうだな
100キロバイトの駄作は0キロバイトの名作に勝ると言うしな
それとも 何もかも忘れて休むとか
確かに
寝てる間に小人が全て終わらせてくれる可能性もあるしな
まあ そういう手が試せる時間はとうに過ぎたけどね
なあ加藤 どうしたら…
ていうかさ わたしみたいな藁じゃなくて
お釈迦様に聞いてみたら?
それって…
今の安芸くんの悩みなんか
何度も経験してるんじゃないかな 霞ヶ丘先輩なら
けど…
詩羽先輩に相談して 加藤 怒らない?
なんでわたしが?
だってほら この前焼肉屋で…
そりゃ確かに霞ヶ丘先輩はもうサークルメンバーじゃないけど
それでも 私たちのゲームのためなら
親身になってくれると思うんだよね
ちょっと待って ちょっと待って加藤
お前いま自分の言葉と顔が全然違うの気付いてる?
まっ とにかく
そろそろ氷堂さんと出海ちゃんも来る頃だし
顔洗ってきたら?
お おう…
残念だったな 霞先生出かけてて
今日は何の用だったんですか
今朝シナリオの修正稿が届いたから
早速ダメ出しにな
来る前に連絡すればいいのに
お前もマンションの前で張ってたじゃねぇか
ストーカーみたいに
なんだ 捨てられたくせに女々しいやつだなぁ
ああ でもサークル代表としてはともかく 男としては…
そういうんじゃないから
俺のシナリオの相談に来ただけだから
ていうか あなたがそういうこと言わないでくださいよ
柏木エリも霞詩子も 俺が見つけたんだ
ふたりとも同人や商業でとっくに売れてた
それでも
あのふたりのコンビでゲームを作るって発想は
間違いなく俺のパクリでしょ
そうつれないこと言うな 恩人に向かって
はあ?あんたがいつそんな
江中さん?
わざわざ那須高原まで送ってやったのになあ しかも夜中に
あ… あの節はその…
あん時締め切り4つ飛ばしたんだぞ
あとで編集にどれだけ泣かれたか
す すいません
ってことは紅坂さん
もしかしてあの時の英梨々の絵を見て あいつを引き抜く気になったってこと?
あ〜 そういえばそうだなぁ
ということは 結局お前にとっては疫病神だったか
降りる!止めてくれ!
そうだな ドライブも飽きたし 飯でも食うか
そういう意味じゃない
あの 紅坂さん…
黙ってろ 集中してんだ
えっと 本当に読んでます?
安心しろ 一言一句飛ばしてない
それ人間業じゃないです
ちょっと
それ明らかに俺のシナリオが面白くて笑ってるわけじゃないよね
なんだこれ
めちゃくちゃキモいな おい
特にこのキスしたくらいで泣き出す金髪ヒロイン
何だこりゃ どんだけ乙女なんだよ
今時こんな女二次元でもなかなかいねえぞ
いちいち状況説明しないで
は…腹いてえ
やめて もうやめて
黒髪ロングヒロインのギャップがおかしすぎる
こいつさっきまでドSキャラだったのに
何でベッドに入ったら急激にしおらしくなんだよ
言っとくけど 添い寝イベントだからね
それ以上のことはしてないからね
じゃあこの「わ わたし あんなこと言っておいて 実は初めてなの」
ってどういう意味で使ってんだよ
音読もしないで
で これがメインヒロインシナリオか
まだ途中までですけど
ど どうですか
その 忌憚ない意見ってやつ 聞きたいんですけど
この短期間で随分と伸びやがったな
サブヒロインのテキストとは雲泥の差だ
あのめちゃくちゃ泥臭くてキモかった文章が
メインヒロインルートになって随分と洗練されてきてる
いや ここまで成長するとはな
これだからコツを掴んだ素人ってのは怖い
よ よかった
実はこのまま進んでいいかすっげぇ迷ってたんですよ
なんか今までと違うなって
これってスランプなのかなって
でも 実は成長してたんですね
俺の方向性は間違ってないんですね
ありがとうございます
紅坂さんが背中を押してくれたおかげで 俺この先は自信を持って…
この…
馬鹿が!
間違ってなかったのは迷ったことだけだ
よくぞスランプに陥った
よくぞ手を止めた
でなきゃこれとんでもない駄作に成り下がるところだったぞ
どんどん洗練されてつまんねえ文章になってきてるじゃねえか
何だこの行儀いいよそ行きのテキストは
照れ始めやがったな 柄にもなく
でも さっき紅坂さん
前のルートと比べて雲泥の差だって…
ドロッドロによどんだ雲が
キラッキラに輝く泥に勝てるわけねえだろ
チェリーブレッシングのあの脳天気シナリオ書いたのお前なんだろ
あんなクソ寒い文章 霞先生に書けるわけないだろ
このシナリオの前半の作風まんまじゃねぇか
いや それは…まあ
というか 私にだって絶対に書けない
立派な武器だ
紅坂さん…
クソみてえなキモオタの妄想を垂れ流せるのがお前の強みなんじゃねえか
鳥肌が立って恥ずかしくて目を背けたくなって
それでも読めちまうのが
お前のクソシナリオなんじゃねえか
褒めてんならクソクソ言うのやめてよ
真のキモオタは絶対にお前についてくる
今は上手くなろうとするな
キモいまま突き進め
てめえの妄想をそのまま垂れ流せ
あざとすぎるヒロインと死ぬほどイチャイチャしてろ
そんなのただの…
そうだよ オナニーだ
オナニーしろ 少年
自分が思いっきり気持ちいいオナニーを
みんなが思わず見たいと思うようなオナニーを
そんなものすごく恥ずかしいオナニーを
思いっきり見せつけてやれ
すいません
そんじゃお前はどうする
一緒に霞先生のところに戻るか
俺は帰ります
そうか じゃあここまでだな
あの 紅坂さん
その 今日は本当に…ええと…
ゲームができたら1枚よこせ
冬コミには取りに行く
はい
待って 車置いてタクシー使って
ということだったんだよ 加藤
えっと 何が「ということ」だったのかさっぱりなんだけど
スランプの原因だよ
つまり今の俺に足りなかったのはキモさだったんだよ
もっとオナニーすべきだったんだよ
ごめん 言い方間違えた
つまり俺が言いたかったのは
もっと自己満足に浸った妄想を垂れ流すべきだったってことで
つまり 今よりもっとキモい文章書くってこと?
なんか耐えられそうにないんだけど
確かに女子には耐えられないかもしれない
けれど俺みたいな男子にはそういうのがいいんだよ
思いっきり胸がキュンキュンするんだよ
それはあれだね
わたしにとって最悪だね
というわけで
巡璃15に取りかかる前に
巡璃01から巡璃14まで全部書き直してみた
あのさ安芸くん 今日何日だっけ
えっと 8月31日だな
夏休みって何日までだっけ
8月31日だな
もう一ついいかな
よくない
課題も休み明けの実力テストも知らない
だって今年の俺はこのゲームに捧げるって決めたんだから
高三だよ 受験生だよ わたしたち
とにかく今メールでシナリオ送ったから
読み終わったらスカイプで連絡くれ
テキスト読みながら話そう
えっと だからね 安芸くん 今何時だと
何時まででも待ってるから
じゃ
読んだよ
マジで今日中に連絡くれたんだ
切るよ
ああっ ありがとうございます 加藤様恵様
それじゃ今から本読みお願いします
あ~ このイベントは問題あるね
主人公の行動 言動 態度 要するに全部
全否定かよ
あのさ こんなに自分勝手でワガママな男子に
好感持つ女子なんていないよ
だからそこが男子の妄想なんじゃん
物語だと
こういう主人公が女子の母性本能をくすぐるんだよ
「もう しょうがないなぁ」みたいに
リアルでそれやられたら
「しょうがないなぁ」ってとっとと別れるから
だからリアルの話してないでしょ
男子の妄想の話でしょ
それにしてもさ 限度ってものがあると思うんだよね
そ そうなの
もうちょっとヒロインに寄りそってほしいよね
たまにでいいから 優しくしてほしいんだよね
じゃあ どう直せばいい
そういうのこそ 自分で考えて何とかすべきなんじゃないかなぁ
厳しいね お前
総没
なんで?
だってさ
これ 個別イベントに入る一つ前のイベントなんだよね
そうだけど
てことはさ
巡璃って このイベントで
主人公のこと 好きになりかけちゃうってことだよね
こんなありきたりのイベントでフラグが立っちゃうなんて納得いかないよ
だってさ そしたらさ
もう個別ルート入ってるってことになる
それって…
とにかくそんなわけだから 総没
もうちょっと えっと…
そのまんまはやめてよ
いや 俺ここは絶対に変えない
だって 今まで書いたシナリオの中でも一番気に入ってるんだ
大好きなんだよ このシーン
なら わたしに相談なんかしないで
一人で書いてればいいんじゃないかな
なあ 加藤
そろそろ機嫌直せよ
別に 怒ってなんかないし
だったらそろそろ巡璃15の話させてくんないかな
こっからはプロットだけだから
特に意見聞きたいんだよ
別に 安芸くんがしたいように
好き勝手に書いちゃえばいいんじゃないかなあ
前にも言っただろ
ここは俺史上最強のシナリオでなくちゃならないんだ
だから絶対に加藤が必要なんだよ
ホントにワガママで勝手で強引なんだよなあ 安芸くんは
ごめん
そうだな このシーン わたしならちょっと違うかなぁ
どこ?
ほら
ふたりにとって すごく悲しいことがあって
主人公が泣くシーン
あー やっぱ泣くような主人公 ダメだよな
そんなことでヒロインのフラグが立つなんておかしいよな
ううん 違うのはヒロインのほう
ここは抱きしめちゃダメだよ
そうなの?
そうなの
けどそれって 巡璃のフラグ立ってないってことじゃないか
違うよ 全然違う
もうとっくにフラグは立ってる
だからここは主人公を思う存分泣かせてあげようよ
それってユーザーに伝わるかな
それで伝わらないようなら
永久に巡璃ルートには入れないよ
そっか
うん わかった
加藤がそう言うなら ちょっと直してみる
うん 頑張れ 倫也くん
加藤 今の…
だってほら
このイベントの後から
お互いが名前で呼び合うようになるんだよね
ああ うん…ゲームの中だと
なら それでいいじゃない
そっか…それでいいんだ
そう…なの
それじゃ俺 もう少し作業して寝るから
じゃあな…恵
うん じゃあね 倫也くん
あのさ えっと
恵
なに 倫也くん
もうスカイプ切ってもいいんだけど
寝なくてもいいんだよね
見てるの勝手だよね
いや それは…
だからいいよ 倫也くんは気にしなくても
気にするだろ…
おやすみ
お おはよう 恵
おはよう 倫也くん
よかった
な 何が?
いやー ほら 4月の時みたいに
いきなり笑って うやむやにされるんじゃないかってさ
そういうことした覚え 全然 まったく これっぽっちもないんだけどな
したもん!絶対したんだもん!
俺の新しいメガネ見て「ふはっ」て
そういう態度とると また「安芸くん」に戻すよ
申し訳ありませんでした!
今後ともよろしくお願いします 恵さん!
こちらこそ
あのあと何時まで起きてたの?
いや 実はほとんど寝てなくて
倫也せんぱ…
睡眠不足でいいシナリオが浮かぶのかな
あれ なんかあの二人…
恵 倫也 おはよう
おはよう
お おはよう 英梨々
やっぱ天才には あの空気の読めなさが必要なのかな
やっと書き上がったよ 巡璃15
1カ月以上書けなかったのに
書き出したら一晩なんだね
まあとにかく 俺史上最高シナリオ
恵と俺の魂の合作
とくと目に焼き付けてくれ
アイスコーヒーです ごゆっくりどうぞ
しばらくかかるから なんか別のことしててよ
恵こそ 別のことに気を取られてないで 真剣に読めよ
もう…
どうだった?
目を背けたくなるくらい恥ずかしかった
よっしゃ
褒めてないんだけど
女の子ですら恥ずかしがるってことは
男子なら絶対キュンキュンするはずだ
ありがとな 加藤
だから 褒めてないんだって
それと 加藤じゃない
あっ…ごめん 恵
で これから先の展開どうするの
そうだな 巡璃と主人公がとうとう恋人になったし
次は…
巡璃が記憶を失うとか 主人公が死んじゃうとか
お前 この作品のコンセプト忘れたのか
忘れてないけど 忘れたいだけだよ
ヒロインの魅力を全面に押し出すのが最優先
ということは この後…
めちゃくちゃ…
イチャイチャ イチャイチャさせるに決まってるだろう?
ああ やっぱりな…
というわけで 今夜も…
するの?
ま まあ 恵が疲れてたら 無理には…
ううん
えっと…
ゲームのためだもんね
お…おう
で 昨夜の打ち合わせをもとに書き上げたのがこれ?
そう
いよいよ付き合うことになった巡璃と主人公のイチャイチャイベント その1
もしかして その2もその3もあるの?
それについては 書き上がってから考えるとして
今日チェックしてほしい箇所はこの辺なんだよ
その時 巡璃の体はほんの少しビクッと震えた
けれどそれでもしばらくすると
その小さな手をキュッと俺の手に絡ませてきた
駅のホームには俺たち以外にも 電車を待つたくさんの人たちがいた
その中
出来たての二人のカップルは
その危険でもなんでもない微笑ましいスリルに必死で耐えていた
で
この口にするのもはばかられるくらい恥ずかしいテキストを
わたしにどうしてほしいって?
ど どう思う?
ヒロインのこういう反応 俺としては激萌えなんだけど
それをわたしに聞く気なの?
恵の意見を取り入れれば もっといい表現ができると思うんだよ
ヒロインのセリフだっていろんなパターンがあるだろうし
それをわたしに考えろって?
本読みを駅のホームにしたのも
そのほうがリアルな空気を感じられるかなって
そんなの わかんないよ
いや だからさ そこをなんとか…
やってみないと わかんないよ
なんかレトロなイベントだね
オタク男子はこういうのがいいんだよ
まあ 恥ずかしいと言えば 確かに恥ずかしいよね
だろうだろう
でも もうちょっとだけ特別感あってもよくないかな
っていうと 例えば?
そうだなぁ えっと…
恋人繋ぎ?
それって どういうのだっけ
だからさ
あ…ああ これか
まあ メインヒロインだし 多少はね
けど それってかなりクリティカルじゃないか
でも倫也くんは別の人ともっとすごいスキンシップしてるしねー
それ今するべき話?
キスしたことだってあるもんねー
ちょっと
この会話サンプル ちっともシナリオの参考にならないよ
これからの展開?
そう
巡璃20以後の流れについて 二通りの考えがあってさ
一つ目は
起承転結でいう「転」ってやつ
お話が勢いよく転がるってこと?
そう 例えば巡璃が記憶を失うとか 主人公が死んじゃうとか
えっと…
いや だからさ
ここまででヒロインの魅力 かなり出たじゃん
そろそろ別の流れに行ってもいいかなって
まあ 内容については要相談だけど
まあいいや
それで もう一つの展開は?
そんな急展開なんか起きずに
今みたいなイチャイチャな流れをずっと続けていく感じ
最後まで?
最後まで
まあ そういう生ぬるい展開のほうが
今のユーザーには受けるのかもしれないけど
でも物語のメリハリを考えると
ちょっと物足りないかなとも思うんだよな
物足りないなんて思わないけどなぁ
好きな人と恋人同士になっていくのって 結構勇気がいるものだよ
それを生ぬるいって言われても
なんだかなぁって思っちゃうけどな
つまり恵は「転」はいらない派?
うん
そっか
そう
うん…なら そっちの方向性で作っていこう
シリアスな方向になんかいかず
さらにイチャイチャしたり デートしたり チュッチュしたり
あ~ はいはい 頑張ってね
じゃ 次のロケハンの方向性は決まりだな
9月23日の土曜 1時 池袋で
一緒に街を歩いて 展開考えよう
詳しいことはまたメールするから
それじゃ今日は…
ちょっと待って
今週の土曜に一緒に出かけるって…
もしかして用事とかあった?
そういうことじゃなくて…
他の用事なんかあるわけなくて…
その日がなんの日かわかってて言ってるんだよね
恵の誕生日
ロケハン…だよね?
多分
違うの?
どっちがいい?
そういうのずるい
じゃ…じゃあ
違うって言ったら…来ない?
絶対行く
何があっても行くから
楽しみにしてるから
そ…そっか
ありがとう
あ~あ 知~らないよ~ 倫也くん
どうなっちゃっても 知~らないよ~
それって…
ごめん 恵
今日行けなくなった
なんていうか 説明しにくいんだけど
でも…人の命に関わることなんだ
詳しいことはまた後で電話する
ちゃんと報告 連絡 相談するから
倫也…
英梨々 詩羽先輩…
名刺?
この前偶然会った時に交換したんだよ
コンビニの前で突然倒れたんだけど
身分を証明するものを何も持ってなくて
俺の名刺だけがポケットに入ってたって
あいつカードとか免許証とか全然持ち歩かないのよ
いっつもバッグに現金だけ詰めて出歩いてて
それで お医者様はなんて…
脳梗塞…だって
救急車が来たときにはうまくしゃべれなくて
それからだんだん話せるようになってきたらしいんだけど
けど…?
右手が…
動かなかったって
ちょっと待ってよ
あいつ絵描きなのよ 漫画家なのよ
それ 何もかも失ったってことじゃない
いや
ちゃんと回復すれば また描けるようになるって
回復しなかったら?
絵描きが絵を取り上げられちゃったら
この先どうやって戦っていけばいいってのよ
英梨々…
あいつは最強の…ううん
あたしとタメを張れるくらいの化け物なのよ
その力がいっぺんになくなっちゃったら
心が折れたっておかしくない
まだ治るかもわからない今の段階で
私たちが深刻ぶっても仕方のないことよ
とにかく今は彼女の回復を祈るしかない
たとえどれだけ時間がかかっても
フィールズクロニクルは?
そっちは時間がかかってもいいなんて言ってられないよね
大丈夫
紅坂さんと私たちの作業はほとんど終わっているし
あとはほんの少し調整するだけでマスターアップよ
そっか それなら…
何言ってるのよ 霞ヶ丘詩羽
あたしたち 他のパートの進捗なんか全然知らされてないじゃない
ちょっと 澤村さん…
それどころか 自分たちの作業だってどれだけリテイクがあるかわからない
マルズとのやり取りは全部紅坂朱音がやってたし
そうなの?
私たちにマルズのスタッフからの横は全く入ってこなかった
純粋に作品作りに専念させるため 彼女は私たちを守ってた
とてもとてもとても気に入らないことだけれど…ね
でもこうなると
それが裏目に出ちゃったってことになるけどね
それじゃ 私は一度茜の入院の支度をして
また戻ってくるけど
そこまで町田さんがやるんですか
仕事の付き合いは多くても 友達いないのよ あいつ
親とも仲悪いみたいだし
まあ それは深く納得できますが
紅坂朱音もあんたにだけは言われたくないと思うけどね
そんなわけだから あなたたちもそろそろ帰りなさい
まだ作業残ってるんでしょう
でも 今まで指揮を執っていた彼女がいないのに
どう進めていけばいいのか…
安心して
フィールズクロニクルの状況はマルズに確認しておくわ
私と 波島くんでね
波島が?
茜とは付き合い長いし 色々と信頼されてるみたいだしね
あなたたちの今の状況 波島くんに伝えておいてね
それじゃ これからよろしくね 柏木エリ先生
あんたとだけは組みたくなかったんだけど
あとでどんな目に遭わされるか…
さすがに朱音さんのチームメンバーにちょっかいはかけないよ
それに僕はブレッシング・ソフトウェアの人間だ
こっちの用が済んだらすぐに
自分たちのサークル活動に戻らせてもらう
さっさと戻ればいいでしょ
あんたに頼ることなんかこれっぽちもないわよ
うん 命に別状はないみたい 今のところは
とりあえず これ以上俺にできることはないから
今からでもそっち行って…
そっか そうだよな
今からじゃ遅いよな…
それじゃ 明日のサークル会議で
ごめんな恵 誕生日祝ってあげられなくて
本当にごめん
誕生日 おめでとう
おっめでとう 加藤ちゃん
一日遅れですけど お誕生日おめでとうございます 恵さん
あ~ 誕生日おめでとう
その えっと…
えっと みんなありがとうね
よーし それじゃケーキ食べながらミーティングやるぞ
波島兄ちゃんまだ来てないけど
あ~ お兄ちゃんはちょっと…
伊織は諸事情により しばらくサークル活動に参加できなくなった
まあ あの人はいてもいなくても同じだし
恵さん…
えー 何それ
来月のライブのこととか相談したかったのに
ああ icy tailの方はしばらくは俺が…
そっちはわたしがなんとかするよ
大丈夫なの 加藤ちゃん
まあ あの人みたいに図々しい交渉は難しいけど
ライブハウスとの契約とか調整とか そういうのならできると思う
何よりサークル代表には
今はシナリオに専念してもらわないと ね
あ…ああ ごめん 頼むな
そっか~ じゃあ任せたよ 加藤ちゃん
いや~ これで一安心一安心
ごめんね またサークルに迷惑かけちゃって
ううん 別にいいよ
あの人 サークルで何やってたかよくわかってないし
まあ ゲームを作ってる最中はあんま役に立たないわよね あいつ
それ以外では役に立つみたいな言い方だね
もしかして恵 あたし以上に波島のこと嫌ってる?
それで そっちのゲーム作りのほうは大丈夫なの?
全然平気!
…とは言えないかも
そう…なんだ
うん
恵は親友だから隠し事しないよ
正直 ここにきての紅坂朱音の離脱は痛すぎる
もうすぐマスターアップだよね
ならほとんど完成してるんじゃないの?
でもチェックが済んでない
全体を見てバランス調整したりとか
そこはやっぱり 絵だけ描いてるあたしじゃ判断できないところあるから
けど 英梨々が納得してるんなら
他の人が何言ったって…
この作品は…ううん
この作品だけは
あたし的にも世間的にも最高のものでなくちゃいけない
澤村英梨々に 柏木エリにもう挫折は許されない
あたしは最速で駆け上がる
この一作だけで
誰もが認める最高のイラストレーターになってみせる
でなくちゃ サークルを抜けた意味がないよね
恵と 倫也と 離れた意味ないよね
英梨々…
まあ 恵は気にしないで
これはあたし一人の勝手に思ってるだけだから
ううん 多分 英梨々一人じゃないよ
そうね 霞ヶ丘詩羽くらいはわかってくれるかもね
それじゃ あたしまだ作業が残ってるから
うん じゃあね
あっ そうだ
一日遅れだけど
お誕生日おめでとう 恵
マスターアップしたら一緒にお祝いしようね
ありがとう
違うよ 英梨々
もう一人…いるよ
10年前からずっとあなたのこと見てた人がさ…
とりあえず マルズとの打ち合わせは想像以上の地獄だったよ
初っぱなから絶望させるような言い方やめてよ
やっぱりあれだね
朱音さんのような根っからのクリエイターに
進捗管理とかやらせちゃいけないなあ
笑ってないで詳しく聞かせろ
聞きたくないけど聞かせろ
マルズが元々提示していた締め切りはもうとっくに過ぎてる
ちょっと待てよ
なんでそんなことになってんだよ
柏木エリも霞詩子も
叩けば叩くほどどんどん伸びていった
リテイクを重ねれば重ねるほど 凄みを増していった
そこに朱音さんは 取り憑かれてしまったんだ
それで紅坂さんはあとどれぐらい必要だって
あと一月
そんなに?
でもマルズはもう待てないって
シナリオも絵も 未完成の部分はイベントごと削るって
辻褄合わせも向こうでやるって
今ある素材だけで
もう十分にいい作品が作れるはずだって
このままだとどうなる
そうだね
朱音さんの意向は無視され
マルズの決めたスケジュールと品質で開発は進む
柏木エリも霞詩子も もう何もできない
彼女たちの「フィールズクロニクル X III」はここまでさ
それで引き下がってきたのかよ
英梨々も詩羽先輩もまだまだ全然やる気だったじゃないか
満足なんかしてなかったじゃないか
朱音さんが交渉を続けていれば
彼女の熱意と傲慢さでなんとか乗り切ったかもしれない
けれど僕や町田さんじゃダメだ
どうしても
マルズのディレクターの言い分のほうが正しく感じてしまうからね
どうすればいい
今の俺たちに何ができる
僕たちにできるのはここまでだよ
でも…
いいかい 倫也くん
君の所属はブレッシング・ソフトウェアだ
サークルの仲間と一緒に ここまで頑張ってきたんだ
君はその一生懸命さを
出海や 氷堂さんや 加藤さんに向けるべきなんだ
何それ?
私は町田さんから聞いたことを一言一句そのまま伝えただけよ
そんなはずない
まだ描いてない原画が10枚以上残ってる
半分近くリテイクがかかってた
私だって
ちゃんと終わってるのはメインストーリーだけ
サブシナリオはかなり残ってるわ
だから波島なんかに頼るのは嫌だったのよ
いいえ 彼としては勝利ね
何しろこれでめでたく私たちの作業は終了
報酬も契約通りに支払われ
締め切り遅延によるペナルティも発生しない
ある意味 全面的な勝利よ
本当にこれが勝ちだと思ってるの あんた
しかたないわ
マルズはもう私たちを必要としていない
紅坂朱音が言うならともかく
新人クリエイターの勝手なこだわりなんて
フィールズクロニクルみたいなビッグタイトルには邪魔なだけよ
どうすればいいと思う?
どうすればマルズは話を聞いてくれると思う?
どうすればあたしたちが納得のいくまで作らせてくれると思う?
澤村さん…
そうだ あたしたちが直接大阪に行って交渉すれば…
無理よ
私たちみたいにコミュ障で 無駄にプライドが高い人間が行ったところで
すぐにブチ切れて大喧嘩して終わりよ
じゃあ…じゃあ…誰ならそれができるの?
そうね
私たちの力を心の底から信じている人間ね
構想通り最後まで作り込めれば大傑作になるって信じてて
そのためなら 土下座でも泣き落としでも使って
私たちのために必死で頑張ってくれる…
そっか…
いるじゃん 一人だけ
いや 起きてた
うん うん わかった
任せとけ
学校 行かないんだ
うん
大阪 行くんだ
うん
英梨々と 霞ヶ丘先輩と一緒にゲーム作るんだ
俺が行かないと
フィールズクロニクルX IIIが
ただの「いいゲーム」になっちまう
いいゲームだったらいいじゃない
本当なら 大傑作になるはずなんだ
約束された神ゲーなんだ
倫也くんが頑張れば
その神ゲーってやつに なるっていうの
そんなのわかるわけない
それでも 英梨々は 詩羽先輩は
俺を必要だって言ってくれたんだ
それが倫也くんのやりたいことなんだ
わたしたちのゲーム作りを投げ出してまで
やりたいことなんだ
倫也くん言ったよね
全力で 神ゲー作るって言ったよね
うん
わたしたちで作るって言ったんだよね
けど フィールズクロニクルX IIIは
英梨々と詩羽先輩の今までで一番のチャンスで
晴れの舞台で
でも わたしたちのゲームはわたしたちのチャンスだよね
1年間 一生懸命頑張って
たどり着いた晴れ舞台だよね
ねぇ倫也くん わたしはどうしたらいいのかな
ワガママな三次元の女の子みたいに
怒って泣いて 倫也くんをリアルで困らせたらいいのかな
それとも 二次元のメインヒロインみたいに
笑って手を振って 送り出した方がいいのかな
ごめん…ごめんね
ううん 全部俺が悪い
そう…だけど…でも…
恵…
ごめんね…倫也くん
わたし やっぱり あなたの…
…メインヒロインに…なれないよ
いい TAKIくん
情熱じゃ会社は動かないわよ
茜がネームバリューを盾にゴリ押ししてきたことを
あなたは正攻法でやるしかない
お互いに最適な解決策を考えて
その案のメリットを訴えて
相手の譲歩を引き出すのよ
正攻法でもダメだったら?
そしたら 最後は情熱ね
泣き落としに逆ギレに脅迫
どんな手でも使って なんとかしなさい
それ最初に言ってたこと全否定してません?
情熱じゃ会社は動かない
けど 情熱がないと人は動かない
人…
だから私でなくて あなたでなくちゃならないのよ
詩ちゃんと柏木エリ先生に 死ぬほどこだわることのできる
あなたでなくちゃ ね
ただいま
お帰りなさい 倫理君
英梨々 詩羽先輩 俺…
俺…やったよ
2週間の締め切り延長
勝ち取ってきたよ
なんでたったの2週間なのよ
1ヶ月延ばせって言ったでしょ!
あなた私たちを殺すつもりなの?
必死で交渉してきたのに…ひどい
きたきたきた
そうだよ これだよ
パーティー全滅最大のピンチ
そこに満を持して現れるかつての宿敵ガイエル
「お前たちを倒すのは俺だけだ」
王道の中の王道がここに
しかもこのシーンのガイエルのイラストが もう
定番のようで定番じゃない
なんだこれ
こんな凄みある表情 見たことないぞ
今までのところはすっげえ面白かった
けどここから
さらなる神ゲーに押し上げる
キャラを減らすですって?
ああ リュートとサラシアは削る
これが精いっぱいの落とし所だ
え?2人も削っちゃうの?
向こうは5人削りたがってた
それを交渉して2人に抑えたんだ
5人って
そんなことしたら どうやっても辻褄が合わなくなるわ
そうなんだ
この2人が一番メインストーリーに影響がなかった
だからマルズを納得させるための材料にした
でも せっかく作ったのに
デザインだって気に入ってるし
キャラシナリオだって…
きっと数年後に作られるリメイク版まで取っておこう
そうすればまた話題になるし 二度稼げる
それ ゲスくないかしら
あんた 絶対に波島の影響受けてるわよね
ここで譲歩した代わりに
メインルートは削らせないって約束した
それどころか 絵もシナリオも増量する
これが紅坂さんの頭の中にあった追加シーンの構想だ
昨日ここに来る前に俺が聞き取りをしてまとめた
あんたがあの紅坂朱音と?
もともとアレな上に 今は入院中の病人よ
大丈夫 町田さんもついてたから
マルズへの義理を果たしたら
残りの時間は好き勝手にやる
英梨々と詩羽先輩と
紅坂朱音が目指した フィールズクロニクルX IIIに限りなく近づける
さあ 始めるよ
俺たちのリベンジを
どうしたの 氷堂さん
や~ 会心の新曲ができたんで
ぜひとも聞いてもらいたくてさ~
実はわたしも ちょうど最高の1枚が仕上がったんですよ
連絡したよね サークル活動はしばらく休止だって
けどさ 冬コミまでもうそんな時間ないじゃん
そうそう そろそろ追い込みの時期じゃないですか
知らないよ
そういうことは代表に言ってよ
トモからは連絡あったよ
2週間ぐらい参加できないって
そう
でも
倫也先輩が活動できないからって 私たちまで止まっちゃうことないじゃないですか
そうだね 二人はしばらく自分のパートを進めておけばいいと思うよ
いやぁ けどさ
そこはやっぱり
サークルできちんと方向性合わせて進めたいじゃないですか
それは…無理だよ
代表がいない以上 サークルとしては何も決められない
そんなことありません
うちにはもう一人頼りになるリーダーがいるじゃないですか
そうそう
波島ちゃんの兄貴っていう最強のプロデューサーがね
どうしてそこでネタに走るんですか 美智留先輩
や~ あんまシリアスな展開ばっかやってても胸焼けするじゃん
だからってここで特大の地雷踏みますか
頼りになるリーダーって恵さんのことですよー
すごいすごい
やっぱり美智留先輩の曲って全部神
や~ もっと言ってもっと言って
って これも波島ちゃんのこの絵に触発されたからだけどね
うん いいね
主人公と巡璃が恋人になる このシーンを切なく盛り上げてる
よーし ディレクターのOK頂きました
このゲーム一番のクライマックスも固まってきましたね
これであとはシナリオだけだね
それは言わない約束だよ お兄ちゃん
それはそうとさ
な~んで波島兄ちゃん下りてこないの
2階にいんでしょ?
別に顔を合わせなくても
やるべきことはやれるから心配しなくていいよ
いちいち面倒くさくない?
女性のグループの中に一人だけ男子がいたら
気を遣うだろう
トモは全然そんなこと気にしないけどね
まあ私たちも全然気にしないですもんね
とにかく
クリエイターにはなんの気兼ねもなく全力で集中してもらうのが僕のやり方さ
波島兄ちゃんってさ 実はいい人なんじゃないの?
僕のことを善人扱いするのはやめてくれと
何度言ったらわかるんだい
その謎のこだわり
本当に意味不明なんだけど
15年一緒に暮らしてるけど
いまだに理解できないよお兄ちゃん
我ながら最悪にキモいな
待てよ
これ もしかして…
信じられないぐらい痛い文章ね
で なんなの?これ
ストーカーの脅迫状?
ナルシストの自己陶酔?
どちらにせよ
恥ずかしくて読めたものじゃないわね
ちょ ちょっと
もしかして 次回作のシナリオ?
あ ああ そう メインヒロイン巡璃シナリオ
あ あの 英梨々が寝ちゃってちょっと時間が空いたから その…
文句なんか言わないわよ
あたなの本業はこっちなんだから
やっぱキモいですか
ええ キモいわね
でもこれ 紅坂さんに褒められたんですよ
霞詩子にも書けない 俺だけの武器だって
ほんと まるでキモオタの実体験みたい
やだな それを言うならキモオタの妄想でしょう
そうね
うるさいな
恵さん?
今日もサークルやるよね?
やるに決まってるよね
何しろスケジュール押してるもんね
このままじゃ冬コミ危ないもんね
そ それじゃ 手伝ってくれるんですね 恵さん
手伝うんじゃない
ただ わたしの仕事をやるだけだよ
だって 代表一人のせいで失敗したなんて思われたくない
あんな人
いなくてもどうでもいいって証明してあげる
その調子です 恵さん
倫也先輩への愚痴ならいっくらでも聞いてあげますからね
愚痴じゃないから正当な怒りだから
なんだよ
別に ただの休憩
ああ もうこんな時間か
で そっちはどこまで進んだ
ほら
お前…
これ 2日分
何言ってんの
あたしが1日で7枚上げたの見たでしょう
その反動でぶっ倒れたけどな
にしても すげえよこれ
本当にどうしちゃったんだろうね あたし
どうしたも何も まだまだ成長してるってことだろ
そういう意味じゃなくってさ
じゃあどういう
描けちゃうんだなって
英梨々?
倫也がいても あんたに見られてても
描けちゃうんだなって
何言ってんだよ 描いてくれなきゃ困るよ
そのために俺ここにいるんだぞ
そうだったね
あのさ倫也
今のゲームが完成したら…さ
またいつか 一緒に何か作れるといいね
ああ
いつか必ず また一緒にやろうな
何年経っても諦めずに
頑張って頑張って頑張って
胸を張って お前にオファーしてやるからな
うん あたし ずっと待ってる
絶対 倫也のゲーム会社の原画家になる
だからね そういうことじゃないんだよ
私が怒ってるのは
代表としてサークルに対する責任があるんじゃないかって
いやいやいや
どう見ても トモが加藤ちゃんほっぽり出して
澤村ちゃんや先輩のとこに行っちゃったことに
怒ってるようにしか見えないよ
それは氷堂さんに最初から変な思い込みがあったからじゃないかなぁ
というか
そもそも巡璃の主人公に対しての感情について議論してたんじゃなかったっけ?
どうして私とサークル代表の話になってるのかな
そりゃ加藤ちゃんがいろいろ隠し事してるからでしょうが
隠し事なんか…
先輩に聞いたけどさ
あんたら最近陰でこそこそ付き合ってんでしょう?
えー?そうなんですか?
やっぱりね
霞ヶ丘先輩に妙なデマを吹き込まれてたんだ
みんなにこそこそ隠れて電話したり
イチャイチャメール送り合ったりしてるんだって
してない
最近は全部無視してる
ケンカしたからでしょう
それやっぱ付き合ってんじゃないの
付き合ってない
そもそも私と倫也くんは…
倫也くん?!
ほら やっぱり
あんたいつの間にトモのこと名前で呼ぶようになったの?
また知らない恵さん出てきた
それの何が悪いの?
出海ちゃんも氷堂さんも
ずっと前から倫也くんのこと名前やあだ名で呼んでるじゃない
嫉妬?
だからさ すぐそういうふうに結びつけるのやめてくれないかなぁ
いいぞ 出海
今の加藤さんの全ての表情パターンを見逃すな
このままいけば
最高の 最高にめんどくさいメインヒロインが完成する
了解
でもまあ 加藤ちゃんが焦るのもわかるよ
あんなどうでもいい男の子のことで 焦る必要なんかないんだけど
澤村ちゃんや先輩は
出会った時からトモに運命を感じてた
それにあたしなんか 生まれた時からトモと一緒だし
そういうのに比べると
加藤ちゃんとトモって ドラマがないんだよね
あ…あの わたしは眼中にないんですか
それも霞ヶ丘先輩に言われたの?
だったら?
ほっといてくれないかな
わたしが倫也くんのこと どう思っていようが
霞ヶ丘先輩には関係ないんじゃないかな
やっぱりわたしたちは眼中にないんですか
あたしを巻き込まないでよ波島ちゃん
だって…!
みんなにとって
倫也くんはものすごく特別な人だったのかもしれない
けれどわたしには
全然特別じゃなかった
普通だった
だからこそわたしは…
最後の一枚よ どう?
うん 完璧だ
これならマルズは何も言わない
というか俺が言わせない
終わったー
終わったわね
2週間も遅れたけどな
2週間も早まったのよ
どこかの日和見なディレクター代理のせいでね
でも
これが最高のフィールズクロニクルだ
まあ 認めざるを得ないわね
最後は今までの倍以上働かされたしね
で 今からどうする
打ち上げで晩ご飯でも食べに行く?
ちょっと休んでからね
今は動く気がしないわ
俺はそろそろ帰るよ
打ち上げくらい付き合いなさいよ
俺はただのヘルプだから
俺の2週間と紅坂さんとの数カ月は
重みが違う
やっぱりこれは俺の作品じゃないよ
けれど
ブレッシング・ソフトウェアの新作は間違いなく俺の作品だ
俺のいない2週間と俺のいた数カ月は
重みが違う はずだ
倫也がそう思ってても 恵たちは違うかもね
いつの間にか クレジットから消されてたりしてね
そうならないためにも さっさと戻らないとね
本当に楽しかった
この2週間のこと
絶対に忘れないよ
どうせ数時間もしたら 次の修羅場ですぐ忘れちゃうわよ
そういう生意気なことは もう一度私たちを1年間拘束した後に言いなさい
うん そうする
じゃあ
行っちゃったわね
サークルに 加藤さんのもとに
元いる場所に戻っただけよ
元々ここはあいつのいる所じゃない
今まで全然頑張ってこなくて だから何の実力もなくて
そのくせ夢だけはでかいただのオタクが
あのフィールズクロニクルに関わってるなんて ありえないのよ
それじゃ約束通り ここからは私たちが頑張る番よ
わかってる
全力でやるわよ
メインヒロインの攻略ルートが消えてしまわないように
いるじゃん 一人だけ
あたしたちの実力を信じてて
あたしたちのためなら土下座でも泣き落としでも
どんな手を使ってでも…
やめなさい 澤村さん
ここで倫理君に頼るのはルール違反よ
なんで
私たちは彼を サークルを裏切った
許してくれた
倫也は応援してるって言ってくれた
だけど今彼は サークルは新しい作品を作ってる
私たちに負けないくらいに一生懸命
今ここで倫理君をこちらに引きずり込んだら
もしかしたら 彼の夢を潰してしまうかもしれない
でも ここで諦めたらあいつとの約束が
すごいクリエイターになるって誓いが潰れちゃう
あなたがどうしても倫理君を頼るというのなら
私たちにはやらなくちゃならないことがある
それって
一つ目は難しくないわ
私たちのゲーム作りが終わったら
今度は倫理君のブレッシング・ソフトウェアのゲーム作りを手伝うの
それなら
けど 自分たちから出ていったのに
みんな受け入れてくれるかな
それはたぶん大して難しくないわ
二つ目のことに比べたらね
他にも何か手伝うの?
手を動かすようなことは何もしないわ
するのは覚悟だけ
私たちのゲーム作りが終わったら
今度は倫理君の…
恋を応援するの
何よ それ
わかるでしょう 澤村さん
あなたが倫理君を引き込んだら
もう幼馴染ルートにも 先輩ルートにも戻れない
だってそれは
彼の メインヒロインルートへ至る道への選択肢だから
彼女と 加藤さんと より強い絆を紡ぐ
クライマックスイベントだから
嘘よ そんな 恵は…恵は…
そう思うなら 本人に聞いてみればいいじゃない
あんな普通の女の子が
倫理君みたいな特殊な男の子を好きになるはずがない
まだそんなこと信じてるの?
うるさい
彼にその選択肢を選ばせても
私たちは仲間としてはつながれる
けれどずっと一緒に夢を追う
たった一人のパートナーにはなれない
ごめんね 霞ヶ丘詩羽
辛い役回りやらせちゃって
なんだか損してばかりよね 私
どうしてかしら
それはあんたが 根暗で 性格悪くて 策士で
なのに頼りになって 実は優しいからに決まってるじゃない
それじゃ 明日から始めるわよ
倫理君と加藤さんの 仲直り作戦
でも もしかしたら必要ないかも
何しろ恵って 思ったより執念深いし
そんなの あなたが気付いていなかっただけよ
本当の彼女は黒くて強欲で面倒くさい 嫌な女の子
元祖嫌な女のあんたが言うと説得力あるわね
彼女 絶対に倫理君のこと諦めたりしないわよ
そのくせなかなか本当の気持ち言わずに焦らしそうよね
相手から告白されないと気が済まない地雷女ね
ひっどい
恵 なんで…
変なの送ってきたよね 1時間前
変なのって…
終わったんだね
うん 終わったよ
フィールズクロニクルも 叶巡璃シナリオも
すっごくキモいね これ
俺が恵に対して思ってることをそのまま書いた
こんなひどいラブレターもらって喜ぶ女の子がいると思ってるのかなぁ
そんなの知らない わからない
いや 多分 誰も喜ばない
けど 少なくとも
俺の胸が最高にキュンキュンする物語になったって 自負してる
帰る
いや ちょっと待って
倫也くんのせいで どれだけスケジュールが遅れたかわかってる?
それは…けどほら シナリオ上がったし
そんなんじゃわたしが許すわけないってわかってる?
でも こうして会いに来てくれた
それは もう一度直接文句言わなきゃ気が済まなかったからだし
俺のせいで泣いてくれた
あの時 本気で泣いてくれた
それは 倫也くんの勝手な言い分に
どうしようもなく怒れてきちゃったからだし
それに「安芸くん」に戻ってない
これだけ怒ってるのに
他人行儀の呼び方なんか…
できないよっ
もう…知らないよ
知らないよ 倫也くん
何もかも 知らないよ
許せないけど そんなの知らないよ
だって だってさ
俺
恵が好きだ
叶巡璃も好きだけど
二次元のメインヒロインも好きだけど
でも 本物の加藤恵が
一番好きなんだよ
どうして わたし なのかな
どうして あの人たちじゃなくて
俺が素直に気持ちを伝えられるたった一人の女の子だから
見栄も意地も張らなくていい
憧れでもこだわりでもない
誰もが羨むようなメインヒロインだけど
俺にとってはそんなに敷居が高くなくて
もしかしたら 何とかなるんじゃないかって
そんなこと言われて喜ぶ女の子 いると思ってるのかな
やっぱいない…かな
普通はいないだろうね
そうか
でも…
合格だよ
みんなにとって
倫也くんはものすごく特別な人だったのかもしれない
けれどわたしには
全然特別じゃなかった 普通だった
だからこそ わたしは
彼がいいなって思った
納得できないかもしれない
わたしに反感を持つかもしれない
でも…
知らないよ そんなの
倫也くんは…
…わたしの だよ
め…恵…
本当 敷居低いよね わたし
でもさ わたしのこと好きなのに
どうして英梨々のところに行っちゃうかな
ごめん
どうして 霞ヶ丘先輩のところに戻っちゃうかな
ごめんな
まあ でも
あの二人にこだらない倫也くん
ってのも想像できないんだけどね
どうすりゃいいの 俺
どうすればいいんだろうね
あ ごめん ごめん
お 俺 勘違いしちゃって…
そ その…目つぶってくれたし
てっきり 恵のOKなんだって
倫也くん…
そ そうだよな いきなりこういうの違うよな
空気読めてない…
違わないよ 倫也くん
タイミングが合わなかっただけだよ
それ以外は 何一つ間違ってないよ
わたしの 望んだ通りだよ
じゃあ いっせーので
うん
いっせーの
来週退院ですか
ああ 右手もそれなりに動くようになったしな
左手は進化してるように見えますが
これで右手が完全に治ったら
今までの2倍仕事ができるな
今度こそ取り返しがつかなくなるからやめて
ベータ版 確認したぞ
どうでした
どうもこうもあるか 不満だらけだ
やりたかったことの7割くらいしかできてない
あなたがいなきゃ あれが限界です
ああ 私がいないという条件では あれが限界だな
よくやった
で お前のサークルはどうなんだ
冬コミ 間に合うのか
まさに地獄の真っ只中です
まあ 私の責任でもあるしなぁ
そうだ 来週からヘルプに…
しばらく安静にしててよ
ていうかサークルのパワーバランス崩れるからやめて
まあそんなわけで そろそろ地獄に帰ります
またな 少年
そうですね どこかでまた会うことがあったら
会うに決まってる
だってお前 こっち来るんだろう
戦うんだろう
柏木エリや霞詩子を追いかけて
そっちで戦える人間になれると思いますか 俺
そんだけ諦め悪けりゃ
最悪業界にしがみついて生きていけるさ
伊織みたいにな
それはちょっと…
その気になったらいつでも企画持ってこい
お前の持ち込みなら 締め切り間際でも絶対読んでやる
紅坂さん…
で 心が根こそぎ折れるまでクソミソにけなしてやるからな
道で会っても絶対挨拶しないから
ねえ 倫也くん
ここのシーンの巡璃のセリフだけど
これ本当に合ってる?
誤字か?
というより 前後の辻褄が合ってないような…
セリフ抜けちゃったかな
なんだよ
べっつに~
べっつに~ですよ
いやあ この雰囲気の悪さ
だからサークル内恋愛はやめた方がいいとあれほど言った…
みんな つまんないことに気を取られてると
マスターアップ間に合わないよ
よしっ いよいよラストスパート
最終シナリオとエピローグで合わせて7枚
ちょっと待って 昨日より増えてるよねそれ
仕方がないんです
巡璃が可愛すぎるのがいけないんです
特にこの前 倫也先輩が直してきたところがすっごい良くて
ほら ファーストキスに失敗しちゃった後「やり直し」って言って
巡璃のほうからキスするじゃないですか
あんなやりとり見せられたら
絵を増やさないわけにはいきませんよ
たとえマスターアップを超えたとしても
立ち止まるわけにはいかないんです
いや マスターアップ超えちゃダメだろ
やっぱり出海ちゃんのパートが一番危なそうだね
話は聞かせてもらったわ
どうやら私たちの出番のようね
って あんたらここ最近毎日来てんじゃん
フィールズクロニクルの方は大丈夫なんですか
大丈夫 こっちは商業なんだから
とっくにマスターアップしてるわ
こっちの作業遅れと引き換えにね
さーて これが今日仕上げた線画ね
んじゃ 塗ってくわよ
ちょっと…狭い狭い狭い
もう 自分の家で作業すればいいじゃないですか
歩いてすぐなんだから
何言ってるのよ
リアルタイムで意見交換しながら進めていくからこそ絶妙のシナジー効果が生まれるのよ
これがエンディングの歌詞ね
それじゃ今日も添削させてもらうわ
いいよ もう
毎日毎日イチャモンばっかり
だってあなたの詞 情緒はあるけれど日本語が怪しいもの
こっちに構ってないで デバッグ手伝ってなよ
ここにいたのか
ちょっと涼みにね
冬だぞもう
波島出海が暑苦しくてね
すげぇだろう 出海ちゃん
あたしから盗むんだもん そりゃすごくなるわよ
お前が紅坂朱音から盗んで成長するように か
言っとくけどね あたしは一人で殻を破ったのよ
あの那須高原で ギリギリまで戦って
ごめんな
今さら何謝ってんのよ 1年も前のことで
あの時のことも それまでのことも
これからのことも ごめんな
10年前 お前のライバルになれなくて
ごめんな
どんどん上手くなるお前に嫉妬して
追いかけることを諦めて
ごめんな
倫也
すれ違いを全部お前のせいにして 離れていって ごめんな
やめてよ
なんで今さら そういうこと言うのよ
あの時の俺は 人の気持ちがわからない
友達を気遣えない悪いオタクだった
今だってそのままじゃない
そうだな
なのにまたそんな悪いオタクの友達に戻ってきてくれて
ありがとうな
あたしだって 悪いオタクのままだもん
そう…だな
寒くなってきたから戻るね
あっ…いや ちょっと待って その…
俺もう一つお前に報告しとかなくちゃならないことが…
サークル代表の地位を利用して
メインヒロインに迫ったんだって?
恵と付き合ってるんだって?
え…英梨々…俺 実は…実は その…
いい 言わなくて
わかってるから
じゃあ ホントに戻るね
ねぇ倫也…
あんた…
あたしのこと好きだった?
10年前…
好きだったー?
知るか
知るか…知るか…知るかぁー
よし
えっと…
お風呂にでも入ろうかなって
ねぇ 恵
一緒に入ろっか
ごめんね 英梨々
な なにが
ひどいことしたって自覚してる
倫也くんと英梨々が10年間いろんな気持ちを抱え続けてきたこと
知ってた
そこには辛い気持ちとか 嫌な気持ちとかもあったけど
でも それ以上にたくさんの
大切な気持ちがあったこと 知ってた
ハハッ 随分と長い間拗れてたものよね
だからわたし 批判は受け止める
英梨々には10年分怒られても仕方な…
英梨々…
もう あんたどんだけ倫也のこと好きなのよ
そ それは…えっと…
あんな裏切り者をあっさり許して
あっという間にくっついちゃうなんてさ
あたしフォローする間もなかったじゃない
英梨々…
まあ あいつに裏切らせたあたしが言うのもなんだけどね
それは…
本当に なんだかなぁだよね
にしても 倫也が恵とねえ
あいつは普通の女の子が好きになれるような男子じゃないんだけどなぁ
確かに倫也くんは普通じゃなかったかもしれない
けど 英梨々や霞ヶ丘先輩ほど特別でもなかったんだよ
それ才能の話よね 性格のことじゃないわよね
だからね
二人に追いつかない同士
ちょうどよかったんだよ わたしと倫也くんは
なによ それ
倫也くん 言ったんだ
わたしならなんとかなるんじゃないかと思った…んだってさ
普通そう言われたら 怒って別れると思うんだけど
確かにわたし
普通の男の子を好きになるような 普通の女の子じゃないのかもね
やっぱり…なによ それ
ほんと なんなのよ それ…
さてと
じゃあ サークルへの義理も果たしたし
新企画 始めるわよ
私たちにはもう彼にかまけている暇はない
あの企画書 通ったんだ
フィールズクロニクルコンビによる新作シリーズなのよ
ファンタスティック文庫が断るわけがない
そっか
だからあなたは前を向きなさい
走り続けなさい
彼が追いつけなくなるくらいにね…
大丈夫
それでも彼は 必ず追いついてくる
だって彼は間違いなく
私たちに恋をしてた
それが柏木エリでも霞詩子でも関係ない
だってそれは私たちのこと
だから彼はこれからもずっと私たちを追い続ける
偉大な作家を崇拝し続けるファンとして
そしてそんな作家に追いつこうとするライバルとして
倫也…倫也…
私たちは…
待ちましょう
全力で走りながら待ちましょう
遅刻だぁ
だからおまけのフリーペーパー あんなに凝らなくてもって言ったのに
プリンターの調子さえ良ければこんなことには…
そういう不測の事態も織り込んでおくのがサークル代表ってものじゃないかな
批判は受け止める だから今急いで
せっかく本編の方は期限通りにマスターアップしたのに
やっぱり最後までドタバタするんだね
批判は受け止めるって言ったけど 後にして後に
あーあ なんだかなぁ
って言ってる場合か
いよいよだね 2度目の冬コミ
ああ 今度こそ 本当の勝負だ
たくさんの人 来てくれるといいね
2000枚は作りすぎたかな
メインヒロイン 人気出るといいね
出るに決まってる
だって彼女は 俺が見出した…
最高に胸がキュンキュンする女の子だ
ねぇ 倫也くん…
どうかな
わたしはあなたが望むメインヒロインになれたかな
たくさんのユーザーのためじゃない
たった一人の…
あなただけのメインヒロインに
なれたかな?
わたしたちもう 別れたほうがいいんじゃないかな
なんで どうして そんなこと
だってここ最近 全然会えないし
何度も言ってるだろう
最近土日も仕事で それどころじゃないんだよ
慣れない営業仕事でね
ずっと追ってたクリエイターになる夢を捨ててね
それは…
だって俺 やっぱ才能なくて
それに恵のこと 何年も待たせちゃって
だからもう夢を見るのはやめようって
わたしのせい だって言うのかな
そういうの頼んだかな
わたし あなたのこと縛っちゃってたかな
いや そういう意味じゃ
本当は違うよね
倫也くん ただそうやって自分に言い聞かせてるだけだよね
なにを
あの人のこと まだ忘れられてないんだよね
帰るね
恵
わたしたち もう一緒に夢を追うことはないんだね
やあ 倫也くん
伊織
また夜逃げかよ
借金取りか
それとも女
実はさ 起死回生 一発逆転のすごい企画を思いついてね
クライアントも面白いって言ってくれた
もう一歩で契約ってところまで行ったんだけど
どっかから過去の悪行がバレてってとこか
そういうわけでさ
今度は君がどこかに売り込んでくれないか
この企画 久々に僕たち最強コンビで
最高のゲームを
いつまでもバカみたいな夢追ってんじゃねえよ
倫理くん?
倫理くん ううん 倫也くん
詩羽…先輩
あんたが歌うんかい
じゃなくて なんじゃこりゃー
ちょちょちょちょちょっと 何なのよ これは一体どういうことよ
いかがだったかしら これぞ霞詩子の最高傑作にして
ブレッシング・ソフトウェア最新作
「冴えないヒロインの育て方最終章」のプロットよ
劇場版の しかもエピローグで妄想ネタとか
反則もいいとこでしょ
いろんな意味で変な汗出ちゃったよ
僕の役回りはかなりクズっぽくて
お気に入りなんだけどね
相変わらずお前の判断基準はわからん
というわけで プロットは完成したから
あとは原画と開発のスケジュールを詰め...
詰められるわけないでしょ こんなクソ企画で
そもそもこれ 俺たちの同人時代のゲームの続編じゃん
しかも前作のHE全否定してるし
前作の主人公が交通事故で死んじゃうレベルでアウトだよ
せっかくノリに乗って徹夜で書き上げたのに
確かに徹夜のテンションだね これは
そもそもなーんで今度のメインヒロインが年上ヤンデレ根暗女なのよ
けなげな金髪幼なじみはどこ行ったのよ
もちろんオファーがあれば そのルートも書くわよ
そうね 追加料金として200万もあれば
そ それならなんとか
払おうとすんな
大体ね 詩羽
いくら弱小零細メーカーからのオファーだからって
仕事なんだから真面目にやんなさいよ
聞き捨てならないわね 英梨々
私はメーカーの過去作や傾向をちゃんと調べた上で
彼らのファンに一番ウケそうなプロットを考えたのよ
はいはい 言い訳はいいから
やっぱり 先方とちゃんと話し合って方向性決めてくしかないわね
まっ 最初からそのつもりだったけど
なにしろ向こうも 今や押しも押されぬ人気メーカー…
妙なリアクションしないでよ
クライアントのくせに ね
でも でもさ
やっとまたここにたどり着いたんだなって
ちょっとばかり時間かかっちゃったけどね
なんか数分しか経ってない気もするけどね
私たちにとっては あっという間だったということよ
あんたがその役目するな
さあ 倫理くん
だらっしゃー
どうだった 英梨々たちとの打ち合わせ…
倫也くん
惠 惠
お前はいなくならないよな 俺を見捨てたりしないよな
なんかひどいプロットでも見せられた?
例えば霞ヶ丘詩羽先輩に
状況を正確に言い当てるなよ
いよいよ叶うんだね 私たちの夢
あー やっぱそう言ってくれる恵が一番だ
よっぽどひどいトラウマ植えつけられたみたいだね
まっ でもとにかく企画が動き出したら忙しくなるぞ
わたしが忙しくなるのは実際にゲームを作るところからだけどね
頼りにしてるぞ ディレクター
そっちの働きにかかってるよ シナリオライターさん
あの二人をうまく使ってくれるよな 副社長
あの二人に飲み込まれないでね 社長さん
頑張ろうな
私たちが頑張らなくてどうするの
部屋に戻ってから
あれ 開いてる
なっ…
あっ おかえりー
おかえりなさい 倫也さん 恵さん
って なんでいるんだよ 二人とも
やあー いいフレーズがパッと閃いちゃってさ
居ても立っても居られなくて
わたしもいいキャラクターが浮かんだから
居ても立っても…
仕事場なら隣だから
そもそも仕事してないじゃん
でもさ 昔からいつもあんたの部屋で作業してたじゃん
もうサークルじゃないから 会社だから
公私混同するなよ
公私混同するなってそれどの口が言ってるんですかね
えっ いや それは…
そうだそうだ どの口だ この口か この口なのか
食器もインテリアも どう見ても倫也のセンスじゃないわね
英梨々
まあ かろうじて合格かな
それ 初めて上がった部屋でやることかなぁ
なーによそよそしいこと言ってんの 加藤ちゃん
そうそう 二人ともこれからまた一緒に仕事する仲間じゃないですか
まったくもう
って 二人!?
おかえりなさい
先にいただいているわよ 加藤さん
霞ヶ丘先輩
このメンバーが全部集まるの何年ぶりですかね
今夜はパーッといこう
波島兄ちゃんも呼ぶぞ
はい
材料なら買ってあるわよ
申し訳ありません
って 俺 何も悪くないけど
ああ うるさいよ 倫也くん
いや ちょっと
恵
いいよ 向こうでみんなの相手してきたら
そんなわけにも
それもできないなら
これ持ってって
本当に久しぶりだね この6人が集まるの
ああ
さあ 始めようか 久しぶりの合宿を
でも 邪魔されたのだけは癪だから
これだけは 回収しとくね
おお 来た来た
待ってました
本当に待ったわよー
確かに10秒ほど余計に時間がかかったわね
あ~もう そういう挑発には乗りませんから
お行儀悪いですよ
はいはいはい それじゃ始めるぞ
ブレッシング・ソフトウェア完全版の結成を祝って 乾杯
おつかれー
だからそれ以上は…
違う!人の話まともに聞くこともできんのか!
すいません…ホントすいません…
言葉にできない気持ちがあるから
この街は音楽(たのしみ)であふれてる
呼吸(いき)をするように そばにいてほしい
アドリブで 毎日を 奏でよう
遠回りして 見た景色
ひとりぼっちで 転んで 知った キミの大切さ
泣いた昨日と(icy!) 笑う明日が(tail YO!) 繋がるよ
この手は もう 空っぽじゃなくなった
だって出会えた(icy!) 一緒に来れた(tail YO!) 信じてるよ
その声も 仕草も その夢も
内緒だけど icy tail YO!
通い慣れた道 瞬きでシャッター切った
歩幅合わせて 並ぶ影
独り占めしたいんだ
名前を呼ぶその声も
真っ直ぐ夢を見てる瞳も
守りたいもの 増えるたびに
強くなれるよ
大好きだと
言葉にするのが怖くて
重ねた手に込めた
あぁもっともっと知りたいよ
君がいるだけでカラフルに色づく世界
教えてくれて ねぇありがとう
大切にめくるダイアリー 君と
「また明日」って手を振る
当たり前が変わっても
諦めたくない運命を見つけたよ
私らしくないけど
ねぇ、聞いて
大好きだよ
隣で見たどんな景色も
眩しすぎて やだなぁ
もうきっとずっと忘れない
この坂道 並んで登りきったなら
シナリオじゃない笑顔見せて
夢の向こうでも 変わらずに
そばにいたいから
桜色の風 すぐそばのエピローグ
真剣な君の横顔に
この胸がきゅっとなる
振り向けば 笑っちゃうほど
ねぇ 不器用で
君の理想になれなくて
ため息の日もあった
想いが溢れてるのに どうして?
はぐらかしてしまうよ
シグナルに気づいてほしくて
らしくないけど
大好きだよ
隣で見たどんな景色も
眩しすぎて やだなぁ
もうきっとずっと忘れない
この坂道 並んで登りきったなら
シナリオじゃない笑顔見せて
夢の向こうでも 変わらずに
そばにいたいから
“キミ”が足りなかった36度5分
微熱ギリギリまで上げてもいいよ
妄想・幻想・執着
分かりづらい愛情カテゴリー
属しちゃうとか
もう なんだかなぁだよね
ねぇ企画書になかったよ
こんなに好きになる展開
あぁこれからも巻きこまれそう
めんどくさくて 楽しみなあれこれ
でもね キミのヒロインがいい
ココロの絶縁体
はずすのにずいぶんかかったね
黒歴史も 白昼夢も
蒼かった日々の笑い話
熱暴走して落ちそうな日は
わたし寄りの#(シャープ)で
…おたがいナチュラルでいいかな
恋心描いた日々のデッサン
消しゴムかけて消せるほど 単純じゃない
行間の涙で霞むストーリー
失恋など かすり傷
暴走の 夜も
限界の 朝も
最高を 目指し
一緒に 足掻いた
でもたしかに恋してた
Miss you
荒削りで幼稚な恋の描写
リアルに変わっても
解像度下げて
奥歯に物を挟んで
応援しよう
前だけ見て行こう
二つの一等星
輝かなきゃ許さない
でも等級じゃ負けない
ずっと Team Triangle
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