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Original subtitles

♬~(オペラ「蝶々夫人」)

♬~

♬~

♬~

心の声 (蝶)かか様 ばば様…➡

蝶は とうとう 長崎に来ましたばい。

♬~

(源九郎)あ~ はあ~ 着いた。

この玄関ば またいだが最後➡

深堀の貧乏士族の娘は消えて➡

寄合町は水月楼の 跡取り娘に生まれ変わっとぞ。

(トメ)そうだ お絹。 後で うちん中ば 案内してやって。

(絹)はい。

(源九郎)時は 明治7年 甲戌➡

かの有名な佐賀の乱のみぎり➡

彼が父親 伊東鼎之助は 年 僅か23にして➡

南白 江藤新平のもとに戦い➡

諫早は さやんごぜんの かやの原にて~➡

あっぱれ 勇壮なる討ち死にば 遂げたのでござります。

所詮は 賊軍たい。 えっ?

天朝様に盾ついて 自慢できる話か。

こん子の出自については➡

仲立ちに立って下さった 深堀のご領主の奥方様から➡

ご丁寧か釣り書きも 頂戴しとります。

深堀の旦那様の おとりなしには 逆らえません。

ばってんが 親戚のおいにしたら 今日まで 陰に ひなたに➡

面倒ば見てきた 伊東家の大事な一人娘ば➡

手放さんば でけんとですけん。

心配は ご無用。 お礼は 相応にさせてもらいますばい。

みなしごになったとは 先年のコレラ騒動げなね。

はい。 これの母親も ばあ様も 一緒に亡くなりましたと。

よう おうち一人 生き残ったもんたい。

そいこそ これの ばあ様と母親の おかげですと。

(やえ) 晩御飯までには 帰るけんね。

(みわ)笛の稽古 しっかり しときんさいよ。

(源九郎)コレラの起こった高島に➡

運悪う スイカば売りに 出かけとりました2人が➡

これが待つ深堀には戻らず 帰りの小舟ん中で➡

自害してしもたとです。

よう まあ…! そいで コレラに うつらんで済んだとたい。

(源九郎)見上げたもんか あきれたもんか➡

全く 武家の女でなければ できん芸当でございます。

こっちにすれば 煩わしか係累は おらん方が➡

好都合ちゅうこったい。 (源九郎)そりゃあ もう。

⚟(トメ)おかっつぁま。 (マツ)うん。

お薬湯のお時間で。 うん。

どこか お加減のお悪う あんなさいますと?

水月楼の屋台骨ば 一人で背負うとりますけんね➡

あっちも こっちも おかしゅうもなりまっしょたい。

名は 蝶て? はい。

おうちは 今日から 太田 蝶たい。

こん水月楼の跡取りですけん➡

そんおつもりで しっかり精進して もらわんば でけまっせんばい。

はい。

見込みがなかと判断したら いつでん 養子縁組みは➡

ほごにしますけんね。

あの… 朝御飯 あちらに ご用意しとりますけん。

そりゃそりゃ ご造作ば。

おとしゃま お帰りなさいまっせ。

はい。

おうちゃ 果報者ばい。

こんげん米の飯ば こいから 毎日食えるとじゃけんね。

♬~

(喜三郎)ないごとへ?

あん子 養女にしますけん➡

そんおつもりで。

まあ よかごとしまっせ。

源九郎さん お礼話の続きば 片づけますばい。

ああ はい。 じき 参りますけん。

♬~

はい お代わり。

たんと おあがりまっせ。

はい。

♬~

ごちそうさまでした。

(もなか)何でも 深堀のお武家の 娘さんらしかよ。

(花鳥)へえ~。 おうち 見たへ? (もなか)まだ。

(八橋)おかっつぁまが 本気で 張り合う気にならしたとばいね。

(白菊)いよいよ 水月楼の乱の始まりたい。

(花鳥)水月楼の乱? (もなか)しっ!

ほらほら いつまで 油売っとっとへ。 早う!

水月楼の抱え娼妓ん子たちですと。 今は 全部で 15人おりますとよ。

こんお部屋は おかしゃまが お嬢様ん頃➡

お使いになっとったと 伺うとります。

きれいかお部屋ですね。 たんすや お道具が入れば➡

お部屋らしゅうなりますけん ちょびっと ご辛抱ば。

いいえ うちには もったいなか。 お身の回りのお世話は➡

女中頭のトメさんと 私 絹が 仰せつかっとりますけん➡

何でん お気兼ねのう。 ありがとう存じます。

うちの親も 島原藩の貧乏士族でしたけん。

武士は 相身互い。

おにいさん 寄っておいで。

遊んでいかんえ?

安うしとくばい。 おにいさんも 寄っていかんえ?

おいで おいで。

5人様 ご案内!

いらっしゃいませ。 どうぞ お2階へ。

いらっしゃいませ。

(宴席のにぎわい)

おかしゃま。 (4人)お世話になります。

はい 御苦労さま。 お気張りまっせ。

(宴席のにぎわい)

とと様。

ばば様。

かか様。

ご一緒して頂きました。

♬~

回想 「天は人の上に人を造らず 人の下に人を造らずと言えり。➡

さ… 「されば天より人を」 し…?

「生ずるには」。 お蝶 焦らんちゃよか。

ゆっくり ひと言ひと言 はっきりね。

はい かか様。

「されば 天より人を生ずるには➡

万人は万人みな」 お… 同じ く… 位にして?

聞くところじゃ 福澤先生の「学問のすゝめ」が➡

小学校の 教科書になっとるらしかよ。

教科書にてですか。

お蝶には 入学前から しっかり精読させて➡

学校の先生ば びっくいさせたらよか。

教科書になったとですね この本が。

(みわ)あん子が 死ぬ間際まで 懐に入れとった書物が。➡

お蝶のとと様は やっぱり➡

先見の明が おありじゃったとよ。➡

お蝶も とと様の遺志をば しっかい継いでいかんばね。

はい。 とと様は 福澤先生のごと➡

アメリカに渡るとが 夢やったとよ。 お蝶も アメリカに行くね?

アメリカ?

♬~(能笛)

今の曲調ば 覚えとるね? はい。

うとうてみんしゃい。

いや~っ!

♬「おひゃ ああ」

お帰んなさいませ。

(鼻歌)

おとしゃま お早かお帰りで。

⚟♬~(能笛)

真っ昼間から よか音色の 聞こゆっじゃなかか。 誰ね?

はいさ お蝶様ですとよ。

ふ~ん。

♬~(能笛)

まあ そこそこたい。

踊りと長唄 三味線の稽古の手配は したばってん➡

さて 能笛は どこのお師匠さんに お願いしたもんか。

お茶と お花は うちが仕込みますけんね。

いずれ おうちは こん水月楼の 若女将にならんばできん。

教ゆっ事は 山ほど あっとよ。 覚悟しまっせ。

活水は…?

活水って 何の稽古?

活水女学校です。 そこは 何ば教ゆっとこ?

アメリカの先生方が じかに英語ば教えて下さいます。

英語ば習得して 何の役に立つとへ?

アメリカにでん渡る気?

いいえ。 アメリカ行きは 許さんばい。

はい。

月謝は いくら? 女学校の。

50銭です。

踊りの稽古代より高かとたい。

まあ よかろ。

おかしゃま ありがとうございます。

♬~

あっ… そいは どこに?

さあ ほどいて 雑巾にでんしましょうかい。

♬~

♬~(三味線)

♬「誰に見しょとて」

♬「紅鉄漿つけよぞみんな」

(サダ)蝶々さん お先。 サダっち またね。

春駒ねえさん 御機嫌さんです。

お絹さんの事… 春駒ねえさんて?

あら そげん事 言いました?

へえ~ 春駒…。

うち こん坂 2度目。

え? 前にも 長崎に来なった事の あんなっとですか?

うちの お守り。

かか様? かか様?

お帰り。

こいば 御覧下さいまっせ。 どげんしたと?

学校に 月謝ば納めに参りましたら 担任の田代先生が➡

新聞の切り抜きば下さいまして➡

蝶々さんは 英語が好きのごたるけん➡

こげん所にやったらどうかて。 こげん所て?

「今般 大浦切り通し上へ 13番地において➡

女学校開設致し 殊更 月謝なども廉価にして➡

英語と日本普通学 そのほか 教授すべく➡

有志の女子 ご入学あらん事を希望す」。

調べてみましたら 発起人は➡

アメリカの婦人外国伝道教会から 派遣された➡

身元のちゃんとした 方々らしゅうございます。

う~ん 新しか時代に 新しか学校ば 目指さすっとねえ。

はい。 こいで お蝶にも 目標のでけました。

よう覚えておきんしゃい。

いつかきっと お前は この坂ば上がってきて➡

あん中に入らんばでけん。

こいからは 女でん 将来ば持たんばでけんもんね。

そうたい こん景色が おうちの将来たい。

もうすぐ お蝶様も あん中に…。

お母様や おばあ様が託された夢が ようやく かないますとたいね。

活水に入ったら 英語力ばつけて…。

(英語で)

深堀者は 英語ば しゃべれるって ホントやったとですね。

小学校で 英語ば習いますけん。

深堀じゃ 小学校から 英語ば教えなっとですか?

イエス。

うち おかしゃまには うそば つきました。

うそって?

アメリカに渡る気はなかて 言いましたばってん➡

あいは うそ。 活水ば卒業したら アメリカに行かせてもらいたかとです。

あら そんげん うそば。

お武家の娘が うそばついたら でけんとじゃなかですか?

「博打を打ち 虚言を言え」。 え?

「葉隠」の教えですばい。 「葉隠」て お蝶様がお持ちの➡

武士の心得作法を説いた 書物では?

父の形見の書物ですばってん その「葉隠」にあっとです。

「一町歩く間に 7度 うそを 言えるほどの者でなければ➡

ものの役には立たぬ」と。

へえ~ 武士の心得に そんげん言葉。

気に入りました 「葉隠」。 はい。

(郷田)春駒ねえさん。

亭主が 脱獄した。

お~? 先刻 ご承知か?

うちは 何も知りまっせん。

まあ よか。 三浦寛治は 必ず おうちに連絡ばしてくるはず。

かくまおうなど不届きばすれば おうちも 監獄行きぞ。

刑事様 勘弁してくらはりまっせ。

こりゃこりゃ 水月楼のお嬢様 大層 ご無礼ば。➡

安心せろ。 おうちの身辺にゃ 四六時中 官憲の目が光っと。

亭主が縄打たるっとも 時間の問題たい。

すみません 怖か思いばさせて。

悪か女ですとよ うちは。➡

末石ていう置屋から 芸妓衆で 出とった頃の話ですたい。➡

堅気の会社員ば その気にさせて 大枚はたかせて➡

落籍させたまでは よかったとですばってん➡

そんために 会社のお金ば 使い込んでしまいなってですね➡

横領罪で 10年の懲役ば科せられて。

10年も。

おかげで うちは 自由の身になりましたばってん➡

引き換えに 相手は監獄行き。

そいじゃ あんまり申し訳なかですけん➡

捕まる前に 祝言ば挙げて 女房にしてもろたとです。

夫婦になったら 嫌でん 帰りば 待っとらんばでけまっせんもんね。

10年でん 20年でん 待っとってやる人間の➡

一人は おらんばですけんね。

ばってん 脱獄しなったて 警部さんが…。

なして辛抱でけんやったですかね。

何年でん待っとりますけんて あれほど言うたとに…。

逃げまっせ。 え?

どっかから 旦那さんが現れなったら➡

そん時は 一緒に逃げまっせ。

うちも手伝います。

お蝶様…。

⚟松の間のご注文 上がりました。 ⚟はいよ。

⚟お待たせしました。

⚟こっちも 早う。 お待ちかねばい。

⚟はい ただいま。

⚟みんな 早う 早う。

⚟♬~(三味線)

⚟(悲鳴)

座敷に お戻り下さいませ! うわっ!

お客さん おやめ下さい! うわ~っ!

交番! へい!

きゃ~!

おとしゃま 羽織。

⚟(悲鳴)

ハハハハ…。➡

ハハハハ。

武士道というは 死ぬ事と見つけたり!

♬~

や~! えい!

(マツ)よか度胸たい。

(拍子木の音)

♬~

(みわ)生涯のうち 女が こいば抜く時は➡

自分の命ば絶つ時。➡

それより ほかの理由で 抜く事はなかとよ。

こいから 自害の作法ば 教えときます。

ばばの するようにして。

♬~

まず さやを払う。

左手の手のひらを 柄頭にあてごうて➡

喉元に 刃の先を立てて 一思いに。

(泣き声)

こがん作法も 武士の娘のたしなみたいね。

お蝶の一生には 無縁の事ばい。

いや~ 大したもんたい。

たった一人で 酔漢ば撃退した豪傑の面ば➡

一目見ようと出向いてみたら➡

なんと こんげん愛らしか お嬢ちゃまやったとは➡

たまげたばい。 おかげさまで 水月楼も➡

頼もしか跡取りの出来て 一安心でございますと。

蝶々さんは 深堀の出ていうたか?

はい。 あ~ そうか 深堀か。

深堀者やったら なおのこつ ご褒美ば あげんばでけんたい。➡

蝶々さん 何か欲しかもんは なかか?

ハハハ よかよか。 思いつかんかったら➡

わしが勝手に決める。 楽しみに待っとりまっせ。

きゃ~ 何やろか。 うちも楽しみ。

♬~

よかか? これが 電話機っちゅうもんばい。

英語では テレホ~ン。

テレホ~ン。

まあ 長崎では まだ普及しとらんばってん➡

我が帯谷海運では 逓信省に掛け合うて➡

賄賂も ようけ使うて ようやっと 万屋町ん支店との間に➡

私設専用電話開設の認可ば 頂戴したとたい。

帯谷のおとしゃま。 (帯谷)うん?

こいば 見せびらかしなっとが ご褒美ですと?

まあ 早か話が そうたい。

あ~あ ついてきて損した。

ヘヘヘ。 そいだけでは あやのなかろうもん。

暫時待っとれ。

もしも~し! おいたい。

はい 社長。 そうです。 待機させとります。

はい ただいま 本人に代わります。

こいに向かって 最初は 「もしもし」と言うとばい。

はい。

もしもし。

太か声で話さんば 聞こえん。

もしもし! うちの名は 伊東… 太田 蝶と申しますばってん。

(伊作)蝶々さん!?

おいは 伊作。 谷川伊作よ。

伊作さん? ホントに 伊作さんてね!?

(ユリ)何ばすっと!?

キリシタンは 神社の鳥居ば くぐらんずばい!

善長谷の隠れ ここまで来んかい!

(一同)や~い 取りに来い。

ユリちゃんも一緒?

一緒じゃなかばってん 妹も 長崎に来とっとばい。

や~い。 や~い 隠れ 取りに来い。

(はやしたてる声)

会いたかあ ユリちゃんにも 伊作さんにも。

☎(帯谷)伊作か? おいじゃ。

お前が捜しとった蝶々さんに 間違いなかったか?

あ? 捜しとったとは 妹の方て? ごまかさんでよか。

お前も一生懸命やったたい。 もう 電話置くけん。

こいが ご褒美。

ありがとうございました。

♬~

蝶々さん。

♬~(オルガン)

♬~

ユリちゃん。

♬~

(ユリ)帯谷様のお屋敷の 下働きばしよる時➡

東山手まで お使いに出たついでに➡

この出島の教会に ご挨拶に寄ったとよ 兄さんと。

おいたちの出が 隠れキリシタンて事に➡

こちらのデビソン牧師様と奥様が 同情ばしてくれなさって➡

何べんか 隠れのお話ば しに来とるうちに➡

ユリに 養女にならんかて。 そう。 よかった。

びっくりよ。

アメリカ人になってしもうて。

羨ましか。 おとぎ話のごたる。

蝶々さんこそ 水月楼の跡取り養女に➡

なんなさっとるなんて いっちょん知らんやった。

深堀のご親戚にお尋ねしても➡

長崎に出られたというこっだけで 何も教えて下さらんけん。

(ユリ)随分 捜したとよ。

活水女学校に行きたか一心で…。

うちも秋から活水に入学すっと。

わあ 活水で また一緒に 勉強のできると?うん。

(鐘の音)

ど~いどい。

(鐘の音)

⚟ど~いどい。

⚟(鐘の音)

⚟ど~いどい。

うっ… うっ!

♬~

⚟(トメ)弥助!

検梅のお医者様ば呼んできて。 早う!

(喜三郎)おかげさまで 葬儀から初七日まで➡

滞りなく終える事ができました。➡

こいからは 跡取りのお蝶ば もり立てて➡

水月楼ば ますます 繁盛させていかんばなりまっせん。

ばってん 御覧のごと 跡取りは若輩。

廓の女将ば 務められるっ器量も修業も➡

まだ積んでおりまっせん。

しかしながら 廓っちう所は 特に この水月楼は➡

女将なしじゃ 一日たりとも 立ちゆかんとじゃもんね。

そこで まあ お蝶が一人前になるまでの➡

つなぎの女将ば 置く事に決めたけん。

(ざわめき)

(千代)おとしゃま! おお もう来たとか お千代。

(トメ) さあさ こちらでございます。

ありゃ 誰へ? 麹屋町のご別宅の。

博多で 芸者ばしとらした人て。 あいが…。

お蝶 こいは 水月楼の 新しか おかしゃまぞ。

ちゃんと ご挨拶ばせんか。

蝶でございます。

たかと申します。 よろしゅうお頼み申します。

そいと こん子は おうちと違うて➡

おとしゃまの直系の娘… ですけんね。

あんまい いじめんとって下さいまっせ。

仲良うします。

そいと… お蝶の そん席は➡

おたかと お千代に 譲ってもらおう。

こげん事が あってよかとね? 四十九日も終わらんうちに➡

おめかけさんば 引き込んでしまいなった。

ちっと手際のよすぎやせんね。 全くばい。

そいに お蝶様への あん仕打ちは何ね!

(花鳥)人の道もヘチマも あったもんじゃなかよ。

(白菊)そいについちゃ 座敷で 変かうわさば聞いたばい。

(もなか)何ね?

(白菊)おかしゃまは➡

一服盛られなったとじゃ なかろうかって。

(花鳥)え? どういう事ね。

世の中には ヒ素ちゅうて➡

じわじわ分からんごと 殺していく薬のあっとげな。

誰が そんげん大それた事ば?

(白菊)そいは 言わぬが花さ。 証拠も何もなかもん。

(花鳥)恐ろしか。

よう冷えておりますばい。

どうせなら こっちに お着替えば。

捨てられたと思うとりました。

母様や おばあ様の お形見でっしょが。

無残に捨てらるっもんですか。

ありがとう。

負けちゃならんですばい。

お蝶様には 大切な目標の あんなさっとやっけん。

何事も そいがための ご辛抱ですとよ。

活水女学校の入学願書は うちが お使いのついでに➡

もろうてまいりますけんね。

あん時 弥助さん こげん 太か たんこぶば➡

こしらえたとやけん。 うちも見た~!

こいは おかしゃまと お千代様の分ですばい。

ほかのもんと 交ぜて洗うちゃいけん。はい。

いつまで かかっとっとへ。

ここは お蝶さんに任せて 掃除ばせんね。

ほれ! 早う! 何ばしよっとか。➡

早う!

お蝶様。 はい。

お友達のお見えですばい。

はい。

アメリカ? 急に決まったと。

デビソン牧師様ご夫妻が 帰国なさる事になって➡

うちも一緒に行かんばでけんと。

活水女学校には行かんと?

うちは ニュージャージー州ていう所にある 神学校に行くらしか。

神学校? 牧師さんになる学校よ。

女牧師さんになるとね?

蝶々さん 絶対に 活水に入ってね。

活水で 英語の勉強ば積んだら うちも アメリカに行くけん。

ユリちゃんば追いかけて アメリカに行く。

待っとるばい。 きっと来て。 約束ばい。

♬~

出発は いつ? あさってのお昼。 大波止から。

お見送りに行くけん。

⚟(トメ)お蝶さん。 お蝶!➡

洗濯ば放り出して どこで油売っとっとへ!

こいば 預かっとって。 うちの一番の宝物。

こいば うちと思うて。

⚟(トメ)お蝶!

そんなら うち 行くけんね。

♬~

ユリちゃん…。

(喜三郎)ハハハハ…! 親て?

はい おとしゃま。

ここに 親の承認印ば ついて下さりまっせ。

また のぼせ者が。

ばってん 活水女学校の事は 亡くなった おかしゃまが…。

その願書とやらには 間違いのあるばい。

どこがでっしょか。

おうちの姓名 何て書いとっとか? 太田 蝶て。

おうちの名前は 伊東 蝶じゃろが。 ばってん 今は 太田…。

そんげん勝手に 太田姓ば名乗られても迷惑ばい。

おうちは養女のつもりでん 戸籍にや 名前のなかもんね。

(笑い声)

(喜三郎) マツは 所詮が乳母日傘。➡

どっか ぽか~っと 抜けとらしたもんね。➡

跡取りだ 何だと 気張ってみたところで➡

肝心の入籍ばせんに➡

おうちは 水月楼とは 縁もゆかりもなか他人さんばい。

まあ 女学校話は なかった事にせんばね。

分かりました。

ほう こりゃ 物分かりのよか。

うちは おいとまば頂戴します。

おうちが そん気でも そうは いかんとよ。

こいが 何か分かるへ?

おうちの身代金の証文たい。

身代金?

礼金とは 名ばかり。 おうちは 親戚の大林源九郎に➡

大枚100円で 売られたっちゅうこったい。

うちは… 売られた?

証文の形式は 娼妓と いっちょん変わらんけんね。

明日っから 2階の女郎部屋に 上げてもよかとよ。

そいとも 上海にでん 売り飛ばそうか。

どっちがよかね。

♬~

100円 踏み倒して 逃げ出そうってか。

(トメ)何ば見とっとへ! 手ば 動かさんね。

兄さん 蝶々さんば お願いね。 うん。

うちの分まで 蝶々さんば守ってね。

いつか 蝶々さんば連れて アメリカに行くけん。 待っとって。

はい。

♬~

心の声 ユリちゃん 見送りでけんで 堪忍してね。

♬~

⚟♬~(能笛)

「恋之音取」…。

♬~

⚟蝶々さん。

伊作さん…。

♬~

100円 貸せて?

あの お蝶って子ば 身請けでもするつもりか?

そんかわり 死ぬまで ただ働きさせて頂きますけん。

お前の身ば 担保にするてか。 はい。

大した肩入れじゃなかか。 その男気ば買うて➡

100円貸してやっても よかばってん➡

仮に 100円持って 水月楼に行ったところで➡

お蝶ば 請け出す事はできんとぞ。

そこは しかるべき 玄人ば間に入れて➡

ちゃんと筋道立てて話さんば でけん世界たい。

どげんしたら よかとでしょか。 ああ…➡

もう話はつけとる。 えっ?

お前より先に 相談しに来た人のおってたい。

出てこんね 絹さん。

(帯谷)今でこそ 水月楼の下女ばってん➡

一皮むけば 丸山名妓で鳴らした 春駒ねえさんとよ。

(幸)おとしゃまか 新しか おかっつぁまは➡

おんなさるね? どちらさんでしょか。

おうち うちば知らんとへ。

これは… 末石のおかっつぁま。

おや 弥助さん。 何を ぼけっとしとっと。

末石のおかっつぁまのお見えで。 奥へ。 早う!

うわさどおり えらい変わりようたい。

100円の証文ば 200円で売りつけたら➡

そりゃあ 御の字ですたいね。 確かに。

さすが 置屋「末石」のおかっつぁま お目の高か。➡

あん子にゃ 踊り 三味線 笛 太鼓まで➡

たっぷり 元手ば かけとりますけん➡

末石 行っても 仕込みの手間は要らん。

明日からでん 舞妓で出せますばい。

お幸さんも 抜け目んなか。

どうぞ。

トメさん。

こちらで出されるお茶にや 南蛮渡来の特別な薬ば➡

入れとんなって 専らのうわさばってん➡

こいにも入れてくんなった?

めっそうもなか。 そりゃ 残念たい。

さて 長居は無用。

♬~

蝶々さん 出ておいでまっせ。

今日から おうちは 末石が預かりますけん。

♬~

社長 ありがとうございました。

出して頂きました200円は おいの給金から➡

差し引いていって下さい。 お願い致します。

末石のお幸とはな 長か つきあいやった。

あの金は お幸への手切れ金たい。

そん金ば お幸が何に使おうと おいの知ったこっちゃなか。

はい。

蝶々さん…。

あの子は よか芸妓衆になっじゃろ。

芸妓衆に 蝶々さんが…?

入学願書ば 受け取ってもらえんてですか?

なしてですか? 先方に言われたとおりに言うばい。

「本校は 神聖な キリスト教の女学校ですから➡

花柳界ご出身の方のご入学は どなたにも➡

ご遠慮頂いております。 丸山界わいの方との交流は➡

校内の風紀を乱すもとにも なりかねませんから」とも➡

言われたばい。

置屋におるとがでけんとなら…➡

どっか 堅気のお宅の 養女にしてもろて➡

もう一度 入学願書ば 出し直そうか。

いいえ おかしゃま もう よかです。

ばってん 活水の女学生になっとは➡

子供ん頃からの 悲願じゃなかったとへ?

活水は 諦めます。

おかしゃま➡

どうぞ うちば 末石の舞妓に 仕込んでおせつけまっせ。

英語は 続けまっせ。

英語のしゃべれる舞妓がおっても よかたい。

♬~

心の声 かか様 ばば様 うちのために…。

♬~(能笛)

上手に吹けとる。

♬~(能笛)

かか様 うちは 少し 吐き気のしてきました。

うちもよ。

(やえ)コレラに やられたとでしょか。

お蝶には うつされん。

沖に出ましょ こげるうちに。

♬~

お蝶…。

♬~

心の声 かか様 ばば様 許して下さい。

♬~

(英語で)

♬~

末石の春蝶さん お披露目でございま~す。

春蝶! 春蝶!

末石の春蝶さん お披露目でございま~す。

春蝶! よっ 春蝶!

Excuse me, doctor.

♬~

♬~

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