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21 00:03:16,940 --> 00:03:20,960 柿染めの日傘なので 和装の女性のものではないかと。 22 00:03:20,960 --> 00:03:23,990 柿染めだなんて お着物にお詳しいのね。 23 00:03:23,990 --> 00:03:26,950 知人に 着物の好きな女性が いるものですからねぇ。 24 00:03:26,950 --> 00:03:29,060 ああ そう。 やはり そうでしたか。 25 00:03:29,060 --> 00:03:31,060 どうもありがとう。 26 00:03:37,920 --> 00:03:41,060 でも もう日傘はいらないわね。 27 00:03:41,060 --> 00:03:43,060 夏は また来ますよ。 28 00:03:45,060 --> 00:03:48,060 さっき 聞いたんですけどね…。 29 00:03:50,970 --> 00:03:56,970 来年の夏には 私 もう この世にいないのよ。 30 00:04:01,010 --> 00:04:03,010 …はい? 31 00:04:59,940 --> 00:05:02,960 早めに抜いたほうが いいと思うよ。 32 00:05:02,960 --> 00:05:06,980 ねじ曲がった親知らず。 定期健診で言われたんだろ? 33 00:05:06,980 --> 00:05:09,830 でっかい病院で 歯茎切開して 引っこ抜けって。 34 00:05:09,830 --> 00:05:12,930 いいんです。 別に 今 痛んでるわけではありませんから。 35 00:05:12,930 --> 00:05:14,870 ヘッ… また強がって。 36 00:05:14,870 --> 00:05:18,870 大体 なんで わざわざ この間 病院行ったのに→ 37 00:05:18,870 --> 00:05:21,080 治療せずに帰って来たのよ? 38 00:05:21,080 --> 00:05:25,080 たまたま知り合った方を 車で送って差し上げたので。 39 00:05:36,930 --> 00:05:38,930 はい 特命係 神戸です。 40 00:05:38,930 --> 00:05:44,830 「高塔と申しますが 杉下右京さんをお願いします」 41 00:05:44,830 --> 00:05:47,050 はい 少々お待ちください。 42 00:05:47,050 --> 00:05:51,050 高塔さんとおっしゃる 女性の方です。 43 00:05:57,010 --> 00:06:02,010 お電話 代わりました 杉下です。 先日は どうも。 44 00:06:02,930 --> 00:06:10,080 ええ… ええ 構いませんよ。 45 00:06:10,080 --> 00:06:15,080 暇ですから すぐに伺いましょう。 では。 46 00:06:18,930 --> 00:06:21,940 勤務中でございますが どちらへ? 47 00:06:21,940 --> 00:06:26,020 もちろん 職務の一環ですよ。 はぁ~。 48 00:06:26,020 --> 00:06:29,020 という事は 僕も ついて行っていいわけだ。 49 00:06:32,960 --> 00:06:34,950 高塔織絵。 50 00:06:34,950 --> 00:06:36,900 女流歌人…。 51 00:06:36,900 --> 00:06:39,940 へぇ~ あの五七五七七の 短歌を詠む人なんですか。 52 00:06:39,940 --> 00:06:41,940 そうですよ。 53 00:06:41,940 --> 00:06:44,880 「10代で 器の会の主宰 浅沼幸人に師事」 54 00:06:44,880 --> 00:06:48,830 「23歳で 第一歌集を発表し 一躍 歌壇の脚光を浴びる」 55 00:06:48,830 --> 00:06:52,950 「その後 話題作を続々と発表して 受賞歴を重ねる一方→ 56 00:06:52,950 --> 00:06:57,920 2003年 器の会の主宰を引き継ぎ 活躍を続けている」 57 00:06:57,920 --> 00:07:01,060 杉下さん すごい人 知ってるんですね。 58 00:07:01,060 --> 00:07:03,060 偶然知り合っただけです。 59 00:07:03,930 --> 00:07:06,920 なるほど。 この二重底から→ 60 00:07:06,920 --> 00:07:09,880 見た事のない青い小瓶が 出てきたわけですね? 61 00:07:09,880 --> 00:07:12,040 そう。 それで→ 62 00:07:12,040 --> 00:07:15,870 大学の薬学部に勤めている知人に 調べてもらったら→ 63 00:07:15,870 --> 00:07:19,840 小瓶の中身は 毒物だったの。 64 00:07:19,840 --> 00:07:22,950 毒…? ええ。 それも→ 65 00:07:22,950 --> 00:07:26,950 ごく少量で人が死んでしまう程の 猛毒。 66 00:07:26,950 --> 00:07:29,840 あっ そう えっと あなた…。 あっ 神戸です。 67 00:07:29,840 --> 00:07:31,960 そうそう 神戸さん。 68 00:07:31,960 --> 00:07:33,880 そこに かりんとう ありますから どうぞ。 69 00:07:33,880 --> 00:07:36,090 どうも。 70 00:07:36,090 --> 00:07:40,090 ところで これは どなたの文箱なのでしょう? 71 00:07:41,950 --> 00:07:46,870 これは 桐野孝雄という人の 文箱でした。 72 00:07:46,870 --> 00:07:50,990 桐野は 私が二十歳の学生の頃に→ 73 00:07:50,990 --> 00:07:54,990 結婚を約束した人でした。 74 00:07:56,110 --> 00:07:59,110 この人よ。 失礼。 75 00:07:59,930 --> 00:08:03,960 桐野と私は 短歌の会で知り合ったの。 76 00:08:03,960 --> 00:08:09,940 桐野は 機械部品工場の工員で 頭の固い私の両親は…。 77 00:08:09,940 --> 00:08:12,930 桐野さんとの交際に反対した。 78 00:08:12,930 --> 00:08:18,020 そう。 それで 私は家を出て→ 79 00:08:18,020 --> 00:08:21,860 桐野の下宿で 一緒に暮らし始めたの。 80 00:08:21,860 --> 00:08:25,930 ところが その年の夏→ 81 00:08:25,930 --> 00:08:28,930 私が 大阪に嫁いでる姉のところに→ 82 00:08:28,930 --> 00:08:32,930 今後の事を 相談しに行ってる間に→ 83 00:08:32,930 --> 00:08:38,960 桐野は 毒を飲んで 死んでしまった。 84 00:08:38,960 --> 00:08:40,930 服毒自殺ですか…。 85 00:08:40,930 --> 00:08:43,960 遺書は あったのですか? 86 00:08:43,960 --> 00:08:45,830 いいえ。 87 00:08:45,830 --> 00:08:50,840 でも 桐野は元々 体が丈夫なほうではなくて。 88 00:08:50,840 --> 00:08:55,060 その頃も 過労で 時々 倒れたりしてましたから。 89 00:08:55,060 --> 00:09:00,060 警察では 将来を悲観して 衝動的に自殺したんだろうと。 90 00:09:00,830 --> 00:09:03,030 よろしければ→ 91 00:09:03,030 --> 00:09:07,030 桐野さんが発見された時の様子を 教えていただけますか。 92 00:09:09,940 --> 00:09:12,940 発見したのは…。 93 00:09:12,940 --> 00:09:14,860 桐野 入るぞ。 94 00:09:14,860 --> 00:09:17,950 桐野の無断欠勤を不審に思って→ 95 00:09:17,950 --> 00:09:21,980 様子を見に来た工場の人たち。 96 00:09:21,980 --> 00:09:26,000 桐野は 窓のすぐ横に倒れていて→ 97 00:09:26,000 --> 00:09:30,940 毒の入ったコーヒーのカップは 窓の桟に置かれていたそうです。 98 00:09:30,940 --> 00:09:34,860 コーヒーカップの指紋は? カップにも→ 99 00:09:34,860 --> 00:09:37,980 インスタントコーヒーの瓶にも スプーンにも→ 100 00:09:37,980 --> 00:09:41,950 桐野の指紋しか 残っていなかったと聞いたわ。 101 00:09:41,950 --> 00:09:45,910 じゃあ この二重底から見つかった 青い毒の小瓶は…。 102 00:09:45,910 --> 00:09:48,830 桐野さんが 服毒に用いたものでしょうね。 103 00:09:48,830 --> 00:09:50,930 私も そう思うわ。 104 00:09:50,930 --> 00:09:53,900 でも おかしくありません? はい? 105 00:09:53,900 --> 00:09:57,990 毒を飲んで 自殺しようとした人が→ 106 00:09:57,990 --> 00:10:00,960 一体 なんのために 毒を隠したのか。 107 00:10:00,960 --> 00:10:03,860 確かに。 遺体が見つかれば 体内から毒が検出されて→ 108 00:10:03,860 --> 00:10:06,930 毒を飲んだ事は すぐにわかりますからね。 109 00:10:06,930 --> 00:10:10,950 で その肝心の小瓶なんですけど どちらに? 110 00:10:10,950 --> 00:10:15,940 調べたあと ちゃんと 向こうで 廃棄していただきました。 111 00:10:15,940 --> 00:10:19,940 えっ? だって 毒なんですよ。 112 00:10:19,940 --> 00:10:21,980 危ないじゃありませんか。 113 00:10:21,980 --> 00:10:23,880 いや しかし その小瓶があれば→ 114 00:10:23,880 --> 00:10:27,020 指紋とかも 調べられたんですけど。 115 00:10:27,020 --> 00:10:31,940 桐野さんが発見された時 部屋の鍵は閉まっていましたか? 116 00:10:31,940 --> 00:10:33,860 いいえ。 117 00:10:33,860 --> 00:10:37,040 では その夜 あなたが部屋にいない事を→ 118 00:10:37,040 --> 00:10:40,040 知っていた人物はいますか? 119 00:10:41,850 --> 00:10:45,830 短歌の会の人は みんな知ってました。 120 00:10:45,830 --> 00:10:50,070 前の週の会に 私 週末には大阪に行くって→ 121 00:10:50,070 --> 00:10:54,070 話しましたから。 なるほど。 122 00:10:59,930 --> 00:11:03,950 他殺の可能性を 考えてらっしゃるのね? 123 00:11:03,950 --> 00:11:07,840 おっしゃるとおり。 事件の夜 部屋には→ 124 00:11:07,840 --> 00:11:10,840 もう1人の人物がいた。 ええ。 125 00:11:10,840 --> 00:11:13,930 その人物が 桐野さんの目を盗んで→ 126 00:11:13,930 --> 00:11:16,950 コーヒーカップに毒を入れて 彼を殺害した。 127 00:11:16,950 --> 00:11:20,870 仮にそうだとしても その人物が 毒を隠したかったのであれば→ 128 00:11:20,870 --> 00:11:23,840 単に持ち去れば済む話です。 なぜ その人物は→ 129 00:11:23,840 --> 00:11:27,960 わざわざ 文箱の二重底に 隠したのでしょう? 130 00:11:27,960 --> 00:11:33,900 青い毒の小瓶の謎 解いていただけます? 131 00:11:33,900 --> 00:11:36,900 やってみましょう。 132 00:11:38,940 --> 00:11:42,960 それにしても 高塔織絵さんは 不思議な方ですねぇ。 133 00:11:42,960 --> 00:11:45,940 ええ まあ。 鋭いんだか おっとりしてるんだか。 134 00:11:45,940 --> 00:11:48,850 いや 僕が不思議だと思うのは 彼女が→ 135 00:11:48,850 --> 00:11:53,000 「毒の小瓶の謎を解いてほしい」と 言った事です。 136 00:11:53,000 --> 00:11:54,940 どうして それが不思議だと? 137 00:11:54,940 --> 00:11:58,840 彼女は ずっと自殺だと思っていた かつての恋人が→ 138 00:11:58,840 --> 00:12:03,030 他殺だったかもしれないと 初めて疑いを抱いたんですよ。 139 00:12:03,030 --> 00:12:04,860 本来だったらば 最も知りたいのは→ 140 00:12:04,860 --> 00:12:07,070 毒の小瓶の謎ではなく→ 141 00:12:07,070 --> 00:12:12,070 誰が恋人を殺したのか という事だとは思いませんか? 142 00:12:14,010 --> 00:12:16,010 なるほど。 143 00:12:18,840 --> 00:12:22,960 そうですか… 今頃になって 毒の小瓶がね。 144 00:12:22,960 --> 00:12:25,850 確か 島津さんも 桐野さんと同じく→ 145 00:12:25,850 --> 00:12:28,900 器の会の立ち上げメンバーの お一人でしたよね? 146 00:12:28,900 --> 00:12:33,930 ええ。 まあ 桐野君と僕は メンバーの中では→ 147 00:12:33,930 --> 00:12:37,910 短歌の腕前が 今ひとつ パッとしない部類でしてね。 148 00:12:37,910 --> 00:12:40,980 いわゆる凡手ってやつでしたよ。 149 00:12:40,980 --> 00:12:44,950 ところで 例えばなんですが 当時 桐野さんの周りに→ 150 00:12:44,950 --> 00:12:47,910 彼を恨んでいたような人は いませんでしたか? 151 00:12:47,910 --> 00:12:49,960 恨んでいた人…? 152 00:12:49,960 --> 00:12:53,950 いや 彼は素朴な人柄でしたからね 私の知る限り→ 153 00:12:53,950 --> 00:12:56,930 彼を恨んでるような人は いませんでしたよ。 154 00:12:56,930 --> 00:12:59,950 では 桐野さんの死後 高塔さんに言い寄った男性は→ 155 00:12:59,950 --> 00:13:03,870 いませんでしたか? ええ いましたよ。 156 00:13:03,870 --> 00:13:06,960 その方のお名前を 教えてもらえますか。 157 00:13:06,960 --> 00:13:10,960 当時 器の会にいた男 ほぼ全員です。 158 00:13:10,960 --> 00:13:13,050 えっ? 159 00:13:15,930 --> 00:13:18,850 いやぁ いまだに 彼女は あれだけの美人だ。 160 00:13:18,850 --> 00:13:21,940 当時は もう みんなが 彼女に夢中でしてね。 161 00:13:21,940 --> 00:13:24,980 そうだったんですか。 162 00:13:24,980 --> 00:13:28,830 あの頃 下心抜きで 彼女に接していたのは→ 163 00:13:28,830 --> 00:13:31,830 浅沼先生くらいでしたね。 164 00:13:31,830 --> 00:13:36,940 浅沼さんというのは 確か 器の会を旗揚げした人ですよね。 165 00:13:36,940 --> 00:13:40,940 ええ。 浅沼先生は人格者でしてね。 166 00:13:40,940 --> 00:13:42,940 厳しい人だが→ 167 00:13:42,940 --> 00:13:46,930 本気で歌を志す者には 助力を惜しまなかった。 168 00:13:46,930 --> 00:13:51,850 先生と高塔さんは 歌の事になると 一切の妥協がないというか。 169 00:13:51,850 --> 00:13:55,040 まあ 横から見ていても→ 170 00:13:55,040 --> 00:13:59,040 火花を散らすようなところが ありましてね。 171 00:14:00,950 --> 00:14:02,850 彼女を指導し→ 172 00:14:02,850 --> 00:14:06,980 歌人として成功する道筋を つけたのも→ 173 00:14:06,980 --> 00:14:11,060 浅沼先生でした。 なるほど。 174 00:14:11,060 --> 00:14:15,060 しかし もう42年ですか…。 175 00:14:17,930 --> 00:14:19,930 ところで 今日は→ 176 00:14:19,930 --> 00:14:22,930 亡くなった桐野孝雄君の事で いらしたそうですが。 177 00:14:22,930 --> 00:14:26,940 実は 当時見つからなかった 毒の容器が→ 178 00:14:26,940 --> 00:14:30,980 つい最近 桐野さんの文箱の 二重底から見つかりまして。 179 00:14:30,980 --> 00:14:32,960 文箱の二重底…? 180 00:14:32,960 --> 00:14:37,830 ええ。 それで 当時の事などを 少しお聞かせ願えればと。 181 00:14:37,830 --> 00:14:40,940 私でお役に立つ事でしたら。 182 00:14:40,940 --> 00:14:43,910 早速ですが 当時 浅沼先生は→ 183 00:14:43,910 --> 00:14:47,990 桐野さんが自殺したと聞いて どう思われました? 184 00:14:47,990 --> 00:14:50,960 正直言って驚きました。 185 00:14:50,960 --> 00:14:54,920 仕事がきつくて 体がつらいとは 聞いていましたが→ 186 00:14:54,920 --> 00:14:58,000 そこまで思い詰めているとは 思いませんでしたから。 187 00:14:58,000 --> 00:14:59,840 桐野さんは 普段から→ 188 00:14:59,840 --> 00:15:02,940 気持ちを外に見せない方 だったのでしょうか? 189 00:15:02,940 --> 00:15:07,910 いや むしろ 飾らない純朴な青年でした。 190 00:15:07,910 --> 00:15:10,980 そうですか。 191 00:15:10,980 --> 00:15:13,950 そうだ 杉下さん。 192 00:15:13,950 --> 00:15:18,940 桐野君が作った歌を ぜひ読んでみてください。 193 00:15:18,940 --> 00:15:23,930 歌には 人柄が そのまま出ますから。 194 00:15:23,930 --> 00:15:27,850 高塔君が 彼の短歌ノートを 持っていると思います。 195 00:15:27,850 --> 00:15:30,990 なるほど。 196 00:15:30,990 --> 00:15:36,020 時に 浅沼先生 先生からご覧になって→ 197 00:15:36,020 --> 00:15:39,020 高塔織絵さんは どんな方でしょう? 198 00:15:41,910 --> 00:15:45,930 高塔君ですか…。 199 00:15:45,930 --> 00:15:48,940 聡明で 情熱的で→ 200 00:15:48,940 --> 00:15:52,860 とても才能のある歌人だと 思いますよ。 201 00:15:52,860 --> 00:15:55,930 この間も 電話で 次の歌会のテーマに→ 202 00:15:55,930 --> 00:15:59,050 「背」はどうかと 言ってきましてね。 203 00:15:59,050 --> 00:16:02,050 背ですか…? ええ。 204 00:16:08,040 --> 00:16:10,040 背中の「背」です。 205 00:16:12,980 --> 00:16:18,000 高塔君らしい 意欲的なテーマだと思いました。 206 00:16:18,000 --> 00:16:22,000 彼女は まだまだ これからが楽しみな歌人ですよ。 207 00:16:50,850 --> 00:16:53,990 どうして 桐野の短歌ノートを? 208 00:16:53,990 --> 00:16:56,870 歌には 人柄がそのままに出る。 209 00:16:56,870 --> 00:16:59,860 浅沼先生に そう伺ったものですから。 210 00:16:59,860 --> 00:17:03,960 先生のところに いらしたの? ええ。 211 00:17:03,960 --> 00:17:10,000 浅沼先生には まだ ご病気の事を 話してらっしゃらないようですね。 212 00:17:10,000 --> 00:17:14,000 師弟として 40年以上の間柄なのに。 213 00:17:15,960 --> 00:17:21,950 話して治ります? 僕には話しましたよ。 214 00:17:21,950 --> 00:17:27,070 でも 赤の他人だからこそ 話せる事もあるでしょう。 215 00:17:27,070 --> 00:17:31,070 第一 あなたは 私の事 心配しないもの。 216 00:17:31,940 --> 00:17:35,960 何か わかりました? 217 00:17:35,960 --> 00:17:38,970 桐野さんは とても優しい方で→ 218 00:17:38,970 --> 00:17:41,970 あなたは 意外に心配性だった…→ 219 00:17:41,970 --> 00:17:44,860 というところでしょうかねぇ。 220 00:17:44,860 --> 00:17:49,960 「夜明けまで われを案ずる妻ありて→ 221 00:17:49,960 --> 00:17:54,950 飲める薬は苦く悲しき」 222 00:17:54,950 --> 00:17:59,870 「一杯の水飲みたしと目覚むれば→ 223 00:17:59,870 --> 00:18:03,960 妻も目覚めて 水かと問ひき」 224 00:18:03,960 --> 00:18:06,940 桐野さんの歌には 彼を案ずるあなたの事が→ 225 00:18:06,940 --> 00:18:08,900 多く歌われていますね。 226 00:18:08,900 --> 00:18:15,970 ええ。 桐野は本当に優しかった。 227 00:18:15,970 --> 00:18:17,870 高塔さん。 228 00:18:17,870 --> 00:18:21,930 昨日 あなたは 他殺の可能性に言及した上で→ 229 00:18:21,930 --> 00:18:24,860 青い小瓶の謎を解いてほしいと おっしゃいました。 230 00:18:24,860 --> 00:18:28,950 犯人を見つけてほしいではなく。 なぜでしょう? 231 00:18:28,950 --> 00:18:33,950 あなたが 青い小瓶の謎を 解いてくだされば→ 232 00:18:33,950 --> 00:18:38,880 桐野の最期が はっきりしますでしょう? 233 00:18:38,880 --> 00:18:41,960 つまり 自殺か他殺か…。 234 00:18:41,960 --> 00:18:43,930 杉下さん。 235 00:18:43,930 --> 00:18:50,860 私 自殺ではない可能性もある… そう思った時→ 236 00:18:50,860 --> 00:18:55,080 なんだか うれしかった。 237 00:18:55,080 --> 00:19:01,080 恐ろしい事かもしれませんけど うれしかった。 238 00:19:01,870 --> 00:19:03,970 それは当然だと思いますよ。 239 00:19:03,970 --> 00:19:05,950 一緒に暮らしてた恋人に 自殺されたら→ 240 00:19:05,950 --> 00:19:07,940 誰だって自分を責めますよ。 241 00:19:07,940 --> 00:19:11,010 どうして 助けられなかったのかって。 242 00:19:11,010 --> 00:19:12,980 しかし 他殺なら 話は別です。 243 00:19:12,980 --> 00:19:15,950 まあ 他殺は 恐ろしい事ですけど→ 244 00:19:15,950 --> 00:19:20,030 それでも 長年の自責の念からは 解放されますからね。 245 00:19:20,030 --> 00:19:22,970 本当に そういう事なんでしょうかねぇ。 246 00:19:22,970 --> 00:19:25,890 いずれにせよ 僕のほうは どの同人に聞いても→ 247 00:19:25,890 --> 00:19:27,990 島津さんと 同じような話でしたね。 248 00:19:27,990 --> 00:19:30,860 当時 桐野さんの周りには トラブルはなく→ 249 00:19:30,860 --> 00:19:33,880 高塔さんと桐野さんは 深く愛し合っていた。 250 00:19:33,880 --> 00:19:37,890 あっ 桐野さんが亡くなった時 高塔さんは ショックで倒れて→ 251 00:19:37,890 --> 00:19:42,020 通夜にも葬儀にも 出られなかったそうです。 252 00:19:42,020 --> 00:19:44,960 それ 本当ですか? ええ。 253 00:19:44,960 --> 00:19:47,860 だって 当時 高塔さんは まだ二十歳だったんですよ。 254 00:19:47,860 --> 00:19:52,000 ショックで倒れても 不思議だと思いませんけど。 255 00:19:52,000 --> 00:19:53,980 とにかく 僕は明日→ 256 00:19:53,980 --> 00:19:56,950 この件を担当した退職刑事に 会ってきます。 257 00:19:56,950 --> 00:20:00,930 君 42年前の担当刑事を 突き止めたのですか? 258 00:20:00,930 --> 00:20:02,960 はい。 半日 所轄で調べに調べて→ 259 00:20:02,960 --> 00:20:04,950 突き止めました たった1人で。 260 00:20:04,950 --> 00:20:08,000 神戸君。 な… なんですか? 261 00:20:08,000 --> 00:20:10,000 君… 意外に根気強い。 262 00:20:10,950 --> 00:20:13,970 あと1キロか…。 263 00:20:13,970 --> 00:20:17,040 どうして 退職してから 山に住むかなぁ。 264 00:20:17,040 --> 00:20:19,040 あっ 痛っ…。 265 00:20:31,940 --> 00:20:33,940 少しお聞きしたい事が ありまして。 266 00:20:33,940 --> 00:20:37,010 家政婦さんから こちらだと伺いました。 267 00:20:37,010 --> 00:20:40,010 ここで勉強するのが 習慣なの。 268 00:20:42,020 --> 00:20:44,940 気持ちのいい場所ですねぇ。 269 00:20:44,940 --> 00:20:51,940 ええ。 心が落ち着いて 言葉がよく体に入ってくる。 270 00:20:57,970 --> 00:21:02,900 聞きたい事って なんですの? 271 00:21:02,900 --> 00:21:07,940 桐野さんが亡くなった時 あなたは ショックで倒れて→ 272 00:21:07,940 --> 00:21:10,950 通夜にも葬儀にも 出られなかったと聞きました。 273 00:21:10,950 --> 00:21:14,010 それは本当ですか? 274 00:21:14,010 --> 00:21:18,010 ええ 本当です。 275 00:21:19,970 --> 00:21:23,920 どうして? 僕は 人の本質は→ 276 00:21:23,920 --> 00:21:26,930 そう変わらないものだと 思っています。 277 00:21:26,930 --> 00:21:29,950 ご自分の死には 落ち着いて 向き合っていられる あなたが→ 278 00:21:29,950 --> 00:21:32,950 恋人の通夜にも葬儀にも→ 279 00:21:32,950 --> 00:21:35,990 ショックで出られなかった という事に→ 280 00:21:35,990 --> 00:21:39,960 少し違和感を感じました。 281 00:21:39,960 --> 00:21:44,960 では 正確に言うわ。 282 00:21:44,960 --> 00:21:49,900 私は ショックで お腹にいた桐野の子を流産して→ 283 00:21:49,900 --> 00:21:52,870 入院していたの。 284 00:21:52,870 --> 00:21:56,970 桐野さんは あなたの妊娠を ご存じだったのですか? 285 00:21:56,970 --> 00:22:01,880 いいえ。 桐野が妊娠を知れば→ 286 00:22:01,880 --> 00:22:06,950 また 無理を押して働いて 体を痛めるかもしれない。 287 00:22:06,950 --> 00:22:11,970 それが心配で まだ話してはいなかったの。 288 00:22:11,970 --> 00:22:16,980 だから 私が流産するまで→ 289 00:22:16,980 --> 00:22:19,980 妊娠の事は 誰も知らなかったのよ。 290 00:22:24,970 --> 00:22:31,980 あの朝 病院で目を覚まして 窓から見た空の色…→ 291 00:22:31,980 --> 00:22:35,930 今も はっきり覚えてるわ。 292 00:22:35,930 --> 00:22:39,070 どこまでも青い→ 293 00:22:39,070 --> 00:22:43,070 本当に 切れるような青空だった。 294 00:22:47,960 --> 00:22:54,050 それより 青い小瓶の謎 少しは解けました? 295 00:22:54,050 --> 00:22:55,920 今のところ 桐野さんに→ 296 00:22:55,920 --> 00:22:57,850 殺されるような理由は 見当たりません。 297 00:22:57,850 --> 00:23:00,850 無論 周りの誰も 知らないような理由…→ 298 00:23:00,850 --> 00:23:03,940 つまり 桐野さんと犯人しか 知りえない理由で→ 299 00:23:03,940 --> 00:23:07,980 殺された可能性も否定できません。 ただ もう1つだけ→ 300 00:23:07,980 --> 00:23:09,960 まったく別の理由も 考えられます。 301 00:23:09,960 --> 00:23:13,000 何かしら? 302 00:23:13,000 --> 00:23:16,870 あなたです。 私…? 303 00:23:16,870 --> 00:23:19,960 あなたの人生には 2人の男性がいます。 304 00:23:19,960 --> 00:23:23,960 1人は あなたが二十歳の頃に愛した人。 305 00:23:23,960 --> 00:23:25,960 もう1人は その人の死後→ 306 00:23:25,960 --> 00:23:31,870 40年余りかけて あなたを 一流の歌人に育て上げた人。 307 00:23:31,870 --> 00:23:37,940 浅沼先生が なんのために桐野を殺すの? 308 00:23:37,940 --> 00:23:43,980 もし そうだとしたら あなたの才能を開花させるため。 309 00:23:52,960 --> 00:23:56,060 杉下さん。 310 00:23:56,060 --> 00:24:02,060 先生は 歌の才能のために 人を殺すような人ではないわ。 311 00:24:04,920 --> 00:24:09,960 それに 私の人生に 男性が たった2人きりだなんて→ 312 00:24:09,960 --> 00:24:12,960 寂しい事 言わないでちょうだい。 313 00:24:12,960 --> 00:24:17,980 私に言い寄ってきた男性は 若草山の鹿の数より多いわよ。 314 00:24:25,960 --> 00:24:27,980 神戸君。 なんでしょう? 315 00:24:27,980 --> 00:24:29,940 君 枝豆 採りに行ってたんですか? 316 00:24:29,940 --> 00:24:33,850 いいえ 違います。 これは 山上元巡査部長からのお土産です。 317 00:24:33,850 --> 00:24:37,050 それは どうもありがとう。 で 何かわかりましたか? 318 00:24:37,050 --> 00:24:40,050 ええ。 それも決定的な事が。 319 00:24:40,850 --> 00:24:44,060 桐野さんが亡くなったのは→ 320 00:24:44,060 --> 00:24:47,060 蒸し暑い夜でしてな…。 321 00:24:47,930 --> 00:24:52,970 下宿屋の玄関脇の縁台で たまたま近所の老人が2人で→ 322 00:24:52,970 --> 00:24:56,970 夜通し 賭け将棋を やっておったんです。 323 00:24:56,970 --> 00:25:01,990 その2人の証言で 桐野さんが亡くなった晩→ 324 00:25:01,990 --> 00:25:06,990 下宿屋に出入りした人間は いないと わかったんですな。 325 00:25:07,920 --> 00:25:11,950 杉下さん 僕 思うんですけど 桐野さんが1人だった以上→ 326 00:25:11,950 --> 00:25:15,970 やっぱり 彼の死は 自殺だったんじゃないでしょうか。 327 00:25:27,850 --> 00:25:31,970 「うしろめたき ほどに真白き薬包紙→ 328 00:25:31,970 --> 00:25:38,000 そろへて並べ 妻は眠りぬ」 329 00:25:38,000 --> 00:25:42,980 「咳やまぬ我の背さする妻の手に→ 330 00:25:42,980 --> 00:25:46,980 夕餉の菜のかすかににほふ」 331 00:25:47,970 --> 00:25:50,010 なるほど。 332 00:25:50,010 --> 00:25:54,010 毒の小瓶の謎が解けました。 333 00:25:58,950 --> 00:26:02,020 これは あくまで仮定の話です。 334 00:26:02,020 --> 00:26:04,990 聞かせてちょうだい。 335 00:26:04,990 --> 00:26:09,930 桐野さんが亡くなった夜 部屋を訪ねた人は いなかった。 336 00:26:09,930 --> 00:26:12,850 これには ご近所の老人の証言が ありました。 337 00:26:12,850 --> 00:26:16,980 問題の夜 桐野さんは1人だった。 338 00:26:16,980 --> 00:26:20,960 つまり 毒は 彼が自分でコーヒーに入れ→ 339 00:26:20,960 --> 00:26:26,330 そのあと 自分で文箱に隠した事になる。 340 00:26:26,330 --> 00:26:28,950 桐野は自殺だとおっしゃるの? 341 00:26:28,950 --> 00:26:32,930 いいえ。 僕の出した結論は違います。 342 00:26:32,930 --> 00:26:36,970 仮に 犯人をXだとしましょう。 343 00:26:36,970 --> 00:26:39,870 Xは 桐野さんと顔見知りで→ 344 00:26:39,870 --> 00:26:45,980 あの日 あなたが部屋にいない事を 知っていた人物です。 345 00:26:45,980 --> 00:26:48,000 問題の日 Xは→ 346 00:26:48,000 --> 00:26:51,970 桐野さんが工場から帰る途中で 声をかけた。 347 00:26:51,970 --> 00:26:56,870 そして 言葉巧みに毒物を渡し 飲むよう促した。 348 00:26:56,870 --> 00:26:58,960 例えば こんなふうに…→ 349 00:26:58,960 --> 00:27:01,980 「コーヒーなんかに 少し入れて飲むと→ 350 00:27:01,980 --> 00:27:03,960 疲れが取れるそうだよ」。 351 00:27:03,960 --> 00:27:05,930 もちろん Xは→ 352 00:27:05,930 --> 00:27:08,040 自分から毒が渡ったと 知れないよう→ 353 00:27:08,040 --> 00:27:10,970 桐野さんに口止めしたはずです。 354 00:27:10,970 --> 00:27:13,920 例えば 「もうこれしかないから→ 355 00:27:13,920 --> 00:27:17,920 僕からもらった事は 誰にも言わないでほしい」と。 356 00:27:18,980 --> 00:27:20,950 帰宅した桐野さんは→ 357 00:27:20,950 --> 00:27:25,040 Xに言われたとおり コーヒーに それを少し入れ→ 358 00:27:25,040 --> 00:27:28,960 それから 小瓶を 文箱の二重底に隠した。 359 00:27:28,960 --> 00:27:31,880 あなたに見つからないように。 360 00:27:43,970 --> 00:27:48,980 そして 毒入りと知らずに コーヒーを飲んだ。 361 00:28:01,970 --> 00:28:05,010 なぜ 私に見つからないように? 362 00:28:05,010 --> 00:28:09,860 あなたが問題の小瓶を見たら 当然 これは何かと尋ねます。 363 00:28:09,860 --> 00:28:13,970 嘘のつけない桐野さんは 疲れに効くんだと答える。 364 00:28:13,970 --> 00:28:18,970 そう聞いたら 心配性のあなたは なんと言いますか? 365 00:28:18,970 --> 00:28:22,030 疲れがたまっているのかと 尋ねるわ。 366 00:28:22,030 --> 00:28:23,940 また具合が悪いのか…。 367 00:28:23,940 --> 00:28:26,000 そうです。 368 00:28:26,000 --> 00:28:29,930 桐野さんは あなたに 心配かけたくなかったんです。 369 00:28:29,930 --> 00:28:33,020 それと もう1つ。 誰からもらったのかと聞かれても→ 370 00:28:33,020 --> 00:28:35,940 Xに口止めされていますから 答える事ができない。 371 00:28:35,940 --> 00:28:37,890 それで あなたに見つからないように→ 372 00:28:37,890 --> 00:28:39,880 小瓶を隠したんです。 373 00:28:39,880 --> 00:28:43,030 おそらく 桐野さんが小瓶を隠した事は→ 374 00:28:43,030 --> 00:28:46,930 Xにとっても 予想外の事だったと思いますよ。 375 00:28:46,930 --> 00:28:50,020 では…→ 376 00:28:50,020 --> 00:28:56,020 杉下さんの考えでは 桐野は…。 377 00:28:56,980 --> 00:29:00,060 ええ。 殺された可能性が高い。 378 00:29:00,060 --> 00:29:04,060 Xが誰であるかは まだ特定できませんが。 379 00:29:08,970 --> 00:29:12,880 今 お話しした事は すべて 僕の推測です。 380 00:29:12,880 --> 00:29:17,000 証拠はありません。 381 00:29:17,000 --> 00:29:20,020 それで十分。 382 00:29:20,020 --> 00:29:26,020 謎を解いてくださって ありがとう。 383 00:29:33,080 --> 00:29:35,080 高塔さん。 384 00:29:37,970 --> 00:29:42,910 真実を確かめたいのでは ありませんか? 385 00:29:42,910 --> 00:29:47,960 いいえ。 42年も昔の事です。 386 00:29:47,960 --> 00:29:51,980 もう確かめる術もないでしょう? 387 00:29:51,980 --> 00:29:54,900 あっ 杉下さん。 388 00:29:54,900 --> 00:29:58,860 あの文箱 お礼に あなたに差し上げるわ。 389 00:29:58,860 --> 00:30:01,980 いつか 取りにいらして。 390 00:30:18,990 --> 00:30:22,950 彼女の気が済んだのなら もう いいんじゃないですか。 391 00:30:22,950 --> 00:30:25,070 40年以上前の事件なんですから→ 392 00:30:25,070 --> 00:30:29,070 そのXが誰だかわかっても 逮捕できるわけでもなし。 393 00:30:32,960 --> 00:30:36,060 この辺で区切りをつけて ねじ曲がった親知らず→ 394 00:30:36,060 --> 00:30:39,060 抜きに行ったほうが よろしいかと。 395 00:30:39,860 --> 00:30:41,880 あっ そういえば 高塔さんと→ 396 00:30:41,880 --> 00:30:43,850 病院で知り合ったって 言ってましたけど→ 397 00:30:43,850 --> 00:30:46,970 どんなきっかけで? ああ…。 398 00:30:46,970 --> 00:30:51,990 傘を忘れましてね。 傘? 399 00:30:58,870 --> 00:31:01,090 神戸君 いい事を聞いてくれました。 400 00:31:01,090 --> 00:31:03,090 えっ? 401 00:31:04,970 --> 00:31:07,990 確かめたい事があります。 どこに行くんですか? 402 00:31:07,990 --> 00:31:09,990 浅沼さんのお宅です。 403 00:31:26,780 --> 00:31:29,780 お待ちしておりました。 ああ…。 404 00:31:33,570 --> 00:31:38,670 今日は 家政婦さんがお休みで。 どうぞ。 405 00:31:38,670 --> 00:31:42,660 ありがとう。 考えてみると→ 406 00:31:42,660 --> 00:31:46,550 高塔君の家に来るのは 初めての事だね。 407 00:31:46,550 --> 00:31:49,650 すみません。 急に呼びつけたりして。 408 00:31:49,650 --> 00:31:51,590 構わないよ。 409 00:31:51,590 --> 00:31:55,620 歌会のテーマの事で 相談があるそうだね? 410 00:31:55,620 --> 00:31:57,760 ええ。 でも お話は→ 411 00:31:57,760 --> 00:32:00,600 コーヒーをいただいてからに いたしません? 412 00:32:00,600 --> 00:32:02,700 そうだね。 そうそう→ 413 00:32:02,700 --> 00:32:06,700 お友達から とてもいいものを いただいたんですよ。 414 00:32:13,660 --> 00:32:18,650 これ コーヒーなんかに 少し入れて飲むと→ 415 00:32:18,650 --> 00:32:20,720 疲れが取れるそうなの。 416 00:32:20,720 --> 00:32:22,570 そう。 417 00:33:07,710 --> 00:33:10,710 さようなら…。 418 00:33:14,750 --> 00:33:17,750 失礼します。 419 00:33:18,640 --> 00:33:20,660 あれ? 先生! 420 00:33:20,660 --> 00:33:22,660 失礼。 421 00:33:29,770 --> 00:33:31,770 神戸君。 はい。 422 00:33:33,620 --> 00:33:36,680 遺書って…!? 遺書!? 423 00:33:43,700 --> 00:33:47,700 浅沼先生は 42年前の罪を告白し→ 424 00:33:47,700 --> 00:33:50,700 自ら命を絶つと書いてあります。 425 00:33:54,640 --> 00:33:56,680 杉下さん…。 426 00:33:56,680 --> 00:33:58,680 行きましょう。 427 00:34:10,530 --> 00:34:12,610 神戸君。 あ はい。 あっ…!? 428 00:34:12,610 --> 00:34:15,530 毒を処分したなんて 嘘だったんだ。 429 00:34:15,530 --> 00:34:18,670 あれじゃ どうしようもないっすね。 430 00:34:18,670 --> 00:34:23,660 うーん…。 茫然自失… ってやつだな。 431 00:34:23,660 --> 00:34:25,620 杉下警部たちが なんで こんなところに? 432 00:34:25,620 --> 00:34:27,690 失礼。 433 00:34:27,690 --> 00:34:30,630 大丈夫ですか? 434 00:34:30,630 --> 00:34:33,630 落ち着いたら お話 聞かせてください。 435 00:34:34,770 --> 00:34:36,770 まさか…。 436 00:34:38,700 --> 00:34:42,700 ちょ ちょ… ちょっと。 いい。 ほっとけ。 437 00:34:44,730 --> 00:34:46,730 あっ…!? 438 00:34:50,670 --> 00:34:53,670 どうして 高塔さんが…。 439 00:34:56,670 --> 00:34:58,540 杉下警部。 440 00:34:58,540 --> 00:35:03,560 米沢さん 少しよろしいですか。 ええ。 441 00:35:03,560 --> 00:35:05,530 発見時 高塔織絵さんは→ 442 00:35:05,530 --> 00:35:08,670 右手に 何か握っていませんでしたか? 443 00:35:08,670 --> 00:35:11,650 お気づきになられましたか。 右手に これを…。 444 00:35:11,650 --> 00:35:13,620 失礼。 445 00:35:13,620 --> 00:35:16,640 中には 大変毒性の強い劇薬が 入ってました。 446 00:35:16,640 --> 00:35:20,630 彼女は この小瓶の毒を飲んで 自ら命を絶った…? 447 00:35:20,630 --> 00:35:23,550 ええ。 指紋の位置 付着頻度からみて→ 448 00:35:23,550 --> 00:35:26,690 第三者が小瓶を握らせた可能性は ないですね。 449 00:35:26,690 --> 00:35:28,520 まず自殺に間違いないかと。 450 00:35:28,520 --> 00:35:30,640 ちょっと待ってください。 451 00:35:30,640 --> 00:35:33,560 どうして高塔さんが 自殺しなければならないんです? 452 00:35:33,560 --> 00:35:36,660 それに… これは? 453 00:35:36,660 --> 00:35:40,530 ああ その青い瓶 私も気になって 先ほど調べてみたんですけども→ 454 00:35:40,530 --> 00:35:42,640 中身は まったく無害な液体でした。 455 00:35:42,640 --> 00:35:46,540 無害? 一体 どういう事でしょう? 456 00:35:46,540 --> 00:35:49,730 おそらく 高塔織絵さんは この青い小瓶の毒を→ 457 00:35:49,730 --> 00:35:52,580 あらかじめ 無害な液体に 入れ替えておいた。 458 00:35:52,580 --> 00:35:56,530 そして この透明の小瓶に 移しておいた毒を飲んで→ 459 00:35:56,530 --> 00:36:00,770 自ら命を絶った。 もちろん 高塔織絵さんには→ 460 00:36:00,770 --> 00:36:03,770 そうするだけの理由があった という事です。 461 00:36:09,550 --> 00:36:12,650 教えてもらえませんか。 462 00:36:12,650 --> 00:36:16,670 なぜ彼女が 自ら命を絶ったのか。 463 00:36:16,670 --> 00:36:19,660 42年前 桐野孝雄さんを殺害したのは→ 464 00:36:19,660 --> 00:36:21,540 あなたですね。 465 00:36:21,540 --> 00:36:23,540 そうです。 466 00:36:23,540 --> 00:36:26,530 この遺書に 書いてあるとおりです。 467 00:36:26,530 --> 00:36:30,670 しかし 動機はなんでしょう? あなたの遺書には→ 468 00:36:30,670 --> 00:36:35,640 桐野さん殺害の動機について 一切 書かれていません。 469 00:36:35,640 --> 00:36:39,540 それが 彼女の死と 関係があるのですか? 470 00:36:39,540 --> 00:36:41,790 ええ。 それが→ 471 00:36:41,790 --> 00:36:46,790 高塔織絵さんの死の謎を解く 鍵なんです。 472 00:36:49,540 --> 00:36:53,620 私は 彼女の才能を→ 473 00:36:53,620 --> 00:36:57,660 卑俗な結婚生活に うずもらせないために→ 474 00:36:57,660 --> 00:36:59,600 桐野君を殺した。 475 00:36:59,600 --> 00:37:01,600 しかし 彼女は かつて→ 476 00:37:01,600 --> 00:37:05,680 確信を持って 僕に こう言いました。 477 00:37:05,680 --> 00:37:11,680 先生は 歌の才能のために 人を殺すような人ではないわ。 478 00:37:12,660 --> 00:37:16,660 あなたは ひょっとして 42年前から→ 479 00:37:16,660 --> 00:37:20,730 高塔織絵さんを 愛していたのではありませんか? 480 00:37:20,730 --> 00:37:24,550 そうだ。 私は 彼女を愛していた。 481 00:37:24,550 --> 00:37:27,740 しかし あなたは 桐野さんが亡くなったあとも→ 482 00:37:27,740 --> 00:37:32,740 彼女に近づこうとはしなかった。 それは なぜですか? 483 00:37:36,550 --> 00:37:41,640 怖かったんです。 彼女を失う事…。 484 00:37:41,640 --> 00:37:44,670 桐野君の死後→ 485 00:37:44,670 --> 00:37:48,740 彼女は その苦しみを すべて 歌に注ぎ込んで→ 486 00:37:48,740 --> 00:37:54,740 圧倒的な才能を開花させた。 まさにミューズのように。 487 00:37:56,640 --> 00:37:59,640 私は恐れた…。 488 00:37:59,640 --> 00:38:06,530 男として彼女に近づき もし軽蔑されたら→ 489 00:38:06,530 --> 00:38:13,770 彼女は去り 私は 永久に彼女を失う事になる。 490 00:38:13,770 --> 00:38:16,660 あなたは そうなる事を恐れて→ 491 00:38:16,660 --> 00:38:22,590 長い年月 師としての顔を 貫きとおしたんですね? 492 00:38:22,590 --> 00:38:28,630 杉下さん。 虫がいいと思うかもしれないが→ 493 00:38:28,630 --> 00:38:33,640 いつか 彼女が 真実に気づいた時は→ 494 00:38:33,640 --> 00:38:38,660 甘んじて復讐を受けると決めて 生きてきた。 495 00:38:38,660 --> 00:38:43,550 僕が突然現れて 桐野さんの事件の事を尋ねた日→ 496 00:38:43,550 --> 00:38:47,540 あなたは ついに その時が来るのだと思った。 497 00:38:47,540 --> 00:38:51,640 桐野君が作った歌を ぜひ読んでみてください。 498 00:38:51,640 --> 00:38:54,660 あなたは 僕に 桐野さんの歌を読ませ→ 499 00:38:54,660 --> 00:38:57,530 青い小瓶の謎を解かせようと したんですね? 500 00:38:57,530 --> 00:38:59,630 ああ。 501 00:38:59,630 --> 00:39:02,550 あなたは 彼女の復讐を受けるべく ここに来ました。 502 00:39:02,550 --> 00:39:05,670 あなたが 42年前の罪を告白し→ 503 00:39:05,670 --> 00:39:09,640 自ら死を選ぶと書いた遺書を 残したのは 彼女を守るため。 504 00:39:09,640 --> 00:39:11,540 彼女に殺されたのちも→ 505 00:39:11,540 --> 00:39:15,660 彼女に 殺人の罪が及ばないように するためですね? 506 00:39:15,660 --> 00:39:17,680 そのとおりだ。 507 00:39:17,680 --> 00:39:21,520 彼女は 私に 復讐する権利があったんだ。 508 00:39:21,520 --> 00:39:25,640 なのに なぜ…? 509 00:39:25,640 --> 00:39:29,650 浅沼さん。 あの日 彼女がしようとしていたのは→ 510 00:39:29,650 --> 00:39:31,680 復讐ではなかったんです。 511 00:39:31,680 --> 00:39:36,640 そう。 あの日 高塔織絵さんは→ 512 00:39:36,640 --> 00:39:39,520 最後の賭けに出たんです。 賭け? 513 00:39:39,520 --> 00:39:43,730 彼女が あと半年の命だった事は もうご存じですね? 514 00:39:43,730 --> 00:39:45,590 ああ。 515 00:39:45,590 --> 00:39:47,630 彼女が告知を受けた日→ 516 00:39:47,630 --> 00:39:51,570 僕は 偶然 彼女の日傘を見つけました。 517 00:39:51,570 --> 00:39:56,670 日傘は 公衆電話の脇に 置き忘れられていました。 518 00:39:56,670 --> 00:40:00,660 自分の命が あと半年だと 知ってすぐに→ 519 00:40:00,660 --> 00:40:03,550 彼女は電話をかけたんです。 520 00:40:03,550 --> 00:40:06,630 浅沼先生 あなたにです。 521 00:40:06,630 --> 00:40:09,620 ああ 確かに 電話はあった。 522 00:40:09,620 --> 00:40:13,710 しかし 次の歌会のテーマに→ 523 00:40:13,710 --> 00:40:16,640 「背」はどうですか という話だけで→ 524 00:40:16,640 --> 00:40:19,560 病の事など 何も話さなかった。 525 00:40:19,560 --> 00:40:22,600 彼女は 話したかったのではなく→ 526 00:40:22,600 --> 00:40:24,770 聞きたかったのでは ないでしょうか。 527 00:40:24,770 --> 00:40:26,620 聞きたかった? 528 00:40:26,620 --> 00:40:32,660 ええ。 彼女は ただ あなたの声が聞きたかった。 529 00:40:32,660 --> 00:40:35,710 「うん それは面白いテーマだね」 530 00:40:35,710 --> 00:40:37,550 「背は 万葉の昔から→ 531 00:40:37,550 --> 00:40:40,530 歌に使われてきた言葉でも あるし…」 532 00:40:40,530 --> 00:40:44,540 来年の今頃 自分は もうこの世にいない。 533 00:40:44,540 --> 00:40:46,570 初めて それを知った時→ 534 00:40:46,570 --> 00:40:51,530 彼女は ただ あなたの声が 聞きたかったのだと思います。 535 00:40:51,530 --> 00:40:56,530 高塔織絵さんは 僕に こう言いました。 536 00:40:56,530 --> 00:41:01,570 自殺ではない可能性もある… そう思った時→ 537 00:41:01,570 --> 00:41:05,640 なんだか うれしかった。 538 00:41:05,640 --> 00:41:10,680 恐ろしい事かもしれませんけど うれしかった。 539 00:41:10,680 --> 00:41:15,530 彼女は 自分の気持ちが 恐ろしいものだと わかっていた。 540 00:41:15,530 --> 00:41:19,620 それでも 桐野さんが 殺されたのだとしたら→ 541 00:41:19,620 --> 00:41:22,620 犯人は あなたであってほしいと 願った。 542 00:41:22,620 --> 00:41:26,760 あなたが桐野さんを殺したのなら それは あなたが→ 543 00:41:26,760 --> 00:41:30,760 彼女を愛していたからに 違いないからです。 544 00:41:31,630 --> 00:41:33,640 まさか…。 545 00:41:33,640 --> 00:41:37,710 40年以上 歌の世界を 共に生きてきた あなたを→ 546 00:41:37,710 --> 00:41:42,710 高塔織絵さんも いつの日からか 愛していたんです。 547 00:41:45,630 --> 00:41:48,550 彼女は あなたに愛されているかどうか→ 548 00:41:48,550 --> 00:41:50,690 確かめたかったんです。 549 00:41:50,690 --> 00:41:52,690 あの日 彼女は→ 550 00:41:52,690 --> 00:41:57,540 あらかじめ 青い小瓶の毒を 無害なものに入れ替え→ 551 00:41:57,540 --> 00:42:02,550 装いを凝らし あなたを 家へ招いた。 552 00:42:02,550 --> 00:42:04,550 あなたが犯人なら→ 553 00:42:04,550 --> 00:42:07,600 あれが毒の小瓶だと 知っているはずです。 554 00:42:07,600 --> 00:42:09,720 犯人なら 決して飲まない。 555 00:42:09,720 --> 00:42:14,540 しかし 犯人でなければ 知らずに飲むでしょう。 556 00:42:14,540 --> 00:42:18,630 彼女は あなたが飲まない事に賭けた。 557 00:42:18,630 --> 00:42:22,650 ところが 彼女の復讐だと 思い込んでいた あなたは→ 558 00:42:22,650 --> 00:42:27,520 罰を受けるべく あえて黙って飲んでしまった。 559 00:42:27,520 --> 00:42:32,640 その瞬間 彼女の望みは絶たれた。 560 00:42:32,640 --> 00:42:34,550 あなたは 犯人ではなかった。 561 00:42:34,550 --> 00:42:39,620 自分は やはり あなたに愛されてはいなかった。 562 00:42:39,620 --> 00:42:42,650 さようなら…。 563 00:42:42,650 --> 00:42:44,610 彼女は もう→ 564 00:42:44,610 --> 00:42:49,610 半年 生き永らえる意味は ないと思った。 565 00:42:49,610 --> 00:42:52,650 嘘だ。 566 00:42:52,650 --> 00:42:55,620 嘘だ…。 567 00:42:55,620 --> 00:42:57,590 浅沼さん。 568 00:42:57,590 --> 00:43:01,740 これは 青い小瓶が見つかった 文箱の二重底に→ 569 00:43:01,740 --> 00:43:04,740 高塔さんがしまっていた歌です。 570 00:43:07,550 --> 00:43:11,750 罪びとを罪もろともに愛する。 571 00:43:11,750 --> 00:43:15,750 真っ青な空に背を向けても…。 そんな歌ですね。 572 00:43:17,640 --> 00:43:20,540 42年前に あなたが犯した罪は→ 573 00:43:20,540 --> 00:43:22,680 決して 許されるものではありません。 574 00:43:22,680 --> 00:43:26,670 それでも あの日 あなたが 彼女に罪の告白をしていれば→ 575 00:43:26,670 --> 00:43:30,650 彼女を死なせる事は なかったでしょう。 576 00:43:30,650 --> 00:43:36,540 あなたは 軽蔑される事を恐れて 愛の告白ができなかった。 577 00:43:36,540 --> 00:43:41,550 命を捨てる覚悟をしてさえも…。 578 00:43:41,550 --> 00:43:46,650 愛は 時に 人に勇気を与えます。 579 00:43:46,650 --> 00:43:52,660 しかし 愛は 時に 人を臆病にもします。 580 00:43:52,660 --> 00:43:57,660 なんとも やりきれない出来事ですね。 581 00:43:59,800 --> 00:44:01,800 私は…。 582 00:44:04,720 --> 00:44:06,720 私は…。 583 00:44:43,640 --> 00:44:47,750 「罪あらば 罪ふかくあれ→ 584 00:44:47,750 --> 00:44:54,750 紺青の空に背きて 汝を愛さん」 52804

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