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♬~
♬~
♬~
♬~
♬~
♬~
♬~
♬~
≪(馬の駆ける音)
(悲鳴)
(藤三)ダアッ!
(馬のいななき)
(使者)アアッ…
馬鹿者!
馬の止め方も知らんで 乗る奴があるか
手間のかかる奴だ…
ンンッ… ハッ!?
弾傷だな… どうした? しっかりしろ!
(使者)城中へ… 城中へ… お願いでござる!
貴公 侍か?
頑張るんだ! これしきのことで… すぐ連れていってやるぞ
それ!
そら!
♬~
♬~
♬~
上杉ご家中の方! 深手を負っておる 急いで城中へ
(家臣)どうした!? (家臣)何だ!?
(家臣)あっ… これは…
弾傷だ! (家臣)しっかりしろ!
事と次第を承ろう!
馬鹿者 早く診なきゃ死んでしまうぞ
車藤三 俵左内を訪ねる
(武士)して この甲冑 米 何俵にて お譲りいただけるかな?
(武士)左内どのの武功に あやかれるものなら…
(弥吉)うちの旦那さまは 米ではいけませんので 金子で…
しかしだな
明日にでも合戦が始まろうと いうときに 何も銭なぞ…
「だからこそ銭が必要」と 旦那さまは…
≪(金子の音)
(笑い声)
左内 相変わらずだな
(左内)オッ!?
おぬし… おぬし まさか化け物では?
ハハハッ… 足は このとおり まだついてる
フッ… 本物らしいな まあ 上がれ
商売繁盛らしいな
合戦が近いから売るのよ またいくらでも ぶんどれるからな
なるほど ところで おぬし
風の便りに 小早川家を牢人したと聞いたが…
小早川の身内として 何ひとつ 不自由ない身でありながら➡
どうしたというんだ? フッ…
なぁに 気ままに自由な空気が 吸いたくなった… それだけだ
♬~
(左内)どうだ? 上杉に仕えんか?
今更 御免だな 気ままな これがいい
じゃ 若松くんだりまで 何しに来たんだ?
何しに来たって… まあ 男見物かな
男見物?
太閤 秀吉公が死ぬと➡
子飼いの大名 加藤 福島 黒田まで➡
しっぽを振って 徳川公に こびへつらう…
まるで 天下は家康公のものだと いう 昨今の風潮の中で
当家 景勝公だけが それをせん いや…
真っ向から対決しようとする その景勝の面構え
とくと見物しようと思ってな
えらく心やすく言ってくれるが 俺の主君だぞ
そうだ おぬし いい主君を持った うむ…
それに… 参謀 直江山城守…
そうか 分かった… おぬし 小早川秀秋どのが➡
秀吉公に大恩あるのも顧みず 家康公に近づく…
それが許せんで 牢人したのだな?
なあ 左内…
戦国武士は消えていく… どこにもいなくなる
タアッ!
(僧侶)ウッ… ウウッ…
御僧 どうした?
(僧侶)旅の僧… ご覧のとおり… 腕をどうしたと聞いている
ご覧のとおり… 救うてくれと頼んではおらん
ウッ… グウッ…
武士だな 斬ったのは… どうした? 訳を言え
(僧侶)浪人風体の旅の武士と 連れになった
伊達城へ赴く途中とか…
我らは仏法 兵法の 議論を交わしておった
(武士)((それで御僧は 悟りを開いたというのだな?))
((開いた)) (武士)((馬鹿な))
((拙者は これまでに幾十度となく 生死の下をくぐってきた))
((この拙者でさえも➡
いまだに 「生」とは何かを 覚ゆるところを知らん))
((生きる煩悩… これを覚ゆるだけで必死だ))
((「生」とは何か… これを悟るのは 死に直面したときだけであろう))
((御僧))
((御僧 死に直面するだけの悟りを お持ちか?))
((持っているつもりだ))
((よし 機会を与えてやる))
(斬る音) (悲鳴)
左内 坊主を近くの寺に 送ってやってくれ
おぬし どこへ行く?
ちょっと見物だ
それ!
(うめき声)
テヤーッ!
テイッ!
ンンッ!
おかえりなさいませ 左内どのは お帰りか?
ええ ところが… ご家老さまよりのお使いで➡
早速 ご城内へ まいりまして ほう…
直江山城守か…
(左内) 「斬れ」と… おっしゃいますので?
拙者 あの男とは 朝鮮の役をはじめとして➡
いわゆる戦場友達というやつで…
世にも華々しい 戦いぶりをする男でして
(兼続)そちとは どっちが上だ? (左内)はっ…
1人と1人では あまり やりたくない相手です
(兼続) そちの家の囲みは既に作ってある
ご命令とあらば かしこまって… ただ ひとつ➡
斬る理由を お尋ねして よろしゅうございますか?
今朝 石田三成どのより 密使がまいった
その密使が ひとときほど前に死んだ
瀕死の密使を 城内に 送り届けた浪人者がおってな
それが あいつでございますか?
密使の携えた密書を 読まれたと思わねばなるまい
気の毒ながら… (左内)御意
しかしながら ご家老 あの男 何者か ご存じで?
車藤三と名乗ったとか (左内)いえ
車藤三とは仮の名
実は 「小早川家に その人あり」と うたわれた…
(兼続)お恥ずかしい
左内めが最初から そう言えば わしも恥をかかずに済んだものを
いえ… 私 一介の素浪人 車藤三でございます
では 藤三どの… この上杉に 仕官してくださらぬか?
わしが いま お手前のような武士…
どんなに欲しいか… お分かりであろう?
直江山城 このとおり 白髪頭を垂れて お願いいたす
ご家老
私 侍勤めのできぬ 気まま者でございます
お加減は?
結構なような… ほろ苦いような
フフッ…
≪(家臣)殿! ただいま大坂より 岡野甚左衛門さま➡
早馬にて ご到着にござります (兼続)通せ
(左内)はっ…
甚左 ご苦労であったな (甚左衛門)殿 お人払いを
かまわん (甚左)いや しかし 殿!
いや この方は かまわんのだ (甚左)されば…
本月8日 徳川家康公 大坂 西の丸に諸大名を集め➡
当 会津 上杉征討の軍議を決定!
第1次征討軍 兵5万
逐次 大坂表を出立の予定にございます
ご苦労だった 今宵は ゆっくり休めよ
ご家老 いよいよ天下分け目の決戦
東に家康公を引き付け 西に石田三成公を盟主に➡
諸大名の決起を促す ご深謀と 拝察いたします
徳川どのほどのお方 それくらいは読んでおられよう
我らも 徳川どののご威光を 知らぬではない
いや… 知るゆえに あえて戦わねばならぬ武門の意地
恐らく これが 戦国最後の戦いとなろう
わしが茶を飲むのも…
ンンッ! ン~ッ…
(気合い声)
ダアーッ!
ハァ… 朝鮮の役以来の合戦だから もう3~4年になるかな
ご家老は 最後の合戦と言われたから➡
大いに武勲を立て… 金子をちょうだいするか?
そのとおり ハハハハッ… おぬし 勝てると思うか? 徳川に
そんなこと やってみなきゃ分からん
…が むしろ 北が気になる
石田三成公に呼応して 徳川挟撃のため西上せんとするか
その留守を狙う 背後の敵 独眼竜 伊達政宗
名にし負う北国の梟雄… 既に 徳川どのの機嫌取りに➡
頻々と国境に兵を進めては 我がほうを けん制しておったが
最近 ついに城を造りおった
おぬし 聞いておるのか? 俺の話 ああ…
問題は この出っ張った所だ
ここに 北山川に沿って 畑谷という町がある
なぁに 町というほどのもんではないが…
この町の すぐ後ろの山に➡
伊達の奴め つい先ごろから 多聞山城という城を造ってやがる
まあ 国境でなければ どうっちゅうこともない所だが
今や まったく 鼻っ先にできた おできだ
砦のようなものとは言いながら これが完成すれば 俺たちは➡
何千という兵を国境に残して 西に上らねばならんことになる
まあ 大体 城攻めには➡
守りの兵の10倍の兵力を 割かねばならんことは➡
おぬしも存じておろう
おい! 本当に聞いておるのかい いやぁ 自然と耳に入ってくる
ところがだ この城は 10倍の兵力でも ちと難しい
…と言うのは 指揮を執っておるのが➡
伊達家でも 1~2といわれる剛の者 赤座刑部だ
赤座刑部…
刑部かぁ… ありゃ強いなぁ
やり合ったことがあるのか? いやぁ 見たことがある
実に強い
あの赤塗りの桶側胴が 今でも目に浮かぶ
チッ… それが我らには頭痛の種
取ってやろうか? 俺が 何を?
その城だ 城!? おぬしが?
まさか本気で 言ってるんじゃないだろうな?
本気じゃなくて言えるか
俺1人で心配なら お前も来ればいいじゃないか
お前と俺と? 冗談も ほどほどにしろ
1人や2人で城を取るなんて 古来 そんな話は聞いたことがない
なくったっていいんだ
取れるかどうか やってみなきゃ分からない
ただしだ… 軍用金として お前のためた金 全部
ええっ!?
1人で城を取るか…
「たわけ」 …と お笑いなさりますか?
直江山城 人間を見る眼は持っておる
はっ…
あの男1人と 私の500両で 城を取れれば お安いこと
仮に仕損じましても➡
城方に相当の混乱を来すのは 間違いありますまい
そのとき符丁を合わして 兵を差し向ければ➡
少数で我らの城となる …と思いますが
成功した そのときには そちの金 倍にして返そう
城も そちに預ける 左内 そちも いよいよ城持ちだな
ははっ!
あっ… そちに珍しい物をやろう
800年前 我が国で初めて作られた 和同開珎
ははあ これは…
それから 車どのに…
ただ わしから 「よろしゅう」と それだけ伝えてくれ
はっ…
♬~
♬~
(左内)えいほ~!
≪(やまびこ) ハハハハッ…
俺は あの山が好きでなぁ 銭と どっちが好きだ?
同じぐらい ハハッ… うまく逃げたな
いや 俺が山を愛し 銭を愛するのも 所詮は同じなんだ
ひとつは 悠久に変わらざるものであり
ひとつは 有為転変 信じ難き世の中に➡
ただひとつ信じられるもんだ
それほど好きな銭を なぜ ぽんと出した?
金は使うためにある 俺は使う道を知っておる
戦場のおぬしを知らぬ奴は 商人に習う武士だと➡
軽蔑するだろう そんなこと かまわんが…
事実 俺が侍大将どまりで 偉くなれんのも そのせいだしな
いくらあった? 400と96両
あと4両で500両というのに… 銭にすると何文になる?
いや これが難しいんだ 銭にも いろいろある
古銭 新銭 善銭 悪銭 入り交じって…
このために世の人は いかほど難渋しておるか分からん
…が 例えば 我が上杉家では 永楽の銭を最も… あ… まあいい
とにかく 永楽の銭に直すと 496両
すなわち 4万9600文ということになるな
詳しいな さすがに
百姓 町人を雇うには 1日 何文あればいい?
さあな ざっと4文かな これで米4合は買えるからな
あわや ひえなら 1升や2升は軽く買える
すると これ全部だと 何人 雇えることになる?
う~む… えっと…
1万2400人
国境までは? 2日の道のりだが➡
最後の1日は なかなかきつい山だ
牛は行けるか? 行かれんなぁ
赤! 赤べこ! (小便の音)
ありゃ…
ちょっと拝ませてもらうか おう
(彦十)いやぁ…
ンンッ! (悲鳴)
(彦十)ウワーッ!
(彦十)ウウッ… ウウ~ッ… あいってえ…
何だ? お前は
一人山賊の追い剥ぎだ! ほう… 一人山賊か
その名も高き きこりの彦十!
落ちてきた男にしては 威勢がいいな
やいやい やいやい やいやい! でかいの!
命だけは お助けください… 助けてくれるね?
盗っ人を放っといては 世のためにならん
斬る!
エイッ! (左内)ウッ…
小僧… 味をやるな!
左内 よせよせ 子供だ
食えなきゃ盗むのは 当たり前だろう
戦国の世の習いだ 侍だって同じことをしてる
「相身互い」というわけよ 嫌なことを言うな おぬしは
気分をそがれた フフッ… 小僧 さっさと立ち去れ
子供だ!? 小僧だ!? 冗談言うねい!
俺は れっきとした大人だ!
年取るも年取らねえも こっちの勝手だ
な… なにぃ? この野郎!
(彦十)いえ~い!
♬~
♬~
(叫び声)
♬~
フフッ…
♬~
(彦十)いえ~い! いやっほ~! ほっほほ!
わん! わわわん! わん! (左内)チッ…
なめとるな あいつ よせよせ
ついてくる者は拒まず 去る者は追わずだ フッ…
それに あいつ 使えそうだぞ うむ…
そろそろ 野宿の場所を 見つけなくてはな… 夜は冷えるぞ
おい 山賊 山賊じゃねえよ 大将! 彦十だい
そうだったな 伊賀の彦十
どうして伊賀だってことが…
お前の動き ひと目見れば分かる
でも まずいんだ 「伊賀者」って 言われたくねえんだ
俺は 忍びが嫌いで 伊賀をおん出たんだ
人間じゃねえよ あの里の奴ら 上の奴ばかり儲けやがって
馬鹿にしてやがるよ 本当に (左内)ハハハハッ…
一人山賊のほうが儲かるか?
儲かりはしねえけど… 気ままでいいよ
おい お前 この辺で 野宿にいい場所 知らんか?
うん! ヘヘッ… アハハッ! イヒ~! ウホ~!
(左内)ハハハッ… おかしな奴だ ハハハッ…
♬~
アア~ッ… ウ~ン…
やっぱり金か
フッ… 狙ってたんだろう?
最初はね でも今は違う (左内)ほう…
なのに俺を信用しねえ
代わりばんこに風呂に入って… (左内)当たり前だ
大事な金をお前なんかに 持っていかれちゃ かなわん
チェッ! 腐らせるなぁ
ンッ!?
彦十! お前 くさいなぁ 先に行って 着物ごと洗濯してこい
嫌だ 俺は風呂は嫌えだ!
ぐずぐず抜かしておると 放り込むぞ!
ア~ッ…
♬~
♬~
(お千)誰?
失礼! 俺は いま 目をつぶった 武士に二言はない
ゆっくり入られよ ウフフッ…
≪(彦十)ウワーッ!
(くしゃみ)
(笑い声)
温泉つきの野宿なんてのは 粋なもんだな
ところで そのほうの名は何という?
お千 でも京に上ったら 「右京之助」って変えんの
いい名でしょう? 右京之助 (左内)歩き巫女か
しかし それにしては旅装束が新しいな
そうよ 昨日の朝からですもの (左内)じゃ この近辺の者か?
畑谷の町よ 北山川の向こうの (左内)ほう… 城は できたか?
よくは分からないけど 半分過ぎたくらいかな
それが どうして京などへ行く? (お千)嫌になったの 畑谷の町が
伊達のお侍が来て 城造りを始めてからは➡
何もかも無茶苦茶! もう思い出すのも嫌
それに私 もともと巫女なの
うまいのよ 拝むの 何でもよく当たるんだから
どうせ巫女なんだから 京へ行かなくっちゃ
(くしゃみ) ウフフッ…
お前 親が死んだな? あら よく分かるのね
あなたも千里眼?
お前の おいこから 新しい位牌がのぞいている
なぁんだ… でも当たってる
お父っつぁんは先に おっ母さんも この間 死んでしまって…
だから 私 歌舞伎女になるの 歌と舞の
フフッ… お千とか
それほど人のことは分かるのに 自分のことは さっぱりのようだな
お前 生娘なんだろう? まだ (お千)決まってるわ 嫌な人
それなら よせ
お前 歩き巫女って何だか 知っとるのか?
うまいのよ 私
町では けがをしたり病気になったり➡
失せ物があったり 赤ん坊が生まれたりするときは➡
みんな私のとこへ来るの だから 町じゃ 私 偉いのよ
それでは なおさら 歩き巫女などしてはいかん
どうして? (左内)それはだな つまり…
生娘のする商売ではないと 言うんだ
歩き巫女はな… う~ん…
おい 藤三
お千 歩き巫女と巫女とでは違うんだ
歩き巫女は 生娘がするようなもんじゃない
(左内)あっ…
(左内)さあ お別れだな
金さえたっぷりあれば 巫女などせんでも京に行ける
持っていけ
馬鹿なことを… おい 藤三! おい!
一文なしで これからどうする? 人の金のことで ごたごた言うな
それにしても ばかばかしい
人の金も自分の金も 金には変わりない
大体 金を無駄に使う奴を見ると 俺は むかむかする
私 要らない 取っておけ 入り用になる
藤三 要らんと言うものは いいではないか
無理に受け取らすことあるまいに 見ろ 取り返しにかかっとるぞ
取っておけ
♬~
たけひさ
(子供たち)おねえちゃ~ん!
♬~
(女性) 早よう歩かんか このガキが!
(泣き声)
♬~
♬~
あのお金 いただきました (左内)畑谷の者たちか?
お城の強制使役から 逃げてきたのです
大抵の男は逃げるに逃げられず… (左内)では 運のいいほうだな
でも 夜 川を越えるときに➡
おかみさんと 子供が1人 捕まってしまって…
…で あの者たちは どこへ? (お千)当てなんかありません
でも… どこでも 今の畑谷よりは ましです
あんた 一緒に行ってやればよかったのに
私は お侍さんたちと一緒に 畑谷の町へ帰ります
どうして我々が 畑谷へ行くことが?
私は巫女ですよ それくらいのことは分かります
それに私 なんとなく 畑谷の町へ帰りたくなったの
(彦十)よし!
(彦十)よ~し ほら… よっ… よっ… よし
(ため息)
(左内)さあ 荷を下ろすぞ
彦十 木ぞりを探してきてくれ (彦十)うん
よっ… こいしょっと…
さあ… 赤よ ご苦労だったな
迷わず帰れよ ほら
彦十 うん?
また ねぐらを頼むぞ 任せとけってんだい!
お千さん そりを頼むよ
ハッ!?
のろしだ! (左内)なに?
本当だ 間違いない!
(山賊)震えてないで 最初からやってみろい!
(長次郎) ここに取り出だしましたるは➡
そんじゃそこらに転がっている 紅 白粉やおまへんで
かしこくも 京は禁裏をはじめ➡
奥やんだちが ひそかに使うてきはった品物や
(長次郎)世が世なれば門外不出
わてらのような身分の低い者の 手に入らぬ 尊い品
それもそのはず いっぺん 使うてみたら すぐに分かる
白粉の乗り 紅の色 天下一品と… (泣き声)
(山賊)どうした? お前 いつから よいよいになった!?
もう 堪忍しとくんなはれ
(笑い声) ねっ! 頼んますわ!
白粉なんかで さんざっぱら 女を口説きやがったくせに
ほ~ら 食え! (長次郎)ヒイッ!
(笑い声) どうぞ 命ばっかりは…
もう 持ってる物は 着物も荷物も みんな差し上げますさかい
女じゃねえ俺たちでは ばかばかしいというんだな!?
オッ!?
エイッ! アアッ!
この野郎! (山賊)たたき殺してやる!
野郎… ウワッ!
ウウッ!
(うめき声)
ウワッ!
(左内)こらぁ!
(笑い声)
(左内)峰打ちだよ さあ 行くか 彦十
いつまでも口を開けてたって ぼた餅は降ってこんぞ
(息を吹く音)
(せきこみ)
白粉屋と申しておったの (長次郎)へい
白粉屋のくせに妙な物を 持っておるな
へい わては堺の長次郎と 申しまんねん
先ほどは どうも ありがとうさんで
もう あかんと思いましたわ… 白粉屋いうても➡
白粉だけ売ってたら ええっちゅうわけ いきまへんねん
子たちがいる家なら 子たちの機嫌買わないきまへんわ
…で 花火作って持ってんねんけど 煙硝 溶かして自分で作りまんねん
ほんでまあ ご新造はん 手前ここに取り出だしましたるは
そんじゃそこらに転がっておる 紅 白粉やおまへんでと…
何でい! いま助けられたばかりなのに➡
ぺらぺらしゃべりやがって 虫のいい野郎だ
俺のそばに近寄んなよ 白粉くさくて気持ち悪い
(においを嗅ぐ音) あんたも相当 くそうおまっせ
風呂入ってしまへんやろう? (彦十)冗談じゃねえや!
俺は ゆんべ ちゃんと き… 着物と一緒に…
(笑い声)
いやぁ 花火とは考えたな 煙硝 うまいんだろう?
ええ 火薬のことなら
これでも 結構 儲かりましたんやけどな
このごろは あきまへんわ 合戦や何やいうて…
遠いとこまで出てきて 銭はなし
すきっ腹抱えて うろうろ しているときに とんだ災難で
どうも おおきにどした
(笑い声)
♬~
♬~
あれが畑谷の町か? うん
その後ろの山の三角の旗が 二の砦 右手のもう少し大きいのが 一の砦
その下の山陰のが 三の砦に当たる からめ手門の作事場
これは まだ半分ぐらいで… ニの砦が7分どおり
一の砦だけが できあがってる 作事人夫は?
あっ… 人ね
少しは近在から来てるけど ほとんどが畑谷の衆よ
どれくらいいる? 150人くらいかな
男は みんな 強制的に 砦の中に閉じ込められ…
町には50以上の年寄りと 女 子供しかいないわ
取れそうだな 左内 うん?
そうかなぁ… 取れるかな この5人で
えっ…
わてらが あの城を… ほんまに取りまんのか?
怖いか? 怖うおます ええ…
一体 どないして取りまんねん? 敵は大勢だっしゃろう
うむ… まあ 200から300
200かて 300かて変わりはしまへん 皆殺しでっせ!
ひとつ間違えばな
これから先は 地獄より怖いかもしれん
…が 俺には俺の勝算がある ついてくるか?
大将!
俺 行くよ (お千)お侍さん
私 ひとつ 聞いておきたいことがあるの
何だ? 町の人たちは どうなるんです?
俺たちが城を取れば 町の人たちは元の生活に戻るんだ
じゃ その人たちに 危険はありませんね?
なくはないだろう
それでも やらなくちゃならないんだ
誰のためでもない
自分たちの幸せは 自分たちの手でつかまにゃならん
私… 行きます
わいは降ろさしてもらいま 命は ひとつですさかいな
馬鹿! そのひとつの命を 昨日 救ってもらったばかりじゃないか
ンンッ!
それにしても いまは わいのもんですさかい ほな 失礼
(彦十)くそぅ…
待て
左内 手はずは飲み込んだな? うむ…
お前は どう転んでも心配ないが 銭のほうは くれぐれも頼んだぞ
春の雪解けに 水に入らされるのか
銭のためとはいえ つらい話だ フフフフッ…
(船頭)お千ちゃん 京へ上るのは やめたのかい?
やめたんじゃないわ
行きたくたって あれじゃ行けないのよ
上杉領は もう合戦の支度で大変 ねえ? 白粉屋さん
えっ?
ヘヘッ…
へえ ほんまにもう ごった返して えらいことだっせ
この調子じゃ もう すぐ戦は始まるわ
必ず きっとこの辺りでも 合戦になるわ… 私には分かるわ
本当よ 上杉のお侍連中ときたら 乱暴だし…
第一 あれだけの数が集まってしまえば
誰も止められないわ
毎日毎晩 お酒を飲んでは➡
合戦の話か けんかしかすることないのよ
本当に怖かったわ ねえ 白粉屋さん
(足軽) …で どっち向かうんだ? 上杉は
はあ その噂っちゅうのは あっちゃこっちゃ いろいろで…
西国の奴の言葉は ひとつも分かんねえ
女 しゃべれ
噂だから よくは分からないけど…
直江山城守さまは 越後をいただいて➡
伊達さま攻めに 北へ上るんだろうって
直江どのが? (足軽)北へ上ると?
まさか (足軽)…で 軍勢の数は?
待て! おお…
ご覧のとおり 気ままな兵法修行の浪人者だ
伊達どのは なかなか備えが厳しいな
いやぁ 結構だ
合戦が近いと大変だな いやぁ ご苦労 ご苦労
では 通らしていただく 御免!
♬~
ターッ!
(典膳)お見事
(刑部)おお… 典膳 待っていたぞ
ただいま到着つかまつりました
殿には ご壮健の体 何よりうれしゅう存じます
昨日 早馬が入ってのぅ 徳川公 上杉征伐にご出立じゃ
いよいよでござりまするな (刑部)うむ…
迎え討つ上杉勢… 背後に憂いを残さぬため➡
まず攻めるは この多聞山城と見るが…
御意
おぬしを待っていた わしの 気持ちも分かるであろう?
とんでもございません
(典膳)常々の殿の仰せのとおり 合戦は 率いる将の器
たとえ 殿お1人になろうとも この城は落ちますまい
赤塗りの桶側胴をお召しになった 殿のご勇姿 拝見せんがため➡
典膳 はせ参じました
…が 及ばずながら典膳も 微力を尽くすからには お心安う
直ちに合戦の備えに入り➡
夜を日に継いで 城完成を急ぎましょう
ただし 領内の者に知らせて 動揺させるではないぞ
はっ…
≪♪(琴の演奏)
≪♪~
ああ… 姫にも ご健勝で
≪♪~
「50歳未満の男は 全て城内にて 城普請に従うべきこと」
「城普請に異を立てたる者 賦役を怠る者 逃散を企てる者」
「右 全て 斬に処す」
「すべからく上記に従い 業に精励すべきこと」
「多聞山城主 赤座刑部」
なるほど 多聞山城か…
砦に付けるにしては 刑部どのも ちと大げさな名を付けたもんだな
山城構築に この山を選んだのは さすが刑部どのだが…
それにしても 伊達ご家中は慌てたもんだ
この縄張りは まったく惜しいわ
この築城では 上杉勢が寄せれば ひとたまりもあるまい
弱点だらけだな…
(作山)何者だ!?
何だ? お城の柵前で何を言っとるんだ?
ここでは言っていいことと 悪いことがあるのか
黙れ!
いま お城が どうとか 申したではないか
ああ この城は攻められれば すぐ落ちると言ったが
何者だ? 貴様
余計なお世話だが… まあ 教えてやろう
兵法修行の者だ 名だ! 名は何ていうんだ!?
ああ 言えんな まあ 言ってもいいが…
聞いて どうする? 作山さま
ひっ捕らえて 陣屋で痛めつけましょう
うるさいぞ!
自分の足で 自分の好きな所へ 行って 自分の好きなこと言う俺だ
それを気に食わんだとか 陣屋へ しょっぴくだとか➡
偉そうなこと抜かしやがって…
いろいろ ためになることを 教えてやろうと思ったが…
やめた!
ま… 待て! (足軽たち)待て!
ウワーッ!
アアッ! (足軽)デヤーッ!
エイッ! クッ…
(作山)おい! それ!
デヤーッ! ンッ… (力み声)
ウッ! ウウッ…
グウッ… アッ!
「文句があれば いつでも会う」と 刑部どのに申せ
逃げも隠れもせん
俺は ほれ… その宿に泊まる
おじさん家のお客さんよ ほら早く (作山)ひけ!
(甚兵衛)お千じゃねえか お前 また いつ戻ってきた?
そんなこと あとでいいから 早く
あ… これは どうも
あっ! どうも お刀を…
いやぁ… 邪魔な所へ置いて すまなかった
おお 大きな たらいだな
(玉枝)大人1人 乗ったって ちゃんと水に浮かぶのよ
水に浮くか…
じいちゃん! うろうろしてないで お部屋へ ご案内
灯心の用意して あ… ちょっと待ってくれ
急に用事を思い出したんだ 長いのは預っといてくれ
どうした? 白粉屋
えらい すんまへんけど わいも やらしてもらいますわ
分かってま わいも大坂商人や
目ぇつぶって ここ逃げていっては わいの ど根性が許しまへんのや
よし… さあ 行こう 少々 計画変更だ
♬~
まだかな… 遅いな (左内)う~ん…
ついた! (左内)うん?
♬~
♬~
さあ そろそろ見回りの時刻だ 行くか
おう (作山)俺も行こう
見回りだ 変わったことはないか? (甚兵衛)はい
いるのか? 浪人者は (甚兵衛)えっ? へい
あの… お寒いのに ご苦労さまで (作山)うむ…
(せきばらい)
(甚兵衛)おひとつ いかがで? (作山)うむ…
せっかくだから もらおうか
おかしいな…
何か こう いつもより 足んねえような気がするな
いや 確かに何か足りねえぞ
(長次郎)よいしょ
(くしゃみ)
≪(鳴子の音)
(足軽)出合え! (足軽)曲者!
≪(鳴子の音)
何だ 猫だ (足軽)馬鹿にしやがって
♬~
動くな! (作山)何者だ!?
何じゃ? これは
はっ… あの… 芝の束と… (足軽)うん?
ああ! 思い出した 思い出した! たらいだ たらい
さっき言ってたのは たらいか!
(笑い声)
桶屋か (足軽)ご苦労!
(笑い声)
(笑い声)
(典膳)物見の報告では➡
上杉勢は 何らの動きをも見せて おらんと言うのだな? さようで
しかし 北山川の木戸 大手柵などより城下にて➡
上杉勢の蠢動の噂 しきりと 申し来ております
直江山城 恐らくは尋常の手ではまいるまい
乱波を使い 城下に流言を流し…
されば 今日 大手柵前にて 暴言を吐いた浪人者が…
馬鹿な! 乱波が そのような 目立つ動きをするわけがない
仕官目当ての痩せ浪人であろう
さてと いよいよ あしたからでんな
(彦十)俺は何をすりゃいいんだい (左内)これから それを決める
どうやって砦に潜り込むかだ (お千)夜遅くなら何とか…
ほう… (お千)柵の固めは厳しいけど…
ほかに… ししの通る獣道があるわ それを夜のうちに…
(戸の開く音)
(玉枝)寝ぼすけねえ! みんな出かけたわよ
いけねえ! なんで 起こしてくんなかったんだよ
だって 「若い者は今のうち 寝かしとけ」って 左内さんが…
くそ! (玉枝)ウフフッ…
(滝の音)
へい… いつもの野菜 二の砦まで
へい (足軽)よし
(雄たけび)
さ~て お立ち会い! 手前 ここに取り出だしましたるは
そんじょそこらに 転がっておる紅 白粉やおまへんで
馬鹿だな お前は
このご城内に 白粉など つける奴がいるか!
ヘヘッ… ほ~ら!
お侍さん 行ってもいいですね (足軽)ああ 早よう行け
昔の人も言うとりま 「百聞は 一見にしかず」
いっぺん使うてみたら すぐに分かる
白粉の乗り 紅の色 さては堂上の女御連から➡
さては祇園の舞子衆 褒めそやしての ご愛用
ゆえに京都の女子衆は 生き弁天と名も高い
さて そもそも この白粉の由来が また違う
(足軽)これは お耳障りな! 立ち去れと言うのに 去らんか!
(中松)お待ちなさい!
そなたに頼みたいことがある (長次郎)えっ?
是非 一緒に来てもらいたい (長次郎)ご城内へ?
いいですね? (長次郎)そりゃ…
通していただきます (足軽)はっ…
(彦十)お前 なんでついてくんだよ (玉枝)あんた 何してんの?
見りゃ分かるだろう 石 投げてる (玉枝)子供なのね 案外
馬鹿野郎! これはな 水の深さを測ってるんだ
本当? そんなことできるの? (彦十)できるさ
≪(足軽)おお そっちじゃないぞ
(足軽)早く やらんか! (足軽)急げ 何をぐずぐずしておる
さあ 早く運べ運べ! (足軽)早くやるんだ!
(与平次) さあ やれ! 斬れるもんなら➡
ばっさりと気持ちよく やってもらおうじゃねえか!
(与平次)ええ? そうじゃねえか!
俺は ゆうべから熱にうなされて 立つにも立てねえ
それを 人数だけ顔を そろえりゃいいんだからって➡
無理やり 現場 引っ張ってきて… 「働きが悪い」とは何でい
俺たちだって人間だい!
(富田)下郎! よ~し 見せしめに斬る!
だから やれって言ってんじゃねえか!
待て… あんな男に人は斬れやせん
おじけづきやがって (富田)何を!? 無礼な!
(源之助)どうぞ ご勘弁を! ご勘弁のほどを!
(源之助) 馬鹿! 馬鹿馬鹿… 馬鹿!
さあ 謝れ! 両手をついて おわびしろ!
辛抱だ 何もかも お城ができるまで
それまでの辛抱だ お互い それまで 馬鹿になるんだ
さあ 両手をついて おわびするんだ!
富田さま こんなことでは お許し願えないとは思いますが…
いずれ我々 町方一同うちそろって おわびに参上いたしますゆえ
どうぞ この場は お見逃しくださいませ!
あの2人 面白そうだな…
ええ 2人とも 私の幼なじみです 頼むぞ
(足軽)老女さまのお通りだ 散れ! 散らんか!
道を開けろ! (足軽)どけ! どかんか!
≪(足軽)下がるんだー!
≪(足軽)持ち場に就け!
うひゃー! こら あかん わて もう高いとこ あきまへん
しめしめ 長さん うまくやってるぜ
ねえ いくら あんたでも ここは上れないでしょう?
何にも ご存じないね
(武士)勘八! 何やってんだ!
工事が一向に はかどらんではないか!
(勘八)わしはね 大工ですがね
ほかの者は 皆 素人の どん百姓ですぜ
(勘八)素人にしちゃ よく ここまで来たぐらいのもんだ
言葉を返すな! ≪ 殿だ! 控えろ!
≪(馬の駆ける音)
(典膳)かまわぬ かまわぬ!
(典膳)それより 一刻たりとも 作事の手を緩めるな!
今日より 殿の命により お城構築の指揮を➡
この渋谷典膳が執るからには 瞬時の遅滞をも許さん!
命に背く者は もとより たとえ怠慢なる者といえども…
(馬のいななき)
斬る! (刑部)城構築を急ぐは お家のため
それが ひいては お前たちのためなのだ!
なお一層の努力をしてくれよ
(武士)さあ 作業! 作業だ!
さあ かかれ かかれ! 仕事だ仕事だ!
あの方が 渋谷典膳さまか (足軽)うむ…
いつも諸国浪々して 兵法の修行をしながら➡
「いざ鎌倉」には必ず帰ってくる 刑部さまの懐刀だ
…とすると 合戦も間近ということか
(左内)おやじ (勘八)何だ?
おやじ なかなか骨があるな 拙者 いや… 俺は気に入ったぜ
俺は 自分で思ったことしか言わねえ
(武士)こら! 何してんだ!?
え~っと… この柱は どうなってんだかな?
どこの? (左内)いや 柱より…
実は ちょっと お前と話がしたい
私 これから二の砦 ならびに 大手の柵を検見してまいります
うむ… (典膳)ハイッ!
テヤッ!
(笑い声) うるせえな!
お前の さっきの気持ち よく分かるぞ
何だ? お前 (お千)大丈夫なの この方
だから よく お話を聞いて
仕事を続けながら話そう
いいか? 俺の言うことをよく聞くんだ
お千ちゃん どうしたんだい? (お千)また帰ってきちゃったの
お千ちゃん 京へ上ったっていうから…
一生 会えないかと思って… 俺…
京どころじゃないのよ
上杉領は もう合戦の準備で ごった返しているし
その上 お告げがあって… このままじゃ 畑谷の町は➡
めちゃめちゃになるから すぐ帰れっていうの
上杉の軍勢が来るのか? (お千)そう
この砦を巡って戦になるわ
そうすれば 畑谷の町は めちゃめちゃよ
ねえ 源さん 私たち若い者が 何とかしなければ いけないわ
「何とか」って… 俺たちに何もできるわけがねえ
さあ それが いけないのよ 自分たちの幸せのためよ
お願い! 今夜 何とか 砦を抜け出して 私の家へ来て
よく話したいの
≪ 逃げたぞ! ≪ 逃げたぞ! 捕まえろ!
(男性)ウウッ…
待て! (武士)待たんか!
捕まえろー!
(足軽たち)テヤーッ!
待てー! (武士)逃がすな!
逃がすな 逃がすな! (武士)待たんか!
(悲鳴)
アアーッ!
♬~
ちくしょう…
♬~
(摩耶)もうよい
(中松)でも せっかく お父上さま ご信仰の…
お父上には 摩耶は喜んで治療を 受けていると お伝えして
では…
♬~
ところで 姫… 今日は 珍しい客をお連れいたしました
きっと姫にも お喜びいただけるものと…
さて まかり出でましたる それがしは
和泉の国は 堺の長次郎にて候や
祖父母の代から 派手派手と 鉄漿 白粉を商うて
今年で ぴったり 80と1年目
さて この白粉の原料は 唐天竺は その果ての
南蛮国は イスパニアの遠い里から
波路はるかに黒潮越えて 堺の港にお越し入れ
それをば買うて この わてが 大和路たどって京へ行き
三条小路で その名も高き かの練りぜんの大店の
名人気質の職人に 委ねて待つこと 59と40と5日
京は鴨川 その鴨川の かん延べ さらして練り上ぐ その艶は
結願の夜の満月の光にも似た 輝きをあげて その名も澄み渡り
さては堂上の女御連から さては祇園の舞子衆
褒めそやしての ご愛用
ゆえに京都の女子衆は 生き弁天と名も高い
さて お立ち会い 皆の衆
「何も 美人は 京ばかりではないわいな」
…という顔をしてはりますが いや また待った そのとおり!
北国は 伊達は美人の名産地…
≪(笑い声)
まあ 前口上はそれぐらいにして… 姫 いかがでございます?
おっつけ お父上さまも お見えになる ころ合い
ひとつ 驚かせてさしあげては? (摩耶)何をするんです?
姫のお美しいお顔を 長次郎の紅 白粉で…
(女中)まあ! (女中)早く早く!
ほな 失礼させていただきま
≪(女中) お殿さまの お出ましにございます
(中松)いかがでございます?
ああ… 美しい
♬~
刑部さんは いたく お喜びになって…
あしたから毎日来てやってくれと 金子と一緒にいただいたのが➡
この木戸御免の鑑札だすわ (左内)おお そりゃ 大手柄だ
ちょっと待っておくんなはれ まだ この先がおまんねん
姫さまはね 両手で 己が頬を こう… 押さえはりまして…
しばらく ほほえんではりました… やがて その見えぬ瞳から➡
ひと筋ふた筋 涙を流されまして たった ひと言
「お父上 姫の この顔 姫にだけは見えません」
そのときの刑部さんの顔!
鬼の刑部の たったひとつの泣き所や
よし! 何とか その姫を 誘い出して 人質にしよう
それで城と引き換えに… (左内)馬鹿者!
なんちゅうこと 言うてくれんねんな!
わいは 刑部さん いっぺんに 好きになってもうたんやで
長次郎 もちろん お前の気持ちは分かる
分かるが それも違う!
戦いは もう始まってるんだ
そうか 斬って捨てたか
二の砦に あと2日 からめ手柵より三の砦
侍屋敷の一角が あと4~5日 これが完成いたしますれば➡
まず 城の守りは 鉄壁にござりましょう
私が上杉ならば 今すぐ この砦を攻めて落とします
この際 いち匹夫の命には 代えられません
万難を排して城完成を… (刑部)分かる
そちの申すとおりではあるが…
典膳… 百姓 町人あっての武士じゃ
事を急ぐあまり 人心を離反させてはならんぞ
新宅は そこだ
若い者は遠慮せずと ずっと 前に出なされ
あ… 御免
皆さん こんばんは
さてと… 俺は車藤三 拙者 俵左内
白粉屋 長次郎
俺 伊賀! 伊賀… つまり… 五十嵐彦十!
委細は お千さんや甚兵衛さんから 聞かされたことと思うが…
こういう集まりは 侍も百姓もない
自分の腹の中を さらけ出して 十分に話し合いたいんだ
(男性)じゃ 早速だが 本当に合戦が起きるのか?
起きる! 半月と たたぬうちに 伊達と上杉の合戦になる
(男性)なぜ 起きると決めるのかね
徳川家康公が 上杉討伐の兵を起こして➡
5日前 大坂をたって 北に向かった
当 上杉としては もちろん これと戦わねばならんが…
その背後を 火事場泥棒の 独眼竜 政宗が狙わぬわけはない
伊達は この多聞山城を前線基地として➡
上杉に攻め入るであろうし
上杉は 北の守りとして 何とか この城が欲しい
されば➡
この地が合戦の舞台となることは 火を見るよりも明らかだ
(男性)フン! 侍が勝手に戦を おっ始めて➡
おらたちの家や田畑を 踏み荒らしてしまうだ
(男性)それどころじゃねえ 中には 女房 子供とは ちりぢり ばらばら
おらたちの命だって どうなることか
(男性) そうよ! 何もかも無茶苦茶だ
そうだ… お前たちは ここで合戦が起きると困る
同じように上杉も困るんだ な… なぜだ!?
徳川の軍勢を前にして 背後で合戦をする余裕なんかない
その困る者同士 仲間になっても悪くはあるまい
フン! うまいこと言って…
侍と俺たちが 仲間になれるわけねえ!
お前たちは こう思ってるんだろう
「こいつら調子のいいことばっかり 言ってるが…」
「うまくいけば 『親のため』とか 何とか言って出世する」
「うまくいかなくても 合戦は侍の商売だし➡
切腹しても斬られても もともとだ」
「それに引き換え 俺たちは うまくいくどころか➡
下手すれば 田地 田畑を 召し上げられたうえに➡
一家そろって 皆 串刺しだ」と まあ そんなとこだな
そう思って何もしないままできた 百姓 町人たちの姿が➡
今のお前たちなんだ!
まるで 牛馬のごとく追い回され…
気に入らないと言っては 斬り捨てられ…
人間らしい 一遍の幸せも 自由もないではないか!
じゃ… お侍さん 仲間になって 何をしようとおっしゃるだね?
多聞山城を取るんだ えっ?
そ… そんな馬鹿な! ハハハッ… (男性)冗談じゃねえや
いや できる
ただし お前たちが力を貸してくれればだ
じゃ 仮に城を取ったら おらたちは どうなるだね?
直ちに男たちの強制賦役を解いて 各人の家に帰そう
賦役に従事した日割りに応じて 賃金を払おう
城のために 没収された山林田畑の金も払う
へえ すぐ銭をくれるんですか? (左内)うむ…
ちょっと待ってください 仮に上杉が城を取っても➡
それほど大切なお城なら また伊達が取り返しに来る
そうすると畑谷の町は➡
いつまでたっても 合戦の舞台じゃありませんか
そうだ よく気がついた そんな馬鹿な! それじゃ同じ…
左内… 上杉のほうとしては どうするんだ?
上杉家としては 畑谷の町人 部落の百姓全部に➡
新たな替え地を 上杉領内に用意しておる
お前たちは そこに移って 戦が完全に収まるまで暮らすのだ
しかし… (ざわめき)
まあまあ まあまあ 聞け
戦乱の地で 家内離散し
塗炭の苦しみの中で 一生逃げ回るのがよいか
それとも 一時 平和な桃源に難を避けて
新たな人生に備えるか
先祖代々からの故郷を捨てるのは 忍び難いだろう
だが… それも しばらくの間だ
ざっと話は分かりました …が その上杉さまのご誓文か何か
証しになるような物を 見せてくださいませんか?
(ため息)
2つを町方 1つを村方
ひと袋に100両ずつ入っている 誓文なぞ 何の足しにもなるまい
上杉の誓文は銭だ さあ あらためてくれ
よっ…
うわっ… (男性)うわぁ…
ほら!
(笑い声)
しかし お侍さん 本当にお城は取れるんですか?
取れる
お前たちが俺たちを信頼して 心をひとつに戦えばだ
お前たちが本当に幸せになるには
これより道がないということを はっきりと知って戦えば➡
城は必ず取れる
藤三さま 左内さま ちょっと表で相談してきますだ
(戸の開く音)
銭は 預からしていただきますだ
(ため息)
よし… これで第一の砦は落ちた
≪(五貫匁)御前に
五貫匁 そのほう この節➡
領内における流言飛語のことを 聞いておるであろうな?
その源を探ってまいれ
それから ただいまの人心の赴く所 しかと… よいな?
♬~
いいか?
来た来た… (男性)散れ 散れ散れ!
どうかな? 人足どもの今日の働きは
さすがは典膳さま 昨日のひと太刀にて➡
奴ら 全く別人のような働きぶり
この分ならば 今日明日にでも 完成の運びです (典膳)そうか
フッ… 昨日のが効いたか
みんな いいな? 分かったな? (男性)うむ!
♬~
よし!
♬~
ああ ご精が出ますな (彦十)遅えなぁ 大将
ハハッ… 今日は俺のほうが 寝過ごしてしまった
(お千)車さま!
先ほどから 隣の屋根の陰に 人影とも何とも…
ただ不思議な気配が…
(女中たち)まあ! きれいだわぁ (長次郎)ああ! ちょっとちょっと
ちょっと動かんといて おくんなはれや
もうちょっとでっせ
ええ? どないだ? この白粉の乗り 紅の色
ちょっと差しただけで この あでやかさ
いっそ わてが たまらんようになってきよった
花どの お願い
あとで 2人っきりに なっておくんなはれ
好っきやわ
さすがは赤座刑部
見事 天険の要害を 利用した築上の作法だ
大丈夫? 取れるんですか? 相手にとって不足はないな
♬~
彦十 ここが戦の焦点だ
上の本陣に どうやって躍り込むか…
あの三角や四角の穴は? 銃眼だ
♬~
銃眼? …というと 鉄砲? 怖いか?
そりゃ… あんまりいい気持ちはしねえな
でも1発外せば その次を撃つのに だいぶ手間を食うんだろう?
だったら平気だい
赤座刑部ほどの男だ 鉄砲は3段構えだ
3段構え?
間を置かずに 一の鉄砲 次に二の鉄砲…
連続射撃だ なるほどね
彦十 あの石垣は上れるか? う~ん…
返事が悪いな どうした? いつもの威勢は
大丈夫! 考えておく
どうしたんです?
なぁに たこが丘の上を うろうろしてるんでな
(花) それじゃ お前 夫婦になって堺へ 連れていってくれるというのかい
へい ほんまに幸せだすわ
白粉屋風情が お姫さまのお女中と…
ところで あれは何だす? (女中)兵糧蔵
へえ… ほな あれは? (花)いや!
そんなこと どうでもいいでしょう?
そうかて めったに見られやしまへん
珍しおますさかいな (花)水置き場
さようか それは ちょうどよかった
あんまり幸せで 喉が渇いてきよった
(勘八)そうそう! もっと右 右! 右だよ! もっと
どうだい? 様子は (左内)1人ずつ口説き落とせば➡
あとは1日もあれば おおかた大丈夫でさぁ
ダアッ!
デヤッ!
ンンッ!
≪(五貫匁)御前 2つござりました
≪ 1つは他国者2~3名 城下にあること
≪ 1つは町民どものお城に向ける 目の多少 変わって見えること
乱波か? ≪ しかとは分かりません
して 居所は? ≪ 大手に近い 商人旅籠
よし その者たちのねらいを探れ
待て! 五貫匁
そのほう 手傷を負うているな?
嘘を申すな!
よいか? そのほうに危害を 加えるとは 尋常の者ではない
深追いは するなよ
ひっ捕らえるのは こちらの仕事じゃ
おお 典膳か
気散じに2人で 馬でも走らせるか
逃げろ
(典膳)下郎! 待てい! (刑部)この!
松に上りましたな (刑部)ええい… 逃げられたわ
この!
(長次郎) 鉄砲は 大体 15~16挺
この鉄砲蔵に置いてあります
…で 同じく 鉄砲組詰め所も ここにあるようです
(左内)よし 今度はニの砦に移ろう (源之助)はい
(源之助)ニの柵が ここで 番屋が この辺りにあります
夜の人員は?
はい 侍が3人に 足軽が20人くらいなもんで
そのほか おらたち人夫が40人ほど 仮小屋に寝泊まりしております
そうか…
それから この辺りに外柵があって ここからが例の馬の背道に…
♬~
しらみが這ってる
(刀のぶつかる音)
(彦十)テイッ!
(彦十)テヤッ!
ンッ!
(力み声)
(五貫匁)ウウッ!
(左内)う~む…
(左内)さすがだ
彦十さん! (彦十)ハァ…
さっきの松林の件といい 間違いなく もう 手が回るころだ
お前たちは砦に帰り 何食わぬ顔でいろ
しかし お侍さんたちは? 心配するな
お千に頼んで 次の手は ちゃんと打ってある
分かったら帰れ それでは…
甚兵衛や お千には まだ疑いはかかるまい
何を聞かれても 知らぬ存ぜぬで通すんだぞ
(甚兵衛)はい
中村圭之進 まいれ!
いいか? 彦十 明後日の夕刻までに➡
上杉の兵200 北山川の向こうに伏せるんだ
指示は あとでするが そのときは 盛大に かがり火をたくんだ
国境へ来るまでは 絶対に噂になっては まずい
伊賀流に 「忍びの手でいけ」と 言ってくれ
何しろ強行軍だが… お前の足では不可能ではあるまい
ちょっと待て
実は 今ごろ 誠に申しにくいんだが…
上杉軍 兵200 今夜中に➡
有明谷まで 到着することになっておる
従って 今から連絡すれば…
明後 早朝には 北山川対岸に着けるだろう
なるほど… さすがは俵左内どの 見事な お手回しでござるな
ヘヘッ… そう嫌みを言うな 戦国の習いじゃ まあ 許してくれ
いやいや 一刻も早いほうが 大いに結構
フフッ… わりかし おぬし しつこいな
おい 彦十
大切な古銭だ 頼むから なくすなよ
これを 隊長 啄木幸四郎に見せて
今の口上を伝えてくれ (彦十)うん
(圭之進) よいか? これは合戦ではない
命じたとおり 旅籠一軒を 音を立てずに そっと取り囲んで➡
水も漏らさぬようにせい
(戸の開く音) (玉枝)ハッ!?
おお… こりゃ 大したもんだな
左内 明日は早起きするか そろそろ獲物が出てくるぞ
なに!? 逃げられた!? 愚か者! (圭之進)はっ!
(使者)タアーッ! タアッ!
タアーッ!
タアーッ!
(使者)開門! 開門!
タアーッ!
オッ!? (馬のいななき)
何者!? クッ…
ウッ…
ンンッ! ウッ! ウウッ!
それ!
「国境ご守護の重任を考うるに➡
この際は多聞山の地を 固く守ること➡
専一にすべきことこそ 肝要と覚えまするにより➡
かねてより 後詰め300の派遣方 現況に顧みて➡
ご督促申し上ぐるが最良の策と 心得申し上げ候」
「来たる3月15日までに 派兵 ご手配くだされば➡
幸甚と存じ上げ候」
だいぶ 城内 いらだってきたな… 一応 思うつぼに はまってきたか
相手は赤座刑部 次なる手の内は…
♬~
(刑部)《この度 畑谷周辺を根城に 上杉 乱波の気配しきりなり》
《城下の安寧を図るため 乱波 召し捕らるるまで➡
賦役に就かざる老人 女 子供も 全て➡
二の砦内に とどめおくことなり》
ハァハァ… ハァハァ…
(泣き声)
(足軽)お触れだ! (足軽)すぐ 二の砦へ行け!
(男の子)母ちゃ~ん 母ちゃ~ん
(足軽)お触れだ! 早ようせい!
何すんだな!?
汚い! 罪科もない女 子供まで 人質に取りやがったか
よし! ここまで来れば やるだけだ
いよいよ その時 到来か 心配するな お千
お前も 二の砦に行って 女 子供の面倒を見るんだ
誰ひとり 傷つく者のないようにな
そして 源之助 与平次に伝えてくれ
「かねての手はずどおり 今夜半 丑の刻 決行」
「必ず うまくいく ただ うろたえるな 冷静に」とな
分かりました
フフフッ… 何だ? その顔は
今夜 ゆっくり 城内で会えるんじゃないか
ええ…
それじゃ俺は 三の砦の連中に 伝えてくる ああ
それじゃ… 私も
(騒ぎ声)
おお 玉枝 (玉枝)おじさま
(足軽)ほれ! (足軽)ぐずぐずするな!
(騒ぎ声)
(玉枝)お千さん (お千)あっ!
(玉枝) 彦十さんは うまくいったかしら?
(お千)大丈夫よ
ご苦労さまです
(男性)おい
どうどう
(せきこみ)
あっ… あんた まだ おったんかいな
堪忍してや 今日で しまいやさかい
♬~
♬~
(刺す音) ウワーッ!
アアーッ!
(斬る音) ウワッ!
デヤッ!
デヤッ!
ヤアッ! (足軽)ウワッ!
(長次郎)あほんだら! フン!
ハァハァ… ハァハァ…
(せきこみ)
ンンッ!
いよいよ 決戦を挑んできたな
さしずめ ここが多聞山城
うむ… 難しい…
さよう… なかなかにございます
典膳… ただひとつ 頼みがある
そなた 死ぬなよ
姫を… 頼む
(赤ん坊の泣き声) (男性)しっ! 静かに!
(男性)泣かせちゃ駄目だ (お千)早く乳を含ませて さあ
(赤ん坊の泣き声) (母親)坊や ちゅうちゅう…
(鳴子の音)
ハァハァ… ハァハァ…
ええい! うろたえるな! 木戸を開けい! 木戸を
はっ! (武士)誰か見てくるんだ!
(足軽)はっ!
アアーッ!
ンンッ! よいしょ!
アアーッ! クッ…
ヤーッ! アアッ!
≪(男性)それ! やっつけちまうだ
(鬨の声)
ヤーッ!
ンッ! ンンッ!
この野郎! この! この!
クッ… ええい! この! この!
(騒ぎ声)
アアッ!
ウッ!
ウワッ!
テイッ! ウッ!
オッ!?
ヘヘヘッ…
(男性)デーイッ! (男性)捕まえるぞ!
アッ!
うん? オッ!?
(うめき声)
よし いいな… あとは へそだ (男性たち)へい
へそに力を入れろ (男性)はい
(男性) ヘヘヘッ… ざまあみろ ヘヘッ…
(うめき声)
よ~し けがをした者はないな?
(源之助)大丈夫でさ ちっとばかりの ひっかき傷ぐらい
みんな 張り切っとるから (男性)そうよ!
もっと やりてえぐらいだ ハハハッ!
(男性)みんな! けがはねえか?
お千ちゃん
(男性)さあ 早く! みんな 来いよ
≪(女性)兄さん! ≪(女性)お父っつぁん!
おお 六! (玉枝)ああ 良かった
(甚兵衛)良かったなぁ…
お侍さん! よく頑張った
みんな 大丈夫か?
俵さまの言ったとおり 会えましたね 砦の中で
うむ…
血が! ああ… これは返り血だ
それより みんなを連れて 一刻も早く 砦を出るんだ
(お千)皆さん 急ぎましょう!
(甚兵衛) さあ 行くぞ! みんな 行くぞ
(与平次) さあ 急いで! じゃ またな
(男性)おい 早くしろ 早くしろ 気をつけろ 気をつけろ
おい いいか 石室までは気を配っていけ
子供を怖がらすんじゃないぞ ≪(悲鳴)
(足軽)待てー!
(足軽)待て! (悲鳴)
デイッ! ウウッ!
いいか? 俺は みんなを この先まで見届けてくる
どんなことがあっても 柵の外へ 出ちゃならんぞ 俺が帰るまでは
分かったな? さあ みんな! さあ 行こう!
(縄の切れる音)
(鳴子の音)
≪(鳴子の音)
(刺す音) アアーッ!
アアッ! アッ…
火だ! 出合え 出合え! (足軽)曲者が火を!
馬を引けー! 柵を開けー!
≪(武士)配置に就け!
ご注進! ただいま 三の砦に火が!
≪(武士)殿! 全員 打ちそろうてございます
うむ!
(刑部)よいか! 三の砦の固めは そのほうどもの手にある
命を懸けて守ってくれ! 行けー!
(鬨の声)
≪(男性)侍が来たぞ!
(騒ぎ声)
砦へ帰れ! (男性)出ていけ!
出ろ! 行け! 出ろ!
火をかけろー! 火をかけろー!
(騒ぎ声)
(源之助)外柵を開けろ! あの侍を ひっ捕らえるんだ!
やめろ! 絶対 柵は開くなと お侍が…
侍が何だ! 奴らの命令なんぞ なくたって➡
おらたちにだって 城ぐらい取れるぞ!
どけ! どけどけ! (与平次)よせ!
タアッ!
ハハッ! 見ろ! 奴が逃げていくぞ!
行け! みんな 行けー! (与平次)やめろ!
(源之助)行けー! 行けー! (与平次)やめろ!
お侍が… 行くな! みんな
(騒ぎ声)
撃てー!
(どよめき)
(銃声) ウワーッ! アアッ!
(銃声) アアッ!
みんな ひけ! 引き返せ!
源之助!
(銃声) アアーッ! ウウッ…
源! みんな ひくんだ!
柵を開けい! 追えー!
(鬨の声)
ウワーッ! (足軽)デヤッ! ウッ…
ヤーッ! ウワッ!
ウワーッ! (足軽)アアッ!
おのれ!
三の砦に味方の軍勢 おそよ300 ご到着!
なに!? 味方!? 馬鹿を申せ!
早すぎる! 今どき そんな馬鹿な!
仙台の方角より確かに! (典膳)タアッ!
♬~
(足軽) お~い たいまつだ たいまつだ!
(足軽たち)おお! (足軽)仙台のほうから来た
(荒木)おお!
見ろ! (足軽)噂は やっぱり本当だった
あれだけの加勢がありゃ 上杉の少しばかし➡
ひと踏みで蹴散らせるぞ (足軽)うむ!
仙台よりの援軍 到着 早くとも 明日 夕刻のはず
かように早ようなるわけがない
そのほう 三の砦へ赴き しかと様子を見てまいれ
はっ!
殿! 二の砦が敵中に! また 三の砦の火といい…
分かっておる… この攻め口では➡
敵の力も 一の砦に 寄せるほどのものではあるまい
構えて誘いに乗るな 城は守りに強いこと 忘れまいぞ
♬~
♬~
♬~
赤座どの ご家中に申し上げ!
それがし 仙台 政宗公の命を受け 手兵300を率いてまかり越した
伊達嘉門是貞でござる (歓声)
聞けば 上杉の先手
今宵 大手山 二の砦を急襲せしとか
入城の手土産がわりに それがし ひとつ
上杉勢を もみ砕き➡
武将首の2つ3つ 取ってまいろうと存ず!
(歓声)
あいや ご家中!
誰ぞ 我らと功名を争う強者は おられぬか?
今が武名の上げ時ぞ!
この機を失せず 我と思わん者は 打って出られよ!
(鬨の声) (武士)行け行け!
おお そこなるは 荒木五郎太どのよな
いざ この嘉門と 先陣争いする気はござらぬか
(武士たち)大将!
おう! いかにも承知つかまつったぞ!
いざいざ!
行けー!
(鬨の声)
ええい! 馬鹿どもめー!
返せー! 戻れー!
(男性)みんな 逃げろ!
(足軽)後れを取るなー!
ウワッ! (悲鳴)
(騒ぎ声)
ソイヤッ!
(騒ぎ声)
くそ! 追えー! (武士)追うんだ!
(左内)いいか! みんな 来るぞ!
それー! 追えー! 追えー!
それ! 網だー!
(悲鳴)
落とせー!
(悲鳴)
かかれー!
(鬨の声)
ンンッ! テイッ!
(男性)さあ みんな固まって来いよ
(男性)早くしろ 早く (男性)離れるなよ
玉枝ちゃん もう大丈夫だから あとを頼むわね
どこ行くの? (お千)残った人たちが➡
心配だから見に戻るの
みんなには内緒にしといてね (玉枝)じゃ 私も
駄目! あんたたちは石室で待っていて
(男性)すぐ そこだ! 元気出して
お前たちを これ以上 戦に巻き込むわけには いかん
(与平次) お侍さん そんなこと言ったって!
お前たちの仕事は もう済んだ!
急いで石室に引き揚げて➡
家族たちと一緒に 夜明けを待つんだ
お侍さん 1人で どうやって これから…
(彦十) 1人じゃねえ! 俺がついてるぜ
大将! うまくいったぜ ご苦労
さあ みんなを連れて この山を下りるんだ
嫌だ… 嫌だい! 俺は どうしても…
馬鹿!
チェッ…
戦をするのはな 侍だけで たくさんだ
さあ 急げ… さあ 急ぐんだ!
お侍さんの言うとおりにするべ
お侍さん…
(男性) 六! 帰るべ しっかりするんだ
♬~
(お千)源さん!
鉄砲にやられたんだ… ちきしょう
それで?
お侍さんは 伊賀の奴と 一の砦 行った…
俺は… とんでもねえ間違いをしちまった
俺は みんなに…
源さん! (与平次)源!
源… 源ーっ!
(泣き声)
♬~
♬~
お千ちゃん 危ないぞ! やめろ!
≪(駆け足の音)
申し訳ございません!
一瞬 遅く からめ手の兵は 敵の奸計に乗って全滅
三の砦は敵の手に落ちました
なに!? 三の砦もか!? (刑部)じれるな 典膳
それだけではない 北山川の向こうを見い
上杉じゃ
殿… かかるうえは?
申すまでもない 二の砦 大手の柵を奪い返して…
砦の備えを立て直すだけじゃ
されば 典膳
このときのために…
頼むぞ (典膳)はっ!
≪(足軽)集まれ! ≪(足軽たち)おう!
≪(馬のいななき)
≪(足軽)馬を引け 馬を ≪(足軽)おう
≪(足軽)並べ! 並ぶんだ!
≪(馬のいななき)
ハッ!?
≪(足軽)槍組は前 弓組は あとだ ≪(足軽たち)おう!
≪(足軽) けがをしてる者は こっちだ
ンンッ!
≪(足軽)鉄砲隊は持ち場に就け! ≪(足軽たち)おう!
あっ!
ンンッ! グッ!
(鬨の声)
お侍さん
アアッ!
(斬る音) アアッ!
♬~
お千さん!
(泣き声)
♬~
イエーッ!
デイッ!
(銃声)
デイッ! (銃声)
野郎!
デイッ! アアッ!
逃げよったわ 急ぎ 采女を大手の柵に遣わせい
急げ! (武士)はっ!
それ! (足軽たち)はっ!
ンンッ!
赤座刑部どの 来たか わっぱ
(武士)行け!
あとは 俺1人でいい お前は石室に行ってろ
デヤッ! ンッ!
トーッ!
デイッ!
トーッ!
ンンッ…
アアッ!
デヤッ!
(刺す音)
おおっと!
(圭之進)デヤッ!
ウワッ!
(琴の音)
待て… 待たれい
琴の主が気がかりか?
この命 既に おぬしに預けた 約束を… 違いはすまい
今生の未練の後始末に 寸刻の猶予を与えてくれ
中村!
姫を… 頼む
ははっ!
大手の柵には 既に1兵もなく もぬけの殻であります!
ウッ! グッ…
ウウッ… クッ…
ウッ…
♬~
彦十!
♬~
♬~
♬~
♬~
≪(彦十)聞けー! 聞けー!
(彦十)車藤三 赤座刑部を 討ち取った! 討ち取ったー!
なに!? ご領主さまが!? (武士)殿が!?
皆の者! よく聞け 赤座刑部は これにおるわ!
この刑部があるかぎり 多聞山城は敵の手には落とさん!
よいか! (鬨の声)
♬~
♬~
≪(泣き声) うん?
≪(泣き声)
(泣き声)
どうした?
アアッ… お千!
(泣き声)
♬~
玉枝 ここから動くなよ
♬~
(左内)待て!
♬~
♬~
赤座刑部どの 車藤三 推参
おう!
(雄たけび)
デヤッ!
(雄たけび)
ドリャ!
デヤッ!
デヤッ!
(刀を研ぐ音)
ハァハァ…
(刀を研ぐ音)
♬~
♬~
♬~
♬~
デヤーッ!
ヤーッ! (刺す音)
ハァ…
ハァハァ…
(男性) さあ みんな! 元気に行こうぜ
(男性)ほら 出発だぞ (男性)乗って乗って
忘れ物はないか?
舟を出すぞー! (男性)さあ 行くぞ!
では お大切に (与平次)じゃ!
ほな また どっかで (彦十)大将!
彦十! 風呂に入らんと 嫌われるぞー!
フン!
♬~
≪(子供たち)さようならー!
(男性)大将ーっ! (子供たち)さようならー!
≪(子供たち)お侍さん さようなら
≪(子供)さようならー!
♬~
やっぱり行くか…
♬~
♬~
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