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《まるで 夢の国に 迷い込んだような気分だった》
< それは…>
<失ってしまうには あまりにも惜しい➡
歴史が積み重ねた その味と味わい。
これは 平日にくたびれたサラリーマンが➡
そんな絶メシに出会う 週末 1泊2日の物語。
それでは 案内を開始します>
「スマイル スマイル スマイル スマイル」
カニカニ カニカニくる! カニカニ! 準備して お母さん。
♬「カニカニカニ! カニカニ~」
お母さん 踊れてる? 私 間違えた? こっちだ。
《週末の妻と娘は楽しそうだ。
アイドルのライブやイベントに通うため 全国各地を飛び回るなんて➡
どこが楽しいのか 俺には 全然わからないけど…》
えっ? 何ニヤニヤしてるの?
いや 2人とも 楽しそうに踊ってたから。
どうしたんだよ 急に…。 難しい年頃なのよ。
え いや それにしても。
っていうか 最近 車臭いんだけど。
えっ?
ねえ お母さん 臭くない?
いや 私はわからないんだけど 紬が言うのよ。
車の後ろの席のシートが なんか臭いって。
へぇ…。
《まさか… 俺が毎週寝てるから?》
ヤバッ! この臭いだ! えっ?
ヤバッ! ってか おじさん臭い! ありえないんだけど!
いやいや…。 お父さん まだそこまで➡
おじさん臭くないだろ? はぁ?
はぁ? はぁ?
(2人)おじさん臭いよ~! えぇ…。
いや えぇ…。
じゃあ 気を付けてね。 お父さんも しっかり➡
お風呂に入ってね。
じゃあね。 んっ。
《じゃあ 俺は俺で そろそろ行きますか》
目的地まで 131キロ 2時間27分くらいかかります。
《行き先すら決めない 週末の小さな大冒険。
だが 今日の俺には 行きたい場所があった》
《海が見たい…。
ちなみに 小さな大冒険のルールは3つ。
その1 期間は 金曜の帰宅後から➡
翌日 家族が家に帰る 土曜日の夕方まで。
その2 誰も誘わない 誰も巻き込まない》
《その3 高速代 ガソリン代 食費➡
いろいろ含め 小遣いの範囲内に収める》
目的地に着きました 案内を終了します。
運転お疲れさまでした。
《ここ伊東マリンタウンは➡
海沿いのアレが とにかく最高だ って聞いたんだけど…》
《アレは…。
暗くて全然 どこなのかわからない!》
まっ アレは 朝のお楽しみということで。
うぉ~!
⦅ヤバッ! ってか おじさん臭い! ありえないんだけど!⦆
ハァー。
俺って そんなにおじさん臭いかなぁ。
⦅この企画書 誰が作ったの? あ 私です。
おじさん臭いなぁ。 古いよ 発想が古すぎる。
え あぁ… 申し訳ありません。
こんな ありきたりの提案じゃなくて➡
ないの? 他に。 あ いや そうですね➡
ちょっと 私どものほうでは こちらの案しか…。
1つだけあります。 えっ!?
須田さんがボツにした 僕の案 見てもらっていいっすか。
いやいやいや あれはないから。
いやいや これ出さないと…。 あれは 絶対ないから。
もっと怒る もっと怒るよ。 もっと怒らないですから。
すみません お願いします! これです。
うん… これでいこう。 えっ ホントですか?
堀内くんだっけ? 君いくつ? 26です。
やっぱ若いヤツのほうが 話が早いな。
ちなみにさ そのスマホカバー ヒゲダンのグッズだよね?
えっ ザキさんヒゲダン知ってるんすか。 俺 ヒゲダン めちゃめちゃファンだから。
マジっすか! ヤバッ! (2人)うえ~い。
えっ ヒゲダン知ってます?
あ あぁ… 知ってます。
ヒゲダンですよね ヒゲダン はい。 行ったことあります。
ヒゲダンじゃなくてヒゲダン。 (堀内)すみません こんな上司で⦆
若い頃は 若い頃で つらかったけど➡
おじさんは おじさんで つらいんだなぁ。
あ~あ。
(アラーム)
あっ 急がないと!
《そして 朝イチで向かったのは…》
《昇る朝日に照らされながら 私は➡
徹底的におじさん臭を 洗い落とした!》
《やっぱり スパ目当てに来てる車が多いなぁ。
ん?
この車 な~んか見覚えが…》
(笛の音)
ハハハッ また会っちゃったね ノーマルさん。
覚えてる? この間 あの… 木更津の中の島公園で。
もちろんです。 すみません じゃあ。
いや ちょちょ ノーマルさん。 中 見てこう。
先急ぐんで…。 いや 大丈夫大丈夫。
見たいでしょ。 だって 興味あるからここにいるんでしょ。
誰もいないよ ハハッ ほら 見て ほらほら。
ここ ここ見て。
ここが 冷蔵庫。 ねっ。
で ここが流しになってて➡
まぁ ほら 料理なんかもできるってわけ。
え 電気は? 電気はね この上のソーラーパネルで。
《あぁ… いつか こんな車で全国を回ってみたい》
まぁまぁ ちょっと ノーマルちゃん 中入って。 はい。
でも 靴脱いでね ここ土足禁止だから。
はい。 きれいに使ってんの こうやってね。
失礼します。
これで いくらくらいするんですか?
えっとね 車両代含めて 1, 000いかないくらい。
《でも この人➡
こんなすごい車 1人で乗ってるのかな…》
いつも お一人なんですか?
いや ふだんは ワイフと来てるんだけどね➡
今日は たまたま1人で うん。
あれ? でも この前も1人でしたよね?
そうだっけ?
まぁ 忘れちゃったけど。
そんなことよりさ➡
このあと寿司でもどう?
す… あぁ。
すみません また今度にしときます。
えっ もう… 冷たいななんか。 すみません。
ノーマルさんに せっかく会えたのに!
(笛の音)
じゃあ また どっかで。
今度は 奥様ご一緒に。
《さて いただきに行きますか》
♬~
♬「スマイル! スマイル! スマイル! スマイル!」
♬「スマイル! スマイル! スマイル!」
《さぁ 絶品メシはどこだ》
《ん?》
《なんていい笑顔の豚ちゃんだ。
あの勢い任せのイラスト。
絶メシのにおいがプンプンする!
とんかつ一。
よし 行ってみるか!》
こんにちは。 ≪いらっしゃいませ。
ごちそうさまでした。 ほい ありがとうございました!
《ヤバい…。
店内は思った以上に にぎわってるぞ》
いらっしゃい 旦那。 どうも。
《なんで あんなとこに座ってるんだ?
しかも 満面のスマイル!》
立ってないで 好きなところ座ってよ ねえ 旦那。
はい。
さては 旦那 地元の人じゃないね。 はい 東京から。
やっぱり。 顔見りゃわかるんだよ。
ん? えっ…。
ん? え あ はい…。
旦那あれだね➡
よ~く見ると 旦那って感じじゃないね。
え~っと それは どういうことですか?
よく見ると 意外と若いってこと! アハハハ…。
若い?
こりゃ旦那じゃなくて 若旦那だな! アハハハ…。
《若いなんて言われて 素直にうれしかったわけで…》
えっ おやじさん 私 そんなに若く見えます?
見えるよ。 いくつくらいに見えます?
25くらい。 25!?
初めて言われました! いや~ まいったな。
ねえねえねえ そんなことよりも若旦那。
この店 初めて? はい。
じゃあ ミックス定食だね。 えっ?
うちは 初めてのお客さんは➡
みんな ミックス定食 ってことになってるから➡
よろしく。 えっ…。
《ハンバーグ ポークピカタ➡
肉だんごに酢豚…。
壁には こんなにメニューがあるのに➡
初めての客は ミックス定食しか食べられないって➡
なんだ この店!?》
《しかし 実にいい匂いだ。
これは期待できそうだぞ!》
はい ミックス定食 お待ちどおさま。
えっ…。
《なんだ この想像以上のボリュームは!》
冷めないうちに食べてね 若旦那!
大丈夫 若いんだから 余裕だよ このくらい。
じゃあ 隣の若旦那と どっちが先に食べられるか➡
競争だよ~。 えっ?
堀内!
フッフッフ… 若さじゃ負けませんよ。
おもしろい!
勝負だ 堀内!
レディー…。
ポーク!
若旦那も若旦那も頑張れ~い!
頑張れ! 頑張れ頑張れ もっといけ!
もっともっと頑張って ほら!
(声援)
《揚げ物の山を構成するのは➡
ヒレカツ メンチカツ カニクリームコロッケ から揚げの全4種!
それぞれのうまみも さることながら➡
特筆すべきは➡
これら四天王に たっぷりとかけられた➡
特製ソースだろう。
程よい酸味のデミグラスソースが➡
揚げ物たちのポテンシャルを 最大限に引き出している!》
(せき込む声)
《フッ 違うんだよ 堀内くん。
そんなふうに揚げ物だけを がっついてちゃだめなんだよ!
この食べ方の正解は➡
揚げ物1! ライス! 揚げ物2! 付け合せのスパゲティ!
揚げ物3! みそ汁! そして 揚げ物4! たくわん!
そして キャベツで 口内環境を整えたら➡
もう一度 揚げ物1。
このルーティンなんだ!》
アイ キャン フラーイ!
ゴール!
(歓声)
勝った!
まだまだ おじさんとは言わせないぞ!
《今のくだり…。
我ながら なんという妄想だったんだ》
フゥー。
いや~ いい食べっぷりだったね 若旦那。 はい。
じゃあ こんなにきれいに 平らげてくれたお礼に➡
サービスをしちゃおうかな。
ほい。 えっ…。
これと これも サービスしちゃおっかな~。
いや おやじさん これは…。
ハハッ 大丈夫大丈夫 若いんだから 若旦那は。
いや でも メンチとスパゲティはともかく➡
白いごはんだけ こんなに出されても…。
そう言うと思って。
ヘヘッ これ!
フライ・アゲインだよ 若旦那。
《そんなおやじさんの 振る舞いを見ていて➡
1つ気付いたことがある。
おやじさんの顔は 一見 笑ってるように見えるが➡
よく見ると目は笑っていない》
さぁさぁさぁ ハハハ…。
おぉ 旦那。
もっと食べられるね。
《さりげなく 気付かれないように➡
一人一人の食べっぷりをチェックし➡
相手を選び➡
絶妙な間合いで おかわりを差し出す》
ちょっと待ってよ~ ハハハ これも食べて。
いただきます。 いただきます。
《そう 一見ハチャメチャなように見えて➡
おやじさんは 全員の腹具合の限界を➡
完璧に把握していたのだ》
これも揚げたてだぞ~。
おやじさん おかわりつぐ相手選んでますよね。
もちろん。
若旦那におかわりついだのも➡
若旦那が 俺は まだまだ若いヤツに負けたくない➡
って顔してたからだよ。
はい。
目配りは大切だよ 若旦那。 目配り。
若旦那も もう そこまで若くないんだからさ➡
勢い以外の そういういやらしい部分で➡
勝負していかないとね。
はい。 ごちそうさまでした。
また来てよ いつまでやってるか わからないけど。
またまた。 いや ホントだよ。
うちは 娘が2人だから➡
今のところ 私が倒れたら もうおしまい。
誰か店継ぎたいっていう人は いないんですか?
どうだろうね。 お客は たくさんいるんだけどね。
この店 始めて もう40年近くになるのよ。
常連も すっごい多いわけ。
あの旦那なんて➡
旦那が高校時代から ずっと来てくれてんのよ。
あの旦那も あぁ あの旦那も。
この旦那の誰かが➡
この店やりたい って言ってくれたら もう➡
これ以上うれしいことないけどね。 ハハハ…。
《すべての旦那が戦う とんかつ とんかつ一。
ちゅう房というリングのなかで➡
店主が全力で揚げるフライもまた➡
絶滅してしまうかもしれない 絶品メシ。
絶メシ フォーエバー》
自宅まで 204キロ。 3時間24分くらいかかります。
行くか。
もしもし。
もしもし お父さん? 紬が話あるんだって。 ほら。
(紬)もしもし お父さん?
どうした?
昨日は おじさん臭いとか言って ごめん。
なんだよ 急に。 反省したの。
私たちのために 毎日頑張ってくれてるのに➡
悪かったなって。
いいよ お父さん もう怒ってないから。
おわびに 今夜は 私が晩ごはん作るね。
おっ 何作ってくれるんだ?
お父さんの大好きな コロッケ!
えっ…。 あ お母さんに代わる。
あ いや…。 もしもし?
じゃあ 私は カレー作るから。
どこほっつき歩いてんのか 知らないけど➡
早く帰ってきてね。
いや あの お母さんも紬も ちょっと待ってくれないかな!
それは 今夜じゃなくて 明日にしてくれないかな?
(通話が切れる音)
いや~ 夜も揚げ物とカレーって…。
⦅フライ・アゲインだよ 若旦那⦆
<今週もお疲れさまでした>
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