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(笑い声)
(蔦屋重三郎)ああ… 俳諧ってなぁ 今 こんな おかしみのあるふうで。
いや こりゃ 傑作だが~!
あ~ 知らんかったでかん。
蔦重は 尾張の書物問屋 永楽屋さんと すっかり仲よし。
(2人)あの 売り広め…。
(2人)よろしくお願いします。
(笑い声)
オロシャの船が やって参りました!
(松平定信)まさか 江戸ではあるまいな?
はい。 蝦夷地の➡
ネモロというところにございまして➡
オロシャに流れ着いた我が国の民を➡
送り返しに来たと。
(定信)民を送り返しに?
(本多忠籌)では ネモロにて➡
民の引き渡しをしてもらえば よいのではないか。
はっ。 しかし 松前からの知らせによりますと➡
民の引き渡しを兼ね 江戸に来航したいとのことで。
(本多)江戸に!? その使節は➡
オロシャの王の勅書も持っており そこには➡
我が国と国交を開き 通商を望みたいと 書かれておるとのことにございます。
オロシャとの国交 そして 通商か…。
(松平信明)いっそ この際 認めてもよいかもしれませぬな。
松前に 抜荷を許すよりは。 うん…。
蝦夷の民と 御救交易もしておるわけだしの。
然様にございますな。 おう。
ならぬ!
ならぬ ならぬ…。
オロシャの船を江戸に入れるなど 断じてならぬ!
口車に乗せられ 江戸に招き入れたところ➡
大筒をぶっ放さぬとも限らぬではないか!
さすがに いささか大袈裟では…。
大袈裟なものか!
そもそも オロシャの言葉は 誰が通詞しておるのだ?
大黒屋光太夫という漂流民にございます。
その者が オロシャに 飼いならされておらぬという証しは➡
どこにもなかろう。
松前は オロシャと手を組み 謀反を企んでおるということはないのか?
松前は オロシャ船を打ち払うべく➡
打って出ようとしておるそうなので 手を組むなどは…。
そう見せかけておるだけかもしれぬ。 はあ!?
この件は ネモロにて 御公儀が 直に事に当たる!
いきなり 然様なことをしては 松前の立場が…。
ならば 松前の当主に 隠居を申しつけてしまえ。
え…! (足音)
お話し中 ご無礼いたします!
急ぎ ご評定願いたき儀がございまする!
(定信)何だ? 京の所司代より➡
帝は 御父君に 御尊号を贈られるおつもりのようだと!
武家伝奏を 至急 呼び寄せよ。
いかにしても 御尊号をお贈りになるなら➡
向後一切の禁裏御料を 打ち切ると申し伝えよ。
はっ!
そのころ つよさんが その一生を終え…。
ご愁傷さまです。
後日 偲ぶ会が開かれました。
あんまり 腕がいいもんだから➡
髪結床に行けなくなっちまったよ。 まったくだ。
(滝沢瑣吉)俺も よく オババに髪を結わせてやったもんだ。
ハハハハハ!
私も よくやってもらってたんです。
(次郎兵衛) 随分 いろんな人が来てくれたねぇ。
ええ。 うちに来たついでに 髪直してもらった人も➡
多かったですからね。 うん。
(りつ) 死に目には間に合わなかったのかい?
へえ。 俺がいねえ隙に さらっと いっちまいやがって。
来た時も さらっとだったもんなぁ。
そうでしたねぇ。
さらっと ここで飯食っ…。
三和! (唐来三和)よっ! ご無沙汰!
ヘヘヘヘヘヘヘ! おい!
なあ 今まで どこ行ってたんです?
まぁ 前の前のカカアのとこに いたんだけど。ああ…。
(瑣吉)唐来三和先生であられるか?
誰? 滝沢瑣吉と申しまする。
ぜひ 武家戯作者の先達として 諸事ご教授願いたい!
えっ!? まぁ タダ飯食うなら ご教授願いますよ。
いや…。 さあ 先生!
ちょ… ちょ… 食べてんだよ 俺! 先生!
蔦重! 飯 食ってんだよ! おていさん 歌も ちょっと休みな。
(三和)飯 食ってんだよ! (次郎兵衛)来な 来な。
(喜多川歌麿) まだ 片づけありますし…。
(りつ)何 言ってんだい。 どんと座ってなよ 歌麿先生。
(次郎兵衛)おう そうだ そうだ。 「十躰」も大評判じゃねえか!
ああ… おかげさまで➡
年明けには 畳が入れられそうでさ。
おや そんなもんかい。
身上半減から 売れ筋の板は ほとんど持ってかれちまって➡
まだまだ厳しいもんで。
来年には パッといきてえと思ってますが。
吉原は 近頃 どうです?
(駿河屋市右衛門)大変だよ。 金 落とさねえ客ばかり増えちまってよ。
近頃の客は しけててさ お座敷に 声が かからないんだよ。
おかげで 芸者も上がったりさ。
じゃあ…。
あっ 「看板娘」 持ってきてくんな。 へえ!
看板娘? ああ。
年明けから売り出す 揃いもんで 市中で評判の美人を描いてんです。
ふ~ん。
どうぞ。
これ。
りつさん やりませんか?
(次郎兵衛) おっ! 難波屋のおきたちゃんだ!
人気者なのか? この小娘は。
もともと 人が集まってまして➡
そこで この絵を出して 更に評判をあげようって話です。
女郎絵と同じようなもんかい?
そう。 どうです?
豊ひな辺りは?
文句なく美人だし。
じゃあ 頼んでみようかね。
ありがとうございます。
じゃあ 入銀の方は1作当たり…➡
これで。
お里の仕事だよ。 そりゃ ないだろ。
これで。 え~…。
ほかの入銀先との並びもありますんで➡
これで。
ま 1両は つよさんへの香典かね。
ありがた山にございます!
ひとつ いいの頼むよ 歌麿先生。
もちろん。 とびきり張り切らせてもらいます。
どうした? おていさん。
(てい)義母上様に➡
皆様のご加護を お願いいたします。
♬~
おっかさん。
♬~
(りつ)来年は よくなりますように。
(次郎兵衛) 紙花が 山のように まかれますように。
♬~
♬~
よいしょ! よいしょ! よいしょ!
よいしょ! よいしょ!
皆様 あけましておめでとうございます。
本日 蔦屋耕書堂は 無事に 畳を入れられることとなりました。
おお~!
ようやく 身上半減の店は➡
返上。 おお~!
そうだ 此度➡
書物問屋も始めることとなりました。
おおっ!はあ~!
それもこれも 皆様のご贔屓のおかげにございます。
(大当開運)おい。 おおっ! 開運先生!
皆様 開運先生もお越しくださいました! いや どうも。
先生 ここにお集まりになった皆様の相は いかがにございますか?うん?
おお~! むっ!
さあ どうでしょう?
みんな 笑っておるな。 (笑い声)
これは! へえ。
「笑う門には福来る」の相じゃ~!
(笑い声)
よいしょ!
やっちまったな! (笑い声)
それでは 皆様 お楽しみくだせえ! よいしょ! よいしょ!
さあ どうぞ!
いらっしゃいませ!
この年の蔦屋の店先は➡
新作の黄表紙 狂歌集もずらり➡
書物まで顔を出す➡
まこと華やかなものとなりました。
もちろん 一際 華やかなのは➡
歌さんの錦絵。
ありがとうございます。 どうぞ。
こちらなんて いかがでしょうか?
これ 新しい「十躰」かい? へえ。
難波屋… おきたちゃん? あっ ほんとだ!
歌麿先生には 今年は 評判の美人を 続々と描いてもらおうと思ってまして。
何を隠そう 美人は俺が目利きした! ありがたく思え!
これ どんどん出るのかい? へえ。
歌麿先生も➡
江戸中の美人を 描き尽くすつもりでさ!
そうなの!? そいつは いいな!
これ いいよ これ おきたちゃん! 綺麗じゃねえか!
二月。
越中守様は 武家伝奏など 公家を 江戸に呼びつけ➡
御尊号を贈る 贈らぬの一件を➡
しつこく問いただしておりました。
(正親町公明) もう よろしいやございませんか。
主上も 御尊号は贈らんと お諦めにならしゃいましたし➡
済んだことを ネチネチと。
なあ?
おまんまの腐ったような。
(笑い声)
(信明) あの者らをお役御免の上 閉門となさる!?
しかし 帝は御尊号を贈るのは 断念あそばされましたのですし…。
肝要なのは そこではない。
あの者らは 朝廷と御公儀を結ぶ お役目にもかかわらず➡
御公儀と朝廷の間に不和を作った。
恐れながら 武家が公家を処罰するなど 聞いたことが…。
将軍家は 帝から政を預かり 日の本六十余州を治めておる。
政を任されておる以上 武家 公家を問わず 上様の臣下であることに変わりはない。
道理は通っておる!
では せめて 朝廷に先に諮ってから…。
非常の時であるぞ!
オロシャが 我が国を狙っておる この時➡
御公儀と朝廷の不和など➡
漏れれば どうつけ込まれるか分からぬ!
(信明)もはや 己のほか 何者も信じられぬ➡
信じまいという有様で…。
そのうち オロシャの使節に直談判すると 言いだされるかもしれませぬ。
(一橋治済)それで オロシャは まことに 我が国を狙っておるのか?
そのおそれ 皆無とは言い切れず➡
外敵に備えることは 大事にはございます。
しかしながら かような やり方では 国の中に敵を作るばかりかと!
(せきばらい)
顔に泥を塗られた朝廷 謀反を疑われた松前は無論のこと➡
越中守様は 北国の大名たちに 「オロシャの襲来に備える➡
御公儀の郡代を置くための 領地を差し出せ」などと命じられました!
無論 大名らは不服!
しかも それは全て…。
そなたら…。
これを知っておるか?
これが 何か?
この娘 大層 美しいらしいぞ?
おきたちゃん!ちょっと ちょっと! (きた)いらっしゃい!
このころ 江戸の町では➡
いわゆる 「看板娘ブーム」が起きておりました。
歌さんの絵に描かれた看板娘を 一目 見ようと➡
江戸っ子たちは 店に押しかけ…。
(きた)お待ち遠さま。 ありがとう~!
俺 俺! 次 俺! ごゆっくり どうぞ。
おきたちゃん!
おい ちょっと!
1杯48文もするのか!?
(難波屋)おきたのいれた お茶にございますから。
ようきた ホイきた おきたの茶!
皆 おきたちゃんの出すお茶の値が➡
4文から48文に跳ね上がっても 何のその。
そして こちらも…。
(ひさ)これで 5➡
6。 6。
7。 (芝 全交)7。
8。 8。
(ひさ)9。 (全交)9。
これで 10!
もう一枚!
じゃ もっかい並びな!
はい! (笑い声)
おお~!
はい ありがとね! はい!
おひさちゃんの売る煎餅にも 太客が鈴なり。
更に こちらも。
(豊ひな)おっかさん 行ってまいります。
(りつ)うん。
とにかく一節だよ!
一節 歌ったら すぐ 次のお座敷にね。
はい。
芸者の豊ひな姐さんにも ご指名が殺到。
この経済効果を 商人たちが見逃すわけはなく…。
いらっしゃいませ! こちらにお並びください!
お進みください。 さあさあ どうぞ どうぞ。
どうぞ こちらへ。 こちらで 今しばらくお待ちください。
ぜひ 次は うちの娘を お願いできませんでしょうか!
喜んで。 ありがとうございます!
一月で こんなに できるわけねえだろ!
まぁ そう おっしゃらず。
できっかよ! 俺一人しかいねえんだぞ!
そこなんだけど この際 弟子に描かせたら どうだ?
へ? 弟子に あらかた描いてもらって➡
お前が 名だけ入れりゃいいじゃねえか。
…んなの 俺も嫌だし 弟子も嫌がんだろ。
入銀先や客も騙すことになるし。
直すとこだけ直して 手 入れりゃ 立派な歌麿作だ。
その直しを見て 弟子の腕だって上がるもんですよ➡
歌麿先生。
なあ もう 絵だけの話じゃねえんだ。
お前の絵にかかりゃ 店に客が来る。
その店は儲かり 儲かったやつらは また金を使う。
そうやって グルグル グルグル 金が回りだしてんだ。
お前の絵は 江戸の不景気を ひっくり返し始めてんだ。
そんな時の ちょっとした方便ぐれえ➡
許されんだろ。
(北尾重政) まぁ うちにも よその本屋から➡
看板娘の絵 描いてくれって言ってきたよ。
よその本屋から? うん。
おめえさんとこにゃ来ねえかい? うちには来ませんねぇ。
ああ 蔦重が がっちり囲ってるから 行っても無駄だって思われてんのかねぇ。
とにかくさ この手はいけるって踏んだ 本屋も商人たちも➡
後追いし始めてんだよ。
蔦重の言うとおり こりゃあ でけえ波になるよ。
重政先生は てめえの名で 弟子に描かせたりします?
見込みのありそうな人たちには➡
早いうちから 自分の名で描かせてましたよね?
ああ… あのころは 仕事が山のようにあったからな。
今は 地本の点数そのものも 減っちまってるし➡
弟子に手伝ってもらうことも多いよ。
あいつらも喜ぶし。
俺が身勝手なんですよねぇ きっと…。
ん?
俺は 一点一点 ちゃんと心を込めて描きてえし➡
蔦重…➡
本屋にも ちゃんと向き合ってもらいてえ。
けど そうしたいのは 俺だけなんですよねぇ…。
♬~
お~…。
(てい)絵は 旦那様にとっては➡
商いの品なのでしょうが➡
歌さんにとっては 子のようなものなのかもしれませんねぇ。
俺だって そう思ってっけど…➡
あ…!
けど 景気よくなり始めてるとこでさ…!
じっくり作るのは 後からでも…。
おお そこは 何に効くんだ?
…おい 頭 痛えのか?
ご案じなく。 大したことではございませんので。
医者にみせねえと。
ご案じなく。 お医者様からは 大事ないと言われておりますので。
念のため 別の医者に…。 いえ!
恥をかくだけにございますので!
恥? 医者にみせることがか?
旦那様。
決して騒がぬと お約束くださいますか?
…おう。
子が できたのでございます!
…え?
みごもると頭痛を催す女子というのが ございますそうで➡
どうやら それで。
はあ…。
何で 言ってくんねえんだよ!
お仕事の気を散らしてはと。
気なんか散るもんか! 逆に気合いが入るってもんだ!
ですが 少々 恥ずかしくもございまして。
恥ずかしいって何で?
もう 孫がいてもおかしくない年で…。
そうか?
ともかく お口巾着で。
けど そのうち バレねえか?
バレますまでは せめて。
けど…➡
言わねえと 体に無理が くるようなことする羽目んなったりよ。
ご案じなく。 たかには事情を話しておりますし➡
みの吉にも それとなく。 みの吉にも?
はい。
そう。 はい。ふ~ん。
♬~
あのよぉ…。
いや… やっぱ いいや。
私も➡
この子は義母上様の生まれ変わりと 信じております。
おていさんも? はい。 この頭痛は その知らせかと。
きっと 義母上様のような 人懐こく賢い子にございますよ。
おい ババアっこ。
この世にゃあ 山ほど楽しいことあっから➡
元気に 出てこいよ。
フフ…。
(菊麿)え… あっしが 下絵 描いていいんですか?
うん。 やってみとくれ。
しまいにゃ 手を入れるってことも あると思うけど。
お手を煩わせぬよう 先生そっくり目指します!
(足音)
先生。
(西村屋与八)西村屋でございます。
「雛形若葉」の折に 一度 お目にかかりましたかな。
…そうでしたかね?
これ どうぞ 皆様で。
ありがとうございます。
あの… そちらのお方は?
うちの二代目です。 鱗さんの次男で。
万次郎と申します。 以後 お見知りおきを。
今日は 何のご用件で?
先生に うちから 錦絵を出していただけないかと➡
考えておりまして。
「看板娘」の話なら もう手いっぱいで…。
いえ そちらは➡
蔦屋さんとの折り合いも ございましょうから。
実は 万次郎に ぜひ 先生にと 考えておるものがございまして。
私は 蔦重の抱えでして。
ちらりと見るだけでよろしいので。
また こりゃ随分…。
先生とやってみたいことが多すぎまして。
当世美男揃え。
(万次郎)看板娘がありなら➡
市中の男の男ぶりを売るのも ありかと。➡
鳶 火消し 魚河岸。
暦と組み合わせるのも 一興かと。
なるほどなぁ。
白黒錦絵?
錦絵は 色鮮やかさが命でございますが➡
あえて摺を工夫し その濃淡だけで 錦絵を作ってみるのも 面白いかと。
さすが 西村屋さんに 教えられただけはありますね。
…全て 先生あってのことにございます。
私 「虫撰」を見た時に➡
胸が震える思いがいたしました。
いずれ 先生とやりたいことを➡
こうして 書き留めておったのでございます。
こいつの 初めて出すものとなります。
蔦屋さんとの向き合いもありましょうが➡
どうか!
お手をあげてくだせえ。
二代目 うちも 筋のいい弟子が大勢おりまして➡
いっそ そいつと このようなものを やっていくという道はありませんかい?
先生は これからも➡
蔦屋さんのもとで描くだけで よろしいので?
え…?
(万次郎)私は それが…➡
先生の絵を 狭めてしまうような気がしてなりません。
私も 気になっていることが一つ。
先生ほどの力があれば➡
先生の名が上➡
蔦屋の印が下にくるのが常。➡
この扱い 先生は ご納得されておりますので?➡
騙されているとは申しませんが➡
長いつきあいを いいことに➡
都合よく使われてるとこも あんじゃございませんかねぇ?
西村屋は 錦絵に打ち込んでまいりました。
先生にとっても 決して 悪い話じゃないと思いますよ。
…今日の私があるのは➡
蔦重のおかげですから。
♬~
おていさん! 私がやりますから➡
階段なんか 上らねえでくだせえ。
あっ! やっぱ 下りねえで。
いらっしゃいませ! 旦那様 先生が。
ああ…。
ちょっ… 座ってて。
みの吉。
開運先生! お世話になっております。
今日は いか用たこ用で?
(せきばらい) あ~…➡
実は 相学仲間が 蔦屋さんに会いたいと…。
然様にございますか。
「婦人相学十躰」。
いいですね。
ありがとうございます。
では どうぞ 奥へ。
ああ。
⚟(鳥の鳴き声)
越中守様! 今までの数々のご無礼➡
何卒 お許しいただきたく!
実は 上様にお叱りをこうむりまして。
この国の守りを 心より考えておるのは 越中守ばかりではないかと!
なんと… あの上様が…。
これよりは 越中守様の考えに従い➡
正しき世を作っていきたく存じます!
⚟(鳥の鳴き声)
面を上げよ!
私も 手が足りず難儀しておったところだ。
昔のように手伝ってくれれば助かる。
(一同)はっ!
では 早速でございますが…➡
こちら ご存じでしょうか?
市中で流行っておるらしいな。
これは 恐ろしきものにございます。➡
この娘のいれた茶は 1杯100文。➡
この娘の手渡す煎餅は 1枚120文。➡
この芸者会いたさに 吉原では➡
紙花のまき散らしが 始まっておるそうにございます!
それに釣られて 市中の物の値も つり上がってきております!
これは 田沼病が息を吹き返しておると 考えてよろしいかと。
また あの者か…。
♬~
(てい)板を作り直すのでございますか?
うん…。
ここのとこだけな。
「婦女人相十品」…。
画題は なしで?
開運先生のお仲間が 「相学」の文言を使うな➡
「相」の字を書き入れんなって 言ってきてよ。
何故に?
絵の「相」は こっちが いいかげんに つけてるもんで➡
人相見と客の間で いざこざが 起こっちまってるみてえなんだよ。
ついてねえな。
⚟いらっしゃいませ!
(足音)
(鶴屋喜右衛門)蔦屋さん。
鶴屋さん。
どうなさいました?
落ち着いて聞いてください。
へえ。
今後 一枚絵に 女郎以外の女の名を 書き入れちゃならないってお達しが出た!?
へえ。
じゃあ この絵は もう出せないってことかい!?
出すには 出せますが 名は入れられねえってことです。
(りつ)どこの芸者とも分かんないなら こっちの商いに つながんないだろ!
すいません。
(大文字屋市兵衛) けど また 何でなんだい?
どうも その絵のせいで 物の値が上がって それがよろしくねえってことらしいです。
大儲けした輩が贅沢すんのも➡
素人の娘を女郎のように描くのも けしからんと。
豊ひなは 素人ってわけじゃないだろ!
はあ…。 せっかく いい風が吹いてきたのにねぇ。
けど 逆手にとりゃ 素人じゃなきゃいい。
女郎絵なら 名を入れて出せるわけで。
どうでしょう?
ここは ひとつ 女郎の大首絵の揃いもんなんてなぁ。
(扇屋宇右衛門)入銀なしならな。
入銀なし?
悪いが 吉原も ほんと厳しくてな。
昔みてえなわけには いかねえのよ。
誰かさんの借金も ここんとこ 返済が止まっちまってるしねぇ。
けど 女郎絵が当たりゃ 返し始めることができます。
皆様 なんとか乗っていただけませんか?
お願いします!
この際 入銀はなしで絵を作って➡
その分の借金を 返したことにするってなぁねえか?
例えば➡
歌の女郎絵50枚で 百両分ってな具合でよ。
(歌麿)吉原?
ああ。 素人の女の名は 書き入れちゃなんねえが➡
女郎なら構わねえってんで➡
親父様たちに話したら やってくれるってんだ。
待ってよ。 俺 まだ やるとも何とも言ってねえんだけど!
頼む。 もう やるって言っちまったんだよ。
言っちまったって…。
うちは 吉原に借金してんだろ?
身上半減から 返すの待ってもらってて。
けど 吉原も 今 苦しくてよ。
そこで➡
俺の借金 百両を お前の絵50枚で 返すって話に まとまったんだ。
お前の大首絵なら 入銀はなくとも 売り上げで作るかかりは賄えるし➡
うちの儲けは 俺が どれだけ気張れるかってなるが➡
そこは 俺が気張れってことで。
吉原は 手前の持ち出しなく 女郎を売り込めるっていう寸法だ。
いい話だろ?
それ 借金のかたに 俺を売ったってこと?
いや 売ってねえ! 今までどおり お前への礼金は ちゃんと払うから。
けど そんな話 聞いてねえって ありえねえだろ!
ほんとに申し訳ねえ。
けど…➡
いい話だろ?
うちも 吉原も助かる。 お前の名だって 売れ続けるわけだ。
な?
頼む!
ガキも生まれんだ!
…へ?
もう んなことねえと思ってたが➡
ありがてえことに授かってよ。
いろいろ 出すには出したが➡
大きく跳ねたのは 「十躰」と「看板娘」だけだ。
正直なとこ 新たな売れ筋が欲しい。
頼む! お前だけが頼りなんだ!
身重のおていさんに 苦労かけたくねえんだ!
頼む!
頼むよ…。
仕方中橋。
やってやるよ。
ほんとか?
義兄さんの言うことは聞かねえとな。 俺は 義弟だし。
恩に着る。
恩に着るぜ 義兄弟。
フ…。
よいしょ。
はっ…。
おい! どうした?
今…。 ああ。
動いたような!
もう 動き出しやがったか!
この べらぼうめ!
ハハハ!
(万次郎) 次は 己の顔でもお描きになるので?
いや… ちょいと 恋心をね。
蔦屋さんとの次のお仕事ですか?
西村屋さん。
お受けしますよ 仕事。
え?
この揃いものを描き終わったら…➡
もう 蔦重とは終わりにします。
駿河屋兄弟が 吉原を もっぺん あのころに立て直しますんで!
「大老」になるというのか? お前なら できる!
クズどもが… 地獄へ落ちるがよい! ハハハハハハ!
あの日から 20年。
とびきりの夢を見させてもらった。
西村屋と仕事するって ほんとか?
あの店 俺にくれよ。
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