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(鶴屋喜右衛門) ところで これ知ってますか?
(蔦屋重三郎)「心学早染草」…。
お前 こんな面白くされちゃ 皆 真似して➡
どんどん ふんどし担いじまうじゃねえかよ!
(北尾政演)面白くなきゃ どのみち 黄表紙は先細りになっちまうよ!➡
それこそ 春町先生に 嵐みてえな屁 ひられるってもんじゃねえですかね!
何度 言やぁ 分かんだよ!
戯け者はよ ふんどしに抗ってかねえと➡
一つも抗えねえ世に なっちまうんだよ!
蔦重さんとこでは 一切 書かねえっす!
いい度胸だな。
日本橋を敵に回して 書いていけると思うなよ。
(鶴屋) 何を勝手なこと言ってくれたんですか。
すいません。 けど もう言っちまったんで。
これ ありがとうございました。
あの 大和田って どこの本屋なんですか?
上方です。 ああ…。
上方の本屋が 江戸の地本で 名をあげようってことですか。
まぁ そんなところでしょうね。
今や 江戸の方が 商いが大きくなりましたから。
そりゃ 鶴屋さんとしても 面白くねえですよね。
西の出の本屋が 江戸で 幅 利かしてくるってなぁ。
いえ。
うちほどの商いに育つには 50年は かかると思いますんで。
けど 政演 引っこ抜かれるかもしれないですよ。
いえ。 そもそも 京伝先生は 面白ければ どこでも書く人ですし。
…からかってます?
ええ 実に面白いですね。
あの蔦重が かつての己のような輩を 潰そうとするのは。 ハハハ!
だったら 俺にしたのと 同じようにしてくだせえよ!
俺のこと あんな 追い出そうとしてたじゃねえですか。
おや 懐かしい。 いやいや 懐かしいじゃねえですよ!
まぁ 何か 手だてを考えてみますよ。
お願いします。
⚟旦那様 よろしいでしょうか。
おう。
あの… 蔦重さん。
お前 歌んとこの…。
(荒い息)
(喜多川歌麿) おきよは 何の病でしょうか?
ありゃ そう毒だねぇ。
ああ…。
あの 引くまでに どのくれえ かかりますかね?
あの できものの具合だと 難しいかもしれないよ。
…え?
まぁ まだ分からないけどね。
これ 薬。
そう毒とは 今でいう 梅毒のこと。
当時は 治療法もなく➡
独特の長い潜伏期間に入ると➡
一見 治ったようにも見える➡
厄介なものでした。
ありがとうございました。
♬~
おきよ 目 覚めたか?
ん? (きよ)あ… あ…。
蔦重だよ。 お医者様を連れてきてくれたんだ。
蔦重。 世話んなってる人だよ。 ああ~! ああ…!
うう…! 蔦重 ありがとう。
今日は もう帰って。 大事ねえのか?
大事ねえから 帰って!
うう~! おきよ 大丈夫だから!
♬~
♬~
(つよ)そう毒は➡
分別が つかなくなることがあるって 聞くからねぇ。
ああ…。
(みの吉) あの こんな時に言いにくいんですが➡
歌さんに 仕事って頼めんですか?
ああ… そろそろ 富本本の表紙か。 (みの吉)はい。
⚟(北尾重政)蔦重 邪魔するよ。
いらっしゃいませ!いらっしゃいませ! いらっしゃいませ!
重政先生。
政美…。
この本の絵師は 政美さんなのでした。
(重政)すまねえなぁ。 政演と政美が やらかしちまって。
(北尾政美)申し訳ねえです。 大当たりしちまいまして。
先生んとこの弟子は 悪びれねえのばっかだな。
どうも 皆 のびのびしちまってねぇ。
師匠に似るんですかね。
手厳しいね 今日は。
そのかわりってんじゃねえですけど 誰か 新しいやつ紹介してくれません?
富本本 頼めそうな 若いやつ いませんか?
歌も 名があがったし➡
いつまでも やらせるわけにはってことかい?
それも そうですが➡
おきよさんも その… ご病気で。
そうなのか…。 へえ。
誰か いいの いたかね?
…あ 春朗さんとか いかがです?➡
春章先生んとこの! 春朗?あっ あいつな~!
ハハハハハ! どんな絵師なんですか?
え? 唐絵や蘭画にも手出したり 揉め事ばっかり起こしてんだけど➡
まぁ 何すっか 先の読めねえやつ。
ああ 重政先生に 読めねえって言わせんのは いいですね。
春章さんも喜ぶと思うぜ。 蔦屋の富本本は 縁起がいいから。
え?
あれやると 売れるじゃない。
政演も歌も みんな そっからだろ。
ここんとこ 仕事減って➡
弟子に回せるもんが欲しいとも こぼしてたし。
芝居町も そりゃ そうか…。
どうなっちまうのかねぇ これから。
♬~
それから程なくして 市中では➡
悪玉提灯を手に 暴れ回る若者が あふれ出しました。
倹約による不景気から 町の治安は乱れ➡
それは 越中守様の政が原因と 囁かれましたが…。
(松平定信)かようなことは はなから見越していた。
私としては むしろ 望んでおった流れだ。
これは 不景気により➡
田沼病におかされた者たちが あぶり出されてきたということ。
故に ここで ひとつ➡
そやつらを放り込み 療治する 寄場を作ることとしたい。
(長谷川平蔵宣以)その者らを治す…。
そこにて そやつらを 世の役に立つ「真人間」に鍛え直し➡
元百姓なら田畑に帰し➡
町人なら 鉱山など 人の足りぬところで働かせ➡
あるべき世の一歩とするのだ。
それは 素晴らしきお考え…。
それを そなたに任せたく思うておる。
え? ⚟(いななき)
お… 恐れながら➡
それは 火付盗賊改方のお役目では…。
市中の事情に通じ ならず者たちの扱いにも長け➡
この役に 最も適しておるのは そなたと考えた。
嘘です。 面倒くさそうなので 誰も手を挙げなかったのです。
…まこと 光栄の至り。
しかしながら➡
それがしには 力不足なお役目…。
確か 町奉行は➡
そなたの父も 成りえなかった役目であるな。➡
悲願であったとも聞く。
見事 寄場を作り上げれば➡
考えぬでもないが。
⚟(いななき)
♬~
ほんとのとこ どんな様子なんだ?
案じないでくれとは よこしてっけど…。
とにかく 先生は ずっと おきよさんの絵を描いてますよ。
そうしてりゃ 癇癪は起こさねえんで。
何で 絵 描いてやりゃ 落ち着くんだ?
自分のことだけを見ててくれれば 嬉しいんじゃないのかい?
惚れた男がさ。
ああ… 見ててくれるか。
いらっしゃいませ!
あれが 主か? はい。
ありゃ 何です?
町方掛の手の者だよ。
市中を見張るために 新たに設けられた役目だ。
どうせなら もっと いい男なら よかったのにねぇ。
そういう話じゃねえだろ ババア。
蔦屋さん。 いらっしゃいませ。いらっしゃいませ。
鶴屋さん。 そろそろ。
はい。
歌には 言いにくいこともあるだろうから 何かあったら いつでも言いに来いよ。
じゃあ 行ってくらぁ。
行ってらっしゃいませ 旦那様。
くれぐれも 短気は起こさないでくださいよ。
分かってまさ。
⚟京伝先生 いらっしゃいました。
通しとくれ。
ヘヘヘ! 鶴屋さん どうも。 どうぞ。
まぁ まぁ まぁ 京伝先生。
ちょいと 聞いてないですよ! 座ってくださいよ。
今日は 蔦屋さんも 怒らないって言ってますんで。
この度は ご婚礼おめでとうございます。 京伝先生。
これは 私と蔦屋さんからです。
実は この年➡
政演さんは 年季の明けた菊園さんと 所帯を持つことになりました。
散々 遊ばせてやったのだから 一人くらいはと➡
扇屋さんに 年貢を納めさせられたのです。
ありがとうごぜえます。
どうですか? 所帯を持つと 何かと入り用でしょう。
家賃に米 酒 着物に調度。 いろいろ かかるもんですねぇ。
でしょう。
で 私と蔦屋さんで相談したんです。
これからは 先生に 年30両 決まってお支払いしようと。
年 30両!? ええ。 作料とは別に。
まぁ 私たちの仕事を いの一番に やっていただくことにはなりますが。
あの…➡
それ 鶴屋さんだけでって話には できねえですかね? ヘヘ…。
こないだのことなら悪かったよ。
怒らないで! 謝ってるだけじゃねえですか!
京伝先生も そこまで 嫌がることないんじゃないですか?
俺… モテてえから 絵やら戯作やら始めたんですよ。
ありがてえことに向いてて 向いてることすんのは楽しくて➡
面白え人たちに囲まれて➡
ヘヘッ 何よりモテて➡
ヘヘヘ! どこ行っても モテて。
あ~ ほんと楽しかった。
蔦重さんの言うことも分かんですよ。
春町先生のことだって大好きだったし!
けど 正直なとこ➡
世に抗うとか 柄じゃねえってえか…。
俺ゃ ずっと ふらふら生きていてえんですよ。
浮雲みてえに。 ヘヘヘヘ!
あのよ➡
遊ぶな 働け 戯けるなって中で➡
どうやったら 浮雲みてえに生きてくっつうんだよ?
俺一人 雲一個くれえ なんとかなんじゃねえですかねぇ?
てめえだけ よきゃ それでいいのかよ!
蔦屋さん!
てめえが その生き方できたのは➡
先に その道を 生きてきたやつがいるから➡
周りが許してくれたからだろうが!
な? 今こそ てめえが ふんばる番じゃねえのかよ!
しくじったのは 蔦重さんじゃねえですか!
これ以上 俺に のっけねえでくだせえよ!
(床をたたく音)
はい 今日は ここまで。
⚟旦那様! 旦那様! 失礼いたします! ⚟旦那様! 旦那様…!
何ですか? 2人して。 今…➡
今 店の方に…。 奉行所から呼び出しが!
(重三郎 鶴屋)奉行所?
黄表紙 浮世絵なぞ そもそも贅沢品。
よからぬ考えを刷り込み 風紀を乱す元凶である。
ならば 初めから そんなものは出さねばよいのだ。
越中守様の出した お触れは➡
後の世で 「出版統制」とも呼ばれ➡
戯作や浮世絵に 初めて規制がかかるという➡
江戸の地本にとって➡
大きな危機となりました。
今後 一切 新しい本を仕立ててはならぬ?
そして その文面から➡
蔦重が出した黄表紙が 取締りのきっかけとなったのは➡
明らかでした。
さて… どうしますかね。
♬~
俺のおっかさんは いっつも 男の方ばっか見ててさ。
けど 酔い潰れて 世話してる時だけは➡
こっち 見てくれっから…➡
世話すんのは 嫌いじゃなくてさ。
こっち向いてもらえると 嬉しいから?
そうそう。 ガキってのは どんな親でも親が好…。
私も そんな子だった。 歌さん。
♬~
いかねえで おきよさん…。
お願えだから…。
♬~
俺には おきよさんしかいねえの…。
♬~
置いてかねえで…。
ずっと 見てっから…。
♬~
そのころ 蔦重と鶴屋さんは➡
江戸の地本に関わる者たちを 集めておりました。
本屋 板木屋 摺師。
戯作者 絵師 狂歌師。
お久しぶりの こんな方々も。
申し訳ございません!
此度の触れは 間違いなく 私のしくじりが きっかけ。
まことに 申し訳ございませんでした!
(松村屋弥兵衛)どうすんだよ これ!
新しい本や絵は作っちゃならねえって!
(四五六)これから 摺り直しだけしか 作らねえってことかい?
これから どうやって食ってけってんだい!
申し訳ございません! (西村屋与八)謝られたって困んだよ。
一体 どう 落とし前つけてくれるってんだい?➡
べらぼうが! ったく!
申し訳ございません。 (苦情の声)
(手をたたく音) (鶴屋)お静かに!
何か 手は考えてるんですか? 蔦屋さん。
へえ。
ここは ひとつ お上に 触れを変えさせようと考えております。
(一同)はあ? (村田屋治郎兵衛)触れを変えさせる?
へえ。 (鱗形屋孫兵衛)お上に➡
やっぱり 新しく作ってもいいぜって 言わせるってことか?
そうです。 できるわけねえだろ! べらぼうが!
そりゃ いくら何でも無理だろ! (奥村屋源六)あ~ 無理無理!
(芝 全交) そんなことが できるんですかねぇ。
それは さすがに…。
(騒ぐ声)
お静かに。
皆様 いま一度 触れを見ていただけますか?
ええ? はあ…。
新規の仕立ては無用➡
けど どうしても作りたい場合は 指図を受けろってのが あんでしょ?
ああ。 うん…。
だったら 江戸中の地本問屋が 指図を受けに行きゃ どうかと。
はあ? え?
山のように草稿を抱えて。
おい…。
んなの たまんねえでしょう!
音 上げて 指図は受けずともいいって なんねえかって。
けど それじゃ 指図もクソもなく➡
一切 出すなってことには なんねえのかい?
そうだよ! そうなるよ!
まぁ うまく 話を持っていかなきゃなんねえですが…。
その前に 持ってくもんってなぁ どうすんだよ?
山のような草稿なんて どこにあるってんだ!
そうだ! そこは…➡
皆様で急ぎ作っていただく… とか。
はあ?(西村屋)ふざけてんじゃないよ べらぼうが!
もちろん 私も作ります。
山のような草稿って 一体 いつまでに必要なんで?
できれば 一月で。
一月!? 一月で出来るわけねえだろ べらぼうが!
そんな早く書けるやつ いるわけねえだろう!
そうだ!そこを なんとか 皆様の力を お貸しくだせえ!
帰るぞ! 帰ろう 帰ろう! お願いします!
(勝川春章)んじゃ 助太刀に行きますか。 え?
潰れちまうからねぇ 勝川一門も 北尾一派も。
(宿屋飯盛)お弟子さん 山ほど いらっしゃいますもんね。
フフフ。 お世話んなってます!
そうそう 弟子が 世に出られなくなっちまうからね。
お願いします! 皆様の力を お貸しくだせえ!
お願いします!
おう ちょいと失礼するよ。 よっ。
へえ…。 俺たち 役に立てっかな?
もちろん。
ありがた山にごぜえます!
それにしても べらぼうな案だねぇ。 でも 草稿 持ってって➡
奉行所を困らせるなんて 面白そうですよね。
あいつらを困らせるには やっぱり数か?
それとも 絶妙な具合で 同心たちを うがってみるとか?
分からないようにってのは 腕が鳴りますねぇ。
しばりがある方が面白いもの書けますし。 絵をつける甲斐もあるってもんですね!
回想 てめえが その生き方できたのは➡
先に その道を 生きてきたやつがいるから。
今こそ てめえが ふんばる番じゃねえのかよ!
しくじったのは 蔦重さんじゃねえですか!
蔦重さん!
俺 戻って 草稿 書いてきますね。
いっそ そのまま出せるもん 頼むぜ。
京伝先生。
はい!
まぁ 京伝先生も やるって おっしゃってくれているわけですし。
よし 蔦重。
また 面白え案思 考えようぜ。
へえ! うん。
大幅に変えれば 5冊出来ると思うんです。 そりゃ よかった!
かくして 地本問屋たちは➡
奉行所に指図を受けるための 草稿をかき集め 作成し…。
(鶴屋)この春 10点ほど新しく出したく存じます。
ぜひ お指図を頂きたく。
お指図を。
お願いいたします。
やってられるか!
♬~(三味線)
更に 蔦重は こちらの方への根回しも抜かりなく…。
断っておくが 賂代わりのもてなしなら 受け取ることはできぬぞ。
越中守様からお引き立てを受け 「人足寄場」を任され➡
お役目 大変にございましょう。
手前どもとしては 長谷川様を お慰めしたいだけで。
ねえ?
さあ!
♬~
やはり 吉原はよいのう。 へえ! さあさあさあ。
⚟(駿河屋市右衛門)重三郎 いいか?
へえ。
(はま)お初に お目にかかります。
二文字屋の女将 はまと申します。
(きく)先代の きくと申します。
長谷川様…。
どうぞ➡
お納めくださいまし。
何の金だ? 賂なら受け取れぬぞ!
賂ではなく ご返金にございます。
返金? へえ。
長谷川様が騙されてくださったおかげで➡
河岸は 食いつなぐことができました。
私も 今日この日を迎えられております。
俺が いつ騙されたのだ?
花の井のために入銀した 50両。
ありゃ そのまま 河岸に流して➡
米 買いました。
え? えっ?
だから 花の井の 花の絵は なかったのか!
ええ。 まぁ 情に厚い花魁でしたから➡
河岸を捨てておけなかったんでしょう。
どうか お許しを。
そうだったのか…。
花の井➡
さすが 俺の金蔵を空にした女だぜ。
で…。
こちら。
利息にございます。
人足寄場は 年たったの5百両➡
足りないかかりは 長谷川様の工面。
金繰りが大変だと お聞きしました。
利息は これしきか。
(せきばらい)
冗談だ 冗談!
(駿河屋)長谷川様。
どうか もう一度 吉原を 救ってくださいませんでしょうか?
今 倹約と悪所潰しで 河岸は 大変なことになってます。➡
加えて 黄表紙 錦絵 細見も だめになるって話もあります。
そうなりゃ 吉原は もう…!
いや 賂は受け取れんのだ!
人足寄場は 悪党とならざるをえなかった者たちを➡
救う役目もあると聞いております。
どうか 身を売るよりほかならぬ女郎たちも➡
お救いくださいまし。
…分かった! 分かった!
何をすればよいのだ?
へえ。 越中守様から ある言葉を 引き出していただきたいのでございます。
ある言葉?
(定信)寄場は うまく進んでおるようだな。
はっ。
ところで お耳には入っておりまするか? 奉行所の件の方は。
市中の本屋どもが やたらと 奉行所の指図を仰ぎに来ておる件か。
(平蔵)さすが お耳が早い。
おおかた こちらに音を上げさせ 触れを緩めさせようという➡
本屋どもの浅知恵であろう。
(平蔵) なるほど ご慧眼にございますな。➡
いかがなさるおつもりにございますか?
指図を受けられる数を 限ろうと思うておる。
一店につき 年1点までと。
さすがのお考えにございます。
本など 上方に任せればよいと それがしも考えます。
上方? どういうことだ?
実は 今 上方の本屋が 江戸に店を出してきておるようで。
江戸で新しき本が出せぬとなれば➡
上方が待ってましたとばかり 黄表紙も錦絵も作るようになる。
黄表紙と錦絵は江戸の誇り 渡してなるものか!
…と 躍起になっておるようです。
まぁ くだらぬ町方の 意地の張り合いにございますよ。
くだらなくなどなかろう!
江戸が 上方に劣るなど 将軍家の威信に関わる!
然様なこととなりまするか? 然様なことも分からぬのか!
ご容赦を!
どうにも 私は浅知恵で…。
しかしながら では どうすれば➡
ご威信を守ることができましょうか?
そうだな 例えば➡
書物と同じように…。
(西村屋) じゃあ 奉行所から➡
ねらったとおりのお達しが 出たってことかい?
へえ。 地本も 書物のごとき株仲間を作り➡
その内に行事を立て 改めを行い➡
行事の差配で 触れに触らぬ本を 出すこととせよと➡
内々に命じられました。
おお~! (笑い声)
皆様 ありがた山にございます! いやいや よかった。
株仲間か。
で 仲間に入れる店は どうすんだい?
ああ… 入りたいとおっしゃる方がいれば 誰でもと➡
話してはいんですが。
大和田ってのは どうすんだい?
昔のおめえさんみてえなのが いんだろ?
(笑い声)
初めまして 大和田安兵衛と申します。
早速ですが こちらの黄表紙➡
私どもに ひと言もなく お出しになられたことは➡
正直 あまり いい気は いたしませんでした。➡
江戸の地本の流儀にも反することです。
(大和田)えろう すんません。
しかしながら 出来はお見事。
故に こちらとしては 今後 黄表紙をもり立てていくためにも➡
ぜひ 仲間に加わっていただけないかと 考えております。
(大和田)そりゃあ おおきにさんですが…。
い… いいんですか? それで。
そもそも 黄表紙ってなぁ 節操もねえ。
昔話や幽霊譚 廓話 言い伝え。
面白えもんを 何でもかんでも 心のままに 放り込む。
だから 皆 夢中になった。
読む方も 作る方も。
こんな ご趣向を出される方を はじくなんて➡
春町先生に 草葉の陰から 嵐みたいな屁 ひられるとこだった。
言ってくれて ありがた山だ。
蔦重さん…。
(大和田)その~…➡
うちは もう 黄表紙を出すつもりは ないんでございますが…。
(政演)そ… そうなんですか!?
まぁ ちょいと やってみたろっちゅうだけで➡
改めやら何やら これから面倒になりそうですし。
いいんですか? 板元をやらないと儲からないですよ。
そのかわり 少しばかり➡
安う仕入れをさせてもらえまへんやろか? 仕入れ?
今 大坂では 黄表紙が流行ってきだしてまして。
(鶴屋)偽板も 随分 出回ってるっていう話ですよね。
そこも!
本物が手に入りやすうなったら 元が取れんようになって➡
偽板も静まると思うんです。➡
どうでっしゃろ?
うちを 大坂の江戸地本の 売り広めの店としていただくってのは。
♬~
(てい)では 政演さんは➡
うちと鶴屋さんの抱えで 落ち着いたのでございますか?
ああ。 「善玉悪玉」の続きは うちでやることにもなった。
まことですか!
何だよ その嬉しそうな顔は。 だって 面白えじゃねえですか あれ。
ああ。
だよな。 つまるとこ➡
面白えもんを作るのを諦めねえってことが 黄表紙の灯を守ることだ。
私も そう思います。
実は もう一つ 考えてることがあって➡
書物問屋の株を買おうと思ってんです。
書物の株?
書物の株がありゃ 諸国からの買い付けだけに頼らず➡
書物の流れを使って 地本を どんどん流すことができる。
江戸の外では 黄表紙や狂歌に 火がついてきてるみてえだし➡
よそのお国 異国にも 黄表紙の灯を 灯して回ろうってえか。
異国? それは 春町先生も どれほど お喜びになられるか!
だろ?
まぁ べらぼうな夫婦だねぇ。 はい。
(足音)
⚟旦那様。
おう。
蔦重さん…。
どうした?
♬~
(虫の羽音)
(足音)
⚟歌 入るぞ。
♬~
大変だったな…。
気持ちは痛えほど分かっけど➡
旅立たせてやんねえか?
おきよさん 成仏できねえよ。
まだ 生きてっから。
人の顔って よくよく見てると 毎日 変わんだ。
一日として 同じ日はねえんだよ。
おきよは まだ変わってっから➡
生きてる。
脈がねえんだから 生きてねえんだよ…。
ん?
ああ…。
何やってんだよ!
こうしたら 一緒に行けるって おきよが…。
やめろ!
なあ! おい! 仏さん運べ!
早く!
やめろ… おい! やめろ! やめろって!
おい! おきよは まだ生きてんだよ!
おい! おきよは まだ そこにいんだよ!
おい! やめ…!
やめろ! おきよ! やめろ!
お前は 鬼の子なんだ!
生き残って 命 描くんだ。
それが 俺たちの天命なんだよ。
う… うう… うう… ううう…。
うう~…。
歌!
うう! ううう…! うう!
うう! ううっ!
うう~! うう~! うう~…!
うう…。 うう~!
「白河の清きに魚住みかねて」。
身上半減の蔦屋。
身上。 半減!身上半減。
蔦重に 書けって!
歌に 自分の気持ちを 分かってほしいだけだろ?
ほんと そういうところですよ!
儒の道に損なわぬ お裁きを!
火付盗賊改方 長谷川平蔵である!
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