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(徳川家治)よいか…➡
天は 天の名を騙る おごりを許さぬ!
上様!
十代将軍 家治公 薨去。
(田沼意次)老中の職…➡
上様にお返しいたす。
田沼様は 後ろ盾を失い➡
老中を辞職に追い込まれました。
これにより 政局が混乱➡
政は停滞。
そのツケが 江戸の民に回ることになったのです。
(小田新之助)ふく! ふく!➡
俺は…➡
俺は どこの何に向かって怒ればいいのだ!
⚟(騒ぐ声)
どうなってんだ! 新さん もう無理だって!
(長七)お上ってなぁ 何 考えてんだって!
飢え死にしろってのかい! まったくだ!
おかしいだろ! みんな 飢えて死んじまうよ!
(蔦屋重三郎) あの 何かあったんですか?
蔦重。
お救い米をもらいに行ったら 決まりがあったらしいのだ。
一人の働き手で 大勢の者を養ってて➡
かつ 働き手が 病になった場合に限るという。
(長七) だから 俺らはもらえねえってんだよ!
ああ そりゃ 困ってる人からって 話じゃねえですか?
俺らのどこが困ってねえってんだよ! 何だ おめえ!
すみません。 長七。
おめえは 食えるからいいよな! すみません。
帰れ 帰れ! 何 考えてんだ!
お上は ろくに お救い米を出してくれぬし➡
大水のすぐあとは 裕福な商人たちも 助けてくれたのだが➡
今は それも なくなってな。 ああ…。
ありがとうございます。
皆 殺気だっておるのだ。
新さん。
これ。
あと…。
これを。
いや 金だけで。
そう言わず。
おふくと とよ坊が亡くなったのは 俺が米を受け取ったからとも言える。
蔦重を責めておるのではないぞ。
こちらも ありがたかった。
だが 俺は この出来事に きちんと向き合わねばならぬと思うのだ。
じゃあ➡
仕事を たくさんお願いする向きで。
うむ。 ひとつ それで頼む。
ええ。 うん。
(朋誠堂喜三二)今 そんな厳しいのか 長屋暮らしってなぁ。
そうなんでさ。
お上は そこんとこ どう思ってんですかねぇ。
(喜三二)どうだろう まぁ。
(恋川春町) それどころではないのではないか。
田沼様の追罰で。
追罰?
田沼様は 自ら身を引いた形での お役御免だったらしいんだよ。
そこを 御三家が出てきて ああだこうだ言い始めたってさ。
度重なる天変地異 終わらぬ飢饉➡
そして 上様の薨去。
今日の悪しき有様は 皆 田沼が招いたものであろう!
(徳川治貞) お役を退くだけなど 手ぬるい!
(一橋治済)…との仰せでなぁ。
(水野忠友 松平康福)はは~!
老中になってからもらった2万石と 大坂 神田橋のお屋敷も お召し上げ。
ついでに 勘定奉行の松本様もお役御免➡
土山様も お役替え。
田沼様が身を引けば それで終わりと思った一派も➡
泡食ってるって噂だよ。
他人事みてえに言ってますけど お二人は 関係ねえんですか?
俺たちは 直参じゃないし。 よそのお家のことだからな。
(足音)
(大田南畝)蔦重! 蔦重!➡
ああ 蔦重! あれ 俺の… 俺 どうなっておる!?
俺の…? ああ!
あれ… 俺の! 俺の! あ~。
えっと…➡
これですか?
ああ… もう摺ってしまったか!
泡食ってる 田沼様の一派?
蔦重! 実はな 土山様が お役替えされてしまってな➡
今 これが出るのは まずいのだ!
本 引っ込めるよりも あの子 返した方がいいんじゃねえか?
あの子。 あ~ あの子。
土山様に身請けしてもらった。 みほざきですか?
そう みほざき。みほざき。 うん みほざき。
そんな情けないことができるか!
どっちも今更ですよ。
先生が 土山様の贔屓なのは 誰もが知ってることですし。
懲りもせず けしからん! …となるではないか!
南畝先生の反応は 少々 大袈裟ですが➡
田沼派は皆 御三家と一橋様の出方に 身構えておりました。
そこに…。
(水野)主殿頭の代わりの老中を推挙?
新しき西の丸様の世 我らは この者が何よりであると考えておる。
(康福)ご意見 心よりありがたく。
(水野)拝見いたします。
(康福)あっ! んん…!
(水野)…このお方は!
(松平定信) 私にとっては 盗賊同然の主殿。➡
実は 2度ほど 刺し殺そうとしたことがございます。
お… 恐れながら 老中になるには 取り決めがございます。
老中を輩出する家柄であること。
または 奉行職などの要職を…。 (治貞)ほう。
では 田沼は何故 老中となれたのだ?
ひとつ よろしく頼む。
(2人)はは~!
(高岳)あの木綿小僧を老中にですか。
定信様は 初登城の日 我こそは吉宗公の孫であると➡
吉宗公の愛した木綿の着物で 現れるという➡
クセ強めのアピールを行っておりました。
フッ そなたらも皆 木綿の打ち掛けを着させられるぞ。
肩凝りで 子作りどころではなくなろう。
表には 黒ごまむすびの会という一派が 出来たとか。
大奥でも 次を見越し➡
西の丸様の乳母であった大崎に ごまをするような者が増えておると聞く。
そなたにとっても これは厄介な話であろう。
ハハハ! 大奥では 黒ごまは むすぶものではなく するものか。
これぞ まさに 黒いごますりじゃな!
このままでは 西の丸様を擁した 御三家と一橋様の天下。➡
我らは どうなるか 分からぬのではないか。
では まず➡
「大奥が承服しないので➡
田沼様を戻してほしい」とするのは いかがでしょう?
大奥が 越中を老中に迎えるなら 主殿の謹慎を解いてほしい?
はっ! 詳しくは この者より。
実は ほかならぬ 種姫様が 此度のことを案じておられるそうで。
何を案じることがあるのだ。
ただいま 市中では 米の値が上がり 民の不満が たまっております。
かような折に 世の期待を一身に背負われ 老中となりながら➡
万が一 しくじりをおかしては➡
越中守様に 傷がつくことになるのではないかと。
然様な折の生贄として あえて 主殿を復帰させておけと➡
そういうことかと。
ふ~ん。
かくして➡
田沼様は 再び登城を許されました。
♬~
♬~
召し上がってください。 ありがとうごぜえます。
ありがとうございます。
俺にもくれ。
新さん こりゃあ…。
お救い米が出たのだ。 ほんとですか!
しかも此度は 困っている者は 分け隔てなくということでな。
そりゃ めでてえ!
んじゃ 私からも 皆様に 新年のお祝いです。
来たぞ 何か。 何だ 何だ?
おおっ!
酒だ!
米だ!
蔦重 こんなに!
一人一杯飯一膳ぐらいにしかなんねえけど 皆で楽しんでくだせえ。
ありがてえよ! ありがたいねぇ!
どうにも かたじけない!
かたじけ茄子は花までよし。
やはり 田沼様ってなぁ 頼りになりますね。
田沼? へえ。
(長七)何 言ってんだ? 田沼のどこが頼りになるってんだ!
(ナベ)そうだよ。 米を買えなくしたのは あいつじゃないか!
けど 田沼様が謹慎の間には 出なかった米が 解けたら出たってなぁ➡
田沼様が 米を 出してくれたってことじゃねえですか?
お前 田沼の犬か?
(米次)俺ゃ 前から気になってたんだけど 蔦屋っていや 書いてんのは➡
田沼の金で じゃぶじゃぶ遊んでたやつらだよな。
そういうお方もおられますが 皆が皆じゃねえですよ。
けど てめえは 田沼の世で うまくやったクチだよな。
そう いじめねえでくだせえよ。 (みの吉)んじゃ この酒 飲むなよ。➡
うちの商いに文句あんなら この酒 飲むのは おかしいだろ!
てめえ! おい 長七! 長七 やめろ!
蔦重は 俺にも仕事をくれておる!
田沼の一派ではない者も 確かにおるのだ!
ここは俺に免じて 頼む。
…まぁ 新さんが言うならよ。
新さん ありがた山です。
ったく お前よぉ…。
だって 言ってることと やってること チグハグじゃねえですか!
そうだけどよ。
(新之助)蔦重。 へえ。
もう ここには来るな。
え? 仕事のことなら 俺の方から訪ねるゆえ。
そもそも ここは 大店の主が来るようなところではないし。
俺ゃ もとは身よりもねえ吉原育ちですよ。
そうだな。
吉原と そこに落ちてくる田沼の金で 財を成した。
ひょっとすると 田沼の世で 一番成り上がった男かもしれぬ。
だから ここへは来ぬ方がよい。
⚟(三浦庄司)ああ これは。
入ります。
三浦様! (三浦)ハハハ!
おい 何だ これは!➡
艶二郎が大暴れではないか!
ヘヘッ 艶二郎が あまりにも評判なもんで 洒落本も出してみたんです。
早う読んでみたかったのだ。
いろいろあって なかなか出られずでなぁ。
(てい)今年出したものは 全て お買い上げいただきました。
まこと ありがた山にございます! (三浦)こちらこそ。
あの 田沼様は また お城に上がれるようになったんですよね。
まぁ 前とは違い 雁の間詰めの一大名だがな。
日々 政に励んでおられるぞ。
雁の間詰めとは 政に関われるお立場なのですか?
いや。 しかし 雁の間は➡
ご老中様方のお通り道に あたっておってな。
(せきばらい)
ご老中様方 ひと言 よろしうございますか?
(康福)何じゃ?
(三浦)通りかかる ご老中様方へ➡
「進言」という形で 策を申し上げておられるのよ。
このところ お救い米が出たのは 田沼様が戻られたからですよね。
殿は今 米を どこから手配するか 金繰りは どうするか➡
もう 朝から晩まで そればかり考えておいでじゃ。
それ まったく伝わってねえと思うんでさ。 え?
田沼様が 米を行き渡らせるべく つとめられてるってことが。
むしろ 米屋や札差と組んで 大儲けしてるって思われてて。
とにかく 世の悪いことは 全て 田沼様のせいにされちまってます。
…あ では ひとつ➡
黄表紙でも作ってくれぬか? え?
殿の奮闘を世に知らしめるような。
けど ご政道について描くと お咎めを受ける定ですよね?
そのくらい目溢しできるように 殿も計らえるのではないかな。
その 進言とやらで?
まぁ 実のところ 裏の老中首座ゆえなぁ。
裏の老中首座?
ああ… ハハハ 今のは。
あ…。 ハハ… 今のは。
おていさん。
ああ そうそう そうそう。
♬~(謡)
♬~
(宗睦)万石以上の買米をしたり お救い米を出させたり➡
ここのところ 進言という形で 政を指図しておる者がおるらしいの。
ふん…。
裏の老中首座とか 言われておるらしいではないか。
(宗睦)ところで 我らが出した 意見書への返事が まだのようだが。
もう三月じゃ。
♬~
…ああ!
失念しておりました。➡
近いうち 確かめておきまする。
一橋殿 そなたは 次の将軍のお父上となられるが➡
その際 果たすべき役目を 何と心得る?
越中守が老中として腕を振るえる お膳立てをすること➡
…にございますかな。
ほう。
で その第一の役目を 失念されておられたと?
♬~
老中どもに 返事を急ぐよう申しつけよ。
はっ。
♬~
来たか この時が。
はい。
いよいよにございます。
一気に攻め込むぞ。
(康福) 大奥が 此度は 定に背くことはできぬと。
定? 何の定じゃ?
詳しくは この者から。
越中守様は 上様のお子であらせられる 種姫様の兄上➡
故に 西の丸様の兄上様となり➡
将軍家の身内は 老中とはなれぬ 定があったと言いだしまして。
そんな定 あったか?
どうも 九代家重公の御遺言らしく。
ハッ… 家重?
そのような定など なしにすればよい! なしじゃ。
しかし 私どもは 歴代将軍家のお定を 破れる立場ではございませぬ。
わしが破ってよいと言っておるのじゃ。
破れ。
恐れながら 一橋様は どのようなお立場で?
西の丸の 次の将軍の父じゃ。
それは その…。
一橋殿。 残念ながら それは 公に命を下せる立場ではないのだ。
しかし…。 見苦しい!
♬~
なるほどのう。
これは そなたが描いた絵か。
(意次)滅相もないことにございまする。
今や それがし 3万7千石の 雁の間に詰める小名にございまする。
されど 此度のお話を耳にいたし➡
一つ 策を思いついたのでございます。
何じゃ?
越中守様を 西の丸様の後見にというのは いかがでございましょう?
それは 一橋の立場を なくせということか?
恐れながら…➡
一橋様は 今まで 政に関わったことがございません。
然様なお方を後見となさるのは➡
次の上様 ひいては 徳川の世のためになると➡
中納言様は お思いになりますでしょうか?
もし この考えを お気に召していただけるならば➡
私の方から ご老中方に 進言するぐらいはできまするが…。
田沼様は 一橋様と御三家の連携を切り崩し…。
幕閣の多くが田沼派という状況を うまく使うことにしたのです。
私から ご推挙申し上げたく。
「権大納言 源朝臣家斉➡
正二位行権大納言 藤原朝臣家孝」。
そして 四月 家斉公が十一代将軍となり…。
「よろしく征夷大将軍たるべし てえり。➡
天明七年三月六日」。
田沼様は 越中守様が座る座を塞ぐように➡
田沼派の新しい老中を立て➡
新将軍の周囲を➡
がっちりと 田沼派で固めることに成功したのです。
(大崎)この一連➡
そもそも あの女狐の浅知恵で始まったものかと。
なるほどのう。
かしこまりました。
それから一つ 面白きお話が。
(みの吉) 今日 百文四合になったんですって!
ああ… 大坂で 米の値が とんでもなく上がっちまったんだよ。
米の値は 大坂が元だから。
百文四合なんて買えやしませんよ!
今 手だてをしておるゆえ しばし待て!
このままじゃ死ぬしかござんせん! 米屋を取り締まってください!
お救い米を手配しておるゆえ しばし待て!
しばしって いつになったら出るのですか?
新さん?
おい! 大坂で打ちこわしが起こったって!
打ちこわし? 打ちこわし!?
そりゃ ただごとじゃねえな…。 打ちこわしだ!
や~!
五月十二日 大坂で打ちこわしが発生。
このままでは 打ちこわしの波は 江戸まで襲ってまいりまする。
徳川の民のために お慈悲を頂けませぬでしょうか。
♬~
もし お聞き届けくださりますれば➡
上様のご後見に ご推挙申し上げる 所存にございまする。
…後見?
後見ともなれば 上様が ご成年になられるまで➡
越中守様のお考えは そのまま 上様のお考えということに。
恐れ多い物言いだが➡
数年間は そなたが上様 天下に号令できるということだ。
越中守様 徳川御一門のお考え➡
奉行 老中から上がってくる 策とを合わせ➡
最善の政を探るという形で 考えておりまする。
これぞ まさしく 神君家康公が目指された 政のあり方ではございますまいか。
米は送ってやる。
ただし 後見に関わる話は預からせてもらう。
(定信)そなたには 何度 煮え湯を飲まされたかしれぬ。
此度こそは甘言ではないという 証しはない。
悪いが➡
私も もう小僧ではないのでな。
しかし それでは 米の送り損とはなりますまいか?
江戸での打ちこわしは 徳川の威信に関わる。
一族の血を受け継ぐ者として そこは 助太刀いたすということだ。
そなたには分からぬ考えかもしれぬがな。
かたじけのうございまする。
では。
そなたの心意気は見上げたものだが よいのか?
中納言様。
励めども米は支度できぬ➡
…ということも あるのでございますよ。
打ちこわしは 瞬く間に 全国に広がっていき…。
もう 駿河でも打ちこわしか…。
順調に東海道を下ってきてますよ。
(つよ)市中では 飢えを苦に 身投げする人も出たってよ。
ほんとか!?
何でも 今日は百文三合だってさ!
「飢えたる犬は棒を恐れず」。
恐ろしきこととならねばよいのですが…。
(足音) (三浦)蔦重!
三浦様 どうなさったので?
急ぎ 摺物を頼みたいのだ。
黄表紙ですか?
このようなものだ。
読売?
(次郎兵衛) お上の策を 読売に摺って ばらまくの?
え? 何で?
読売ってなぁ 打ちこわしを煽る話ばかりですんで➡
そこを鎮めてえんですよ。
(小泉忠五郎)けど んなことしたら 読売の方から 文句出やしねえか?
おう。 なあ。
(岩戸屋源八) いくら 田沼様からの話ったって➡
んなこと書いたら しょっぴかれんだろ。
そこは 必ず守ると。
じきに お救い米にあてる米が届くんですが➡
その前に事が起こっちゃ 台なしになっちまうんで。
う~ん…。
(村田屋治郎兵衛)ごめんだね こんな話! けど➡
打ちこわしなんか なんねえ方がいいでしょ?
(松村屋弥兵衛) そりゃ なんねえ方がいいさ!
けど なっちまったら 読売まいた 俺たちは➡
田沼様寄りってことになんだろ! (奥村屋源六)下手すりゃ➡
打ちこわしの的に なっちゃうかもしれねえよ!
だから 打ちこわしになんねえように やるんです。
(松村屋)いや なんねえならいいさ! けど なあ?
(村田屋)だから なったら どうすんだって!
的になっちゃったら…。 だから➡
打ちこわしになんねえように やるんです!
いや なるよ! だから…。なっちゃうよ!
(鶴屋喜右衛門) 田沼様からのお話ということは➡
相当の礼が出るということですよね?
そりゃ まぁ。
(一同)おお~。
では こういう形で いかがでしょう?
摺物を作るまでは こっそり手伝う。
けど まくのは 蔦屋さんの方で 取りしきっていただくということで。
え? え?
さあさあ ご注目!
お救い米が出るぞ!
お救い米?二十日には奉行所で お救い米が出るってさぁ!
二十日に米が出せる! それまで 大豆で食いつないでくれ!
米を出しとくれ! とにかく 二十日まで待ってくれ!
お上はね 二十日に米を出すらしいよ! はい どうぞ! 二十日までの辛抱だよ!
もうすぐ お救い米が出るって。
米が手配できぬ?
越中守様は 今しばし かかるとの 仰せなのだが いかに?
おしまいです! 二十日のお救い米をお待ちください!
お願いします!
もうすぐ お救い米が出るって。
では 市中の米屋に立ち入り 米を押収してはどうか?
田沼様が米を出してくれるみてえだ!
二十日には奉行所で お救い米が出るってさぁ!
田沼様が 米出してくれるよ!
そして…。
おっ 旦那 今日 お救い米 出るんで。
(騒ぐ声)
おっ どうぞ。
米を出せ!
早く米を出しとくれよ! 今日 出るって話だろ!
旦那様 これ…。
今! 米の売り惜しみをしておる米屋に 直に踏み込んでおるゆえ!
ふざけるな! 明日まで! 明日まで待ってくれ!
今日 米が出るはずじゃねえのか!
こちとら もう 米 十日も食ってねえんですよ!
きゃ~!
今日 米 出るはずですよね? ああ。
まずいな こりゃ…。
米がなければ 犬を食え!?
犬を食えとは~!
まことか!?
まことに そんなこと言われたのか!?
あいつ…。
そこのお侍様が。
犬を食え!?言ってはおらぬ! そんなこと言ったのか!
然様なことは言っておらぬ! ふざけんな!ふざけんじゃないよ!
随分と 色艶もおよろしく➡
さぞ 腹いっぱい 飯を食われておるのでございましょう!
けど 俺たちには 犬を捕まえて食えと!
食えと!?
(ふく)お上ってのは 私たちも生きてるとは考えないのかね。
ふざけんじゃねえぞ!
やめろ! やめい! やめい!
やめい!
新さん…。
お上のお考え しかと受け取った!
よし 行くぞ!
みの吉。 はい?
先に戻って 鶴屋さんに 十中八九 打ちこわしになるって伝えろ。
あと 店も しっかり閉めきって。
え? 旦那様…。 頼んだぞ!
はい!
♬~
新さん!
新さん 打ちこわしするつもりじゃ ねえですよね!?
田沼の手先に話せることはないな!
もうすぐで 米が届いて お救い米が出んです!
今日 配られるとあったが!? 何か あったんです!
とにかく 田沼様は米を出す気満々で!
皆さん 待ちさえすりゃいいんです!
打ちこわしなんかすりゃ 皆さん お縄になりますよ!?
引っ込んでろ! 田沼の犬が!
おっかぁは身投げしたんだよ!
米は… 米が出んのに 打ちこわしなんて➡
べらぼうじゃねえですか!
うるせえ!
蔦重。
俺は おふくと坊は 世に殺されたと思うのだ。
世?
(新之助)なぜ おふくは坊は 殺されねばならなかった?➡
米がないからだ!➡
なぜ 米がないのだ? 米を売らぬからだ!➡
なぜ 米を売らぬのだ? 売らぬ方が儲かるからだ!
では なぜ 売らぬ米屋が罰せられぬ?
罰する側が 共に儲けておるからだ!
皆 己の金のことしか考えぬ。
然様な 田沼が作った この世に殺されたのだ!
俺は… 俺たちは➡
それを おかしいと言うことも 許されぬのか?
こんな世は正されるべきだと 声を上げることも!
♬~
我が 心のまま…。
♬~
これも持ってけ!
早く集めろ!
よぉ 新さん!
蔦重! (長七)お前 何しに来やがった!
(米次)まさか 奉行所に 告げ口したんじゃねえだろうな?
告げ口よりも 注いでの口で。
ちと 肴を差し入れに。
(新之助)布?
新さんは 声を上げりゃいいでさ。
我が心のままに➡
我儘に生きていいんだって➡
源内先生も言ってたんだし。
(平賀源内)自らの思いに由ってのみ➡
「我が心のまま」に生きる。
我儘に生きることを 自由に生きるっつうのよ。
これに 思いを書いて➡
幟を作っちゃどうです?
その方が 間違いなく伝わりまさ。
新さんたちが 一体 何に怒ってんのか。
けど 今 布は高えんで➡
タダで渡すわけにはいかねえ。
俺の我儘も聞いてほしいんでさ。
何だ?
誰一人 捕まらねえ 死んだりしねえことです。
皆様…。
お願いします。
(長七)ハハハハ! 善人ぶりやがって!
(笑い声) 俺のために死ぬなってか?
俺ゃ みんなと一緒に笑いてえんでさ!
打ちこわしが終わって 飯 ガツガツ食いながら➡
「長七さん ありゃ いい打ちこわしだったねぇ。➡
誰一人 捕まらなかったし 死ななかったし」。
「いや 蔦重。 一つだけ よくなかったことがあったぜ」。
「何です? そりゃ」。
「見てくれよ この腹。 米食い過ぎで➡
満腹山のポンポコだぬき!」って。
カラッといきてえじゃねえですか 江戸っ子の打ちこわしは。
血生臭え 野暮な斬り合いは お侍さんに任せてねぇ。
…喧嘩だな。
打ちこわしが喧嘩なら 江戸の華で済む。
おっしゃる通りの油町!
(長七)喧嘩って? どういう…。
米を盗んだり 切りつけたりしなければ それは ただの米屋との喧嘩で済む。
大した罪にはならぬということだ。
俺ゃ みんなに言ってくる!あっ 俺も! 俺も!
新さん 思いの丈を ぶつけてくだせえ。
♬~
(新之助)金を視ること勿れ。➡
全ての民を視よ。➡
世を正さんとして➡
我々 打ちこわすべし。
♬~
天明七年五月二十日➡
後の世にいう 天明の打ちこわし➡
江戸にて 勃発。
打ちこわしにございます! 打ちこわしだ!
銀がふる! 銀がふる! 銀がふる!
「お救い銀」が出るってさぁ!
銀がふる! 銀がふる! 銀がふる!
お~い!
米じゃなく…。 金を?
打ちこわしにて 死者が出ましてございまする!
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