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定吉 定吉! きばれ。
<赤面疱瘡。➡
高熱を発し 全身に赤い発疹を生じたのち 数日で死に至る恐ろしい病である。➡
しかも 罹患するのは いかなるわけか 若い男子だけ。➡
いつごろからか はやりだし 定着した この疫病のせいで➡
この国の男は 女の4分の1しか おらぬようになった>
<その極めて偏った男女の数のありようは 労働も子育ても➡
全て 女の手に委ねられる世を つくり出し➡
男たちは ただただ生き長らえること➡
そして 種を付けることだけを 望まれる存在となった。➡
そのような世の頂点に立つ将軍も もちろん女。➡
そして 将軍の世継ぎを 生み育てる場であった大奥は➡
美男3,000人が仕える場となった>
<これは その大奥の 闇に葬り去られた まことの姿>
♬~
<時は 七代将軍 家継公が御世>
(信)行ってまいります。 ⚟行ってらっしゃいませ。
♬~
もう一本!
うん… うん!
悪いなぁ。 いつも差し入れてもらって。
いえいえ。 男子は世の宝。
食わせるのは女の役目でございますから。
ねぇ この間 破れ長屋の女たちに 旦那が種付けして回ったって本当?
何でぇ。 耳が早えな。
旦那くらいよ。 今どき お代ももらわず 種付けして回るなんて。
岡場所で子種付けてもらう 金もねえ人たちだ。
金なんか もらえるかよ。
いくらだって出すっていう 金持ち女とは寝ないくせに。
お武家様の意地ですか。
俺は別に金で買われてるわけじゃない これは人助けだって。
でも お前なら買われたって構わねえぜ。
田嶋屋のお信様。
そんなことしたら おとっつあんも おっかさんも➡
泡吹いて倒れるわ!
ハハハハハッ…。
そりゃそうだ。
田嶋屋のお嬢が 貧乏旗本の息子に 手ぇ出しちまうなんてなぁ。
ハハッ ハハッ。
そういや また縁談断ったって本当か?
あら そっちこそ お耳が早い。
羽振りもよけりゃ 男ぶりもいい。 油問屋の息子だって聞いたぜ。
いい男だったんだけどさ 目がね。 私の好みじゃなかったのよね。
そんな贅沢言ってると そのうち 話も来なくなるぞ。
ご心配頂かずとも すぐにでも婿取りしますよ。
コレって男さえ出てきてくれりゃ。
では また。
ただいま戻りました。 (水野の母)ああ 祐之進。
どうでした 米の値。
ため息しか出ませんよ。 買いたたかれるばかりで。
傘張りも始めなさるので? 皆しておることです。
お扶持だけでは やってはいけませぬからね。
母上。
考えておることがございまして。
♬~
旦那! 水野の旦那!
おー! よ! 田嶋屋のお嬢!
旦那。 大奥に上がるって本当!?
相変わらず 耳が早いな。
ところで どうだ? この頭。 似合ってるか。
似合ってない!
月代も大奥も まったく似合ってない!
そもそも 旦那みたいな人が 大奥で うまくやってけるわけないわよ!
そうかなぁ。 俺 案外 出世する気がしてんだけど。
日の本中から えりすぐりのいい男が 集められてんのよ!
家柄も お金も 学もある!
そいつらが上様のご寵愛を得ようと➡
金魚みたいに着飾って ベタついた戦い 繰り広げてんのよ!
旦那みたいなお人よしの剣術狂い お呼びじゃないに決まってるじゃない!
そう言われても 伯母上に無理言って 算段つけてもらった話だしなぁ。
体を壊したとか何とか 言い訳なんていくらでも。
大奥に入ったら最後➡
死ぬまで戻ってなんて来られない っていうじゃない!
でも 出世したら 表のご老中並みの俸禄で 遊んで暮らせるって話だぜ。
そんなお方は一握り!➡
やめときなさいよ 旦那。➡
柄じゃないわよ。 大奥なんて。
ね。
でもよ 俺ぁ こんなところで 朽ち果てるなんて ごめんなんだよ。
は?
戦もねえ 仕事もねえ。
当節武家の男が出世をしようと思えば 大奥しかねえ。
上様とお子をなし 将軍の父となる。
俺は そんな望みも持っちゃいけねえのか。
考えたことなかったか?
ヘタな嘘ついてんじゃないわよ!
じゃ 達者でな。 幼なじみどの。
旦那がいなくなったって私 婿なんて取らないから。➡
私は 好みの男が現れないから 一緒にならないだけで➡
それは 旦那にゃ これっぽっちも 関わりないことなんですからね!
幸せんなれよー! お信!
尼寺 入っちゃうからねー!
(泣き声)
本日から大奥にご奉公つかまつります 水野祐之進にございます!
(松島)面を上げよ。
そちの伯母 三雲より 子細承っておる。
では まず こちらを。
大奥で見聞きしたる いかなることも 親兄弟はもとより➡
一切口外いたすまじきこと。
たとえ 勤めを終えることがあっても ここでのことを他言すれば➡
首が飛ぶということだ。 一族にも累が及ぶ。
一族。
そこに名と血判を。 はい。
本当に男だらけですね。
ちまたでは 大奥3,000人などと いわれておるようだが➡
まことのところは 800名そこそこ。
その者たちは 大きく2つに分かれる。
あ…。
上様にお目通りを許される 御目見以上➡
お目にかかれぬ御目見以下。
御目見以上と御目見以下。
おおまかには 御目見以上というのは じかに上様にお仕えする者たち➡
御目見以下というのは その者たちの 世話をする下働きと捉えればよい。➡
例えば こちらの呉服の間。
大奥中の衣服を仕立てるのが役目。
(松島)この者たちは 御目見以下。
まきを割っておるものは。
御目見以下! さよう。
その中でも 御半下というて 最下位の下男じゃ。
俺は どんな働きをするんで?
せめて私と言え。
私は どのような働きを。
そなたが入るのは お三の間じゃ。 お三の間。
御目見以下の中では最も位の高い間で 旗本の子息しかつくことのできぬ。
いわば 奥づかえの振り出しじゃ。
ここじゃ。 では せいぜい励めよ。
ここが お三の間…。 よし。
(大声で)おたのもーす!
お三の間 新参者の水野でござる! 何とぞ よしなに!
(笑い声)
何か?
(副島)おい 新入り。
脚を見せてみよ。
脚ですか?
これはいかん! すねの毛は全て そり落とさねばいかんぞ。
すねの毛を!?
当代の上様は 御年7歳。 毛深いのを怖がられてのう。
ゆえに すねの毛は全て そり落とす決まりとなったのじゃ。
さすが大奥。 さようなところまで心遣いを。
そうじゃ。 では これで そり落としてみよ。
え… 今 ここでにございますか?
そうじゃ。 まことにそり落としたかどうか 確かめねばならぬからのう。
なるほど。 では 失礼いたす。
(杉下)やめておけ。 そなた 担がれておるのじゃ。➡
ここでは すねをそってる者など 誰もおらぬ。
(副島)すぐに種明かししては 面白うなかろう。 杉下。
(笑い声)
すまぬすまぬ。 そなたのような ウブな田舎者をからかうのは➡
面白うてのう。 田舎者?
しかし そなた 何じゃ そのどぶねずみ色の着物は!
手元不如意なのは分かるが もう少し どうにかならなかったのか?
それに この頭!
張り切って 月代なぞ。 (笑い声)
ここは大奥ぞ。
おい 何ぬかしやがんでい! このオカチメンコ!
お? 月代ってのはなぁ!
その昔 男たちが戦場で のぼせ上がんねえように➡
髪をそったとこから始まってんだ!
言ってみりゃ 侍の覚悟の証しなんだよ!
いい年して 若衆髷結ってる方が よっぽど薄気味悪いぜ!
大体 若衆って面か! え! 鏡 貸してやろか!?
貴様。 それにな 着物は確かに上等じゃあねえが➡
茶ねずは 江戸っ子が今 争って着る粋な色だぜ!
田舎モンは どっちだって話だい! この野暮天が!
許さぬ。 許さぬぞ! お前!
おう どう許さねえってんだ。 おい。 おい。
いてっ。
大奥では一切の私闘を禁ず。 禁を犯せば 罰される。
覚えておけ 水野。
副島! そなたも もちろん存じておろうな。
私は お三の間10年の古参 杉下と申す。➡
しばらくは 私についてまいれ。
この色 ガキくせえんだけど。
(杉下) お三の間の者は これを着るのが決まりだ。
どこまで行くんですか? 御目見以上の方々のお部屋だ。
そのお部屋の掃除や身の回りのお世話や くみ水運び➡
その一切の雑用が我らの仕事だ。
音一つしねえ。
はええ!
お火の~番!
あい廻りまする~!
♬~
まこと見目だけは極上じゃのう。
何をされるか分からぬか。
お前の尻の穴に丁子油を塗り 女の代わりにするのよ。
驚いたか。 そうであろうのう。 外の世界は 女だらけ。
男と寝るなどとは 考えることもなかろうが。
お…!
己 やりやがったな!
そなた 刃傷沙汰は御法度! 切腹ものぞ!
うるせえ! それなら道連れだ!
お前ら全員 たたっ斬った上で 腹かっさばいてやらぁ!
⚟何事だ~!
(藤波)昨夜 お三の間で 恒例の新入り騒ぎがあったらしい。➡
腹を蹴られ あざを作ったもの 歯を折ったものも出たようじゃ。
その新参というのは 熊のような男なのか。
(柏木)ご興味が?
何じゃ? 気になるのか 柏木。
⚟(松島)藤波様。 少しよろしうございますか?
入れ。
藤波様。 ただいま中奥に➡
お匙が常にはないほどの数出入りしておる という知らせが参りました。
中奥。 では!
上様が。
(松島)こたびは 長患いとなっておる というお話でしたし。
(柏木)御跡を継ぐのは 尾張となるか紀伊となるか。
いずれにせよ 次の上様はご成人。
大奥も 久方ぶりに活気づくことになろうかの…。
(杉下)ここには 女は上様お一人。➡
寵を得られるのは そもそも ほんの一握り。
一歩 城の外に出りゃ 子種が手に入らず困ってる女で➡
あふれかえってるってのにさ。
なんてぇ贅沢な話だって。
使わぬ種を囲い込む この贅沢こそ 上様のご威光ということだ。
我らは 金魚ということですか。
ただ眺めるためだけに 金魚鉢の中で飼われてる。
そなた なぜ ここへ。
お世継ぎの父となるという 野望を抱いてか?
俺 幼なじみがいるんですよ。
これが 誰でも知ってるような大店の娘で。
口は悪いが 気風はいい。
握り飯作るのがうまい とびきりいい女でね。
ところが こいつが 俺がいると いつまでも婿を取らねえ。
(杉下)だが 武家が商家に 婿入りするわけにもいかぬという話か。
おまけに 母も姉も俺に甘くて。
暮らしは追いつかねえ➡
姉が婿を取るための結納金も ためられねえ。
なのに 今どき 道楽でしかねえ 道場通いもさせてくれるんで。
俺は みんなの前からいなくなる。
で 代わりに 仕送りが 入ってくるようになるってのがね。
周りの女を幸せにするために ここに来たと。
そのつもりだったんですけど…。
⚟気に入った!
なんという見上げた心がけか。 今どき かような若者がおるとはな。
大奥総取締の藤波様だ。 え…。
よいよい 両人とも面を上げ。
濁りのない よい目をしておるな。 そなたが噂の水野とやらか。
噂 とは。
お三の間で大立ち回りを演じたと。 やっとうも相当やっておったそうじゃな。
不心得にて申し訳ございませぬ! 今後 二度と。
まぁ そのうち 相手を頼むかもしれぬゆえ その時は お手柔らかにの。
はい!
藤波様も お好きなんですかねえ。
何の相手かは分からぬぞ。 え!
別のお相手かもしれん。ええっ!
(いななき)
(久通)殿~! 殿~!
(吉宗)はっ! (久通)知らせが参りました!➡
徳川将軍! 吉宗公の誕生にございます! 殿~!
はっ!
(いななき)
コレでは お目に留まらぬ!
とにかく派手に 豪華絢爛に仕立てるのじゃ! はっ。
力士の絵をあしらうのでございますか!?
どうやら 相撲が ご趣味であられるらしうての。
蜜柑色をうまく使いたいのじゃ!
蜜柑で紀州家を立て直した お方じゃからの!はっ。
「総触れ」とやらのための裃づくりですか。
そうだ。 ここに ずらーっと御中臈が並んでの。➡
向こうからやって来る上様をお迎えし そこで夜伽の相手を選ばれるのじゃ。
はぁ。 それで皆様 お気に入られるように 趣向を凝らしてるということですか。
そういうことじゃ。
どんなお方なんでしょうねぇ。 新しい上様は。
武芸や相撲を好まれる 豪快で勇ましい大女。
さまざまなお噂が流れておるが…。
コレだけは間違いないであろうと 感じるのは➡
筋金入りの「ケチ」だということじゃ。 ケチ?
自らのお代替わりにもかかわらず➡
畳も替えられぬお方ということであろう。 確かに。
(間部)いかがでしょう 上様。➡
黒の練貫地に 松竹梅の紋様を縫い取った お掻取でございます。
財政ひっ迫の折➡
贅を尽くしたものは不要と 伝えたはずじゃが。
(間部)恐れながら これ以上質素になさっては➡
上様のご威光に関わるかと存じます。
ここは紀州の田舎では ございませぬゆえ。
あい分かった。 ならば致し方あるまい。
お分かり頂き ありがたく存じます。
本日限りで そなたには暇をとらす。
は!? (吉宗)幕府未曽有の財政難儀の折➡
さような理で かような金の使い方をする人間は➡
私には理解しかねる。
理解しかねる者と共に政を進めるなど 私にはできかねる。
お… 恐れながら 上様。 聞こえなんだか?
下がりゃ! は… ははぁ。
初手から うまくおやりになりましたね 信様。
もとい 上様。
渡りに船 渡りにかいとりじゃ。
なれど 今度はどのように。 側用人がいなければ 何かとご不便では。
今後は名を「御用取次」と改め その者を事実上の側用人とする。
私の名代として 表の老中たちとも 大奥とも渡り合ってもらう。
それは大変なお役目で。 (吉宗)何を笑うておる。➡
そなたがやるのじゃぞ 久通。
わ… 私が!? ただし 禄は低いぞ。
私が 渡り合うのでございますか。
(吉宗)不安か? いささか。
この国の行く末を思うて進めばよい。
では 頼んだぞ。
上様! どちらへ。 このあと 大奥総取締 藤波様とお約束が。
案ずるな。 かわやじゃ。 すぐ戻る。
(藤波)上様には急ぎの用が入られた。 (久通)ええ 藤波様。
では せめて見込みで。
初の大奥へのお渡りは いつごろになりそうにございますかな。
(久通)後ほど こちらから お伝え申し上げますゆえ。➡
お言葉をお待ち頂きたく。 加納殿。
はい。 そもそもいらして既に10日!
その間一度も お顔見せがない! それすら 前代未聞なのですぞ!
上様には 一体 何をお考えか!
それは もちろん この国の行く末にございます。
なるほど。 大奥は この国の行く末には関わりがないと。
めっそうもないことにございます。
藤波様には ぜひ この国の行く末を担う お世継ぎの父となるにふさわしい➡
殿御をご差配頂ければと存じます。
♬~
紀州生まれの公方様 ご入城だあ!➡
この公方様 日ごと日ごとに 若え男に囲まれ➡
大奥では 蝶よ花よと贅沢三昧。
♬~
(久通) 上様 もうお昼どきにございますよ。
お着替えになられては。 (吉宗)やることが多くてのう。➡
それに 表に来るのは 女ばかりであるしな。
いかがでした? 江戸の町の厠は。
気付いておったか。 お仕えして長うございますゆえ。
とにかく景気がようない。➡
米の値は下がり 代わって 物の値は上がる一方。➡
武家の暮らしは立ち行かず 職人は仕事にあぶれ。➡
羽振りがよいのは 大店の商人ばかり。➡
にもかかわらず お城では贅沢三昧と➡
公儀には なかなか厳しい目が向けられておる。
それは なんとかせねばなりませぬね。 うむ…。
ところで 藤波はいかがであった?
はい。 我らを軽んじておるのかと お顔に書かれておりました。
軽んじておるつもりはないのじゃがの。
まぁ 一度見てからにするか。
10日後に渡ると知らせてくれ。
それがしを 御中臈にございますか!?
そうじゃ。 あの 何故 いきなり それがしに。
それは まぁ。
♬~
何なりと お申し付け下さいませ。 旦那様。
よして下さいよ。 杉下さん。
そなたの出世に伴って 私も お広の間に移されることになってな。
そなたの部屋子を仰せつかった。
あまり喜んではおらぬようだが。
そういうわけでもねえんですが どうにも不思議で。 何故 俺が急に。
藤波様のお手がついたからではないのか?
違いますよ! 急に呼び出されたと思ったら➡
いきなりですよ。 まぁ 顔ってことじゃないですか?
⚟(垣添)水野様。 藤波様より 裃を急ぎあつらえよと申しつかりました。
大奥のはやりってえのが どうも好みじゃぁねえんだよなぁ。
(垣添)そうおっしゃらずにどうか。 承らないと 私が叱られます。
でもよぉ。 この花鳥風月ぎっちりなんてぇ 死んでも御免。
上様のお手つきともなれば 俸禄も はね上がりましょうがねぇ。
そりゃあそうだ。 そりゃあそうだな。
旦那様は どのような風がお好みで。
う~ん… そりゃ俺ぁ 水野だからよ。
スキッとキリッと 水も滴るいい男 男ぶりも水際立ってといきたいねぇ。
水。
これなど いかがでございましょう?
何だい こりゃ?
(垣添)流水紋といって 水の流れを表した意匠です。
いいねぇ。
これを 背中に大きく流し入れるだけ ってのはどうだ。
大変よろしゅうございますかと!
地は いかがいたしましょうか。
お顔だちからすると 濃い色 藍か緋か。
いっそ 黒はどうだ。
(2人)黒!? そうだ。
遠目から見りゃ 黒一色に見える。
だが 近寄って よくよく見りゃあ 水の流れが施されてるってのはどうだ?
お任せ下さい! 水野の旦那様!
回想 (信)水野の旦那!
柏木殿。 裃が幾分おとなしいの。
藤波様から 初日だけが勝負でないと 諭されてな。
おい あれ。
♬~
柏木殿。 新参ゆえ 勝手が分からず。 それがしは どの辺りに控えれば。
あぁ あちらへ。
かたじけのうござる。
流水紋。
何じゃ あれは。 黒一色とは。
♬~
(鈴の音)
(お錠口)上様のおなーりー!
♬~
待たせたな。 藤波。
一日千秋の思いで お待ち申しておりました。
お運び 心より御礼申し上げまする。
そなたの手引き まことに助かった。
これよりほか 私が留め置くことはないか?
ございませぬ。
そうか。 では。
千両箱がいくつあっても足らんの。
(藤波)は? いや。 美しうて 涙が出てくるぞ。
(藤波)ありがたきお言葉。
お気に召した者には 名をお尋ね下さいませ。
うむ。
(小さい声で)この足さばき。
ん? 足をお取られになられたようですな。
(笑い声)
今 笑うたやつがおるの。
なかなかよい度胸じゃ。 名乗り出よ。
今 笑うたのは誰じゃ!
それがしにございます! 大変なご無礼 申し訳ございませぬ!
面を上げい。 は!
そなた 名は。
水野と申します。
ふん。 なかなか肝が据わっておるではないか。
黒一色の裃も悪くない。
藤波。 は! しかと承りましてございます。
♬~
今宵は そなたの出番じゃ。
えっ!
紅なんかさすのか?
唇ではございません。 お目をお伏せ下さい。
苦しうない。 面を上げよ。
はっ。
何じゃ。
あの お話などしても よろしいのでしょうか。
構わぬ。 何じゃ。
上様は 相当に使われるのですか?
おみ足運びに剣術の心得を感じまして。
しかし 今日は思わぬ伏兵にやられた。 伏兵?
かいどりに足をからめとられた。 やつらは なかなか油断がならぬ。
フフフッ…。
そなたも剣術には親しんでおるのか?
はい。 母が昔かたぎの女子でして。
太平の世 無用の長物なれど 武家の男のたしなみとして➡
剣の腕は磨くべしと。
母御とは話が合いそうじゃ。
そなた 名は何と申す。
水野。 違う 下の名じゃ。
かようなところで 水野 上様というのも味気なかろう。
意外か?
私は 着物や化粧に興味はないが…。
男に興味がないわけではないぞ。
祐之進と。
私の女名は 信じゃ。
♬~
どうかしたか? いえ。
よい 言え。
大したことではございませぬ。
昔 同じ名の知り合いがおったもので 驚いただけにございます…。
ふーん。 まぁ よい。
今日から そなたは私の男じゃ。
♬~
上様。 今朝は ご機嫌がおよろしいようで。
ふふ。 私も女ということよ。
⚟(久通)御免つかまつります! 上様 よろしうございますか。
ちょうどよかった 久通。 藤波に…。 (久通)実は 先ほど➡
藤波様より お話がございまして 大奥のご定法では➡
将軍の初めての 夜伽の相手をいたしました者は➡
ご内証の方と呼ばれ 打ち首になると。
(藤波)よって そなたには死んでもらわねばならぬ。➡
なんとかしてやりたいが これは家光公の御世から受け継がれる➡
大奥のご定法でな どうにもならぬ。
何で そんなご定法が。
(藤波)将軍のお体を傷つけるのは 極めて大罪であるということじゃ。
恐れながら! 上様は御年32。➡
既に 大人の女性であられますかと。
(藤波)しきたりというは そういうことではない 杉下。
(杉下)しかし恐れながら 先々代の 家宣公の御時には さようなことは!
何様のつもりじゃ! 杉下!
藤波様。 俺が そのご内証の方になったってことで➡
何か 一族に累は及びますか。
ない。 それは約束する。
では 何と伝えられましょうか。
ただ 病死と。
ゆえに 手厚い見舞い金が出る。
また 相応の理由をつけ 水野家には禄高の加増もいたす。
承知いたしました。
謹んで ご処分お受けいたします。
水野。 では 仕置きの日まで好きに過ごせ。
♬~
(杉下)上様に申し上げましょう。
まさか 上様が このことを ご存じないはずがあるまい。
そうとは限りませぬかと。
なんとか 上様に渡りをつける…。 どうやって渡りなんか つけるんだよ。
出入りの商人に。 やめてくれ。 心が曇る!
♬~
いいのよ。 俺は そもそも いなくなろうって肚だったんだからさ…。
家に金は入る。 姉上は婿を取れる。
お信も さすがに諦めて 婿を取るだろ。
だから いいのよ これで。
♬~
(柏木)私たちをお守り下さるための 水野の抜てきにございましたか。
まぁ そなたや ほかの中臈が選ばれれば➡
ご内証の話は 持ち出さなかったのじゃがな。は?
大奥など表の政には関わりない たかが閨。
あの田舎者の上様は 心の内で そうつぶやいておるのが わしには分かる。
我らをうかつに扱えば 人の死すら招くことがある。
さすがに それに気付いてもらえると よいのじゃがな…。
♬~
(久通)何度読み返しても ご内証の方のことは➡
ひと言も書かれておりませぬ。
これを盾に 藤波をとがめまするか?
(吉宗)今度は 上様には告げぬがご定法とでも➡
言いだすのではないか? それでは捨て置きますか。
それはそれで いまひとつ面白うないの…。
面紙を。 はっ。
何か言い残すことはないか。
ございませぬ。
そうか では。
(吉宗)そなたは これで死んだ。
上様…!
大奥にいた水野という中臈は ここで死んだ。
♬~
呉服の間で見ませんでしたか?
この者らは ご公儀の御庭番 我らの手のものなのですよ。
(吉宗)薬種問屋の田嶋屋では。➡
信という娘が 生涯 婿は取らぬ➡
無理強いするなら 尼寺へ入ると だだをこね➡
親は往生しておるらしい。➡
ここは ひとつ 婿となり 助けてやってはどうじゃ。
町人 進吉よ。
♬~
かたじけのう まことかたじけのう存じます!
進吉 このご恩は一生忘れませぬ!
大奥で見知ったこと。 決して 口外はならぬぞ。
♬~
(藤波) 水野の仕置きは無事終わられたそうで。
(久通)はい。 つきましては 明後日 八ツ半大奥南の庭に➡
35歳以下の眉目秀麗な男たちを集めよ と上様の仰せにございます。
なんと。
(鈴の音)
上様のおなーりー。
なるほど。 黒の裃か。
心遣い感謝するぞ 藤波。
今日 その方たちに集まってもらったのは ほかでもない。
そなたたちに暇を出すためだ。
(吉宗)幕府の財政は かつてないほど ひっ迫しておる。➡
大奥についても 人手を減らすことは やむをえないところである。
恐れながら 上様。
(吉宗)若く美しいそなたらなら すぐにでも婿のもらい手はあろう。
(藤波)上様。
花の盛りを この鳥籠のような場で 朽ち果てさせるのも➡
不憫といえば不憫。 上様!
黙りゃ! このタヌキジジイ!
皆の者 この上は どうか故郷にて良縁を得➡
幸せに暮らしてほしい。
吉宗 心からの願いである!
♬~
たばかったな! 加納!
(久通)まことのことをお話しすれば お選びにくうなると存じましたので。
図に乗るなよ 田舎者が!
大奥が開かれて以来 我らを軽んじて➡
表の政が うまくいったためしなどないのだぞ!
ならば 大奥など なくしてしまえ。
上様は しきたりにとらわれぬお方。
お言葉には注意された方がよろしいかと。
上様が 今後 総取締に望まれるのは➡
大奥のかかりを3分の1にすること。
いかがなさいますか。 藤波様。
それでも お残りになりますか?
♬~
今のお方が上様とは!
この世にいてはならぬお方にございます。
もしや 家光公は。
(鳴き声)
そなたが 大奥から出られる手だてが 一つだけございます。
♬~
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