All language subtitles for 2012-東野圭吾懸疑故事-EP01-別了，教練-J

（倉敷）私が 死んでいます。

大好物の オムライスを 食べていて 意識を失い

そのまま 帰らぬ人になりました。

死因は 毒物による 中毒死。

長年 ミステリー誌の 編集長をしていますが

こんな形で 殺人事件に 関わることになろうとは。

ただ ふに落ちない。

私は 家族にだって 部下にだって 愛されていた。

いや ホントです。 割り勘だって めったにしない。

家では 積極的に 洗い物も手伝ってきた。

そんな 私が なぜ？

ここで 第一発見者が 登場したようです。

ミステリーの世界では 真っ先に 疑われる存在。

（せきばらい）

ここで 大切な お知らせです。

実は 彼女とは 不倫をしていました。

私は 大人の関係と 割り切っていましたが

彼女は どうだったんでしょう？

ミステリーの世界では よく あるんです。

深い愛情が 人を 想像もつかないような行動に

駆り立てることがね。

Thanks for downloading, you can share it with friends but please don't use for online-watching website or other purpose, thank you.

This subtitles is from jpsubbers.xyz, thank them for the share, really appreciate.

（直美）コーチ。 やっぱり 私 もう 疲れました。

（直美）今までも 何度も こういうこと ありましたけど。

もう駄目。 私 そんなに 強い女じゃないんです。

これ以上 頑張れません。

覚えてます？ あのころのこと。

（直美）次は オリンピックを目指そう。

それが ２人の合言葉に なりましたね。

（直美）この部屋も さみしくなったわ。

[TV]（直美）以前は あんなにいた 部員が 今は 私一人。

（直美）《引退した 中野さんも 岡村さんも 家庭があって

今は いい お母さんに なってるんですって》

《なのに 私には 何もない》

（直美）《今 １０時です》

《あと １時間で スイッチが入って

コードに 電流が 流れるようになっています》

《どこに 流れるかっていうと…》

[TV]（直美）大丈夫。 これを 飲みますから。

眠ってる間に 死が 訪れるというわけです。

[TV]さよなら コーチ。

《コーチと ここまで 一緒にこれて 私 幸せでした》

《特に 何か 後悔してるって わけじゃないんです》

《ただ 疲れ過ぎただけ》

《とても 楽しかった》

[TV]さよなら コーチ。

≪（ドアの開く音）

（夏目）あっ 警部。

（鈴木）おう。 すまんな。 ちょっと 手間取ってな。

（夏目）こちらが 第一発見者の 石上さんです。

（石上）石上です。

アーチェリー部のコーチの 石上 純一です。

あっ どうも。 北神奈川署の 鈴木です。

すいません。 もう一度 見る気には なれなくて。

いやいや。 お察しします。 覚悟の自殺ってやつですか。

（鈴木）まあ。 にしても

時代が変われば 遺書の形も 変わるっていうか。

ご遺体は？ （夏目）別室で 搬送を待ってます。

（鈴木）あっ そうか。

ねえ 石上さん。 もう一度 確認なんですけど。

あなたが ここに来たのは 午後 １１時ごろ。

残業を終えて 帰ろうとしたら まだ 明かりが ついていたので。

ドアに鍵は？ 掛かっていました。

どうやって 開けたんですか？

鍵を持っていましたから。 ほう。

で 開けて 入ってきたら

このベンチの上に 望月さんが 横たわっていた？

ええ。

（鈴木）すぐに 自殺だって 分かりました？

いえ。 最初は ただ 寝ているだけかと。

タイマーと コードを見ても すぐには ぴんと きませんでした。

でも 寝息を立ててないことに 気付いて。

《望月。 おい。 おい！》

（鈴木）うーん。 ビデオカメラに 気付かれたのは？

それは 入ったとき すぐにです。

普段 こんな所に 立ててありませんから。

（鈴木）普段？

ってことは このカメラ よく 使われるんですか？

ええ。 いつも このカメラで

彼女のフォームを 撮影していました。

それが まさか こんな使い方を。

（鈴木）ちなみに このタイマーと コードは

もともと この部屋に あったんですかね？

タイマーは そうです。

冬場 電気ストーブに接続して 練習から 帰ってきたときに

部屋が 温まってるように 使っていたんです。

コードの方は 分かりません。

（鈴木）ああ。 それにしても 斬新というか 何というかね。

いや 失礼。 でも 何で

こんな 手の込んだ自殺の方法を 思い付いたんでしょうね？

さあ。

自殺の原因については 何か 心当たりありませんか？

それは…。

（ブザー）

（拍手・歓声）

♬～

２カ月前。

望月は オリンピックの出場権の 最後の一枠を争う試合で

接戦の末 敗れました。

（鈴木）なるほど。 じゃあ それが 原因ですかね？

おそらく。 あの選考会以来 ひどく 落ち込んでいましたから。

（鈴木）ですが 望月さんは まだ ３０歳。

次の オリンピックまで 待っても ３４歳。

もう１回ぐらい チャンス あったんじゃないんですか？

今回が駄目だから その次。 そういうものでは ないんです。

いや でも それで 死ぬっていうのはな。

刑事さん。 はい？

それは 彼女が 何を 犠牲にしてきたのかを

ご存じないからだと 思いますよ。

何か？

いや。 おっしゃるとおりだと 思いまして。

もう よろしいでしょうか？

会社の方に 説明しに 行かなければ いけませんので。

ああ。 どうぞ どうぞ。

♬～

（直美）《さよなら コーチ》

♬～

≪（ドアの開く音） ≪ただいま。

（陽子）おかえりなさい。

陽子。 会社には 辞表を出そうと思う。

（陽子）そう。

今度のことで 正式に 廃部が決まったんだ。

お疲れさまでした。

これから 苦労を かけるかもしれないが。

大丈夫。 あなたの つらさは 私が 一番 分かってるから。

いい匂いだな。 フフフ。

着替えてくる。 すぐ できるから。

うん。

☎

はい もしもし？ 石上でございます。

もしもし？ ☎（通話の切れる音）

もしかして またか？ 望月さんが 亡くなってからよ。

日中は 留守電にしておきなさい。

夜は 私が出るから。 ええ。

☎

[TV]さよなら コーチ。

おい。 この言葉 妙に 耳に残んないか？

（夏目）そうっすか？

石上ってコーチに 何か 特別な思いでも あったのかな？

だとしても 自殺には 変わりないと思いますが。

夏目。 周辺の調査 もうちょっと 続けてくれ。

ハハッ。 こだわりますね。

性分なんだよ。

[TV]さよなら コーチ。

思いっ切り 引いて。

引け。 肘を上げて。 顔を動かさない。

思いっ切り 撃て。

（子供）コーチ。 よし いいぞ。 すごいじゃないか。

≪（拍手）

アーチェリーは 集中力が全ての スポーツですからね。

足が 動かなくても 言葉が 少し不自由でも

集中力のある者が １番になれるんです。

（鈴木）なるほどね。 大事なのは 自分を信じる力です。

私は それを あの子たちに 教えたくて

ボランティアを 続けてきました。

さすが メダリストのお話は 説得力がありますね。

で 今日は どんな ご用件で？ えっ。 ええ まあ。

望月の自殺に関して 何か

不審なものを感じて いらっしゃるんじゃないですか？

ああ。 いや いや いや。 望月を殺したのは 私ですよ。

えっ？

望月は 自分の力に限界を感じて 引退したいと 言っていました。

しかし 私は許さなかった。 焦っていたのかもしれません。

彼女の引退は 即 廃部を意味しますから。

オリンピックにさえ 行ければ

会社も 見直してくれると 信じていたんです。

しかし 結局 オリンピックには 行けず

部の未来は 失われました。

でも 失われたのは それだけじゃなかった。

何よりも 彼女の心が 折れてしまったことに

私は 気付いてやれなかったんです。

私は 指導者 失格です。 （鈴木）石上さん。

会社には 辞表を出します。

廃部になれば 居場所は ありませんから。

厳しい世界ですね。

一番 つらいのは あなたなのかもしれないな。

☎ （鈴木）おっ 失礼。

☎

もしもし。 うん。 うん？

ああ いや。 今 ちょっと 石上さんと話を。

うん。 何！？ うん うん。

ちょっと 失礼します。

ああ。 ああ…。 うん。 ああ そう。

ああ 分かった。 はい。

☎（通話を切る音）

（鈴木）失礼しました。

そろそろ 次のクラスが 始まりますので。

石上さん。

森山という男を ご存じですか？

森山？ （鈴木）ええ。

御社の システム管理部に勤務する派遣社員です。

望月さんが 自殺した夜

表から 中を うかがおうとしてるのを

守衛が 目撃したって 言ってるんですがね。

残念ながら その名前に 心当たりは。

あっ そうですか。

どうも お手間を 取らせました。 いえ。

じゃあ 私 これで 失礼します。

☎

☎（アナウンス）「恐れ入りますが ピーッと鳴りましたら

ご用件を お話しください」 ☎（発信音）

☎（通話の切れる音）

☎（メールの着信音）

「純一です」

「携帯が壊れたから 会社のパソコンから送るよ」

「気分転換に 外に出てこないか？」

「おもしろい店を 見つけたんだ」

「店の名前は 『ポールスター』 地図を添付するよ」

「７：３０に そこで待ってる」

ここかしら？

♪♪（店内のＢＧＭ）

♬～

☎

もしもし。 陽子か？ 今 出たところだ。

えっ？ メール？ そんなもの してないけど。

（陽子）えっ！？ だって あなたから

携帯が壊れたって 連絡があったのよ。

それで ポールスターって バーで 待ち合わせしようって。

あら？ それ 携帯よね？

ああ。 ホントに 俺からだったか？

（陽子）間違いないわ。 何だったら そのメール 今から…。

☎（陽子）キャーッ！ 陽子？

（陽子）キャーッ！ あっ！ やーっ！ 嫌！ あっ！

（陽子）やっ！ やめて！ （夏目）警察だ！

（夏目）森山だな？ 脅迫罪の現行犯で 逮捕する。

（鈴木）森山は 望月さんが 亡くなった 翌日から

無断欠勤してます。

まあ 不審に思って うちの夏目を 張り付けといたんですけども。

まさか 石上さんの奥さんを 襲うとはね。

これ 森山の携帯なんですがね。

やつは 望月さんの ストーカーでした。

望月さんからは 何か？ 何も聞いていません。

ああ そうですか。

しかし また 何で 石上さんの奥さんをね。 うーん。

さあ できたぞ。 （陽子）あなた すいません。

何を言ってるんだ。

食欲ないかもしれないけど ちゃんと食べなきゃ。

いただきます。

おいしい。

お前と赤ちゃんが 無事で ホントに よかった。

でも あの人 何で あんなこと？

さあ。 警察が調べてくれるよ。

≪（拍手）

（鈴木）森山は ＳＥという立場を利用して

石上さん。 あなたのＩＤと パスワードを盗んだ。

あの日 無言電話で

あなたの奥さんを おびえさせた後

会社のアドレスから メールを送信した。

無言電話は 森山だったんですね。

（鈴木）しかし 彼は

なぜ あなたの奥さんに あんなことをしたのか

その動機については 何も しゃべりません。

そうですか。

石上さん。 あなた 本当に 何も 心当たり ありませんか？

ありません。 そうですか。

幸い 妻も無事でしたし

森山のことは 早く忘れたい思いです。

では 引き続き 取り調べを 行いますので。

じゃあ また。

ああ。 お前 もう１回 望月さんの部屋 見て

洗い直してくれ。 何か 見落としてるかもしれん。

警部。 望月さんの件は 自殺で決着つけろと

けさも 上から 言われたじゃないですか。

冷静過ぎるっていうか 無関心っていうか。

（夏目）はっ？ （鈴木）お前 考えてみろよ。

妊娠中の奥さんが 誰かに襲われたら

「何でだろうな？ 動機は 何だ？」って 考えるだろ 普通。

ああ。

まるで 森山のことには

触れてもらいたくないような 感じだった。

≪（ドアの開く音）

森山さん。 もう そろそろ 話してもらえないかな？

何で 石上さんの奥さんに あんなことしたの？

君は あんなことする人間じゃ ないはずだろ。

何か 深い訳でも あったんじゃないの？

もしかして それは 望月さんのことか？

君が 心から愛してる。

君は 望月さんのために

何か してあげたかったんじゃ ないのか？

違うか？

（森山）僕は 彼女を 守ってあげられなかった。

あの男が…。 あいつが悪いんだ。

あの男ってのは 石上さんのことか？

彼女は あいつに支配されてた。

まるで 奴隷みたいに 支配されて…。

奴隷ですって？ ああ 失敬。

森山の言葉を そのまま伝えたまでです。

まあ 要するに 愛する者を奪われた感情が

ゆがんだ形で 奥さんに 牙をむいた。

まあ そういうことなんじゃ ないかなと

私は 考えてるんですけどね。 私には まったく

理解できませんね。 ええ ええ。

ただね 森山が そこまで 思い込んでしまった

それなりの根拠は あるんです。

まあ 順序立てて お話ししましょう。

半年前 森山は 御社に勤務になり

すぐに 望月さんに 接触を始めてます。

例の やり方で 彼女の メールアドレスを 手に入れ

しつこく 交際を求めてます。

もちろん 望月さんは きっぱりと 断りの返事を出してます。

森山は 諦めきれずに 望月に 何かをしたんですか？

いや。 それがですね ２カ月ほど前

望月さんの方から 森山に

会いたいという メールが 来たそうなんです。

えっ？

（鈴木）２人は 会社の近くの 居酒屋に行きました。

そして そのとき １年前に 自殺を 図ったことがあると

森山に 打ち明けたそうです。

その後 連絡は途絶えて ２人は 会うことも なかったんですが。

森山は また 望月さんが

自殺を 図るんではないかと 心配になって

それで あの部室の周りを うろうろしてたらしいんですよ。

石上さん。 この自殺の話 望月さん本人から 聞いたことは？

ありません。 そうですか？

おかしいな。 えっ？

いや。 実はですね 望月さん この自殺

石上さんから 止められたと 森山に 話してるらしいんですよ。

いや。 これは 森山の 妄想でも何でもありません。

彼は 居酒屋での会話を

全て ＩＣレコーダーに 録音してましたから。

録音。

まあ 愛する女神との会話を

全て 残しておきたかったからじゃないですか？

私には 理解できませんがね。

話してもらえませんか？ 石上さん。

（直美）《さよなら コーチ》

[TV]《さよなら コーチ》

石上さん？

おっしゃるとおり 去年 彼女は 自殺を図り

それを 見つけて やめさせたのは 私です。

なぜ 黙ってたんですか？

告白されたんです 彼女に。 告白？

去年の 今ごろ 望月は 成績不振で

ナショナルチームの選考から 落ちました。

そして もう 生きるのが嫌だと 自殺を図り

それを止めた 私に こう言ってきたんです。

だったら コーチが そばにいて。 ずっと 私のことを 思っていたと。

でも 私は 妻を愛しています。

彼女の気持ちに 応えることは できません。

だから せめて オリンピックには 連れていってやろうと思いました。

ですが 結局は 彼女を 追い込むことに。

黙っていたというより どう説明していいか

分からなかったんです。 ああ。 お察しします。

しかし 森山からしてみれば あなたの その優しさが

彼女の気持ちを 利用して 彼女を 支配してるように

見えたんでしょうね。

私が みんなを 不幸にしたと おっしゃりに来たんですか？

いえいえ…。 報告と確認に 上がっただけです。

じゃあ 今日は これで。 あっ。 せっかくですから 一杯。

あっ そうだ。 その １年前の 自殺の方法は？

えっ？ ああ。 首をつろうとしていました。

首つりですか。 で ビデオカメラは？

カメラ？ だって ビデオが

彼女の 遺書代わりでしょ？ あったんですか？

ありませんでしたが。 そうですか。

じゃあ 他に 遺書らしきものは？

さあ 気が付きませんでしたね。 ああ。

どうも ごちそうさまでした。

（鈴木）ああ 俺だ。 どうだ？ そっちは 何か出たか？

（夏目）ちょっと 面白いもの 見つけましたよ。

アーチェリーの スコアノートに

走り書きのようなメモが あるんですよ。

「私は 死を選んだ。 もう他に 道はないと 思ったから」

「でも コーチに見つかり 阻止されてしまった」

（直美）「でも コーチに見つかり 阻止されてしまった」

（夏目）例の １年前の 自殺未遂の件ですね。

ただ 続きが あるんですよ。

（直美）「あのテープは 残しておこう」

「私の 死への決意の記録」

「そして 愛する人に 捧げた証として」

「あのテープ」？

じゃあ やっぱり カメラは あったのか。

ああ。

♬～

どうしたの？ 怖い顔して。

すごい汗。 ねえ。 具合でも悪いんじゃ？

あなた？

どうだった？ 健診。

順調よ。 そうか。 よかった。

[TV]（直美）どこに 流れるかっていうと。

大丈夫。 これを 飲みますから。

眠ってる間に 死が訪れるというわけです。

♬～

（陽子）あなた？ あなた。 あなた。

うっ！？ （陽子）あなた？

大丈夫だ。 何でもない。

警察から 電話が。 えっ？

（鈴木）ああ。 お呼び立てして すいません。

何なんですか？ こんなに 朝早くから。

望月の自殺の件なら 私は もう 全て お話ししましたが。

（鈴木）ああ。 ホントに 何回も 申し訳ない。

実は 新しい事実が 出てきましてね。

新しい事実？

ええ。 望月さんのメモが 見つかりましてね。

メモ？ この スコアブックの隅に

まあ 走り書きみたいな もんなんですけども。

１年前の自殺未遂の際に 「あのテープは 残しておこう」

これなんです。

あなたは カメラは なかったと おっしゃった。

ですが 望月さんは テープを お持ちだった。

これ いったい どういうことなんでしょう？

刑事さん。 申し訳ないんですが 私の記憶では やはり

カメラは なかったとしか 言いようが…。

（鈴木）いや。 いいんです。 それ自体は もう いいんです。

それよりも もっと 不思議なものが見つかったんです。

（鈴木）これなんですがね。

（鈴木）ちょっと 早送りしますね。

あっ。 ここです。

少し 見にくいんですけどもね これ 何でしょう？

ばんそうこうか 何かですかね？

あっ。 テーピングですね。

（鈴木）じゃあ ちょっと これと 見比べてほしいんですが。

これは 望月さんが 亡くなったときの

現場写真なんですがね。

この画面に映っている テーピングが

遺体には 巻かれてないんです。

つまり この画面の 望月さんの姿と

この写真に 写っている 望月さんの姿が

一致しないんです。

一致しない？

これ ひょっとして 去年 撮影されたビデオテープじゃないですかね？

彼女が 自殺未遂を起こしたときの。

石上さん。 あなたは このテープを利用して

自殺に 見せ掛けて 彼女を殺そうと 思い付いた。

（鈴木）いや。 それにしても 見事ですね。

現場の状況は もちろん 洋服や髪形も

このテープ そっくりに 再現されてる。

でも 誰にでも 見落としって いうのは あるもんです。

あなたは 彼女の中指に 巻かれていた テーピングには

気付かなかった。

（直美）《さよなら コーチ》

《さよなら コーチ。 さよなら コーチ》

石上さん。

去年の 今ごろでした。 私と望月が 関係を持ったのは。

《望月》

あの日 部室へ行ってみると。

《まだ いたのか？》

望月が 横たわっていたんです。

最初は 疲れて 眠っているのかと 思ったんですが よく 見ると…。

《望月。 望月。 おい。 おい！》

《何やってんだ？ 何で こんなことを！？》

（直美）《コーチ。 何で 死なせて くれなかったんですか？》

《何もかも 終わらせたかったのに》

《何を言ってるんだ？》

《たかが ナショナルチームから 外されただけじゃないか》

《少し頑張れば また 復帰できるさ》

《コーチと一緒に オリンピックに行くこと》

《それが 私の夢だったの》

《でも その夢を 失いそうになって

ふと 怖くなった》 《怖くなった？》

《きっと 夢を諦めて 普通の女に戻った 私なんて

誰も 愛してくれない》

《コーチ。 私 今まで アーチェリーだけを やってきました》

《普通の女みたいに 恋の告白に ドキドキしたり

彼と デートしたり つまらないことで ケンカしたり

そういうこと 全然 知らないんです 私》

《頼れるものが 欲しい。 私にも 頼れる人がいる》

《そう実感したかった。 でも…》

《でも それは かなわないから。 だから せめて コーチに

私の最期を 見てほしかったんです》

《私のこと 忘れないでいてほしい》

《ずっと 覚えててほしかったんです》

《コーチ》

拒むことは できませんでした。

（直美）《コーチ。 私 まだ 夢を追い続けても

いいでしょうか？》 《望月》

《コーチが そばに いてくれれば

もう少し 夢を 諦めずにいられると 思うんです》

《ああ》

彼女は 精神的に安定したのか

その後 次々と 良い成績を 残すようになり。

《私 絶対 コーチを オリンピックに 連れていきます》

《ああ》

しかし 勝利の女神は 望月には 微笑みませんでした。

（直美）《コーチ。 私 もう 引退しようと思うんです》

《よく 頑張った》

《でも もう 死のうなんて 思いません》

《だって 今は 怖くないから》

《コーチが ずっと そばに いてくれるから》

《望月。 私には…》

《コーチ。 私 もう コーチがいない 人生なんて

考えられないんです》

彼女の様子が おかしくなったのはそれからでした。

（鈴木）望月さんが 森山と会ったのも

ちょうど そのころでしたね。

そして あの雨の日 結婚記念日の夜。

《早いわね。 もう ８年なんて》

《これからも よろしくな》 《何 改まってるの？ 嫌ね》

≪（チャイム）

《誰かしら？ こんな時間に》 《さあ》

《望月 どうした！？》

《今日 コーチ 結婚記念日ですよね？ これ》

（陽子）《望月さん！？ どうしたの？そんな ずぶぬれで》

（陽子）《大丈夫？ 風邪 ひかないかしら？》

（直美）《すいません》

（陽子）《ねえ？ ワイン 飲む？ 体が あったまるわよ》

《あなた。 望月さんにも ワインを》

《ああ》

（直美）《ホントに すてきな ご夫婦ですよね？》

《私も 陽子さんみたいに なれるかな？》

（陽子）《えっ？ 何 言ってんの？ はい》

《そうだ。 昼間 ケーキ 焼いたの。よかったら 食べてくれない？》

《２人じゃ 食べきれないから。 ねっ？》

（陽子）《理想なんです。 陽子さんみたいな人》

《どうぞ》

（陽子）《これで 食べたいだけ 切り分けて》

（陽子）《あっ。 紅茶の方が いいわよね？》

（直美）《ホントなんです。 私 陽子さんみたいに なりたかった》

《望月》

（直美）《できるなら 今だって》

《望月！》

（直美）《あっ！？ あのう あのう。 あのう 私》

《帰ります！ お邪魔しました》

《望月さん？》

《望月！》

（直美）《ああ！？ ごめんなさい コーチ》

《私 ただ お祝いしようと 思ってただけなんです》

《ごめんなさい》

《ホントなんです。 コーチ 信じてください》

《私を信じて！》

《分かってる。 大丈夫。 信じてるよ》

♬～

《嘘。 信じてない！》

《コーチ。 私ね ずっと 大事に しまってあるんです》

《あのテープ。 部室の ロッカーの中に ずっと》

《どうして あんなものを！？》 《忘れないようにしたいから》

《何を！》

《コーチ。 好きです》

《好きです。 好きです》

♬～

危険だ。 直感的に そう思いました。

彼女は 自分で 自分を 抑えられなくなっていたんです。

《そういえば 今日

病院の帰りに望月さんに会ったわ》《えっ？》

（陽子）《通りの向こうで じっと こっちを見てたの》

《話し掛けようと 思ったんだけど黙って そのまま行っちゃって》

私は 血の気が引くのを 感じました。

《何か 思い詰めたような 様子だったけど》

《大丈夫かしら？ 彼女》

彼女は 何をするか分からない。

追い詰められた 私は

私と家族の人生を 守るために あることを 思い付いたんです。

♬～

彼女の言ったとおり そのテープは 存在していました。

[TV]《コーチ。 やっぱり 私 もう 疲れました》

これを使えば 誰にも疑われることなく

自殺に見せ掛けて 彼女を…。

ある意味 私も 狂っていたのかもしれません。

（直美）《記念写真？》

《ああ。 廃部になる前に

せめて 写真だけでも 残しておきたいと 思ってさ》

《区切りを つけておきたいんだ》

《選手と コーチとしての》 《えっ？》

《そこから もう一度 始めないか？》

《コーチ》

《わあー。 うれしい。 どんな写真が いいかな？》

《そうだな》

《君が 一番 輝いていたときの 姿が いいんじゃないか？》

《一番 輝いてたとき？》

《できれば この写真のように 髪も短い方がいい》

望月は 一瞬 不思議そうな顔をしましたが

すぐに 笑顔になり 髪を 切ってくると うなずきました。

《分かりました。 切ってきますね》

≪（ドアの開く音）

♬～

目の前に現れた 彼女は 完璧でした。

そこには ビデオテープの映像と うり二つの 望月がいたんです。

そして ワインに 睡眠薬を仕込み…。

《ありがとう》

彼女に 差し出しました。

♬～

《眠くなってきちゃった》

《疲れたんだろう。 少し 休むといいよ》

《そばに いてやるから》 《そばに？》

《ああ。 これからは ずっと 一緒だ》

《一緒？》

《望月？》

《さよなら コーチ》

その後 テープの映像と同じようにコードと タイマーをセットし

私は 部室から 立ち去りました。

（鈴木）タイマーは 時間どおり 作動し 望月さんは亡くなった。

ここまでは あなたの計画どおりでしたね。

しかし 森山という男は

あなたの 完璧なシナリオには 予想外の 登場人物でしたね。

彼から １年前の自殺未遂の話を 聞いていなければ

さすがに うたぐり深い 私も

あなたへの疑いを 確信することは できなかった。

皮肉なもんですね。

森山の 望月さんへ対する ゆがんだ愛情が

彼女の死にまつわる 真相を 暴いたんだから。

（夏目）警部。 そろそろ。

（鈴木）うん。 じゃあ 俺が 署に連絡を。

[TV]（再生する音）

[TV]（直美）さよなら コーチ。 （鈴木）ああ。 石上さん。

最後に 集中力を欠いたのは 後ろめたさのせいですか？

[TV]（直美）幸せでした。

特に 何かを 後悔してるって わけじゃないんです。

ただ 疲れ過ぎただけ。

とても 楽しかった。

《そうだ。 なぜ 気が付かなかったんだ？》

《何度も見て 何度も確認したのになぜ 見落とした？》

[TV]さよなら コーチ。

ちょっと待ってください。 えっ？

《もう よろしいでしょうか？》

《会社の方に 説明しに 行かなければ いけませんので》

（鈴木）《ああ。 どうぞ どうぞ》

どうして あのときの クモが 去年のテープに？

《さよなら コーチ》

「さよなら」？

あのとき 望月は 何で 「さよなら」なんて。

まさか このテープは！？

撮り直したのか！？

《分かりました。 切ってきますね》

（直美）「私は 死を選んだ」

「もう他に 道はないと 思ったから」

「でも コーチに見つかり 阻止されてしまった」

（直美）「まだ 希望があるって？」

「ねえ？ コーチ。 どういう希望が あるというの？」

（直美）「あのテープは 残しておこう」

「私の 死への決意の記録」

「そして 愛する人に 捧げた証として」

♬～

《コーチ。 やっぱり 私 もう 疲れました》

気付いていたんだ。

《さよなら コーチ》

「さよなら」

そういう意味か。

≪（ドアの開く音）

（鈴木）石上さん。 じゃあ 行きましょうか。

♬～

〈わなに掛かったのは 私の方だった〉

♬～

《私のこと 忘れないでいてほしい》

《ずっと 覚えててほしかったんです》

《コーチ》

《私 絶対 コーチを オリンピックに 連れていきます》

《ああ》

〈直美は 今度は 自殺に成功した〉

〈私に 殺されるという方法で。 私の全てを 道連れにして〉

愛情を裏切られた 女性の行動は 恐ろしいもんです。

こちらでは 私が死んでいます。

誰かが 私を殺した。

そうなると 犯人は 彼女以外に 考えられ…。

（園田）編集長！？

いいや。 もう一人 いました。