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(宮の宣旨)宮の宣旨と申す。 そなたは 藤原。
今日より そなたを 藤式部と 呼ぶことにいたす。(まひろ)は…。
そなたの父は かつて 式部丞 蔵人であったであろう。
さようでございます。
藤式部 中宮様の御ために 共に尽くしましょうぞ。
仰せの旨 かしこまりました。
心して相務めます。
どうか よしなにお導きくださいませ。
♬~
ここが そなたの務めの場である。
(宮の宣旨) 左大臣様と北の方様のお計らいと心得よ。
まことに恐れ入ります。
そなたは 専ら物語を書く務めであるゆえ 関わりないことではあるが➡
そもそも女房の仕事は➡
中宮様のお食事のお世話 身の回りのお世話➡
お話し相手 内裏の公卿方との取り次ぎ役などである。
私もお手伝いしとう存じます。
(左衛門の内侍)お手伝い…。
(宮の宣旨)それでは。
あとは よろしゅう。
ここでいいわ。
⚟(物音)
慌てるでない!
(ため息)
(藤原公任) 藤式部と呼ばれておるそうだな。
中納言様。
(公任)藤壺に上がれてよかったな。
うちの者は お前が来なくなって さみしがっておるが。 ハハ。
(藤原斉信)左大臣様に そなたを推挙したのは 中納言殿であるぞ。
知っておるか。 左大臣様に伺っております。
ありがとうございました。
己の才を存分に生かせ。
何かあれば 中宮大夫の俺に申し出るがよい。
何かありそうなのでございますか?
ここの女房たちは 高貴な姫ばかりなのだが➡
頼りにならぬ。 頼りにならぬとは…。
中宮様と同じような育ちの姫ばかりゆえ➡
中宮様の御ために働くという気持ちが 薄い。
中宮様にお伝え申せと言うても伝わらぬし 言ったことはやらぬ。
(公任)要するに世間知らずなのだな。
(斉信)世間知らずというか 鈍いのだ。
見栄えはしても 鈍いのは困るな。 (斉信)全くだ。
(笑い声)
私のような地味でつまらぬ女は➡
己の才を頼みとするしかございませぬ。
左大臣様のお心にかなうよう 精いっぱい励みます。 フフフ。
地味でつまらぬ女って お前 前に言ってなかったか?
そうか? うん…。
(斉信)室礼 座次 その他 一切 抜かりなきように支度せよ。➡
整い次第 また確かめに参る。➡
何か聞きたいことはないか?
あるのかないのか 返事をせよ。 ございませぬ。
(ため息)
年明け早々の中宮大饗 抜かりなきように。
聞きたいことなど ありませんわよね。
もう 毎年 同じようにやっておりますのに。
(馬中将の君)中宮大夫様は 何につけ偉そうになさりたいだけよ。
フフフ…。
それより 藤式部の父上は 従五位下ですわよね。
それなのに中納言様方とお親しいの?
(大納言の君)四条宮で 歌を教えておられたそうですわ。
(小少将の君)まあ 学がおありなのね。
(宰相の君)衛門様は 藤式部を昔からご存じなのでしょ?
(赤染衛門) ええ。 中宮様の御母君がお若い頃➡
お屋敷での学びの会に 藤式部も参っておりました。
(一同)へえ~…。
⚟(いびき)
⚟(物音)
♬~
(小少将の君・寝言で) 豆 食べたでしょう…。➡
泥棒!
お目覚めあれ!
⚟お目覚めあれ!
⚟お目覚めあれ!
♬~
藤式部。➡
藤式部!
えっ。 お支度を。
急ぎなされ。 誰か! ⚟はい ただいま!
藤式部の務めは 物語 私の務めは 学び事の指南。
役目は 皆 違えども 朝は ちゃんと起きなければなりませんよ。
はい…。
あれ?
(宮の宣旨)今日は 一層せわしなくなる。➡
何か分からぬこと 気がかりなことはないな。
申し訳ございませぬ。
藤式部ったら 昨夜は 遅くまで何をしていらしたの?
誰ぞのおみ足でも おもみにいらしたのではないの?
フフフ。 (宮の宣旨)静かに。
今日の大饗は 皆々 心して務めよ。
(一同)ははっ。 はっ…。
あの…。
誰ぞの足をもみに行くとは 何のことでございますか?
やだ… おとぼけになって。
足をもみに行くとは…➡
夜とぎに召されるということですの。
中宮大饗では 公卿らが中宮に拝礼し うたげが行われる。
中納言様です。
下賜する禄の用意や うたげの準備で 女房たちは大忙しである。
♬~
過分に賜り 恐悦至極に存じます。
(宮の宣旨)藤式部。
はあ…。
(左衛門の内侍) 誰が このような あさぎ色のものを。
中宮様は 薄紅色がお好きだと申したであろう。
ただいま持ってまいらせます。
ハハハ… お上手。
お次は 中宮様。
(藤原彰子)親王様。
ないしょ。
♬~
(藤原行成) 敦康親王様にかかる費えにございます。
(行成)室礼と装束のかかりは おおよそ これほどかと存じます。
(藤原道長)親王家別当の行成が これで よしと思うなら これでよい。
はっ。
中宮様と親王様は 仲むつまじくおわすのか?
はい。 そのようにお見受けいたします。
親王様は 中宮様を いたくお慕いでございます。うむ。
藤壺に 伊周が訪ねてくることはないのか?
伊周殿は 目立った動きは 控えておられるやに思えます。
藤壺に出入りなされば ほかの者の目にも留まりますゆえ。
そうか…。
されど 伊周の位を元に戻したのは➡
敦康親王様の後見を 見据えてのことであろう。
このまま中宮様にお子ができねば 伊周の力は 大きくなるやもしれぬ。
気は抜けぬな。
親王様を 伊周殿の手に 渡すようなことはいたしませぬ。
この身を賭して お守りいたします。
頼んだぞ。
え? アハハハ!
無理…。
ここでは 落ち着いて物語を書くことができませぬ。
里に戻って書きとうございます。 どうかお許しくださいませ。
つぼねまで与えたのに なぜ書けぬのだ。
皆様 忙しく立ち働いておられますのに➡
私だけ のんびりと 筆を弄んでいるのが何だか…。
書くことが己の使命であると 申したではないか。
そうなのでございますが…。
内裏で さまざまなことを見聞きし 物語の糧にするとも申しておった。
そうなのでございますが ここは 気が散りますし 夜も眠れませぬ。
なぜ眠れぬ。
ならば 別に寝所を用意してやろう。
それは 皆様のお気持ちもありますので お許しくださいませ。
どうか里に。 ならぬ!
帝は 続きが出来たら お前に会いたいと仰せだ。
お前の才で 帝を藤壺に…。
頼む。
これは 帝にお渡ししたものを手直しし➡
続きを書き足したものにございます。
この巻は これで終わりでございます。
この先の巻は 里に帰って 書きたく思います。
もう頭の中では 出来ておりますので。
帰ることは許さぬ。
お前は 我が最後の一手なのだ。
物語は書きたい気持ちの時に書かねば 勢いを失います。
私は 今すぐ書きたいのでございます。
藤壺で書け!
書いてくれ。
このとおりだ。
道長様…。
私が書くものに まことに そのような力が あるのでございましょうか?
これが まことに 帝のお心をお引き付けできると➡
道長様は お思いですの?
分からぬ。
されど… 俺には これしかないのだ。
賭けなのだ。
賭けに負けたら どうなさいますの?
私は どうなりますの?
お役御免 無用の身となりましょうか。 そのようなことはない。
まことでございますか。 ああ。
物語を書きたいという気持ちに 偽りはございませぬ。
里で続きは書きます。
そして 必ずお持ちいたします。
中宮様。
藤式部にございます。
お寒くはございませぬか?
炭を持ってこさせましょう。
(彰子)私は 冬が好き。
空の色も好き。
中宮様は お召しになっておられる➡
薄紅色がお好きなのかと 思っておりました。
私が好きなのは 青。
空のような。
(左衛門の内侍)中宮様 このような所で お風邪を召したら どうなさいます。
御簾を下ろせ。
中宮様 こちらへ。
そこは 寒うございますゆえ。
藤式部は 何をしているの?
里に下がるご挨拶を。
えっ… この間 藤壺に上がったばかりではないの。
里に下がり お役目を果たそうと存じます。
♬~
(いと)冷たっ! (福丸)ほら 俺がやるから いいよ。
(きぬ)あんたは 気にしなくていいよ。 私は 冬の海にも潜るんだから。
(乙丸)ハハハ…。
ん~!?
(藤原惟規)姉上! どうしたの?
帰りたくなってしまったの。
はっ! 追い出されたのでございますね!
家で書いた方が はかどるからよ。
ああ… 賢子と父上は?
お二人でお出かけにございます。
涙で別れて まだ8日目だよ。
8日もご苦労なさったのですね。 おいたわしい…。
ああ… 心配しないで。
帰ってきたら 晴れ晴れしたわ。 大根おいしそう。
(惟規)姉上。
いじめられたの?
高貴な姫様ばかりで そんな意地悪な人いないわよ。
でも 帰ってきたんでしょ。
また戻るかも。 えっ?
まだ分からないけど…。
はあ… 分かりにくい女だね。
まあ いいけど。
俺は 姉上みたいな女子には ほれないから。
私も 惟規みたいな殿御には ほれないです。
ハハハ… だよね~。
♬~
伊勢守に 平 維衡を任じるなど もっての外に存ずる。
維衡は かの国の支配を巡り 一族の平 致頼と➡
幾度も合戦を起こした者。
武力による力争いを許しては 瞬く間に戦乱の世となってしまう。
(藤原顕光) されど 帝が そうお望みなのですぞ。
そういう者を国守とすれば➡
どの国の国守も やがては 武力に ものを言わせようといたします。
右大臣殿は それで よいとお考えなのだな。
フッ… 維衡一人ぐらいで そのような。
全ては ささいなことから始まるのだ。
(藤原公季)まあまあまあ…。
除目の大間書には 伊勢守の名を入れずにおく。
本日の除目の儀は これまで。
お先に。
(藤原道綱)左大臣殿の言うことは なるほどと思ったが。 ねっ。
されど 左大臣様らしからぬ怒り方であったな。
平 維衡殿は もともと右大臣様の家人。
なので 右大臣様が推挙されたのかと。
そこまで知っておって なぜ そなたは 帝の仰せのままにと言ったのだ。
帝が仰せなら 致し方ございますまい。
(藤原実資)わしも そう思った。➡
されど 左大臣様は流されなかった。 さすがである。
わしは 今 激しく己を恥じておる。
(藤原隆家)恐れながら 帝には 朝廷も武力を持つべきというお考えは➡
おありにならないのでございましょうか。 (藤原伊周)やめておけ。
(隆家)ご無礼いたしました。 されど これから先は➡
そういう道を選ぶことが あるいは 肝要となるやもしれませぬ。
よくよく考えるべきと存じます。
空欄にしたはずの伊勢守の欄に➡
いつの間にか 何者かによって 平 維衡の名が書き加えられていた。
帝の裁可を得たということになるため➡
道長は それ以上 手出しできなかった。
「心は 他の女の方にあったとしても➡
見初めたころのままに いとおしく思われているのであれば➡
それを よすがに思っていればいいものを➡
そうはならずに たじろぐから 縁は絶えてしまうものなのです」。
面白いよ それ。
大勢の男と むつんだわけでもないくせに よく書けるね そんなの。
むつまなくても書けるのよ。
(いと)あの…。 ん?
そのような下品な殿御たちのお話 帝が お喜びになりますでしょうか。
中宮様って うつけなの? は?
みんな言ってるよ。
亡き皇后 定子様は 聡明だったけれど 中宮 彰子様は うつけだって。
うつけでは ありません。 奥ゆかしいだけ。
ご意志は しっかり おありになるわ。 (惟規)そんな怒るなよ。
除目での伊勢守の件 叡意により➡
平 維衡を これに任じることといたします。
されど 速やかに交代させたく存じます。
恐れながら お身内にも 厳しく接してこられた お上とも思えぬ➡
こたびのご判断。
政に傷がつかぬうちに 取り消さねばなりませぬ。
(一条天皇)さほどの ゆゆしき過ちを 犯したとは思えぬが…。
お上に 初めて申し上げます。
今は 寺や神社すらも武具を蓄え➡
武力で土地を取り合う世と なりつつあるのでございます。
加えて この先 国司となるような者たちが➡
弓矢を専らとするようになれば いかが相成りましょうか。
やがては 朝廷をないがしろにする者が 出てまいらぬとも限りませぬ。
そうなれば 血で血を洗う世となりましょう。
そうならぬように世を導くのが 正しき政。
お上の御ため この国のためを思えばこそ あえて申し上げております。
分かった…。
伊勢守は 交代させよ。
ありがたき えい慮 恐れ入り奉りましてございます。
やめたんじゃないの? 遊びに来ただけじゃない?
え~?
帝にお見せする物語が 少し進みましたので➡
左大臣様にお渡しに参りました。
帝がお読みになるもの 私も読みたい。 えっ。
帝が お気に召された物語を知りたい。
これは 続きでございますので…➡
では これまでのところを 手短にお話しいたします。
帝は 忘れ形見の皇子を 宮中に呼び寄せて かわいがられますが➡
この皇子が 物語の主となります。
皇子は それは美しく 賢く 笛も ご堪能でした。
帝みたい。 まことに。
その皇子の名は?
あまりにも美しかったので 光る君と呼ばれました。
光る君…。
その皇子は 何をするの?
何をさせてあげましょう。 ん~…。
続きにございます。
大儀であった。
これで終わりか? いえ まだまだ続きます。
これまで わがままを申しましたが➡
お許しいただけるなら 改めて 藤壺で➡
中宮様の御ために 力を尽くしたいと存じます。
まことか!
ありがたいことだが… どうしたのだ? よく気の変わる女子だな。
中宮様のお好きな色は 空の青らしゅうございます。
青? はい。
中宮様のお心の中には➡
表に出てこないお言葉が たくさん潜んでおるのやもしれませぬ。
中宮様と もっとお話ししたいと存じました。
お上のお渡りにございます。
帝が 藤式部に会いにいらっしゃるの?
中宮様には ご興味ないもの。
彰子 変わりはないか?
藤原為時の娘 まひろであったか? 久しいのう。
「高者 未だ必ずしも賢ならず 下者 未だ必ずしも愚ならず」。
朕の政に 堂々と考えを述べたてる女子は➡
亡き女院様以外には おらなんだゆえ よく覚えておる。
恐れ多いことにございます。
光る君とは 敦康か?
ないしょにございます。
あの書きぶりは 朕を難じておると思い 腹が立った。
されど次第に そなたの物語が 朕の心に しみいってきた。
まことに不思議なことであった。 は…。
朕のみが読むには惜しい。
皆に読ませたい。
はい。 物語は 女子供だけのものではございませぬ。
中宮様にも お読みいただければ この上なき誉れに存じます。
♬~
褒美である。
は…。 フッ…。
これからも よろしく頼む。
♬~
鳥が逃げてしまったの 大切に飼っていた鳥が。
鳥を鳥籠で飼うのが間違いだ。
自在に空を飛んでこそ鳥だ。
♬~
(錫杖の音)
(祈とう)
大和から 京の都を揺るがす一団が 向かっていた。
(祈とう)
(錫杖の音)
左大臣 藤原道長である。 何事だ。
(定澄)興福寺別当の定澄にございます。
(慶理)興福寺の僧ら 3,000は➡
既に木幡山に集まっております。
(錫杖の音)
(祈とう)
(定澄)我らの訴えを 直ちに 陣定におかけくださいませ。
それがならねば この屋敷を取り囲み 焼き払い奉ります。
やってみよ。
大極殿前の朝堂院に 興福寺の僧たちが 押し寄せております!
中宮様を 奥の間に お隠しまいらせよ。
帝の御身にまでは 危害は及ぼしますまい。
お供いたしたく存じます。
えっ。 今はやりの物語を書いている女房か?
我が生涯 最初で最後の 御嶽詣である。
光る君が 何をしたいのかも分からぬ。
殿御は 皆 かわいいものでございます。
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