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(藤原道長)為時殿と娘御は?
(まひろ)今日は 外に出ております。
土御門殿で 父が いつもお世話になっております。
いや…。
ご聡明な頼通様のこと いつも父が感心しております。
四条宮で 和歌を教えているそうだな。
はい。 なぜ それを…。
公任に聞いた。 ああ…。
学びの会のあと お前が語る 「カササギ語り」という話が大層な評判で➡
公任の北の方も 女房たちも 夢中になっておるというではないか。
その物語を 俺にも読ませてくれぬか?
そのために わざわざ ここへ いらしたのでございますか?
そうだ。
そのようなお姿で…。 ん? ああ…。
「枕草子」より ずっと面白いと聞いたゆえ。
どうでしょう…。
もし面白ければ写させて➡
中宮様に献上したいと思っておる。
申し訳なきことながら➡
「カササギ語り」は燃えてしまって もうないのでございます。
燃えた?
燭を倒してしまい 残らず…。
その話は偽りであろう?
偽りではありませぬ。 床に炎の跡もありますゆえ。
ああ… すまぬ。 疑ったことは許せ。
無念で ゆうべは眠れませんでした。
それは 気の毒であった。
それを もう一度 思い出して 書くことはできぬのか?
そういう気持ちにはなれませぬ。
燃えたということは 残すほどのものでは なかったと思いますので。
ならば…。
中宮様のために 新しい物語を書いてくれぬか?
帝のお渡りも お召しもなく…。
寂しく暮らしておられる中宮様を お慰めしたいのだ。
政のために入内させた娘とはいえ 親として捨て置けぬ。
道長様のお役に立ちたいとは存じます。
されど…。
「されど」… 何だ?
そうやすやすと 新しいものは書けませぬ。
お前には 才がある。
やろうと思えば できるはずだ。
買いかぶりにございます。
俺に力を貸してくれ。
♬~
また参る。 どうか考えてみてくれ。
邪魔をいたした。
♬~
この年の秋 斉信が従二位に叙された。
1歳年上の公任を 追い抜いての出世であった。
(敏子)殿。 (藤原公任)ん?
斉信様がお見えでございますけれど いかがいたしましょう。
通せ。 はっ。
(藤原斉信)若き日より この屋敷には よく来ていたゆえ➡
案内なぞ要らぬのだ。 ご無礼いたしました。
忙しいのではないのか。
いつまで すねておるのだ。
和歌や漢詩を学び直しておった。
本来の道に戻ろうと思うておるだけだ。
政で 一番になれぬなら こちらで 一番になろうと思うてな。
道長は 中宮大夫を務めて従二位となった。
俺も たまたま中宮大夫であったゆえ 位を上げてもらえただけだ。
お前を中宮大夫にしたのは 道長であろう。
娘のことを お前に託したということだ。
まあまあ まあまあ まあまあ…。 何が「まあまあ」だ。
内裏にお前がおらぬと 調子が出ぬ。
出仕してくれ。
誰かに頼まれたのか?
俺の気持ちだ。
(敏子)大納言様がお見えにございます。
(藤原実資) これは 不思議な眺めにございますな。
私どもは もとより仲間でございますゆえ。
実資殿 何かお急ぎの御用でも…。
左大臣様は 長く中宮大夫を 務められた末に 従二位になられた。
こたびも 中宮大夫であられた斉信殿が 従二位になられただけ。
今 それ 私が申したところでございます。
内裏に 公任殿がおられぬと調子が出ぬ。
あっ それも 今 私が…。 ああ そう…。
誰かに お頼まれになったのですか?
いや 私の気持ちである。
ああ…。
会いに行くなら 今ですぞ。
間もなく 学びの会が始まりますゆえ。
では これにて。
今のは何だ?
実資殿も 隅に置けぬのだよ。
えっ そうなのか。
♬~
今日は 忙しいゆえ。
「枕草子」をどのようにお読みになったのか いま一度 お聞かせくださいませんか?
(あかね)何か言ったかしら? 私。 覚えてないわ。
覚えてないけど あまり引かれなかった。
それは 何故でございますか?
なまめかしさがないもの。
「枕草子」は 気が利いてはいるけれど➡
人肌のぬくもりがないでしょ。
はあ…。
だから 胸に食い込んでこないのよ。
巧みだな~と思うだけで。
「黒髪の 乱れも知らず うち伏せば➡
まづ掻きやりし 人ぞ恋しき」。
フフフ。
あかね様。 あかね様がお持ちの「枕草子」➡
お借りできないでしょうか。
♬~
私は 皇后様の影の部分も 知りたいと思います。➡
そういう皇后様のお人となりを お書きに…。
(ききょう) 皇后様に影などはございません。
♬~
回想 (ききょう)華やかなお姿だけを 人々の心に残したいのです。
♬~
はあ…。
中宮様。
(藤原彰子)父上…。
だいぶん寒くなりましたな。 はい。
敦康親王様は?
笛のお稽古にいらしております。 うむ。
ご不便はございませぬか? はい。
父上。 はっ。
父上と母上は どうかなさったのでございますか?
は?
ああ…。
ご心配いただくようなことは ございませぬ。
ご安心くださいませ。
♬~
(源 倫子)お帰りなさいませ。 うん。
♬~
(源 明子)殿…。 ん?
土御門殿の頼通様は➡
元服の折に 正五位下に おなりあそばしたのでございますよね。
うん。
我が家の巌と苔も 間もなく元服でございます。
ああ… 月日のたつのは早いものだな。
我が子にも 頼通様に負けない地位を お与えくださいませ。
私は 醍醐天皇の孫。
北の方様は 宇多天皇の御ひ孫。
北の方様と私は ただの嫡妻と妾とは違うこと…。
殿とて お分かりでございましょう。
倫子の家には世話になった。
土御門殿には 財もある。
それが どれほど私を後押ししてくれたか 分からぬ。
私には 血筋以外に何もないと 仰せなのでございますか?
そうではない。
それが 全てではないと言うたのだ。
内裏で 子供同士が競い合うようなことも ないようにせねばならぬ。
明子が争う姿を見せれば 息子たちも そういう気持ちになってしまう。
気を付けよ。
お許しくださいませ。
お帰りにならないで。
放せ。
また参るゆえ。
殿…。
以来 道長は 土御門殿にも高松殿にも帰らず➡
内裏に泊まる日が多くなった。
惟規。 惟規の自分らしさって何だと思う?
(藤原惟規)はあ? 答えてよ。
やなことがあっても すぐに忘れて生きてるところかな。
そうね。 どうしたの。
じゃあ 私らしさって何?
え~… 難しいな。
うん 私って難しいと思う 私も。 いや そういう意味じゃなくて。
もっと言って。 人と話していると 分かることもあるから。 いろいろ言って。
そういうことをグダグダ考えるところが 姉上らしいよ。
そういう ややこしいところ。
根が暗くて うっとうしいところ。
根が暗くて うっとうしい…。
怒るなよ 自分で聞いたんだから。
いろいろ言ってって言ったんだから。
怒るなって言ったでしょ!
「中宮様をお慰めするための物語 書いてみようと存じます。➡
ついては ふさわしい紙を賜りたく お願い申し上げます」。
♬~
お前が好んだ越前の紙だ。
「越前には美しい紙がある。➡
私も いつか あんな美しい紙に➡
歌や物語を書いてみたい」と 申したであろう。
宋の言葉で。
ああ…。
まことに よい紙を… ありがとうございます。
中宮様をお慰めできるよう 精いっぱい 面白いものを書きたいと存じます。
うん。
俺の願いを初めて聞いてくれたな。
まだ書き始めてもおりませぬ。
(福丸)さっきのが 左大臣様? (いと)そうよ。
左大臣様が こんなとこ来るんだ…。 来るのよ。
すごいな この家…。 すごいのよ。
♬~
ハハ。
ハハハ。
ハハハハ…。
ほう…。
よいではないか。 どこが よいのでございますか?
え? ああ… 飽きずに楽しく読めた。
楽しいだけでございますよね。 ん?
まことに これで 中宮様を お慰めできますでしょうか。
書き上がったから 俺を呼んだのではないのか?
そうなのでございますが お笑いくださる道長様を拝見していて➡
何か違う気がいたしました。
何を言っておるのか分からぬ。
これで 十分 面白い。
明るくて よい。
中宮様も そうお思いになるでしょうか…。
中宮様が お読みになるのですよね? うん…。
もしや 道長様 偽りを仰せでございますか?
え?
中宮様と申し上げると お目が うつろになります。
正直なお方。
お前には かなわぬな。 やはり…。
実は…。
これは 帝に献上したいと思うておった。
「枕草子」に とらわれるあまり 亡き皇后様から解き放たれぬ帝に➡
「枕草子」を超える書物を献上し こちらに お目を向けていただきたかったのだ。
されど それを申せば お前は➡
「私を政の道具にするのか」と 怒ったであろう?
それは… 怒ったやもしれませぬ。
ゆえに 偽りを申したのだ。
すまなかった。
帝が お読みになるものを 書いてみとうございます。
えっ… これを 帝にお渡ししてよいのか?
いえ… これとは違うものを書きまする。
帝のことを お教えくださいませ。
道長様が 間近に ご覧になった帝のお姿を 何でもよろしゅうございます。
お話しくださいませ。
帝のお人柄 若き日のこと 女院様とのこと 皇后様とのことなど➡
お聞きしとうございます。 ああ。 話してもよいが➡
ああ… どこから話せばよいか…。
どこからでも よろしゅうございます。
思いつくままに 帝の生身のお姿を。 生身のお姿か…。
家の者たちは 私の邪魔をせぬようにと 宇治に出かけております。
時は いくらでもありますゆえ。
分かった。
帝がご誕生された時 それは それは 美しい男子におわした。
帝は 亡き皇后 定子様に夢中であらせられた。
入内された時 帝は まだ幼くおわしたゆえ…。
帝の よき遊び相手で…。
帝は 本当に大事に…。 今は亡き女院様も➡
涙を流して喜んでおられたな。 定子様をお慕いする帝のお心は➡
我らが思うよりも はるかに お強いものだった。
♬~
俺も… どうしたらよいか 分からなかったのだ。
帝も また 人でおわすということですね。 ん?
かつて 父とのことも 道長様とのことも➡
あれも これも➡
思っていることと やっていることが 相反しており 悩んでいた時➡
それは 人だからじゃと 亡き夫に言われたことがございます。
帝のご乱心も 人でおわすからでございましょう。
道長様が ご存じないところで 帝も お苦しみだったと思います。
それを表に出されないのも 人ゆえか。
女も人ですのよ。
フッ… そのようなことは 分かっておる。
人とは 何なのでございましょうか…。
う~ん… 帝の御事を語るつもりが 我が家の恥をさらしてしまった。
ハハ… 我が家は 下の下だな。 あきれたであろう。
帝も道長様も 皆 お苦しいのですね。
これまでの話 役に立てばよいが…。
きれいな月…。
人は なぜ 月を見上げるのでしょう。 なぜであろうな…。
かぐや姫は 月に帰っていきましたけど➡
もしかしたら 月にも人がいて こちらを見ているのやもしれませぬ。
それゆえ こちらも見上げたくなるのやも。
相変わらず お前は おかしなことを申す。
おかしきことこそ めでたけれにございます。
直秀が言っておりました。
直秀も 月におるやもしれぬな。
誰かが…。
誰かが 今… 俺が見ている月を 一緒に見ていると願いながら➡
俺は 月を見上げてきた。
皆 そういう思いで 月を見上げているのやもしれぬな。
♬~
もう帰らねば…。
♬~
お方様は どうにかなってしまわれたのでしょうか。
(藤原為時)左大臣様の頼みに 応えようとしておるのだろう。
放っておいてやろう。 はい…。
(賢子)取れた!
♬~
これは…。
かえって 帝のご機嫌を損ねるのではなかろうか。
これが 私の精いっぱいにございます。
これで駄目なら この仕事は ここまででございます。
どうか 帝に奉ってくださいませ。
賢子… いらっしゃい。
左大臣様よ ご挨拶して。
賢子にございます。
うん… そなたは いくつだ?
6つ。 6つか。
おいで。
ほう… 母親に似て 賢そうな顔をしておる。
♬~
面白い物語を書く者がおりまして お上のお慰みになればと➡
お持ちいたしました。
(一条天皇)物語か…。 さようにございます。
後で目を通しておく。
それだけか? はっ。
このようなことなら 蔵人に渡しておけばよいものを…。
お許しくださいませ。 まあよい。 下がれ。
はっ。
♬~
何でございましょう。
ああ いや… それは もう 左大臣様にお出ししたのであろう?
はい。 こうした方がよいと思うところが あちこちにあって➡
直していると止まりませぬ。
お出ししてしまったのに まだ直すのか。
はい。 物語は 生きておりますゆえ。
♬~
「いづれの御時にか 女御 更衣が あまたお仕えしている中に➡
それほど高い身分ではありませんが➡
格別に 帝のご寵愛を受けて 栄える方がおりました。➡
宮仕えの初めから 我こそはと 思い上がっていた方々は➡
その方を目障りなものとして 蔑み 憎んでいたのです」。
殿が なぜ まひろさんを ご存じなのですか?
おとりでございますか。 そうだ。
心の内とは裏腹であろう。 帝の御代は 長くは続くまい。
譲られよ。 (祈とう)
死にまする。 従二位 正二位…。
たまには帰ってくるから泣かないで。 姫様…。
大げさだな…。 では 行ってまいります。
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