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時は 昭和 １１ 年 。

海軍中尉 江端 瀧昌に嫁いだ
なつ美 。

初めは ぎこちない２人でしたが
徐々に距離を縮めていきます 。

そして 新婚旅行で ついに 。

しかし 瀧昌は またすぐに
軍の仕事で行ってしまいます 。

その間 実家に帰省した
なつ美は➡

幼なじみの瀬田 準太郎と再会 。

２カ月後 夏の終わりに帰宅した
瀧昌は➡

なつ美から 瀬田の話を聞き… 。

嫉妬の炎が燃え上がった
瀧昌は… 。

今夜 初夜を最後までします 。

えっ…？

♬～

あっ 。

えっ？
あの… 。

少しだけ よろしいですか？

ああ はい 。

あの… 。

瀧昌さま おかえりなさいませ 。
ご無事で何よりでした 。

あの お会いしたときは
うれしくて つい… 。

ちゃんと言えなかったので 。

《俺は 何を恐れていたんだろう》

《なつ美さんは
こんなにも純粋に…》

やっぱり やめましょう 。

えっ？

初夜を最後までするのは 。

私たちは
距離を縮める方が先だって➡

自分で言っておきながら… 。

すみませんでした 。
あっ いや そんな… 。

頭を上げてください 。

代わりといっては何ですが➡

あした 一緒に
近くを歩いてみませんか？

えっ？

ごちそうさまでした 。

あっ 。

お茶 どうぞ 。
ありがとうございます 。

あの 瀧昌さま 。

はい？

近くを歩くということですが➡

どのような服装で行けば
よろしいのでしょうか？

えっ？
訪問着など➡

きちんとしたものが
いいのでしょうか？

それとも この前のように
洋装がいいのでしょうか？

色々考えてみたんですけど
分からなくなってしまって 。

あ… 堅苦しくない方がいいです 。

えっ？
あ～… 。

むしろ
部屋着のようなものの方が 。

俺も このままの格好で
行くつもりですし 。

あっ そうなんですね 。

今日は 風呂に早めに入り
夕涼みがてら行きましょう 。

分かりました 。

よいしょ 。
⚟瀧昌さま 。

あの… こんな格好は
どうでしょうか？

清々しく涼しいと書いて
清涼着というんですが 。

清涼着… 。
確かに涼しそうですね 。

はい 。 あの 次女のあき奈姉さんに
もらったんですけど➡

夏は とても使い勝手が良くて 。

アッパッパともいうらしいんです 。

アッパッパ？

はい 。
歩くと 裾がパッパと広がるから 。

ああ… パッパ 。
パッパ 。

パッパ… ああ… パッパ… 。

パッパッパパ… 。

フフッ 。
あっ 行きましょうか 。

はい 。

あ～っと こ… この川は➡

昔 坂井と一緒に
よく飛び込んだんですよ 。

へえ～ 。
結構深くて 。

フフッ 。

では 行きましょう 。
はい 。

ここの菓子
海軍に卸してるらしいです 。

へえ～ 。

この先で 少し休憩しましょう 。

はい 。

（ 女性 ） 出来上がりが楽しみですね 。
（ 男性 ） そうですね 。

♬～

この町には もう慣れましたか？

はい 。 不思議な町ですよね 。

海があって 街があって 。

かと思ったら
すぐ近くに山があって 。

こんな所 初め… あっ！

足元 気を付けてください 。

あっ はい… 。

♬～

あっ… 手… 。

危なっかしいので 。

俺は この町
結構 気に入ってるんです 。

両親が亡くなった後も
色々ありましたが➡

中佐を頼って ここに来て
よかったって思ってます 。

なので その… 。

なつ美さんにも この町を
気に入ってもらえたら… なんて 。

はい 。

本当は 俺の秘密の場所にも
案内したかったんですけど 。

秘密の場所？

えっと… 。

あっちの方に
小さな山があるんですけど 。

その山を登っていくと
小川があって 。

幅は このくらいの
小さな川なんですけど➡

蛍が たくさん飛んで
もうホントに奇麗なんですよ 。

もう辺り一面 ぶわーっと 。

そうなんですね 。

あっ でも
見頃は６月から７月なので➡

今の時期は もう… 。

ああ… 。

あっ… す… すみません
夢中になってしまいました 。

瀧昌さまは
蛍がお好きなんですか？

あ～ どうでしょう？
好きというより… 。

蛍は 訓練で忙しい父さんが
夏に帰ってくると➡

よく 見に連れていってくれた 。

ただ それだけです 。

そろそろ 中入りますか 。

来年… 。

ううん 。

再来年も その次も
見に行きたいです 。

わが家の恒例行事にしませんか？

あっ まあ 瀧昌さまが
帰ってこられればですが… 。

わが家… 。

それなら… 。

必ず帰らないといけませんね 。

♬～

♬～

ここがテーラー 。
初めて来ました 。

俺も初めてです 。

昨日の食事会の後
柴原中佐に言われてしまったので 。

瀧 。 ところで どうして
今日は軍服なんだ？

えっ？

ああ… 背広を持っていないので 。

そうか 。
背広ぐらい作りなさい 。

はあ… 。
テーラーを教えるから➡

仕立てに行きなさい 。

すみません 。
背広を作りたいんですが 。

（ 昭平 ） いらっしゃいませ！

テーラークサカベへ ようこそ！

子供… 。
カワイイ 。

《子供は正直… 苦手だ》

僕 お父さんか お母さんは？

僕じゃないよ… あっ です！
昭平です！

お父さん… 父は
おなかを壊して うんこです 。

なので 今は僕が店主です 。

なら 出直しますか 。

そうですね 。
あの お父さまに➡

「 お大事に 。 また来ますね 」 って
伝えてね 。

えっ ！？
では 行きましょう 。

はい 。

待って！ 僕 できるよ！

子供には無理では… 。
お父さんの手伝いも➡

いつもしてるし
勉強も たくさんしてるし➡

今日だって 僕なら店番できるから
任されたんだ！

それから それから え～っと… 。

昭平君は
一人前のテーラーでいいのかな？

あっ うん！ そうだよ！

えっ… 。

瀧昌さま いかがですか？

そ… 。

なら お願い… するか… 。

それなら まずは！

《なぜ おんぶ？》

じゃあ 肩幅を測りますね 。
動いちゃ駄目ですよ 。

採寸なら
俺が しゃがめばいい話では？

分かってないなぁ
海軍のお兄ちゃん… 。

《カ… カワイイ～！》

《瀧昌さまが
子供をおんぶしてる》

《まるで親子みたい》

《っと 瀧昌さまを
カワイイだなんて➡

そんな失礼なこと…》

《あっ でも もしよ…
もしもの話よ》

《男の子が生まれたら…》

《そっくりな制服を着せて》

絶対カワイイ～！

なつ美さん？

（ 店主 ） すまん 昭平
一人で大丈… 。 ➡

こら～っ ！！

愚息が大変失礼しました 。
カワイイ息子さんですね 。

テーラーの仕事に興味津々で 。

では 先に生地を選びましょう 。

袖や胸のボタンの数や位置➡

ベントのデザイン ラベルの形
ご希望はありますか？

いえ… 特に希望は 。

かしこまりました 。
では 先に生地を決めて➡

もろもろ説明します 。

俺 こういうのは
からっきし駄目なんで➡

なつ美さん 頼めますか？
あっ 私も 男物には➡

全然 詳しくないのですが 。

ゆっくりで構いませんよ 。

瀧昌さまに似合う色… 。

似合う… 。

あの！ 白とかってありますか？

《に… 似合わない…》

《絶対 変》

体に合ってないのも原因かと 。

他の色にします 。

では… 。
あっ はい 。

何か助言があるなら
教えてほしい 。

でも さっき
お父さんに怒られたから… 。

構わない 。
たくさん勉強したんだろ 。

あの… ぜひ このままで 。

ホントにいいの？
ああ 。

来て！

あのね あのね お兄ちゃんは
体格も良くて 身長もあるから➡

すらっと見える色がいいよ 。

この色とか こういうの 。

こっちもいいよ 。

これか 。
違うよ そっちは格子柄でしょ 。

あっ はい 。
（ 昭平 ） 柄がいいんなら➡

縦じまもいいかな 。
この濃紺がいいよ 。 ➡

あとはね あとはね…
あっ でもな～ 。 ➡

海軍のお兄ちゃん 聞いてる？

ああ 聞いてる聞いてる 。

（ 昭平 ） こっちも
いいと思うんだよね 。

（ 昭平 ） はい どうぞ 。

お兄ちゃんの採寸が終わるまで
ここで待ってて 。

あっ 待っててください 。

ありがとう 。

生地選びも手伝ってくれて
助かったわ 。

おかげで いいものができそう 。
ヘヘッ 。

あっ そうだ！
カフスボタン見る？

お兄ちゃんのシャツ
せっかくのダブルカフスなのに➡

地味なボタンで
もったいないなって思ってたんだ 。

あった！

あっ いろんなのがあって
奇麗で おしゃれね 。

でしょ！

あっ トンボ柄ってあるのかな？

どうだったかな 。

でも どうして トンボ？

トンボは
前にしか飛ばないでしょ 。

だから 昔から
勝ち虫って呼ばれていてね 。

武運長久の意味があるの 。

武運長久… 。

戦いの中で
幸運が長く続くこと➡

それから
いつまでも無事でいること 。

お守りになればなって 。

なら 僕も一緒に探してあげる 。

ありがとう 助かるわ 。

採寸お疲れさまでした 。
ありがとうございます 。

⚟ （ 昭平 ） 違うよ～ 。

細かいのね 。
あっ こっちは桜？

軍服に似合いそう 。
もう～ ちゃんと探してよ 。

え～っと… 。

どうかされました？

ああ いえ 。
（ 昭平 ） これかな？➡

あった！ あっ 違った… 。
ただ 案外 子供も➡

いいものかなって… 。

思ったより
時間がかかりましたね 。

でも 楽しかったです 。
昭平君も かわいかったですしね 。

思わず 瀧昌さま似の子供が
いたらって想像しちゃいました 。

えっ… 。
男の子でも 女の子でも➡

カワイイんだろうな～ 。

なつ美さん似の子供の方が
絶対カワイイですよ 。

えっ… カ… カワ… 。

お… 父さん… 。

って 呼ぶんでしょうか… ね 。
そのうち… 。

えっ… ああ… 。

お… 母さん？

へっ ！？

あっ ずいぶん 気が早いですよね
私たち 。

あっ あの 服 預かります 。

すみません 。
あっ すみません 。

あの… 。

俺としては
なつ美さんには ずっと➡

名前で呼んでほしい… かな…
なんて… 。

あっ… 便所 行ってきます 。

あっ 。

《どうやって渡したら
いいんだろ？》

単に 「 どうぞ 」 って渡したら
いいのかな 。

もう少し かしこまる？
いや でも勇気が… 。

この際 こっそり
シャツにつける？

でも何か 少しさみしい気も… 。

ううん それより… 。

《戦地に行くわけでもないのに
武運長久は重いのでは？》

どうかしましたか？
いえ 何も 。

遅くまで 何を？

あっ えっと
家計簿を書いていまして 。

ああ 。
私は ついでに日記も書くので➡

時間がかかって 。

じゃあ 俺も日記書くかな 。

瀧昌さまも
日記書くんですか？

とりとめのないことを
簡単にですが 。

あ～… 。

今日 書くことは… 。

テーラークサカベへ ようこそ！

フッ… 一緒ですね 。

ずいぶん たくさん書くんですね 。

あっ はい 。
あの テーラー に行ったこととか➡

子供 欲しいなって
思ったこととか 。

えっ… そ… それって… 。

なので お願いがありまして 。

子宝に御利益のある神社に
一緒に行きたいな… なんて 。

念のため伝えておきますが
子供って➡

初夜と同じことをして
できるものですよ 。

へっ ！？
あっ そのつもりじゃないのは➡

分かっていますので
今日は もう寝ましょう 。

あっ… はい 。

あっ！

なつ美さん 。

はい 。

懐に 何か入ってませんか？
小石みたいなもの 。

小石？

あっ 。

《さっき ここに隠したんだった》

大切なものなら
ちゃんと しまわないと 。

あっ… いえ これは… 。

あの… 瀧昌さま 。

よかったら これ 使ってください 。

中 開けても？

はい あの… 私の体温で
生温かいかもしれませんが 。

今日 テーラーで買ったんです 。

トンボ柄には
武運長久の意味があ っ て… それで 。

《笑った》

ありがとうございます 。
大切に使わせていただきます 。

よかったです 。
少し不安だったので 。

なぜです？
あっ 武運長久なんて➡

重いかな～って 。
戦地になんて行かないのに 。

（ 深見 ）１２ 月の ロンドン での会議は
決裂したのか 。

（ 将校 ） 英断だろう 。
これ以上 船を減らされて➡

まともに戦えるものか 。

海軍の長い休暇も
これで終わりか 。

この先は いつ 何が起こっても
おかしくないか… 。

瀧昌さま？
どうかされました？

あっ いえ 別に 。
ただ 帰ってきてから➡

仕事のこと
すっかり忘れていたなと 。

それなら よかったです 。

えっ？

ゆっくり休めたんですね 。

って 失礼なこと言いましたよね 。
大切なお仕事なのに すみません 。

いえ 。

こんなに休めたのは 初めてです 。

♬～

フゥ… 。

よしっ 。

神妙な面持ちで
何をしてるんです？

あっ 軍服に
アイロンをかけようかと 。

あっ ありがとうございます 。

いえ お礼は早いかと思います 。

《父さまの背広を
焦がしたことあるし》

布で試して… 。

♬～

あっ 。

焦げてない 。

よし… 本番 。

♬～

あの 瀧昌さま 。

見てても 大して面白くないと
思うのですが… 。

いえ 実は あし… 。

知らないことなので
結構面白いです 。

見ていてもいいですか？

はい 。

（ 息を吹き込む音 ）

♬～

♬～

へえ～ 見事なものですね 。

いえ これぐらいなら
誰にでもできますよ 。

そうだ 。 せっかく
奇麗にしてもらいましたし➡

軍服を着て しゃ… 。

写真を撮りに行きませんか？

えっ？
⚟ （ 郁子 ） あら～！➡

それなら おしゃれしなきゃね 。
私の服を貸してあげる 。

いつの間に… 。
そうねぇ 例えば➡

いつもより大人っぽく
若奥さま風とか 。

あっ 英国調の職業婦人風の洋服も
いいわね 。

あ～ でも 令嬢風のワンピースも
捨て難い！

パラソル持たせたいけど
撮影のときに邪魔かしら？

あとは あとは
しっかり お化粧をして➡

腕を出した洋装で
女優さん風とか？

さっ 瀧君は どれが好み？

いや… どれって… お… 俺は… 。

《どれも似合いそうだから…》

どれでもいい 。

はぁ ！？　「 どれでもいい 」！？

そんな言い方するなら
瀧君は外で待ってなさい！

えっ えっ えっ… 。

こっちで決めます！

《褒めたつもりだったんだが…》

まったく 瀧君ってば
あの言い草はないわよね 。

昔から 女性に対して
無神経なのよね 。

さて どうせなら髪形も変えて
大人っぽくしましょうか 。

ありがとうございます 。

今日は 柴原さんは
ご一緒じゃないんですか？

邦光さんなら
今日 船に帰ったわ 。

えっ もうですか ！？
ほんの数日しかたってないのに 。

ちゃんと 前を向いて 。
すみません 。

副長だから短いのもあるけれど➡

この時期は
だいたい こんなものよ 。

それ… では… 。

《瀧昌さまも もうすぐ…》

瀧君なら 話せば
ちゃんと受け止めてくれるわ 。

それは保証する 。

さ～て 奇麗になって
瀧君を驚かせましょ 。

♬～

《話す…》

《何を？》

⚟ （ ふすまの開く音 ）

ねえ どうよ？ どうよ？

問題ありません 。

《いつ 出立するのか？》

瀧君も早く支度なさい 。

奥さまは こちらに
お座りください 。

《いつ 出港するのか？》

《次は いつ 帰ってくるのか？》

《でも それを聞いたら
瀧昌さまを困らせるよね…》

（カメラマン） 奥さん
そんなに緊張しないで 。 ➡

魂まではとりませんよ 。

あっ そうですよね… 。

なつ美さん？

どうかしましたか？

現像が… 。

あしたの昼ごろになるそうです 。

《お願い…》

《 「 一緒に受け取りに来ましょう 」
って言って…》

そうですか 。

では 受け取って
郵送してください 。

はい 。

（カメラマン） それでは撮ります 。
動かないでください 。 ➡

せ～の 。

（ シャッター音 ）

郵送して… か 。

⚟なつ美さん 少しいいですか？

あっ はい！

写真館では
妙な言い方をしてしまい➡

すみませんでした 。

実は あれは… 。
それなら！ あの… 。

あした あれなんですよね あの… 。

人前で言えないから
あの言い方だったんですよね 。

それなら あの…
荷造りはできてますか？

何か お手伝いできること
ありますか？

あの…
また アイロンかけましょうか？

いえ そこまでは… 。

あの… ですよね すみません… 。

えっ？

あっ… 。

あれ？

目に… ごみが… ごめんなさい 。

♬～

♬～

さみしい… 。

そこで待っていてください 。

《お国のために働いてるのに…》

《妻失格ね》

（ 泣き声 ）

♬～

俺は なつ美さんのさみしさを
解消する➡

方法も 言葉も持っていません 。

なので 両親のまねをします 。

父は いつも 出立前に
母に髪を切ってもらっていました 。

それは 後ろ髪を引かれる思いを
断ち切るという決意と➡

必ず帰るという
約束でもありました 。

なので なつ美さん 。

俺の髪を切ってください 。

帰る… 。

（ 泣き声 ）

嫌… 嫌でしたか？

あの… でも これしか
思い付かず あの どうしたら… 。

切らせてください 。

♬～

♬～

父は 一見 堅い人なんですが… 。

髪を切る…
後ろ髪を断ち切る… 。

冗談か本気か
分からない発言が多く… 。

それから 母は
とても生真面目なんですが… 。

手元が少し狂ったので➡

切り過ぎた部分は
日本列島の形にしておきました 。

おう… おお… 。

やるな 。

少しずれているところがあり➡

あらためて口にすると
変な人たちだったかも… 。

すてきなご両親だなって
思いました 。

お会いしたかったです 。

２人のことを
誰かに話したのは➡

亡くなってから初めてです 。

（ 瀧昌の母の泣き声 ）

瀧昌さま？

あっ… 。

つらいことを
思い出させましたか？

いえ 。

続けてください 。

♬～

♬～

いただきます 。

うまい 。

本当ですか？

本当です 。

瀧昌さまに食べてもらいたくて
練習したんです 。

そうだったんですね
ありがとうございます 。

あっ いえ お礼なんて 。

うん 。

♬～

では いってきます 。

どうか お気を付けて 。

なつ美さん 。

♬～

いってらっしゃいませ 。

いってきます 。

♬～

そして １カ月が過ぎました 。

（ 郁子 ） なつ美ちゃんは
これ お願い 。

あっ はい 。
（ 郁子 ） それを➡

客間に並べてちょうだい 。
はい 。

なつ美は
海軍士官の妻たちが集まる➡

花筏の会の準備に
追われていました 。

フゥ… 。

《えっと 座布団の正面は…
こっちだから…》

♬～

（ 花器が倒れる音 ）
あっ！

あっ… ああ… 。
⚟ああ～ 。

もう 何をやっているの 。
申し訳ありません 。

せっかくのお花が台無しじゃない 。
すみません 。

ああ… 。

あなた 見ない顔ね 。

あっ あの… 。

名前は？

あの… 江端 瀧昌の妻
なつ美です 。

あなたが 。

私は 花筏の会の会長です 。

もう さっきから見ていたけど
もう 座布団の並べ方は遅いし➡

もっと ちゃきちゃき動けないの？

えっ？ そんなことでは
海軍士官の妻として➡

夫を支えることはできませんよ 。
それからね… 。

⚟ （ 芙美子 ）
その辺にしてはいかがですか 。 ➡

確かに
ゆっくりかもしれませんが➡

とても丁寧な作業をなさる方だと
お見受けしましたよ 。

座布団は全て
正面が前になるように➡

置かれています 。
（ 会長 ） ああ まあね 。 ➡

まあ だけど お花が… 。

（ 芙美子 ） お花は やりかけたまま
席を外していた私が悪いんです 。

もう一度
生け直せばいいだけですよ 。

あまり気に入ってなかったので
ちょうど よかったです 。

（ 会長 ） まあ 芙美子さんが
そう言うのなら 。

以後 気を付けなさい 。

申し訳ありませんでした 。

あっ あの…
ありがとうございました！

気になさらないで 。

はい… あの… 。

芳森 芙美子です 。

芳森さん… 。
芙美子で構いません 。

あっ はい… 芙美子さん 。

すぐに片付けましょう 。
あっ はい 。

（ 芙美子 ） 以上が 今日の流れです 。

続いて こちらが
今日の参加者と席次です 。

奥さまのお名前と
旦那さまの階級を➡

頭に入れてください 。
はい 。

私が 皆さまを
席へご案内しますので➡

なつ美さんが
お茶をお出ししてください 。

それと同時に お顔とお名前を
一致させてください 。

あの この席順だと
私が芙美子さんよりも➡

上座なのですが
私が末席なのでは？

これでいいんです 。

私は手伝いに来ただけですから 。

先ほどの会長が
私の伯母なので 駆り出されて 。

ああ そうなんですか 。

ですから 私は
会の正式な人間ではありません 。

未婚ですし 。

あっ… あの
てっきり 年上なのかと 。

年上ですよ 。
えっ ！？

あっ すみません 私… 。

大丈夫です 慣れていますから 。

えっ？

タイピストとしての矜持を
持っていても➡

結婚までの腰掛けと言われ
結婚をせっつかれて… 。

タイピスト ！？

私 女学校時代
タイピストに憧れてました！

（ タイプライターを打つ音 ）

（ タイプライターを打つ音 ）

すてきですよね～ 。

でも 私は成績も いまひとつで➡

どんくさいから向いてないって
言われて 諦めたんです 。

あっ だからなんですね 。

丁寧に
段取りを教えてくださったり➡

席次表も準備してくださったり 。

働いてる方は視野が広くて
気配り上手なんですね 。

《うっ… 麗しい！》

《 『 少女画報 』 の小説に
出てきそう！》

では 続きを 。
伯母に挨拶をするときは➡

伯母の話を遮らないように
気を付けてください 。

なつ美さん 聞いていますか？

はい もちろんです！

なつ美さん 。

そして いよいよ
花筏の会が始まります 。

♬～

♬～

あっ！

［ 『 波うららかに 、
めおと日和 』 は…］