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(鐘の音)
〈この世界には 様々な国があり→
その様々な文化 様々な環境の下に 私たちは生まれ育ちます〉
〈けれど その誰しもに 唯一 生まれた瞬間から→
平等に与えられているものが あります〉
〈それが時間です〉
♬~
〈これは まだ 時間という概念が→
現代とは 大きく異なっていた時代に→
時計に魅了され 平等な刻を追い求めた→
服部金太郎の物語です〉
(吉邨英恭)楽しみですなあ。
(笠井恒雄)えーっと…。 (吉邨)えーっと…。
(笠井)吉邨さん こちらですね。 で 善路さん…。
(岩倉善路) 社長は そろそろですかね…。
(𠮷川鶴彦の声)金太郎さん… あっ いや… 社長。
古希をお迎えになった事… お祝い致します。
本社の復旧を待って→
この席を2年も遅らせてもらって すまない。
だが こうして 無事に 皆で集まれた事を→
心から嬉しく思う。 ありがとう。
(吉邨)社長 まだ 1人 来られていないようですが…。
ああ…。 これで全員のはずだがな。
(笠井)社長も ご存じないのですか?
ああ…。
ともかく始めよう。 お願いします。
〈金太郎と善路が出会ったのは→
2人が丁稚奉公に入った 辻屋でした〉
♬~
≫おい 金太郎! お客様だぞ!
へい! いらっしゃいませ。
〈善路は 金太郎を兄のように慕い→
金太郎も また 善路を→
弟のように かわいがっていました〉
金太郎… そろそろ お嬢様の迎えじゃないか?
もう そんな時分ですか! すぐに参ります。
いえ そんな事は…。
どうかしましたか?
(幸三)ああ… 善路がな この手で そろばんを教えようってんで→
無理だって言ってたとこだよ。 ハハッ…。
善路 隠したって変わらない。
善路!
逃げるな 善路!
善路。 下の者に教えるのは お前の仕事だ。
でも 金太郎さん… 俺には…。
自分が 手際良くできないからこそ→
まだ仕事のできない者の気持ちが わかる。
善路の教え方は 丁寧でいいよ。
≫(足音)
善路さん! 続き お願いします。
あっ… うん。
よし 戻ろう。
金太郎さん お嬢さんのお迎え…。 あっ そうだった!
≪♬~(辻 浪子) 「御座れ 話しませうぞ」
♬~「こん小松の蔭で 松の葉の様にこん細やかに」
♬~(三味線)
今日は 一段と熱が入りましたね。
そうなの。 だから おなか すいちゃった。
お団子でも食べて帰りましょう。 あっ… いや…。
フフ… お代なら心配いらないわ。 私が払います。
それはいけません!
私ごときに めっそうもありません!
もう… 真面目なんだから。 いいから行きましょうよ。
いけません! お嬢様… お嬢様!
フフフフ…。
あんなに拒んでたのに 見事な食べっぷりね。
あっ… すみません。
でも どうせ 旦那様に叱られるのなら→
げんこつに耐えられるように 腹ごしらえをして…。
フフ… お父様は 金太郎さんに そんな事しないわ。
だって 金太郎さんの事 気に入ってるんですもの。
私をですか…? そうよ。
ねえ 金太郎さんは 年季が明けたら どうなさるの?
何をしたいかは まだ…。
ですが 何をやるにしても 一番になりたいと思っています。
♬~
(辻 粂吉)今回 英国を回って 感じたんだがね→
鉄道は 人間の移動手段を 変えるだけでなく→
物の流れも変えるよ。
移動時間が短縮されれば→
商業圏は拡大して 商業活動が活発になるからね。
これは 洋行中に買ってきた懐中時計だ。
これからの商売には→
もっと正確な時間が 必要とされるだろう。
旦那様! 手に取って見ても…?
もちろんだよ。 さあ みんなで見なさい。
失礼します。
♬~
美しいですね…。
♬~
やっぱり ここでしたね。 ああ…。
どうも この時計の事が 頭から離れなくてね…。
俺もです。
こんな見事な彫りが 俺にも できたらいいのに…。
そう思うなら やればいいさ。
でも…。
この手じゃ…。
善路。
この針が一つ動いた先は 誰にも わからない。
私のこれからも 善路のこれからも→
何一つ決まっていないんだ。
だったら 想像するのは自由だろう?
♬~
(時計の音)
(店主)駄目だ こりゃ。 (店主)今日は商売あがったりだ。
(店主)まったくだ。 これ 駄目だ 今日は。
お迎えに上がりました!
師匠 お嬢様は?
おや? 外にいなかったかい? ええ。
稽古は 今 終わったのですか?
いや 今日は出来が良かったから いつもより早く切り上げたよ。
お嬢様! 浪子さーん!
浪子さーん!!
≪(浪子)やめてください!
浪子さん…!
≪(浪子)離してください! 誰かーっ! 助けて…!
(男)うるせえなあ! 浪子さん!
金太郎さん!
浪子さんを… 離せ!
おい かっこつけてると 痛い目 遭うぞ。
おりゃっ! うおおーっ!
くっ…!
てめえ ふざけんじゃねえ オラ! (蹴る音)
オラァ!
(蹴る音) (男)オラァ!
(泣き声)
やめて! 金太郎さん! 金太郎さん…!
うおおーっ…!
うわあっ…!
うわああーっ…!
どうした!? かかってこい!
おい もう行くぞ!
(男)お前ら… 覚えてろよ!
(泣き声)
浪子さん…。
(泣き声)
もう 大丈夫ですよ。
(浪子の泣き声)
申し訳ございませんでした!
私が もう少し早く お迎えに上がっていれば…。
(辻)何を言ってるんだ。
君が気づいてくれなければ それこそ大惨事になってたよ。
浪子の事なら心配いらん。
さあ 掛けなさい。 はい…。
今日 呼びつけたのは 年季が明けたあとの話だ。
率直に聞くぞ。
君は このまま辻屋に残る気はないか?
えっ…?
仕事ののみ込みの早さ 丁寧な接客 そして 学ぼうとする心。
何より 君は 己を律する精神力にたけている。
この2年間 君は 一番に店に入り 商いの準備をし→
誰よりも遅くまで 仕事を学ぼうとしてきた。
私はね 君の将来が楽しみなんだよ。
辻屋に迎え入れて 君を 立派な商人に育ててみたいんだ。
「迎え入れる」というのは…。
いずれ この辻屋を 継いでほしいと思ってる。
浪子の婿になってね。
♬~
お父様から聞いたわ 辻屋に残ってもらう話…。
ええ…。
しかし 私には もったいない話です。
そんな事ない!
私も ずっと思ってたから。
えっ…?
金太郎さんが 辻屋に 残ってくれたらいいのにって。
だから お父様のお考えは嬉しい。
浪子さん 私も…。
(鼻緒の切れる音) あっ…!
♬~
あっ…。
肩を。
♬~
どうぞ お嬢様。
うん… ありがとう。
♬~
(時計の音)
(辻)さて… 返事を聞かせてもらおうかな。
申し訳ありません!
お断りさせてください。
こんな ありがたい申し出を 断れる身分ではないのは→
承知しております。
ですが 私は…→
お嬢様の一件で 自分の生きる道を見つけたのです。
どういう事だ?
あの日 お嬢様を 危険な目に遭わせてしまったのは→
時を共にできていなかったから なのです。
今 多くの人は それぞれの時で動いています。
だから いつ どこにいるのか わからないのです。
もし 目印のようなものがあれば お互いの動きに見当がつきます。
それが 時計でございます!
もう それぞれの時間で動く時代は 終わりです。
生活の全ては 時間を基準に 行われるようになります。
お嬢様の事だけではなく 時間を正確に知れる時計は→
必ず 私たちの生活を変えてくれます。
誰にでも 平等な時を与えてくれます。
つまり 君は…。
時計商になると… 決めました。
♬~
その気持ちは揺るがんのだな?
はい… 申し訳ございません。
だったら… 勝手にしろ!
♬~
金太郎さん 俺も 年季が明けたら→
機械彫りの店に 奉公に行くつもりです。
ああ。
一足先に 時計を学んでくるよ。
金太郎さん 頑張って!
≪達者でな。 (幸三)金太郎 元気でな。
≪(浪子)金太郎さん!
♬~
浪子さん…。
これ… お父様からです。
えっ…。
きっと 時計修理を学ぶのに 役立つだろうって。
旦那様が…。
しかし こんな高価なものを…。
(浪子)彫りのない安物だから 気にするなと言われたわ。
しかし お嬢様…。
♬~
金太郎さんは 一番になる。
すごい人になります。
必ず 一番の時計商になります!
その時には…。
♬~
また お会いしましょう? フフッ…。
♬~
フフッ…。
〈きっと 金太郎は→
浪子と添い遂げたかったに 違いありません〉
〈それでも 自分の信念に従い 時計商の道を選んだのです〉
お名前は? 繁吉と申します。
繁吉さん。
♬~
うーん…。
♬~
どうぞ。 (舌打ち)
すまないな。
お前は 時計の技術を学びたいだろうに。
いえ。
こんな新米に 修理を教えてくれて→
道具まで 持たせてくれているのですから→
本当に感謝しています。
♬~
♬~
時計って… すごいな。
申し訳ございません! 遅くなりまし…。
(男)坂田さんよ!
(坂田) どうか… どうか ご勘弁を!
(男)坂田さんよ 借りた金は返さねえと。
それが 人の道理ってもんだろうが。
おい。 (男たち)へい。
ちょっ ちょっ ちょっ ちょっ… ちょっと待ってください!
それは お客様の大切な…!
小僧は黙ってろ! (蹴る音)
うわっ…!
おい お前らも もう居場所ねえぞ。 この店も差し押さえだ!
(坂田房江)私たちは これから→
どうやって生きていけば いいんですか!
うるさいな! オラ!
俺たちの給金はどうなるんだ? (坂田)えっ?
こっちにも生活があるんだよ…。
少しでも もらわねえと もう 死んじまうよ!
(男)おいおい そんなに責めてやるな。
こいつは 借金の肩代わりを させられただけなんだからよ。
ほい。
(房江)いけません! (坂田)やめろ!
(男)それで ちっとは 暮らしの足しにしろ。
(坂田)やめなさい! やめろ!
(房江)いけません いけません! 離して…!
(坂田)やめなさい! よこせ!
♬~
親方は きっと もう一度 時計商を始めるのでしょう?
その時に→
道具の一つも持っていなければ 困ります。
それと ためていたお金が 7円ほどあります。
(房江)えっ… これは開業資金にって…。
自分の家を店にすれば 資金はいりません。
私には 親方に教えて頂いた 技術があります。
それで十分です。
頂き物ではございますが…→
あのお方なら きっと→
これを差し出す事を 喜んでくれるでしょう。
♬~
(坂田)金太郎 本当にありがとう…。
だが これだけは 君の未来のために使ってほしい。
♬~
ありがとう…。
♬~
≪(店員) ありがとうございました!
大久保利通が暗殺されて 日本は どうなるんですかね?
まあ 伊藤博文が 引き継いでいくのだろうけど→
洋銀相場の高騰での輸入超過を どうにかしないとな。
≪(店員)はい お待たせ!
俺も 全く同じ考えです!
こっちに酒を! あっ はい!
金太郎さんは?
酒は どうも 体に合わん。 よく酒なんか飲めるよ。
そしたら お茶も1つ。 (店員)はい ただ今。
変わったな 善路。 その手も 昔は隠していたのに。
金太郎さんのおかげです。
隠したって何も変わらない。
今は 機械彫りの職人になるので 精いっぱいです。
うん。
私は 時計の精密さを 善路は 時計の美しさを。
いつか 一つの時計を 2人で作れたらいいな。
はい!
はい 酒とお茶ね。
ありがとう。 どうも。
ところで どうなんですか? うん?
亀田時計店の娘さん。 縁談 受けたんでしょう?
亀田時計店は大店ですからね。
時計商で一番になるっていう夢も 近づいたんじゃないですか?
善路!
金太郎さん?
だ… だ… 大丈夫だ。
おかしいな…。
これ 酒じゃねえか!
≫(雨の音)
≫(辻)金太郎。
旦那様!?
どうして ここに?
開店祝いだよ。 ほら。
こんな雨の日に… 精が出るな。
雨の日だからこそ… です。 うん?
お客が来ない間は 修理に専念できる。
大切な時間を無駄にしないのも 時計商を志した理由の一つです。
ハハハハ…。
評判の修理屋っていうのも うなずけるよ。
ですが 旦那様…。 うん?
中古の時計販売は さっぱりでして…。
おお…。
他の店とは違う売りがなければ→
わざわざ うちで買ってはくれません。
「売り」ねえ…。
君は 腕に自信があるんだろ?
もし 私が客だったら それを証明してほしいと思うがね。
技術の証明… ですか…。
話は変わるが 一つ めでたい事があってね。
浪子が嫁に行くんだ。
あいつも いい年だ。 そろそろと思っていたところに→
軍医をなさってる うちのお客様に 見初められてね。
(辻)どうした?
いえ…。
まさか…。
お… おめでたい事は 続くものですね!
私も 実は 大店の亀田時計店に 縁談のお話を頂いていて!
ぜひになんて言われてしまって。
時計商を志す者としては 大変ありがたいお話です!
♬~
いい… 人ですか? その軍医の方は。
ああ。 気持ちのいい男だよ。
そうですか。
金太郎…。 はい。
人生っていうやつは 思いどおりにはいかないもんでね。
ただ… あとになって 振り返れば→
その全ての出会いに意味がある そう思える日が来る。
必ず来る。
♬~
どうか… お幸せに。
♬~
見てみ。 1年間保証だってよ。
タダで直すって事ですか?
そんなうまい話が 本当にあるのかい?
ええ。 嘘偽りはありません。 腕に自信がありますから。
へえ~。 値段も安いし ちょっと見せてもらうよ。
どうぞ ご覧ください。
(まん)ごめんください。 あの この時計なんですが…。
直せるでしょうか?
あまり見ない代物ですね。
この彫りは 魚子彫り…。
父の形見なのですが→
群馬では 直せる職人がいなくて…。
群馬から わざわざ…。
わかりました。 やってみます。
ありがとうございます!
おところと お名前を 書いてください。
♬~
しかし 見るほどに美しい彫りだ…。
♬~
お好きなんですね。
…えっ?
時計です。 楽しそうに見ていらっしゃるから。
ああ… ええ…。
寒いな。 ああ 寒いねえ。
≪(風の音)
(店主)すげえもんだ。
壊れた時計を 金に変えちまうんだから。
それだけ 皆さんが→
時間を考えて暮らすようになった という事です。
ああ…。
あんたは 金を稼いで どうするんだい?
そうですねえ…。
出先でも みんなが時間を知れる→
大きな時計の塔を 建ててみたいですね。
(店主)時計の塔…?
そりゃ無理ってもんだ! ハハ…!
何万個 売ったって 無理だよ そんなの…。 ハハハハ…!
≪おい! おい! (店主)ああ?
火事だ 火事! (店主)どこだい!?
(半鐘の音)
金太郎さん あんたの店のほうじゃねえか!?
(男性)火事だ 火事だ! 火事だ!
(男性)このままじゃ 火が…! (男性)駄目だ 逃げろ!
(半鐘の音)
(男性)もっと早く! もっと早く行け!
(せき込み)
(せき込み)
(消防組)おい! 何してやがる! 死んだら 元も子もねえだろ!
ちょっと待ってください!
(消防組)馬鹿野郎! 戻ってこい!!
(せき込み)
うっ…!
あなたは…。
大丈夫だったのですね?
この辺りで大きな火災があったと 新聞で読んだもので…。
確か… 山本まんさんでしたね。
もしかして 服部さん それ…。
無事だった時計を 返して回っています。
あなたからお預かりした時計も 無事ですよ。
とても美しい彫りでしたし→
きっと大切なものだろうと 思ったので。
どうしました?
あっ… いえ。 こんな状況になって 落ち込んでいるのかと…。
確かに 全てを失いました。
商売道具も やっと築いた城も…。
でも これまで培った時計修理の腕や→
それを認めてくれたお客様が→
消え去ったわけでは ないでしょう?
しっかり動いています。 お聞きになりますか?
えっ…?
いつ聞いても いい音です。
♬~
(時計の音)
(服部信子)お父様 何をしているのですか?
時計というのはね 音で調子がわかるんだ。
まん あとで見ておこう。 お願いします。
さあ ご飯にしましょう。 (服部直子・信子)はーい。
♬~
勉強のほうも頑張っているね。
(まん)ええ。 若い頃 学びの機会がなかったので。
学ぶ事は いくつになってもできるさ。
まん 一つの事は 60回 繰り返して覚えなさい。
60回?
(信子)お父様 数字は 1 10 100と進むのですよ!
確かにそうだが 日々の暮らしは 60秒が1分になり→
60分が1時間になり 1日を作るんだ。
あなたは 本当に 時間と共に生きてる人なんですね。
違います。 お父様は ご飯粒と共に生きているのです!
(一同の笑い声)
♬~
(笠井)いらっしゃいませ。 どうぞ ご覧になってください。
どういったものをお探しで?
こちら よくお似合いだと思いますよ。
(郵便配達員)郵便です。 服部金太郎様。
はい。 ご苦労さまです。
♬~
(笠井)失礼致します。
社長 お手紙が届いています。 ああ…。
吉邨殿か。
新聞 ご覧になりましたか?
パリでの万国博覧会に向けて→
エッフェル塔なるものが 建設されるそうですよ。
東京にも そんな塔が建てば 面白いのにな。
≪(英語)
海外製の懐中時計の販売枠を 増やして頂けるという事ですか?
ええ。 うちは 数多くの時計商と 取引していますが→
服部さんが一番信用できると 判断しました。
服部さんは 契約書どおりに 必ず代金を納めてくれます。
一日だって遅れた事はない。
しかし 他の時計商は違います。
夏の氷代 冬の餅代として→
盆暮れにまとめて支払う方が 多いんです。
契約書に 支払いは→
納品から30日以内と 書かれています。
「契約書は関係ない。 ここは日本だ」。
「こちらの流儀に合わせろ!」 それが彼らの言い分です。
そんな…。
ちなみに 販売枠は どの程度 増やして頂けるんでしょうか?
服部時計店を 最上級顧客として 厚遇するつもりです。
つまり お望みであれば 好きなだけ。
君 君…。
♬~
今日は 東京の時計商仲間の 代表として来てる。
わかりました。 今 お茶を…。
茶なんて飲みたくない! でしたら 握り飯でも…。
ふざけてるのか!?
あんたのおかげで どれだけ迷惑してるか→
わかってるのか!?
私のせいで?
いいか? 同業者の大半は→
盆暮れの大商いで得た金を 支払いに充ててるんだ。
それが日本人のやり方だ。
待ってください。
それでは 私にも あなたたちと同じように→
契約を破ってでも 日本の流儀を通せと?
そうだ! あんたのせいで 店を畳んだ仲間もいる。
それを なんとも思わねえのか!
取り決めを守ってこその商売です。
500個も…!?
そんなにたくさん 仕入れたのですか?
ああ。 彫りのない 廉価版の時計だがね。
無地の時計は 確かに安いですが 売れるのですか?
お客様は 美しい彫りを 求めているのでは…?
だから その彫りを日本で施す。
そうすれば 彫りの入った 海外製の時計の10分の1の値で→
同じ数を仕入れる事ができる。
外国製に引けを取らない 彫りを施せる職人は→
いるのですか?
それは 今 早急に探しているところだ。
支払いは いつもどおり 納品から30日以内。
これ以上の資金繰りは無理です!
しかも 職人のめども 立っていないなんて…。
いつまで乗り切れる?
家賃と 社員への給金を考えると 来月まで会社が持つかどうか…。
社長…。
算段を 見誤ったのではないですか?
私は 商業会議所に もう一度 資金繰りの相談に行く。
笠井くんは 住安銀行に連絡してみてくれ。
承知しました! 頼みますよ 社長!
♬~
あなた 古いお知り合いという方が お見えになって…。
お名前は 岩倉さんと…。
善路! 久しぶりだな!
水くさいですよ 金太郎さん。 噂は聞いてます。
30日以内に彫りを入れて 500個の時計を完成させないと→
会社が危ないって…。
おおよそは そういう事だ。
だったら なんで 俺に 声をかけてくれないんですか!
機械彫りなら 俺にやらせてください。
ありがとう。 だが 善路は まだ修業の身だろう。
技術は もう 身についてます。
金太郎さんなら そう言うと思って…→
持ってきました。
はあ…! はあ…。
これで 首の皮一枚 繋がりましたね。
はあ…。
その善路さんという方は 気心も知れているのでしょう?
笠井くん その彫りを どう見る?
(笠井)何も問題ないかと 思いますが…。
想像してくれ→
店先に その彫りが 並んでいるところを…。
まさか…。 社長!
社員は 家族同然。
その生活を考える責任が 私にはある。
だが…。
(ため息)
あの頃 2人で一緒に時計を作ろう と話した夢が かないますね。
粉骨砕身。 俺は 金太郎さんのために…。
善路 聞いてくれ。
今をしのぐには十分の 技術だと思う。
だが 善路の彫りに 人が目を輝かせているのを→
想像できない。
私は お客様が胸を躍らせて 手に取る時計が作りたいんだ。
正直に言う…。
今は 一緒に時計を作れない。
金太郎さん…。
申し出は嬉しかったよ。 ありがとう。
だったら… 教えてくださいよ。
何が駄目だったのか…。
♬~
やっぱり この手のせいですか…?
そうなんでしょう? 善路…。
あの時 言ってくれたじゃないか! 想像するのは自由だって。
俺は 金太郎さんの言葉を信じて→
この手でも… この手でも彫れると ずっと頑張ってきたんだぞ!
♬~
よくわかった。
俺は もう あんたを 兄貴だと思うのはやめたよ。
もう 仲間でも同志でもない!
あんたは… あんたは もう… あの頃のあんたじゃない!
この先 見据えてるのは なんだ? 金儲けか?
だったら 他の時計商を蹴落として→
好きなだけ 時計を買い占めればいいんだ!!
善路…!
≫(戸の開閉音)
♬~
ふざけるな…!
♬~
〈その日から 善路の中で→
金太郎への憧れは 憎悪に変わっていきました〉
職人を目指している人なら きっと わかってくれます。
それで 私…→
差し出がましいと 思ったのですが…。
この時計 彫りが美しいって→
おっしゃってくれたじゃ ないですか。
なので この職人の方を捜しました。
その方に お頼みするのは どうでしょう?
左に曲がって 2軒目ですよ。 ありがとうございます。
(まんの声)でも 少し変わった方のようで…。
ごめんください。
(𠮷川ふく)いらっしゃいませ。 ご用件は?
すみません。
この魚子彫りは→
こちらで入れたもので 間違いないでしょうか?
(ふく)ええ。 確かに 夫 鶴彦の彫りですが…。
失礼します!
ちょっと!
あなたが 𠮷川鶴彦さんですか?
♬~
私は 銀座で時計商を営む 服部金太郎と申します。
あなたの腕を見込んで 頼みがあるんです!
主人は このとおり 人と話すのが苦手なもので→
どこの職場にもなじめずに 結局は独学で…。
独学!? これを!?
実は 500個の無地の懐中時計に→
魚子彫りを 入れて頂きたいのです。
そんな大量に?
失礼ながら 随分と とっ散らかった作業場です。
それなのに 道具は しっかりと手入れがなされている。
あなたの 時計への愛情の深さを 感じます。
一日 どのぐらい 作業できるのでしょう?
3個… です。
それで構いません。
この彫りを見たら もう 他の人に 声を掛ける気にはならない。
ですが 3個だと 166日…。
十分です。 いや 待って!
正確には 166日と7時間かかるな…。
構いません。
ご自身のできる限りでいいので 引き受けて頂けないでしょうか?
仕事を受けた職人が いるらしいです。
腕のほどは わかりませんが。
(英語)
(カール・アズナブールの英語)
それが 私たちに何か関係が?
これは 日本の時計商だけの 問題ではありません。
この方法で 安価な時計が出回れば→
あなたたちも 打撃を受けるのではないですか?
(秘書の英語) (アズナブール)君の話は一理あるな。
小ずるいまねをして→
日本人が作った時計だと 吹聴されるのも 癪だしな。
日本語 話せるじゃないですか…。
この方は スイスの時計商 アズナブールさんだ。
もし 我々と組んでくれるなら→
先払いで 倍の金を用意しよう。
(紙を折る音)
時計を商いとするなら 我々と組むべきだ。
さあ とにかく 一日でも早く 大急ぎで彫りを入れてくれ。
(紙を折る音)
アズナブールさん。
おい!
アズナブールさん!
ああ…。
これなら 誰もが 目を輝かせて 手に取ってくれます!
あなた…。
これを 東京の時計商たちの店にも 置いて頂こうと思っています。
みんな 自分の店で 売りたいでしょうから。
他の時計商たちにですか?
あんな ひどい言われ方を したのに…。
外国商との契約は守るべきだが→
私は 彼らから 仕事を奪いたいわけじゃない。
同じ日本の時計商であり 仲間だと思っている。
金太郎さん。
はい。
あなたにとって 時計とは なんですか?
そうですね…。
私にとって 時計とは…。
(金太郎の声) 初めて 懐中時計を見た時→
光が見えたんです。
それを見た時に 時計とは 人が作れる宝石だと思いました。
だから この手で いつか作ってみたいんです。
鶴彦さん。
私と一緒に 夢を追いかけませんか?
夢…。
♬~
ハハッ…。
相変わらず 目を合わせてはくれませんね。
≫お待ちください! ≫うるさい!
(笠井)なんですか あなたは! 善路!
おいおい… おい! いいか? いいか? よく聞け!
日本人は 時計は無理なんだよ!
客が求めてるのは 海外製の時計なんだ!
善路!
これを見て 技術の差を学んでほしい。
お前も職人なら…! 職人なんて もう やめたよ。
今は アズナブール商會にいる。
なあ この先 あんたの商売が うまくいくと思うなよ。
(時計を放り捨てる音)
日本人だって… 時計は作れます。
♬~
本日は ジャワ島原産の コーヒーでございます。
ありがとう。
(吉邨)まだ おいでに なっていないようですね。
(吉邨)この魚子彫りが→
服部時計店快進撃の のろしになったのは→
間違いないでしょうな。
(笠井)やはり これですよ!
かの渋沢栄一先生が→
社長に惚れ込んだんですから。
惚れ込んでいたかは知らんが 人脈が広がった事で→
自社での時計開発の めどが付いたのは 確かだ。
(吉邨)服部時計店の製造部門 精工舎の誕生ですね。
とてもいい名前です。
精緻の「精」 工業の「工」 学び舎の「舎」で→
精工舎。
(吉邨)まったく…。 こんな自信なさそうな人が→
時計を設計してしまうんだから 驚きですよ。
(笠井)精工舎の懐中時計第一号 「タイムキーパー」ですね。
(吉邨)私が一員になったのも この頃ですな。
(笠井) 懐かしいですねえ。 ハハハ…。
♬~
確かに 社長と鶴彦さんは→
天才2人の出会い だったかもしれません。
だって 普通だったら→
あんな おかしな人間と 夢を追いかけたりしない。
初めて 服部時計店の銀座本社を見た時→
震えました。
社長の隣にいるべきは→
私だったはずなのに…。
いよいよですね。
フランスで 動く絵を撮影する装置が→
公開されてたね。
シネマトグラフですな。 ああ そうそう。
それで この瞬間を 収めておきたかったね。
(鐘の音)
英恭さん 笠井くん。
精工舎の念願である 腕時計の開発に乗りだすよ。
その責任者は もちろん 鶴彦さんだ。
社長 お言葉ですが…。
私は反対です。
大体 こんな晴れの日に 同席しないなんて…。
あの人の頭の中は 時計の事でいっぱいだ。
今頃 試作室にでも こもっているんだろう。
(笠井の声)確かに このタイムキーパーも→
技師長が開発しました。
でも 私は… 人として ついていく気になれません。
笠井さん…。
そう思っているのは 私だけじゃないと思います。
(まん)笠井さんがおっしゃる事も わかるわ。
責任者となれば→
職工さんたち全員を まとめなければならないでしょう。
𠮷川さんには荷が重いのでは?
だが 職人としての腕は確かだ。
お前たちも おもちゃ 作ってもらっただろう。
(服部せき) でも あの人 変だよ~!
(服部ゆき) いつも ぶつぶつ しゃべってる。
(服部せい)ねえ~。 (服部かう)ねえ~。
(服部玄三) 確かに 目も合わせないな。
(さよ)はーい おかわりでーす! はい どうぞ!
とにかく 鶴彦さんを責任者にする。
問題が起きませんか?
おはようございます。 おはようございます。
ついに 腕時計を?
ええ。 その開発責任者を 鶴彦さんに任せたい。
鶴彦さん?
(施錠音)
鶴彦さん まだ 話は終わってませんよ!
鶴彦さん! 開けてください 鶴彦さん!
ありがとうございます。
フフッ…。
やはり ピニオン旋盤機は 売る事はできないと→
エドガー社に断られました。
しかし なぜ かたくなに うちを拒むのか…。
言いづらいのですが 恐らく…。
♬~
正直に答えてくれ。
ピニオン旋盤の販売を 止めているのは 善路か?
だったら なんだよ?
無駄な事は やめるんだ。
機械で負けても 人間で勝てる。
精工舎には 情熱を持った職人がいる。
だから 頼む。 お前は お前の時間を生きてくれ。
黙ってろ。
これが俺の人生だ。
善路! 逃げるな!
離せ。
♬~
ただいま。 (スイッチを押す音)
まん? おい!
♬~
♬~
いささか大きいな…。
♬~
(ノック) (濱谷)入ります。
持ってきてくれたかい? (濱谷)はい。
♬~
(濱谷)あの… 技師長?
♬~
(岡本正忠)またですか 技師長! みんなも何してる。
(濱谷)技師長のネジ回しを 捜していて…。
(岡本)置き場を決めて 管理してください。
これじゃ 工員たちが仕事になりません。
代用のネジ回しで…。 何 言ってるの!
握る感覚が違えば 手元が狂うでしょ!
自分のじゃなきゃ駄目だよ! どいて!
(笠井)技師長は横暴すぎます。
昼夜問わずに呼び出すなんて→
人として あるまじき行為です! (岡本)そうですよ!
技師長の身の回りの事まで 世話していたら→
休む時間も取れません。
みんな 決められた時間の中で 精いっぱい作業しているんです!
(笠井)おおっ…! 技師長!? (岡本)技師長!?
だ… 誰か 呼んできて! (岡本)はい!
技師長!? (岡本)誰か!
(笠井) だから 私は反対したんです。
飯も食わなきゃ 休みも取らない。
夢中になると 周りが 見えなくなってしまいます。
腕時計の責任者から 𠮷川さんを降ろしてください。
これは… 職工たち全員の意見です!
私たちが辞めるか→
技師長を責任者から外して頂くか→
どちらか お決めください。
(ため息)
(笠井)ストライキ決行! 間違えるなよ。
(濱谷)はい。
よし…。
≫(床のきしむ音)
♬~
うわっ…!
♬~
(濱谷)うわっ…! 危ない… 危ないよ…!
笠井くん。 (笠井)わあーっ!!
社長…。
こんな時間に こんな所で何を?
ああ… 鶴彦さんが ネジ回しを なくしたと言っただろう。
やっと見つけたよ。
(笠井)えっ…?
笠井くんたちは何をしてるんだ?
私たちは その…。 (せき払い)
技師長には話したよ。
一人一人が調和の中で→
同じ方向を向くのが 会社だからな。
だが それは間違いだったと 今は自分を恥じてる。
ここには 育った場所も境遇も違う 様々な人が集まっているだろう。
そもそも 同じ人間は 一人だっていない。
時計の内部構造を 思い浮かべてほしい。
様々な歯車やバネが 寸分たがわぬ精度で動いている。
それが噛み合って 初めて 針が動く。
精工舎の時計の針は たった一秒であっても→
会社の全員で動かすんだ。
(岡本) つまり 私たちに 我慢してでも→
技師長についていけ という事でしょうか?
あの人の気持ちを読み取るのも 行動を予想するのも大変だ。
だが… 鶴彦さんの思いは→
全て ここにある。
一心不乱に 握り続けてきたんだろう。
あの人の思いは 時計を作る事だけに向かっている。
だから そこに 私の人生を懸けてみたい。
♬~
君たちが 鶴彦さんについていくなら→
私は 君たちについていく。
(濱谷)あっ ちょっと…。
(笠井)もう やめましょう。 やめてください。
精工舎は 人も部品も→
個性も大切にする会社だ という事は→
伝わりましたから!
なあ? (職工たち)はい。
(岡本)まんさんだって あんなに 面倒見てくれてるのに…。
まんが?
どういう事だ?
これは美味しい!
♬~
ああ…。
(まん)できましたよ。
(一同)おお~! (濱谷)ありがとうございます!
(まん)はい。 (濱谷)おかわり ください!
(職工)濱谷さん 早すぎますよ! (職工)もう食べたんですか!?
(濱谷)お願いします。
私たちは あなたについていくか まだ迷っています。
だから 技師長→
少しだけでも 私たちに合わせて頂けませんか?
これ… ピニオン旋盤機の 設計図ですよね?
(笠井)えっ?
まあ… 作れるんじゃないかと思って。
(笠井)でも 技師長は… 英語は読めないのでは?
そんな事 言っても 腕時計を作るのに→
ピニオン旋盤は絶対に必要だ。
これは 精工舎初の腕時計なんだよ。
それを開発するのが僕の仕事だ。
日本中… いや 世界中の人が待ってるんだから。
(さよ)奥様のご飯 久しぶりなんじゃないですか?
ああ。 こんなにうまいの 忘れてました。
フフッ…。 ご飯もですけど→
奥様の大事な話 忘れたら駄目ですよ。
すまなかった。
彼らの面倒を見たいと 申し出てくれていたのを→
すっかり…。
私も 若くして 群馬から一人で嫁いできたから→
この子たちの気持ちが わかるんです。
でも 奉公に来てるのに→
つらい さみしいなんて 泣き言は言えないでしょう?
社員が家族同然なら 私が母親になります。
ありがとう。 よろしくお願いします。
すいません! 握り飯を いくつか頂けますか?
どうしました?
また 技師長ですよ。
昨晩から食事もしないで 試作室にこもって…。
ぶっ倒れたら大変なので 無理にでも食べて頂きます。
笠井くん…。
わかりました。
さよちゃん。 (さよ)はい!
私たちは…。
社長と一緒に→
技師長についていく事に 決めましたから。
♬~
〈精工舎は タイムキーパーに続いて→
高級懐中時計のエキセレントを 販売〉
〈それが 国産初の→
恩賜の時計の指定を受けました〉
〈そして 鶴彦は→
ピニオン自動旋盤機の 自社開発に成功〉
〈この機械の導入により→
25人で行っていた作業を 1人で行えるようになりました〉
〈生産力を高めた精工舎は いよいよ 世界へ進出〉
〈目覚まし時計においては ドイツを抜いて→
世界シェアナンバーワンに なりました〉
〈そして ついに…〉
♬~
これが 精工舎製の腕時計→
ローレルの一号機です。
(吉邨)国内初の腕時計です。
♬~
鶴彦さん。
全てをあなたに懸けて よかった。
随分と 時間が かかってしまいました。
♬~
やっと 目を合わせてくれましたね。
〈金太郎と鶴彦は→
きっと この瞬間を この景色を→
2人が出会った時から 想像できていたのでしょう〉
最初から 勝てる相手ではなかったんです。
だから 邪魔をするしかなかった…。
でも 誤解なさらないでください。
今は もう なんのわだかまりもありません。
ただ 今日 この日に→
私が ここにいてもいいものか…。
あなたは ここにいるべき人ですよ。
(まん)SEIKOには→
精密で正確であるという意味が 込められています。
善路さんの挫折も 嫉妬も→
今まで歩んできた道は 間違いなく ここに向かっていた。
そうは思いませんか?
おめでとうございます。 ああ… ありがとう。
ああ… ありがとう。
(ドアの開く音) (秘書)失礼致します。
社長 お客様がお見えでございます。
(足音)
はじめまして。 河村浪子と申します。
旧姓は 辻浪子でございます。
金太郎さんは 一番になる。
すごい人になります。
その時には…。
また お会いしましょう? フフッ…。
大変遅くなり 申し訳ございません。
一度は引き返したんですが やはり 最後にと思い立って…。
浪子さんをお呼びしたのは 私です。
(浪子)金太郎さん ご無沙汰しております。
浪子さん… こちらこそ。
勝手にごめんなさい。
でも この席に呼ぶべきだと思って お越し頂いたの。
どうして…。
浪子さんがいなかったら→
服部金太郎は 時計を作っていなかったと→
私は思うから。
(浪子) もう 二度とお会いできない→
お会いしないと 決めておりました。
でも…→
「一番の時計商になる」→
「そうなったら また お会いしましょう」…。
あの約束を 奥様がかなえてくださいました。
♬~
この時計を どうして 浪子さんが?
さあ… どうしてかしら。
いや 教えてください。 気になるじゃないですか。
フフ… 実は→
金太郎さんが最初に奉公に行った 時計商の主が→
辻屋を訪ねてきたの。
「金太郎さんから この時計をもらったけど→
15歳の子供に 買えるわけもない」→
「もしかしたら 辻屋からの→
大切な頂き物だったんじゃないか」 って。
すみません 勝手に 人に譲ったりして…。
(浪子)いいの そんなの。
むしろ 金太郎さんらしいと思った。
それで これをね…。
動かしてくださらないかしら。
この時間は…。
〈あの日 午前11時58分→
日本中を絶望させる出来事が 起こりました〉
(地鳴り)
(地鳴り)
あっ! ああっ…。
〈大正12年9月1日 関東大震災です〉
〈この震災での大火災は 2日間 続き→
東京市のおよそ4割が 焼失しました〉
〈服部時計店においては→
銀座4丁目の本店と工場が全焼〉
〈文字どおりの 焼け野原と なってしまいました〉
〈そんな状況下でも 社員全員が無事だったのは→
不幸中の幸いでありました〉
〈けれど 金太郎は→
まるで 人生を熱波に焼かれたかのように→
燃え尽きてしまいました〉
善路か…。
聞いたよ。
社員全員 一時解雇したんだってな。
ああ…。
故郷に帰る者もいれば→
壊れた家を修繕する事で 手いっぱいの者もいる。
そんな中 無理して 会社のために働かせ…。
きれい事で取り繕うな!
その情けねえ面を隠しても なんにも変わらない。
そうだな。
でも もう 私がいなくても時計は作れるさ。
冗談じゃねえぞ。
あの時 俺を切り捨てたのは→
あんたが追い求める時計を 作りたかったからじゃないのか?
時計塔が建ったのを見て→
正直 悔しかったよ。
それは 俺を切り捨てたあんたが…。
日本中の時を動かしたからだ。
なあ…。
だから 頼むよ。
あの時計塔の針を もう一度 動かしてくれ。
止まっちまった みんなの時間を→
あんたが動かすんだ!
(ノック)
≪(笠井) 社長! いらっしゃいますか?
あっ… 奥様。 社長は いらっしゃいますか?
(まん)どうぞ。
あっ… 社長。
どうしたんだ?
(笠井)さっきまで 工場のほうに行っておりました。
あそこには もう 何もないだろう。
いえ 大切な機械や部品が まだ残っています。
地震のあとから 窃盗集団が増えたので→
交代で見張っているんです。
機械も みんなで掘り起こして…。
みんな?
一時解雇された社員たちですよ。
誰に頼まれたわけでも ありません。
(鶴彦の声)焼け跡から→
これが出てきて…。
♬~
(笠井)我が精工舎の時計です。
あの炎と熱風で…。
♬~
(すすり泣き)
あなたには 残ってるじゃないですか。
精工舎を こんなにも思ってくれる 人たちが…。
♬~
♬~
みんな 話したい事がある。
我々の作った時計は 全て燃えてしまった。
だが それは お客様も同じだ。
我々に預けた大切な時計を 失ってしまった。
それを お客様に お返しするところから…→
もう一度 そこから→
私と一緒に始めてほしい。
1500ほど あったと思うが→
全てを 同額程度の精工舎の 新品時計をもって弁償する。
(ざわめき)
♬~
これは 損得じゃない。
お客様との繋がりなんだ。
今 我々 日本人は どん底にいる。
だが 世界中の国々が 手を差し伸べてくれている。
時計商を志して50年余り→
国も人種も文化も超えて→
誰もが同じ刻を生きているのだと 今 初めて実感している。
この世界は 時間で結ばれている。
時計というのは→
その見えない絆を 刻んでいるのだと。
♬~
一分一秒は 誰にでも等しくある。
世界中の人々が それを正確に知れる時計を→
我々は作れる。
知恵を持ち 技術を磨き→
時計に深い愛情を注げる者たちが 集まっているのが→
我が精工舎だ。
♬~
どんなに悔いても→
思いを巡らせても→
時間は 一秒たりとも戻らない。
だから いま一度 前に進もう。
そして 平等な刻を 世界中に届けよう。
それが 私たちの恩返しであり→
果たすべき使命だ!
(職工たち)おう!
♬~
〈金太郎は 宣言どおり 時計の弁償を実行しました〉
こちらになります。 ありがとうございます。
♬~
用件とは なんでしょうか?
なあ 善路→
工場を再建してからの 話になるが→
精工舎は 夜間学校を作るつもりなんだ。
そこで お前に頼みたい事がある。
はあ…。
若い職工たちに 英語を教えてやってほしい。
いやいや… 私が先生って事ですか?
この俺が? 冗談 やめてくださいよ。
いや お前は人を教えるのに 向いてる。
お前は 人には それぞれの 進み具合があるって事を知ってる。
それに 善路は→
本場の英語を使う環境で 働いている。
これ以上の適任者は いないよ。
♬~
あの頃 話してた形とは違うが 一緒に時計を作るぞ。
はい…。
♬~
(時計の音)
♬~
はい 直りましたよ。
本当にすごいわ。
これぐらい お安い御用です。
違うの。
いつか 全ての人々が→
正確な時間の中で 生きる事になる…。
そう 父におっしゃったでしょ?
♬~
こんな世界が来る事が→
あの時の金太郎さんには もう見えていたのね。
全ての出会いには意味がある。
それが いつかわかると 粂吉さんは言っていました。
それを今日 実感しています。
あの頃 私は あなたに恋をしていました。
こうなれたのは あなたのおかげです。
いいえ。
ここまで支えてくれた 奥様のおかげよ。
あっ…。
ウフフフ…。
(笠井)ねえ。 ねえ 技師長。 鶴にしか見えませんよね。
♬~
♬~
♬~
(鐘の音)
Can't find what you're looking for?
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