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(藤原伊周)よせ。
(藤原斉信)院! いかがされました!
(花山院)矢が… 矢が!
(斉信)お気を確かに 院! (藤原隆家)院…?
院が射られあそばされた。 くせ者を逃してはならぬ!
や… やめろ! 静かにいたせ。 朕は大事ない。
引け! ⚟待て!
♬~
ああ…。 お体に大事はございますまいか。
早く行け。 私は ここに来ておらぬぞ。
ああ…。
(高階貴子)まだ誰が射たか 分かっていないのでしょう?
院の従者もおりましたゆえ 顔は見られています。
(貴子)だとしても 牛車に当たっただけならば➡
大したおとがめには ならないわ。
行かねばよかった…。 今更 言うな。
今度こそ 中宮様を頼りましょう。
中宮様は 頼りになりませぬ! 私を関白にすることさえ できなかった!
あの時は 女院様がいらしたからですよ。➡
帝とて 中宮様の身内を裁いたりはなさるまい。
さあ 安心して 今日は休みなさい。
(藤原道長)いかがいたした。
先ほど 一条第で 院が何者かに射かけられた。
い… 院が射られたのか? そうだ。
なぜ そこに院がおられたのだ。
院は我が妹 儼子のもとにお通いだった。
そのお帰りの時に。
お命は? ご無事だ。 おけがもない。
ただ 院の従者が 乱闘で 2人死んだ。
死人まで出たのか! 捕らえた者は 二条第の武者であった。
武者たちを置いて 馬で走り去った者は 2人。
一人は 伊周 もう一人は 隆家やも。
その2人が 院のお命を狙ったのか?
だとしたら 伊周と隆家は終わりだな。
うれしそうに申すな。 フフフフフフ…。
♬~
♬~
♬~
(藤原実資)死人も出ておりますので➡
まことならば 疑わしき者は ただちに捕縛し➡
取り調べるが常道にございますが➡
何分にも 中宮様のお身内ゆえ 帝のご裁可を仰ぎ奉りたく➡
奏上いたした次第にございます。
(一条天皇)官人の綱紀粛正 高貴な者の従者たちの乱暴を禁ずる旨➡
厳命したばかりだというのに➡
こともあろうに 院に矢を放ち 死者まで出すとは許し難し。
何故 そのようなことが起きたのだ?
(実資)内大臣 藤原伊周殿は 一条第の光子姫のもとに通っており➡
院も その姫に懸想されたと 勘違いしたと思われます。
勘違いとは?
院は 光子姫ではなく 儼子姫のもとにお通いでしたので。
そのようなことで 院のお命を危うくし 更に 2人の命が失われたのか。
右大臣 伊周と隆家の参内まかりならず。
当面 謹慎させよ。 はっ。
(一条天皇) これより除目ゆえ 後ほど沙汰する。
検非違使別当は 詳しい調べがつけば 逐一 朕に注進せよ。
はっ。
中宮は 身内の者に 一切 会うべからず。
♬~
この度の騒動に関わり 畏れ多くも 帝を悩ませ奉ったことは 不届きの極み。
よって 2人には 謹慎を申しつける。
(実資)「心からお願い申し上げます。➡
茂国 恐れかしこまって 謹んで申し上げます」。
うむ。
「正六位上 散位 藤原朝臣為時 恐れかしこまり 謹んで申し上げます。➡
特に天皇のご恩を被って 先例に準じて 淡路守に任じられることを請います」。
うむ。
(藤原行成) 淡路国 守 従五位下 藤原朝臣為時。
(藤原惟規)国司にご任官されましたこと まことに おめでとう存じます。
(まひろ)おめでとうございます。
(藤原為時)国司の任期は4年。
無事に勤め上げたいものだ。
姉上も行くんでしょ?
もちろんよ。 知らない国を見てみたいもの。
淡路は 下国だけど 魚はおいしいし 冬は暖かそうだし➡
俺も行きたいくらいだよ。 お前は都で 式部省試に受かるのが先だ。
分かってますよ。
10年こらえて これが最後と思って 申文を出したが➡
神仏のご加護に相違ない。
♬~
(源 国盛) この源 国盛 この度は 大望かない➡
大国 越前守に任じられることが できました。
これも お引き立てのたまもの。 深く御礼申し上げます。
(藤原詮子)除目の前に この人を入れてねと お前に言ったら➡
駄目だと言ったの 覚えている? それで 帝にお願いしたの。
さようでございますか。
国盛 その方の申文 帝が感心しておられたぞ。
あ… あれは 文章博士に代筆してもらった 申文にございまして➡
実は 私は 漢文が苦手にございます。 漢文が苦手…。
(国盛)いや なんとも面目ないことで…。
今 越前は 交易を望む宋人が大勢来て やっかいなことになっておる。
漢語が得意な者をということで 帝は そなたを選ばれたはずだが。
そのような不心得では務まらぬぞ。
いや~ まことに困りましたな…。
誰か いい通事はいませんかね 右大臣様。
ハハハハハ…。
あんなに うつけと思わなかったのよ。
あの人の母親は 聡明な人なんだけど。
あれでは 越前守は務まりませんな。
宋人の扱いを間違えれば 国同士のいさかいとなりかねない。
そうねえ…。 「そうね」…。
怒ってる? あっ 怒ってる!
許して。
なんとかいたします。
ねえ 伊周たちの処分は まだ決まらないの?
除目のあとで処分を決めると 帝は仰せになりましたが➡
伊周は 大した罪にはならないと思います。 なぜ!?
帝は 中宮様のお身内に 厳しいことはできないかと。
まあ 情けない! お前は それでよいと思うの?
ただただ厳しく罰すればよいとは 思いませぬ。
え? お情けをもって事に当たられる帝こそ➡
私は尊いと感じます。 分からないわ。
だって 伊周や中宮は お前の敵でしょう。
敵であろうとも… です。 失礼いたします。
(藤原宣孝)ホッとしたのであろうな。
お前が父上に優しくなってよかった。
学問一筋のいちずな男だ。
官職を取り上げた兼家様のことも恨まず 淡々と生きてきた。
淡路国が 肌に合うとよいがな。
父は真面目な人ですから きっと立派に務めましょう。
フフ… 真面目なだけでもないぞ。 え?
遠い昔 大学に通っておった頃 為時殿は ひとつきほど行方知れずになった。
大騒ぎとなったが 行く先は ようとして知れなかった。
一体 どこに…。
ある日 ボロボロになって戻ってまいった。
本人いわく 宋の国に行こうと 船に潜り込んだが➡
船頭に身ぐるみ剥がされ 海に捨てられたのだそうだ。
えっ!
運よく 別の船が拾ってくれて 戻ってきたのだと。
そのような話 初めて聞きました。
人には 意外な面があるものだ。
そういう型破りなところは お前が引き継いでおるではないか。
型破り…。 船に乗って 宋にでも渡りそうな危うさがある。
宋の国には行ってみとうございます。
…であろう? いや 危ない 危ない。
(笑い声)
越前守は どなたになったのでございますか?
源 国盛殿だったと思うが まだ若く心もとない。
身分が低くて 望むべくもありませんが もし父が越前守であったなら➡
宋の言葉も解しますし お役に立つはずですのに…。
そうだな…。
帝が 為時殿の学識の高さを ご存じであれば よかったのだが…。
次の除目のために 父のことをなんとか お伝え申し上げたいものです。
まだ機会はあるやもしれぬ。
除目のあとに 任地が変更されることも たまにはある。
♬~
(行成)申文にございます。
多いな…。
お許しいただければ 私が読んで 重要なものだけお伝えいたしますが。
いや いい。
ご無礼つかまつりました。 うん。
う~ん…。
うん。
はあ…。
ん?
「苦学の寒夜 紅涙 袖を霑し 除目の春朝 蒼天 眼に在り」。
♬~
(源 倫子)殿。
何だ。
女院様が 昼ごろから 気分が悪いと 仰せになって ふせっておられます。
なんと…。
いかがされました?
道長には伝えるなと言うたではないか。
お許しくださいませ。
女院様が心配で つい…。
もう ようなった。
(ため息) つまらぬのう…。
やっと我が世の春が来たと思うたら 体が利かぬ。
何を弱気な。
姉上は まだお若く お美しくあられます。
心配かけてすまなんだ。
倫子は よくできた妻だが いささか口が軽いのう。
申し訳もございませぬ。 お許しくださいませ。
(一条天皇)「学問に励んだ寒い夜は 血の涙が袖を濡らした。➡
除目の翌朝 無念さに天を仰ぐ私の眼には➡
ただ蒼い空が映っているだけ」。
蒼天は 天子を指す言葉でもある。
朕のことか。
右大臣 なぜ これを。
恐れながら 為時は 漢籍にも詳しく 宋の言葉を解するようです。
正直 源 国盛に越前を任せるのは いささか心もとなく…。
いまだ この身が信じられませぬが 越前守を謹んでお受けつかまつり➡
一心に務めに励む所存にございます。
♬~
おめでとうございます。 惟規にも使いを出します。
まひろ そこに座れ。
何でございましょう。
淡路守でも もったいないお沙汰であったのに➡
何もしないうちに なぜか突然 越前守に国替えされた。
これは どういうことじゃ。
博学である父上のことが 帝のお耳に入ったのだと思います。
誰が帝に伝えてくださったのだ。
右大臣 道長様であろう。
従五位下の叙爵も 淡路守の任官も➡
越前守への国替えも 全て 道長様のお計らいだ。
そして それは 道長様のお前への思いとしか考えられぬ。
父は もう お前の生き方を とやかくは申さぬ。
道長様とお前のことは わしのような 堅物には 計り知れぬことなのであろう。
そこに踏み込むこともせぬ。
ただ…➡
何も知らずに 越前に赴くことはできぬ。
まことのことを聞かせてくれぬか。
道長様は…➡
私が かつて 恋い焦がれた殿御にございました。
都にいては 身分を超えられない。
2人で遠くの国に逃げていこうと 語り合ったこともございました。
されど 全て遠い昔に終わったことにございます。
越前は 父上のお力を生かす最高の国。
胸を張って 赴かれませ。
私もお供いたします。
女院様。
あしき気が漂っておる 調べよ。
女院様 少々お部屋を拝見しても よろしゅうございますか?
ん?
はっ!
何をしておる。
恐れながら これは呪詛にございます。
はっ!
女房ども 入れ。
⚟(女房たち)御免を被ります。
(倫子)いつの間に このような…。
中宮は私を嫌っておる。
伊周は 道長を恨んでおる。
あやつらが 私と道長を呪っておるのだ。 恐ろしや 恐ろしや。
許すまじ!
まさか この屋敷に➡
伊周の息のかかった者が おるということか?
殿 このことは 私にお任せいただけませんでしょうか。
ん?
屋敷内で起きたことは 私が責めを負うべきにございます。
こたびのことも 私が収めとうございます。
殿はどうぞ 内裏でのお役目に ご専念くださいませ。
されど 女院を呪詛するは 帝を呪詛するに等しいのだぞ。
それゆえに間違いがあってはなりませぬ。
私にお預けくださいませ。 ん?
あ…。
(ため息)
そうか…。
では そなたに任せよう。
このことは 帝にも申さぬ。 それでよいな。
はい ありがとうございます。 うん。
伊周と隆家は 何故 出頭せぬのだ。
調べの途中で 分かったことにございますが➡
伊周殿は 祖父である高階成忠に命じて 右大臣様と女院様を呪詛。➡
更に 3月21日 法琳寺において➡
臣下の修してはならぬ大元帥法を修して➡
右大臣様を呪詛したことが 明らかになっております。
証言は得ておりますので 間違いはございません。
女院と右大臣を呪詛するは 朕を呪詛すると同じ。
身内とて 罪は罪。
厳罰に処せ。 お待ちください!
実資 速やかに執り行え!
ははっ。
兄弟の不祥事により 定子は 内裏を出ることを命じられ➡
実家である二条北宮に移った。
(貴子)息子たちが どうか重い罪になりませぬよう➡
蔵人頭の斉信様から 帝にお口添えいただきたく➡
お願い申し上げます。
残念ながら ここに至っては もはや 私が あずかれることではありませぬ。
今は どうなっているのでございますか?
お教えくださいませ。
女院様と右大臣様を呪詛したとして 帝は 大層 お怒りである。➡
そうでなければ 中宮様を こちらへ お帰しにはなりますまい。
(伊周)呪詛…。
呪詛などしておらぬ!
中宮は見限れ。
伊周らが逃げたら すぐ知らせよ。
(女房たち) 清少納言は 裏切り者 裏切り者 裏切り者。
謹慎中のはずだが…。
(伊周)謹慎中の身に お目通りをお許しくださり➡
ありがとうございます。
院を脅し奉るために矢を放ったのは 弟にございます。
その責めは 私が負いまする。
されど 呪詛はしておりませぬ。
どうか… そのことを どうか 帝にお伝えくださいませ。
なんとか内裏に戻れますよう 右大臣様の格別のお力を賜りたく➡
切に… 切に お願い申し上げるばかりにございます。
私も 苛酷なことは望んでおらぬ。
されど… お決めになるのは帝ゆえ。
帝に 私をお信じくださりますよう 何とぞ… 何とぞ…。
何とぞ… 何とぞ お願い申し上げまする。
(藤原定子)お上。
(定子)お上が恋しくて 来てしまいました。
なぜ内裏に上がれたのだ。
右大臣が手引きしてくれました。
どうか 兄と弟の罰を 軽くしてくださいませ。
お情けを…。
下がります。
お健やかに…。
待て。
♬~
(行成)「謀反の罪は 死罪であるが➡
罪一等を減じ 遠流に処す。➡
藤原伊周を大宰権帥➡
藤原隆家を出雲権守に任じ 配流いたす。➡
伊周 隆家に代わり➡
藤原道綱を中納言に 藤原斉信を参議といたす」。
帝のご判断は これで よいのであろうか。
伊周 隆家は 私の甥でもある。
子供の頃は 屋敷の庭で よく遊んでやった。
彼らが まこと 女院様と私を呪詛したのであろうか。
(安倍晴明)そのようなこと もう どうでもよいと存じます。
ん? 大事なのは➡
いよいよ あなた様の世になる ということにございます。
あなた様には 誰もかないませぬ。
フッ…。
年若き帝の激情さえ 抑えられぬというのに。
そのうち お分かりになりましょう。
伊周と隆家は この先 どうなると思うか?
隆家様は いずれ あなた様の強いお力となりまする。
伊周は?
あなた様次第にございます。
(定子)しばらく里に下がるがよい。
(ききょう)私は 中宮様のおそばに いとうございます。
嫌がらせが高じて そなたの身が危うくなってはならぬ。
里に 一度 下がった方がよい。
必ずまた 呼び戻すゆえ。
私の身なぞ どうなってもよろしいのでございます。
(伊周)俺は どこにも行かぬ! (隆家)兄上!
大宰府など 死んでも行くものか! (隆家)行くしかありませんよ 兄上!
黙れ!
二条第から下がられたのですか?
でも 心配で心配でなりませんの。
伊周様と隆家様が 処分をお受け入れにならないので➡
検非違使が お屋敷の周りを 囲んでいるそうにございます。
えっ!
捕らえられて お屋敷を出る 伊周様と隆家様を見ようと➡
物見高い下々の者たちまでが 大勢加わっているそうで…。
中宮様が心配ですね。
そうなんです。
まひろ様 一緒に行ってくださらない? は?
下がれ 下がれ。
下がれ。 見せもんじゃない。
下がれ。 下がれ。
おい 集まれ。 はっ。
⚟(実資)伊周と隆家を捕らえる。 ⚟(一同)はっ!
⚟(実資)帝のお許しは出た。 門を突き破れ!➡
伊周 隆家を捕らえよ! ⚟(一同)お~っ!
兄上 もう諦めましょう。
私は 出雲に参ります。
どこにも行かぬ… どこにも!
母上 姉上 お別れにございます。
⚟(門を壊す音) 隆家…。
お健やかに。
(貴子の泣き声)
兄上 もう逃げられませぬ。 帝の命にお従いくださいませ。
どこにも行かぬ…。➡
どこにも!
♬~
検非違使別当 藤原実資にございます。
伊周殿をお迎えに上がりました。
♬~
中宮様を牛車にお移しまいらせ 屋敷内を くまなく あらためよ。
(一同)はっ! こちらへ。
中宮様!
中宮様 何をなさいますか!
寄るな!
(髪を切る音)
越前の地で生まれ変わりたいと 願っておりまする。
私は ここで死ぬ。 (泣き声)
母の同行は まかりならぬ…。
右大臣様。 右大臣殿!
中宮様は お生きにならねばなりませぬ。
「春はあけぼの」。
いつの日も…。 いつの日も…。
(宋語)
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